説明

エポキシ樹脂含浸ヤーンおよび予備成形物を製造するためのその使用

強化繊維フィラメントとヤーンに浸潤する樹脂とで構成されるヤーンであって、前記樹脂は繰り返し融解することができ、かつ室温まで冷却することによって凝固させることができ、前記ヤーンのフィラメントは前記樹脂によって互いに少なくとも部分的に結合しており、前記ヤーンはその総重量に対して2.5〜25重量%の浸潤樹脂を含有し、前記浸潤樹脂は少なくとも2種のエポキシ樹脂E1とE2の混合物で構成され、E1は樹脂の2,000〜2,300mmol/kgの範囲のエポキシ値を有し、E2は樹脂の500〜650mmol/kgの範囲のエポキシ値を有し、そして前記混合物中のエポキシ樹脂E1およびE2の重量比E1:E2は、前記浸潤樹脂混合物が樹脂の550〜2,100mmol/kgの範囲のエポキシ値を有するように選択されることを特徴とする前記ヤーン、前記ヤーンを含んでなる予備成形物、前記予備成形物を製造するための方法、および複合材料を製造する際のその使用が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヤーン、予備成形物を製造するための前記ヤーンの使用、前記ヤーンを含んでなる予備成形物、前記予備成形物の製法、および複合材料の製造におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック部品を製造する公知の方法は、まず前記部品と形状が似ている予備成形物を作製し、前記予備成形物を前記部品の形状を有する金型に移し、そして最後に、マトリクス樹脂の添加によって所望の部品を製造することを特徴とする。
予備成形物とは対照的に、プリプレグ(予備含浸繊維)は、両成分(繊維およびマトリクス樹脂)を最終混合物における割合と同じ割合ですでに含有しているため、半製品の状態でも耐屈曲性がある。早期の好ましからざる反応を防ぐために、この材料は涼しい場所に保管する必要があるが、たとえそのように保管したとしても、保管寿命は限られている。この材料の曲げ剛性により、および、この材料が幅の広いロールの形態で製造されることにより、プリプレグの使用は、ほぼ平面な、表面積の大きな部品に限られている。マトリクス樹脂の存在が、小さな半径または輪郭のはっきりとした形状に対するプリプレグの繊維加工またはしわ防止加工用途を阻んでいる。
予備成形物の製造にフレキシブルヤーンを用いる場合、はるかに強く湾曲している表面を作り出すことが可能である。さらに、予備成形物の最長保管寿命は、プリプレグと比較して著しく向上している。その理由は、複合材料が製造されるまでマトリクス樹脂が添加されないからである。
【0003】
JP2003003376Aには、プリプレグを製造するための炭素繊維束が記載されている。前記繊維束は20,000〜100,000本のフィラメントを含んでなり、ポリオキシアルキレン基とエポキシ基とを含有するサイズ剤によってまとめられている。前記炭素繊維束は、その総重量に対して、0.5〜3重量%のサイズ剤を含有する。
DE2746640Aには、エポキシ樹脂と、酸成分とヒドロキシル成分の縮合生成物と、フェノールのオキシアルキレン誘導体とを含有する樹脂混合物が塗布された炭素繊維強化材料が記載されている。前記炭素繊維は、それらの総重量に対して、0.01〜10重量%の樹脂混合物を含有する。
DE3942858Aには、エポキシ樹脂と、第3アミノ基、前記エポキシ樹脂と反応することができる少なくとも1種の官能基および乳化作用を備えた少なくとも1種の基を含有する非イオン性乳化剤とを含有する炭素繊維用サイズ剤が記載されている。前記繊維上には0.3〜10重量%のサイズ剤が存在すると言われている。
【0004】
DE2033626Aには、機械的に優良な繊維材料、例えば、とりわけ、ガラス、ホウ素または炭素の繊維からプリプレグを製造する方法が記載されている。前記繊維には、遊離グリシジル基を含有しかつトリグリシジルイソシアヌレートと硬化剤と有機溶媒とで構成される硬化性重付加化合物を含有する溶液を含浸させる。
DE20120447U1には、熱可塑性非架橋結合剤、例えばエポキシドが表面に付着している織物平板構造、例えば織物または繊維織物層で構成される予備成形物が記載されている。DE20120447U1によれば、前記結合剤は、例えば、結合剤溶液を前記織物平板構造の表面に噴霧することによって塗布される。前記結合剤溶液は、溶媒中に均一に分散された粉末粒子を含有する。前記粉末粒子は、エポキシ樹脂のみで構成されていてもよい。
【0005】
しかしながら、織物平板構造から予備成形物を製造する場合、前記結合剤被膜は前記織物平板構造の厚みにわたって不均等に広がり、場所によって、とりわけヤーン同士が互いに接触している場所では、被膜はほとんど存在していない。従って、この種の予備成形物は低い滑り抵抗を有することが多いため、前記予備成形物をさらに処理することは困難あるいは不可能でさえある。
予備成形物がせん孔を有すべき場合にはさらなる問題が生じる。すなわち、予備成形物を織物平板構造から製造する場合、材料を切り出すことによって製造しなければならないことが多い。これにはさらなる処理時間が必要とされ、そして切れ端は相当量の材料の損失となり、相当量の廃棄物を生じさせることになる。従って、この予備成形物を製造するための方法は多大なコストと労働力を要し、このことは、それから製造される複合材料のコストに反映される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、少なくとも前記問題点を軽減させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、強化繊維フィラメントとヤーンに浸潤する樹脂とで構成されるヤーンであって、前記樹脂は繰り返し融解することができ、かつ室温まで冷却することによって凝固させることができ、前記ヤーンのフィラメントは前記樹脂によって互いに少なくとも部分的に結合しており、前記ヤーンはその総重量に対して2.5〜25重量%の浸潤樹脂を含有し、前記浸潤樹脂は少なくとも2種のエポキシ樹脂E1とE2の混合物で構成され、E1は樹脂の2,000〜2,300mmol/kgの範囲のエポキシ値を有し、E2は樹脂の500〜650mmol/kgの範囲のエポキシ値を有し、そして前記混合物中のエポキシ樹脂E1およびE2の重量比E1:E2は、前記浸潤樹脂混合物が樹脂の550〜2,100mmol/kgの範囲のエポキシ値を有するように選択される、ことを特徴とする前記ヤーンによって達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
前記ヤーンのフィラメントは前記樹脂によって少なくとも部分的に結合しているため、本発明のヤーンはとてもコンパクトである。
本発明のヤーンにおいて、前記樹脂は、それで被覆されたヤーンが室温においてべたつかないような樹脂が選択されるべきである。従って、一般に、この種のヤーンは、巻き上げることができるだけでなく、その織物特性は維持したままで巻き上げた状態で保管することもでき、また、長期間保管した後でも巻き上げを解くこともできる。例えば、本発明のヤーンは、12ヶ月間保管した後でも何の問題も無く巻き上げを解くことができ、また、DIN65382の方法によって測定したときの強度、弾性率および破断点伸びの値の変化は、あったとしても、ほんのわずかである。
【0009】
最後に、本発明のヤーンは、さらなる結合剤の複雑な添加を必要とせずに予備成形物を製造するのに用いることができるが、前記ヤーン同士の結合は最先端の予備成形物におけるヤーン同士の結合よりも優れている。さらに、初めに説明したせん孔を有する予備成形物の最先端の製造とは対照的に、ヤーンの無駄が生じない。従って、ヤーンの切れ端を廃棄する必要が生じない。
【0010】
好ましい実施態様において、本発明のヤーンは、その総重量に対して、3〜10重量%の浸潤樹脂を含有する。
本発明の他の好ましい実施態様において、本発明のヤーンの強化繊維フィラメントは、ピッチ、ポリアクリロニトリルまたはビスコースの前駆体から得られた炭素繊維フィラメント、アラミドフィラメント、ガラスフィラメント、セラミックフィラメント、ホウ素フィラメント、合成繊維フィラメント、天然繊維フィラメント、またはこれらのフィラメントのうちの1種以上の組み合わせである。
【0011】
さらに、本発明の目的は、強化繊維フィラメントとヤーンに浸潤する樹脂とで構成されるヤーンであって、前記樹脂は繰り返し融解することができ、かつ室温まで冷却することによって凝固させることができ、前記ヤーンのフィラメントは前記樹脂によって互いに少なくとも部分的に結合しており、前記ヤーンはその総重量に対して2.5〜25重量%の浸潤樹脂を含有し、前記強化繊維フィラメントは、電気化学的に前処理された炭素フィラメントであり、前記浸潤樹脂は少なくとも2種のビスフェノールAエピクロロヒドリン樹脂H1およびH2を1.1〜1.4の重量比H1:H2で含有し、H1は1,850〜2,400mmol/kgのエポキシ値と800〜1,000g/molの分子量とを有しかつ室温で固体であり、H2は5,000〜5,600mmol/kgのエポキシ値と700g/mol未満の分子量とを有しかつ室温で液体であり、そして前記浸潤樹脂はさらに第3の樹脂H3を含有し、H3は、450〜650mmol/kgのエポキシ値と、2,800〜3,000の数平均分子量と、110〜130℃の融解範囲とを有するビスフェノールAエピクロロヒドリンエポキシ樹脂である、ことを特徴とする前記ヤーンによって達成される。
【0012】
好ましい実施態様において、本発明のヤーンは、その総重量に対して、3〜10重量%の浸潤樹脂(infiltrated resin)を含有する。
他の好ましい実施態様において、本発明のヤーンの強化繊維フィラメントは、ピッチ、ポリアクリロニトリルまたはビスコースの前駆体から得られた炭素繊維フィラメント、アラミドフィラメント、ガラスフィラメント、セラミックフィラメント、ホウ素フィラメント、合成繊維フィラメント、天然繊維フィラメント、またはこれらのフィラメントのうちの1種以上の組み合わせである。
前記強化繊維フィラメントは、炭素繊維フィラメントであることが好ましい。
【0013】
炭素繊維フィラメントでできたヤーンに関して、電気化学的酸化によって前処理されたヤーンは特に適当である。このヤーンは、数千本、好ましくは約3,000〜24,000本のフィラメント、特に好ましくは3,000〜12,000本のフィラメントで構成され得る。
【0014】
前記樹脂を前記ヤーンに浸潤させるには、原則として、前記樹脂による前記ヤーンの強化繊維フィラメントの急速および完全な湿潤を補助する任意の方法が適当である。この種の方法は、例えば、EP1281498Aに記載されている。例えば、前記ヤーンに樹脂分散液を噴霧してもよい。あるいは、前記樹脂分散液の膜を滑らかなローラーの上またはローラーの溝の中に配置した後、ヤーンを前記滑らかなローラーの上または前記ローラーの溝の中に通してもよい。前記ヤーンは、前記樹脂分散液の入った浴に通すことが好ましい。
【0015】
前記樹脂分散液としては、原則として、本発明において用いられる樹脂と共に安定した分散液を形成する任意の液体混合物が、液相として好適である。放出の予防の観点から特に好適である液体混合物は、揮発性有機化合物含有量(VOC)の低い水性の液体混合物である。例えば、水と2−プロポキシエタノールのごときアルコールとの混合物が、本発明の方法において好ましいビスフェノールAエピクロロヒドリンエポキシ樹脂にとって有利であることが分かっている。
特に好ましい実施態様において、本発明のヤーンは、その総重量に対して、H1およびH2を合計で0.5〜1.7重量%、H3を2.0〜4.3重量%、それぞれ2.3〜5.5重量%含有する。
【0016】
本発明のヤーンの製造は、ヤーンが乾燥してから巻き上げられるまでの間に樹脂を浸潤させる製造過程に組み込むことができる。乾燥したヤーンは、個別にまたは縦糸のシートの形態で、少なくとも1種の樹脂を浸潤させることができる。浸潤に樹脂分散液を用いる場合、0.25〜1.3cN/texの糸張力があれば強化繊維フィラメントを十分に湿らすことができる。
【0017】
本発明に用いられる必要のある浸潤樹脂の量、すなわち、ヤーンの総重量に対して2.5〜25重量%は、当然のことながら、例えば前記樹脂の1種以上を含んでなる分散液の入った浴にヤーンを通過させる速度、挿入長および前記浴中の樹脂濃度を調節することによって達成することができる。ヤーンが浴を通過する速度は好ましくは120〜550m/h、特に好ましくは150〜250m/hの範囲である。挿入長は好ましくは0.2〜1mの範囲である。分散液中の樹脂濃度は、好ましくは2〜35重量%および特に好ましくは2〜7重量%の範囲である分散液重量に比例する。
【0018】
140〜330℃の範囲の乾燥温度は、前記樹脂分散液で被覆されたヤーンを乾燥させるのに特に好適であることが分かっている。
本発明のヤーンは、予備成形物の製造に有利に用いることが可能である。
【0019】
さらに、本発明の目的は、互いに接触する点において前記浸潤樹脂によって互いに結合されている前記本発明のヤーンを含んでなる予備成形物によって達成される。
【0020】
本発明のヤーンを用いれば、浸潤樹脂の融解および再凝固の後、非常に高い滑り抵抗を示す予備成形物をもたらす織物の製造が可能となるが、本発明のヤーンから本発明の予備成形物を製造するのが有利である。その理由は、そうする際に、本発明の予備成形物から製造される複合材料の使用中に機械的応力が最も高くなると予想される方向に前記ヤーンを配置させることができるからである。
例えば、本発明の予備成形物の好ましい実施態様において、ヤーンは一方向に配置される。これにより、使用中に前記ヤーンの正にこの方向において機械的応力が最も高くなると予想される複合材料へと予備成形物をさらに加工することができる。
【0021】
本発明の予備成形物のさらに好ましい実施態様において、ヤーンは二方向、三方向または多方向に配置される。これにより、使用中に前記ヤーンの正にこれらの二方向、三方向または多方向において機械的応力が最も高くなると予想される複合材料へと予備成形物をさらに加工することができる。
【0022】
本発明の予備成形物の前記平坦な実施態様に加えて、一方向、二方向、三方向または多方向に配置されたヤーンを、例えば円筒型の形状を有する物体に巻き付けることによって、三次元の予備成形物が得られる。
さらに、すべての空間方向に配向することができるショートヤーンとして前記ヤーンが存在する本発明の予備成形物の実施態様が好ましい。従って、この予備成形物は、使用中にすべての空間方向において機械的応力が生じ得る複合材料の製造に特に好適である。
【0023】
さらに、本発明の目的は、予備成形物を製造するための方法であって、
a)本発明のヤーンのうちの1種を供給する工程、
b)前記ヤーンを、所望の予備成形物の構造に対応する構造に配置する工程、
c)工程b)によって得られた構造を、前記ヤーンに浸潤した樹脂の融解温度よりも高い温度まで加熱する工程、
d)工程c)によって得られた構造を、少なくとも前記樹脂の融解温度よりも低い温度まで冷却する工程、
を含んでなることを特徴とする前記方法によって達成される。
本発明の方法の好ましい実施態様において、工程b)によって得られた前記構造を、工程c)において、加熱すると同時に圧縮する。
【0024】
本発明の予備成形物または本発明の方法によって製造された予備成形物は、そのヤーンが浸潤樹脂によって互いに結合しているので、高い滑り抵抗を示す。従って、本発明の予備成形物の取り扱いは容易である。この点は、後に続く複合材料への加工において特に有利である。
本発明の予備成形物または本発明の方法によって製造された予備成形物がせん孔を有しようとする場合、これらのせん孔は、ヤーンを適切に配置することによって、すなわち、切れ端に起因する材料の損失を全く出すこと無く、実現することができる。従って、最先端の技術について前述した多大なコストと労働力を要する処理は必要なく、そのため廃棄物も出ない。故に、せん孔を有する複合材料の製造は、最先端技術よりも容易かつ経済的である。
【0025】
さらに、本発明の予備成形物または本発明の方法によって製造された予備成形物の製造において、織物平板構造の代わりに本発明のヤーンのうちの1種を用いることによって、続いて製造される複合材料の使用中に機械的応力が最も高くなると予想される方向にヤーンを配置することができる。
例えば、予備成形物を製造するための本発明の方法の好ましい実施態様において、本発明のヤーンは工程b)において一方向に配置され、これにより、工程d)の実施後、ヤーンが一方向に配置されている本発明の予備成形物が得られる。
【0026】
本発明の予備成形物を製造するための本発明の方法のさらなる好ましい実施態様において、本発明のヤーンは、工程b)において、所望の予備成形物の構造に対応する構造における二方向、三方向または多方向層に配置してもよい。本発明のヤーンはこの目的のためだけに使用することができる。あるいは、層内の一部のヤーンのみを本発明のヤーンとし、残りのヤーンを、フィラメントに樹脂コーティングがなされていないヤーンとしてもよい。前記のように構成されたヤーンを、本発明の方法の工程c)において、必要に応じてヤーンを圧縮しながら、ヤーンに浸潤している樹脂の融解温度よりも高い温度まで加熱する。これによってヤーンが粘着性を持つようになる。工程d)において、少なくとも前記樹脂の融解温度よりも低い温度まで冷却すると、ヤーンが二方向、三方向または多方向に配置されている本発明の予備成形物が得られる。
【0027】
本発明の予備成形物を製造するための方法のさらなる実施態様において、本発明のヤーンを、工程a)において、長さが例えば1〜1,000mm、好ましくは1〜40mmの短片に切断し、金型内に設置する。次に、本発明の方法の工程b)において、前記ヤーンの短片を、必要に応じてヤーンを圧縮しながら、ヤーンに浸潤している樹脂の融解温度よりも高い温度まで加熱することによって、前記ヤーンの短片に粘着性を持たせる。工程d)において、少なくとも前記樹脂の融解温度よりも低い温度まで冷却すると、本発明のヤーンが等方的配向性を有する短いヤーンとして存在する本発明の予備成形物が得られる。
【0028】
本発明の予備成形物または本発明の方法によって製造された予備成形物または本発明の使用によって生じた予備成形物は、前述の理由により、ポリマー、金属、セラミックス、水硬性材料および炭素のうちの1種から選択されるマトリクスを含んでなる複合材料を製造するのに有利に用いることができる。例えば、ポリエチレンイミン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホンおよびポリスルホンのごとき熱可塑性材料またはエポキシドのごとき熱硬化性樹脂はポリマーマトリクスとして好適であり、例えば鋼(合金)またはチタンは金属マトリクスとして好適であり、例えば炭化ケイ素または窒化ホウ素はセラミックスマトリクスとして好適であり、モルタルまたはコンクリートは水硬性材料として好適であり、そして例えばグラファイトは炭素マトリクスとして好適である。
【0029】
本発明の使用によって生ずる複合材料において、本発明のヤーンは、前記複合材料の使用中に機械的応力が最も高くなると予想される方向に配置される。従って、本発明のヤーンおよび本発明のヤーンから製造された予備成形物の本発明に従った使用によって、予想される機械的応力に対してヤーンの配向が調整された複合材料が得られる。
【0030】
分析方法
本発明の方法において用いられるエポキシ樹脂のエポキシ値は、1975年10月のDIN53188に従って求めた。
本発明の予備成形物で補強された複合材料の引張強度および引張弾性率は、EN2561−Bに示されるようにして測定した。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を下記実施例を用いてさらに詳しく説明する。
【0032】
実施例1 被覆ヤーンの製造
番手が400texである炭素繊維フィラメントのヤーンを、乾燥した状態で、240m/hの速度および340cNの糸張力で、温度が20℃よりも高い第1浴に通した。前記浴には、2種のビスフェノールAエピクロロヒドリンエポキシ樹脂H1およびH2を含有する水性分散液が入っていた。H1とH2の重量比は1.2であった。H1は約2,200mmol/kgのエポキシ値と900g/molの分子量とを有し、室温では固体であった。H2は5,400mmol/kgのエポキシ値と700g/mol未満の分子量とを有し、室温では液体であった。前記分散液中のH1の濃度は8.4重量%であった。前記分散液中のH2の濃度は6.9重量%であった。前記分散液中におけるヤーンの滞留時間は12秒間であった。H1およびH2に浸潤されたヤーンを、250℃から140℃まで温度が下がる中で乾燥させた。乾燥後、前記ヤーンは、その総重量に対して、H1およびH2を合計で1.2〜1.4重量%含有していた。その後、H1およびH2に浸潤された前記ヤーンを、120〜130℃の融解温度、2,870g/molの数平均分子量および515mmol/kgのエポキシ値を有するビスフェノールAエピクロロヒドリンエポキシ樹脂の分散液の入った第2浴に通した。分散液媒体は、76重量%の水と24重量%の2−プロポキシエタノールとの混合物であった。前記浴中のエポキシ樹脂の濃度は4重量%であった。前記第2浴中におけるヤーンの滞留時間は数秒間であった。前記浴から出した後、H3にも浸潤されたヤーンを、まず垂直配置乾燥機に300℃で通し、その後水平配置乾燥機に330℃で通すことによって乾燥させた。得られたヤーンは、浸潤樹脂H1、H2およびH3を合計で4.3重量%含有していた。前記浸潤樹脂のエポキシ値は1,300mmol/kgであった。
【0033】
実施例2 被覆ヤーンの製造
実施例1の被覆ヤーンを、各表面(280mm×300mm)が剥離フィルムで被覆された金属板に、実験用巻き取り機を用いて(23.1mm/sのヤーン速度および400cNのヤーンけん引力で)巻き付けた。巻き付けは、金属板の縁まで行った。まず、金属板の両側に、巻き取り軸に対して90°の方向に配置された(単位面積当たりの繊維質量が267g/mである)巻き取り層を形成した。次に、金属板を、前記巻き取り層が前記巻き取り軸と平行になるように、90°回転させた。次に、前記巻き取り軸に対して90°の方向に配置された別の巻き取り層を、同じ巻き取り条件を用いて、既存の巻き取り層の上に重ねた。このようにして、ヤーンの方向が0°および90°である層構造が金属板の両側に形成された。ヤーンの方向を0°と90°に交互に変えながら4つの巻き取り層が金属板の各側に積層されるまで、前記巻き取り手順を繰り返した。
【0034】
次に、金属板の両側の巻き取り層の各々を剥離フィルムで被覆する。2つの4層巻き取りおよび剥離フィルムの貼付を終えた後、金属板を、2バールの表面圧力および125℃の温度で、プレス機で1時間プレスした。
プレスしたものを、前記樹脂の融解温度よりも低い温度まで冷ました。次に、2つの巻き取りパッケージを金属板の横断面で切り離し、4枚の剥離フィルムを取り除いた。これにより、2つの寸法安定性のある予備成形物が得られた。得られた各予備成形物は、4つの層が交互に0°と90°を成している、すなわち、ヤーンが二方向に配置されている構造物であった。
【0035】
実施例3 複合材料の製造
実施例2で製造された予備成形物を200mm×200mmの大きさに切り出し、前もって80℃まで加熱しておいたHexcel社のRTM6樹脂を用いて、常法に従って、4つの層が交互に0°と90°を成しているヤーン構造を有する複合材料へと加工した。前記RTM6樹脂は、繊維体積含有率が60%である複合材料が得られる量で用いられる。前記複合材料は、用いられた予備成形物と形状が同じである。
【0036】
実施例4 ヤーンの二軸配置による予備成形物の製造
ドイツのTenax Fibers GmbH社からTenax HTA 5131 400tex f6000t0の名称で販売されている標準的な炭素繊維フィラメントヤーンと一緒に、実施例1で製造されたヤーンを二軸積層処理に附した。4番目の平行なヤーンは、すべて実施例1で得られたものであった。
【0037】
二軸配置は下記構造を有する。
− 第1の層では、前記標準的な炭素繊維フィラメントヤーンおよび実施例1のヤーンが、製造の方向に対して45°の角度を成している。
− 前記第1の層の真上に位置する第2の層では、前記標準的な炭素繊維フィラメントヤーンおよび実施例1のヤーンが、製造の方向に対して−45°の角度を成している。
【0038】
得られた構造を、145℃に加熱したホットカレンダーに2分間接触させることによって125℃まで加熱した後、室温まで冷ますことによって、不織布平板構造(状態Aにある予備成形物)が得られた。繊維体積含有率が60%である実施例3のようにこれから製造された複合材料は、1,100MPaの引張強度と、70.5GPaの引張弾性率とを有していた。これらの特性は繊維の主方向において測定された。
【0039】
実施例5 ヤーンの三次元配置による予備成形物の製造
実施例4で製造された状態Aの予備成形物を、形状が直径150mmの半球体でありかつ雄型金型と雌型金型とで構成される球形器具を用いて、2バールの表面圧力および125℃の器具温度において、プレス機で1時間かけて前記器具の形状に対応する形状へと成形した。室温まで冷めると、得られた予備成形物は半球形であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維フィラメントとヤーンに浸潤する樹脂とで構成されるヤーンであって、前記樹脂は繰り返し融解することができ、かつ室温まで冷却することによって凝固させることができ、前記ヤーンのフィラメントは前記樹脂によって互いに少なくとも部分的に結合しており、前記ヤーンはその総重量に対して2.5〜25重量%の浸潤樹脂を含有し、前記浸潤樹脂は少なくとも2種のエポキシ樹脂E1とE2の混合物で構成され、E1は樹脂の2,000〜2,300mmol/kgの範囲のエポキシ値を有し、E2は樹脂の500〜650mmol/kgの範囲のエポキシ値を有し、そして前記混合物中のエポキシ樹脂E1およびE2の重量比E1:E2は、前記浸潤樹脂混合物が樹脂の550〜2,100mmol/kgの範囲のエポキシ値を有するように選択される、ことを特徴とする前記ヤーン。
【請求項2】
前記ヤーンは、その総重量に対して、浸潤樹脂を3〜10重量%含有する、請求項1に記載のヤーン。
【請求項3】
前記強化繊維フィラメントが、ピッチ、ポリアクリロニトリルまたはビスコースの前駆体から得られた炭素繊維フィラメント、アラミドフィラメント、ガラスフィラメント、セラミックフィラメント、ホウ素フィラメント、合成繊維フィラメント、天然繊維フィラメント、またはこれらのフィラメントのうちの1種以上の組み合わせである、請求項1または2に記載のヤーン。
【請求項4】
強化繊維フィラメントとヤーンに浸潤する樹脂とで構成されるヤーンであって、前記樹脂は繰り返し融解することができ、かつ室温まで冷却することによって凝固させることができ、前記ヤーンのフィラメントは前記樹脂によって互いに少なくとも部分的に結合しており、前記ヤーンはその総重量に対して2.5〜25重量%の浸潤樹脂を含有し、前記強化繊維フィラメントは、電気化学的に前処理された炭素フィラメントであり、前記浸潤樹脂は少なくとも2種のビスフェノールAエピクロロヒドリン樹脂H1およびH2を1.1〜1.4の重量比H1:H2で含有し、H1は1,850〜2,400mmol/kgのエポキシ値と800〜1,000g/molの分子量とを有しかつ室温で固体であり、H2は5,000〜5,600mmol/kgのエポキシ値と700g/mol未満の分子量とを有しかつ室温で液体であり、そして前記浸潤樹脂はさらに第3の樹脂H3を含有し、H3は、450〜650mmol/kgのエポキシ値と、2,800〜3,000の数平均分子量と、110〜130℃の融解範囲とを有するビスフェノールAエピクロロヒドリンエポキシ樹脂である、ことを特徴とする前記ヤーン。
【請求項5】
前記ヤーンは、その総重量に対して、浸潤樹脂を3〜10重量%含有する、請求項4に記載のヤーン。
【請求項6】
前記強化繊維フィラメントが、ピッチ、ポリアクリロニトリルまたはビスコースの前駆体から得られた炭素繊維フィラメント、アラミドフィラメント、ガラスフィラメント、セラミックフィラメント、ホウ素フィラメント、合成繊維フィラメント、天然繊維フィラメント、またはこれらのフィラメントのうちの1種以上の組み合わせである、請求項4または5に記載のヤーン。
【請求項7】
前記ヤーンは、その重量に対して、H1およびH2を合計で0.5〜1.7重量%、H3を2.3〜5.5重量%含有する、請求項4〜6の1つ以上に記載のヤーン。
【請求項8】
予備成形物を製造するための、請求項1〜3の1つ以上に記載のヤーンまたは請求項4〜7の1つ以上に記載のヤーンの使用。
【請求項9】
請求項1〜3の1つ以上に記載のヤーンまたは請求項4〜7の1つ以上に記載のヤーンを含んでなる予備成形物であって、前記ヤーンは互いに接触する点において前記浸潤樹脂によって互いに結合されている、ことを特徴とする前記予備成形物。
【請求項10】
前記ヤーンが一方向に配置されている、請求項9に記載の予備成形物。
【請求項11】
前記ヤーンが二方向、三方向または多方向に配置されている、請求項9に記載の予備成形物。
【請求項12】
前記ヤーンがショートヤーンとして存在している、請求項9に記載の予備成形物。
【請求項13】
請求項9〜12の1つ以上に記載の予備成形物を製造するための方法であって、前記方法は、下記工程、すなわち、
a)請求項1〜3の1つ以上に記載のヤーンまたは請求項4〜7の1つ以上に記載のヤーンを供給する工程、
b)前記ヤーンを、所望の予備成形物の構造に対応する構造に配置する工程と、
c)工程b)によって得られた構造を、前記ヤーンに浸潤した樹脂の融解温度よりも高い温度まで加熱する工程、
d)工程c)によって得られた構造を、少なくとも前記樹脂の融解温度よりも低い温度まで冷却する工程、を含んでなることを特徴とする前記方法。
【請求項14】
工程b)によって得られた前記構造を、工程c)において、加熱すると同時に圧縮する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ポリマー、金属、セラミックス、水硬性材料および炭素のうちの1種から選択されるマトリクスを含んでなる複合材料を製造するための、請求項9〜12の1つ以上に記載の予備成形物の使用。
【請求項16】
ポリマー、金属、セラミックス、水硬性材料および炭素のうちの1種から選択されるマトリクスを含んでなる複合材料を製造するための、請求項13または14に記載の方法によって製造されたまたは請求項8に記載の使用によって製造された予備成形物の使用。

【公表番号】特表2007−530756(P2007−530756A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−505485(P2007−505485)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【国際出願番号】PCT/EP2005/003281
【国際公開番号】WO2005/095080
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(506240883)トーホー・テナックス・ヨーロッパ・ゲーエムベーハー (4)
【Fターム(参考)】