説明

エンジンのバルブ開閉タイミング評価方法及びバルブ開閉タイミング評価装置

【課題】 各バルブの開閉タイミングを高精度で評価できるエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法及びバルブ開閉タイミング評価装置を提供する。
【解決手段】 回転中のエンジン1の各バルブ近傍のエンジン振動信号から対応するバルブの開閉時の振動ピークの発生タイミングを検出して、バルブの開閉タイミングを評価するにあたり、波形解析手段15において各バルブについてクリアランスがゼロとなるカムリフト開始時及び終了時のタイミングを算出し、その算出したカムリフト開始時及び終了時のタイミングを、当該バルブの振動ピーク発生タイミングの開時の下限値及び閉時の上限値としてエンジン振動信号から各バルブの開時及び閉時の振動ピークを特定して評価手段16でバルブ開閉タイミングを評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを回転させて吸気バルブ及び排気バルブの開閉タイミングを評価するエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法及びバルブ開閉タイミング評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの生産過程では、出荷品質を確保するために、生産されたエンジンを電動モータ等により一定の回転数で回転させて、吸気バルブ及び排気バルブのクリアランスを判定し、不良の場合には再調整するようにしている。
【0003】
このようなバルブの開閉タイミングを評価するエンジン診断装置として、例えば各バルブの近傍に振動センサを装着してエンジン回転中のエンジン振動を検出し、その検出されたエンジン振動信号から対応するバルブの開閉に関連するバルブ振動信号を抽出し、更に、エンジンコントロールユニットからのカム角検出信号、クランク角検出信号及び予め入力されたカムプロフィールデータに基づいてバルブ開閉ランプ部及びバルブリフト部の範囲を示すカムシャフトタイミングを検出して、これらバルブ振動信号とカムシャフトタイミングとの相関に基づいてバルブの開閉タイミング、即ちバルブクリアランスを評価するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2001−21455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に示されるように、振動センサによりエンジン振動を検出すると、例えば4サイクルエンジンではクランクシャフトが2回転(720°CA)でカムシャフトが1回転するため、4気筒エンジンで1気筒に吸気バルブ及び排気バルブがそれぞれ1個ずつ設けられている場合には、カムシャフトが1回転する間に吸気バルブ及び排気バルブの開動作及び閉動作が、4(気筒)×2(吸バルブ・排気バルブ)×2(開き・閉じ)=16(回)、行われることになる。
【0006】
このため、各バルブの近傍に振動センサを装着しても、各振動センサで検出されるエンジン振動信号には、図5に示すように、吸気バルブ及び排気バルブの開閉に関連するバルブ振動信号として、16個の振動ピークが発生することになって、各バルブの振動ピークを特定するのが困難になり、各バルブの開閉タイミングの評価精度が低下することが懸念される。なお、図5において、#1は第1気筒、#2は第2気筒、#3は第3気筒、#4は第4気筒を示し、INは吸気バルブ、EXは排気バルブを示している。
【0007】
従って、かかる点に鑑みてなされた本発明の目的は、各バルブの開閉に関連する振動ピークを正確に特定でき、そのバルブの開閉タイミングを高精度で評価できるエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法及びバルブ開閉タイミング評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する請求項1に記載のエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法の発明は、回転中のエンジンの各バルブ近傍のエンジン振動を検出し、該エンジン振動信号から対応するバルブの開時及び閉時の振動ピークの発生タイミングを検出し、該バルブの開時及び閉時の振動ピークの発生タイミングに基づいて該当該バルブの開閉タイミングを評価するエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法において、上記バルブを駆動するカムのカムプロフィールデータと、上記エンジンのクランク角度とに基づいて、各バルブについてクリアランスがゼロとなるカムリフト開始時及び終了時のタイミングを算出し、算出したカムリフト開始時及び終了時のタイミングを、当該バルブの振動ピーク発生タイミングの開時の下限値及び閉時の上限値として、上記エンジン振動信号から各バルブの開時及び閉時の振動ピークを特定することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載のエンジンのバルブ開閉タイミング評価装置の発明は、回転中のエンジンの各バルブ近傍の振動を検出する振動検出手段と、上記振動検出手段で検出されるエンジン振動信号を2乗する2乗処理手段と、該2乗処理手段の出力波形をエンベロープ処理するエンベロープ処理手段と、上記エンジンのクランク角度を算出するクランク角度算出手段と、上記クランク角度算出手段で算出されたクランク角度と予め入力された上記バルブを駆動するカムのカムプロフィールデータとに基づいて、各バルブについてクリアランスがゼロとなるカムリフト開始時及び終了時のクランク角度を算出し、算出したカムリフト開始時及び終了時のクランク角度を、当該バルブの振動ピーク発生タイミングの開時の下限値及び閉時の上限値として、上記エンベロープ処理手段から出力されるエンジン振動信号から各バルブの開時及び閉時の振動ピークを特定してクランク角度を検出する波形解析手段と、上記波形解析手段で検出されたクランク角度に基づいて各バルブの開閉タイミングを評価する評価手段とを有することを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2のエンジンのバルブ開閉タイミング評価装置において、上記評価手段による評価結果に基づいて、開閉タイミング不良のバルブを識別可能に表示する表示部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によると、カムプロフィールデータとエンジンのクランク角度とに基づいて、各吸気バルブ及び排気バルブについてバルブクリアランスがゼロとなるカムリフト開始時及び終了時のタイミングを算出し、この算出したカムリフト開始時及び終了時のタイミングを当該バルブの振動ピーク発生タイミングの開時の下限値及び閉時の上限値として、エンジン振動信号から各バルブの開時及び閉時の振動ピークを特定するので、エンジン振動信号中に時系列的に現れる複数のバルブの開閉に関連する振動ピークから、各バルブの開閉に関連する振動ピークを正確に特定することができる。これにより各バルブの開閉タイミングを高精度で評価することができる。
【0012】
請求項2の発明によると、振動検出手段、2乗処理手段、エンベロープ処理手段、クランク角度算出手段、波形解析手段、及び評価手段を有する簡単かつ安価な構成で、エンジン振動信号から各バルブの開閉の振動ピークを正確に特定して、その開閉タイミングを高精度で評価することができる。また、振動検出手段を除く構成要素は、例えばパーソナルコンピュータを有して構成できるので、構成のより簡略化が可能となる。
【0013】
請求項3の発明によると、開閉タイミング不良のバルブが表示部に識別可能に表示されるので、再調整等に迅速に対処することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明によるエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法及びバルブ開閉タイミング評価装置の実施の形態を図1乃至図4を参照して説明する。
【0015】
図1はバルブ開閉タイミング評価装置の概略構成を示す機能ブロック図、図2はカムプロフィールとバルブ開閉タイミングとの関係を示す図、図3はバルブ開きの評価範囲を示す図、図4はバルブ閉じの評価範囲を示す図である。
【0016】
本実施の形態では、図1に示すように、サンプルであるエンジン1のバルブの近傍に振動検出手段である振動センサ2を取り付け、エンジン1を例えば電動モータからなる回転駆動手段(図示せず)により回転させながら、回転中のエンジン1の振動を検出する。なお、図1では、図面を明瞭とするため、1つのバルブに対応する振動センサ2のみを示している。
【0017】
振動センサ2で検出される振動信号は、増幅器5で増幅した後、高域通過フィルタ(HPF)6及び低域通過フィルタ(LPF)7により不要なノイズ成分を除去して、パーソナルコンピュータ(PC)を含んでなる演算装置11に取り込む。また、演算装置11には、エンジン1から出力される気筒判別信号及びクランク角検出信号を取り込む。
【0018】
演算装置11には、クランク角度算出手段12、2乗処理手段13、エンベロープ処理手段14、波形解析手段15、評価手段16、及び表示部17が設けられている。エンジン1からのクランク角検出信号及び気筒判別信号は、クランク角度算出手段12に供給してクランク角度を算出し、その算出したクランク角度を波形解析手段15に供給する。
【0019】
また、LPF7から出力される振動信号は、2乗処理手段13に供給し、2乗処理手段13で2乗処理した後、エンベロープ処理手段14でエンベロープ処理して波形解析手段15に供給する。
【0020】
波形解析手段15には、図2に示すようなバルブを駆動するカムのカム角度(°)とカムリフト量との関係を表わすカムプロフィールデータを予め入力しておき、波形解析手段15でカムプロフィールデータとクランク角度算出手段12からのクランク角度とに基づいて、各バルブについてクリアランスがゼロとなるカムリフト開始時のカム角度Asに対応するクランク角度、及びカムリフト終了時のカム角度Aeに対応するクランク角度を算出する。この算出したカムリフト開始時及び終了時のクランク角度を、当該バルブの振動ピーク発生タイミングの開時の下限値及び閉時の上限値として、エンベロープ処理手段14から出力される図5に示したようなエンジン振動信号から、各バルブの開時及び閉時の振動ピークを特定して、これらのクランク角度を検出する。
【0021】
即ち、バルブの開閉タイミングは、バルブクリアランスがゼロのときは、バルブを駆動するカムのカムリフトの開始タイミング(カム角度As)及び終了タイミング(カム角度Ae)に一致し、バルブクリアランスが大きくなるにつれて、バルブの開きタイミングが遅れ、閉じタイミングが早くなる。従って、図2に示すように、バルブの開きタイミングは、カム角度Asに対応するクランク角度以上で発生し、閉じタイミングは、カム角度Aeに対応するクランク角度以下で発生することになる。
【0022】
そこで、波形解析手段15において、図3に示すように、各バルブについてカム角度As(カムリフト開始時)に対応するクランク角度を算出して、その算出したクランク角度を当該バルブの開き振動ピーク発生タイミングの下限値として、その下限値以上をこのバルブの開き評価範囲とする。また、図4に示すように、各バルブについてカム角度Ae(カムリフト終了時)に対応するクランク角度を算出して、その算出したクランク角度を当該バルブの閉じ振動ピーク発生タイミングの上限値として、その上限値以下をこのバルブの閉じ評価範囲とし、これら開き評価範囲及び閉じ評価範囲のクランク角度に基づいて、エンベロープ処理手段14から得られる図5に示したような振動信号波形から、各バルブの開及び閉に関連する振動ピークを特定して、その特定した振動ピークの発生タイミングに対応するクランク角度を検出する。
【0023】
評価手段16では、波形解析手段15で検出された各バルブの開及び閉に関連する振動ピークのクランク角度に基づいて、その開閉タイミング、即ちバルブクリアランスを評価する。その評価結果である良・不良を、バルブの識別ができるように表示部17に表示する。なお、この評価手段16によるバルブ開閉タイミングの評価は、例えば、特許文献1に開示のように、各バルブについてバルブクリアランスの正常範囲に対応するバルブ開閉タイミングの正常範囲を予め設定して記憶しておき、その正常範囲と検出されたバルブ開閉タイミングとの比較に基づいて行うようにする。
【0024】
以上のように、本実施の形態では、波形解析手段15において、予め入力されたカムプロフィールデータとクランク角度算出手段12で算出されたクランク角度とに基づいて、各バルブについてクリアランスがゼロとなるカムリフト開始時及び終了時のクランク角度を算出し、その算出したカムリフト開始時及び終了時のクランク角度を、当該バルブの振動ピーク発生タイミングの開時の下限値及び閉時の上限値として、エンベロープ処理手段14から出力されるエンジン振動信号から各バルブの開時および閉時の振動ピークを特定するので、図5に示したようなエンジン振動信号中に時系列的に現れる複数のバルブの開閉に関連する振動ピークから、各バルブの開閉に関連する振動ピークを正確に特定することができ、各バルブの開閉タイミング、即ちバルブクリアランスを高精度で評価することができる。
【0025】
また、クランク角度算出手段12、2乗処理手段13、エンベロープ処理手段14、波形解析手段15、評価手段16、及び表示部17を有する演算装置11は、PCを有して構成できるので、装置全体を簡単かつ安価にできる。
【0026】
更に、評価手段16でのバルブクリアランスの評価結果を、バルブ識別可能に表示部17に表示するようにしたので、バルブクリアランスが不良のバルブがある場合に、再調整等に迅速に対処することができる。
【0027】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることなく発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係るエンジンのバルブ開閉タイミング評価装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図2】実施の形態に係るカムプロフィールとバルブ開閉タイミングとの関係を示す図である。
【図3】バルブ開きの評価範囲を示す図である。
【図4】バルブ閉じの評価範囲を示す図である。
【図5】振動センサで検出されるエンジン振動信号の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 エンジン
2 振動センサ(振動検出手段)
11 演算装置
12 クランク角度算出手段
13 2乗処理手段
14 エンベロープ処理手段
15 波形解析手段
16 評価手段
17 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中のエンジンの各バルブ近傍のエンジン振動を検出し、該エンジン振動信号から対応するバルブの開時及び閉時の振動ピークの発生タイミングを検出し、該バルブの開時及び閉時の振動ピークの発生タイミングに基づいて該当該バルブの開閉タイミングを評価するエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法において、
上記バルブを駆動するカムのカムプロフィールデータと、上記エンジンのクランク角度とに基づいて、各バルブについてクリアランスがゼロとなるカムリフト開始時及び終了時のタイミングを算出し、算出したカムリフト開始時及び終了時のタイミングを、当該バルブの振動ピーク発生タイミングの開時の下限値及び閉時の上限値として、上記エンジン振動信号から各バルブの開時及び閉時の振動ピークを特定することを特徴とするエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法。
【請求項2】
回転中のエンジンの各バルブ近傍の振動を検出する振動検出手段と、
上記振動検出手段で検出されるエンジン振動信号を2乗する2乗処理手段と、
該2乗処理手段の出力波形をエンベロープ処理するエンベロープ処理手段と、
上記エンジンのクランク角度を算出するクランク角度算出手段と、
上記クランク角度算出手段で算出されたクランク角度と予め入力された上記バルブを駆動するカムのカムプロフィールデータとに基づいて、各バルブについてクリアランスがゼロとなるカムリフト開始時及び終了時のクランク角度を算出し、算出したカムリフト開始時及び終了時のクランク角度を、当該バルブの振動ピーク発生タイミングの開時の下限値及び閉時の上限値として、上記エンベロープ処理手段から出力されるエンジン振動信号から各バルブの開時及び閉時の振動ピークを特定してクランク角度を検出する波形解析手段と、
上記波形解析手段で検出されたクランク角度に基づいて各バルブの開閉タイミングを評価する評価手段と、
を有することを特徴とするエンジンのバルブ開閉タイミング評価装置。
【請求項3】
上記評価手段による評価結果に基づいて、開閉タイミング不良のバルブを識別可能に表示する表示部を有することを特徴とする請求項2に記載のエンジンのバルブ開閉タイミング評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−17521(P2006−17521A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193736(P2004−193736)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】