説明

エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤及びその製造方法、一液性エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、接着剤、接合用フィルム、導電性材料並びに異方導電性材料

【課題】低温硬化性と貯蔵安定性とを高度に両立することが可能なエポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤及びその製造方法、一液性エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、接着剤、接合用フィルム、導電性材料並びに異方導電性材料を提供する。
【解決手段】活性水素基を有する化合物(A)を主成分として含むコア(B)と、当該コア(B)を覆うように設けられており、化合物(A)と反応する官能基を有する化合物(L)、及び、イソシアネート化合物(C)を含むカプセルと、を有する、エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤及びその製造方法、一液性エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、接着剤、接合用フィルム、導電性材料並びに異方導電性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、その硬化物が、機械的特性、電気的特性、熱的特性、耐薬品性、接着性等の点で優れた性能を有することから、塗料、電気電子用絶縁材料、接着剤等の幅広い用途に利用されている。現在一般に使用されているエポキシ樹脂組成物は、使用時にエポキシ樹脂及び硬化剤の二液を混合する、いわゆる二液性のものである。
【0003】
二液性エポキシ樹脂組成物は室温で硬化しうる反面、エポキシ樹脂と硬化剤とを別々に保管し、必要に応じて両者を計量・混合した後で使用する必要があるため、保管や取り扱いが煩雑である。その上、可使用時間が限られているため、予め大量に混合しておくことができず、使用の度に混合作業を行う必要がある。そのため、作業頻度が多くなり、作業能率の低下を免れない。
【0004】
こうした二液性エポキシ樹脂組成物の問題を解決する目的で、これまでいくつかの一液性エポキシ樹脂組成物が提案されている。一液性エポキシ樹脂組成物としては、例えば、ジシアンジアミド、BF−アミン錯体、アミン塩、変性イミダゾール化合物等の潜在性硬化剤をエポキシ樹脂に配合したものがある。
【0005】
また、粉末状アミン化合物の表面をイソシアネートと反応させ、アミン化合物の表面を不活性化して硬化剤に潜在性を付与する検討が行われている(特許文献1〜5)。更に、粉末状アミン化合物をエポキシ樹脂中でイソシアネートと反応させることによりカプセル化し一液化したマイクロカプセル型硬化剤も提案されている(特許文献6〜8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭58−055970号公報
【特許文献2】特開昭59−027914号公報
【特許文献3】特開昭59−059720号公報
【特許文献4】欧州特許出願公開第193,068号明細書
【特許文献5】特開昭61−190521号公報
【特許文献6】特開平01−070523号公報
【特許文献7】特開2004−269721号公報
【特許文献8】特開2005−344046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の潜在性硬化剤の場合、貯蔵安定性に優れているものは硬化性が低く、硬化に高温又は長時間が必要である一方、硬化性が高いものは貯蔵安定性が低く、例えば−20℃のような低温で貯蔵する必要がある。例えば、ジシアンジアミドを配合した一液性エポキシ樹脂組成物は、常温保存の場合に6ヵ月以上の貯蔵安定性を有するものの、170℃以上の硬化温度を必要とする。この硬化温度を低下させるために硬化促進剤を併用すると、例えば130℃での硬化が可能であるが、その場合は室温での貯蔵安定性が不十分であるため、低温での貯蔵を余儀なくされる。
【0008】
また、フィルム状成形品や、基材にエポキシ樹脂組成物を含浸した製品を製造する際に用いられるエポキシ樹脂組成物は、溶剤や反応性希釈剤等を含む配合品が用いられる場合が多いが、係る配合品において従来の潜在性硬化剤を用いると貯蔵安定性が極端に低下する。そのため、配合品を実質的に二液性とする必要があり、その改善が求められている。
【0009】
特許文献1〜5の硬化剤も、エポキシ樹脂中に均一分散させる際に、ロール等の装置によりせん断力を受けて表面層が破壊されるため、貯蔵安定性が損なわれるという問題を有している。
【0010】
また、特許文献6〜8の硬化剤では、例えば低温硬化性を向上させるため、マイクロカプセル型潜在性硬化剤の量を増やすことがあるが、エポキシ樹脂中に多量の粉末状アミン化合物を添加する必要がある。しかし、粉末状アミン化合物の量が多くなると、粘度が高くなるため均一なカプセル化反応を行うことが困難となる場合がある。この場合、ロット間の特性のばらつきが大きくなって、製品の不良率が高くなる場合や、カプセル形成の程度が不足して十分な貯蔵安定性が得られなくなる場合がある。一方、低温硬化性を高めるため、エポキシ樹脂との反応性が高い成分をコアの材料として用いると、エポキシ樹脂中で硬化反応が進行して、充分な特性を有する潜在性硬化剤が合成できない場合がある。
【0011】
以上のように、高い硬化性と優れた貯蔵安定性を両立し得る一液性エポキシ樹脂組成物が強く求められている。特に近年、電子材料用途での生産性向上のために、一液性樹脂組成物に対して、硬化性及び貯蔵安定性の更なる向上が求められている。
【0012】
そこで、本発明は、低温硬化性と貯蔵安定性とを高度に両立することが可能なエポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤及びその製造方法、一液性エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、接着剤、接合用フィルム、導電性材料並びに異方導電性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、活性水素基を有する化合物(A)を主成分として含むコア(B)と、当該コア(B)を覆うように設けられており、化合物(A)と反応する官能基を有する化合物(L)、及び、イソシアネート化合物(C)を含むカプセルと、を有する、エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤を提供する。
【0014】
本発明では、コア(B)が活性水素基を有する化合物(A)を含み、カプセルがイソシアネート化合物(C)に加えて、化合物(A)と反応する官能基を有する化合物(L)を含むため、低温硬化性と貯蔵安定性とを高度に両立することができる。
【0015】
カプセルは、活性水素基を有する化合物及び水の少なくとも一方を更に含むことが好ましい。この場合、貯蔵安定性を更に向上させることができる。
【0016】
化合物(A)は、アミンアダクト(A1)であることが好ましい。この場合、低温硬化性と貯蔵安定性とを更に高度に両立することができる。
【0017】
化合物(L)は、エポキシ基を有する化合物(L1)であることが好ましい。
【0018】
コア(B)における化合物(A)以外の成分(G)の含有量は0〜50質量%であることが好ましい。この場合、低温硬化性及び貯蔵安定性を更に高度に両立することができる。
【0019】
また、本発明は、上記エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤の製造方法であって、1気圧での沸点が150℃以下であり、かつ粘度が25℃で1000mPa・s以下である分散媒(H)中で、コア(B)中の化合物(A)と、イソシアネート化合物(C)と、化合物(L)とを反応させることにより、コア(B)を被覆するカプセルを形成する工程と、カプセルを形成した後に分散媒(H)を除去する工程と、を含む、エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤の製造方法を提供する。
【0020】
かかる製造方法によれば、上記エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤を特性のばらつきを抑制しながら得ることができる。
【0021】
上記エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤の製造方法では、分散媒(H)と化合物(L)とを、質量比100:0.001〜100:100で含有することが好ましい。
【0022】
また、本発明は、上記エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤とエポキシ樹脂(I)とを、質量比100:10〜100:50000で含有する、一液性エポキシ樹脂組成物を提供する。本発明では、低温硬化性及び貯蔵安定性を高度に両立することができる。
【0023】
また、本発明は、上記エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤と、エポキシ樹脂(I)と、酸無水物類、フェノール類、ヒドラジド類及びグアニジン類からなる群より選ばれる少なくとも1種の硬化剤(M)とを含有し、エポキシ樹脂(I)100質量部に対する硬化剤(M)の含有量が1〜200質量部であり、エポキシ樹脂(I)100質量部に対する上記エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤の含有量が0.1〜200質量部である、一液性エポキシ樹脂組成物を提供する。この場合、低温硬化性と貯蔵安定性とに優れた一液性エポキシ樹脂組成物や、耐熱性、耐水性に優れた硬化物を得ることができる。
【0024】
上記一液性エポキシ樹脂組成物は、上記エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤と、エポキシ樹脂(I)とを混合した後、化合物(A)の融点又は軟化点以下で加温処理してなることが好ましい。この場合、貯蔵安定性を更に向上させることができる。また、上記一液性エポキシ樹脂組成物は、ペースト状又はフィルム状であってもよい。
【0025】
また、本発明は、上記一液性エポキシ樹脂組成物を加熱により硬化してなる、エポキシ樹脂硬化物を提供する。この場合、低温硬化性と貯蔵安定性とを高度に両立したエポキシ樹脂硬化物を得ることができる。
【0026】
また、本発明は、上記一液性エポキシ樹脂組成物を含有する、接着剤、接合用フィルム、導電性材料及び異方導電性材料を提供する。更に、異方導電性材料は、フィルム状であってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、低温硬化性と貯蔵安定性とを高度に両立することが可能なエポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤及びその製造方法、一液性エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、接着剤、接合用フィルム、導電性材料並びに異方導電性材料を提供することができる。
【0028】
本発明のエポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤及びその製造方法によれば、以下の優れた特性を与える効果が得られる。
(1)エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤を粉末状とすると、目的にあわせたエポキシ樹脂中にエポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤を容易に均一に分散させることができる。
(2)カプセルの含有成分を容易に制御できるため、目的にあわせて良好な低温硬化性や貯蔵安定性を有するエポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤を容易に製造できる。
(3)一液性エポキシ樹脂組成物を容易に製造することができるため、一液性エポキシ樹脂組成物を使用する際の作業性が向上すると共に、一液性エポキシ樹脂組成物により得られる製品の信頼性を向上させることができる。
【0029】
本発明のエポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤、一液性エポキシ樹脂組成物及びエポキシ樹脂硬化物は、上記の効果を生かして広い用途・分野に利用できる。例えば、接着剤用途としては、自動車分野ではヘッドライト、ガソリンタンクの接着、ボンネット等のヘミングランジ部の接着、ボデー及びルーフ部の鋼板の継合わせが挙げられ、電気分野ではスピーカーマグネットの接着、モーターコイルの含浸及び接着、テープヘッド、バッテリーケースの接着、蛍光灯安定器の接着が挙げられ、電子分野ではダイボンディング用接着剤、ICチップ封止剤、チップコート材、チップマウント材、プリント基材の接着剤、フィルム接着剤、異方導電性フィルム、異方導電性ペースト等が挙げられる。塗料用途としては、粉体塗料、及び、特殊な分野としてソルダーレジストインキ、導電性塗料等が挙げられる。また、本発明のエポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤、一液性エポキシ樹脂組成物及びエポキシ樹脂硬化物は、電気絶縁材料、積層構造体等にも利用できる。エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤は、低温硬化性と貯蔵安定性とを両立できるため、電子材料用途等において生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0031】
(エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤)
本実施形態のエポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤(F)(以下、場合により、単に「潜在性硬化剤(F)」と表記する。)は、コア(B)と、コア(B)を覆うように設けられたカプセル(シェル)(E)とを有する。
【0032】
(コア(B))
コア(B)は、活性水素基を有する化合物(A)を主成分として含む。「主成分」とは、通常、含有量が質量比で60〜100%であるものを意味する。コア(B)中の活性水素基を有する化合物(A)の質量比が60%未満では、低温硬化性及び貯蔵安定性のいずれかが低下する傾向がある。
【0033】
化合物(A)としては、反応可能な水酸基、アミノ基、カルボキシル基、アミド基及び活性メチレン基を少なくとも一つ有する化合物等が挙げられ、アミン化合物、アミンアダクト(A1)が好ましく、アミンアダクト(A1)がより好ましい。
【0034】
通常、アミンアダクト(A1)は、エポキシ樹脂(A2)とアミン化合物(A3)とを反応して得られるアミノ基を有する化合物である。エポキシ樹脂(A2)としては、モノエポキシ化合物、多価エポキシ化合物のいずれか又はそれらの混合物が用いられる。
【0035】
モノエポキシ化合物としては、ブチルグリシジルエーテル、ヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、パラ−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、パラキシリルグリシジルエーテル、グリシジルアセテート、グリシジルブチレート、グリシジルヘキソエート、グリシジルベンゾエート等が挙げられる。
【0036】
多価エポキシ化合物としては、多価フェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂、多価アルコールをグリシジル化した脂肪族エーテル型エポキシ樹脂、ヒドロキシカルボン酸をグリシジル化したエーテルエステル型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸をグリシジル化したエステル型エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂等のグリシジル型エポキシ樹脂、及び、脂環族エポキサイドが挙げられる。
【0037】
多価フェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂としては、ビスフェノール類をグリシジル化したビスフェノール型エポキシ樹脂、2価フェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂、トリスフェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂、テトラキスフェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂、及び、ノボラック類をグリシジル化したノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。ビスフェノール類をグリシジル化したビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールAD、テトラメチルビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、テトラクロロビスフェノールA、テトラフルオロビスフェノールAが挙げられる。2価フェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂としては、例えば、ビフェノール、ジヒドキシナフタレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンが挙げられる。トリスフェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂としては、例えば、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、4,4−(1−(4−(1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル)フェニル)エチリデン)ビスフェノールが挙げられる。テトラキスフェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂としては、例えば、1,2,2,−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタンが挙げられる。ノボラック類をグリシジル化したノボラック型エポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールAノボラック、臭素化フェノールノボラック、臭素化ビスフェノールAノボラックが挙げられる。
【0038】
多価アルコールをグリシジル化した脂肪族エーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、グリセリン、ポリエチレングリコールが挙げられる。ヒドロキシカルボン酸をグリシジル化したエーテルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、p−オキシ安息香酸、β−オキシナフトエ酸が挙げられる。ポリカルボン酸をグリシジル化したエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸が挙げられる。アミン型エポキシ樹脂等のグリシジル型エポキシ樹脂としては、例えば、4,4−ジアミノジフェニルメタン、m−アミノフェノール等のアミン化合物のグリシジル化物やトリグリシジルイソシアヌレートが挙げられる。脂環族エポキサイドとしては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートが挙げられる。
【0039】
エポキシ樹脂(A2)としては、一液性エポキシ樹脂組成物(J)の貯蔵安定性を高めることができるため、多価エポキシ化合物が好ましい。多価エポキシ化合物としては、アミンアダクト(A1)の生産性が圧倒的に高いため、グリシジル型エポキシ樹脂が好ましく、硬化物の接着性や耐熱性が優れるため、多価フェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂がより好ましく、ビスフェノール型エポキシ樹脂が更に好ましい。ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールAをグリシジル化したエポキシ樹脂、ビスフェノールFをグリシジル化したエポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールAをグリシジル化したエポキシ樹脂がより好ましい。これらのエポキシ樹脂(A2)は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0040】
アミン化合物(A3)としては、少なくとも1個の一級アミノ基及び/又は二級アミノ基を有するが三級アミノ基を有さない化合物と、少なくとも1個の三級アミノ基及び少なくとも1個の活性水素基を有する化合物とが挙げられる。
【0041】
少なくとも1個の一級アミノ基及び/又は二級アミノ基を有するが三級アミノ基を有さない化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、シクロヘキシルアミン、イソホロンジアミン、アニリン、トルイジン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の三級アミノ基を有さない第一アミン類;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、ピペリジン、ピペリドン、ジフェニルアミン、フェニルメチルアミン、フェニルエチルアミン等の三級アミノ基を有さない第二アミン類が挙げられる。
【0042】
少なくとも1個の三級アミノ基及び少なくとも1個の活性水素基を有する化合物における活性水素基としては、一級アミノ基、二級アミノ基、水酸基、チオール基、カルボン酸、ヒドラジド基が挙げられる。
【0043】
少なくとも1個の三級アミノ基及び少なくとも1個の活性水素基を有する化合物としては、例えば、2−ジメチルアミノエタノール、1−メチル−2−ジメチルアミノエタノール、1−フェノキシメチル−2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、1−ブトキシメチル−2−ジメチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−β−ヒドロキシエチルモルホリン等のアミノアルコール類;2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等のアミノフェノール類;2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル)−2−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル)−2−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類;1−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル)−2−フェニルイミダゾリン、1−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル)−2−メチルイミダゾリン、2−メチルイミダゾリン、2,4−ジメチルイミダゾリン、2−エチルイミダゾリン、2−エチル−4−メチルイミダゾリン、2−ベンジルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、2−(o−トリル)−イミダゾリン、テトラメチレン−ビス−イミダゾリン、1,1,3−トリメチル−1,4−テトラメチレン−ビス−イミダゾリン、1,3,3−トリメチル−1,4−テトラメチレン−ビス−イミダゾリン、1,1,3−トリメチル−1,4−テトラメチレン−ビス−4−メチルイミダゾリン、1,3,3−トリメチル−1,4−テトラメチレン−ビス−4−メチルイミダゾリン、1,2−フェニレン−ビス−イミダゾリン、1,3−フェニレン−ビス−イミダゾリン、1,4−フェニレン−ビス−イミダゾリン、1,4−フェニレン−ビス−4−メチルイミダゾリン等のイミダゾリン類;ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジプロピルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、ジプロピルアミノエチルアミン、ジブチルアミノエチルアミン、N−メチルピペラジン、N−アミノエチルピペラジン、ジエチルアミノエチルピペラジン等の三級アミノアミン類;2−ジメチルアミノエタンチオール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトピリジン、4−メルカプトピリジン等のアミノメルカプタン類;N,N−ジメチルアミノ安息香酸、N,N−ジメチルグリシン、ニコチン酸、イソニコチン酸、ピコリン酸等のアミノカルボン酸類;N,N−ジメチルグリシンヒドラジド、ニコチン酸ヒドラジド、イソニコチン酸ヒドラジド等のアミノヒドラジド類が挙げられる。
【0044】
アミン化合物(A3)としては、貯蔵安定性と低温硬化性とのバランスが優れているため、少なくとも1個の三級アミノ基及び少なくとも1個の活性水素基を有する化合物が好ましく、イミダゾール類がより好ましく、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールが更に好ましい。
【0045】
コア(B)は、化合物(A)以外の成分(G)を任意成分として含んでいてもよい。成分(G)の含有量は、低温硬化性及び貯蔵安定性を更に高度に両立できるため、コア(B)全体を基準として、0〜50質量%が好ましく、0〜40質量%がより好ましい。
【0046】
成分(G)を加えることにより、一液性エポキシ樹脂組成物(J)に所望の特性を付与することができる。成分(G)としては、所望の特性を付与できる化合物であれば特に制限はなく、例えば、硬化温度の低下や硬化時間の短縮が可能である観点では、エポキシ樹脂との反応性が高い化合物や硬化促進剤が挙げられる。また、エポキシ樹脂硬化物(K)に必要となる添加剤を予め成分(G)として、コア(B)中に添加しておいてもよい。成分(G)は、1種を単独で又は2種類以上を併用してもよい。
【0047】
また、別の観点から、成分(G)は、常温(25℃)で固体状の化合物が好ましく、40℃で固体状の化合物がより好ましく、60℃で固体状の化合物が更に好ましい。成分(G)が常温で液体の場合、カプセル化が困難であることや、カプセル化が可能であったとしても一液性エポキシ樹脂組成物(J)とした際の貯蔵安定性が低下する可能性がある。
【0048】
コア(B)の形態は、粉末状であることが好ましい。コア(B)の平均粒径は、0.1〜50μmが好ましく、0.5〜10μmがより好ましく、0.5〜5μmが更に好ましい。平均粒径が0.1μm未満では、低温硬化性及び貯蔵安定性のいずれかが低下する傾向がある。平均粒径を0.1〜50μmの範囲にすることで、均質な硬化物を得ることができる。なお、本明細書における「平均粒径」は、メディアン径を指すものである。平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0049】
また、コア(B)の形状は特に制限はなく、球状、不定形のいずれでもよく、一液性エポキシ樹脂組成物(J)の低粘度化のためには、球状が好ましい。ここで「球状」とは、真球は勿論の事、不定形の角が丸みを帯びた形状をも包含する。
【0050】
コア(B)の製造方法は特に限定されないが、コア(B)中にアミンアダクト(A1)と成分(G)とが均一に存在していることが好ましい。このような分布を実現する方法として、アミンアダクト(A1)と成分(G)とを共に加熱融解して十分混合した後、常温まで冷却し粉砕する方法や、アミンアダクト(A1)又は成分(G)の一方を加熱融解し、それに他方を分散させて均一分散物を形成し、常温まで冷却し粉砕する方法が挙げられる。
【0051】
(カプセル(E))
化合物(A)や成分(G)を含むコア(B)をカプセル化してカプセル(E)とすることで、潜在性硬化剤(F)は貯蔵安定性及び硬化特性を両立することができる。カプセル(E)は、化合物(A)と反応する官能基を有する化合物(L)、及び、イソシアネート化合物(C)を含む。また、カプセル(E)は、貯蔵安定性を更に向上させる観点から、活性水素基を有する化合物及び水の少なくとも一方(以下、「成分(D)」と表記する。)を含むことが好ましい。
【0052】
化合物(L)における化合物(A)と反応する官能基は、エポキシ基、カルボキシル基、スルホ基、ウレア基、イソシアネート基等が挙げられる。化合物(L)としては、カプセルの安定性の観点から、エポキシ基を有する化合物(L1)が好ましい。エポキシ基を有する化合物(L1)としては、例えば、モノエポキシ化合物、多価エポキシ化合物が挙げられ、好ましくはエポキシ樹脂(L2)である。このようなエポキシ樹脂(L2)としては、例えばビスフェノール類をグリシジル化したビスフェノール型エポキシ樹脂などが挙げられる。なお、エポキシ基を有する化合物(L1)としては、上述したエポキシ樹脂(A2)と同様のものを用いることができる。
【0053】
イソシアネート化合物(C)としては、1分子中に1個以上のイソシアネート基を有する化合物であればよく、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物が好ましい。イソシアネート化合物(C)としては、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート、低分子トリイソシアネート、ポリイソシアネート等がより好ましい。
【0054】
脂肪族ジイソシアネートの例としては、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0055】
脂環式ジイソシアネートの例としては、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,4−イソシアナトシクロヘキサン、1,3−ビス(イソシアナトメチル)−シクロヘキサン、1,3−ビス(2−イソシアナトプロピル−2イル)−シクロヘキサン等が挙げられる。
【0056】
芳香族ジイソシアネートの例としては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0057】
低分子トリイソシアネートの例としては、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、2,6−ジイソシアナトヘキサン酸−2−イソシアナトエチル、2,6−ジイソシアナトヘキサン酸−1−メチル−2−イソシアネートエチル等の脂肪族トリイソシアネート化合物、トリシクロヘキシルメタントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート等の脂環式トリイソシアネート化合物、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート等の芳香族トリイソシアネート化合物等が挙げられる。
【0058】
ポリイソシアネートの例としては、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートや上記ジイソシアネート、低分子トリイソシアネートより誘導されるポリイソシアネートが挙げられる。上記ジイソシアネート、低分子トリイソシアネートより誘導されるポリイソシアネートとしては、イソシアヌレート型ポリイソシアネート、ビュレット型ポリイソシアネート、ウレタン型ポリイソシアネート、アロハネート型ポリイソシアネート、カルボジイミド型ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0059】
これらイソシアネート化合物(C)は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0060】
イソシアネート化合物(C)の含有量は、化合物(L)100質量部に対して、0.01〜10000質量部が好ましく、1〜100質量部がより好ましい。
【0061】
コア(B)中の活性水素基を有する化合物(A)と、イソシアネート化合物(C)との反応では、化合物(A)に含まれる活性水素基と、イソシアネート化合物(C)に含まれるイソシアネート基との反応により、コア(B)表面にカプセル(E)の被膜が形成される。そして、このカプセル形成反応を行う際に、化合物(L)が存在することで、カプセル(E)の含有成分内に化合物(L)が取り込まれ、低温硬化性及び貯蔵安定性に優れたカプセル(E)が形成される。更に、この反応中に、成分(D)を存在させることにより、表面被膜が成長し、貯蔵安定性に更に優れたカプセル(E)を有する潜在性硬化剤(F)を製造することができる。
【0062】
成分(D)である活性水素基を有する化合物の活性水素基としては、一級アミノ基、二級アミノ基、水酸基、チオール基、カルボン酸、ヒドラジド基が挙げられる。活性水素基を有する化合物は、1分子中に1個以上の活性水素基を有する化合物であればよく、1分子中に2個以上の活性水素基を有する化合物が好ましく、この場合コア(B)の表面被膜が好適に成長し、更に優れた貯蔵安定性を有する潜在性硬化剤(F)を製造することができる。活性水素基を有する化合物としては、例えばアルコールやアミン化合物、チオール化合物、水などが挙げられる。活性水素基を有する化合物は、1種を単独で又は2種類以上を併用してもよい。
【0063】
また、成分(D)として水を用いることが可能である。水を用いた場合も、活性水素基を有する化合物と同様に、コア(B)の表面被膜が好適に成長し、更に優れた貯蔵安定性を有する潜在性硬化剤(F)を製造することができる。
【0064】
成分(D)の含有量は、化合物(L)100質量部に対して、0.001〜100質量部が好ましく、0.1〜50質量部がより好ましい。
【0065】
(潜在性硬化剤(F)の製造方法)
次に、コア(B)をカプセル(E)によりカプセル化し、潜在性硬化剤(F)を製造する方法について説明する。本実施形態の潜在性硬化剤(F)の製造方法は、コア(B)を被覆するカプセル(E)を形成するカプセル形成工程と、カプセル形成後に分散媒(H)を除去する溶媒除去工程とを含むことが好ましい。
【0066】
カプセル形成工程では、コア(B)、イソシアネート化合物(C)、及び、化合物(L)を反応させることにより、コア(B)を被覆するカプセル(E)が反応性生物として形成される。この場合、成分(D)を更に用いて反応生成物を得ることが好ましい。
【0067】
カプセル形成反応は、分散媒(H)中でコア(B)を分散させた反応液中で行うことが好ましい。分散媒(H)を用いずにエポキシ樹脂中でカプセル形成反応を行うと、未反応のイソシアネート化合物(C)、化合物(D)、副生成物が残存し、貯蔵安定性が低下する傾向がある。カプセル形成反応は、化合物(A)(好ましくはアミンアダクト(A1))の融点又は軟化点以下の温度で行うことが好ましい。
【0068】
分散媒(H)の1気圧での沸点は、150℃以下が好ましく、50〜120℃がより好ましい。分散媒の沸点が150℃を超えると、反応液から分散媒(H)を除去することが困難になる傾向がある。また、分散媒(H)の粘度は、25℃で1000mPa・s以下が好ましく、0.2〜10mPa・sがより好ましい。分散媒(H)の粘度が1000mPa・sを超えると、カプセル化時の粘度が高くなり、均一に反応させることが困難になる傾向がある。更に、分散媒(H)としては、1気圧での沸点が150℃以下であり、かつ、粘度が25℃で1000mPa・s以下である分散媒が好ましい。
【0069】
分散媒(H)としては、コア(B)が溶解しなければ特に限定されないが、活性水素基や、アミンアダクト(A1)と反応するエポキシ基等の置換基を有しない化合物が好ましい。これらの置換基は、カプセル形成反応を阻害する可能性がある。好適な分散媒(H)の具体例としては、シクロヘキサン(沸点80.7℃、粘度0.898mPa・s:25℃)及びヘキサン(沸点69℃、粘度0.299mPa・s:25℃)が挙げられる。
【0070】
分散媒(H)と化合物(L)との含有量の質量比(分散媒(H):化合物(L))は、100:0.001〜100:100が好ましく、100:0.01〜100:50がより好ましい。質量比が100:100を超えると、反応液の粘度が高くなり均一なカプセル化反応を行うことが困難になる傾向がある。
【0071】
カプセル形成工程では、化合物(L)としてエポキシ基を有する化合物(L1)を用いる場合、一液性エポキシ樹脂組成物(J)とするために混合するエポキシ樹脂(I)と同じエポキシ樹脂を選択することが好ましい。この場合、潜在性硬化剤(F)とエポキシ樹脂(I)とを混合するときの分散性が向上し、均一に分散させることができるようになる利点がある。
【0072】
カプセル化処理は、必要であれば2回以上行ってもよい。このとき、少なくとも1回は、コア(B)中の化合物(A)と、イソシアネート化合物(C)と、化合物(L)との反応を行えばよく、これ以外に、化合物(A)と、イソシアネート化合物(C)又は化合物(L)のいずれかとの反応を行ってもよい。これらの反応では、化合物(D)を更に反応させることが好ましい。カプセル化の回数は、製造コストを抑える観点から、5回以下が好ましく、3回以下がより好ましい。
【0073】
カプセル形成工程後の分散媒(H)には、未反応のイソシアネート化合物(C)及び成分(D)、副生成物が残存する場合がある。これらの残存物が残存することで、貯蔵安定性が低下するため、カプセル形成工程後に分散媒(H)を除去することが好ましい。
【0074】
分散媒(H)の除去の方法は、特に制限はないが、分散媒(H)と共に未反応のイソシアネート化合物(C)及び成分(D)、副生成物等の残存物を分散媒(H)と共に除去することが好ましい。このような方法として、ろ過により分散媒(H)を除去する方法が挙げられる。
【0075】
また、分散媒(H)を除去した後、潜在性硬化剤(F)を洗浄することが好ましい。潜在性硬化剤(F)の洗浄により、潜在性硬化剤(F)表面に付着している、未反応の化合物を除去できる。洗浄の方法は特に限定されないが、上記ろ過による残留物の際に、分散媒(H)又は潜在性硬化剤(F)を溶解しない溶媒を用いて洗浄することができる。
【0076】
ろ過や洗浄を行った後に潜在性硬化剤(F)を乾燥することで、潜在性硬化剤(F)を粉末状の形態で得ることができる。乾燥の方法は特に限定されないが、コア(B)の融点又は軟化点以下の温度で乾燥することが好ましく、例えば減圧乾燥が挙げられる。潜在性硬化剤(F)を粉末状にすることで、一液性エポキシ樹脂組成物(J)において、幅広い種類の配合のために容易に適用することができる。
【0077】
(一液性エポキシ樹脂組成物(J))
次に、一液性エポキシ樹脂組成物(マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤組成物)(J)について説明する。一液性エポキシ樹脂組成物(J)は、潜在性硬化剤(F)及びエポキシ樹脂(I)を含有する。
【0078】
潜在性硬化剤(F)とエポキシ樹脂(I)との含有量の質量比(潜在性硬化剤(F):エポキシ樹脂(I))は、100:10〜100:50000が好ましく、100:10〜100:25000がより好ましく、100:50〜100:10000が更に好ましい。
【0079】
一液性エポキシ樹脂組成物(J)に用いられるエポキシ樹脂(I)は、1分子中に平均2個以上のエポキシ基を有するものが好ましい。エポキシ樹脂(I)としては、例えば、多価フェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂、多価アルコールをグリシジル化した脂肪族エーテル型エポキシ樹脂、ヒドロキシカルボン酸をグリシジル化したエーテルエステル型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸をグリシジル化したエステル型エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂等のグリシジル型エポキシ樹脂、及び、脂環族エポキサイドが挙げられる。
【0080】
多価フェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂としては、ビスフェノール類をグリシジル化したビスフェノール型エポキシ樹脂、2価フェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂、トリスフェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂、テトラキスフェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂、及び、ノボラック類をグリシジル化したノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。ビスフェノール類をグリシジル化したビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールAD、テトラメチルビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、テトラクロロビスフェノールA、テトラフルオロビスフェノールAが挙げられる。2価フェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂としては、例えば、ビフェノール、ジヒドキシナフタレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンが挙げられる。トリスフェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂としては、例えば、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、4,4−(1−(4−(1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル)フェニル)エチリデン)ビスフェノールが挙げられる。テトラキスフェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂としては、例えば、1,2,2,−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタンが挙げられる。ノボラック類をグリシジル化したノボラック型エポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールAノボラック、臭素化フェノールノボラック、臭素化ビスフェノールAノボラックが挙げられる。
【0081】
多価アルコールをグリシジル化した脂肪族エーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、グリセリン、ポリエチレングリコールが挙げられる。ヒドロキシカルボン酸をグリシジル化したエーテルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、p−オキシ安息香酸、β−オキシナフトエ酸が挙げられる。ポリカルボン酸をグリシジル化したエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸が挙げられる。アミン型エポキシ樹脂等のグリシジル型エポキシ樹脂としては、例えば、4,4−ジアミノジフェニルメタン、m−アミノフェノール等のアミン化合物のグリシジル化物やトリグリシジルイソシアヌレートが挙げられる。脂環族エポキサイドとしては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートが挙げられる。
【0082】
一液性エポキシ樹脂組成物(J)には、潜在型硬化剤(F)に加えて、酸無水物類、フェノール類、ヒドラジド類及びグアニジン類からなる群より選ばれる少なくとも1種の硬化剤(M)を併用することができる。
【0083】
酸無水物類としては、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸、無水−3−クロロフタル酸、無水−4−クロロフタル酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水コハク酸、無水メチルコハク酸、無水ジメチルコハク酸、無水ジクロールコハク酸、無水メチルナジック酸、無水ドテシルコハク酸、無水クロレンデックク酸、無水マレイン酸等;フェノール類としては、例えば、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールAノボラック等;ヒドラジン類としては、例えば、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドテレフタル酸ジヒドラジド、p−オキシ安息香酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、フェニルアミノプロピオン酸ヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド等;グアニジン類としては、例えば、ジシアンジアミド、メチルグアニジン、エチルグアニジン、プロピルグアニジン、ブチルグアニジン、ジメチルグアニジン、トリメチルグアニジン、フェニルグアニジン、ジフェニルグアニジン、トルイルグアニジン等が挙げられる。
【0084】
これらの中でも、硬化剤(M)としてはグアニジン類及び酸無水物類が好ましく、ジシアンジアミド、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸、無水メチルナジック酸がより好ましい。
【0085】
硬化剤(M)を使用する場合、エポキシ樹脂(I)100質量部に対して、硬化剤(M)の含有量は1〜200質量部が好ましく、潜在性硬化剤(F)の含有量は0.1〜200質量部が好ましい。このような含有量とすることにより、低温硬化性及び貯蔵安定性に優れた一液性エポキシ樹脂組成物(J)が得られ、耐熱性、耐水性に優れたエポキシ樹脂硬化物(K)を得ることができる。
【0086】
また、一液性エポキシ樹脂組成物(J)には、所望によって、増量剤、補強材、充填材、導電微粒子、顔料、有機溶剤、反応性希釈剤、非反応性希釈剤、樹脂類、結晶性アルコール、カップリング剤等を添加することができる。
【0087】
充填材としては、例えば、コールタール、ガラス繊維、アスベスト繊維、ほう素繊維、炭素繊維、セルロース、ポリエチレン粉、ポリプロピレン粉、石英紛、鉱物性ケイ酸塩、雲母、アスベスト粉、スレート粉、カオリン、酸化アルミニウム三水和物、水酸化アルミニウム、チョーク粉、石こう、炭酸カルシウム、三酸化アンチモン、ペントン、シリカ、エアロゾル、リトポン、バライト、二酸化チタン、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、フラーレン、酸化鉄、金、銀、アルミニウム粉、鉄粉、ナノサイズの金属結晶、金属間化合物等を挙げることができ、これらはいずれもその用途に応じて有効に用いられる。
【0088】
導電微粒子としては、例えば、半田粒子、ニッケル粒子、ナノサイズの金属結晶、金属の表面を他の金属で被覆した粒子、銅と銀の傾斜粒子等の金属粒子や、例えば、スチレン樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂等の樹脂粒子を金、ニッケル、銀、銅、半田等の導電性薄膜で被覆した粒子等が挙げられる。
【0089】
有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。
【0090】
反応性希釈剤としては、例えば、ブチルグリシジルエーテル、N,N’−グリシジル−o−トルイジン、フェニルグリシジルエーテル、スチレンオキサイド、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0091】
非反応性希釈剤としては、例えば、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルアジベート、石油系溶剤等が挙げられる。
【0092】
樹脂類としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテル樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂やウレタン変性エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、アルキッド変性エポキシ樹脂等の変性エポキシ樹脂が挙げられる。
【0093】
結晶性アルコールとしては、例えば、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ショ糖、トリメチロールプロパンが挙げられる。
【0094】
一液性エポキシ樹脂組成物(J)は、潜在性硬化剤(F)とエポキシ樹脂(I)とを混合した混合物中で潜在性硬化剤(F)を分散させる工程と、分散した潜在性硬化剤(F)を加熱処理する工程とを備える製造方法により得ることができる。潜在性硬化剤(F)とエポキシ樹脂(I)との混合物をミキサーやロール等を用いて攪拌することにより、潜在性硬化剤(F)をエポキシ樹脂(I)中に分散させることができる。
【0095】
潜在性硬化剤(F)とエポキシ樹脂(I)とを混合した後に加温処理することが好ましい。これにより、エポキシ樹脂硬化物(K)が得られる。本実施形態では、カプセル(E)にエポキシ樹脂(I)が取り込まれ、貯蔵安定性が向上する。加温処理の温度(エポキシ処理温度)は、常温(25℃)より高く、化合物(A)(好ましくはアミンアダクト(A1))の融点又は軟化点以下が好ましい。加温処理の温度が常温以下では、貯蔵安定性の向上効果が小さくなる傾向があり、コア(B)の含有成分の融点又は軟化点より高い温度では、エポキシ樹脂(I)との反応により潜在性硬化剤(F)の特性が低下しやすい傾向がある。処理時間は、生産性が向上する観点から、5分〜120時間が好ましく、2〜72時間がより好ましい。
【0096】
本実施形態の一液性エポキシ樹脂組成物(J)の形態としては、フィルム状(フィルム状組成物)及びペースト状(ペースト状組成物)が挙げられる。一液性エポキシ樹脂組成物(J)は、接着剤及び/又は接合用ペースト、接合用フィルムの他に、導電性材料、異方導電性材料、絶縁材料、封止材、コーティング材、塗料組成物、熱伝導性材料等として有用である。
【0097】
接着剤及び/又は接合用ペースト、接合用フィルムは、液状接着剤やフィルム状接着剤、ダイボンディング材等の接合材料として有用である。
【0098】
接合用フィルムの製造方法としては、例えば、特開昭62−141083号公報や、特開平05−295329号公報に記載された方法がある。具体的には、まず、固形エポキシ樹脂、液状エポキシ樹脂及び固形のウレタン樹脂が50質量%になるようにトルエンに溶解・混合・分散させた溶液を作製する。これに本実施形態の一液性エポキシ樹脂組成物(F)を溶液に対して30質量%添加・分散させてワニスを調製する。
【0099】
次に、このワニスを例えば厚さ50μmの剥離用ポリエチレンテレフタレート基材に、トルエンの乾燥後に厚さ30μmとなるように塗布する。トルエンを乾燥させることにより、常温では不活性であるものの、加熱することにより潜在性硬化剤の作用により接着性を発揮する接合用フィルムを得ることができる。
【0100】
導電性材料の形態としては、フィルム状(導電性フィルム)及びペースト状(導電性ペースト)が挙げられ、異方導電性材料の形態としては、フィルム状(異方導電性フィルム)及びペースト状(異方導電性ペースト)が挙げられる。
【0101】
導電性材料や異方導電性材料の製造方法としては、例えば、特開平01−113480号公報に記載された方法がある。具体的には、前述の接合用フィルムの製造において、ワニスの調製時に導電性材料や異方導電性材料を混合・分散して、剥離用の基材に塗布後、乾燥することにより製造することができる。
【0102】
導電粒子としては、半田粒子、ニッケル粒子、ナノサイズの金属結晶、金属の表面を他の金属で被覆した粒子、銅と銀の傾斜粒子等の金属粒子や、例えば、スチレン樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂等の樹脂粒子に金、ニッケル、銀、銅、半田等の導電性薄膜で被覆を施した粒子等が使用される。
【0103】
一般に導電粒子は、平均粒径1〜20μm程度の球形の微粒子である。フィルムにする場合の基材としては、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン等の基材に塗布後、溶剤を乾燥させる方法等がある。
【0104】
絶縁材料としては、絶縁接着フィルム、絶縁接着ペーストがある。前述の接合用フィルムを用いることで、絶縁材料である絶縁接着フィルムを得ることができる。また、封止材料を用いる他、前述の充填剤のうち、絶縁性の充填剤を配合することで、絶縁接着ペーストを得ることができる。
【実施例】
【0105】
本発明を以下に示す実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0106】
(アミンアダクト粒子(1)の合成)
冷却管、等圧滴下ロート、かくはん装置を備えた3000mlの3口セパラブルフラスコに1−ブタノール及びトルエンを1/1(質量比)で混合した溶液824.2gに2−メチルイミダゾール288gを加え、撹拌しながらオイルバスで80℃に加熱して2−メチルイミダゾールを溶解させた。
【0107】
次いで、1−ブタノール及びトルエン1/1(質量比)溶液300gにビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量173g/eq、加水分解塩素量0.01質量%)946g溶解させた溶液を等圧滴下ロートを用いて90分間で滴下した。滴下終了後、80℃で5時間加熱した。
【0108】
その後、180℃まで昇温し溶媒を留去した。温度を180℃に保ち、装置内を最終的に圧力が10mmHg以下になるまで減圧し、溶媒を留去した。圧力が10mmHg以下になってから、更に2時間減圧下で加熱溶媒留去を行い暗赤褐色の粘調液体を得た。この粘調液体を室温(25℃)まで冷却して暗赤褐色の固体状アミンアダクト(1)を得た。このアミンアダクト(1)をジェットミルで粉砕し、平均粒子径1.96μmのアミンアダクト粒子(1)を得た。
【0109】
(アミンアダクト粒子(2)の合成)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂をビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量160g/eq、加水分解塩素量0.007質量%)874gに変更した以外は、上記アミンアダクト粒子(1)の合成と同様の方法で合成を行い、平均粒子径1.88μmのアミンアダクト粒子(2)を得た。
【0110】
なお、アミンアダクト粒子(1),(2)の平均粒径は、Malvern社製のレーザー回折式粒度分布測定装置(マスターサイザー2000:乾式測定ユニットScirocco2000)を用いて3回測定を行い、50%径(メディアン径)の平均値を平均粒径とした。
【0111】
(実施例1)(マイクロカプセル型潜在性硬化剤(F1))
冷却管、熱電対、撹拌装置を備えた3口セパラブルフラスコにアミンアダクト粒子(1)45.0gとヘキサン170.0gとを加え、40℃に加熱した後、水1.2gを加えた。10分間かくはんした後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート3.0g、YL−980(ジャパンエポキシレジン(株)社製;ビスフェノールA型エポキシ樹脂;エポキシ当量185g/eq)12.0gを加えて40℃で2時間反応させた。
【0112】
次いで、50℃に昇温して8時間反応させた。反応終了後、分散液をろ過、シクロヘキサンで洗浄した。得られた粉末を10mmHg以下の圧力で24時間減圧乾燥し、溶媒を除去しマイクロカプセル型潜在性硬化剤(F1)を得た。
【0113】
(実施例2)(マイクロカプセル型潜在性硬化剤(F2))
冷却管、熱電対、かくはん装置を備えた500mlの3口セパラブルフラスコにアミンアダクト粒子(2)45.0gとシクロヘキサン120.0gとを加え、40℃に加熱した後、水0.2gを加えた。次いで、MR−200(日本ポリウレタン工業(株)社製;ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート)3.0gと、YL−983U(ジャパンエポキシレジン(株)社製;ビスフェノールF型エポキシ樹脂;エポキシ当量170g/eq)18.0gとを加えて40℃で4時間反応させた。
【0114】
更に50℃に昇温して8時間反応させた。反応終了後、分散液をろ過し、50℃に加熱したシクロヘキサンで洗浄した。得られた粉末を10mmHg以下の圧力で24時間減圧乾燥し、溶媒を除去しマイクロカプセル型潜在性硬化剤(F2)を得た。
【0115】
(実施例3)(マイクロカプセル型潜在性硬化剤(F3))
冷却管、熱電対、かくはん装置を備えた500mlの3口セパラブルフラスコにアミンアダクト粒子(1)45.0gとシクロヘキサン170.0gとを加え、40℃に加熱した。次いで、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート2.0gと、YDF−8170C(東都化成(株)社製;ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量160g/eq)8.5gとを加え40℃で2時間加熱した。
【0116】
更に50℃に昇温して6時間反応させた。反応終了後、分散液をろ過、50℃に加熱したトルエンで洗浄した。得られた粉末を10mmHg以下の圧力で48時間減圧乾燥し、溶媒を除去しマイクロカプセル型潜在性硬化剤(F3)を得た。
【0117】
(実施例4)(マイクロカプセル型潜在性硬化剤(F4):マイクロカプセル型潜在性硬化剤(F1)の再カプセル化)
冷却管、熱電対、かくはん装置を備えた500mlの3口セパラブルフラスコにトルエン146.3gと4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート2.5gとを加え、オイルバスで50℃に加熱した。
【0118】
次いで、マイクロカプセル型潜在性硬化剤(F1)を15.0g加え、50℃で3時間反応させた。反応終了後、分散液をろ過、50℃に加熱したトルエンで洗浄した。得られた粉末を10mmHg以下の圧力で24時間減圧乾燥し、溶媒を除去しマイクロカプセル型潜在性硬化剤(F4)を得た。
【0119】
(比較例1)(マイクロカプセル型潜在性硬化剤(F5)
冷却管、熱電対、撹拌装置を備えた3口セパラブルフラスコにアミンアダクト粒子(1)45.0gとシクロヘキサン171.0gとを加え、40℃に加熱した。その後4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート3.0gを加えて40℃で2時間反応させた。次いで、50℃に昇温して6時間反応させた。反応終了後、分散液をろ過、50℃に加熱したシクロヘキサンで洗浄した。得られた粉末を10mmHg以下の圧力で24時間減圧乾燥し、溶媒を除去しマイクロカプセル型潜在性硬化剤(F5)を得た。
【0120】
(実施例5〜7)(一液性エポキシ樹脂組成物(N1)〜(N3))
実施例1〜3で合成したマイクロカプセル型潜在性硬化剤(F1)〜(F3)33gに、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(東都化成株式会社製、商品名:エポトートYDF−8170C、エポキシ当量160g/eq、加水分解塩素量0.007質量%)67gを配合し、一液性エポキシ樹脂組成物(N1)〜(N3)を得た。
【0121】
(実施例8)(一液性エポキシ樹脂組成物(N4))
実施例4で合成したマイクロカプセル型潜在性硬化剤(F4)33gに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成株式会社製、商品名:エポトートYD−8125、エポキシ当量173g/eq、加水分解塩素量0.01質量%)67gを配合し、一液性エポキシ樹脂組成物(N4)を得た。
【0122】
(実施例9)(一液性エポキシ樹脂組成物(N5))
マイクロカプセル型潜在性硬化剤(F3)45gに、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量160g/eq、加水分解塩素量0.007質量%)55gを配合し、一液性エポキシ樹脂組成物(N5)を得た。
【0123】
(実施例10)(一液性エポキシ樹脂組成物(N6))
マイクロカプセル型潜在性硬化剤(F3)35gに、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量160g/eq、加水分解塩素量0.007質量%)25g、レゾルシンジグリシジルエーテル(エポキシ当量117g/eq、加水分解塩素量0.7質量%)を40g配合し、一液性エポキシ樹脂組成物(N6)を得た。
【0124】
(実施例11)(一液性エポキシ樹脂組成物(N7))
冷却管、熱電対、かくはん装置を備えた3口セパラブルフラスコに実施例1で作製したマイクロカプセル型潜在性硬化剤(F1)を33g加え、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量160g/eq、加水分解塩素量0.007質量%)を67g加え、50℃で24時間撹拌し、一液性エポキシ樹脂組成物(N7)を得た。
【0125】
(実施例12)(一液性エポキシ樹脂組成物(N8))
マイクロカプセル型潜在性硬化剤(F1)の代わりに、マイクロカプセル型潜在性硬化剤(F2)を用いた以外は、実施例11と同様の方法で、一液性エポキシ樹脂組成物(N8)を得た。
【0126】
(比較例2)(一液性エポキシ樹脂組成物(N9))
比較例1で合成したマイクロカプセル型潜在性硬化剤(F5)33gに、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量160g/eq、加水分解塩素量0.007質量%)67gを配合し、一液性エポキシ樹脂組成物(N9)を得た。
【0127】
(比較例3)
冷却管、熱電対、撹拌装置を備えた3口セパラブルフラスコにアミンアダクト粒子(1)33gとビスフェノールF型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名:YL−983U、エポキシ当量170g/eq)67gとを加え、40℃に加熱した後、水0.5gを加えた。10分間かくはんした後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート4.0gを加えて40℃で2時間加熱した。次いで50℃に昇温して6時間加熱したところ、フラスコ中で硬化反応が進行し、一液性エポキシ樹脂組成物(N10)が得られなかった。
【0128】
(比較例4)
冷却管、熱電対、撹拌装置を備えた3口セパラブルフラスコにアミンアダクト粒子(1)45gとビスフェノールA型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名:YL−980、エポキシ当量185g/eq)55gとを加え、40℃に加熱した後、水0.5gを加えた。10分間かくはんした後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート4.0gを加えて40℃で2時間加熱した。次いで50℃に昇温して6時間加熱したところ、フラスコ中で硬化反応が進行し、一液性エポキシ樹脂組成物(N11)が得られなかった。
【0129】
(エポキシ樹脂用潜在性硬化剤硬化剤としての特性評価)
実施例5〜12及び比較例2において作製した、一液性エポキシ樹脂組成物(N1)〜(N9)の硬化特性、貯蔵安定性及び耐溶剤性を以下に示す方法で評価した。評価結果を表1,2にまとめた。
【0130】
(硬化特性)
一液性エポキシ樹脂組成物について、Perkin−Elmer社製DSC7示差熱量計を用い、昇温速度10℃/min、測定温度範囲30℃〜300℃、窒素雰囲気で硬化特性を測定した。硬化発熱に由来するピークの極大点の温度が110℃未満ならば「AA」、110℃以上125℃未満ならば「A」、125℃以上135℃未満ならば「B」、135℃以上ならば「C」とした。
【0131】
(貯蔵安定性)
一液性エポキシ樹脂組成物を40℃恒温槽中で保管し、初期及び10日後における一液性エポキシ樹脂組成物の25℃での粘度をE型粘度計を用いて測定した。10日後の初期からの粘度増加率により貯蔵安定性を判断した。粘度測定は、3°(角度)のコーンを用い、粘度が3〜40Pa・sのときは10rpm、粘度が40〜200Pa・sのときは2.5rpm、200〜1000Pa・sのときは0.5rpmの回転数で行った。10日後の粘度増加率が25%以下であれば「AA」、25%超50%以下であれば「A」、50%超100%未満であれば「B」、100%以上であれば「C」とした。
【0132】
(耐溶媒性)
溶媒としてトルエン/酢酸エチル=1/1(質量比)を用い、一液性エポキシ樹脂組成物/溶媒=15g/3.5gの混合物を40℃の水浴中で保持し、そのときの混合物の粘度変化を観察した。流動性が無くなった時間が3時間未満であれば「C」、3時間以上6時間未満であれば「B」、6時間以上10時間未満であれば「A」、10時間以上であれば「AA」とした。
【0133】
【表1】

【0134】
【表2】

【0135】
なお、表1,2中の「BisA1」、「BisA2」、「BisF1」、「BisF2」及び「Res」は下記の物質を示す。
BisA1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量173g/eq、加水分解塩素量0.01質量%)
BisA2:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量185g/eq)
BisF1:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量160g/eq、加水分解塩素量0.007質量%)
BisF2:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量170g/eq)
Res:レゾルシンジグリシジルエーテル(エポキシ当量117g/eq、加水分解塩素量0.7質量%)
【0136】
(実施例13)(導電性ペーストの作製・評価)
100質量部のエポキシ樹脂(大日本インキ株式会社製、商品名:N−730S)に、実施例5で得られた一液性エポキシ樹脂組成物(N1)を30質量部と、平均粒子径が2.1μmの銀粉(三井金属鉱業株式会社製、商品名:SPN10JF)200質量部とを添加し、均一になるまで撹拌後、三本ロールで均一に分散して導電ペーストとした。
【0137】
得られた導電ペーストを、厚さ1.4mmのポリイミドフィルム基板上にスクリーン印刷した後、200℃で1時間、加熱硬化させた。得られた配線板の導電性を測定した結果、導電性ペーストとして有用なものであった。
【0138】
(実施例14)(導電性フィルムの作製・評価)
ポリマーとして、フェノキシ樹脂(東都化成製、商品名:YP−50)/トルエン/酢酸エチルの質量比が40/30/30である溶液100質量部と、エポキシ樹脂(大日本インキ株式会社製、商品名:HP−4032)20質量部と、一液性エポキシ樹脂組成物(N2)を40質量部と、導電性粒子としてNi/Auめっきポリスチレン粒子(平均粒径4μm)10質量部と、その他にシランカップリング剤(商品名:SZ6030、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)10質量部とを混合し導電性接着剤組成物を調製した。
【0139】
得られた導電性接着剤組成物を用いて、厚さ40μmのポリプロピレンフィルム上にキャストして、80℃で60分間、乾燥半硬化させ厚さ35μmの導電性接着剤層を有する導電性フィルムを得た。この導電性フィルムを用い、80℃のヒートブロック上でシリコンウェハー裏面に導電性フィルムの導電性接着剤層を転写させた。
【0140】
更にシリコンウェハーをフルダイシングし、ヒートブロック上で200℃、2分間の条件で導電性接着剤付半導体チップをリードフレームに接着硬化させたところ、チップの導電性の問題がなかった。
【0141】
(実施例15)(異方導電性フィルムの作製・評価)
エポキシ樹脂としてEP1009(ジャパンエポキシレジン社製、商品名)20質量部、一液性エポキシ樹脂組成物(N2)50質量部、平均粒径8μmの導電粒子(金メッキを施した架橋ポリスチレン)5質量部に酢酸エチル(和光純薬製、試薬特級)30質量部を加えて溶かし、接着剤ワニスを得た。
【0142】
この接着剤ワニスを、離型処理した50μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム製のセパレータ上に流延し、次いで酢酸エチルを除去するために乾燥して、平均厚さ20μmの生乾きの異方導電性接着フィルムを得た。
【0143】
ITO(Indium Tin Oxide)ガラス基板に、上記異方導電性接着フィルムを100℃、2kg/cmで5秒間の加熱加圧により貼り付けた。セパレータを剥がした後、50μm×90μmの金バンプを有するベアチップを位置合わせして、200℃、30kg/cmで20秒間加熱加圧して回路接続したところ、電極間が接合して良好に導通しており、異方導電性材料として有用であった。
【0144】
(実施例16)(異方導電性ペーストの作製・評価)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成ケミカルズ製、商品名:AER6091、エポキシ当量480g/eq)50質量部と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成ケミカルズ製、商品名:AER2603)50質量部と、導電粒子としてのミクロパールAu−205(積水化学製、比重2.67)5質量部とを混合後、実施例2で得られたマイクロカプセル型潜在性硬化剤(F2)を30質量部加えて、更に均一に混合させて、異方導電性ペーストを得た。
【0145】
得られた異方導電性ペーストを、ITO電極を有する低アルカリガラス上に塗布した。230℃のセラミックツールで、30秒間、2MPaの圧力にて試験用TAB(Tape Automated Bonding)フィルムと圧着し貼り合わせを行った。隣接するITO電極間の抵抗値を測定したところ、良好な抵抗値が得られ異方導電性ペーストとして有用であった。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明によれば、低温硬化性と極めて高い貯蔵安定性とを両立し、更に電気特性、機械的強度、耐熱性、耐湿性等の性能もバランス良く有する硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物が得られる。本発明のマイクロカプセル型潜在性硬化剤を用いたエポキシ樹脂組成物は、接着剤、封止材、充填材、絶縁材料、導電材料、プリプレグ、フィルム状接着剤、異方導電性フィルム、異方導電性ペースト、絶縁接着フィルム、絶縁接着ペースト、アンダーフィル材、ポッティング材、ダイボンディング材、導電ペースト、ソルダーレジスト等として優れた性能を発揮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性水素基を有する化合物(A)を主成分として含むコア(B)と、
当該コア(B)を覆うように設けられており、前記化合物(A)と反応する官能基を有する化合物(L)、及び、イソシアネート化合物(C)を含むカプセルと、
を有する、エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤。
【請求項2】
前記カプセルが、活性水素基を有する化合物及び水の少なくとも一方を更に含む、請求項1に記載のエポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤。
【請求項3】
前記化合物(A)がアミンアダクト(A1)である、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤。
【請求項4】
前記化合物(L)がエポキシ基を有する化合物(L1)である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤。
【請求項5】
前記コア(B)における前記化合物(A)以外の成分(G)の含有量が0〜50質量%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤の製造方法であって、
1気圧での沸点が150℃以下であり、かつ粘度が25℃で1000mPa・s以下である分散媒(H)中で、前記コア(B)中の化合物(A)と、前記イソシアネート化合物(C)と、前記化合物(L)とを反応させることにより、前記コア(B)を被覆する前記カプセルを形成する工程と、
前記カプセルを形成した後に前記分散媒(H)を除去する工程と、を含む、エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項7】
前記分散媒(H)と前記化合物(L)とを、質量比100:0.001〜100:100で含有する、請求項6に記載のエポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤とエポキシ樹脂(I)とを、質量比100:10〜100:50000で含有する、一液性エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤と、エポキシ樹脂(I)と、酸無水物類、フェノール類、ヒドラジド類及びグアニジン類からなる群より選ばれる少なくとも1種の硬化剤(M)とを含有し、
前記エポキシ樹脂(I)100質量部に対する前記硬化剤(M)の含有量が1〜200質量部であり、
前記エポキシ樹脂(I)100質量部に対する前記エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤の含有量が0.1〜200質量部である、一液性エポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
前記エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤と、前記エポキシ樹脂(I)とを混合した後、前記化合物(A)の融点又は軟化点以下で加温処理してなる、請求項8又は9に記載の一液性エポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
ペースト状又はフィルム状である、請求項8〜10のいずれか一項に記載の一液性エポキシ樹脂組成物。
【請求項12】
請求項8〜10のいずれか一項に記載の一液性エポキシ樹脂組成物を加熱により硬化してなる、エポキシ樹脂硬化物。
【請求項13】
請求項8〜10のいずれか一項に記載の一液性エポキシ樹脂組成物を含有する、接着剤。
【請求項14】
請求項8〜10のいずれか一項に記載の一液性エポキシ樹脂組成物を含有する、接合用フィルム。
【請求項15】
請求項8〜10のいずれか一項に記載の一液性エポキシ樹脂組成物を含有する、導電性材料。
【請求項16】
請求項8〜10のいずれか一項に記載の一液性エポキシ樹脂組成物を含有する、異方導電性材料。
【請求項17】
フィルム状である、請求項16に記載の異方導電性材料。

【公開番号】特開2010−53353(P2010−53353A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175368(P2009−175368)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】