説明

エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法

【課題】エピタキシャル成長時の加熱に伴うスリップが発生せず、ウェーハ表面のボイド欠陥に起因したエピタキシャル膜の表面粗さの低下も解消可能なエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法を提供する。
【解決手段】単結晶のシリコンウェーハの表面を研削し、ウェーハ表層に加工変質層を形成後、変質層を高エネルギ光の照射で溶融、固化する。変質層は、単結晶シリコンより吸光係数が高いので、光加熱でウェーハが溶ける前に溶融し、エピタキシャル膜に改質できる。その結果、エピ成長加熱によるスリップが発生せず、ウェーハ表面のボイド欠陥よるエピ膜の表面粗さの低下も解消できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法、詳しくはシリコンウェーハの表層の高品質化が図れるエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー法によるシリコン単結晶のインゴットの引き上げ時に、過剰の空孔がこのインゴットに導入され、ボイド欠陥が生成する。
近年のデバイスの高集積化や微細化に伴い、デバイスが形成されるシリコンウェーハの表層から、ボイド欠陥などを完全に消滅させた結晶欠陥フリーのウェーハの要請がなされている。これは、結晶欠陥がデバイス形成時の歩留低下を招くためである。
【0003】
そこで、結晶引き上げ時の単結晶インゴットの温度勾配や引上げ速度などを制御し、点欠陥の発生を抑えてボイド欠陥や転位クラスタを縮小または消滅させる技術が、ウェーハの量産プロセスで実施されている。しかしながら、現状、結晶引き上げの制御のみでは、インゴットの一部だけしか結晶欠陥フリーのシリコン単結晶は達成されていない。しかも、表面検査装置の高感度化が進めば、今日ではボイドフリーと呼ばれる領域であっても、微小なボイド欠陥が存在する領域と判定される可能性もある。
特に、直径が300mmを超える大口径ウェーハになれば、ボイド欠陥などを含まないインゴットの引き上げがさらに困難になることから、結晶欠陥フリーのシリコンウェーハの作製は、さらに難しくなると予想される。
【0004】
このような課題を解決する従来技術として、シリコンウェーハの表面にエピタキシャル膜を成長させる方法が知られている。
一般に、エピタキシャル成長プロセスでは、その第1ステップとして、シリコンウェーハに対して1100℃以上の高温での水素ベーキングが行われている。これにより、表面酸化膜の除去およびウェーハ表面に存在するボイド欠陥の穴埋めを行う。しかしながら、直径300mmを超える大口径ウェーハの場合では、エピタキシャル成長に伴う高温熱処理時におけるスリップの発生が懸念される。そのため、今後はエピタキシャルプロセスの低温化が必要になると予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−181076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、低温エピタキシャル成長用のシリコンウェーハとして、表面にボイド欠陥が存在するものを採用した場合には、水素ベーク時の加熱温度が低く、ウェーハ表面のボイド欠陥の穴埋めが不十分となる。その結果、ウェーハ表面の微小な凹凸がエピタキシャル膜の表面に転写され、またはボイド欠陥を起点としてエピタキシャル膜中に欠陥が生じることで、最終的にデバイス特性の劣化を招いてしまう。
【0007】
そこで、発明者は鋭意研究の結果、単結晶シリコンに比べて吸光係数が高い加工ダメージからなる加工変質層、アモルファスシリコンおよび多結晶シリコンに着目した。すなわち、単結晶シリコンからなるシリコンウェーハの表層に、研削により得られる加工変質層のみを形成するか、この加工変質層の表面にアモルファスシリコン膜または多結晶シリコン膜を成膜する。次に、レーザ光などの高エネルギ光を、(1)単結晶シリコンは溶融しないものの、シリコン単結晶より吸光係数が高い加工変質層は溶融する液相エピタキシーの熱処理条件または溶融を伴わない固相エピタキシーの熱処理条件で加熱するか、(2)単結晶シリコンは溶融しないものの、シリコン単結晶より吸光係数が高い加工変質層とこれに堆積されたアモルファスシリコン膜または多結晶シリコン膜とが溶融する液相エピタキシーの熱処理条件または溶融を伴わない固相エピタキシーの熱処理条件で加熱し、その後、これを冷却して固化することで、単結晶シリコンからなるエピタキシャル膜とすれば、上述の問題は解消することを知見し、この発明を完成させた。
【0008】
この発明は、エピタキシャル成長時の加熱に伴うスリップの発生を無くし、かつウェーハ表面のボイド欠陥に起因したエピタキシャル膜の表面粗さの低下を解消することができるエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、単結晶シリコンからなるシリコンウェーハの表面を研削し、該シリコンウェーハの表層に加工ダメージによる加工変質層を形成する変質層形成工程と、前記加工変質層を、高エネルギ光の照射による溶融を伴う液相エピタキシーの熱処理条件か、前記高エネルギ光の照射による溶融を伴わない固相エピタキシーの熱処理条件で加熱し、その後、冷却することで、単結晶シリコンからなるエピタキシャル膜とする熱処理工程とを備えたエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法である。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、単結晶シリコンからなるシリコンウェーハの表面を研削し、シリコンウェーハの表層に加工ダメージによる加工変質層を形成する(変質層形成工程)。その後、加工変質層を高エネルギ光の照射による溶融を伴う液相エピタキシーの熱処理条件か、高エネルギ光の照射による溶融を伴わない固相エピタキシーの熱処理条件で加熱し、冷却して固化する。熱処理された加工変質層が冷却されて固化する際、この加工変質層の固液界面において、シリコンウェーハの固体領域(単結晶シリコン)の結晶性を引き継ぎ、加工変質層(シリコン)が単結晶シリコンからなるエピタキシャル膜となる。単結晶シリコンに比べて加工変質層は吸光係数が高い。そのため、光加熱式のアニール炉を使用すれば、単結晶シリコンからなるシリコンウェーハが融点(1412℃)に達する前に、液相エピタキシーまたは固相エピタキシーにより、加工変質層を単結晶シリコンからなるエピタキシャル膜に改質することができる。ここでいう「結晶性を引き継ぐ」とは、シリコンウェーハの固体領域の結晶面や結晶方位を継承することをいう。
【0011】
すなわち、疑似的ながらエピタキシャル成長を可能とし、従来のエピタキシャル成長の加熱に伴うシリコンウェーハのスリップの発生を無くすことができる。しかも、仮にウェーハ表面にボイド欠陥が存在している場合でも、ウェーハ表面を研削した後の加工変質層の溶融により、表面の平坦度が高いエピタキシャル膜が得られる。その結果、ウェーハ表面のボイド欠陥に起因したエピタキシャル膜の表面粗さの低下を解消することができる。
【0012】
シリコンウェーハとしては、単結晶シリコンウェーハ、あるいはSOIウェーハを採用することができる。
「シリコンウェーハの表面」とは、デバイスが形成される面をいう。
研削は、例えば表面研削装置を用いて、所定の回転速度で回転中の研削砥石をシリコンウェーハの表面に押し付けることで行われる。これにより、ウェーハ表層に加工ダメージ層である加工変質層が形成される。具体的には、♯170〜♯800の研削砥石を用いてウェーハ表面を研削したとき、厚さ(深さ)が11〜34μmの加工変質層が形成される。加工変質層の厚さは、デバイス活性層に応じて研磨砥石の番定を設計(変更)すればよい。
加工変質層は、アモルファスシリコンと同様に、単結晶シリコンに比べて吸光係数が高い。
【0013】
熱処理工程では、シリコンウェーハの表面において、融点以上に加熱されて溶融するか融点近くまで加熱された加工変質層が、単結晶シリコン構造に反映した液相エピタキシャル成長または固相エピタキシャル成長を行い、加工変質層は単結晶シリコンのエピタキシャル膜となる。
【0014】
熱処理方法は、加工変質層を溶融する条件での加熱としてもよい。このとき、加工変質層が、単結晶シリコンからなるシリコンウェーハの加工変質層との界面を基準とし、固体領域であるシリコンウェーハの加工変質層との界面を含む結晶性を引き継いで単結晶化する(液相エピタキシー)。
一方、固相エピタキシーの場合には、加工変質層を溶融させず、融点付近までの加熱に止める。これにより、加工変質層が、シリコンウェーハの加工変質層との界面を基準とし、固体領域である支持基板用ウェーハの結晶面を含む結晶性を引き継いで単結晶化する。
また、液相エピタキシャル成長または固相エピタキシャル成長されたエピタキシャル膜の比抵抗の調整は、加工変質層中に予めドーパントを規定量導入することで対応できる。
【0015】
光加熱方法としては、例えば各種のランプアニール法(スパイククランプアニール法、フラッシュランプアニール法など)、レーザアニール法(レーザスパイクアニール法など)を採用することができる。
高エネルギ光としては、例えばランプ光、レーザ光などを採用することができる。高エネルギ光の照射エネルギは装置仕様により大きく変わるものの、可能な限りエネルギの高いものの方が処理時間の短縮が図れて好ましい。
【0016】
例えば、加工変質層を溶融させる場合には、レーザ波長に依存するがレーザエネルギ密度を1〜20J/cmとする。1J/cm未満では、溶融時間が長くなりすぎて生産性が低下する。また、20J/cmを超えれば、生産性は高まるが装置コストの問題が生じる。高エネルギ光の好ましい照射エネルギは、2〜5J/cmである。この範囲であれば、市販のレーザアニール装置を使用することができる。また、例えば、加工変質層の溶融を伴わない場合のレーザエネルギ密度は、前記溶融を伴う場合の条件から10%程度低い値とする。
また、レーザ種はエキシマレーザ、固体レーザ、半導体レーザなどシリコン内部に侵入可能な波長のレーザが適用される。また、2種類以上の波長のレーザ光をシリコン表面から照射してもよい。高エネルギ光としてランプ光を用いる場合には、例えば500℃〜1350℃に設定させ、数ミリ秒から数分間加熱すればよい。
【0017】
請求項2に記載の発明は、前記変質層形成工程から前記熱処理工程までの間に、前記加工変質層にドーパントをイオン注入し、前記熱処理工程では、溶融した前記加工変質層に、前記ドーパントが拡散される請求項1に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法である。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、ドーパントのイオン注入量は、例えばボロンを1.33×1014〜1.46×1016atoms/cmとなるように設定すればよい。
ドーパントのイオン注入エネルギは、対象となる加工変質層の厚さ(深さ)より注入深さが浅くなるように設定すればよい。好ましくは加工変質層の表層近傍にドーパントを注入した方が、イオン注入装置に負荷をかけず、また中電流イオン注入装置などを使用することができ、イオン電流も大きくなって生産性が高まる。
【0019】
請求項3に記載の発明は、単結晶シリコンからなるシリコンウェーハの表面を研削し、該シリコンウェーハの表層に加工ダメージによる加工変質層を形成する変質層形成工程と、該変質層形成工程後、前記加工変質層の表面にアモルファスシリコン膜または多結晶シリコン膜を堆積させる堆積工程と、該堆積工程後、前記加工変質層に堆積された前記アモルファスシリコン膜または多結晶シリコン膜と前記加工変質層とを、高エネルギ光の照射による溶融を伴う液相エピタキシーの熱処理条件か、高エネルギ光の照射による溶融を伴わない固相エピタキシーの熱処理条件で加熱し、その後、冷却することで、単結晶シリコンからなるエピタキシャル膜とする熱処理工程とを備えたエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法である。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、単結晶シリコンからなるシリコンウェーハの表面を研削し、シリコンウェーハの表層に加工ダメージによる加工変質層を形成する(変質層形成工程)。その後、加工変質層の表面にアモルファスシリコン膜または多結晶シリコン膜を、例えばCVD(化学的気相成長)法などの薄膜成長法により堆積させる(堆積工程)。次に、この堆積されたアモルファスシリコン膜または多結晶シリコン膜と加工変質層とを、高エネルギ光の照射による溶融を伴う液相エピタキシーの熱処理条件か、高エネルギ光の照射による溶融を伴わない固相エピタキシーの熱処理条件で加熱し、その後、これを冷却して固化する(熱処理工程)。熱処理されたシリコンが固化する際、この熱処理されたシリコンの固液界面において、固体領域(単結晶シリコン)の結晶性を引き継ぎ、この熱処理されたシリコンが単結晶シリコンからなるエピタキシャル膜となる。単結晶シリコンに比べて加工変質層、アモルファスシリコンおよび多結晶シリコンは吸光係数が高い。特に、アモルファスシリコンは1桁程高いと言われている。そのため、光加熱式のアニール炉を使用すれば、単結晶のシリコンウェーハが融点に達する前に、加工変質層上のアモルファスシリコン膜または多結晶シリコン膜と、加工変質層とが溶融し、その後、これを冷却、固化してエピタキシャル膜に改質することができる。
【0021】
しかも、仮にウェーハ表面にボイド欠陥が存在する場合でも、ウェーハ表面を研削しての加工変質層の形成によって、これを除去することができる。また、続く加工変質層へのシリコン膜の堆積直後、加工変質層の表面凹凸に起因した微小凹凸がシリコン膜の表面に転写された場合でも、続く熱処理工程でシリコン膜を液相エピタキシーの熱処理条件または固相エピタキシーの熱処理条件で熱処理することにより、これを溶失させることができる。その結果、表面の平坦度が高いエピタキシャル膜が得られる。
また、溶融後に液相エピタキシャル成長されたシリコン膜の比抵抗の調整は、アモルファスシリコン膜または多結晶シリコン膜中に予めドーパントを規定量導入することで対応できる。
【0022】
ここでいう「堆積」とは、エピタキシャル成長を含まないアモルファスシリコン膜または多結晶シリコンの成長をいう。
アモルファスシリコン膜または多結晶シリコン膜を堆積させる方法としては、例えば気相成長法を採用すればよい。その他、スパッタ法などでもよい。
気相成長法としては、例えば常圧気相成長法、減圧気相成長法、有機金属気相成長法等を採用することができる。
気相成長装置としては、1枚ずつシリコンウェーハを処理する枚葉型、複数枚のシリコンウェーハを同時に処理可能なパンケーキ型、バレル型、ホットウォール型、クラスタ型でもよい。
気相成長法で使用される反応ガス(ソースガス)の成分としては、例えばSiHを採用することができる。また、キャリアガスの成分としては、水素を採用することができる。
【0023】
請求項4に記載の発明は、前記堆積工程では、ドーパントガスを使用する気相成長法が採用された請求項3に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法である。
【0024】
ドーパントガスの成分としては、n形として、例えばPH(フォスフィン),AsH(アルシン)などを採用することができる。また、p形として、例えばホウ素(B)を採用することができる。
ドーパント濃度は、顧客のデバイスに応じて仕様が異なるので一概に決められない。一般的には1Ω・cm以上100Ω・cm以下となるように、p型の場合、1.33×1014〜1.46×1016atoms/cmとする。
【0025】
請求項5に記載の発明は、前記堆積工程から前記熱処理工程までの間に、前記アモルファスシリコン膜または多結晶シリコン膜にドーパントをイオン注入し、前記熱処理工程では、溶融した前記アモルファスシリコン膜または多結晶シリコン膜に、前記ドーパントが拡散される請求項3または請求項4に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法である。
【0026】
ドーパントのイオン注入量は、前述したように例えばボロンを1.33×1014〜1.46×1016atoms/cmとなるように設定すればよい。
ドーパントのイオン注入エネルギは、対象となるアモルファスシリコン膜や多結晶シリコン膜の厚さより注入深さが浅くなるように設定すればよい。好ましくはアモルファスシリコン膜や多結晶シリコン膜の表層近傍にドーパントを注入した方が、イオン注入装置に負荷をかけず、また中電流イオン注入装置などを使用することができ、イオン電流も大きくなって生産性が高まる。
【0027】
請求項6に記載の発明は、前記高エネルギ光がレーザ光またはランプ光である請求項1〜請求項5のうち、何れか1項に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法である。
特に、レーザ光を採用した場合には、レーザスキャン速度や照射時間を任意に変更できるので、固化速度などを変更可能で、得られるエピタキシャル膜の品質を改善することができる。
【0028】
レーザ光としては、例えば、エキシマレーザやYAGレーザの第3高調波(波長355nm)のパルスレーザ光、Nd:YAGレーザ、Nd:YLFレーザ、Nd:ガラスファイバレーザ、Nd:YV04レーザ、Yb:YAGレーザなどの第2高調波、第3高調波、第4高調波などを採用することができる。また、レーザ光はパルス照射でも連続照射の何れでもよく、またビーム幅はシリコンウェーハの直径以上にした方が均一に溶融できるので好ましい。
レーザ光の照射エネルギ、レーザ光の照射パルス数、レーザ光のパルス幅は、レーザ光の種類に応じてそれぞれ選択される。
ランプ光としては、例えば、RTA(ラピッド・サーマル・アニーリング)装置やFLA装置(フラッシュ・ランプ・アニーリング)を用いることができる。また、固層エピタキシャル成長させる場合には、通常の抵抗加熱炉を用いてもよい。
【0029】
請求項7に記載の発明は、前記熱処理工程後、前記エピタキシャル膜の表面を研磨する請求項1〜請求項6のうち、何れか1項に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法である。
【0030】
請求項7に記載の発明によれば、熱処理工程後、エピタキシャル膜の表面を研磨するので、仮にエピタキシャル膜の表面に微小な凹凸欠陥が存在しても、市販のエピタキシャルシリコンウェーハと同等の表面平坦度を得ることができる。
【0031】
エピタキシャル膜の表面の研磨量は、エピタキシャル膜の厚さより少なくするのは当然であるが、研磨により平坦度劣化を防ぐためにできるだけ少なくする。すなわち、研磨代は凹凸欠陥高さを研磨除去できるだけの大きさである。例えば5〜1000nmである。5nm未満では、現状のCMP(Crystal Originated Particle)装置では表面を均一に研磨するのが困難であり、逆に研磨代が大きいと平坦度を劣化させる可能性がある。
【発明の効果】
【0032】
請求項1に記載の発明によれば、単結晶のシリコンウェーハの表面を研削し、ウェーハ表層に加工変質層を形成後、加工変質層を高エネルギ光の照射により、溶融を伴う液相エピタキシーの熱処理条件か、溶融を伴わない固相エピタキシーの熱処理条件で加熱し、その後、冷却して固化する。加工変質層は、単結晶シリコンに比べて吸光係数が高いので、光加熱すれば、単結晶のシリコンウェーハが融点に達する前に加工変質層が溶融し、固化してエピタキシャル膜に改質することができる。その結果、液相エピタキシャル成長または固相エピタキシャル成長を可能とし、従来の気相エピタキシャル成長に伴う加熱時に発生していたスリップを無くすことができる。
しかも、仮にウェーハ表面にボイド欠陥が存在している場合でも、ウェーハ表面の研削およびその後の加工変質層の溶融により、表面の平坦度が高いエピタキシャル膜が得られる。その結果、ウェーハ表面のボイド欠陥に起因したエピタキシャル膜の表面粗さの低下を解消することができる。
【0033】
また、請求項3に記載の発明によれば、単結晶のシリコンウェーハの表面を研削し、ウェーハ表層に加工変質層を形成後、加工変質層の表面にアモルファスシリコン膜または多結晶シリコン膜を堆積させる。その後、堆積されたシリコン膜と加工変質層とを、高エネルギ光の照射による溶融を伴う液相エピタキシーの熱処理条件か、溶融を伴わない固相エピタキシーの熱処理条件で加熱する。次に、これを冷却して固化することで、熱処理されたシリコンをエピタキシャル膜に改質することができる。その結果、エピタキシャル膜の液相エピタキシャル成長または固相エピタキシーを可能とし、従来の気相エピタキシャル成長に伴う加熱時に発生していたスリップを無くすことができる。
しかも、仮にウェーハ表面にボイド欠陥が存在する場合でも、ウェーハ表面を研削しての加工変質層の形成によって、これを除去することができる。また、続く加工変質層へのシリコン膜の堆積直後、加工変質層の表面凹凸に起因した微小凹凸がシリコン膜の表面に転写された場合でも、続く熱処理工程でシリコン膜を溶融することにより、これを溶失させることができる。その結果、表面の平坦度が高いエピタキシャル膜が得られる。
【0034】
特に、請求項7に記載の発明によれば、熱処理工程後、前記エピタキシャル膜の表面を研磨するので、仮にエピタキシャル膜の表面に微小な凹凸欠陥が存在しても、市販のエピタキシャルシリコンウェーハと同等の表面平坦度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1a】この発明の実施例1に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法に使用されるシリコンウェーハの縦断面図である。
【図1b】この発明の実施例1に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法の変質層形成工程を示すシリコンウェーハの縦断面図である。
【図1c】この発明の実施例1に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法の熱処理工程を示すシリコンウェーハの縦断面図である。
【図1d】この発明の実施例1に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法のエピタキシャル膜の成膜状態を示すシリコンウェーハの縦断面図である。
【図1e】この発明の実施例1に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法のエピタキシャル膜の研磨工程を示すシリコンウェーハの縦断面図である。
【図2a】この発明の実施例2に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法に使用されるシリコンウェーハの縦断面図である。
【図2b】この発明の実施例2に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法のシリコンウェーハの変質層形成工程を示すシリコンウェーハの縦断面図である。
【図2c】この発明の実施例2に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法の堆積工程を示すシリコンウェーハの縦断面図である。
【図2d】この発明の実施例2に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法の熱処理工程を示すシリコンウェーハの縦断面図である。
【図2e】この発明の実施例2に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法のエピタキシャル膜の成膜状態を示すシリコンウェーハの縦断面図である。
【図2f】この発明の実施例2に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法の研磨工程を示すシリコンウェーハの縦断面図である。
【図3a】この発明の実施例3に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法に使用されるシリコンウェーハの縦断面図である。
【図3b】この発明の実施例3に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法の変質層形成工程を示すシリコンウェーハの縦断面図である。
【図3c】この発明の実施例3に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法の熱処理工程を示すシリコンウェーハの縦断面図である。
【図3d】この発明の実施例3に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法のエピタキシャル膜の成膜状態を示すシリコンウェーハの縦断面図である。
【図3e】この発明の実施例3に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法の研磨工程を示すシリコンウェーハの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、この発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例】
【0037】
この発明の実施例1に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法を説明する。
チョクラルスキー法により直径200mm、初期酸素濃度1.3×1018atoms/cmの空孔リッチなボイド欠陥が存在するシリコン単結晶インゴットを引き上げる。その際、ドーパントとしてボロンを、シリコン単結晶インゴットの比抵抗が2mΩ・cmとなるまで添加する。得られたシリコン単結晶インゴットには、ブロック切断、外径研削およびスライスの各工程が順次施される。これにより、表面にボイド欠陥が多数存在するシリコンウェーハが作製される。
【0038】
次に、図1a〜図1eのフローシートを参照して、このシリコンウェーハを用いたエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法を説明する。
図1aに示すように、まず上述した製造方法によりシリコンウェーハ10を準備する。
次いで、シリコンウェーハ10を、枚葉式の片面研削装置20のウェーハ保持板に吸着し、シリコンウェーハ10の表面を、#800のカップ型レジノイド研削砥石20aにより研削する(図1b、研削工程)。このときのウェーハ表層の研削量は80μmである。これにより、ウェーハ表層に厚さ11μmの加工ダメージからなる加工変質層10aが形成される。
【0039】
それから、研削されたシリコンウェーハ10を、真空下、あるいはヘリウムガス雰囲気またはアルゴンガス雰囲気のレーザアニール炉(パルス方式)に挿入する。ここで、加工変質層10aに、Nd:YLYレーザ光(波長527nm)を、エネルギ密度4.5J/cmで照射する(図1c、熱処理工程)。これにより、加工変質層10aが溶けて溶融シリコン層11となる。
前述したように、加工変質層10aは、単結晶シリコンに比べて吸光係数が1桁程高い加工ダメージ層である。そのため、レーザアニール炉を使用し、前述した条件でエキシマレーザ光(高エネルギ光)を照射すれば、加工変質層10aより吸光係数が低い単結晶のシリコンウェーハ10は溶けず、加工変質層10aのみが溶融する。
【0040】
その後、溶融シリコン層11を冷却し、固化することで、加工変質層10aのみが単結晶のエピタキシャル膜12に変質する(図1d)。このようにレーザアニール炉を使用すれば、単結晶のシリコンウェーハ10が融点に達する前に加工変質層10aが溶融される。その後、溶融シリコン層11が冷却され、固化されるが、溶融されたシリコン(加工変質層10a)の固液界面において、固体領域であるシリコンウェーハ10の結晶性を引き継ぎ、単結晶シリコンのエピタキシャル膜12が成長される。
【0041】
すなわち、疑似的ながらエピタキシャル成長を可能とし、従来の(気相)ピタキシャル成長の加熱に伴うシリコンウェーハのスリップの発生を無くすことができる。しかも、仮にシリコンウェーハ11の表面にボイド欠陥が存在する場合でも、ウェーハ表面を研削後、加工変質層10aを溶融させるので、表面の平坦度が高いエピタキシャル膜12が得られる。その結果、ウェーハ表面のボイド欠陥に起因したエピタキシャル膜12の表面粗さの低下を解消することができる。
実際に、研削工程において、研削砥石の番手が#170、♯325、♯800の3種類のレジノイド研削砥石によりシリコンウェーハの表面を研削した。得られた加工変質層10aの厚さは、走査型電子顕微鏡を用いた測定の結果、#170の場合で34μm、♯325の場合で26μm、♯800の場合で11μmであった。
【0042】
次に、シリコンウェーハ10を、その溶融された部分を下に向け、キャリアプレートを介して、枚葉式の研磨装置の研磨ヘッドの下面に貼着し、ウェーハ表層を例えば研磨量0.05μm程度で化学的機械的研磨する。その結果、エピタキシャルシリコンウェーハ30が作製される(図1e)。
これにより、仮にレーザ照射後のシリコン表面に凹凸が生じたとしても、溶融時に単結晶シリコンの場合より低い温度でボイド欠陥や転位クラスタを消滅させ、ウェーハの表面粗さを小さくすることができる。しかも、このような効果が、単結晶シリコン(融点1412℃)を溶融可能な高出力の光加熱式のアニール炉に比べて低出力の光加熱式のアニール炉で得られる。そのため、アニール炉の低コスト化および光加熱源の長寿命化が図れる。
【0043】
次に、図2a〜図2fのフローシートを参照して、この発明の実施例2に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法を説明する。
この実施例2のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法は、以下の点を特徴としている。すなわち、シリコンウェーハ10(図2a)の表層に、加工変質層10aを形成し(図2b)、この加工変質層10aの表面にアモルファスシリコン膜13を、CVD(化学的気相成長)法により堆積させる(図2c、堆積工程)。その後、アモルファスシリコン膜13および加工変質層10aにエキシマレーザ光を照射し、これらを溶融して実施例1の場合に比べて厚肉な溶融シリコン層11Aを形成する(図2d、熱処理工程)。次いで、溶融シリコン層11Aを冷却し、これを固化することで、溶融シリコン層11Aを厚肉なエピタキシャル膜12Aに変質させる(図2e)。そして、変質後のエピタキシャル膜12Aの表面を化学的機械的研磨することで、エピタキシャルシリコンウェーハ30Aが作製される(図2f)。
【0044】
アモルファスシリコン膜13の堆積方法は、200〜400℃に設定されたCVD炉内に、加工変質層10aが形成されたシリコンウェーハ10を投入し、水素ガスをベースにして、シランガス、必要に応じてジボロランガスを導入し、アモルファスシリコン膜13を2μm堆積させる。
なお、アモルファスシリコン膜13に代えて多結晶シリコン膜を堆積させてもよい。多結晶シリコンの堆積方法としては、CVD装置に温度500℃〜750℃程度の温度域で、例えば減圧化によりモノシランガスを導入し、多結晶シリコンを堆積させる方法などを採用することができる。
【0045】
なお、必要に応じて、堆積工程でアモルファスシリコン膜13にドーパントを添加してもよく、またはドーパントを添加するのではなく、堆積工程から熱処理工程までの間に、アモルファスシリコン膜13の内部に、その表面からドーパントをイオン注入してもよい。この場合には、以下のイオン注入工程が行われる。
まず、アモルファスシリコン膜13付きのシリコンウェーハ10を中電流イオン注入装置の炉内に挿入し、70keVの加速電圧で所定濃度となるようにドーパントをイオン注入する。これにより、ウェーハ表面から深さ300nm付近の位置に注入ピーク領域を有したイオン注入領域部が形成される。ドーパントのイオン注入を採用した場合、熱処理工程において、アモルファスシリコン膜13の全域にドーパントが均一に拡散される。
【0046】
Nd:YLYレーザ光の照射条件は、波長527nm、エネルギ密度4.5J/cmで、シリコンウェーハ10の表面全域に照射する。これにより、アモルファスシリコン膜13だけでなく加工変質層10aも同時に溶融され、厚肉な溶融シリコン11Aとなる。その後、これを冷却して固化することで厚肉なエピタキシャル膜12Aが得られる。
このように構成したので、仮に堆積直後のアモルファスシリコン膜13の表面に、加工変質層10aの表面凹凸に起因した微小凹凸が転写された場合でも、その後のアモルファスシリコン膜13および加工変質層10aの溶融により、表面の平坦度が高いエピタキシャル膜12Aが得られる。こうして、エピタキシャルシリコンウェーハ30Aが作製される。
その他の構成、作用および効果は、実施例1とから推測可能な範囲であるので、説明を省略する。
【0047】
次に、図3のフローシートを参照して、この発明の実施例3に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法を説明する。
この実施例3のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法は、以下の点を特徴としている。すなわち、シリコンウェーハ10(図3a)の表層に、加工変質層10aを形成し(図3b)、その後、シリコンウェーハ10をフラッシュランプ炉内に挿入する。次に、1250℃まで炉内温度を高めて、ミリ秒レベルの時間だけ加熱する。
【0048】
これにより、加工変質層10aが、溶融を伴わないシリコン11Bとなる(図3c)。その結果、シリコンウェーハ10がその溶融を伴わないシリコン層11Bとの界面を基準とし、固体領域の結晶面を含む結晶性を引き継いで、溶融を伴わないシリコン層11Bが単結晶化する。その後、シリコンウェーハ10を炉外へ取り出す。これにより、溶融を伴わないシリコン層11Bをエピタキシャル膜12Bに変質させる(図3d)。そして、変質後のエピタキシャル膜12Bの表面を化学的機械的研磨することで、エピタキシャルシリコンウェーハ30Bが作製される(図3e)。
その他の構成、作用および効果は、実施例1とから推測可能な範囲であるので、説明を省略する。
【符号の説明】
【0049】
10 シリコンウェーハ、
10a 加工変質層、
12,12A,12B エピタキシャル膜、
13 アモルファスシリコン膜、
30,30A,30B エピタキシャルシリコンウェーハ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶シリコンからなるシリコンウェーハの表面を研削し、該シリコンウェーハの表層に加工ダメージによる加工変質層を形成する変質層形成工程と、
前記加工変質層を、高エネルギ光の照射による溶融を伴う液相エピタキシーの熱処理条件か、前記高エネルギ光の照射による溶融を伴わない固相エピタキシーの熱処理条件で加熱し、その後、冷却することで、単結晶シリコンからなるエピタキシャル膜とする熱処理工程とを備えたエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記変質層形成工程から前記熱処理工程までの間に、前記加工変質層にドーパントをイオン注入し、
前記熱処理工程では、溶融した前記加工変質層に、前記ドーパントが拡散される請求項1に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【請求項3】
単結晶シリコンからなるシリコンウェーハの表面を研削し、該シリコンウェーハの表層に加工ダメージによる加工変質層を形成する変質層形成工程と、
該変質層形成工程後、前記加工変質層の表面にアモルファスシリコン膜または多結晶シリコン膜を堆積させる堆積工程と、
該堆積工程後、前記加工変質層に堆積された前記アモルファスシリコン膜または多結晶シリコン膜と前記加工変質層とを、高エネルギ光の照射による溶融を伴う液相エピタキシーの熱処理条件か、高エネルギ光の照射による溶融を伴わない固相エピタキシーの熱処理条件で加熱し、その後、冷却することで、単結晶シリコンからなるエピタキシャル膜とする熱処理工程とを備えたエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記堆積工程では、ドーパントガスを使用する気相成長法が採用された請求項3に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記堆積工程から前記熱処理工程までの間に、前記アモルファスシリコン膜または多結晶シリコン膜にドーパントをイオン注入し、
前記熱処理工程では、溶融した前記アモルファスシリコン膜または多結晶シリコン膜に、前記ドーパントが拡散される請求項3または請求項4に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記高エネルギ光がレーザ光またはランプ光である請求項1〜請求項5のうち、何れか1項に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【請求項7】
前記熱処理工程後、前記エピタキシャル膜の表面を研磨する請求項1〜請求項6のうち、何れか1項に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図1e】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図2e】
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【図2f】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図3e】
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【公開番号】特開2010−192544(P2010−192544A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33283(P2009−33283)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】