説明

エレベータ

【課題】ガイドレールの歪みやずれが生じた場合の補修の要否を精度良く判断する。
【解決手段】地震検出による地震管制運転により乗りかご2が最下階に到着した後、エレベータ制御盤7は、通常運転時より低い速度により乗りかご2を最下階から最上階に向かって運転させる。エレベータ制御盤7は、この運転中において非接触案内装置用制御装置12により検出した4つの非接触案内装置11の電磁石のコイルに流れる電流値を取得する。エレベータ制御盤7は、4つの非接触案内装置11の何れかの装置の電磁石のコイルに流れる電流値が所定値を超える場合は、ガイドレール8の歪みやずれが発生しており、通常運転の再開にはガイドレール8の補修を要すると判断する。乗りかご2が最上階に到着すると、エレベータ制御盤7は、ガイドレール8の補修の要否の判断結果を保守情報として遠隔監視センタに出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗りかごをガイドレールに対して非接触状態で案内するエレベータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエレベータは、ロープに吊り下げられた乗りかごが昇降路内に垂直に設置された一対のガイドレールに沿って昇降するように構成されている。乗りかごには乗りかご内の荷重のアンバランス等により回転モーメントが働くが、ガイドレールによって乗りかごに取り付けられた案内装置を介して乗りかごを支持する。
【0003】
乗りかごの案内装置としては、従来は回転支持型のローラガイドや、ガイドレールに対して摺動するスライディングガイドシュー等が用いられていた。このような接触方式の案内装置では、ガイドレールの継ぎ目やたわみに起因する振動や騒音が案内装置の車輪や摺動部を介して乗りかごに伝達するため、エレベータの乗り心地を損なう要因の一つとなっていた。
【0004】
近年、このような問題を回避するために、例えば特許文献1に開示されるように、電磁石により構成された案内装置を乗りかごに搭載し、鉄製のガイドレールに対して磁気力を作用させて、乗りかごを非接触で案内する方法がある。
【0005】
これは乗りかごの四隅に配置された電磁石がガイドレールを3方向から囲んだ状態で磁石を励磁することで、ガイドレールと案内装置との間の磁気力を制御し、乗りかごをガイドレールに対して非接触に案内することを可能としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−60001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した非接触による案内装置により乗りかごの安全かつ安定した案内を行なうには、ガイドレールは、その長手方向が乗りかごの昇降方向に平行となっている必要があるが、地震の発生になどによりガイドレールの一部分が歪んでしまう場合がある。また、ガイドレールが、複数のパーツを締付部材により締め付けて構成される場合は、地震の発生などにより当該ガイドレールの継ぎ目の締付部分が緩んで、ガイドレールの一部分の長手方向が乗りかごの昇降方向に平行な方向からずれてしまう場合がある。このように、ガイドレールの歪みやずれが発生し、当該歪みやずれの程度が大きくなると、乗りかごの安全かつ安定した案内が行なえなくなってしまう。
【0008】
前述した非接触による案内装置による乗りかごの案内において、巻上機のトルクの変化をもとにガイドレールの歪みやずれの発生を検出してガイドレールの補修の要否を判断する事が考えられる。しかし、巻上機のトルクはガイドレールの歪みやずれの発生以外の原因によって変化する場合がある。また、ガイドレールの歪みが、乗りかごの昇降方向に対する垂直方向寄りの方向の歪みである場合、巻上機のトルクに変化は起きない。これらの事から、巻上機のトルクの変化をもとにガイドレールの歪みやずれを検出して、ガイドレールの補修の要否を精度良く判断することは困難であった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、ガイドレールの歪みやずれが生じた場合の補修の要否を精度良く判断することが可能になるエレベータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明に係わるエレベータは、昇降路内に上下方向に敷設されたガイドレールと、前記ガイドレールに沿って昇降する乗りかごと、前記乗りかごに搭載され、前記ガイドレールと空隙を介して対向する電磁石、および前記空隙において前記電磁石と磁路を共有するように配置されるとともに前記乗りかごを案内するのに必要な起磁力を供給する永久磁石を備えた磁石ユニットと、前記電磁石が前記空隙および前記ガイドレールと形成する磁気回路の前記空隙における状態を検出するセンサ部と、前記センサ部の出力に基づいて前記電磁石の励磁電流を制御して前記磁気回路を安定化させる案内制御手段と、前記電磁石の励磁電流値を検出する電流検出手段と、前記ガイドレールの長手方向が前記乗りかごの昇降方向に対して平行でなくなる事による当該ガイドレールの補修を要するか否かを前記電流検出手段による検出値に基づいて判断する走行可否判断手段と、前記走行可否判断手段による判断結果を出力する出力手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ガイドレールの歪みやずれが生じた場合の補修の要否を精度良く判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態におけるエレベータの構成例を示す図。
【図2】本発明の実施形態における非接触案内装置の構成を示す斜視図。
【図3】本発明の実施形態におけるエレベータの非接触案内装置およびガイドレールの位置関係を示す図。
【図4】本発明の実施形態におけるエレベータの非接触案内装置用制御装置の構成例を示すブロック図。
【図5】本発明の実施形態におけるエレベータのエレベータ制御盤の構成例を示すブロック図。
【図6】本発明の実施形態におけるエレベータのガイドレールの補修の要否の判断処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下図面により本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態におけるエレベータの構成例を示す図である。
このエレベータは巻上機1、乗りかご2、メインロープ3、吊り合い重り(C/W)4、パルスジェネレータ5、そらせシーブ6、エレベータ制御盤7、ガイドレール8、テールコード9、昇降路10、非接触案内装置11、非接触案内装置用制御装置12、荷重センサ13を備える。
【0014】
巻上機1は、このエレベータの機械室に設けられる。乗りかご2は、巻上機1の回転軸に設けられたシーブおよびそらせシーブ6に巻き掛けられたメインロープ3を介して吊り合い重り4と連結される。乗りかご2は、巻上機1の駆動によるシーブの回転に伴い、シーブとメインロープ3の間の摩擦力により吊り合い重り4とともに昇降路10内を互いに上下反対方向に昇降する。
【0015】
また、エレベータ制御盤7は、機械室に設けられ、乗りかご2の運転を制御する。荷重センサ13は、差動トランスやギャップセンサ等で構成され、乗りかご2の下部に設置され、荷重信号算出用の電圧信号をテールコード9を介してエレベータ制御盤7に出力する。非接触案内装置用制御装置12は、乗りかご2の上部に設置され、テールコード9を介してエレベータ制御盤7と接続される。
【0016】
パルスジェネレータ5は巻上機1の回転軸に設置され、巻上機1の軸回転を検出してその回転角度に比例した数のパルス信号を発生する。
エレベータ制御盤7は、パルス信号の積算カウント数と目的階に対応する所定のパルス数とで乗りかご位置を検出出来る。
【0017】
ガイドレール8は鉄製で、昇降路10内に上下方向に敷設される一対の断面T字形のガイドレールである。また、非接触案内装置11は、乗りかご2の上下左右四箇所に取り付けられる。乗りかご2は、メインロープ3にて吊り下げられ、昇降路10内のガイドレール8に非接触案内装置11を介して案内されており、当該昇降路10内を昇降する。
【0018】
図2は、本発明の実施形態における非接触案内装置の構成を示す斜視図である。
図2に示すように、非接触案内装置11は、磁石ユニット11aと、この磁石ユニット11aを支持している台座11bとで構成されている。
非接触案内装置11は、磁石ユニット11aとガイドレール8との間の距離を検出するギャップセンサ14と、永久磁石15と、電磁石16とを有し、非接触案内装置用制御装置12からの各非接触案内装置11に対する制御により、ガイドレール8に対して、各非接触案内装置11の電磁石16の磁力を作用させ、ガイドレール8と各非接触案内装置11の磁石ユニット11aとの間隔を一定以上の間隔に保つように非接触で乗りかご2の案内を行なうものである。
永久磁石15は、ガイドレール8と電磁石16の間の空隙において当該電磁石16と磁路を共有するように配置され、乗りかご2を案内するのに必要な起磁力を供給する。
ギャップセンサ14は、渦電流式等の変位センサで検出原理は特に限定しないが、非接触案内装置11のギャップセンサ14とガイドレール8との間の距離を検出する。
【0019】
非接触案内装置用制御装置12は、ギャップセンサ14での検出結果をもとに、乗りかご2の安定した案内に必要とされる電流を算出する。非接触案内装置11は、この算出された電流を電磁石16のコイルに印加して当該電磁石16のコイルの励磁電流を制御して、乗りかご2の安定した案内を得る。
【0020】
図3は、本発明の実施形態におけるエレベータの非接触案内装置およびガイドレールの位置関係を示す図である。
図3に示すように、磁石ユニット11aは、永久磁石15a,15b、電磁石16a,16b,16cがE字形状に組み立てられてなる。また、図3に示すように、非接触案内装置11のギャップセンサ14は、ギャップセンサ14a,14bでなる。以下、必要に応じて、ギャップセンサ14a,14bを前述したギャップセンサ14と称し、永久磁石15a,15bを前述した永久磁石15と称し、電磁石16a,16b,16cを前述した電磁石16と称する。
【0021】
また、図3に示すように、ガイドレール8は、かごドアの左右方向と平行な平行部分と、当該平行部分の中央からかごドアの前後方向に沿って昇降路10の内側に向かって垂直に延出される突起部とを有する。
【0022】
電磁石16a,16b,16cの長手方向は、かごドアの垂直方向に沿った方向である。電磁石16aの中央部分は昇降路10の壁面を向く突起部を有する。
永久磁石15aは、その一端が電磁石16aの一端に取り付けられ、他端が昇降路10の壁面を向き、かつ、長手方向が電磁石16aの長手方向と垂直になるように取り付けられる。
永久磁石15bは、その一端が電磁石16aの他端に取り付けられ、他端が昇降路10の壁面を向き、かつ、長手方向が永久磁石の15aの長手方向と平行になるように取り付けられる。
【0023】
電磁石16bは、その一端が永久磁石15aの他端に取り付けられ、長手方向が当該永久磁石15aの長手方向と垂直になり、電磁石の16aの長手方向と平行になり、その他端がガイドレール8の突起部を向くように取り付けられる。
電磁石16cは、その一端が永久磁石15bの他端に取り付けられ、長手方向が当該永久磁石15bの長手方向と垂直になり、電磁石の16aの長手方向と平行になり、その他端がガイドレール8の突起部を向くように取り付けられる。
【0024】
これらの電磁石16a,16b,16cは鉄心にコイルが巻きつけられたものである。詳しくは、電磁石16aにおける永久磁石15aとの取り付け部分の近傍に当該電磁石16aの1つ目のコイルが巻きつけられ、電磁石16aにおける永久磁石15bとの取り付け部分の近傍に当該電磁石16bの2つ目のコイルが巻きつけられる。また、電磁石16bにおける電磁石16aの1つ目のコイルに対向する部分に当該電磁石16bのコイルが巻きつけられ、電磁石16cにおける電磁石16aの2つ目のコイルに対向する部分に当該電磁石16cのコイルが巻きつけられる。
【0025】
電磁石16aの突起部の先端には、当該電磁石16aとガイドレール8の突起部との間の、かごドアの左右方向のギャップを検出するためのギャップセンサ14aが取り付けられる。このギャップセンサ14aはガイドレール8の突起部の先端部分に対向する。
また、電磁石16bの他端には、当該電磁石16bとガイドレール8の突起部との間の、かごドアの前後方向のギャップを検出するためのギャップセンサ14bが取り付けられる。このギャップセンサ14bはガイドレール8の突起部に近接する。
【0026】
非接触案内装置用制御装置12は、非接触案内装置11の電磁石16のそれぞれのコイルへの印加電流を制御することで、ガイドレール8に対して、電磁石16bと電磁石16cとが対向する方向、およびこの方向に直交する方向に吸引力を作用させる。
【0027】
図4は、本発明の実施形態におけるエレベータの非接触案内装置用制御装置の構成例を示すブロック図である。
図4に示すように、非接触案内装置用制御装置12は、電流検出器21、演算器22、電力供給部23を有する。
電流検出器21は、非接触案内装置11の電磁石16のコイルに流れる電流値を検出する。具体的には、電流検出器21は検出対象の電流を電圧信号に変換しており、この電圧信号を電磁石16のコイルに流れている電流値として検出する。
【0028】
演算器22は、電流検出器21やギャップセンサ14からの信号に基づいて、乗りかご2を非接触案内させるべく電磁石16のコイルに印加する電流を演算する。電力供給部23は、演算器22の演算結果に基づいて電磁石16のコイルに電力を供給する。非接触案内装置用制御装置12は、この電力の供給により乗りかご2の四隅に設置された磁石ユニット11aの吸引力を制御している。
【0029】
ここで、非接触案内装置用制御装置12は、電磁石16a,16b,16cのコイルの電流をゼロに収束させることで、乗りかご2の重量及び不平衡力の大きさの如何に関わらず、永久磁石15の吸引力だけで乗りかご2を安定に支持する、いわゆるゼロパワー制御を行なっている。
【0030】
ゼロパワー制御による磁気案内系が構成されることにより、乗りかご2がガイドレール8に対して非接触で安定に支持され、定常状態にあるときには、電磁石16のコイルに流れる電流は零に収束し、乗りかご2の安定支持に必要となる力は全て永久磁石15による磁気力でまかなわれることになる。
【0031】
これは、乗りかご2の荷重やバランスが変化した場合でも同様である。すなわち、乗りかご2に何らかの外力が加えられた場合、非接触案内装置11とガイドレール8との間の空隙の大きさを所定の大きさにするために過渡的に電磁石16のコイルに電流が流れることになる。そして、再度安定状態になった際には、前述したゼロパワー制御を用いることにより、電磁石16のコイルに流れる電流は零に収束し、この場合に乗りかご2に加わる荷重と、永久磁石15の磁気力によって発生する吸引力とが釣り合う大きさの空隙が形成される。
【0032】
図5は、本発明の実施形態におけるエレベータのエレベータ制御盤の構成例を示すブロック図である。
図5に示すように、エレベータ制御盤7は、荷重検出部31、運転制御部32、パルス値検出部33、地震検出部34、検出結果取得部35、走行可否判断部36、判断結果出力部37、記憶装置38を有する。
荷重検出部31は、荷重センサ13からの信号をもとに乗りかご2の荷重値を検出する。
運転制御部32は、乗りかご2の運転を制御する。詳しくは、運転制御部32は、呼び登録にしたがった通常運転を行なったり、地震発生時に乗りかご2を最寄階に着床させる地震管制運転を行なったり、この最寄階着床後に、ガイドレール8の補修の要否の判断を目的として、通常運転時より低い速度で乗りかご2を最下階から最上階まで走行させる運転を行なったりする。
【0033】
パルス値検出部33は、パルスジェネレータ5からのパルス信号を積算カウントすることで乗りかご2のかご位置を検出する。
地震検出部34は、エレベータが設置される建物内への地震を検出する。
検出結果取得部35は、非接触案内装置用制御装置12の電流検出器21による検出結果である、電磁石16のコイルの電流値を取得する。
【0034】
走行可否判断部36は、ガイドレール8の長手方向が乗りかご2の昇降方向に対して平行でなくなる事による当該ガイドレール8の補修を要するか否かを、検出結果取得部35による取得結果の大小に基づいて判断する。
判断結果出力部37は、走行可否判断部36による判断結果を図示しない遠隔監視センタに出力する。
記憶装置38は、不揮発性メモリなどの記憶媒体であり、荷重検出部31、運転制御部32、パルス値検出部33、地震検出部34、検出結果取得部35、走行可否判断部36、判断結果出力部37による処理動作のための制御プログラムを記憶する。
【0035】
次に、ここまで説明した構成のエレベータのガイドレール8の歪みやずれに伴う当該ガイドレール8の補修の要否を判断するための動作について説明する。図6は、本発明の実施形態におけるエレベータのガイドレールの補修の要否の判断処理の一例を示すフローチャートである。
初期状態では、エレベータ制御盤7の運転制御部32により通常運転を行なっているとする。この状態で、エレベータ制御盤7の地震検出部34が、エレベータが設置される建物内への所定の大きさ以上の地震を検出した場合(ステップS1)、運転制御部32は、地震管制運転を開始し(ステップS2)、乗りかご2を最寄階の乗り場に着床させる(ステップS3)。
【0036】
そして、荷重検出部31により、荷重センサ13からの信号をもとに乗りかご2の荷重値を検出する(ステップS4)。
エレベータ制御盤7は、乗りかご2の荷重値の検出の結果、乗りかご2内に乗客がいないと認められる場合には(ステップS5のYES)、運転制御部32は、乗りかご2を最下階まで走行させる(ステップS6)。
【0037】
そして、運転制御部32は、ガイドレール8の補修の要否の判断を目的とした、通常運転時より低い速度による、乗りかご2を最下階から最上階に向かった運転を開始させる(ステップS7)。
【0038】
この運転中においては、通常運転中と同様に、非接触案内装置用制御装置12の電流検出器21、演算器22および電力供給部23による、乗りかご2の非接触による案内のための電流制御がなされる。エレベータ制御盤7の検出結果取得部35は、非接触案内装置用制御装置12の電流検出器21による検出結果である、4つの非接触案内装置11の電磁石16のコイルに流れる電流値をそれぞれ取得する(ステップS8)。また、この取得と同じタイミングにおいて、パルス値検出部33は、パルスジェネレータ5からのパルス信号をもとに乗りかご2のかご位置を検出する(ステップS9)。
【0039】
ガイドレール8の歪みやずれが発生していない場合、もしくは歪みやずれが発生していても、その程度が軽微なものである場合、磁石ユニット11aとガイドレール8との間隔の変動幅は一定範囲内に収まる。この場合、乗りかご2の走行時における、非接触案内装置用制御装置12による電流制御による、4つの非接触案内装置11の何れかの装置の電磁石16のコイルに流れる電流値は一定値内に収まる。
【0040】
一方、ガイドレール8の大きな歪みやずれが発生している場合には、磁石ユニット11aとガイドレール8との間隔は歪みやずれが発生していない場合と比較して大幅に変化する。この場合、非接触案内装置用制御装置12による電流制御の結果、4つの非接触案内装置11の何れかの装置の電磁石16のコイルに流れる電流値が大幅に増加して前述した一定値を超える事になる。
【0041】
具体例としては、乗りかご2の左右のガイドレール8の長手方向が乗りかご2の昇降方向に対して左右非対称にずれている場合には、非接触案内装置11の磁石ユニット11aとガイドレール8の間隔が一定間隔となるように、非接触案内装置用制御装置12による電流制御による、4つの非接触案内装置11の何れかの装置の電磁石16のコイルに流れる電流値は大きくなる。また、前述した左右のガイドレール8の長手方向が乗りかご2の昇降方向に対して同じ方向にずれた場合には、このずれが発生している範囲を走行している際、4つの非接触案内装置11の何れかの装置の電磁石16のコイルに流れる電流値は、大幅に増加して前述した一定値を超え、かつ、ずれが発生している範囲を乗りかご2が走行している際は当該電流値が前述した一定値を超えた状態で一定となる。
【0042】
走行可否判断部36は、検出結果取得部35により取得した、4つの非接触案内装置11の何れかの装置の電磁石16のコイルに流れる電流値が記憶装置38に記憶される所定値を超える場合は(ステップS10のYES)、ガイドレール8の歪みやずれが発生しており、非接触による乗りかご2の安全かつ安定した案内が行なえず、かつ、通常運転の再開にはガイドレール8の補修を要すると判断する(ステップS11)。
【0043】
また、走行可否判断部36は、検出結果取得部35により取得した、4つの非接触案内装置11の電磁石16のコイルに流れる電流値が所定値を超えない場合は(ステップS10のNO)、ガイドレール8の歪みやずれが発生していない、もしくは歪みやずれが発生していても、非接触による乗りかご2の安全かつ安定した案内が可能であり、ガイドレール8の補修を行なわなくとも通常運転を再開して乗りかご2を走行させる事が可能であると判断する(ステップS12)。
【0044】
走行可否判断部36は、ガイドレール8の補修の要否の判断結果に、この判断の元となった、検出結果取得部35による電流値の取得タイミングにおいて、パルス値検出部33により検出されたかご位置を、ガイドレール8における補修の要否を示す箇所の情報として付加して記憶装置38に記憶する(ステップS13)。ステップS8からS13までの処理は、乗りかご2が最上階に到着するまで連続的になされる。
【0045】
そして、乗りかご2が最上階に到着すると(ステップS14のYES)、走行可否判断部36は、記憶装置38に記憶された判断結果に、ガイドレール8の補修を要する判断結果が含まれているか否かを判断する(ステップS15)。
【0046】
記憶装置38に記憶された判断結果にガイドレール8の補修を要する判断結果が含まれていない場合(ステップS15のYES)、運転制御部32は、乗りかご2の通常運転を再開する(ステップS16)。
【0047】
ステップS16の処理後、もしくは記憶装置38に記憶された判断結果にガイドレール8の補修を要する判断結果が含まれている場合(ステップS15のNO)、判断結果出力部37は、ガイドレール8の補修の要否を示す判断結果を当該判断結果に付加されたかご位置情報とともに保守情報として遠隔監視センタに出力する(ステップS17)。
【0048】
以上のように、本発明の実施形態におけるエレベータでは、地震が発生した場合に、乗りかご2を最下階と最上階との間で運転し、非接触案内のために電磁石に流れる電流値をもとに、ガイドレール8の補修の要否の判断結果を保守情報として出力することができる。よって、ガイドレール8に歪みやずれが生じたために通常運転の再開にガイドレール8の補修を要する事、および補修を要する位置を判断する事ができるので、ガイドレールの歪みやずれが生じた場合の補修作業を効率良くかつ正確に行なうことができる。また、地震管制運転後の走行時において非接触案内のために電磁石に流れる電流値の変動幅が大幅に増加する場合とは、ガイドレール8と磁石ユニットとの距離が大幅に大きくなる、つまりガイドレール8の大幅な歪みやずれが生じた場合であると特定できるので、従来のような、巻上機のトルクの変化をもとにガイドレール8の歪みやずれの発生を検出する場合と比較して、ガイドレール8の補修の要否を精度良く判断することができる。よって、ガイドレール8の補修の精度を向上させることができる。
【0049】
また、この実施形態では、ガイドレール8の補修を要しないと判断した場合には、通常運転を自動的に再開するので、保守員がエレベータ設置建物に向かう必要なしに、通常のサービスを再開することができる。
【0050】
以上説明した実施形態では、通常運転中に地震が発生した場合に、非接触案内のために電磁石に流れる電流値をもとに、ガイドレール8の補修の要否を判断すると説明したが、これに限らず、エレベータの据付時において、乗りかご2を最下階と最上階の間で走行させ、この走行中において非接触案内のために電磁石に流れる電流値をもとにガイドレール8の補修の要否を判断することもできる。このような判断を行なうことで、エレベータの据付時にガイドレール8を仮組した場合の芯出し誤差の確認作業を容易に行なう事ができるので、芯出し作業の工数を削減することができる。
【0051】
また、前述した実施形態では、地震発生後における最寄階への着床後、乗りかご2内に乗客がいない場合にガイドレール8の補修を要するか否かを判断したが、これに限らず、ガイドレール8の補修を要するか否かを判断するための前述した電流値の所定値を乗りかご2の荷重状態に応じて計算することで、乗りかご2内に荷物などが置かれている場合でもガイドレール8の補修を要するか否かを判断することもできる。
【0052】
なお、この発明は前記実施形態そのままに限定されるものではなく実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、前記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を省略してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…巻上機、2…乗りかご、3…メインロープ、4…吊り合い重り、5…パルスジェネレータ、6…そらせシーブ、7…エレベータ制御盤、8…ガイドレール、9…テールコード、10…昇降路、11…非接触案内装置、11a…磁石ユニット、12…非接触案内装置用制御装置、13…荷重センサ、14…ギャップセンサ、15…永久磁石、16…電磁石、21…電流検出器、22…演算器、23…電力供給部、31…荷重検出部、32…運転制御部、33…パルス値検出部、34…地震検出部、35…検出結果取得部、36…走行可否判断部、37…判断結果出力部、38…記憶装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路内に上下方向に敷設されたガイドレールと、
前記ガイドレールに沿って昇降する乗りかごと、
前記乗りかごに搭載され、前記ガイドレールと空隙を介して対向する電磁石、および前記空隙において前記電磁石と磁路を共有するように配置されるとともに前記乗りかごを案内するのに必要な起磁力を供給する永久磁石を備えた磁石ユニットと、
前記電磁石が前記空隙および前記ガイドレールと形成する磁気回路の前記空隙における状態を検出するセンサ部と、
前記センサ部の出力に基づいて前記電磁石の励磁電流を制御して前記磁気回路を安定化させる案内制御手段と、
前記電磁石の励磁電流値を検出する電流検出手段と、
前記ガイドレールの長手方向が前記乗りかごの昇降方向に対して平行でなくなる事による当該ガイドレールの補修を要するか否かを前記電流検出手段による検出値に基づいて判断する走行可否判断手段と、
前記走行可否判断手段による判断結果を出力する出力手段と、
を備えたことを特徴とするエレベータ。
【請求項2】
地震の発生を検出する地震検出手段と、
前記乗りかごの通常走行中に前記地震検出手段により地震を検出した場合に、当該乗りかごを所定の階床に停止させる地震運転制御手段と、
前記地震運転制御手段による停止後に、前記乗りかごを通常走行時より低い速度で走行させる運転制御手段と、
前記電流検出手段は、前記運転制御手段による前記乗りかごの走行時に前記電磁石の励磁電流値を検出する
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ。
【請求項3】
前記判断手段は、
前記電流検出手段による検出値が所定値を超えた場合に、前記ガイドレールの長手方向が乗りかごの昇降方向に対して平行でなくなる事により当該ガイドレールの補修を要すると判断する
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ。
【請求項4】
前記出力手段は、
前記判断手段により前記ガイドレールの補修を要すると判断した場合に、この判断結果を当該判断の元となる前記電流検出手段による検出時の当該乗りかごの位置情報とともに出力する
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−190096(P2011−190096A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59778(P2010−59778)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】