説明

エレベーター装置

【課題】停電が発生した際の乗りかご位置を、絶対値型ロータリーエンコーダに依らず、確実かつ容易に検出することのできるエレベーター装置を提供する。
【解決手段】複数階床をサービスするエレベーターの乗りかご1と、この乗りかご1の走行に応じたパルスを発生するパルス発生装置4と、エレベーター設備の停電時、少なくとも前記パルスを入力して乗りかごの停止位置を予測する停止位置予測演算部とを備えたエレベーター装置において、隣接する3つの階床に夫々対応して設置される形状の異なる3種類の遮蔽板7A,7B,7Cと、前記遮蔽板に対向して当該3種類の形状を識別して検出するかご位置検出器6とを備え、前記エレベーター設備の停電時、前記停止位置予測演算部と前記かご位置検出器6とからのかご位置信号を用いて乗りかご1の位置を確認することで、例え停電時に1階床分のロープ滑りを生じても、高い信頼度で乗りかご位置を検出可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーター装置に係り、特に停電時に乗りかごの位置を確実かつ容易に検出することのできるエレベーター装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数階床をサービスするエレベーターにおいて、乗りかごの位置は、乗りかごの駆動部に設けられたパルス発生装置からのパルス等を計数することで常に高い精度で検出されている。エレベーター設備の停電時であっても、乗りかごの位置検出は極めて大事であり、
例えば特許文献1には、停電時にエレベーターの乗りかご位置を見失わないために、絶対値型ロータリーエンコーダを用いて位置を検出することが記載されている。
【0003】
更に、特許文献2には、停電時に乗りかごの停止位置または停止階を演算する停電位置演算を用いて乗りかご位置を検出する装置が記載され、特許文献3には、遮蔽版と光電式センサを用いて乗りかごが終端階に近接したことを検出する位置検出装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−147847号公報
【特許文献2】特開平11−79585号公報
【特許文献3】特許第4485960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
停電が発生した際、従来から、乗りかごの運転方向データ、乗りかごの速度データ、かご内負荷データ、階床ピッチデータ等から乗りかごの停止位置を予測演算することは知られていたが、停電時の停止動作によってロープ滑り等も生ずることから、前記予測演算のみで乗りかご位置を特定することはできない。
【0006】
そこで、如何なる場合も乗りかご位置を見失わないように、しかも高い信頼度で検出できるように、前記絶対値型ロータリーエンコーダ等を設置せざるを得なかった。
【0007】
本発明の目的は、高価な絶対値型ロータリーエンコーダ等を設置することなく、停電時における乗りかご位置を高い信頼性で容易に検出することのできるエレベーター装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため本発明は、複数階床をサービスするエレベーターの乗りかごと、前記乗りかごの走行に応じたパルスを発生するパルス発生装置と、エレベーター設備の停電時、少なくとも前記パルスを入力して乗りかごの停止位置を予測する停止位置予測演算部とを備えたエレベーター装置において、その特徴とするところは、隣接する3つの階床に夫々対応して設置される形状の異なる3種類の遮蔽板と、前記遮蔽板に対向して当該3種類の形状を識別して検出するかご位置検出器と、前記エレベーター設備の停電時、前記停止位置予測演算部と前記かご位置検出器とからのかご位置信号を用いて前記乗りかごの位置を確認するかご位置確認部とを備えることで、高価な前記絶対値型ロータリーエンコーダ等を不要にしたことにある。
【0009】
前記目的を達成するため本発明では更に、停電時の位置検出器として、3光軸一体型の検出器と3種類の遮蔽板を組合す構成等を提案するが、それらの詳細は以下の発明の実施の形態で明らかにする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、絶対値型ロータリーエンコーダ等の高価な装置を用いなくても、停電時におけるエレベーターの乗りかご位置を確実かつ容易に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例に係るエレベーター装置の全体構成図である。
【図2】図1に示す位置検出器と遮蔽板の要部拡大図である。
【図3】図1に示すかご位置検出装置のブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態を図示する一実施例を参照して説明する。
先ず、図1は本発明の一実施例を示す全体構成図、図2は遮蔽板と位置検出器の要部拡大図である。
【0013】
これらの図において、1および2は昇降路内をロープを介してシーブにつるべ状に吊下ろされている乗りかごおよびカウンタウエイト、3は減速機を介して電動機に連結されるシーブ、4は電動機軸に連結され、乗りかご1の運転方向および移動距離に比例したパルスを発生するパルス発生装置、5は主としてマイクロコンピュータから構成されるかご位置検出装置、6は後述する階床ごとに取り付けられている遮蔽板7A,7B,7Cを検出し、その階床をかご位置検出装置5に出力する3光軸一体型位置検出器、7A,7B,7Cは昇降路内のレールに3階床間に亘って設置され、各階床を識別可能な遮蔽板である。図示するように、この3種の遮蔽板は夫々形状(実施例では長さ)が異なり、かご位置検出器6はこの形状(実施例では長さ)を識別することで、その階床を識別するようにしている。
【0014】
すなわち、かご位置検出器6は、図2に示すように、投光部10A〜10C及び受光部11A〜11Cにより、遮蔽板7A,7B,7Cに対して3つの光軸を形成している。これにより、3光軸の全てを遮蔽(図2(a))、2光軸のみ遮蔽(図2(b))、1光軸のみ遮蔽(図2(c))することを利用して、遮蔽板7A,7B,7Cを識別し、その階床が判別できるようにしている。
【0015】
8は交流電圧を供給する電源、9はかご位置検出装置5に直流の定電圧を供給するための定電圧電源装置、10および11は3光軸一体型位置検出器の投光部と受光部である。
【0016】
図1において、エレベーター装置は、乗りかご1が昇降すると、パルス発生装置4によって乗りかご1の移動距離および移動方向に係わるパルス信号が検出される。検出されたパルス信号はかご位置検出装置5に入力され、ここで所定の演算処理を行い、演算結果の階床とかご位置検出器6で検出した各階床の遮蔽板7A,7B,7Cが同じであるか確認する。
【0017】
また、かご検出装置5には、電源8から定電圧電源装置9に交流電圧が供給される。ここで、定電圧電源装置9は、通常、停電が発生してもすぐには出力電圧である直流定電圧が消失するわけではない。即ち、停電が発生してから所定時間を経過してから直流定電圧が低下し始める。この電源保持時間は、定電圧電源装置9の負荷容量によって異なるが、通常数拾msecから数百msec程度の時間がある。
【0018】
本実施例では、この電源保持時間を利用して、停電時の乗りかごの停止位置および複電後の停止階を演算して予測し、複電後に各階床に設置してある遮蔽板7をかご位置検出器6で検出して正しい階床を検出しようとするものである。
【0019】
次に、かご位置検出装置5の機能およびその動作を図3のブロック図を用いて説明する。図3において、51は電源8が正常である間、常時乗りかご1の位置を演算して、その位置データを後述するかご位置確認部59に出力するかご位置演算部、52は電源8が正常の時はかご位置演算部51から出力されるかご位置データを入力してかご位置確認部59に出力し、停電時は後述する停電時停止位置予測演算部57から出力される乗りかご1の停止位置データを入力してかご位置確認部59に出力するように切換制御する切換部である。
【0020】
53は図示されていないエレベーター速度制御装置等から運転している乗りかご1の上昇または下降方向に関する運転方向データ531を入手し出力する運転方向入力部、54は同じく、前記エレベーター速度制御装置等の装置から運転している乗りかご1の速度データ541を入手し出力する速度入力部、55は各階床間のピッチデータ551を保存する階床ピッチデータ保存部である。
【0021】
56は乗りかご1に設けられ、重量計等によって検出された乗りかご内の負荷データ561を入手し出力するかご内負荷入力部、57はかご位置演算部51から出力されるかご位置データ511、運転方向データ531、速度データ541、階床ピッチデータ551、およびかご内負荷データ561に基づいて、停電時の乗りかご1の停止位置および複電後の停止階を予測演算する停電時停止位置予測演算部である。
【0022】
58は電源8の停電を検出すると切換部52に切換信号を出力する停電検出部、59はかご位置演算部51から出力されるかご位置データとかご位置検出器6で検出した遮蔽板7の階床が同じであるかを確認するかご位置確認部である。なお、その他の構成は図1に示したものと同じであるので、同一符号を付して説明を省略する。
【0023】
電源8が正常に機能している時は、パルス発生装置4から乗りかご1の運転方向および移動距離を検出し、かご位置演算部51に入力する。かご位置演算部51では、検出されたデータに基づいて常時現在の乗りかご1の位置を演算して、その位置データを切換部52を介してかご位置確認部59に出力し、そのデータとかご位置検出器6で検出した遮蔽板7A,7B,7Cの階床が合っているかを確認する。
【0024】
一方、停電時停止位置予測演算部57では、交流電源8が正常に機能している時も、かご位置演算部51から入力する現在のかご位置データ511、運転方向データ531、速度データ541、階床ピッチデータ551、およびかご内負荷データ561に基づいて、常時、停電した時に乗りかご1が停止すると予測される停止位置および複電後の停止階を演算している。
【0025】
電源8が停電すると、停電検出部58は停電を検出して、切換部52のスイッチをかご位置演算部51側から停電時停止位置予測演算部57側に切り換える。停電時停止位置予測演算部57は電源8が正常に機能している時に、常時、停電時の予測停止位置および複電後の停止階を演算しており、停電後、定電圧電源装置9は電源保持時間が数拾msecから数百msec程度あるので、その時間を利用して、停電時停止位置予測演算部57から予測位置データを出力する。
【0026】
この予測位置データは、切換部52を介してかご位置確認部59に入力する。複電後に、乗りかごが階床間に停止していれば最寄階床まで運転した後に、停電時停止位置予測演算部57で予測した停止階がかご位置検出器6で検出した遮蔽板7A,7B,7Cの階床と同じであるか確認する。検出した遮蔽板7A,7B,7Cと停電時停止位置予測演算部57で予測した停止階が一致すれば、その階床を現在の乗りかご位置とする。
【0027】
検出した遮蔽板7A,7B,7Cと停電時停止位置予測演算部57で予測した停止階とが違う場合、停電時停止位置予測演算部57の演算だけでは位置を確定することが出来ない。ロープスリップ等の発生により、停電時停止位置予測演算部57で予測した停止階には誤差が含まれる恐れがあるからである。
【0028】
しかしながら、停電時の停止動作で、ロープスリップが1階床分以上になることは考えられない。すなわち、停電時停止位置予測演算部57で予測した停止階が、2階床を超えるほどの誤差を生じることは考えられない。
【0029】
そこで、予測した階床の遮蔽板7と違う遮蔽板7を検出したときは、その階床の一つ上の階床もしくは一つ下の階床とする。すなわち、検出した遮蔽板7A,7B,7Cが予測した停止階の一つ上の階床に設置してある遮蔽板7A,7B,7Cか、一つ下の階床に設置してある遮蔽板7A,7B,7Cかを判断し、一つ上の階床に設置している遮蔽板7A,7B,7Cであれば予測した停止階の一つ上を現在階床とし、一つ下の階に設置してある遮蔽板7A,7B,7Cであれば予測した停止階の一つ下を現在階床と判断する。
【0030】
このように、一つ上の階床又は一つ下の階床を判断する際に、本発明では隣接する階床間で遮蔽板7の形状が夫々異なることから、判断を誤る可能性は無く、確実に正しい階床を確認することができる。
【符号の説明】
【0031】
1・・・乗りかご
2・・・カウンタウエイト
3・・・シーブ
4・・・パルス発生装置
5・・・かご位置検出装置
6・・・かご位置検出器
7,7A,7B,7C・・・遮蔽板
8・・・交流電源
9・・・定電圧電源装置
10,10A〜10C・・・投光部
11,11A〜11C・・・受光部
51・・・かご位置演算部
52・・・切換部
53・・・運転方向データ入力部
54・・・速度データ入力部
55・・・階床ピッチデータ保存部
56・・・かご内負荷データ入力部
57・・・停電時停止位置予測演算部
58・・・停電検出部
59・・・かご位置確認部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数階床をサービスするエレベーターの乗りかごと、前記乗りかごの走行に応じたパルスを発生するパルス発生装置と、エレベーター設備の停電時、少なくとも前記パルスを入力して乗りかごの停止位置を予測する停止位置予測演算部とを備えたエレベーター装置において、隣接する3つの階床に夫々対応して設置される形状の異なる3種類の遮蔽板と、前記遮蔽板に対向して当該3種類の形状を識別して検出するかご位置検出器と、前記エレベーター設備の停電時、前記停止位置予測演算部と前記かご位置検出器とからのかご位置信号を用いて前記乗りかごの位置を確認するかご位置確認部とを備えることを特徴とするエレベーター装置。
【請求項2】
請求項1記載のエレベ−ター装置において、前記かご位置確認部は、前記エレベーター設備の停電時、前記乗りかごを最寄階へ運転したときの前記停止位置予測演算部と前記かご位置検出器とからのかご位置信号を用いて前記乗りかごの位置を確認することを特徴とするエレベーター装置。
【請求項3】
請求項1記載のエレベ−ター装置において、前記かご位置検出器は、少なくとも3組の受発光素子から成り、該3組の受発光素子で形成される3つの光軸で、前記3種類の遮蔽板の形状を識別して検出することを特徴とするエレベーター装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−176837(P2012−176837A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41435(P2011−41435)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】