説明

エンジンの制御装置

【課題】エンジンの制御装置において、使用する燃料としての重油の性状がばらついても適正にエンジンを制御することで、ピストンとシリンダライナとの焼き付きを抑制可能とする。
【解決手段】エンジン本体11のシリンダボア12の内面にシリンダライナ13を固定し、ピストンリング15がシリンダライナ13の内面に対して摺動自在となるようにピストン14をシリンダライナ13の内側に軸心方向に移動自在に支持し、高圧インジェクタ21により燃料としての重油を燃焼室16に噴射可能に構成し、シリンダライナ13の状態に基づいてディーゼルエンジンを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、重油を燃料として使用するディーゼルエンジンにおいて、エンジンの作動状態に応じたエンジンの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、船舶に適用されるディーゼルエンジンは、主に燃料として重油が使用される。このディーゼルエンジンに使用される重油は、石油の精製過程で、軽油などの良質な油が精製されたあとに残るものであり、粘性が高いものとなっている。近年、この石油精製工程の進歩により石油残渣に近いC重油が取り出され、燃料として使用されるようになってきている。ところが、このC重油は、重油の中でも特に粘性が高いものであり、ディーゼルエンジンの燃料として使用すると、燃焼性がばらついてエンジンに対して大きな負荷が作用してしまう。すると、ピストンとシリンダライナとの間に焼き付きが発生するおそれがある。
【0003】
なお、ディーゼルエンジンにて、ピストンとシリンダライナとの間の潤滑を行うものとしては、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。この特許文献1に記載されたリングライナ潤滑油保持装置は、ピストンのトップリングよりも上部でピストンを囲繞して金属ブラシを放射状に植設することで、オイル上りを防止して潤滑油消費量を減少するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−137865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、ディーゼルエンジンは、燃料として使用する重油の品質がばらつき、この重油の粗悪化が進んだ場合、燃焼性がばらついてエンジンに対して大きな負荷が作用し、ピストンとシリンダライナとの間に焼き付きが発生するおそれがある。この場合、上述した特許文献1のように、オイル上りを防止して潤滑油消費量を減少することも考えられるが、別部品の追加によりコスト増と信頼性の低下を招いてしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、使用する燃料としての重油の性状がばらついても適正にエンジンを制御することで、ピストンとシリンダライナとの焼き付きを抑制可能とするエンジンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明のエンジンの制御装置は、シリンダボアの内面に固定された円筒形状をなすシリンダライナと、該シリンダライナの内側に軸心方向に移動自在に支持されると共に外周部に装着されたピストンリングが前記シリンダライナの内面に対して摺動自在なピストンと、第1燃料タンクに貯留された燃料としての重油を燃焼室に供給可能な燃料供給装置と、を備えるエンジンにおいて、前記シリンダライナの状態に基づいて前記エンジンを制御する、ことを特徴とするものである。
【0008】
従って、燃料として使用する重油の品質により燃焼性がばらつくと、ピストンからシリンダライナに作用する応力が変動することから、このシリンダライナの状態に基づいてエンジンを制御することで、使用する燃料としての重油の性状がばらついても、適正にエンジンを制御することができ、ピストンとシリンダライナとの焼き付きを抑制することができる。
【0009】
本発明のエンジンの制御装置では、前記ピストンリングと前記シリンダライナとの摺動音を検出する音響センサを設け、該音響センサの検出結果に基づいて前記エンジンを制御することを特徴としている。
【0010】
従って、エンジンの燃焼性がばらつくと、シリンダライナの磨耗が進行することから、ピストンリングとシリンダライナとの摺動音に基づいてエンジンを制御することで、ピストンとシリンダライナとの焼き付きを効果的に抑制することができる。
【0011】
本発明のエンジンの制御装置では、前記ピストンリングと前記シリンダライナとの隙間を漏洩するガス音を検出する音響センサを設け、該音響センサの検出結果に基づいて前記エンジンを制御することを特徴としている。
【0012】
従って、エンジンの燃焼性がばらつくと、燃焼室の燃焼ガスが漏洩するおそれがあることから、ピストンリングとシリンダライナとの隙間を漏洩するガス音に基づいてエンジンを制御することで、ピストンとシリンダライナとの焼き付きを効果的に抑制することができる。
【0013】
本発明のエンジンの制御装置では、前記シリンダライナの振動を検出する振動センサを設け、該振動センサの検出結果に基づいて前記エンジンを制御することを特徴としている。
【0014】
従って、エンジンの燃焼性がばらつくと、ピストンの異常な挙動を起こすおそれがあることから、シリンダライナの振動に基づいてエンジンを制御することで、ピストンとシリンダライナとの焼き付きを効果的に抑制することができる。
【0015】
本発明のエンジンの制御装置では、前記シリンダライナの温度を検出する温度センサを設け、前記音響センサと前記振動センサの少なくともいずれか一つのセンサと前記温度センサの検出結果に基づいて前記エンジンを制御することを特徴としている。
【0016】
従って、エンジンの燃焼性がばらつくと、ピストンとシリンダライナとの間に大きな磨耗が発生するおそれがあることから、シリンダライナの温度に基づいてエンジンを制御することで、ピストンとシリンダライナとの焼き付きを効果的に抑制することができる。
【0017】
本発明のエンジンの制御装置では、前記シリンダライナの正常動作と現在の前記シリンダライナの動作とを比較して前記エンジンの異常を判定し、該エンジンの異常を判定したときには、前記エンジンの出力を低下させることを特徴としている。
【0018】
従って、シリンダライナの正常動作と現在のシリンダライナの動作とを比較することで、適正にエンジンの異常を判定することができ、このときにエンジンの出力を低下させることで、ピストンとシリンダライナとの焼き付きを防止することができる。
【0019】
本発明のエンジンの制御装置では、前記シリンダライナの正常動作と現在の前記シリンダライナの動作とを比較して前記エンジンの異常を判定し、該エンジンの異常を判定したときには、前記ピストンリングと前記シリンダライナとの間の潤滑油量を増加させることを特徴としている。
【0020】
従って、シリンダライナの正常動作と現在のシリンダライナの動作とを比較することで、適正にエンジンの異常を判定することができ、このときにピストンリングと前記シリンダライナとの間の潤滑油量を増加させることで、ピストンとシリンダライナとの焼き付きを防止することができる。
【0021】
本発明のエンジンの制御装置では、燃焼性の良好な重油を貯留可能な第2燃料タンクを設け、前記シリンダライナの正常動作と現在の前記シリンダライナの動作とを比較して前記エンジンの異常を判定し、該エンジンの異常を判定したときには、前記燃料供給装置は、前記第2燃料タンクの重油を前記燃焼室に供給することを特徴としている。
【0022】
従って、シリンダライナの正常動作と現在のシリンダライナの動作とを比較することで、適正にエンジンの異常を判定することができ、このときに燃焼性の良好な重油を燃焼室に供給することで、ピストンとシリンダライナとの焼き付きを防止することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のエンジンの制御装置によれば、シリンダライナの状態に基づいてエンジンを制御するので、使用する燃料としての重油の性状がばらついても適正にエンジンを制御することで、ピストンとシリンダライナとの焼き付きを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の実施例1に係るエンジンの制御装置を表す概略構成図である。
【図2】図2は、本発明の実施例2に係るエンジンの制御装置を表す概略構成図である。
【図3】図3は、本発明の実施例3に係るエンジンの制御装置を表す概略構成図である。
【図4】図4は、本発明の実施例4に係るエンジンの制御装置を表す概略構成図である。
【図5】図5は、本発明の実施例5に係るエンジンの制御装置を表す概略構成図である。
【図6】図6は、本発明の実施例6に係るエンジンの制御装置を表す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照して、本発明に係るエンジンの制御装置の好適な実施例を詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではなく、また、実施例が複数ある場合には、各実施例を組み合わせて構成するものも含むものである。
【実施例1】
【0026】
図1は、本発明の実施例1に係るエンジンの制御装置を表す概略構成図である。
【0027】
実施例1のディーゼルエンジンは、船舶に搭載されて航行用として使用されるものであり、燃料として重油を使用している。このディーゼルエンジンにおいて、図1に示すように、エンジン本体11は、複数のシリンダボア12が形成され、各シリンダボア12の内面に円筒形状をなすシリンダライナ13が装着されている。ピストン14は、外周部に複数のピストンリング15が装着されており、各シリンダボア12(シリンダライナ13)内に配設され、ピストンリング15がシリンダライナ13の内面に摺動して上下(軸心方向)に移動自在に支持されている。
【0028】
燃焼室16は、エンジン本体11(シリンダライナ13)とピストン14の頂面とにより区画されて形成されている。この燃焼室16は、上部に吸気ポート17及び排気ポート18が連通し、吸気弁19及び排気弁20の下端部が位置している。この吸気弁19及び排気弁20は、吸気ポート17及び排気ポート18を閉止する方向に付勢支持されており、図示しない吸気カムシャフト及び排気カムシャフトの吸気カム及び排気カムがこの吸気弁19及び排気弁20に作用することで、吸気ポート17及び排気ポート18を開閉することができる。また、エンジン本体11は、燃焼室16の上部に、この燃焼室16に高圧燃料を噴射可能な高圧インジェクタ21が装着されている。
【0029】
そして、エンジン本体11は、吸気ポート17にインテークマニホールドを介して吸気管(吸気通路)22が連結される一方、排気ポート18にエキゾーストマニホールドを介して排気管(排気通路)23が連結されており、この排気管23には排気ガス中に含まれるHC、CO、NOxなどの有害物質を浄化処理する触媒装置(図示略)が装着されている。
【0030】
また、第1燃料タンク24は、燃料としての重油を貯留可能であり、外部から重油を補充可能となっており、この第1燃料タンク24の燃料をエンジン本体11の燃焼室16に供給可能な第1燃料供給系25が設けられている。即ち、第1燃料タンク24と高圧インジェクタ21とが燃料供給管26により連結され、この燃料供給管26に燃料ポンプ27が装着されている。従って、燃料ポンプ27を駆動することで、第1燃料タンク24内の燃料を加圧した後、燃料供給管26を通して高圧インジェクタ21まで輸送することができ、この高圧インジェクタ21を駆動することで、高圧燃料を所定のタイミングで燃焼室16に噴射することができる。
【0031】
なお、燃料供給管26は、内部に加熱装置としての蒸気管28が同方向に沿って配置されており、この蒸気管28内に所定量の加熱蒸気が所定の流速で流通しており、重油を加熱して粘度を低下させることで、燃料供給管26内を流動可能としている。
【0032】
車両には、ディーゼルエンジンを総合的に制御する制御装置31が設けられている。即ち、制御装置31は、図示しない各種センサが検出したエンジン回転数やアクセル開度などのエンジン運転状態に基づいて燃料噴射量や燃料噴射時期などの最適値を演算し、高圧インジェクタ21を制御可能となっている。
【0033】
このように構成された本実施例のディーゼルエンジンにて、燃料として使用する重油の品質がばらついて粗悪化が進んだ場合、燃焼性がばらついてエンジンに対して大きな負荷が作用し、ピストン14(ピストンリング15)とシリンダライナ13との間に焼き付きが発生するおそれがある。
【0034】
そこで、実施例1のエンジンの制御装置では、シリンダライナ13の状態に基づいてディーゼルエンジンを制御している。具体的には、ピストンリング15とシリンダライナ13との間の摺動音を検出する音響センサとしてAE(アコースティックエミッション)センサ32を設け、制御装置31は、このAEセンサ32の検出結果に基づいてエンジンを制御する。
【0035】
この場合、制御装置31は、ディーゼルエンジンが正常に駆動しているときのAEセンサ32が検出したピストンリング15とシリンダライナ13との間の摺動音と、現在のピストンリング15とシリンダライナ13との間の摺動音とを比較することで、ディーゼルエンジンの異常を判定する。そして、制御装置31は、ディーゼルエンジンの異常を判定したときには、ディーゼルエンジンの出力を低下させるようにしている。制御装置31がディーゼルエンジンの出力を低下させる制御としては、高圧インジェクタ21による燃料噴射量の減少、エンジン回転数の低下などがあり、その他の制御として燃料噴射タイミングの進角がある。
【0036】
従って、現在使用している重油の性状(品質)が良くなく、燃焼性が悪い重油であったとき、燃焼室での燃焼性が悪化してシリンダライナ13の磨耗が進行することから、ピストンリング15とシリンダライナ13との間の摺動音が異音となる。このとき、制御装置31は、ディーゼルエンジンが正常に駆動しているときのピストンリング15とシリンダライナ13との間の摺動音と、現在のピストンリング15とシリンダライナ13との間の摺動音とを比較することで、ディーゼルエンジンの異常を判定する。そして、制御装置31は、例えば、高圧インジェクタ21による燃料噴射量の減少したり、エンジン回転数を低下したりし、ディーゼルエンジンの出力を低下させる。すると、エンジン本体11の燃焼室16にて、燃焼温度が低下することで、ピストン14とシリンダライナ13との間の焼き付きが抑制される。
【0037】
このように実施例1のエンジンの制御装置にあっては、エンジン本体11のシリンダボア12の内面にシリンダライナ13を固定し、ピストンリング15がシリンダライナ13の内面に対して摺動自在となるようにピストン14をシリンダライナ13の内側に軸心方向に移動自在に支持し、高圧インジェクタ21により燃料としての重油を燃焼室16に噴射可能に構成し、シリンダライナ13の状態に基づいてディーゼルエンジンを制御するようにしている。
【0038】
従って、燃料として使用する重油の品質により燃焼性がばらつくと、ピストン14からシリンダライナ13に作用する応力が変動することから、このシリンダライナ13の状態に基づいてディーゼルエンジンを制御することで、使用する燃料としての重油の性状がばらついても、適正にディーゼルエンジンを制御することができ、ピストン14とシリンダライナ13との焼き付きを抑制することができる。即ち、ディーゼルエンジンの損傷をシリンダライナ13の状態により事前に検出することができる。
【0039】
また、実施例1のエンジンの制御装置では、ピストンリング15とシリンダライナ13との摺動音を検出するAEセンサ32を設け、AEセンサ32の検出結果に基づいてディーゼルエンジンを制御する。従って、ディーゼルエンジンの燃焼性がばらつくと、シリンダライナ13の磨耗が進行することから、ピストンリング15とシリンダライナ13との摺動音に基づいてディーゼルエンジンを制御することで、ピストン14とシリンダライナ13との焼き付きを効果的に抑制することができる。
【0040】
また、実施例1のエンジンの制御装置では、シリンダライナ13の正常動作と現在のシリンダライナ13の動作とを比較してディーゼルエンジンの異常を判定し、このディーゼルエンジンの異常を判定したときには、ディーゼルエンジンの出力を低下させるようにしている。従って、シリンダライナ13の正常動作と現在のシリンダライナ13の動作とを比較することで、適正にディーゼルエンジンの異常を判定することができ、このときにエンジン出力を低下させることで、ピストン14とシリンダライナ13との焼き付きを防止することができる。
【実施例2】
【0041】
図2は、本発明の実施例2に係るエンジンの制御装置を表す概略構成図である。なお、上述した実施例と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0042】
実施例2のエンジンの制御装置は、図2に示すように、シリンダライナ13の状態に基づいてディーゼルエンジンを制御している。具体的には、ピストンリング15とシリンダライナ13との隙間を漏洩するガス音を検出する音響センサとしての超音波センサ33を設け、制御装置31は、この超音波センサ33の検出結果に基づいてエンジンを制御する。
【0043】
この場合、制御装置31は、ディーゼルエンジンが正常に駆動しているときの超音波センサ33が検出したピストンリング15とシリンダライナ13との隙間を漏洩するガス音と、現在のピストンリング15とシリンダライナ13との隙間を漏洩するガス音とを比較することで、ディーゼルエンジンの異常を判定する。そして、制御装置31は、ディーゼルエンジンの異常を判定したときには、ディーゼルエンジンの出力を低下させるようにしている。
【0044】
従って、現在使用している重油の性状(品質)が良くなく、燃焼性が悪い重油であったとき、燃焼室での燃焼性が悪化してシリンダライナ13の磨耗が進行することから、燃焼室16内の燃焼ガスがピストンリング15とシリンダライナ13との隙間を通って下方(クランクシャフト側)へ漏洩しやすくなり、ピストンリング15とシリンダライナ13との隙間を漏洩するガス音が異音となる。このとき、制御装置31は、ディーゼルエンジンが正常に駆動しているときのガス音と現在のガス音とを比較することで、ディーゼルエンジンの異常を判定する。そして、制御装置31は、ディーゼルエンジンの出力を低下させる。すると、エンジン本体11の燃焼室16にて、燃焼温度が低下することで、ピストン14とシリンダライナ13との間の焼き付きが抑制される。
【0045】
このように実施例2のエンジンの制御装置にあっては、ピストンリング15とシリンダライナ13との隙間を漏洩するガス音を検出する超音波センサ33を設け、この超音波センサ33の検出結果に基づいてディーゼルエンジンを制御するようにしている。
【0046】
従って、ディーゼルエンジンの燃焼性がばらつくと、シリンダライナ13の磨耗が進行することから、ピストンリング15とシリンダライナ13との隙間を漏洩するガス音に基づいてディーゼルエンジンを制御することで、ピストン14とシリンダライナ13との焼き付きを効果的に抑制することができる。
【0047】
なお、上述した実施例1、2では、音響センサとしてAEセンサ32、超音波センサ33を適用したが、これらのセンサに限定されるものではなく、検出した音を波形として取込み、比較することで異常を判定してもよい。
【実施例3】
【0048】
図3は、本発明の実施例3に係るエンジンの制御装置を表す概略構成図である。なお、上述した実施例と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0049】
実施例3のエンジンの制御装置は、図3に示すように、シリンダライナ13の状態に基づいてディーゼルエンジンを制御している。具体的には、シリンダライナ13の振動を検出する振動センサ(例えば、加速度センサなど)34を設け、制御装置31は、この振動センサ34の検出結果に基づいてエンジンを制御する。
【0050】
この場合、制御装置31は、ディーゼルエンジンが正常に駆動しているときの振動センサ34が検出したシリンダライナ13の振動と、現在のシリンダライナ13の振動とを比較することで、ディーゼルエンジンの異常を判定する。そして、制御装置31は、ディーゼルエンジンの異常を判定したときには、ディーゼルエンジンの出力を低下させるようにしている。
【0051】
従って、現在使用している重油の性状(品質)が良くなく、燃焼性が悪い重油であったとき、燃焼室での燃焼性が悪化してシリンダライナ13の磨耗が進行することから、ピストン14の挙動が不安定となって振動しやすくなり、異常な振動が発生する。このとき、制御装置31は、ディーゼルエンジンが正常に駆動しているときの振動(波形や大きさなど)と現在の振動とを比較することで、ディーゼルエンジンの異常を判定する。そして、制御装置31は、ディーゼルエンジンの出力を低下させる。すると、エンジン本体11の燃焼室16にて、燃焼温度が低下することで、ピストン14とシリンダライナ13との間の焼き付きが抑制される。
【0052】
このように実施例3のエンジンの制御装置にあっては、シリンダライナ13の振動を検出する振動センサ34を設け、この振動センサ34の検出結果に基づいてディーゼルエンジンを制御するようにしている。
【0053】
従って、ディーゼルエンジンの燃焼性がばらつくと、シリンダライナ13の磨耗が進行してピストン14が異常な挙動を起こすおそれがあることから、この発生した振動に基づいてディーゼルエンジンを制御することで、ピストン14とシリンダライナ13との焼き付きを効果的に抑制することができる。
【実施例4】
【0054】
図4は、本発明の実施例4に係るエンジンの制御装置を表す概略構成図である。なお、上述した実施例と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0055】
実施例4のエンジンの制御装置は、図4に示すように、シリンダライナ13の状態に基づいてディーゼルエンジンを制御している。具体的には、ピストンリング15とシリンダライナ13との間の摺動音を検出する音響センサとしてAEセンサ32を設けると共に、シリンダライナ13の温度を検出する温度センサ35を設け、制御装置31は、このAEセンサ32と温度センサ35の検出結果に基づいてエンジンを制御する。
【0056】
この場合、ディーゼルエンジンが正常に駆動しているときの温度センサ35が検出したシリンダライナ13の温度と、現在のシリンダライナ13の温度とを比較することで、ディーゼルエンジンの異常判定を行う。そのため、制御装置31は、ピストンリング15とシリンダライナ13との間の摺動音が異常で、且つ、シリンダライナ13の温度が異常であるときに、ディーゼルエンジンの異常を判定する。そして、制御装置31は、ディーゼルエンジンの異常を判定したときには、ディーゼルエンジンの出力を低下させるようにしている。
【0057】
従って、現在使用している重油の性状(品質)が良くなく、燃焼性が悪い重油であったとき、燃焼室での燃焼性が悪化してシリンダライナ13の磨耗が進行することから、ピストンリング15とシリンダライナ13との間の摺動音が異音となる。また、シリンダライナ13の磨耗が進行すると、シリンダライナ13の温度が上昇して異常範囲に入る。このとき、制御装置31は、ピストンリング15とシリンダライナ13との間の摺動音が異常で、且つ、シリンダライナ13の温度が異常であるときに、ディーゼルエンジンが異常であると判定する。そして、制御装置31は、ディーゼルエンジンの出力を低下させる。すると、エンジン本体11の燃焼室16にて、燃焼温度が低下することで、ピストン14とシリンダライナ13との間の焼き付きが抑制される。
【0058】
このように実施例4のエンジンの制御装置にあっては、ピストンリング15とシリンダライナ13との摺動音を検出するAEセンサ32を設けると共に、シリンダライナ13の温度を検出する温度センサ35を設け、AEセンサ32と温度センサ35の検出結果に基づいてディーゼルエンジンを制御する。
【0059】
従って、ディーゼルエンジンの燃焼性がばらつくと、シリンダライナ13の磨耗が進行することから、ピストンリング15とシリンダライナ13との摺動音に加え、シリンダライナ13の温度に基づいてディーゼルエンジンを制御することで、ピストン14とシリンダライナ13との焼き付きを効果的に抑制することができる。
【0060】
なお、この実施例4では、AEセンサ32と温度センサ35の検出結果に基づいてディーゼルエンジンを制御したが、実施例2の超音波センサ33と温度センサ35の検出結果に基づいてディーゼルエンジンを制御してもよい。また、全てのセンサ32,33,34の検出結果に基づいてディーゼルエンジンを制御してもよい。
【実施例5】
【0061】
図5は、本発明の実施例5に係るエンジンの制御装置を表す概略構成図である。なお、上述した実施例と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0062】
実施例5のエンジンの制御装置は、図5に示すように、シリンダライナ13の状態に基づいてディーゼルエンジンを制御している。具体的には、ピストンリング15とシリンダライナ13との間の摺動音を検出する音響センサとしてAEセンサ32を設け、制御装置31は、このAEセンサ32の検出結果に基づいてピストンリング15とシリンダライナ13との間の潤滑油量を増加させるようにしている。
【0063】
即ち、エンジン本体11には、ピストン14の下方に位置してピストン14(ピストンリング15)とシリンダライナ13との間に潤滑油を供給する噴射ノズル41が設けられている。潤滑油タンク42は、所定量の潤滑油を貯留可能であり、潤滑油供給管43を介して噴射ノズル41に連結されており、この潤滑油供給管43に潤滑油ポンプ44が装着されている。従って、潤滑油ポンプ44を駆動することで、潤滑油タンク42の潤滑油を潤滑油供給管43を通して噴射ノズル41に供給することができ、制御装置31は、この噴射ノズル41を駆動することで、ピストン14とシリンダライナ13との間に潤滑油を供給することができる。この噴射ノズル41による潤滑油の供給は、所定のタイミングで行われる。
【0064】
従って、現在使用している重油の性状(品質)が良くなく、燃焼性が悪い重油であったとき、燃焼室での燃焼性が悪化してシリンダライナ13の磨耗が進行することから、ピストンリング15とシリンダライナ13との間の摺動音が異音となる。このとき、制御装置31は、ピストンリング15とシリンダライナ13との間の摺動音が異常であるときに、ディーゼルエンジンが異常であると判定する。そして、制御装置31は、噴射ノズル41によるピストン14とシリンダライナ13との間への供給する潤滑油量を増加させる。すると、ピストン14とシリンダライナ13との摩擦抵抗が減少することで、ピストン14とシリンダライナ13との間の焼き付きが抑制される。
【0065】
このように実施例5のエンジンの制御装置にあっては、ピストンリング15とシリンダライナ13との摺動音を検出するAEセンサ32を設けると共に、ピストン14(ピストンリング15)とシリンダライナ13との間に潤滑油を供給する噴射ノズル41を設け、AEセンサ32の検出結果に基づいて噴射ノズル41による潤滑油の供給量を調整する。
【0066】
従って、ディーゼルエンジンの燃焼性がばらつくと、シリンダライナ13の磨耗が進行することから、ピストンリング15とシリンダライナ13との摺動音に基づいてピストン14とシリンダライナ13との間に供給する潤滑油量を調整することで、ピストン14とシリンダライナ13との焼き付きを効果的に抑制することができる。
【実施例6】
【0067】
図6は、本発明の実施例6に係るエンジンの制御装置を表す概略構成図である。なお、上述した実施例と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0068】
実施例6のディーゼルエンジンは、図6に示すように、シリンダライナ13の状態に基づいてディーゼルエンジンを制御している。具体的には、ピストンリング15とシリンダライナ13との間の摺動音を検出する音響センサとしてAEセンサ32を設け、制御装置31は、このAEセンサ32の検出結果に基づいて燃焼性の良好な重油を燃焼室16に供給するようにしている。
【0069】
第1燃料タンク24は、燃料としての重油を貯留可能であり、外部から重油を補充可能となっており、この第1燃料タンク24の燃料をエンジン本体11の燃焼室16に供給可能な第1燃料供給系25が設けられており、この第1燃料供給系25として、燃料供給管26、燃料ポンプ27、高圧インジェクタ21が配置されている。制御装置31は、エンジン運転状態に基づいて燃料噴射量や燃料噴射時期などの最適値を演算し、高圧インジェクタ21を制御可能となっている。
【0070】
また、第2燃料タンク51は、燃料としての良質な重油を貯留可能であり、外部から良質な重油を補充可能となっており、この第2燃料タンク51の燃料を第1燃料供給系25の燃料供給管26に供給可能な第2燃料供給系52が設けられている。即ち、第2燃料タンク51と燃料供給管26とが燃料供給管53により連結され、この燃料供給管53に燃料ポンプ54及び開閉弁55が装着されている。この場合、第2燃料タンク51は、燃料性状が良好で燃焼性の良い良質な重油が貯留されている。
【0071】
従って、燃料ポンプ54を駆動すると共に開閉弁55を開放することで、第2燃料タンク51内の良質な燃料が加圧された後、燃料供給管53を通して燃料供給管26に供給することができる。
【0072】
従って、現在使用している重油の性状(品質)が良くなく、燃焼性が悪い重油であったとき、燃焼室での燃焼性が悪化してシリンダライナ13の磨耗が進行することから、ピストンリング15とシリンダライナ13との間の摺動音が異音となる。このとき、制御装置31は、ピストンリング15とシリンダライナ13との間の摺動音が異常であるときに、ディーゼルエンジンが異常であると判定する。そして、制御装置31は、燃料ポンプ54を駆動すると共に開閉弁55を開放し、第2燃料タンク51内の良質な燃料を加圧してから燃料供給管53を通して燃料供給管26に供給する。すると、燃焼性が改善されることで、ピストン14とシリンダライナ13との間の焼き付きが抑制される。
【0073】
なお、第2燃料タンク51にある良質な燃料を燃料供給管26に供給するときの供給量は、現在使用している重油の燃焼性、第1燃料タンク24内の良質でない燃料量、第2燃料タンク51内の良質な燃料量、新しい重油を充填することができるまでの時間などに基づいて設定される。この場合、各燃料タンク24,51にある燃料の割合を設定して開閉弁55の開度を設定するが、第2燃料タンク51にある良質な燃料だけを用いてエンジンを駆動してもよい。
【0074】
このように実施例6のエンジンの制御装置にあっては、ピストンリング15とシリンダライナ13との摺動音を検出するAEセンサ32を設けると共に、第2燃料タンク51に貯留された燃焼性の良好な重油を燃焼室16に供給可能な第2燃料供給系52を設け、AEセンサ32の検出結果に基づいて良好な重油を燃焼室16に供給するようにしている。
【0075】
従って、ディーゼルエンジンの燃焼性がばらつくと、シリンダライナ13の磨耗が進行することから、ピストンリング15とシリンダライナ13との摺動音に基づいて第2燃料タンク51の良好な重油を燃焼室16に供給することで、ピストン14とシリンダライナ13との焼き付きを効果的に抑制することができる。
【0076】
なお、上述した実施例5、6にて、シリンダライナ13の状態を検出するセンサとしてAEセンサ32を適用したが、超音波センサ33や振動センサ34を適用してもよく、更に、温度センサ35を加えてもよい。
【0077】
また、上述した各実施例にて、本発明に係るエンジンの制御装置を船舶に搭載されて航行用としてのディーゼルエンジンに適用して説明したが、陸用ボイラなどに使用されているディーゼルエンジンに適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係るエンジンの制御装置は、シリンダライナの状態に基づいてエンジンを制御することで、使用する燃料としての重油の性状がばらついても適正にエンジンを制御することで、ピストンとシリンダライナとの焼き付きを抑制可能とするものであり、いずれのエンジンにも適用することができる。
【符号の説明】
【0079】
11 エンジン本体
12 シリンダボア
13 シリンダライナ
14 ピストン
15 ピストンリング
16 燃焼室
21 高圧インジェクタ(燃料供給装置)
24 第1燃料タンク
25 第1燃料供給系
31 制御装置
32 AEセンサ(音響センサ)
33 超音波センサ(音響センサ)
34 振動センサ
35 温度センサ
51 第2燃料タンク
52 第2燃料供給系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダボアの内面に固定された円筒形状をなすシリンダライナと、
該シリンダライナの内側に軸心方向に移動自在に支持されると共に外周部に装着されたピストンリングが前記シリンダライナの内面に対して摺動自在なピストンと、
第1燃料タンクに貯留された燃料としての重油を燃焼室に供給可能な燃料供給装置と、
を備えるエンジンにおいて、
前記シリンダライナの状態に基づいて前記エンジンを制御する、
ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
前記ピストンリングと前記シリンダライナとの摺動音を検出する音響センサを設け、該音響センサの検出結果に基づいて前記エンジンを制御することを特徴とする請求項1に記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記ピストンリングと前記シリンダライナとの隙間を漏洩するガス音を検出する音響センサを設け、該音響センサの検出結果に基づいて前記エンジンを制御することを特徴とする請求項1に記載のエンジンの制御装置。
【請求項4】
前記シリンダライナの振動を検出する振動センサを設け、該振動センサの検出結果に基づいて前記エンジンを制御することを特徴とする請求項1に記載のエンジンの制御装置。
【請求項5】
前記シリンダライナの温度を検出する温度センサを設け、前記音響センサと前記振動センサの少なくともいずれか一つのセンサと前記温度センサの検出結果に基づいて前記エンジンを制御することを特徴とする請求項2から4のいずれか一つに記載のエンジンの制御装置。
【請求項6】
前記シリンダライナの正常動作と現在の前記シリンダライナの動作とを比較して前記エンジンの異常を判定し、該エンジンの異常を判定したときには、前記エンジンの出力を低下させることを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載のエンジンの制御装置。
【請求項7】
前記シリンダライナの正常動作と現在の前記シリンダライナの動作とを比較して前記エンジンの異常を判定し、該エンジンの異常を判定したときには、前記ピストンリングと前記シリンダライナとの間の潤滑油量を増加させることを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載のエンジンの制御装置。
【請求項8】
燃焼性の良好な重油を貯留可能な第2燃料タンクを設け、前記シリンダライナの正常動作と現在の前記シリンダライナの動作とを比較して前記エンジンの異常を判定し、該エンジンの異常を判定したときには、前記燃料供給装置は、前記第2燃料タンクの重油を前記燃焼室に供給することを特徴とする請求項4に記載のエンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−132342(P2012−132342A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283813(P2010−283813)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】