説明

エンジンのオイル分離装置

【課題】エンジンのオイル分離装置において、仕切り壁部が傾いた状態で相手部材に振動溶着されるのを抑制して、ガス通路空間の所望の広さを確保する。
【解決手段】バッフルプレート21で区画されたシリンダヘッドカバー1の内部上方空間を仕切り壁部Wでオイル分離空間70とオイル分離空間70とともに平面視で略U字状を成すようにオイル分離空間70に連通するガス通路空間72とに仕切る。仕切り壁部Wをシリンダヘッドカバー1及びバッフルプレート21のいずれかに形成する。ガス通路空間72にブローバイガス導入部27を、オイル分離空間70にブローバイガス導出部17を設ける。シリンダヘッドカバー1及びバッフルプレート21を共に樹脂成形品とし、仕切り壁部Wを含め互いに振動溶着する。仕切り壁部Wのオイル分離空間70側及びガス通路空間72側にリブLを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の気筒を一列に並べたエンジンのシリンダヘッドカバー内に設けられ、動弁室内のオイルミストを含むブローバイガスを導入してオイルを分離するとともにブローバイガスを吸気通路のスロットル弁上流に供給可能なエンジンのオイル分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の気筒を一列に並べたエンジンのシリンダヘッドカバー内に設けられ、動弁室内のオイルミストを含むブローバイガスを導入してオイルを分離するとともにブローバイガスを吸気通路のスロットル弁上流に供給可能なエンジンのオイル分離装置が従来技術として知られている。
【0003】
特許文献1のオイルセパレータ(オイル分離装置)においては、樹脂製のシリンダヘッドカバーの天板部に設けられたガス排出口が吸気管路に連通せしめられることにより、吸気管路内の負圧に基づいて、クランクケース内のブローバイガスがガス導入口を通じて、シリンダヘッドカバーにシールゴムを介してボルト締結された樹脂製のケーシング(バッフルプレート)の内部に導入されて、ガス排出口に向かって流通せしめられ、かかるガス排出口から排出されて、吸気管路内に環流されるようになっている。つまり、ケーシングの内部空間全体が、ブローバイガスを流通せしめるガス流路とされている。このガス流路は、ケーシングの内部空間が仕切り壁部で仕切られることにより、Uターンして延びるように形成されている。
【0004】
そして、このオイルセパレータにあっては、ガス導入口からケーシング内(ガス流路内)に導入されたブローバイガスが、ガス流路の整流板よりも上流側部分から、整流板の複数の通孔のみを通じて、整流板よりも下流側部分に進入し、かかる下流側部分内をガス排出口に向かって流通せしめられるようになっている。また、このようなガス流路内でのブローバイガスの流通状態下において、ブローバイガスが、整流板における小径の通孔を通過せしめられることにより流速が増大せしめられた上で、衝突板に衝突せしめられて、そのときに、ブローバイガス中のオイルミストが、衝突板の整流板との対向面に付着せしめられ、さらに、かかる対向面に付着されたオイルミストが凝集されて、液滴とされるようになっている。即ち、所謂慣性衝突方式によって、ブローバイガス中からオイルミストが分離されて、液状のオイルが生成されるようになっている。かかる液状のオイルは、ブローバイガスの流れにより、ケーシングの底部上をオイル出口側に押し流されて、オイル出口から、再びクランクケース内に戻されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−247623号公報(図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のオイルセパレータにおいては、シリンダヘッドカバー及びケーシングを互いにボルト締結しているが、組付け容易性等の観点から、仕切り壁部を含め互いに振動溶着することも考えられる。このように振動溶着を採用した場合、シリンダヘッドカバー及びケーシングの振動溶着時に仕切り壁部が振動で傾き(倒れ)、その状態でシリンダヘッドカバーに振動溶着され、この結果、ガス流路の通路面積が広くなったり狭くなったりするという課題がある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数の気筒を一列に並べたエンジンのシリンダヘッドカバー内に設けられ、動弁室内のオイルミストを含むブローバイガスを導入してオイルを分離するとともにブローバイガスを吸気通路のスロットル弁上流に供給可能なエンジンのオイル分離装置において、仕切り壁部が傾いた状態で相手部材に振動溶着されるのを抑制して、ガス通路空間の所望の広さを確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、複数の気筒を一列に並べたエンジンのシリンダヘッドカバー内に設けられ、動弁室内のオイルミストを含むブローバイガスを導入してオイルを分離するとともにブローバイガスを吸気通路のスロットル弁上流に供給可能なエンジンのオイル分離装置であって、上記シリンダヘッドカバーは、バッフルプレートで上記エンジンのシリンダ軸線方向上下に区画されており、上記バッフルプレートで区画された上記シリンダヘッドカバーの内部上方空間は、気筒列方向に延びる仕切り壁部で、気筒列方向に延びるオイル分離空間と、平面視で該オイル分離空間とともに略U字状を成すように気筒列方向に延びて該オイル分離空間に連通するガス通路空間とに仕切られており、上記仕切り壁部は、上記シリンダヘッドカバー及び上記バッフルプレートのいずれかに形成されており、上記ガス通路空間にはブローバイガス導入部が設けられる一方、上記オイル分離空間にはブローバイガス導出部が設けられており、上記シリンダヘッドカバー及び上記バッフルプレートは共に樹脂成形品であって、上記仕切り壁部を含め互いに振動溶着されており、上記仕切り壁部の上記オイル分離空間側及び上記ガス通路空間側には、気筒列方向と直交する方向に延びるリブが少なくとも1つずつ形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
これによれば、仕切り壁部のオイル分離空間側及びガス通路空間側に、気筒列方向と直交する方向に延びるリブを少なくとも1つずつ形成しているので、シリンダヘッドカバー及びバッフルプレートの振動溶着時に仕切り壁部が傾くのを抑制することができ、仕切り壁部が傾いた状態で相手部材に振動溶着されるのを抑制することができる。したがって、オイル分離空間及びガス通路空間の通路面積の所望の広さを確保することができる。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記リブは、上記ブローバイガスが衝突する邪魔板を兼ねていることを特徴とするものである。
【0011】
これによれば、リブは、ブローバイガスが衝突する邪魔板を兼ねているので、オイル分離性能を高めることができる。
【0012】
第3の発明は、上記第1又は2の発明において、上記仕切り壁部と上記リブと上記内部上方空間を区画する縦壁部とは、上記シリンダヘッドカバーに一体に形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
これによれば、仕切り壁部とリブとシリンダヘッドカバーの内部上方空間を区画する縦壁部とをシリンダヘッドカバーに一体に形成しているので、仕切り壁部、リブ及び縦壁部をシリンダヘッドカバー用の金型で一度に製造することができ、バッフルプレートの製造コスト上昇を抑制することができる。
【0014】
第4の発明は、上記第1〜3のいずれか1つの発明において、上記仕切り壁部の溶着代は、上記シリンダヘッドカバー及び上記バッフルプレートのうち上記仕切り壁部が形成されたものに形成された、上記内部上方空間を区画する縦壁部の溶着代よりも大きく設定されていることを特徴とするものである。
【0015】
これによれば、仕切り壁部の溶着代をシリンダヘッドカバーの内部上方空間を区画する縦壁部の溶着代よりも大きく設定しているので、シリンダヘッドカバー及びバッフルプレートの振動溶着時に加圧力が作用しにくい仕切り壁部を相手部材に確実に振動溶着することができる。
【0016】
第5の発明は、上記第1〜4のいずれか1つの発明において、上記ブローバイガス導入部は、上記ガス通路空間における上記オイル分離空間に連通する側とは反対側に設けられており、上記バッフルプレートにおける上記ガス通路空間に臨む部分には、上記ブローバイガス導入部側に向かって下り傾斜する傾斜部が形成されていることを特徴とするものである。
【0017】
これによれば、バッフルプレートにおけるガス通路空間に臨む部分に、ブローバイガス導入部側に向かって下り傾斜する傾斜部を形成しているので、ガス通路空間に流れてきた分離されたオイルをブローバイガス導入部へ容易に流すことができ、分離されたオイルを動弁室へ容易に戻すことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、シリンダヘッドカバー及びバッフルプレートの振動溶着時に仕切り壁部が傾くのを抑制することができ、仕切り壁部が傾いた状態で相手部材に振動溶着されるのを抑制することができ、オイル分離空間及びガス通路空間の通路面積の所望の広さを確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジンをエンジン吸気マニホールド側から示す概略正面図である。
【図2】シリンダヘッドカバーの平面図である。
【図3】図2のIII−III線矢視断面図である。
【図4】バッフルプレートを組付けたシリンダヘッドカバーの下面図である。
【図5】図4のV−V線矢視断面図である。
【図6】図4のVI−VI線矢視断面図である。
【図7】図4のVII−VII線矢視断面図である。
【図8】図4のVIII−VIII線矢視断面図である。
【図9】バッフルプレートを組付ける前のシリンダヘッドカバーの下面図である。
【図10】バッフルプレートの平面図である。
【図11】図10のXI−XI線矢視断面図である。
【図12】バッフルプレートの側面図である。
【図13】エンジンの前後方向視概略断面を示す図(エンジン内のブローバイガスの流れを示す図)である。
【図14】シリンダヘッドカバーの図5相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
まず、本発明の実施形態に係るエンジンの概略について、エンジン吸気マニホールド側からのエンジンの概略正面図である図1を用いて説明する。エンジンENGは、複数(本実施形態では4つ)の気筒(不図示)が車幅方向に一列に並ぶように車両エンジンルーム内に配設される、所謂、横置きエンジンとされるとともに、複数の気筒が配列して設けられたシリンダブロックCBと、シリンダブロックCBの下部に設けられたオイルパンOPと、シリンダブロックCB上面部にガスケット(不図示)を介して組付けられたシリンダヘッドHと、シリンダヘッドHの上面周縁部H1に組付けられたシリンダヘッドカバー1を備えた構造とされている。
【0022】
また、エンジンENGの車両前方側には吸気マニホールドIMが配設されている。この吸気マニホールドIMは、シリンダヘッドHの車両前方側の面部に固定される複数の吸気マニホールド分岐管IM1、IM2、IM3、及びIM4と、これらマニホールド分岐管IM1他を束ねるように下方及び車両前方に膨出した形状を成すサージタンク部STと、サージタンク部STからエンジン上後方に向かって延びる上流管UPとを備え、さらに上流管UPのエンジン後方側端部には、その内部にスロットルバルブSVを有するスロットルボディSBが組付けられている。
【0023】
さらに、スロットルボディSBの上流側には、吸気ダクトであるフレキシブルなチューブで形成されているスロットル上流管FPが連結され、このスロットル上流管FPよりも吸気上流側にはエアクリーナボックス(不図示)が連結されている。
【0024】
さらにまた、シリンダヘッドカバー1の車両後方側からはブローバイガスがその内部を流れるパイプ部材BPが設けられて車両前方側に向かって延びた後、スロットル上流管FPに連結されて、連通口BPHが形成されている。
【0025】
次に、シリンダヘッドカバーの構造について図2〜図12に基づいて説明する。
【0026】
ここで、図2は、シリンダヘッドカバーの平面図、図3は、図2のIII−III線矢視断面図、図4は、バッフルプレートを組付けたシリンダヘッドカバーの下面図、図5は、図4のV−V線矢視断面図、図6は、図4のVI−VI線矢視断面図、図7は、図4のVII−VII線矢視断面図、図8は、図4のVIII−VIII線矢視断面図、図9は、バッフルプレートを組付ける前のシリンダヘッドカバーの下面図、図10は、バッフルプレートの平面図、図11は、図10のXI−XI線矢視断面図、図12は、バッフルプレートの側面図である。
【0027】
図2に示すように、シリンダヘッドカバー1は、車両前後方向幅よりもエンジン前後方向(気筒列方向)幅の方が長く、且つエンジン前方部側の車両前後方向幅は他の部分より少し長い形状とされている。そしてこの外周形状はシリンダヘッドの上部周縁部H1と略同形状とされている。
【0028】
即ち、シリンダヘッドカバー1は、シリンダヘッドの上部周縁部H1と略同形状の周縁部11を下部周囲に備え、エンジン排気側の周縁部11からは縦壁部7aが立設され、縦壁部7aの上端は、エンジンENGの前後方向視で上方に湾曲した排気側天井壁部7に繋がり、エンジン前方側の周縁部11からは縦壁部3aが立設され、その上端はエンジン前方側天井壁部3に繋がり、エンジン吸気側の周縁部11は吸気側天井壁部5に繋がっている。なお、本実施の形態におけるエンジンENGは、シリンダヘッドの車両後方側端面に排気マニホールド(不図示)を備える構造であり、したがって、排気側天井壁部7は排気バルブ駆動用カムシャフト(不図示)の上方に配設され、吸気側天井壁部5は吸気バルブ駆動用カムシャフト(不図示)の上方に配設されている。
【0029】
また、エンジン後方側の周縁部11からは排気側天井壁部7に繋がる縦壁部7bが立設されている。
【0030】
排気側天井壁部7と吸気側天井壁部5との間はシリンダヘッド側に窪んでおり、排気側天井壁部7のエンジン吸気側端部からは縦壁部7cが垂下している。
【0031】
また、エンジン前方側天井壁部3と排気側天井壁部7との間はシリンダヘッド側に窪んでおり、排気側天井壁部7のエンジン前方側端部からは縦壁部7dが垂下している。
【0032】
排気側天井壁部7のエンジン後方側にはブローバイガス出口管(ブローバイガス導出部)17と接続される出口管接続部7eが設けられている。このブローバイガス出口管17はオイル分離空間70に設けられている。ブローバイガス出口管17のエンジン吸気側端部には、図1で説明したパイプ部材BPの一端が連結される。
【0033】
また、周縁部11には複数の締結部13が設けられている。これら締結部13はボルト挿通孔(符号なし)が形成されており、シリンダヘッドカバー1はシリンダヘッドHに対して複数箇所のボルトで組付けられる。
【0034】
なお、排気側天井壁部7の高さは吸気側天井壁部5の高さよりも高く形成され、さらに排気側天井壁部7のエンジン排気側(オイル分離空間70側)の高さはエンジン吸気側(ガス通路空間72側)の高さよりも高く形成されている。
【0035】
以上、シリンダヘッドカバー1の外観について説明したが、このシリンダヘッドカバー1は、例えば金型で一体的に形成された樹脂成形品とされる。
【0036】
次に、図3〜図9に基づいて、バッフルプレートを組付けたシリンダヘッドカバー1の裏面構造について説明する。
【0037】
シリンダヘッドカバー1の排気側天井壁部7の縦壁部7c寄りからは、エンジン前後方向(気筒列方向)に延びる仕切り壁部W(以下、中間仕切り壁部W)が動弁室75(図13参照)側に向かって一体に延設されている。
【0038】
この中間仕切り壁部Wは、排気側天井壁部7に繋がっている縦壁部7bと連結するように一体に形成され、中間仕切り壁部Wと縦壁部7aとの間には隙間が形成されている。
【0039】
さらに、中間仕切り壁部Wは、排気側天井壁部7から縦壁部7aと縦壁部7cの上下方向略中間部まで延びて、底面部(先端面部)を有している。この底面部には、エンジン前後方向に長尺なバッフルプレート21が当接、振動溶着されている。
【0040】
また、排気側天井壁部7の中間仕切り壁部Wよりもエンジン排気側からは、エンジン前後方向に配列した複数(本実施形態では2つ)の仕切り壁部W1(以下、第1仕切り壁部W1)、W2(以下、第2仕切り壁部W2)が動弁室75側(下方側)に向かって一体に延設されている。
【0041】
これら第1仕切り壁部W1と第2仕切り壁部W2は、夫々、排気側天井壁部7に繋がっている縦壁部7a及び中間仕切り壁部Wを連結するように一体に形成され、且つ縦壁部7aとの連結部は、中間仕切り壁部Wとの連結部よりもエンジン前方側に設けられている。なお、第1仕切り壁部W1と第2仕切り壁部W2とは同じ構造を有している。
【0042】
さらに、第1仕切り壁部W1と第2仕切り壁部W2は、排気側天井壁部7から縦壁部7aと縦壁部7cの上下方向略中間部まで延びて、底面部(先端面部)を有している。この底面部には、エンジン前後方向に長尺なバッフルプレート21が当接、振動溶着されている。
【0043】
ここで、このバッフルプレート21の構造を、図10〜図12に基づいて説明する。
【0044】
バッフルプレート21のエンジン吸気側の周縁部には、前後方向やや後方部(ガス通路空間72のオイル分離空間70に連通する側とは反対側)において切欠き部25が形成され、切欠き部25のプレート内方端からは、動弁室75側に突出して形成されたブローバイガス導入部27が設けられている。
【0045】
このブローバイガス導入部27はガス通路空間72に設けられていて、立設面部29を三面を備えるとともに一面が開口されてなる。したがって、オイルミストを含むブローバイガスは、動弁室75側から立設面部29の三面で囲まれた空間部及び切欠き部25を通ってガス通路空間72側に流れる。
【0046】
バッフルプレート21のエンジン吸気側(ガス通路空間72に臨む部分)には、凹部31(傾斜部)が動弁室75側に窪んで形成され、その底面は、バッフルプレート21の前端部からブローバイガス導入部27側に向かって下り傾斜している。凹部31の後端はブローバイガス導入部27に開口している。
【0047】
バッフルプレート21は、例えば金型で一体的に形成された樹脂成形品とされる。
【0048】
そして、シリンダヘッドカバー1における縦壁部7a、7b、7c及び7d、中間仕切り壁部W、第1仕切り壁部W1並びに第2仕切り壁部W2にバッフルプレート21を当接させ、シリンダヘッドカバー1における縦壁部7a、7b、7c及び7d、中間仕切り壁部W、第1仕切り壁部W1並びに第2仕切り壁部W2にバッフルプレート21が振動溶着される。詳細には、図3、図5〜図8、図10に示すように、シリンダヘッドカバー1における縦壁部7a、7b、7c及び7dに形成された段部7fにバッフルプレート21の周縁部23が設置され振動溶着される構造となっている。つまり、段部7fは、バッフルプレート21の周縁部23、及び周縁部23における切欠き部25に対面するようにシリンダヘッドカバー1に形成されているものである。なお、振動溶着は既知のものであるため説明を簡略するが、シリンダヘッドカバー1及びバッフルプレート21を当接、加圧して、その状態で超音波振動させることにより行われる。
【0049】
また、図9に示すように、シリンダヘッドカバー1における縦壁部7a、7b、7c及び7dの段部7f並びに中間仕切り壁部W、第1仕切り壁部W1及び第2仕切り壁部W2の底面部には、夫々、動弁室75側に向かって突出して形成された溶着代(溶着ビード)PJが設けられている。図14に示すように、中間仕切り壁部Wの溶着代PJは、縦壁部7a、7b、7c及び7dの溶着代PJよりも幅及び/又は高さが大きく設定されている。
【0050】
以上のように、バッフルプレート21をシリンダヘッドカバー1の段部7f、中間仕切り壁部W、第1仕切り壁部W1及び第2仕切り壁部W2に当接させて振動溶着すると、排気側天井壁部7とバッフルプレート21とでその上下が挟まれた、シリンダヘッドカバー1の内部上方空間が形成されることになり、さらにシリンダヘッドカバー1の内部上方空間は、中間仕切り壁部Wで、気筒列方向に延びるオイル分離空間70と、平面視でオイル分離空間70とともに略U字状を成すように気筒列方向に延びてオイル分離空間70に連通するガス通路空間72とに仕切られた構造となり(即ち、オイル分離空間70及びガス通路空間72は、全体として、平面視で略U字状を成している)、さらにまたオイル分離空間70は、エンジン前方側から3つの室に仕切られた構造となる。
【0051】
これら3つの室はエンジン前方側から、第1オイル分離室P1、第2オイル分離室P2、第3オイル分離室P3とされる。
【0052】
第1オイル分離室P1は、シリンダヘッドカバー1のエンジン前方側の段部7fから、第1仕切り壁部W1までの範囲において、排気側天井壁部7と縦壁部7aと縦壁部7dと中間仕切り壁部Wとバッフルプレート21とで仕切られた空間である。
【0053】
第1オイル分離室P1とガス通路空間72とは、縦壁部7aと中間仕切り壁部Wとの間に形成された隙間により連通し、オイルミストを含むブローバイガスがガス通路空間72から第1オイル分離室P1に導入される構造となっている。
【0054】
第2オイル分離室P2は、第1仕切り壁部W1から第2仕切り壁部W2までの範囲において、排気側天井壁部7と縦壁部7aと中間仕切り壁部Wとバッフルプレート21とで仕切られた空間である。
【0055】
オイルミストを含むブローバイガスは、第1仕切り壁部W1の近傍に形成された連通路41(図8他参照、詳細後述)を通って導入され、この第2オイル分離室P2内部においてオイルがさらに一部分離される。
【0056】
第3オイル分離室P3は、第2仕切り壁部W2からシリンダヘッドカバー1のエンジン後方側の段部7fまでの範囲において、排気側天井壁部7と縦壁部7aと縦壁部7bと中間仕切り壁部Wとバッフルプレート21とで仕切られた空間である。
【0057】
第2オイル分離室P2で一部のオイルミストが除去されたブローバイガスは、第2仕切り壁部W2の近傍に形成された連通路41(第1仕切り壁部W1の近傍に形成された連通路41と同じ構造であり、図8他参照)を通って導入され、この第3オイル分離室P3内部においてオイルがほぼ完全に分離され、ブローバイガスは、ブローバイガス出口管17から排出される。
【0058】
ガス通路空間72は、排気側天井壁部7と縦壁部7b、7c及び7dと中間仕切り壁部Wとバッフルプレート21とで仕切られた空間であって、オイル分離空間70よりも短い車両前後方向幅を有している。
【0059】
ガス通路空間72と動弁室75とは、切欠き部25により連通し、オイルミストを含むブローバイガスが動弁室75からガス通路空間72に導入される構造となっている。また、ブローバイガス導入部27は、ガス通路空間72に溜まったオイルを動弁室75に落下させる機能も同時に併せ持っている。
【0060】
また、排気側天井壁部7の中間仕切り壁部Wよりもエンジン排気側(オイル分離空間70側)からは、エンジン前後方向に配列した、シリンダヘッドカバー1及びバッフルプレート21の振動溶着時における中間仕切り壁部Wの傾き(倒れ)防止用の複数(本実施形態では4つ)のリブL1(以下、第1リブL1)、L2(以下、第2リブL2)、L3(以下、第3リブL3)、L4(以下、第4リブL4)が車両前後方向(気筒列方向と直交する方向)に延びるように動弁室75側に向かって一体に延設されている。リブL1、L2及びL3は第1仕切り壁部W1と第2仕切り壁部W2との間に配置される一方、リブL4は第2仕切り壁部W2のエンジン後方側に配置されている。
【0061】
これらリブL1、L2、L3及びL4は、夫々、排気側天井壁部7に繋がっている縦壁部7a及び中間仕切り壁部Wを連結するように一体に形成されている。なお、第1リブL1と第4リブL4とは略同じ構造を有している。
【0062】
また、リブL1、L2、L3及びL4は、排気側天井壁部7から中間仕切り壁部Wの下端近傍まで延び、リブL1、L2、L3及びL4とバッフルプレート21との間には、夫々、隙間が形成されている。第3リブL3とバッフルプレート21との間に形成された隙間は略長方形状とされており、その高さは、第1リブL1及び第2リブL2とバッフルプレート21との間に形成された隙間の高さよりも高く形成されている。
【0063】
第1リブL1の下部のエンジン吸気側には、略台形状の切欠き部N1が形成されている。第2リブL2の下部のエンジン排気側には、略台形状の切欠き部N2が形成されている。
【0064】
以上のように、リブL1、L2、L3及びL4を設けることにより、オイル分離空間70内部に迷路状の通路を形成している。
【0065】
また、排気側天井壁部7のエンジン吸気側(ガス通路空間72側)からは、エンジン前後方向に配列した複数(本実施形態では8つ)のリブL5(以下、第5リブL5)、L6(以下、第6リブL6)、L7(以下、第7リブL7)、L8(以下、第8リブL8)、L9(以下、第9リブL9)、L10(以下、第10リブL10)、L11(以下、第11リブL11)、L12(以下、第12リブL12)が車両前後方向(気筒列方向と直交する方向)に延びるように動弁室75側に向かって一体に延設されている。リブL5、L6、L8、L10、L11及びL12は、シリンダヘッドカバー1及びバッフルプレート21の振動溶着時における中間仕切り壁部Wの傾き(倒れ)防止用のものである。
【0066】
リブL5及びL10は、夫々、排気側天井壁部7に繋がっている縦壁部7c及び中間仕切り壁部Wを連結するように一体に形成されている。
【0067】
リブL7及びL9は、夫々、排気側天井壁部7に繋がっている縦壁部7aと連結するように一体に形成されている。なお、第7リブL7と第9リブL9とは同じ構造を有している。
【0068】
リブL6、L8、L11及びL12は、夫々、排気側天井壁部7に繋がっている中間仕切り壁部Wと連結するように一体に形成されている。なお、第6リブL6と第8リブL8と第12リブL12とは同じ構造を有しており、第11リブL11と第5リブL5とは同じ構造を有している。
【0069】
さらに、リブL5、L10及びL11は、排気側天井壁部7から中間仕切り壁部Wの上下方向略中間部まで延びる一方、リブL6、L7、L8、L9及びL12は、排気側天井壁部7から中間仕切り壁部Wの下端近傍まで延び、リブL6、L7、L8、L9及びL12とバッフルプレート21との間には、夫々、隙間が形成されている。
【0070】
リブL5及びL11は略三角形状とされている。リブL6、L8及びL12は略帯状とされており、中間仕切り壁部Wから、中間仕切り壁部Wと縦壁部7cとの間の車両前後方向略中間部まで延びている。リブL7及びL9は略帯状とされており、縦壁部7cから、縦壁部7cと中間仕切り壁部Wとの間の車両前後方向略中間部まで延びている。リブL10は略台形状とされている。
【0071】
以上のように、リブL5、L6、L7、L8、L9、L10、L11及びL12を配設することにより、ガス通路空間72内部に迷路状の通路を形成している。
【0072】
次に、第1仕切り壁部W1の近傍の構造について、図8〜図12に基づいて説明する。なお、第2仕切り壁部W2の近傍の構造は、第1仕切り壁部W1の近傍と同じ構造であるため説明を省略する。また、第1仕切り壁部W1の近傍の構造は、特開2005−163631号公報等に記載されたものと似た構造であるため説明を簡略する。
【0073】
バッフルプレート21のエンジン排気側(オイル分離空間70側)には、上方に向かって突出して形成された突出部33が設けられている。この突出部33は、エンジン前後方向に延びる天井面部33aと、天井面部33aのエンジン前方側の端部からエンジン排気側に向かって下り傾斜する前方傾斜面部33bと、天井面部33aのエンジン後方側の端部からエンジン吸気側に向かって下り傾斜する後方傾斜面部33cとを有している。天井面部33a、傾斜面部33b及び傾斜面部33cには、第1仕切り壁部W1の底面部が振動溶着されている。つまり、第1仕切り壁部W1の底面部の形状は天井面部33a、傾斜面部33b及び傾斜面部33cと適合した形状とされている。
【0074】
突出部33のエンジン前後方向略中間部には、エンジン排気側に向かって下り傾斜する連通路41が形成されている。この連通路41は、第1オイル分離室P1に臨む開口41bを有し、そしてバッフルプレート21のエンジン排気側端部に動弁室75側に向かって窪んで形成された凹部43に対面する開口41aを有した傾斜連通路とされている。さらに開口41aが開口する凹部43は、底面がエンジン後方側に向かって上り傾斜しており、第2オイル分離室P2と連通している。
【0075】
以上、第1オイル分離室P1と第2オイル分離室P2とを仕切る第1仕切り壁部W1の近傍の構造を説明した。次に、オイルミストを含むブローバイガスの流れ、及びオイルの流れについて図9〜図12に基づいて説明する。
【0076】
なお、ブローバイガスの流れは、エンジン運転状態によって異なるようにされており、エンジンENGの全負荷運転時、即ち、スロットルバルブSVの開度が全開、或いは比較的大きい場合においては、オイルミストを含むブローバイガスは、ガス通路空間72から第1オイル分離室P1へ、さらに第1オイル分離室P1から第2オイル分離室P2へ、さらに第2オイル分離室P2から第3オイル分離室P3に向かって流れ、最終的にブローバイガス出口管17からオイルがほぼ分離されたブローバイガスが排出される。一方、エンジンENGの部分負荷運転時、即ち、スロットルバルブSVの開度が比較的小さい場合においては、全負荷運転時とは逆の流れになり、分離されたオイルは第3オイル分離室P3から第2オイル分離室P2へ、さらに第2オイル分離室P2から第1オイル分離室P1へ、さらに第1オイル分離室P1からガス通路空間72に流れ、バッフルプレート21のブローバイガス導入部27から動弁室75に落下する。このようなエンジンENGの全負荷運転時、及び部分負荷運転時の流れについては、図13に基づいて別途、説明する。
【0077】
先に説明したように、ガス通路空間72と動弁室75とは、バッフルプレート21の切欠き部25により連通し、オイルミストを含むブローバイガスが動弁室75からガス通路空間72に導入される構造となっている。したがって、エンジンENGの(が)全負荷運転時においては、動弁室75から導入されたオイルミストを含むブローバイガスは、ガス通路空間72においてエンジン前方側に向かって流れる。
【0078】
この際、ガス通路空間72において流れるオイルミストを含むブローバイガスが、例えばリブL5、L6、L7、L8、L9、L10、L11及びL12等に衝突してオイルミストを液滴として付着させるとともに迷路状の通路を移動する過程でミスト化が促進され、液滴となったオイルをバッフルプレート21へ落下させるようにしてある。このようにリブL5、L6、L7、L8、L9、L10、L11及びL12は、オイルミストを含むブローバイガスが衝突する邪魔板を兼ねている。このように、ガス通路空間72は、オイルを分離する機能も同時に併せ持っており、オイル分離空間と言うこともできる。
【0079】
また、先に説明したように、第1オイル分離室P1とガス通路空間72とは、縦壁部7aと中間仕切り壁部Wとの間に形成された隙間により連通し、オイルミストを含むブローバイガスがガス通路空間72から第1オイル分離室P1に導入される構造となっている。したがって、ガス通路空間72から導入されたオイルミストの一部を含むブローバイガスは、第1オイル分離室P1において、まず第1仕切り壁部W1及び突出部33に向かって流れ、その一部は第1仕切り壁部W1及び突出部33に衝突する。
【0080】
オイルミストの一部を含むブローバイガスは、その後、流れ方向を大きく変えて連通路41に入る。即ち、一旦、第1仕切り壁部W1及び突出部33に向かっていた流れは連通路41の開口41bから開口41aに向かって下降して行く。また、第1オイル分離室P1から第2オイル分離室P2(つまり、エンジン前方側からエンジン後方側)に向かっていたオイルミストの一部を含むブローバイガスは、エンジン排気側に略直角に流れを変える。
【0081】
この急激な流れ方向の変化により、オイルミストの一部を含むブローバイガスは、連通路41内壁に衝突しやすく、その結果、オイルミストからオイルが分離しやすくなり、オイル分離性能が高まる。
【0082】
このようにして連通路41を通ったオイルミストの一部を含むブローバイガスは、凹部43を通って第2オイル分離室P2に流れて行くが、この連通路41の傾斜による指向性により凹部43の面部に衝突されることになり、ブローバイガス中のオイル成分(オイルミスト)が凹部43に付着し、オイル分離性能が高まる。
【0083】
なお、第2オイル分離室P2から第3オイル分離室P3へのオイルミストを含むブローバイガスの流れも同じであるため、説明は省略する。
【0084】
また、第2オイル分離室P2や第3オイル分離室P3において流れるオイルミストの一部を含むブローバイガスは、例えばリブL1、L2、L3及びL4等に衝突してオイルミストを液滴として付着させるとともに迷路状の通路を移動する過程でミスト化が促進され、液滴となったオイルをバッフルプレート21へ落下させるようにしてある。このようにリブL1、L2、L3及びL4は、オイルミストを含むブローバイガスが衝突する邪魔板を兼ねている。
【0085】
一方、エンジンENGの部分負荷運転時においては、第2オイル分離室P2内におけるバッフルプレート21に溜まっていたオイルは、吸気負圧(図13で説明する)の影響でブローバイガス出口管17から入ってるフレッシュエアとともにエンジン前方側、即ち、第1仕切り壁部W1に向かって流れる。
【0086】
そして、第2オイル分離室P2内のエンジン前方側にオイルが溜まることになるが、吸気負圧の関係からフレッシュエアの流れに乗ってさらにエンジン前方側の第1オイル分離室P1に向かおうとする。その結果、オイルは傾斜した連通路41を逆流して昇り、開口41bから第1オイル分離室P1に落下し、第1オイル分離室P1に溜まっていく。
【0087】
その溜まった量が多くなると、中間仕切り壁部Wと縦壁部7aとの間に形成された隙間を通ってガス通路空間72に流れる。その結果、オイルは底面が傾斜した凹部31を降り、ブローバイガス導入部27から動弁室75に落下する。
【0088】
なお、第3オイル分離室P3から第2オイル分離室P2へのオイルの流れも同じであるため、説明は省略する。
【0089】
続いて、上記のようなオイル分離性能が効果的に発揮される条件を、エンジン運転状態の観点から図1と、エンジンENGの前後方向視概略断面を示す図13とに基づいて説明する。なお、以下の説明において、第2オイル分離手段とは、これまで説明してきた、第1オイル分離室P1と第2オイル分離室P2と第3オイル分離室P3とを含むシリンダヘッドに形成されたオイル分離空間70及びガス通路空間72のことであり、以下これを第2オイル分離手段70、72と称す。また、図13においては、カムシャフトSEを始めとする動弁系部品やピストン等の図は省略した。
【0090】
まず、図13を用いて、エンジンENGの前後方向視断面構造を説明しておく。なお、これまで説明してきたシリンダヘッドカバー1やバッフルプレート21の構造については省略する。シリンダヘッドH上に設けられる動弁室75は、シリンダヘッドオイルドレーン通路77と繋がっており、さらにシリンダヘッドオイルドレーン通路77の下端部は、シリンダブロックCB内においてエンジン上下方向に延びるシリンダブロックオイルドレーン通路81の上端と図示しないガスケットを介して連通している。
【0091】
シリンダブロックオイルドレーン通路81の下端は、シリンダブロックCBの下部に形成されたクランク室83に望み、その下方部にはエンジンオイルが貯留されるオイルパンOPが組付けられている
一方、吸気マニホールドIMが組付けられているエンジン吸気側のシリンダブロックCBには第1オイル分離手段91が設けられている。
【0092】
第1オイル分離手段91は、クランク室83の上方に設けられ、ピストン(不図示)がその内周部を上下往復動するシリンダライナCLを覆うべくシリンダブロックCBと一体的に形成された凹部87と、カバー部材89と、内部に迷路状の通路を形成するようにシリンダブロックCB乃至カバー部材89に形成した複数の邪魔板部(一部を符号91aで示す)とによって構成されている。
【0093】
後で説明するオイルミストを含むブローバイガスが例えば、邪魔板部91a等に衝突してオイルミストを液滴として付着させるとともに迷路状の通路を移動する過程でミスト化が促進され、液滴となったオイルをオイルパンOPへ落下させるようにしてある。
【0094】
第1オイル分離手段91の上部には、周知のPCVバルブが連結されている。このPCVバルブは、特に図での説明は行わないが、スプリングの付勢力により、通常は閉状態とされているが、所謂、吸気負圧が所定値以上になると付勢力に抗して開状態となるものである。
【0095】
また、図13には示していないが、PCVバルブの上部にはパイプ部材95(図1参照)が連結され、そのパイプ部材95の他端はサージタンクSTの上流管UP側寄り、即ち、吸入空気の上流側の部分に設けられた接続部93へ繋がっている。
【0096】
したがって、PCVバルブが開状態となると、第1オイル分離手段91にてオイルミストが除去されたブローバイガスは、サージタンクSTへ導かれた後、複数の吸気マニホールド分岐管IM1他を通って各気筒燃焼室に導入されるようになっている。
【0097】
ところで、このようなブローバイガスの流れは、エンジン運転状態によって異なるようにされている。まず、エンジンENGの部分負荷運転時、即ち、スロットルバルブSVの開度が比較的小さい場合、吸気負圧が高くなってPCVバルブが開くと、第1オイル分離手段91がオイル分離機能を果たす。そして、この時、図1で説明したように、パイプ部材BPの一端はスロットル上流管FPの連通口BPHに連通しているとともに、他端はシリンダヘッドカバー1の第2オイル分離手段70、72と連通しているので、エアクリーナボックス(不図示)を通して吸入されてきたフレッシュエアは、スロットル上流管FPの連通口BPHからパイプ部材BPを通って第2オイル分離手段70、72へと導かれる。図13において、フレッシュエアは右上ハッチングの矢印でその流れが示されている。
【0098】
そして、第2オイル分離手段70、72へと導かれたフレッシュエアは、動弁室75、シリンダヘッドオイルドレーン通路77、さらにはシリンダブロックCB内のシリンダブロックオイルドレーン通路81を経てクランク室83へと流れて行くことになる。
【0099】
即ち、第2オイル分離手段70、72の第3オイル分離室P3に溜まっているオイルはブローバイガス出口管17から流入して来るフレッシュエアの流れに乗って第2仕切り壁部W2の近傍の連通路41を通って第2オイル分離室P2に流れ、さらに第2オイル分離室P2に溜まっているオイルとともに第1仕切り壁部W1の近傍の連通路41を通って第1オイル分離室P1に流れ、さらに第1オイル分離室P1に溜まっているオイルとともに中間仕切り壁部Wと縦壁部7aとの間に形成された隙間を通ってガス通路空間72に流れ、ブローバイガス導入部27から動弁室75に落ち、シリンダヘッドオイルドレーン通路77、シリンダブロックオイルドレーン通路81を経てオイルパンOPに貯留される。
【0100】
このように、フレッシュエアは、第2オイル分離手段70、72のオイルを動弁室75やオイルパンOPに戻しつつクランク室83まで導かれるが、動弁室75内のオイルミストやオイルパンOP内のオイルミストを巻き込み、クランク室83内部に溜まっているブローバイガスとともに、シリンダブロックCBに形成されている第1オイル分離手段91に流れる。このフレッシュエアと、ブローバイガスと、オイルミストとの流れは白矢印で示している。
【0101】
そして、先に説明したようにPCVバルブに達するまでに邪魔板部91a等においてオイルミストは付着凝縮し、オイルパンOP内へと落ちて行くことになるが、残ったフレッシュエアとブローバイガスとの混合流体(左上ハッチングの矢印)はPCVバルブの開弁動作によりパイプ部材95(図1参照)を通ってサージタンクSTの上流管UP側寄り、即ち、吸入空気の上流側の部分に設けられた接続部93へ至り、最終的にエンジン燃焼室に導入される。
【0102】
一方、エンジンENGの全負荷運転時、即ち、スロットルバルブSVの開度が全開、或いは比較的大きい場合、ブローバイガスの流れは部分負荷運転時とは逆になる。即ち、全負荷運転時においては、スロットルバルブSVの下流では吸気負圧が減少するとともに、クランク室83の内圧が高くなり、その結果、クランク室83、及び第2オイルセパレータ70と比べてスロットルバルブSVの上流側のスロットル上流管FP内の圧力が低圧状態となることにより、クランク室83から第1オイル分離手段70を通りスロットルバルブSVの上流に向けてブローバイガスは流れて行く。
【0103】
そしてこの場合について、図13ではブローバイガスの流れを黒矢印で示している。即ち、エンジン燃焼室から漏れたブローバイガスは、クランク室83からシリンダブロックオイルドレーン通路81及びシリンダヘッドオイルドレーン通路77を通って動弁室75に流れ込んで行く。なお、この際、クランク室83のオイルミストもブローバイガスの流れに乗って動弁室75へ向かって流れて行くが、そのオイルミストの一部はシリンダブロックオイルドレーン通路81及びシリンダヘッドオイルドレーン通路77を通過中に、それらの壁面に付着若しくはクランク室83へ流れ落ちているオイルに吸収される。
【0104】
そして、動弁室75に流れてきたブローバイガスとオイルミストは、動弁部品の駆動により発生したオイルミストが加わり、ブローバイガス導入部27(図8等参照)を通って第2オイル分離手段70、72へと流れる。
【0105】
このブローバイガス導入部27を通って第2オイル分離手段70、72へ流れ込んできたオイルミストを含むブローバイガスは、ガス通路空間72から中間仕切り壁部Wと縦壁部7aとの間に形成された隙間を通って第1オイル分離室P1へ、さらに第1オイル分離室P1から第1仕切り壁部W1の連通路41を通って第2オイル分離室P2へ、さらに第2仕切り壁部W2の連通路41を通って第3オイル分離室Pへと流れ、その過程でオイルがほぼ分離されたブローバイガスとなってブローバイガス出口部17に至る。
【0106】
したがって、ブローバイガス出口部17からパイプ部材BPへ排出されていくのは、オイルミストが殆ど分離除去されたブローバイガス(流れは、左上ハッチングの矢印で示している)であり、このブローバイガスは、パイプ部材BPの他端に連結されているスロットル上流管FPの連通口BPHに流れ、スロットルバルブSVの下流の吸気間にホールドIMからエンジン燃焼室へと導入される。
【0107】
以上、第2オイル分離手段70、72におけるオイルミストを含むブローバイガスからのオイルミストの分離性能について、エンジン運転条件との関係を示しつつ説明した。
【0108】
−効果−
以上により、本実施形態によれば、中間仕切り壁部Wのオイル分離空間70側及びガス通路空間72側に、気筒列方向と直交する方向に延びるリブLを形成しているので、シリンダヘッドカバー1及びバッフルプレート21の振動溶着時に中間仕切り壁部Wが傾くのを抑制することができ、中間仕切り壁部Wが傾いた状態でバッフルプレート21(相手部材)に振動溶着されるのを抑制することができる。したがって、オイル分離空間70及びガス通路空間72の通路面積の所望の広さを確保することができる。
【0109】
また、リブLは、ブローバイガスが衝突する邪魔板を兼ねているので、オイル分離性能を高めることができる。
【0110】
さらに、中間仕切り壁部WとリブLとシリンダヘッドカバー1の内部上方空間を区画する縦壁部7a、7b、7c及び7dとをシリンダヘッドカバー1に一体に形成しているので、中間仕切り壁部W、リブL及び縦壁部7a、7b、7c及び7dをシリンダヘッドカバー1用の金型で一度に製造することができ、バッフルプレート21の製造コスト上昇を抑制することができる。
【0111】
また、中間仕切り壁部Wの溶着代をシリンダヘッドカバー1の内部上方空間を区画する縦壁部7a、7b、7c及び7dの溶着代よりも大きく設定しているので、シリンダヘッドカバー1及びバッフルプレート21の振動溶着時に加圧力が作用しにくい中間仕切り壁部Wをバッフルプレート21(相手部材)に確実に振動溶着することができる。
【0112】
さらに、バッフルプレート21におけるガス通路空間72に臨む部分に、底面がブローバイガス導入部27側に向かって下り傾斜する凹部31を形成しているので、ガス通路空間72に流れてきた分離されたオイルをブローバイガス導入部27へ容易に流すことができ、分離されたオイルを動弁室75へ容易に戻すことができる。
【0113】
(その他の実施形態)
本実施の形態では、ガス通路空間72はオイル分離空間70よりも短い車両前後方向幅を有したが、ガス通路空間72はオイル分離空間70と同じ又はこれよりも長い車両前後方向幅を有する構造でも良い。
【0114】
また、本実施の形態では、中間仕切り壁部Wのオイル分離空間70側及びガス通路空間72側にリブLを複数ずつ形成したが、中間仕切り壁部Wのオイル分離空間70側及びガス通路空間72側にリブLを少なくとも1つずつ形成すれば良い。
【0115】
さらに、本実施の形態では、中間仕切り壁部W、リブL並びに縦壁部7a、7b、7c及び7dをシリンダヘッドカバー1に一体に形成したが、中間仕切り壁部W、リブL並びに縦壁部をバッフルプレート21に一体に形成する等の構造でも良い。
【0116】
さらにまた、本実施の形態では、オイル分離室を3つ形成するように仕切り壁部を2つ設けたが、オイル分離室を4つ形成するように仕切り壁部を3つ設ける等の構造でも良い。
【0117】
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0118】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書には何ら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0119】
以上説明したように、本発明にかかるエンジンのオイル分離装置は、仕切り壁部が傾いた状態で相手部材に振動溶着されるのを抑制して、ガス通路空間の所望の広さを確保することが必要な用途等に適用できる。
【符号の説明】
【0120】
1 シリンダヘッドカバー
7a、7b、7c、7d 縦壁部
17 ブローバイガス出口管(ブローバイガス導出部)
21 バッフルプレート
27 ブローバイガス導入部
31 凹部(傾斜部)
70 オイル分離空間
72 ガス通路空間
75 動弁室
W 中間仕切り壁部(仕切り壁部)
L リブ
PJ 溶着代
ENG エンジン
SV スロットル弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を一列に並べたエンジンのシリンダヘッドカバー内に設けられ、動弁室内のオイルミストを含むブローバイガスを導入してオイルを分離するとともにブローバイガスを吸気通路のスロットル弁上流に供給可能なエンジンのオイル分離装置であって、
上記シリンダヘッドカバーは、バッフルプレートで上記エンジンのシリンダ軸線方向上下に区画されており、
上記バッフルプレートで区画された上記シリンダヘッドカバーの内部上方空間は、気筒列方向に延びる仕切り壁部で、気筒列方向に延びるオイル分離空間と、平面視で該オイル分離空間とともに略U字状を成すように気筒列方向に延びて該オイル分離空間に連通するガス通路空間とに仕切られており、
上記仕切り壁部は、上記シリンダヘッドカバー及び上記バッフルプレートのいずれかに形成されており、
上記ガス通路空間にはブローバイガス導入部が設けられる一方、上記オイル分離空間にはブローバイガス導出部が設けられており、
上記シリンダヘッドカバー及び上記バッフルプレートは共に樹脂成形品であって、上記仕切り壁部を含め互いに振動溶着されており、
上記仕切り壁部の上記オイル分離空間側及び上記ガス通路空間側には、気筒列方向と直交する方向に延びるリブが少なくとも1つずつ形成されていることを特徴とするエンジンのオイル分離装置。
【請求項2】
請求項1記載のエンジンのオイル分離装置において、
上記リブは、上記ブローバイガスが衝突する邪魔板を兼ねていることを特徴とするエンジンのオイル分離装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のエンジンのオイル分離装置において、
上記仕切り壁部と上記リブと上記内部上方空間を区画する縦壁部とは、上記シリンダヘッドカバーに一体に形成されていることを特徴とするエンジンのオイル分離装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のエンジンのオイル分離装置において、
上記仕切り壁部の溶着代は、上記シリンダヘッドカバー及び上記バッフルプレートのうち上記仕切り壁部が形成されたものに形成された、上記内部上方空間を区画する縦壁部の溶着代よりも大きく設定されていることを特徴とするエンジンのオイル分離装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のエンジンのオイル分離装置において、
上記ブローバイガス導入部は、上記ガス通路空間における上記オイル分離空間に連通する側とは反対側に設けられており、
上記バッフルプレートにおける上記ガス通路空間に臨む部分には、上記ブローバイガス導入部側に向かって下り傾斜する傾斜部が形成されていることを特徴とするエンジンのオイル分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−58433(P2011−58433A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209471(P2009−209471)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】