説明

エネルギー蓄積部を有するモータ制御装置

【課題】交流電力を直流電力に変換するコンバータ回路と、直流電力をモータの駆動のための交流電力に変換しまたはモータから回生される交流電力を直流電力に変換するインバータ回路と、直流電力を蓄積もしくは出力するエネルギー蓄積部と、を備えるモータ制御装置において、小型で低コストのモータ制御装置を実現する。
【解決手段】モータ制御装置1は、交流電力を直流電力に変換するコンバータ回路11と、コンバータ回路11の直流側に接続され、直流電力をモータ2の駆動のための交流電力に変換しまたはモータ2から回生される交流電力を直流電力に変換するインバータ回路12と、コンバータ回路11およびインバータ回路12の直流側に接続され、直流電力を蓄積もしくは出力するエネルギー蓄積部13と、モータ2の動作を指令するモータ動作指令に基づいて、エネルギー蓄積部13が蓄積もしくは出力すべき直流電力量を制御する制御部14と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電源からの交流電力を直流電力に変換したのちさらに交流電力に変換してこれを駆動電力とするモータを制御するモータ制御装置に関し、特に、交流電源から供給される電力およびモータから回生された電力を蓄積し、蓄積した電力をモータに供給することができるエネルギー蓄積部を有するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械システムにおいては、工作機械の駆動軸ごとにサーボモータ(以下、単に「モータ」と称する。)を有し、これらモータをモータ制御装置により駆動制御する。モータ制御装置は、工作機械の駆動軸を駆動する制御軸数分のモータに対し、モータ回転の位置、速度もしくはトルクを指令し制御する。
【0003】
モータ制御装置は、三相の商用交流電力を直流電力に変換する交流−直流変換器であるコンバータ回路と、このコンバータ回路の直流側に接続され、コンバータ回路から出力された直流電力をモータ部の駆動電力として供給される所望の周波数の交流電力に変換する直流−交流変換器であるインバータ回路とを備え、当該インバータ回路の交流側に接続されたモータ部のモータ回転の位置、速度もしくはトルクを制御する。
【0004】
インバータ回路は、工作機械における複数の駆動軸に対応してそれぞれ設けられる各モータに個別に駆動電力を供給するためにモータの個数と同数個設けられることが多い。一方、コンバータ回路は、モータ制御装置のコストや占有スペースを低減する目的で、複数のインバータ回路に対して1個が設けられることが多い。すなわち、モータ制御装置では、単一のコンバータ回路で複数のインバータ回路に直流電力を供給するようにすることで、コンバータ回路を複数設ける場合に比べてコストや占有スペースを低減減している。
【0005】
上述のように構成されたモータ制御装置においては、複数のモータ部を安定かつ確実に駆動できるようにするために、これら複数のモータのそれぞれに対し十分な駆動電力を確実に供給する必要があるので、三相の商用交流電力を直流電力に変換するコンバータ回路の最大出力がこれら複数のモータの最大出力の合計値よりも大きいものとなるようなコンバータ回路を選定する必要がある。場合によっては、交流電源の容量を大きくすることもある。
【0006】
このようなことから、交流電源の容量およびコンバータ回路の容量の低減を目的として、コンバータ回路の直流側とインバータ回路の直流側には、交流電源から供給される電力およびモータから回生された電力を蓄積し、蓄積した電力を再びモータに供給することができるエネルギー蓄積部が設けられることがある。なお、この場合、モータから回生された交流電力を、エネルギー蓄積部で蓄積できる直流電力へ変換する必要があるので、インバータ回路は、直流電力を交流電力に変換するのみではなく、交流電力を直流電力に変換することもできる、すなわち交直両方向に変換可能である半導体電力変換器として構成される。このようなエネルギー蓄積部を設けることで、交流電源の最大出力あるいはコンバータ回路の最大変換出力(以下、単に「ピーク値」と称する。)を下げることによって交流電源の容量およびコンバータ回路の容量を低減している。
【0007】
エネルギー蓄積部として、例えばキャパシタがある。
【0008】
またあるいは、エネルギー蓄積部としてフライホイールを用いたものもある(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載された発明は、交流電源に接続されたコンバータ回路の直流側の電圧と、複数のモータへ電流を流す複数のインバータ回路の直流側の電圧と、コンバータ回路の直流側およびインバータ回路の直流側に接続されたフライホイール蓄積装置の電圧とを、一括して制御するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−023599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このようなエネルギー蓄積部を有するモータ制御装置においては、コンバータ回路からインバータ回路へ流れ込む交流電流を検出し、この交流電流の検出値を用いてモータで消費もしくはモータから回生される電力を計算し、この電力に応じてエネルギー蓄積部に電力を蓄積したりエネルギー蓄積部から電力を出力させたりする制御が行われる。この直流電流の検出値をエネルギー蓄積部の制御に用いるために、モータ制御装置内には、直流電流の検出値からノイズ成分を除去するためのフィルタが設けられる。しかしながら、このフィルタにより電流検出値は時間的に遅れを持ったものとなってしまう。また、制御系およびエネルギー蓄積部が本来的に有する特性から、直流電流が検出されてからエネルギー蓄積部が蓄電動作もしくは供給動作を開始するまで時間的に遅れがどうしても生じてしまう。エネルギー蓄積部は上述のように遅れをもった電流検出値を用いて動作させるので、指令値に対する応答遅れは必然的に大きなものとなる。このような遅れによって、交流電源やコンバータ回路のピーク値をあまり下げることができず、このため、交流電源の容量およびコンバータ回路の容量をあまり低減することができなかった。
【0011】
従って本発明の目的は、上記問題に鑑み、交流電源からの交流電力を直流電力に変換するコンバータ回路と、直流電力をモータの駆動のための交流電力に変換しまたはモータから回生される交流電力を直流電力に変換するインバータ回路と、直流電力を蓄積もしくは出力するエネルギー蓄積部と、を備えるモータ制御装置において、交流電源の容量およびコンバータ回路の容量が低減される、小型で低コストのモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を実現するために、本発明においては、モータ制御装置は、交流電力を直流電力に変換するコンバータ回路と、コンバータ回路の直流側に接続され、直流電力をモータの駆動のための交流電力に変換しまたはモータから回生される交流電力を直流電力に変換するインバータ回路と、コンバータ回路およびインバータ回路の直流側に接続され、直流電力を蓄積もしくは出力するエネルギー蓄積部と、モータへの角度、角速度もしくは角速度を指令するモータ動作指令に基づいて、エネルギー蓄積部が蓄積もしくは出力すべき直流電力量を制御する制御部と、を備える。
【0013】
制御部は、モータで消費もしくはモータから回生される電力の予測値をモータ動作指令に基づいて計算する電力計算部と、上記予測値に直流電力量が追従するようエネルギー蓄積部を制御するエネルギー制御部と、を有する。また、制御部は、モータ動作指令とモータの回転に関する検出値とを用いて、モータ動作指令に従ってモータが動作するために必要な交流電流をインバータ回路が出力するようにする指令値である、インバータ回路に対する電流指令値を作成する電流指令値作成部を有する。
【0014】
電力計算部は、上記インバータ回路に対する電流指令値と、モータの回転に関する検出値としてモータについて検出された角速度と、モータのトルク定数と、を乗算して予測値を算出してもよい。あるいは、電力計算部は、モータ動作指令としての角速度指令値と、この角速度指令値を微分して得られる角加速度指令値と、モータの駆動軸が有するイナーシャと、を乗算して予測値を算出してもよい。
【0015】
また、コンバータ回路が交流電源からの交流電力と直流電力とを相互に変換するものとしたとき、エネルギー制御部は、コンバータ回路が交流電力と直流電力とを相互に変換することができるコンバータ回路が有する最大変換許容電力を超えることがない範囲で、エネルギー蓄積部が蓄積もしくは出力すべき直流電力量を制御してもよい。またあるいは、コンバータ回路が交流電源からの交流電力と直流電力とを相互に変換するものとしたとき、エネルギー制御部は、コンバータ回路に接続された交流電源がコンバータ回路に供給することができる最大供給電力を超えることがない範囲で、エネルギー蓄積部が蓄積もしくは出力すべき直流電力量を制御してもよい。
【0016】
エネルギー蓄積部は、コンバータ回路およびインバータ回路の直流側に接続されるキャパシタからなってもよく、この場合、エネルギー制御部は、電力計算部が算出した予測値に基づいて、キャパシタが蓄積もしくは出力すべき直流電力量を制御する。すなわち、この場合、エネルギー蓄積部は、コンバータ回路およびインバータ回路の直流側に接続されるキャパシタと、電力計算部が算出した予測値に基づいたエネルギー制御部からの指令により、キャパシタが直流電力を蓄積もしくは出力するよう制御するキャパシタ制御部と、を有する。またあるいは、エネルギー蓄積部は、イナーシャ付きモータと、直流側がコンバータ回路およびインバータ回路の直流側に接続され、交流側がイナーシャ付きモータの入力端が接続されるイナーシャ付きモータ用インバータ回路と、イナーシャ付きモータの速度を検出するモータ速度検出部と、当該予測値とモータ速度検出部から受信したイナーシャ付きモータの速度の検出値とを用いて、当該予測値に直流電力量が追従するようにするためのイナーシャ付きモータ用インバータ回路に対する電流指令値を作成するイナーシャ付きモータ用制御部と、からなってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、制御部が、モータへの角度、角速度もしくは角速度を指令するモータ動作指令に基づいて計算したモータで消費もしくは回生される電力の予測値を用いて、エネルギー蓄積部が蓄積もしくは出力すべき直流電力量が追従するよう制御をするので、フィルタの時間遅れやエネルギー蓄積部の動作遅れの影響を除去することができ、モータ制御装置に接続される交流電源やモータ制御装置内のコンバータ回路の電流のピーク値を抑制することができる。したがって、本発明によれば、交流電源の容量およびコンバータ回路の容量を低減することができることから、従来よりも小型で低コストのモータ制御装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例において、1つのモータを駆動制御するモータ制御装置を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例において、複数のモータを駆動制御するモータ制御装置を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施例によるモータ制御装置の動作フローを示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施例における電力の予測値の計算の第1の方法を説明するブロック図である。
【図5】本発明の実施例における電力の予測値の計算の第2の方法を説明するブロック図である。
【図6】本発明の実施例におけるエネルギー蓄積部の第1の具体例を説明するブロック図である。
【図7】本発明の実施例におけるエネルギー蓄積部の第2の具体例を説明するブロック図である。
【図8】本発明の実施例によるモータ制御装置を適用した場合の、交流電源から供給される交流電力のピーク値の抑制について説明する図であり、(a)はエネルギー蓄積部がない場合、(b)エネルギー蓄積部がある従来技術、(c)は本発明についての波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
例えば工作機械システムにおいては、工作機械の駆動軸ごとにモータ(サーボモータ)が設けられるが、この場合、モータ制御装置としては、各モータに個別に駆動電力を供給するためにモータの個数と同数個のインバータ回路が設けられ、複数のインバータ回路に対してモータ制御装置のコストや占有スペースを低減する目的で1個のコンバータ回路が設けられる。
【0020】
以下で説明する本発明の実施例では、1個のモータ(サーボモータ)を駆動制御するモータ制御装置について説明するが、後述するように複数のモータを駆動制御する場合にも本発明は適用可能である。すなわち、駆動制御するモータの個数は、本発明を限定するものではなく、複数個であっても良い。以降、異なる図面において同じ参照符号が付されたものおよび同じ参照符号に枝番号が付されたものは同じ機能を有する構成要素であることを意味するものとする。
【0021】
図1は、本発明の実施例において、1つのモータを駆動制御するモータ制御装置を示すブロック図である。図1に示す例では、工作機械の制御軸数を1個としたので1個のモータ2が設けられ、モータ制御装置1はこのモータ2を駆動制御する。
【0022】
図1に示すように、本発明の実施例によるモータ制御装置1は、交流電源3からの交流電力を直流電力に変換するコンバータ回路11と、コンバータ回路11の直流側に接続され、直流電力をモータ2の駆動のための交流電力に変換しまたはモータ2から回生される交流電力を直流電力に変換するインバータ回路12と、コンバータ回路11およびインバータ回路12の直流側に接続され、直流電力を蓄積もしくは出力するエネルギー蓄積部13と、モータ2の動作を指令するモータ動作指令に基づいて、エネルギー蓄積部13が蓄積もしくは出力すべき直流電力量を制御する制御部14と、を備える。制御部14は、処理判断可能なプロセッサからなる。モータ動作指令については後述する。
【0023】
指令作成部24は、モータ2の動作を指令するモータ動作指令を作成し、このモータ動作指令を制御部14内の電流指令値作成部21へ入力する。
【0024】
モータ2には、回転するモータ2の速度を検出するための速度検出部31が設けられる。なお、ここでは、速度検出部31は、回転するモータ2の速度を検出するものとしたが、モータ2の回転軸が接続された工作機械の制御軸の回転の速度を検出するものであってもよい。また、ここではモータ2もしくは制御軸の回転の速度を検出する速度検出部31を用いているが、モータ2の回転位置またはモータ2に接続された制御軸の位置を検出する位置検出部を用いてもよい。速度検出部であっても位置検出部であっても、モータの回転軸もしくはモータが接続された工作機械の制御軸に、例えばスケールやロータリーエンコーダを接続して位置もしくは速度を検出する。位置検出値を微分すれば速度検出値が得られ、速度検出値を積分すれば位置検出値が得られるといった関係がある。
【0025】
制御部14は、電流指令値作成部21と、電力計算部22と、エネルギー制御部23と、を有する。電流指令値作成部21は、指令作成部24により作成されたモータ動作指令と速度検出部31によって検出されたモータ2の回転に関する検出値とを用いて、モータ動作指令に従ってモータ2が動作するために必要な交流電流をインバータ回路12が出力するようにする指令値である、インバータ回路12に対する電流指令値を作成する。電力計算部22は、モータ2で消費もしくはモータ2から回生される電力の予測値をモータ動作指令に基づいて計算する。エネルギー制御部23は、電力計算部22により算出された予測値に、エネルギー蓄積部13が蓄積もしくは出力すべき直流電力量が追従するようエネルギー蓄積部13を制御する。
【0026】
図2は、本発明の実施例において、複数のモータを駆動制御するモータ制御装置を示すブロック図である。図2に示す例では、工作機械の制御軸数を2個としたので2個のモータ2−1および2−2が設けられ、モータ制御装置1はこれらモータ2−1および2−2を駆動制御する。
【0027】
図2に示すように、本発明の実施例によるモータ制御装置1は、交流電源3からの交流電力を直流電力に変換するコンバータ回路11と、コンバータ回路11の直流側に接続され、それぞれが直流電力をモータ2−1および2−2の駆動のための交流電力に変換しまたはモータ2−1および2−2から回生される交流電力を直流電力に変換するインバータ回路12−1および12−2と、それぞれがコンバータ回路11およびインバータ回路12−1および12−2の直流側に接続され、直流電力を蓄積もしくは出力するエネルギー蓄積部13−1および13−2と、それぞれがモータ2−1および2−2の動作を指令するモータ動作指令に基づいて、エネルギー蓄積部13−1および13−2が蓄積もしくは出力すべき直流電力量を制御する制御部14−1および14−2と、を備える。
【0028】
指令作成部24−1および24−2は、それぞれモータ2−1および2−2の動作を指令するモータ動作指令を作成し、このモータ動作指令を制御部14−1および14−2内の電流指令値作成部21−1および21−2へ入力する。モータ2−1および2−2には、それぞれ回転するモータ2−1および2−2の速度を検出するための速度検出部31−1および31−2が設けられる。
【0029】
制御部14−1は、電流指令値作成部21−1と、電力計算部22−1と、エネルギー制御部23−1と、を有する。制御部14−2は、電流指令値作成部21−2と、電力計算部22−2と、エネルギー制御部23−2と、を有する。
【0030】
電流指令値作成部21−1および21−2は、指令作成部24−1および24−2により作成されたモータ動作指令と速度検出部31−1および31−2によって検出されたモータ2−1および2−2の回転に関する検出値とを用いて、モータ動作指令に従ってモータ2−1および2−2が動作するために必要な交流電流をインバータ回路12−1および12−2が出力するようにする指令値である、インバータ回路12−1および12−2に対する電流指令値を作成する。電力計算部22−1および22−2は、モータ2−1および2−2で消費もしくはモータ2−1および2−2から回生される電力の予測値をモータ動作指令に基づいて計算する。エネルギー制御部23−1および23−2は、電力計算部22−1および22−2により算出された予測値に、エネルギー蓄積部13−1および13−2が蓄積もしくは出力すべき直流電力量が追従するようエネルギー蓄積部1313−1および13−2を制御する。
【0031】
以下、図1に示す1個のモータ2を駆動制御するモータ駆動装置1の各部についてより詳細に説明する。なお、上述したように、異なる図面において同じ参照符号が付されたものおよび同じ参照符号に枝番号が付されたものは同じ機能を有する構成要素であることを意味するものであるので、モータ駆動装置の各部についての以下に説明は、一例として示した図2のような複数のモータを制御する場合にも適用される。
【0032】
図3は、本発明の実施例によるモータ制御装置の動作フローを示すフローチャートである。
【0033】
ステップS101において、制御部14は指令作成部24により作成されたモータ2の動作を指令するモータ動作指令を受信する。モータ動作指令には、モータ(サーボモータ)の回転位置を指令するものと、モータ(サーボモータ)の回転速度を指令するものとがある。なお、ここでは速度検出部31を回転するモータ2の速度を検出するものとしているが、モータ2の回転軸が接続された工作機械の制御軸の回転の速度を検出するものである場合には、モータ動作指令は工作機械の制御軸の回転位置を指令するもの、あるいは工作機械の制御軸の回転速度を指令するものになる。ステップS102においては、速度検出部31は、回転するモータ2の速度を検出する。なお、ステップS101およびステップS102の処理の順番は本発明を限定するものではなく、これら処理の順番が逆であってもよく、あるいは同時に行われてもよい。
【0034】
ステップS103において、制御部14内の電力計算部22は、モータ2で消費もしくはモータ2から回生される電力の予測値をモータ動作指令に基づいて計算する。予測値の具体的な計算式については後述する。
【0035】
制御部14内のエネルギー制御部23は、ステップS104において予測値に基づき電力指令値を作成し、ステップS105において電力指令値をエネルギー蓄積部13へ送信する。すなわち、エネルギー制御部23は、電力計算部22により算出された予測値に、エネルギー蓄積部13が蓄積もしくは出力すべき直流電力量が追従するようエネルギー蓄積部13を制御する。
【0036】
一方、エネルギー蓄積部13は、ステップS201において、制御部14内のエネルギー制御部23から送信された電力指令値を受信する。電力指令値を受信したエネルギー蓄積部13は、電力指令値に対応する直流電力を、モータ2もしくは交流電源3側から取り込んで蓄電するか、あるいはモータ2で消費させもしくは交流電源3側へ回生させるために出力(供給)する。
【0037】
ステップS106において、制御部14内の電流指令値作成部21は、指令作成部24により作成されたモータ動作指令と速度検出部31によって検出されたモータ2の回転に関する検出値とを用いて、インバータ回路12に対する電流指令値を作成する。この電流指令値は、モータ動作指令に従ってモータ2が動作するために必要な交流電流をインバータ回路12が出力するようにする指令値である。上述のように、モータ動作指令には、モータ(サーボモータ)の回転位置を指令するものと、モータ(サーボモータ)の回転速度を指令するものとがある。例えば指令作成部24がモータ2の速度を指令する場合、電流指値令作成部21は、指令作成部24が作成した速度指令値と、速度検出部31が検出した速度検出値とから、電流指令値を作成する。また例えば指令作成部24がモータ2の位置を指令する場合、電流指値令作成部21は、指令作成部24が作成した位置指令値と、モータ2で駆動される軸についての位置検出値とから、速度指令値を求め、この速度指令値と、速度検出部31が検出した速度検出値とから、電流指令値を作成する。なお、ステップS106の処理は、ステップS103からS105までの処理の前に実行されてもよい。
【0038】
次に、電力計算部22における、モータ2で消費もしくはモータ2から回生される電力の予測値の計算について説明する。
【0039】
図4は、本発明の実施例における電力の予測値の計算の第1の方法を説明するブロック図である。本発明の実施例における電力の予測値の計算の第1の方法によれば、制御部14内の電力計算部22は、電流指令値作成部21で作成されたインバータ回路12に対する電流指令値と、モータ2の回転に関する検出値として速度検出部31によってモータ2について検出された角速度と、モータ2のトルク定数と、を乗算して予測値を算出する。第1の方法による電力の予測値の計算式を式1に示す。
【0040】
【数1】

【0041】
インバータ回路12からモータ2へ駆動電流として流れ込む交流電流はモータの動作指令に従って大きく変化する可能性がある。従来ではコンバータ回路11からインバータ回路12へ流れ込む直流電流の検出値を用いて、モータで消費もしくはモータから回生される電力し、この電力に基づきエネルギー蓄積部13が蓄積もしくは出力すべき電力量を制御していた。上述のように直流電流の検出値からノイズ成分を除去するためのフィルタが設けられるが、このフィルタにより電流検出値は時間的に遅れを持ったものとなってしまう。これに対し、本発明の実施例における電力の予測値の計算の第1の方法によれば、大きく変化する可能性のある直流電流の検出値は用いずに、したがって直流電流の検出値のフィルタ経過後の値は用いずに、モータ2で消費もしくはモータ2から回生される電力を「予測値」の形式で算出するので、ノイズフィルタによる時間的遅れの影響を受けることはない。一方で、変化の小さい角速度については、速度検出部31で検出された検出値を用いる。実速度は実電流と比べて変化が遅いため、モータ2の回転の実速度を反映した角速度の検出値を用いることで、モータ2で消費もしくはモータ2から回生される電力の「予測値」についての計算精度を向上させることができる。
【0042】
図5は、本発明の実施例における電力の予測値の計算の第2の方法を説明するブロック図である。本発明の実施例における電力の予測値の計算の第2の方法によれば、制御部14内の電力計算部22は、指令作成部24で作成されたモータ動作指令としての角速度指令値と、この角速度指令値を微分して得られる角加速度指令値と、モータ2の駆動軸が有するイナーシャと、を乗算して予測値を算出する。第2の方法による電力の予測値の計算式を式2に示す。
【0043】
【数2】

【0044】
一般にモータ2の動作を指令するモータ動作指令はプログラムとして予め規定されているものである。例えば、工作機械の場合、制御軸の動作について予めプログラム化されている。したがって、現時刻の指令値よりもさらに先の時刻すなわち「未来の時刻」の指令値を把握することは可能である。本発明の実施例における電力の予測値の計算の第2の方法によれば、制御系およびエネルギー蓄積部が有する指令値からの「応答遅れ」分だけ先の上記「未来の時刻」の指令値を用いて、モータ2で消費もしくはモータ2から回生される電力の「予測値」を計算する。これにより、制御系およびエネルギー蓄積部が有する指令値からの「応答遅れ」の影響を受けることはなく、電力計算部22の次段にあるエネルギー制御部23における電力指令値の作成を行うことができる。制御系およびエネルギー蓄積部が有する指令値からの「応答遅れ」が例えば数十ミリ秒である場合、電力計算部23は、現時刻よりも数十ミリ秒先の指令値を指令作成部24内のモータ動作指令プログラムから読み取って、モータ2で消費もしくはモータ2から回生される電力の予測値を計算すればよい。
【0045】
電力計算部22の次段にあるエネルギー制御部23は、上述のようにして電力計算部22が上述のようにして算出した電力の予測値に基づき、電力指令値を作成し、この電力指令値をエネルギー蓄積部13へ送信する。電力計算部22が算出した電力の予測値はモータ2で消費もしくはモータ2から回生される電力の「予測値」であるので、エネルギー制御部23は、この予測値がモータ2で消費する電力の予測値である場合には、エネルギー蓄積部13に対し当該予測値に相当する分の直流電力量をモータ2へ向けて出力(供給)させるような電力指令値を作成し、この予測値がモータ2から回生される電力の予測値である場合には、エネルギー蓄積部13に対し当該予測値に相当する分の直流電力量をモータ2から蓄電からするような電力指令値を作成する。
【0046】
以上のようにしてエネルギー制御部23は、電力計算部22により算出された予測値に、エネルギー蓄積部13が蓄積もしくは出力すべき直流電力量が追従するようエネルギー蓄積部13を制御する。ここで、コンバータ回路11が交流電源3からの交流電力を直流電力に変換するだけではなく、直流電力を交流電力へ変換することもできるものとしたとき、すなわちコンバータ回路11が交流電力と直流電力とを相互に変換するものとしたとき、エネルギー制御部23は、コンバータ回路11が交流電力と直流電力とを相互に変換することができるコンバータ回路11が有する最大変換許容電力を超えることがない範囲(例えば最大供給電力の約70〜80パーセント)で、エネルギー蓄積部13が蓄積もしくは出力すべき直流電力量を制御してもよい。またあるいは、エネルギー制御部23は、コンバータ回路11に接続された交流電源3がコンバータ回路11に供給することができる最大供給電力を超えることがない範囲(例えば最大供給電力の約70〜80パーセント)で、エネルギー蓄積部23が蓄積もしくは出力すべき直流電力量を制御してもよい。このようにすることで、例えばエネルギー蓄積部13に蓄積されていた電力が枯渇したとき(枯渇しそうなとき)に場合は、交流電源3側からモータ2へ電力を供給するだけではなく、交流電源3側からエネルギー蓄積部へ充電のための電力も供給することになるが、このような場合であっても、コンバータ回路11が有する最大変換許容電力や交流電源3がコンバータ回路11に供給することができる最大供給電力を超えることがない。このように、本発明の実施例によれば、交流電源の容量およびコンバータ回路の容量を低減することができることから、従来よりも小型で低コストのモータ制御装置を実現することができる。
【0047】
次に、エネルギー蓄積部13について説明する。
【0048】
図6は、本発明の実施例におけるエネルギー蓄積部の第1の具体例を説明するブロック図である。この図において、インバータ回路12に接続されるモータ、およびコンバータ回路11に接続される交流電源については省略する。
【0049】
第1の具体例によるエネルギー蓄積部13は、コンバータ回路11およびインバータ回路12の直流側に接続されるキャパシタ13と、電力計算部22が算出した予測値に基づきエネルギー制御部23が作成した電力指令値により、キャパシタ41が直流電力を蓄積もしくは出力するよう制御するキャパシタ制御部42と、を有する。この場合、制御部14内のエネルギー制御部23は、電力計算部22が算出した予測値に基づいて、キャパシタ13が蓄積もしくは出力すべき直流電力量を制御する。キャパシタ制御部42は、処理判断可能なプロセッサからなる。
【0050】
図7は、本発明の実施例におけるエネルギー蓄積部の第2の具体例を説明するブロック図である。この図において、インバータ回路12に接続されるモータ、およびコンバータ回路11に接続される交流電源については省略する。
【0051】
第2の具体例によるエネルギー蓄積部13は、イナーシャ付きモータ51と、直流側がコンバータ回路およびインバータ回路の直流側に接続され、交流側がイナーシャ付きモータの入力端が接続されるイナーシャ付きモータ用インバータ回路52と、イナーシャ付きモータの速度を検出するモータ速度検出部53と、イナーシャ付きモータ用制御部54と、を有する。イナーシャ付きモータ用制御部54は、電力計算部22が算出した予測値に基づきエネルギー制御部23が作成した電力指令値とモータ速度検出部53から受信したイナーシャ付きモータ51の速度の検出値とを用いて、当該予測値に直流電力量が追従するようにするためのイナーシャ付きモータ用インバータ回路52に対する電流指令値を作成する。
【0052】
図8は、本発明の実施例によるモータ制御装置を適用した場合の、交流電源から供給される交流電力のピーク値の抑制について説明する図であり、(a)はエネルギー蓄積部がない場合、(b)エネルギー蓄積部がある従来技術、(c)は本発明についての波形図である。エネルギー蓄積部を持たないモータ制御装置でモータを駆動制御した場合のモータ速度、モータのトルク、モータで消費されもしくはモータから回生される電力、交流電源から供給され交流電源へ回生される電力の各波形を図8(a)に示すものであると仮定する。本発明によれば、図8(c)に示すように、モータで消費されもしくはモータから回生される電力の波形に対し、エネルギー蓄積部から供給されもしくは蓄電される電力の波形には遅れがないので、交流電源から供給され交流電源へ回生される電力の各波形のピーク値を抑制することができる。これに対し、エネルギー蓄積部がある従来技術によれば、図8(b)に示すように、モータで消費されもしくはモータから回生される電力の波形に対し、上述のような理由によりエネルギー蓄積部から供給されもしくは蓄電される電力の波形には遅れがあるので、交流電源から供給され交流電源へ回生される電力の各波形のピーク値は、本発明ほどは抑制できていない。
【0053】
このように、本発明によれば、モータへの角度、角速度もしくは角速度を指令するモータ動作指令に基づいて計算したモータで消費もしくは回生される電力の予測値を用いて、エネルギー蓄積部が蓄積もしくは出力すべき直流電力量が追従するよう制御をするので、フィルタの時間遅れやエネルギー蓄積部の動作遅れの影響を除去することができ、モータ制御装置に接続される交流電源やモータ制御装置内のコンバータ回路の電流のピーク値を抑制することができる。したがって、本発明によれば、交流電源の容量およびコンバータ回路の容量を低減することができることから、従来よりも小型で低コストのモータ制御装置を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、工作機械の駆動軸ごとにモータ部を有する工作機械システムにおいて、これらモータ(サーボモータ)を、入力された交流を直流に変換するコンバータ回路と、コンバータ回路から出力された直流を各モータの駆動電力としてそれぞれ供給される交流に変換するインバータ回路と、を有するモータ制御装置で駆動する場合に適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 モータ制御装置
2 モータ
3 交流電源
11 コンバータ回路
12 インバータ回路
13 エネルギー蓄積部
14 制御部
21 電流指令値作成部
22 電力計算部
23 エネルギー制御部
24 指令値作成部
31 速度検出部
41 キャパシタ
42 キャパシタ制御部
51 イナーシャ付きモータ
52 イナーシャ付きモータ用インバータ回路
53 イナーシャ付きモータ速度検出部
54 イナーシャ付きモータ用制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電力を直流電力に変換するコンバータ回路と、
前記コンバータ回路の直流側に接続され、直流電力をモータの駆動のための交流電力に変換しまたはモータから回生される交流電力を直流電力に変換するインバータ回路と、
前記コンバータ回路および前記インバータ回路の直流側に接続され、直流電力を蓄積もしくは出力するエネルギー蓄積部と、
モータへの角度、角速度もしくは角速度を指令するモータ動作指令に基づいて、前記エネルギー蓄積部が蓄積もしくは出力すべき直流電力量を制御する制御部と、
を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記モータ動作指令は、現時刻、または現時刻よりも未来の時刻における指令である請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、
モータで消費もしくはモータから回生される電力の予測値を前記モータ動作指令に基づいて計算する電力計算部と、
前記予測値に前記直流電力量が追従するよう前記エネルギー蓄積部を制御するエネルギー制御部と、
を有する請求項1または2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記モータ動作指令とモータの回転に関する検出値とを用いて、前記モータ動作指令に従ってモータが動作するために必要な交流電流を前記インバータ回路が出力するようにする指令値である、前記インバータ回路に対する電流指令値を作成する電流指令値作成部を有する請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記電力計算部は、前記電流指令値と、前記検出値としてモータについて検出された角速度と、モータのトルク定数と、を乗算して前記予測値を算出する請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記電力計算部は、前記モータ動作指令としての角速度指令値と、該角速度指令値を微分して得られる角加速度指令値と、モータの駆動軸が有するイナーシャと、を乗算して前記予測値を算出する請求項3または4に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記コンバータ回路は、交流電源からの交流電力と直流電力とを相互に変換するものであり、
前記エネルギー制御部は、前記コンバータ回路が交流電力と直流電力とを相互に変換することができる前記コンバータ回路が有する最大変換許容電力を超えることがない範囲で、前記エネルギー蓄積部が蓄積もしくは出力すべき直流電力量を制御する請求項1〜6のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記コンバータ回路は、交流電源からの交流電力と直流電力とを相互に変換するものであり、
前記エネルギー制御部は、前記コンバータ回路に接続された交流電源が前記コンバータ回路に供給することができる最大供給電力を超えることがない範囲で、前記エネルギー蓄積部が蓄積もしくは出力すべき直流電力量を制御する請求項1〜6のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
前記エネルギー蓄積部は、
前記コンバータ回路および前記インバータ回路の直流側に接続されるキャパシタと、
前記電力計算部が算出した前記予測値に基づいた前記エネルギー制御部からの指令により、前記キャパシタが直流電力を蓄積もしくは出力するよう制御するキャパシタ制御部と、を有する請求項3〜8のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
前記エネルギー蓄積部は、
イナーシャ付きモータと、
直流側が前記コンバータ回路および前記インバータ回路の直流側に接続され、交流側がイナーシャ付きモータの入力端が接続されるイナーシャ付きモータ用インバータ回路と、
前記イナーシャ付きモータの速度を検出するモータ速度検出部と、
前記予測値と前記モータ速度検出部から受信した前記イナーシャ付きモータの速度の検出値とを用いて、前記予測値に前記直流電力量が追従するようにするための前記イナーシャ付きモータ用インバータ回路に対する電流指令値を作成するイナーシャ付きモータ用制御部と、を有する請求項3〜8のいずれか一項に記載のモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−17305(P2013−17305A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148365(P2011−148365)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】