説明

エンジンのスロットル制御装置

【課題】スロットル弁による低流量域における制御精度を向上させて、エンジンの低速回転を安定させる。
【解決手段】弁角度θthと、弁角度θth毎の位置で得られるスロットル通過流量Qaとの間に、θth=θbで最も小さな第1の流量Qminが得られ、θbよりも小さなθaでQminよりも大きな第2の流量Qdefが得られる一方、θb以上の領域において、弁角度θthの増大に応じてスロットル通過流量Qaが増大する特性を持たせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのスロットル制御装置に関し、詳細には、スロットル弁の回転角度に対するスロットル通過流量の変化の特性を改善して、低流量域における制御精度を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
吸入空気量の制御のため、一般的なガソリンエンジンでは、吸気通路にスロットル弁が備えられており、このスロットル弁により吸気通路の開口面積(すなわち、開度)を増減させることで、実際の吸入空気量を負荷に対して適正に制御している。スロットル弁としては、回転軸に円板状の弁部材を取り付けたバタフライ型のものが一般的に用いられており、このようなスロットル弁により、スロットル弁を通過する吸入空気の流量(以下「スロットル通過流量」という。)は、スロットル弁の回転角度に対し、これが増大するほど単調に増加する特性で与えられる(特許文献1)。
【特許文献1】特願2002−081336号公報(段落番号0017)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このように、スロットル通過流量がスロットル弁の回転角度に対して単調に増加するものでは、回転角度毎の流量の増加が低流量域で大きいことから、低流量域において、必要とされる流量を達成するためにスロットル弁を駆動すべき回転角度の許容範囲が限られてしまう。このため、スロットルアクチュエータとして通常用いられるステップモータの可制御分解能によっては、低流量域における流量の制御精度が低下し、アイドリング時等における低速回転が安定しないという問題がある。
【0004】
前掲特許文献1には、スロットル弁の可動範囲を、回転方向に対して全閉位置を超えてマイナス側にまで拡大したものが記載されている(段落番号0002)。このものは、スロットルセンサ等の故障時における退避走行に際して必要とされる吸入空気量(いわゆる、デフォルト流量)を確保するためにこのマイナス側の回転角度を利用するものであって、このマイナス側の回転角度は、通常時における制御には利用されず、通常時におけるスロットル通過流量は、一般的なものと同様に、スロットル弁の回転角度に対して単調に増加するものとして与えられる(段落番号0017)。
【0005】
本発明は、このような問題を考慮したものであり、スロットル弁により吸入空気量を制御するエンジンにおいて、低流量域における制御精度を向上させて、アイドリング時等におけるエンジン回転を安定させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エンジンのスロットル制御装置を提供する。本発明に係る装置は、エンジンのスロットル開度を制御するためのスロットル弁を吸気通路に備え、このスロットル弁の回転角度と、回転角度毎の位置で得られるスロットル通過流量との間に、第1の回転角度で最も小さな第1の流量が得られ、この第1の回転角度よりも小さな第2の回転角度で第1の流量よりも大きな第2の流量が得られる一方、第1の回転角度以上の領域において、回転角度の増大に応じてスロットル通過流量が増大する特性を持たせるものである。本発明において、このような特性は、バタフライ型のスロットル弁であって、回転軸に対して垂直な断面において、この回転軸を基準とした一側における第1の弁部分が、回転軸に対してこの第1の弁部分とは反対側の第2の弁部分に対して傾斜させて設けられたものにより実現される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スロットル弁の回転角度に対するスロットル通過流量の変化の特性が一般的なスロットル制御装置によるものとは異なり、第1の回転角度でスロットル通過流量が極小値をとる。極小値及びその近傍では流量の変化がないか、又は緩やかであることから、スロットルアクチュエータの可制御分解能に対する流量の変化が抑えられる。このため、本発明によれば、低流量域で必要とされる流量を達成するために制御可能な回転角度の許容範囲が拡大されることになるので、流量の制御精度を向上させ、アイドリング時等におけるエンジン回転を安定させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るスロットル制御装置1の構成を示している。本実施形態において、この装置1は、車両の駆動源を構成する内燃エンジンの吸気通路に設置される。
本実施形態に係るスロットル制御装置1は、この装置1の本体となるハウジング11と、吸気通路を開閉するためのスロットル弁13と、このスロットル弁13を駆動するためのスロットルアクチュエータ15と、スロットルアクチュエータ15に対し、これを作動させるための制御信号を出力するコントロールユニット17とを含んで構成され、更にコントロールユニット17に対して制御上の基礎情報を提供するため、各種のセンサ21,22が設けられている。なお、ハウジング11は、吸気コレクタの上流側に配設されて、吸気通路の一部を構成する。
【0009】
スロットル弁13は、バタフライ弁であって、ハウジング11内に設置されて、吸気通路を開閉する。スロットル弁13は、回転軸131に弁体133を取り付けて構成される。回転軸131は、ハウジング11の側壁を内外に貫通しており、ハウジング11に対して一対のベアリング51a,51bにより回転自在に支持されている。弁体133は、平面視で略円形をなしており、回転軸131に対して図示しないネジ等の結合手段により固定されている。本実施形態において、弁体133は、単一の部材を中央部で屈曲させて、回転軸131に対して垂直な断面で後述するようにく字状に形成されている。また、回転軸131の一端にリターンレバー53が取り付けられており、回転軸131及び弁体133は、このリターンレバー53を介してリターンスプリング55により全閉位置に付勢されている。回転軸131の他端には、後述するスロットルセンサ22が取り付けられている。
【0010】
本実施形態において、スロットルアクチュエータ15は、ステップモータにより構成されており、スロットル弁11とスロットルアクチュエータ15とは、減速ギア57a,57bを介して結合されている。
また、本実施形態において、コントロールユニット17は、エンジンのコントロールユニットを兼ねており、エンジンのスロットル開度をスロットル弁13により負荷に対して適正に制御する。各種のセンサとして、運転者によるアクセルペダルの操作量を検出する、「運転状態センサ」としてのアクセルセンサ21と、スロットル弁13の実際の回転角度を検出するスロットルセンサ22とが設けられており、これらの検出信号は、いずれもコントロールユニット17により入力される。コントロールユニット17は、入力した信号に基づいてスロットル制御に関する所定の演算を行い、スロットルアクチュエータ15に対して目標とする回転角度を示す制御信号を出力する。スロットルアクチュエータ15がこの制御信号に基づいて作動し、スロットル弁13を目標とする位置に向けて駆動することで、負荷に応じた適正なスロットル開度が達成される。
【0011】
図2は、スロットル弁13の構成を回転軸131に対して垂直な断面により示している。
本実施形態において、弁体133は、この断面でく字状に形成されており、回転軸131を基準とした一側の弁部分(「第1の弁部分」に相当する。)133aが、回転軸131に対してこの第1の弁部分133aとは反対側の第2の弁部分133bに対して傾斜させて設けられており、断面積が吸気の流れ方向に略一定である通路内に設置されている。このため、第1の弁部分133aがハウジング11の中心線L(本実施形態において、吸気通路の中心線に一致する。)に対して直交する図示の状態において、第1の弁部分133aとハウジング11の上壁との間には隙間が殆ど残されない一方、第2の弁部分133bとハウジング11の底壁との間にはある程度の流れを許容するだけの隙間が形成される。この隙間の大きさを調整することで、車両の退避走行時に必要とされるデフォルト流量Qdefを得ることが可能である。
【0012】
図3は、スロットル弁13の回転角度(以下「弁角度」という。)θthに対するスロットル通過流量Qaの変化を示しており、同図(a)がく字状の弁体133を採用した本実施形態に係るスロットル制御装置1によるものを、同図(b)が平板状の弁体を採用した一般的なスロットル制御装置によるものを示している。なお、図3(a)及び図2において、弁角度θa,θb,θcを対応させている。
【0013】
一般的なスロットル制御装置において、スロットル通過流量Qaは、弁角度θa(=0)の位置で最小値をとり、弁角度θthの0からの増大に対して単調に増加する特性で与えられる(図3(b))。このため、一般的なスロットル制御装置では、デフォルト流量Qdefを確保するため、退避走行時にスロットル弁を0よりも大きな所定の弁角度θthzだけ駆動するための特別な機構が必要とされる。このような機構として典型的なものは、スロットル弁を弁角度θthzの位置に付勢するためのデフォルトスプリングと、このデフォルトスプリングのバネ力をスロットル弁に伝達させるためのデフォルトレバーとを含んで構成される。
【0014】
これに対し、本実施形態において、スロットル通過流量Qaは、図3(a)に示すように、弁角度θthの0(=θa)からの増大に対し、弁角度θthがθb(>θa)よりも小さな領域で減少して、このθbの位置で極小値Qminをとり、更にθb以上の領域において、弁角度θthの増大に応じて増加する特性で与えられる。このような特性によれば、スロットルアクチュエータ15の非作動時にスロットル弁13が全閉位置(θth=θa)に付勢されることから、この全閉位置における隙間の調整により、デフォルトスプリング等の特別な機構によらずにデフォルト流量Qdefを確保することが可能となる。また、スロットル通過流量Qaがθaよりも大きな弁角度θbの位置で極小値Qminをとることから、アイドリング時等の低流量域で必要とされる流量をθb又はその近傍の弁角度で達成することが可能である。なお、本実施形態において、θbが「第1の回転角度」に、θaが「第2の回転角度」に相当する。
【0015】
以下、本実施形態に係るスロットル制御装置1の動作について、比較例との対比により説明する。
図4は、本実施形態に係るスロットル制御装置1の動作を、弁角度θthが小さな低流量域について示している。図5は、比較例として、平板状の弁体による場合の一般的な動作を、図4に示す弁角度0〜θth3に対応させて示している。
【0016】
図5に示すように、一般的なスロットル制御装置において、θth=0degの全閉位置は、スロットル弁13’がハウジング11の中心線Lに対して直交する位置に設定される。このような設定では、弁角度θthの0からの増大に対し、スロットル弁13’の上下双方でハウジング11との間の隙間が同様の傾向で拡大されることから、スロットル通過流量Qaは、弁角度θthの増大に対して単調に増加する特性で与えられ、また、その弁角度θth毎の増加も比較的に大きい。
【0017】
これに対し、本実施形態では、図4に示すように、弁体133としてく字状のものを採用するとともに、θth=0degの全閉位置を、第1の弁部分133aがハウジング11の中心線Lに対して直交する位置(以下「基準位置」という。)を回転方向に対して反対側に超えた位置に設定している(図4(a))。このため、本実施形態では、弁角度θthの0からの増大に対し、第1の弁部分133aが基準位置に達するまでの0近傍の領域において、スロットル弁13の上下双方でハウジング11との間の隙間が縮小されることになり、開口面積が急な勾配で減少する。第1の弁部分133aが基準位置を回転方向に超えると、スロットル弁13下方の隙間が縮小される一方、スロットル弁13上方の隙間が拡大されることになるが(同図(b))、第1の弁部分133aが基準位置に近く、スロットル弁13上方の隙間の拡大が緩やかであることから、開口面積は、全体として引き続き減少する。本実施形態では、第2の弁部分133bが基準位置に達する前のθth=θth1(=θb)の位置で、スロットル通過流量Qaが極小値Qminをとる。第2の弁部分133bが基準位置に達し(同図(c))、更にこれを超えると、スロットル弁13の上下双方で隙間が拡大されることになり、開口面積も増大する(同図(d))。
【0018】
図6は、弁角度θthに対するスロットル通過流量Qaの変化を低流量域について示しており、本実施形態に係るスロットル制御装置1によるものを実線c1で、一般的なスロットル制御装置によるものを二点鎖線c2で示している。
図6に示すように、一般的なスロットル制御装置による場合は、以上のように弁角度θthに対してスロットル通過流量Qaが単調に増加することから、低流量域(図中、斜線により示す。)で必要とされる流量を達成するために制御可能な弁角度θthの許容範囲R2が比較的に小さい。このため、スロットルアクチュエータとして採用されるステップモータの可制御分解能によっては、弁角度θthをこの許容範囲R2内に収めることが困難となり、流量の制御精度に低下を来すことになる。
【0019】
これに対し、本実施形態では、弁角度θbでスロットル通過流量Qaが極小値をとり、θb近傍の領域で流量Qaの変化が緩やかとなることから、低流量域における弁角度θthの許容範囲R1が、一般的なスロットル制御装置による場合の許容範囲R2よりも拡大される(本実施形態では、これらの許容範囲がR1/2>R2の関係にある。)。このため、必要とされる流量をこの極小値(=Qmin)又はその近傍の流量に設定することで、スロットルアクチュエータ15の可制御分解能に対し、弁角度θthを確実にこの許容範囲R1内に収め、必要とされる流量を安定して達成することができる。
【0020】
以上で説明したように、本実施形態によれば、スロットル弁13の回転角度θthに対するスロットル通過流量Qaの変化が一般的なスロットル制御装置によるものとは異なる特性で与えられ、弁角度θbでスロットル通過流量Qaが極小値をとることになる。このため、θb近傍の領域で弁角度θthに対する流量Qaの変化が抑えられ、弁角度θthの許容範囲R1が拡大されることから、低流量域における制御精度を向上させることができる。たとえば、アイドリング時におけるスロットル弁13の目標回転角度を弁角度θbに設定することで、アイドリングを安定して行わせることができる。また、吸入空気量の過渡的な変化に関する要求(たとえば、アイドリング時における回転数フィードバックによる。)に対応するため、スロットル弁13の基本的な目標回転角度を、極小値(=Qmin)を与えるθbよりも大きな弁角度θzに設定し、弁角度θbからこのθzまでの間で目標回転角度の補正を可能としてもよい。
【0021】
また、本発明によれば、全閉位置でスロットル弁13及びハウジング11の間に形成される隙間を、デフォルト流量Qaが確保されるだけの大きさに設定することで、デフォルトスプリング等、デフォルト流量Qaを得るための特別な機構を設ける必要がなく、部品点数を削減することができる。
更に、本発明によれば、弁体133をく字状に形成することで、第1及び第2の弁部分133a,133bがハウジング11の内壁に対して同時に接近することがないため、この内壁に対する弁体133のかじりを防止することが容易となる。
【0022】
なお、弁体133の流れに対する向きは、図4に示すものとは前後が逆であってもよい。図4(a)に示すように、全閉位置で一方の弁部分133bが他方の弁部分133aよりも下流側に位置するようにすれば、弁体133の中央部付近における流れの滞留が抑えられることから、流れに対する抵抗を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係るエンジンの構成
【図2】同上実施形態に係るスロットル弁の構成
【図3】弁角度θthに対するスロットル通過流量Qaの変化
【図4】本発明の一実施形態に係るスロットル制御装置の動作
【図5】一般的なスロットル制御装置の動作
【図6】低流量域における弁角度θthの制御範囲
【符号の説明】
【0024】
1…エンジン、11…ハウジング、13…スロットル弁、131…回転軸、133…弁体、133a…スロットル弁の第1の弁部分、133b…スロットル弁の第2の弁部分、15…スロットルアクチュエータとしてのステップモータ、17…コントロールユニット、21…運転状態センサとしてのアクセルセンサ、22…スロットルセンサ、L…ハウジングの中心線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのスロットル開度を制御するためのスロットル弁を吸気通路に備え、
前記スロットル弁は、バタフライ型のスロットル弁であって、回転軸に対して垂直な断面において、この回転軸を基準とした一側における第1の弁部分が、回転軸に対してこの第1の弁部分とは反対側の第2の弁部分に対して傾斜させて設けられ、
前記スロットル弁の回転角度と、回転角度毎の位置で得られるスロットル通過流量との間に、第1の回転角度で最も小さな第1の流量が得られ、この第1の回転角度よりも小さな第2の回転角度で前記第1の流量よりも大きな第2の流量が得られる一方、前記第1の回転角度以上の領域において、回転角度の増大に応じてスロットル通過流量が増大する特性を持たせたエンジンのスロットル制御装置。
【請求項2】
前記第1の回転角度が前記スロットル弁の非作動時における回転角度よりも大きい請求項1に記載のエンジンのスロットル制御装置。
【請求項3】
前記第2の回転角度が退避走行時に要求されるデフォルト流量を確保するための回転角度である請求項1又は2に記載のエンジンのスロットル制御装置。
【請求項4】
前記第2の回転角度が前記スロットル弁の非作動時における回転角度である請求項3に記載のエンジンのスロットル制御装置。
【請求項5】
前記スロットル弁が、エンジンの吸気通路において、前記第2の回転角度の位置で前記第1の弁部分が前記吸気通路の中心線に対して略直交し、かつ前記第2の弁部分が前記第1の弁部分よりも下流側に位置して、前記第1の弁部分に対して傾斜するように設置された請求項1〜4のいずれかに記載のエンジンのスロットル制御装置。
【請求項6】
前記第1の流量がエンジンのアイドリングに必要とされる流量であるか、又はこれよりも大きな流量である請求項1〜5のいずれかに記載のエンジンのスロットル制御装置。
【請求項7】
エンジンに対する要求負荷を検出する運転状態センサと、
前記スロットル弁を駆動するスロットルアクチュエータと、
前記運転状態センサにより検出された要求負荷に基づいて前記スロットル弁の目標回転角度を算出し、前記スロットルアクチュエータに対し、算出した目標回転角度を示す信号を出力するコントロールユニットと、を更に含んで構成される請求項1〜6のいずれかに記載のエンジンのスロットル制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−64052(P2008−64052A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244194(P2006−244194)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】