説明

エンジンの動力伝達装置

【課題】発進時及び通常走行時の変速段の変速ショックを低減しながら、部品点数を削減しエンジンの大型化を回避できるエンジンの動力伝達構造を提供する。
【解決手段】メインシャフト18に入力される駆動力を変速機構23a〜23fにより変速する変速機12と、メインシャフト18に対する駆動力の入力を断接するツインクラッチ13とを備えるエンジンにおいて、エンジンケース3に回転可能に軸支され、第1アクチュエータユニット60及び第2アクチュエータユニット61の駆動に応じて回転し、これらアクチュエータの駆動力を、第1クラッチ29及び第2クラッチ30側へ伝達する第1連係部材68,72と、変速機構(23a〜23f)側へ伝達する第2連係部材69,73とを設け、これら第1連係部材68,72及び前記第2連係部材69,73をカム体とし、ツインクラッチ13を発進クラッチと変速クラッチとを兼ねるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ及び変速機を備えるエンジンの動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シフトスピンドルの軸上に固定されたクラッチアームを介しシフトスピンドルの回動に伴い切断又は接続(断接)される機械式の変速クラッチと、シフトスピンドル軸上に固定されたチェンジアームを介しシフトスピンドルの回動に伴い変速操作される変速機構とを有する構造が開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に係る構造では、メインシャフトに設けられた変速クラッチはアーム部材(クラッチアーム)を介し機械的に断接されるが、当該アーム部材を用いた構造では、所定角度毎にシフトスピンドルを回転することとなるため発進時等では変速ショックが発生してしまう可能性があった。そこで、この特許文献1に係る構造では、当該変速クラッチとは別に、発進時等の変速ショック低減を目的とし、クランクシャフトに自動遠心クラッチからなる発進クラッチを設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−82734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に係る構造では、変速クラッチ用と遠心クラッチ用のクラッチを設けるため、クラッチを一つだけ設ける場合に比べて部品点数が多くなってしまうとともに、エンジンの重量化が課題としてあった。このため、発進時及び通常走行時の変速段の変速ショックを低減しながら、部品点数を削減しエンジンの大型化を回避できるエンジンの動力伝達構造が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載の発明は、入力軸(例えば実施形態におけるメインシャフト18)に入力される駆動力を変速機構(例えば実施形態における変速ギヤ対23a〜23f)により変速する変速機(例えば実施形態における変速機本体12)と、前記入力軸に対する駆動力の入力を断接するクラッチ(例えば実施形態におけるツインクラッチ13)とを備えるエンジン((例えば実施形態におけるエンジン1)の動力伝達装置において、エンジンケース(例えば実施形態におけるミッションケース3)に回転可能に軸支され、アクチュエータ(例えば実施形態における第1駆動モータ67及び第2駆動モータ71、又は、駆動モータ101)の駆動に応じて回転し、前記アクチュエータの駆動力を前記クラッチ側へ伝達する第1連係部材(例えば実施形態における第1カム68、第1カム72、又は第1カム102)と、前記アクチュエータの駆動力を前記変速機構側へ伝達する第2連係部材(例えば実施形態における第2カム69、第2カム73、又は第2カム103)とが設けられ、前記第1連係部材及び前記第2連係部材はカム体であるとともに、前記クラッチは発進クラッチと変速クラッチとを兼ねることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記第2連係部材と前記変速機構との間に介在し、前記第2連係部材から前記変速機構へ前記アクチュエータの駆動力を伝達し、前記第1連係部材と前記第2連係部材が設けられる軸と別軸に設けられ、前記変速機構の変速段を切り替えるシフト入力部(例えば実施形態におけるシフト入力部66)を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記シフト入力部が前記第1連係部材の回転軌跡の外側に配置され、前記第1連係部材の回転軌跡の外側に突出するように前記第2連係部材のカム部(例えば実施形態におけるカム部110)が形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、前記第1連係部材と前記クラッチとの間に介在し、前記第1連係部材の回転により駆動して前記クラッチを断接する伝達部材を備え、前記伝達部材が、前記第1連係部材の回転に応じて管路(例えば実施形態におけるシリンダ107)内でピストン(例えば実施形態におけるピストン108)を摺動させることにより前記クラッチを作動させるための作動油圧を発生する油圧発生部(例えば実施形態におけるマスターシリンダ104)を備え、前記油圧発生部が、その長手方向をエンジンの前後方向に沿わせるように配置され、前記シフト入力部、前記第1連係部材及び前記第2連係部材の軸が、エンジンの幅方向と同方向に配置されていることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、前記第1連係部材と前記クラッチとの間に介在し、前記第1連係部材の回転により駆動して前記クラッチを断接する伝達部材(例えば実施形態におけるワイヤ122)を備え、前記伝達部材が、前記第1連係部材と前記クラッチとを連結するワイヤであり、前記アクチュエータの駆動力が、前記第1連係部材と前記ワイヤとを介して前記クラッチに伝達されることにより、前記クラッチが断接されることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は前記第2連係部材と前記シフト入力部とを連結するワイヤ(例えば実施形態における第1ワイヤ、第2ワイヤ133)とを備え、前記アクチュエータの駆動力が、前記第2連係部材と前記ワイヤとを介して前記シフト入力部に伝達されることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、前記第1連係部材と前記クラッチとの間に介在し、前記第1連係部材の回転により駆動して前記クラッチを断接する伝達部材(例えば実施形態におけるワイヤ122)を備え、前記伝達部材が、前記第1連係部材と前記クラッチとを連結するワイヤであり、前記アクチュエータの駆動力が、前記第1連係部材と前記ワイヤとを介して前記クラッチに伝達されることにより、前記クラッチが断接され、前記クラッチに連結される前記ワイヤと前記シフト入力部に連結される前記ワイヤとが一体であることを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、前記クラッチが、前記入力軸に互いに同軸に配設される第1クラッチ(例えば実施形態における第1クラッチ29)及び第2クラッチ(例えば実施形態における第2クラッチ30)を備えるツインクラッチ(例えば実施形態におけるツインクラッチ13)であり、前記アクチュエータが、前記第1クラッチの操作とともに前記変速機構の変速段の切替を行うための第1アクチュエータ(例えば実施形態における第1駆動モータ67)と、前記第2クラッチの操作とともに前記変速機構の変速段の切替を行うための第2アクチュエータ(例えば実施形態における第2駆動モータ71)とで構成され、前記第1連係部材と前記第2連係部材とが、前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータに対応してそれぞれ一対設けられ、前記第1アクチュエータからの駆動力が、一方の前記第1連係部材から前記第1クラッチ側へ伝達され、前記第2アクチュエータからの駆動力が、他方の前記第1連係部材から前記第2クラッチ側へ伝達され、前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータからの駆動力が、前記第2連係部材の双方から前記変速機構側へ伝達可能であることを特徴とする。
【0014】
請求項9に記載の発明は、前記変速機構が、前記第1クラッチと連結し奇数段ギヤを備える第1変速機構(例えば実施形態における変速ギヤ対23a,23c,23e)と、前記第2クラッチと連結し偶数段ギヤを備える第2変速機構(例えば実施形態における変速ギヤ対23b,23d,23f)とを備え、一方の前記第1連係部材が前記第1クラッチを接続状態とする場合に、他方の前記第1連結部材が前記第2クラッチを切断状態とし、他方の前記第1連係部材が前記第2クラッチを接続状態とする場合に、一方の前記第1連係部材が前記第1クラッチを切断状態とすることを特徴とする。
【0015】
請求項10に記載の発明は、前記第1連係部材と前記第2連動部材とが連動して回転し、一方の前記第1連係部材が前記第1クラッチを接続状態とする回転位置で、この第1連係部材と同軸上の前記第2連係部材が変速段の切替のための駆動力を伝達可能であり、他方の前記第1連係部材が前記第2クラッチを接続状態とする回転位置で、この第1連係部材と同軸上の前記第2連係部材が変速段の切替のための駆動力を伝達可能であることを特徴とする。
【0016】
請求項11に記載の発明は、前記第2連係部材と前記変速機構との間に介在し、前記第2連係部材から前記変速機構へ前記アクチュエータの駆動力を伝達し、前記第1連係部材と前記第2連係部材が設けられる軸と別軸に設けられ、前記変速機構の変速段を切り替えるシフト入力部(例えば実施形態におけるシフト入力部66)を備えることを特徴とする。
【0017】
請求項12に記載の発明は、前記シフト入力部が前記第1連係部材の回転軌跡の外側に配置され、前記第1連係部材の回転軌跡の外側に突出するように前記第2連係部材のカム部(例えば実施形態におけるカム部77,78)が形成され、前記シフト入力部は、一方の前記第1連係部材及び前記第2連係部材と、他方の前記第1連係部材及び前記第2連係部材との間に配置されていることを特徴とする。
【0018】
請求項13に記載の発明は、前記第1連係部材と前記クラッチとの間に介在し、前記第1連係部材の回転により駆動して前記クラッチを断接する伝達部材(例えば実施形態における第1マスターシリンダ70及び第1管路57、第2マスターシリンダ74及び第2管路58)を備え、前記伝達部材が、前記第1連係部材の回転に応じて管路((例えば実施形態におけるシリンダ79,83)内でピストン(例えば実施形態におけるピストン80,84)を摺動させることにより前記クラッチを作動させるための作動油圧を発生する油圧発生部(例えば実施形態における第1マスターシリンダ70、第2マスターシリンダ74)を備え、前記油圧発生部が、その長手方向をエンジンの前後方向に沿わせるように配置され、前記シフト入力部、前記第1連係部材及び前記第2連係部材の軸が、エンジンの幅方向と同方向に配置されていることを特徴とする。
【0019】
請求項14に記載の発明は、前記油圧発生部が、前記第1クラッチに駆動力を伝達する第1油圧発生部(例えば実施形態における第1マスターシリンダ70)と、前記第2クラッチに駆動力を伝達する第2油圧発生部(例えば実施形態における第2マスターシリンダ74)とで構成され、前記第1油圧発生部と第2油圧発生部とが、エンジンの上下方向で重なるように配置されるとともに、エンジンの上面視でエンジンケース(例えば実施形態におけるクランクケース2)の外側端部よりも内側に配置されていることを特徴とする。
【0020】
請求項15に記載の発明は、前記第1連係部材と前記クラッチとの間に介在し、前記第1連係部材の回転により駆動して前記クラッチを断接する伝達部材(例えば実施形態におけるワイヤ122)を備え、前記伝達部材が、前記第1連係部材と前記クラッチとを連結するワイヤであり、前記アクチュエータの駆動力が、前記第1連係部材と前記ワイヤとを介して前記クラッチに伝達されることにより、前記クラッチが断接されることを特徴とする。
【0021】
請求項16に記載の発明は、前記第2連係部材と前記シフト入力部とを連結するワイヤ(例えば実施形態における第1ワイヤ132、第2ワイヤ133)とを備え、前記アクチュエータの駆動力が、前記第2連係部材と前記ワイヤとを介して前記シフト入力部に伝達されることを特徴とする。
【0022】
請求項17に記載の発明は、前記第1連係部材と前記クラッチとの間に介在し、前記第1連係部材の回転により駆動して前記クラッチを断接する伝達部材(例えば実施形態におけるワイヤ122)を備え、前記伝達部材が、前記第1連係部材と前記クラッチとを連結するワイヤであり、前記アクチュエータの駆動力が、前記第1連係部材と前記ワイヤとを介して前記クラッチに伝達されることにより、前記クラッチが断接され、前記クラッチに連結される前記ワイヤと前記シフト入力部に連結される前記ワイヤとが一体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に記載の発明によれば、同軸上にクラッチ断接用の第1連係部材のカム体と変速段切り替え用の第2連係部材のカム体を設けることにより、アクチュエータを兼用としてクラッチの断接及び変速段の切り替えがなされるとともに、アーム部材(クラッチアーム、チェンジアーム等)を用いたクラッチ断接機構や変速切替え機構と比べて、カム曲線に沿った滑らかでより緻密な制御が可能となるので、発進時及び通常走行時に係らず変速段切替時の変速ショックを低減することができ、更には変速クラッチが発進クラッチを兼ねるので部品点数の削減が可能となるとともに、エンジンの大型化を回避できる。
【0024】
請求項2に記載の発明によれば、第1連係部材と第2連係部材が設けられる軸と別軸に設けられたシフト入力部を備えるので、軸方向にコンパクトにしながら変速機構を設けることができる。
【0025】
請求項3に記載の発明によれば、第1連係部材及び第2連係部材を駆動する際に、第1連係部材とシフト入力部との干渉を避けながら、アクチュエータからの駆動力を第2連係部材とシフト入力部を介して変速機構に伝達することができる。
【0026】
請求項4に記載の発明によれば、油圧発生部をエンジン幅方向、すなわちシフト入力部と各連係部材と同列に並ぶように配置する場合に比べて、エンジンが幅方向に拡がることがなく、コンパクトにシフト入力部、各連係部材及び油圧発生部を配置することができる。
【0027】
請求項5,15に記載の発明によれば、油圧に比べて簡素なワイヤでクラッチ操作をすることで、製造コストの低減を図ることができる。
【0028】
請求項6,16に記載の発明によれば、油圧に比べて簡素なワイヤでクシフト操作をすることで、製造コストの低減を図ることができる。
【0029】
請求項7,17に記載の発明によれば、クラッチ及びシフト入力部それぞれに対してワイヤを設ける場合に比べて部品点数を削減できるとともに、油圧に比べて簡素なワイヤでクラッチ操作及びシフト操作をすることができるため、製造コストの低減をより図ることができる。
【0030】
請求項8に記載の発明によれば、ツインクラッチ式のクラッチを採用している場合において、カム曲線に沿った滑らかでより緻密な制御が可能となるので、発進時及び通常走行時に係らず変速段切替時の変速ショックを低減することができ、更には変速クラッチが発進クラッチを兼ねるので部品点数の削減が可能となるとともに、エンジンの大型化を回避できる。
【0031】
請求項9,10に記載の発明よれば、ツインクラッチ式のクラッチを採用している場合において、変速段の切り替えをスムーズに行うことができる。
【0032】
請求項11に記載の発明によれば、ツインクラッチ式のクラッチを採用している場合において、第1連係部材と第2連係部材が設けられる軸と別軸に設けられたシフト入力部を備えるので、軸方向にコンパクトにしながら変速機構を設けることができる。請求項12に記載の発明によれば、第1連係部材体及び第2連係部材を駆動する際に、第1連係部材とシフト入力部との干渉を避けながら、アクチュエータからの駆動力を第2連係部材とシフト入力部を介して変速機構に伝達することができる。
【0033】
請求項13記載の発明によれば、油圧発生部をエンジン幅方向、すなわちシフト入力部と各連係部材と同列に並ぶように配置する場合に比べて、コンパクトにシフト入力部、各連係部材及び油圧発生部を配置することができる。請求項14に記載の発明によれば、エンジンの幅方向に突出することなく油圧発生部をコンパクトに配置できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るエンジンの左側面図である。
【図2】第1の実施形態に係るエンジンの上面図である。
【図3】第1の実施形態に係るツインクラッチ式変速機の断面図である。
【図4】第1の実施形態に係るエンジンの動力伝達系の構成図である。
【図5】第1の実施形態に係るアクチュエータユニットの側面図である。
【図6】第1の実施形態に係るアクチュエータユニットの背面図である。
【図7】第1の実施形態に係るアクチュエータユニットの動作を説明する図である。
【図8】第1の実施形態に係るアクチュエータユニットの動作を説明する図である。
【図9】第1の実施形態に係るアクチュエータユニットの動作を説明する図である。
【図10】第1の実施形態に係るアクチュエータユニットの動作を説明する図である。
【図11】第1の実施形態に係るアクチュエータユニットのカムの送り角度とピストンのストロークの関係を示した図である。
【図12】第1の実施形態に係るツインクラッチ式変速機の変速動作を示す表を示した図である。
【図13】第1の実施形態におけるシフトアップ時の動作を説明する図である。
【図14】第1の実施形態におけるシフトアップ時の動作を説明する図である。
【図15】第1の実施形態におけるシフトアップ時の動作を説明する図である。
【図16】第1の実施形態におけるシフトアップ時の動作を説明する図である。
【図17】第1の実施形態におけるシフトアップ時の動作を説明する図である。
【図18】第1の実施形態におけるシフトアップ時の動作を説明する図である。
【図19】第1の実施形態におけるシフトダウン時の動作を説明する図である。
【図20】第1の実施形態におけるシフトダウン時の動作を説明する図である。
【図21】第1の実施形態におけるシフトダウン時の動作を説明する図である。
【図22】第1の実施形態におけるシフトダウン時の動作を説明する図である。
【図23】本発明の第2の実施形態に係るアクチュエータユニットの側面図である。
【図24】第2の実施形態に係るアクチュエータユニットの動作を説明する図である。
【図25】第2の実施形態に係るアクチュエータユニットの動作を説明する図である。
【図26】本発明の第3の実施形態に係るアクチュエータユニットを説明する図である。
【図27】本発明の第4の実施形態に係るアクチュエータユニットを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について添付の図面を参照し説明する。
【0036】
<第1の実施形態>
先ず、本発明の第1の実施形態が適用されたエンジン1について図1〜図22を用いて説明する。本実施形態では、エンジン1が自動二輪車に搭載されていることを想定し、図中に車両前方を示す矢印FR、車両上方を示す矢印UP、車両左方を示す矢印LHを図示している。以下ではエンジン1の説明にあたり適宜車両の方向を用い、車両の向きをエンジン1の向きとする。
【0037】
図1,図2に示すようにエンジン1はクランク軸線C1を車幅方向(左右方向)に沿わせて車両に搭載される並列多気筒(例えば、並列二気筒)エンジンとして構成されている。エンジン1は、クランクケース2とミッションケース3とが一体的に形成されたエンジンケース4を備えている。クランクケース2の左端部はミッションケース3の左端部よりも車幅方向外側に張り出すように形成され(図2参照)、クランクケース2にはクランクシャフト5が収容され、ミッションケース3にはツインクラッチ式変速機6が収容されている。
【0038】
クランクケース2の上部には前上方に向けて延びるシリンダ部7が立設され、シリンダ部7の後部に吸気系を構成するスロットルボディ8が接続され、シリンダ部7の前部に排気管9が接続されている。シリンダ部7内には各気筒に対応するピストン10が往復動可能に嵌装され、各ピストン10には、該各ピストン10の往復動をクランクシャフト5の回転動に変換するコンロッド11の上端が連結されている。コンロッド11の下端はクランクシャフト5に連結されている。
【0039】
クランクシャフト5の後方にツインクラッチ式変速機6が位置付けられ、クランクシャフト5の回転動が伝達される。ツインクラッチ式変速機6は、変速機本体12と、ツインクラッチ13と、ツインクラッチ13を切断または接続するための駆動力を付与する断接作動機構部14と、を備えている(図2参照)。
【0040】
ツインクラッチ式変速機6はクランクシャフト5からの駆動力を変速した後、例えばチェーン式の動力伝達機構を介して自動二輪車の後輪に伝達する。クランクケース2及びミッションケース3の右側にはクラッチカバー15が付設され、クランクシャフト5及びツインクラッチ式変速機6の右端部はクラッチカバー15によって覆われている。なお、以下では、クラッチの切断又は接続を併せて「断接」と呼ぶものとする。
【0041】
図3を参照し、変速機本体12は、内シャフト16、外シャフト17からなる二重構造のメインシャフト18と、このメインシャフト18と平行に配置されるカウンタシャフト19と、メインシャフト18及びカウンタシャフト19に跨って配置される変速ギヤ群20と、を備えている。
【0042】
メインシャフト18はミッションケース3の左右に軸方向を延ばして回転可能に支持され、内シャフト16右側部を外シャフト17内に挿通させている。図中符合24,25はメインシャフト18を回動可能に支持するボールベアリングを示している。符号26,27はカウンタシャフト19を回動可能に支持するボールベアリングを示している。
【0043】
内外シャフト16,17の外周には、変速ギヤ群20における六速分の駆動ギヤ21a〜21fが振り分けて配置され、一方、カウンタシャフト19の外周には、変速ギヤ群20における六速分の従動ギヤ22a〜22fが配置されている。
【0044】
各駆動ギヤ21a〜21f及び従動ギヤ22a〜22fは、各変速段同士で互いに噛み合い、それぞれ各変速段に対応する変速ギヤ対23a〜23fを構成する。詳しくは、変速ギヤ対23a,23c,23eに1,3,5速が割り当てられ、変速ギヤ対23b,23d,23fに2,4,6速の減速比が割り当てられている。またカウンタシャフト19の左端部に後輪に駆動力を伝達するドライブスプロケット28が設けられている。
【0045】
ツインクラッチ13は、メインシャフト18の右端部に互いに同軸に隣接配置された油圧式の第1クラッチ29と、第2クラッチ30と、クランクシャフト5の右端部に設けられたプライマリドライブギヤ31と噛み合うプライマリドリブンギヤ32と、を備えており、クランクシャフト5からメインシャフト18に入力される駆動力を断接する。
【0046】
第1クラッチ29は、第2クラッチ30の内側に配置され、第1クラッチ29に内シャフト16が連結され、第2クラッチ30に外シャフト17が連結されている。
【0047】
内側に位置する第1クラッチ29は、プライマリドリブンギヤ32と結合して円筒状に突出しクランクシャフト5からの駆動力を伝達されるアウターハウジング34と一体的に接続されて内周側に設けられたインナーハウジング40と、このインナーハウジング40の内側に設けられたボス41と、インナーハウジング40とボス41との間に交互に積層状に設けられた複数のフリクションディスク42及びクラッチディスク43と、軸方向に移動可能なプレッシャープレート44と、プレッシャープレート44をボス41から離間させる方向に弾性付勢して、フリクションディスク42及びクラッチディスク43を引き離す図示しないスプリングと、を備えており、クラッチを操作しない通常時においては、クラッチが切断されている状態となる所謂「ノーマリーオープン」タイプのクラッチとして構成され、発進クラッチを兼ねている。
【0048】
この第1クラッチ29では、プレッシャープレート44が内側(左方)に押圧されると、プレッシャープレート44がフリクションディスク42及びクラッチディスク43を摩擦係合させ、接続状態(動力が伝達される状態)となり、また、プレッシャープレート44に対する押圧が解除されると、スプリングによりプレッシャープレート44がボス41側から離間され、遮断状態(動力が伝達されない切り離し状態)となる。
【0049】
外側に位置する第2クラッチ30は、プライマリドリブンギヤ32と結合して円筒状に突出しクランクシャフト5からの駆動力を伝達されるアウターハウジング34と、このアウターハウジング34の内側に設けられたボス35と、アウターハウジング34とボス35との間に交互に積層状に設けられた複数のフリクションディスク36及びクラッチディスク37と、軸方向に移動可能なプレッシャープレート38と、プレッシャープレート38をボス35から離間させる方向に弾性付勢して、フリクションディスク36及びクラッチディスク37を引き離す図示しないスプリングと、を備えており、クラッチを操作しない通常時においては、クラッチが切断されている状態となる所謂「ノーマリーオープン」タイプのクラッチとして構成され、発進クラッチを兼ねている。
【0050】
この第2クラッチ30では、プレッシャープレート38が内側(左方)に押圧されると、プレッシャープレート38がフリクションディスク36及びクラッチディスク37を摩擦係合させ、接続状態(動力が伝達される状態)となり、また、プレッシャープレート38に対する押圧が解除されると、スプリングによりプレッシャープレート38がボス35側から離間され、遮断状態(動力が伝達されない切り離し状態)となる。
【0051】
断接作動機構部14は、第1クラッチ29のプレッシャープレート44をスプリングの付勢力に抗して内側に押圧する第1作動機構部45と、第2クラッチ30のプレッシャープレート38をスプリングの付勢力に抗して内側に押圧する第2作動機構部46と、を備えており、第1クラッチ29及び第2クラッチ30に対して断接のための駆動力を付与する。
【0052】
第1作動機構部45は、ベアリング47を介してプレッシャープレート44を回転可能に支持するとともに、ベアリング47を介してプレッシャープレート44を車幅方向内側に押圧可能なロッドサポート48と、ロッドサポート48に基端を結合しメインシャフト18の軸線上に配置されるプッシュロッド49と、プッシュロッド49を介してロッドサポート48を車幅方向内側に移動させる第1スリーブシリンダ50と、で構成され、第1スリーブシリンダ50によりプッシュロッド49を車幅方向内側(矢印A方向)に押圧する。これにより、第1クラッチ29のプレッシャープレート44が押されて、第1クラッチ29が接続状態になる。なお図中符合57は第1スリーブシリンダ50に作動油圧を供給する第1管路を示している。
【0053】
第2作動機構部46は、プレッシャープレート38と当接するリンクロッド51と、リンクロッド51の他端と当接する円環状の中間プレート52と、ベアリング53を介して中間プレート52を回転可能に支持するとともに、ベアリング53を介して中間プレート52を車幅方向内側に押圧可能な円環状のロッドサポート54と、ロッドサポート54に基端を結合したプッシュロッド55と、プッシュロッド55を介してロッドサポート54を車幅方向内側に移動させる第2スリーブシリンダ56と、で構成され、第2スリーブシリンダ56によりプッシュロッド55を車幅方向内側(矢印B方向)に押圧する。これにより、第2クラッチ30のプレッシャープレート38が押されて、第2クラッチ30が接続状態となる。なお図中符合58は第2スリーブシリンダ56に作動油圧を供給する第2管路を示している。
【0054】
なお、第2作動機構部46においては、リンクロッド51がプレッシャープレート38の周方向において120度間隔で3本配置され、これによりプレッシャープレート38に対して偏りなく引っ張り力を与えることが可能になっている。またリンクロッド51は、インナーハウジング40に形成された貫通孔40Aを挿通して中間プレート52に至り、インナーハウジング40に係動して回転するが、中間プレート52が回転可能に支持されているため、ロッドサポート54に回転が伝わることはない。また中間プレート52及びロッドサポート54はメインシャフト18と同軸に配置されており、第1作動機構部45のプッシュロッド49は中間プレート52及びロッドサポート54の内周内部を挿通されている。またプッシュロッド55はロッドサポート54の直径方向において対向するように一対設けられ、これによりロッドサポート54に対して偏りなく引っ張り力を与えることが可能になっている。
【0055】
図4を参照し、同図にはエンジン1の動力伝達系の構成が示され、第1作動機構部45及び第2作動機構部46に対して駆動力を付与する第1アクチュエータユニット60及び第2アクチュエータユニット61、第1アクチュエータユニット60及び第2アクチュエータユニット61を駆動制御するECU(Engine Control Unit)62、並びに、変速機本体12に対して変速操作を行うシフト駆動機構部63が示されている。
【0056】
図4において、断接作動機構部14の第1作動機構部45は第1管路57を介して第1アクチュエータユニット60に接続され、第2作動機構部46は第2管路58を介して第2アクチュエータユニット61に接続されている。またECU62は第1アクチュエータユニット60及び第2アクチュエータユニット61に接続されている。
【0057】
シフト駆動機構部63は、メインシャフト18及びカウンタシャフト19と平行に配置されたシフトドラム64と、シフトドラム64の回転により移動されるシフトフォーク65a〜65dと、を備えている。シフト駆動機構部63は、第1クラッチ29又は第2クラッチ30の切断状態のときに、変速機本体12に対して変速操作を行う。
【0058】
シフト駆動機構部63においてシフトフォーク65a〜65dの端部は、変速機本体12の変速ギヤ対23a,23c,23e側、変速ギヤ対23b,23d,23f側に係合され、シフトドラム64の回転によりメインシャフト18及びカウンタシャフト19の軸方向に移動される。
【0059】
シフトフォーク65a〜65dは、シフトドラム64の回転に応じ、変速ギヤ対23a,23c,23e及び変速ギヤ対23b,23d,23fを全てニュートラル状態とするポジション、変速ギヤ対23a(1速)を確立して、その他をニュートラル状態とするポジション、変速ギヤ対23a(1速)を確立しつつ変速ギヤ対23b(2速)を確立させ、その他をニュートラル状態とするポジション、変速ギヤ対23b(2速)のみを確立して、その他をニュートラル状態とするポジション等、を設定することが可能となっている。
【0060】
シフトドラム64の端部にはシフトドラム64を回転させるためのシフト入力部66が固定され、このシフト入力部66は、第1アクチュエータユニット60と第2アクチュエータユニット61との間に配置されている。詳しくは図1に示されるように、シフト入力部66はミッションケース3の外側に露出し、上下に並んで配置された第1アクチュエータユニット60と第2アクチュエータユニット61との間に配置されている。
【0061】
図5,図6に第1アクチュエータユニット60、第2アクチュエータユニット61、及び、シフト入力部66が拡大して示されている。同図に示すように第1アクチュエータユニット60は、第1駆動モータ67と、ミッションケース3に回転可能に支持された第1カム68、第2カム69と、第1マスターシリンダ70と、を備えている。また第2アクチュエータユニット61は、第2駆動モータ71と、ミッションケース3に回転可能に支持された第1カム72、第2カム73と、第2マスターシリンダ74と、を備えている。
【0062】
以下、第1アクチュエータユニット60及び第2アクチュエータユニット61について詳しく説明すると、先ず、第1駆動モータ67の駆動軸67Aの先端と第1カム68との間にはウォームギヤ67Bが設けられ、第2駆動モータ71の駆動軸71Aの先端と第1カム72との間にはウォームギヤ71Bが設けられている。第1カム68,第2カム69及び第1カム72,第2カム73は、それぞれの軸をエンジン1の幅方向に沿わせて回転可能に支持されている。
【0063】
第1カム68と第2カム69は同軸上に配置され一体的に結合され、第1カム72と第2カム73は同軸上に配置されて一体的に結合されている。第1カム68及び第1カム72には、図中反時計回りの方向に次第に高くなるカム面75及びカム面76が設定され、第1マスターシリンダ70は第1カム68及び第2カム69の後方に配置され、第2マスターシリンダ74は第1カム72及び第2カム73の後方に配置されている。
【0064】
第1マスターシリンダ70は、シリンダ79と、シリンダ79内に挿通されるピストン80と、シリンダ79内の圧縮室81側にオイルを供給するリザーバタンク82と、を備えており、そのピストン80はシリンダ79から一部外部に露出し第1カム68のカム面75に向けて延ばされて伸縮可能とされている。ピストン80の最大伸長位置は、カム面75の最低面と接近する位置に設定されている。
【0065】
また、第2マスターシリンダ74も、シリンダ83と、シリンダ83内に挿通されるピストン84と、シリンダ83内の圧縮室85側にオイルを供給するリザーバタンク86と、を備えており、ピストン84はシリンダ83から一部外部に露出し第1カム72のカム面76に向けて延ばされて伸縮可能とされている。ピストン84の最大伸長位置は、カム面76の最低面と接近する位置に設定されている。
【0066】
図1,2を参照すると、第1マスターシリンダ70と第2マスターシリンダ74は、エンジン1の前後方向に沿って延びるように配置され、互いにエンジン1の上下方向で重なるように配置されている。また、第1マスターシリンダ70と第2マスターシリンダ74は、エンジン1の上面視では、クランクケース2よりも内側に位置するミッションケース3に配置されており、換言すれば、第1マスターシリンダ70と第2マスターシリンダ74は、エンジンケース4の外側端部よりも内側に配置されている。なお、第1アクチュエータユニット60及び第2アクチュエータユニット61は図示しないブラケットを介してミッションケース3に支持される。
【0067】
第2カム69及び第2カム73には、周方向に一部突出するカム部77,78が設定され、ここで第1カム68及び第2カム69と第1カム72及び第2カム73との間にシフト入力部66が配置され、詳しくは、シフト入力部66は第1カム68及び第1カム72の外周(回転軌跡)よりも外側に配置されている。
【0068】
ここで、シフト入力部66には、回転中心から上方に突出しカム部77と当接可能な上側当接部87と、回転中心から下方に突出しカム部78と当接可能な下側当接部88とが形成され、そして、これに対して、第2カム69のカム部77及び第2カム73のカム部78はそれぞれ、第1カム68、第1カム72の外周(回転軌跡)よりも外側に突出して、回転によりシフト入力部66の上側当接部87と下側当接部88と干渉可能となるように長さ寸法を設定されている。また、図6に示すように第2カム69及び第2カム73は、第1カム68及び第1カム72の軸方向において車幅方向内側に偏倚されて配置されている。
【0069】
また、ここでシフト入力部66は、紙面において反時計回りにシフトアップ方向が設定され(回転矢印UP)、時計回り方向にシフトダウン方向が設定され(回転矢印DN)、上側当接部87を上方に、下側当接部88を下方に向けた状態を中立位置として設定されており、回転された際に上側当接部87及び下側当接部88を中立位置に引き戻す付勢手段が設けられている。すなわち、シフト入力部66には、シフトドラム64を回転させる一方で、シフト入力部66自体は中立位置に戻される間欠送り機構が設けられている。
【0070】
図5において、第1アクチュエータユニット60の第1カム68及び第2カム69の回転中心から第2カム69の長手方向に延びる直線「L1」は、第1アクチュエータユニット60の第1カム68及び第2カム69の基準位置を示し、第2アクチュエータユニット61の第1カム72及び第2カム73の回転中心から第2カム73の長手方向に延びる「L2」は、第2アクチュエータユニット61の第1カム72及び第2カム73の基準位置を示している。
【0071】
この基準位置L1は、第1アクチュエータユニット60が第1クラッチ29に対しても、シフト入力部66に対しても何ら駆動力を付与しない基準位置を示し、ECU62の制御におけるデフォルト位置を示すものである。また、同様に基準位置L2も、第2アクチュエータユニット61が第2クラッチ30に対しても、シフト入力部66に対しても何ら駆動力を付与しない基準位置を示し、ECU62の制御におけるデフォルト位置を示すものである。
【0072】
上記の基準位置L1,L2を用いて第1アクチュエータユニット60及び第2アクチュエータユニット61の動作について説明すると、先ず、第1アクチュエータユニット60においては、図7に示すように基準位置L1から時計周りに第1カム68を回転させると、第1カム68のカム面75によりピストン80を次第に縮退させることができる。また、第2アクチュエータユニット61において、基準位置L2から時計回りに第1カム72を回転させると、第1カム72のカム面76によりピストン84を縮退させることができる。
【0073】
また、図8に示すように第1アクチュエータユニット60において第1カム68を基準位置L1に設定して、第2アクチュエータユニット61において第2カム73を基準位置L2から時計回りに回転させれば、第2カム69によりシフト入力部66をシフトアップ方向に回転させることができる。また、図示しないが、第1アクチュエータユニット60において第1カム68を基準位置L1に設定して、第2アクチュエータユニット61において第2カム73を基準位置L2から反時計回りに回転させれば、第2カム69によりシフト入力部66をシフトダウン方向に回転させることができる。
【0074】
また、図9に示すように第2アクチュエータユニット61において第1カム72を基準位置L2に設定して、第1アクチュエータユニット60の第2カム69を基準位置L1から時計回りに回転させれば、第2カム73によりシフト入力部66をシフトアップ方向に回転させることができる。また、図示しないが、第2アクチュエータユニット61において第1カム72を基準位置L2に設定して、第1アクチュエータユニット60の第2カム69を基準位置L1から反時計回りに回転させれば、第2カム73によりシフト入力部66をシフトダウン方向に回転させることができる。
【0075】
また、図10に示すように第1アクチュエータユニット60においては第1カム68を基準位置L1から時計回りに回転させてピストン80を縮退させた状態においてさらに回転させ、第2カム69によりシフト入力部66をシフトアップ方向に回転させることもできる。また同様に第2アクチュエータユニット61においては、第1カム72を基準位置L2から時計回りに回転させてピストン84を縮退させた状態においてさらに回転させ、第2カム73によりシフト入力部66をシフトアップ方向に回転させることができる。
【0076】
したがって、第1アクチュエータユニット60では、第1カム68を基準位置L1から時計回りに回転させてピストン80を縮退させることで、圧縮室81内のオイルを十分に圧縮して作動油圧が発生させることができ、第1作動機構部45側に駆動力を伝達して第1クラッチ29を接続状態とすることができる。また、第2アクチュエータユニット61においても、第1カム72を基準位置L2から時計回りに回転させてピストン84を縮退させることで、圧縮室85内のオイルを圧縮して作動油圧が発生させることができ、第2作動機構部46側に駆動力を伝達して第2クラッチ30を接続状態とすることができる。さらには第1アクチュエータユニット60及び第2アクチュエータユニット61の単独作動または協働によりシフトアップ操作もシフトダウン操作も行うことができる。
【0077】
このように本実施形態では、第1アクチュエータユニット60及び第2アクチュエータユニット61により、第1クラッチ29及び第2クラッチの断接、並びに、シフト入力部66に対するシフトアップ操作及びシフトダウン操作が可能であり、そして、このような各種動作を組み合わせることで、ツインクラッチ式変速機6の変速操作が可能となっている。なお、第1アクチュエータユニット60及び第2アクチュエータユニット61に対する駆動制御をECU62が実行することは先でも述べたが、このECU62は、図示しないシフトドラム64の回転位置を検出するセンサ、スロットルグリップの開度センサ、スロットルボディ8のスロットルバルブの開度センサ等の情報に基づき制御信号を出力する。
【0078】
また、図10では第1アクチュエータユニット60においては第1カム68を基準位置L1から時計回りに回転させてピストン80を縮退させた状態においてさらに回転させ、第2カム69によりシフト入力部66をシフトアップ方向に回転させることを説明したが、第1カム68と第2カム69との間には、第1カム68により第1クラッチ29を接続した状態を維持して第2カム69によりシフト入力部66を回転させることができるように位相の設定がされている。図11にはピストン80の変位量と第1カム68の送り角度の関係が示され、図中0度は基準位置L1の位置である。この図から明らかなように、第1カム68がピストン80を最大にリフトさせて第1クラッチ29が接続される角度は比較的広く設定され(図中W)、第2カム69をシフト入力部66に当接できるようになっている。なお、第2アクチュエータユニット61においても同様である。
【0079】
次に、ツインクラッチ式変速機6の変速時における第1アクチュエータユニット60及び第2アクチュエータユニット61の動作について図12〜図22を用いてより具体的に説明する。図12には、ツインクラッチ式変速機6の変速動作における状態遷移を示す表が示され、図13〜図22には、図12に示す状態遷移に対応する第1アクチュエータユニット60及び第2アクチュエータユニット61の作動状態が示されている。
【0080】
図12に示す表では、車両走行時に、1,3,5速に対応する変速ギヤ対23a,23c,23e(以下、第1変速機構)、及び、2,4,6速に対応する変速ギヤ対23b,23d,23f(以下、第2変速機構)が停車状態(P0)から順次確立するギヤポジションを上から順に示している。表中、「N」はニュートラル状態を示し、数字は確立されているギヤを示している。ツインクラッチ式変速機6は、表中P0〜P11に対応するギヤポジションを確立して走行する。以下では、図11に示すポジション(以下、P0・・・)に従い、停車状態からシフトアップして走行するとき、走行中においてシフトダウンして停車状態にするときの第1アクチュエータユニット60及び第2アクチュエータユニット61の動作について説明する。
【0081】
先ず、停車状態から走行するときの動作について説明する。
最初のポジションであるP0では、第1変速機構、第2変速機構のギヤはいずれもニュートラル状態となっている。ここでは、第1アクチュエータユニット60及び第2アクチュエータユニット61は第1クラッチ29及び第2クラッチ30を切断した状態としており、図13に示すように第1アクチュエータユニット60では第2カム69が基準位置L1に沿った状態にあり、第2アクチュエータユニット61では第2カム73が基準位置L2に沿った状態にある。
【0082】
走行を開始するためにP1では、第1変速機構におけるギヤを1速に入れるため、図14に示すように第2アクチュエータユニット61の第2カム73を時計回りに回転させてシフト入力部66をシフトアップ方向に回転させる。この際、第1カム72も回転されることで第2クラッチ30は接続されるが、第2クラッチ30に接続する第2変速機構はニュートラル状態であるため停車は維持される。そして続けて、図15に示すように第2アクチュエータユニット61の第2カムを基準位置L2に戻して第2クラッチ30を切断状態とするとともに、第1クラッチ29を接続するために第1アクチュエータユニット60の第1カム68を時計回りに回転させる。第1変速機構では1速ギヤに入っているため発進が行われる。
【0083】
走行が開始され、次のP2では第2変速機構におけるギヤを2速に予備変速させる操作を行う。ここでは、図16に示すように図15に示した状態からさらに第1アクチュエータユニット60の第2カム69を所定の角度だけ時計回りに回転させ、シフト入力部66をシフトアップ方向に回転させて2速に入れる。その後は、第2カム69を所定の角度だけ戻す。ここでは、第2変速機構において2速が確立するが、第2クラッチ30は切断状態であるので駆動はしない。そして速度が上がったとし、次に1速から2速に切り替えるために、第1クラッチ29から第2クラッチ30へ接続を切り替える。ここでは、図17に示すように第1アクチュエータユニット60の第1カム68を反時計回りに回転させて第1クラッチ29を切断状態とするとともに、第2アクチュエータユニット61の第1カム72を時計回りに回転させて第2クラッチ30を接続する。
【0084】
そして、完全に第1クラッチ29が切断され、第2クラッチ30が接続されると、次のP3では、第1変速機構の1速のポジションをニュートラル状態とするために、図18に示すように図17に示した状態から第2アクチュエータユニット61の第2カム73を所定の角度だけ時計回りに回転させ、シフト入力部66をシフトアップ方向に回転させてニュートラル状態とする。その後は、第2カム73を所定の角度だけ戻す。ここでは第1クラッチ29は切断状態であるので、ギヤがニュートラル状態となっても駆動に変化は生じない。以降は次の変速に備えて図18のポジションで待機する。3速から上段のギヤの切替は基本的に図14から図18と同様の動作を繰り返すので説明は省略する。
【0085】
次に、走行中においてシフトダウンして停車状態にするときの動作について説明する。以下では、図18に示した状態である第1変速機構側がニュートラル状態、第2変速機構側が2速に入っている状態(P3)から停車状態に至るときの動作を説明する。
【0086】
先ず、P3からP2への移行に際しては、第1変速機構におけるギヤを1速に予備変速させる操作を行う。ここでは図19に示すように、第1アクチュエータユニット60の第2カム69を反時計回りに所定の角度だけ回転させてシフト入力部66を時計回りに回転させ1速ギヤに入れる。その後は、第2カムを所定の角度だけ戻す。ここでは、第1変速機構のギヤが1速に入るが、第1クラッチ29は切断状態であるので1速ギヤによる駆動はない。
【0087】
そして、速度が下がったとし、次に2速から1速に切り替えるために、第2クラッチ30から第1クラッチ29へ接続を切り替える。ここでは、図20に示すように第1アクチュエータユニット60の第1カム68を時計回りに回転させて第1クラッチ29を接続状態とするとともに、第2アクチュエータユニット61の第1カム72を反時計回りに回転させて第2クラッチ30を切断状態とする。
【0088】
そして、完全に第1クラッチ29が接続され、第2クラッチ30が切断されると、次のP1では、第2変速機構の2速のポジションをニュートラル状態とするために、図21に示すように図20に示した状態から第2アクチュエータユニット61の第2カム73を所定の角度だけ反時計回りに回転させ、シフト入力部66をシフトダウン方向に回転させてニュートラル状態とする。その後は、第2カム73を所定の角度だけ戻す。ここでは第2クラッチ30が切断状態であるので、ギヤがニュートラル状態となっても駆動に変化は生じない。
【0089】
そして、さらに速度が下がったとし、次にP0の停車状態への移行では、図21に示す状態から図22に示すように第1アクチュエータユニット60の第1カム68を反時計回りに回転させ、第1クラッチ29を切断状態とする。その後は、運転者からの指示に応じて、第1カム68を基準位置L1を超えて反時計周りに回転させ(同図22)、第1カム68によりシフト入力部66をシフトダウン方向に回転させて第1変速機構のギヤをニュートラル状態とする。その後は、第2カム69を基準位置L1に戻す。この場合には、第1変速機構及び第2変速機構がニュートラル状態となった状態で車両が停車する。このように本実施形態では変速動作を行うができる。
【0090】
以上に記載したように本実施形態では、ツインクラッチ式変速機6を含む動力伝達系において、ミッションケース3に回転可能に軸支され、第1駆動モータ67、第2駆動モータ71の駆動に応じて回転し、第1駆動モータ67の駆動力を第1クラッチ29側へ伝達する第1カム68及び第2駆動モータ71の駆動力を第2クラッチ30側へ伝達する第1カム72と、第1駆動モータ67の駆動力を第1変速機構の変速段(変速ギヤ対23a,23c,23e)側へ伝達する第2カム69及び第2駆動モータ71の駆動力を第2変速機構の変速段(変速ギヤ対23b,23d,23f)側へ伝達する第2カム73とが同軸上に設けられ、第1カム68及び第2カム69と、第1カム72及び第2カム73とがカム体であり、第1クラッチ29及び第2クラッチ30が発進クラッチと変速クラッチとを兼ねている。
【0091】
これによれば、同軸上にクラッチ断接用の第1カム68,72と変速段切り替え用の第2カム69,73を設けることにより、第1駆動モータ67、第2駆動モータ71を兼用として第1クラッチ29、第2クラッチ30の断接及び変速段の切り替えがなされるとともに、カム曲線に沿った滑らかでより緻密な制御が可能となるので、発進時及び通常走行時に係らず変速段切替時の変速ショックを低減することができ、更には変速クラッチ、つまり、第1クラッチ29及び第2クラッチ30が発進クラッチを兼ねる構成であるので、部品点数の削減が可能となるとともに、エンジン1の大型化を回避できる。
【0092】
また、変速時においては、例えば図15、図17で説明したように、一方の第1カム68が第1クラッチ29を接続状態とする場合に、他方の第1カム72が第2クラッチ30を切断状態とし、他方の第1カム72が第2クラッチ30を接続状態とする場合に、一方の第1カム68が第1クラッチ29を切断状態とするように制御手段であるECU62により制御されるので、変速段の切り替えをスムーズに行うことができる。また、図16に示すように、一方の第1カム68が第1クラッチ29を接続状態とする回転位置で、この第1カム68と同軸上の第2カム69が変速段(この例では2速)の切替のための駆動力を伝達可能であり、他方の第1カム72が第2クラッチ30を接続状態とする回転位置で、この第1カム72と同軸上の第2カム73が変速段(この例ではニュートラル)の切替のための駆動力を伝達可能であるので、上記同様に変速段の切り替えをスムーズに行うことができる。
【0093】
また、図1,図2に示すように第1アクチュエータユニット60において第1マスターシリンダ70のシリンダ79は、その長手方向をエンジンの前後方向に沿わせるように配置され、第2アクチュエータユニット61において第2マスターシリンダ74のシリンダ83は、その長手方向をエンジンの前後方向に沿わせるように配置され、シフト入力部66、第1カム68,72及び第2カム69,73の軸は、エンジン1の幅方向と同方向に配置されているため、シリンダ79,83を、エンジン1の幅方向、すなわちシフト入力部66、第1カム68,72、及び第2カム69,73と同列に並ぶように配置する場合に比べて、エンジン1が幅方向に拡がることがなく、コンパクトにシフト入力部66、第1カム102、第2カム103及びマスターシリンダ104を配置することができる。さらには、シリンダ79,83は、エンジン1の上下方向で重なるように配置されるとともに、エンジン1の上面視でエンジンケース4の外側端部よりも内側のミッションケース3に配置されているので、エンジンの幅方向に突出することなく第1アクチュエータユニット60及び第2アクチュエータユニット61をコンパクトに配置できる。
【0094】
なお、本実施形態では第1クラッチ29、第2クラッチ30をノーマリーオープンタイプとした例を説明したが、第1クラッチ29、第2クラッチ30をノーマリークローズドタイプ、すなわち、クラッチが常時接続状態であるクラッチを用いた場合にも本発明は好適に実施可能である。
【0095】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第1の実施形態ではツインクラッチ式変速機において本発明を実施した例を説明したが、本実施形態ではシングルクラッチの変速機において本発明を実施した例を説明する(ツインクラッチ13が単一のクラッチで構成され、このクラッチが変速クラッチと発進クラッチの機能を兼ねていることを想定する)。図23には、本実施形態に係る第3アクチュエータユニット100が示されている。第1の実施形態と同様の構成要素については同一符号で示し詳細な説明は省略する。
【0096】
図23に示すように、本実施形態に係る第3アクチュエータユニット100は、駆動モータ101と、ミッションケースに回転可能に支持された第1カム102、第2カム103と、マスターシリンダ104と、を備えている。第1カム102、第2カム103は第1の実施形態と同様にエンジンのミッションケースの左側壁に設けられており、ここでミッションケースの前方に位置するクランクケースの左端部はミッションケースの左端部よりも車幅方向外側に張り出すように形成されているものとする。
【0097】
駆動モータ101の駆動軸の先端と第1カム102との間にはウォームギヤ105が設けられ、第1カム102と第2カム103は、それぞれの軸をエンジンの幅方向に沿わせて回転可能に支持され、また、同軸上に配置され一体的に結合されている。第1カム102は卵型形状であり、回転中心からの距離が最長となる部位と最短となる部位とが対向するカム面106を設定されている。
【0098】
マスターシリンダ104は、シリンダ107と、シリンダ107内に挿通されるピストン108と、シリンダ107内の圧縮室側にオイルを供給するリザーバタンク109と、を備えており、ピストン108はシリンダ107から一部外部に露出し第1カム102のカム面106に向けて延ばされて伸縮可能とされている。ピストン108の最大伸長位置は、カム面106の最低面と接近する位置に設定されている。ここで、マスターシリンダ104は、第1の実施形態と同様にエンジンの前後方向に沿って延びるように配置されているものとする。また第2カム103には、周方向に一部突出するカム部110が設定されている。
【0099】
第1カム102、第2カム103の下方には、第1の実施形態と同様のシフト入力部66が配置され、ここで第2カム103のカム部110は、第1カム102の外周(回転軌跡)よりも外側に突出して、回転によりシフト入力部66の上側当接部87と干渉可能なように長さ寸法を設定されている。シフト入力部66は、紙面において反時計回りにシフトアップ方向を設定され(回転矢印UP)、時計回り方向にシフトダウン方向を設定され(回転矢印DN)、上側当接部87を上方に、下側当接部88を下方に向けた状態を中立位置として設定されており、回転された際に上側当接部87及び下側当接部88を中立位置に引き戻す付勢手段が設けられている。
【0100】
本実施形態ではピストン108が縮退されるとクラッチが切断状態となるエンジンに第3アクチュエータユニット100が用いられることを想定しており、図24に示すように、図23示した状態から第1カム102を時計回りに回転させた場合には、カム面106によりピストン108を縮退させながら、第2カム103のカム部110によりシフト入力部66を反時計回りに回転させてシフトアップ操作をすることができる。また、図25に示すように、図23に示した状態から反時計回り第1カム102を回転させた場合には、カム面106によりピストン108を縮退させながら、第2カム103のカム部110によりシフト入力部66を時計回りに回転させてシフトダウン操作をすることができる。
【0101】
なお、本実施形態では、第1カム102がピストン108を縮退させてクラッチを切断状態した状態で更に回転して、第2カム103によりシフト入力部66を回転させているが、第3アクチュエータユニット100においては、第1カム102がクラッチを切断した状態で、第2カム103によりシフト操作が行えるように、第1カム102と第2カム103との間には所望の位相がされている。
【0102】
以上に説明した本実施形態では、シングルクラッチの動力伝達系において、駆動モータ101の駆動に応じて回転し、駆動モータ101の駆動力をクラッチ側へ伝達する第1カム102と、駆動モータ101の駆動力を記変速機構側へ伝達する第2カム103とが同軸上に設けられ、第1カム102及び第2カム103とがカム体であり、クラッチが発進クラッチと変速クラッチとを兼ねている。
【0103】
これによれば、同軸上にクラッチ断接用の第1カム102と変速段切り替え用の第2カム103を設けることにより、駆動モータ101を兼用としてクラッチの断接及び変速段の切り替えがなされるとともに、カム曲線に沿った滑らかでより緻密な制御が可能となるので、発進時及び通常走行時に係らず変速段切替時の変速ショックを低減することができ、更には変速クラッチが発進クラッチを兼ねる構成であるので部品点数の削減が可能となるとともに、エンジンの大型化を回避できる。
【0104】
また、第1カム102がクラッチを切断状態とする回転位置で、第2カム103が変速機構の変速段の切替のための駆動力を伝達するため、変速ショックを低減しながら、変速機を変速させることができる。また、マスターシリンダ104のシリンダ107は、その長手方向をエンジンの前後方向に沿わせるように配置され、シフト入力部66、第1カム102及び第2カム103の軸は、エンジンの幅方向と同方向に配置されているため、シリンダ107を、エンジン幅方向、すなわちシフト入力部66、第1カム102、第2カム103と同列に並ぶように配置する場合に比べて、エンジンが幅方向に拡がることがなく、コンパクトにシフト入力部66、第1カム102、第2カム103及びマスターシリンダ104を配置することができる。
【0105】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。第1の実施形態では第1クラッチ29及び第2クラッチ30に対して油圧により断接のための駆動力を付与したが、本実施形態ではワイヤを利用する。図26に本実施形態に係る第4アクチュエータユニット120が示されている。なお本実施形態では、ツインクラッチ式変速機に第4アクチュエータユニット120を用いることを想定しており、他のアクチュエータユニットも用いられるが、同様の構成であるため説明は省略する。また第1の実施形態と同様の構成要素については同一符号で示し詳細な説明は省略する。
【0106】
図26に示すように、第4アクチュエータユニット120では、図示しない駆動モータによって駆動される回転体であるドラム121がエンジンのミッションケースに回転可能に支持され、その周面にワイヤ122の一端が結合されている。ワイヤ122はドラム121の周面を巻き回されるようにしてアウターチューブ123内に進入し、クラッチ側に延びている。ドラム121の同軸上に第2カム124がミッションケースにおいて回転可能に支持され、第2カム124はドラム121と一体的に結合して、第1の実施形態と同様のカム部125を形成され、カム部125は回転によりシフト入力部66と当接可能となっている。
【0107】
この第4アクチュエータユニット120では、ドラム121を回転させることでワイヤ122を引っ張る、又は、繰り出すことができ、クラッチの操作をすることが可能となる。この第3の実施形態では、油圧に比べて簡素なワイヤでクラッチ操作をすることで、製造コストの低減を図ることができる。なお、ワイヤ122を引っ張ることでクラッチを切断又は接続するか否かは、クラッチが常時接続する方式のノーマリークローズドタイプか常時切断式のノーマリーオープンタイプかによって適宜変更すればよい。また、ツインクラッチ式変速機における変速時の基本動作は第1の実施形態と同様である。また、本実施形態では第4アクチュエータユニット120をツインクラッチ式変速機において用いる例を説明したが、シングルクラッチのエンジンにおいても適用可能である。
【0108】
<第4の実施形態>
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。第1の実施形態ではシフト入力部66に対して第2カム69,73を当接させることでシフト操作のための駆動力を付与したが、本実施形態ではワイヤを利用する。図27に本実施形態に係る第5アクチュエータユニット130が示されている。なお本実施形態では、ツインクラッチ式変速機に第5アクチュエータユニット130を用いることを想定し、ツインクラッチに対して一対設けられるが、同様の構成であるため両者を併せて説明する。また第1の実施形態と同様の構成要素については同一符号で示し詳細な説明は省略する。
【0109】
図27に示すように第5アクチュエータユニット130においては、第1の実施形態と同様のカム面75を設定された第1カム68を有している。この第1カム68には円筒状のドラム部131が形成されている。ドラム部131の周面には第1ワイヤ132及び第2ワイヤ133のそれぞれの一端が結合され、第1ワイヤ132の他端はシフト入力部66の下側当接部88に結合され、第2ワイヤ133の他端はシフト入力部66の下側当接部88に結合されている。
【0110】
この第5アクチュエータユニット130では、第1カム68を時計回りに回転させることでピストン80を縮退させながら第1ワイヤ132を引っ張ることができまた、反時計回りに回転させれば第2ワイヤ133を引っ張ることができ、変速操作を行うことが可能となる。この第4の実施形態では、油圧に比べて簡素なワイヤでシフト操作をすることで、製造コストの低減を図ることができる。
【0111】
なお、第1ワイヤ132又は第2ワイヤ133を引っ張ることでクラッチを切断又は接続するか否かは、クラッチが常時接続する方式のノーマリークローズドタイプか常時切断式のノーマリーオープンタイプかによって適宜変更すればよい。また、ツインクラッチ式変速機における変速時の基本動作は第1の実施形態と同様である。また、本実施形態では第5アクチュエータユニット130をツインクラッチ式変速機において用いる例を説明したが、シングルクラッチのエンジンにおいても適用可能である。
【0112】
また、本実施形態では、ワイヤによってシフト入力部66を回転させることを説明したが、このワイヤをクラッチ側まで延ばして第1カム68の回転によりクラッチ操作も行うようにしてもよい。つまり、シフト操作のためのワイヤとクラッチ操作のためのワイヤを一体にしてもよい。この場合には、クラッチ及びシフト入力部それぞれに対してワイヤを設ける場合に比べて部品点数を削減できるとともに、油圧に比べて簡素なワイヤでクラッチ操作及びシフト操作をすることができるため、製造コストの低減をより図ることができる。
【0113】
以上で本発明を第1〜第5の実施形態により説明したが、本発明は上記実施形態に絵限定されるものではない。例えば、第1の実施形態では、第1カム68及び第2カム69と第1カム72及び第2カム73とが別軸に配置される態様を説明したが、これら1カム68及び第2カム69と第1カム72及び第2カム73とを同軸上に設けても良い。
【符号の説明】
【0114】
1 エンジン、2 クランクケース(エンジンケース)、3 ミッションケース(エンジンケース)、4 エンジンケース、12 変速機本体(変速機)、13 ツインクラッチ(クラッチ)、18 メインシャフト(入力軸)、23a〜23f 変速ギヤ対(第1変速機構、第2変速機構)、29 第1クラッチ、30 第2クラッチ、57 第1管路(伝達部材)、58 第2管路(伝達部材)、66 シフト入力部、67 第1駆動モータ(アクチュエータ(第1アクチュエータ))、68 第1カム(第1連係部材)、69 第2カム(第2連係部材)、70 第1マスターシリンダ(伝達部材)、71 第2駆動モータ(アクチュエータ(第2アクチュエータ))、72 第1カム(第1連係部材)、73 第2カム(第2連係部材)、74 第2マスターシリンダ(伝達部材)、77,78 カム部、79,83 シリンダ(管路)、80,84 ピストン、101 駆動モータ(アクチュエータ)、102 第1カム(第1連係部材)、103 第2カム(第2連係部材)、104 マスターシリンダ(伝達部材)、107 シリンダ(管路)、108 ピストン、110 カム部、121 ドラム(第1連係部材)、122 ワイヤ(伝達部材)、124 第2カム、125 カム部、132 第1ワイヤ(ワイヤ)、133 第2ワイヤ(ワイヤ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸(18)に入力される駆動力を変速機構(23a〜23f)により変速する変速機(12)と、前記入力軸(18)に対する駆動力の入力を断接するクラッチ(13)とを備えるエンジン(1)の動力伝達装置において、
エンジンケース(3)に回転可能に軸支され、アクチュエータ(67,71,101)の駆動に応じて回転し、前記アクチュエータ(67,71,101)の駆動力を前記クラッチ(13)側へ伝達する第1連係部材(102)と、前記アクチュエータ(67,71,101)の駆動力を前記変速機構(23a〜23f)側へ伝達する第2連係部材(103)とが設けられ、
前記第1連係部材(102)及び前記第2連係部材(103)はカム体であるとともに、
前記クラッチは発進クラッチと変速クラッチとを兼ねることを特徴とするエンジンの動力伝達装置。
【請求項2】
前記第2連係部材(103)と前記変速機構(23a〜23f)との間に介在し、前記第2連係部材(103)から前記変速機構(23a〜23f)へ前記アクチュエータ(101)の駆動力を伝達し、前記第1連係部材(102)と前記第2連係部材(103)が設けられる軸と別軸に設けられ、前記変速機構(23a〜23f)の変速段を切り替えるシフト入力部(66)を備えることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項3】
前記シフト入力部(66)が前記第1連係部材(102)の回転軌跡の外側に配置され、前記第1連係部材(102)の回転軌跡の外側に突出するように前記第2連係部材(103)のカム部(110)が形成されていることを特徴とする請求項2に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項4】
前記第1連係部材(102)と前記クラッチ(13)との間に介在し、前記第1連係部材(102)の回転により駆動して前記クラッチ(13)を断接する伝達部材(104,57)を備え、
前記伝達部材(104,57)が、前記第1連係部材(102)の回転に応じて管路(107)内でピストン(108)を摺動させることにより前記クラッチ(13)を作動させるための作動油圧を発生する油圧発生部(104)を備え、
前記油圧発生部(104)が、その長手方向をエンジン(1)の前後方向に沿わせるように配置され、前記シフト入力部(66)、前記第1連係部材(102)及び前記第2連係部材(103)の軸が、エンジン(1)の幅方向と同方向に配置されていることを特徴とする請求項2又は3に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項5】
前記第1連係部材(102)と前記クラッチ(13)との間に介在し、前記第1連係部材(102)の回転により駆動して前記クラッチ(13)を断接する伝達部材(122)を備え、
前記伝達部材(122)が、前記第1連係部材(102)と前記クラッチ(13)とを連結するワイヤであり、
前記アクチュエータ(101)の駆動力が、前記第1連係部材(102)と前記ワイヤとを介して前記クラッチ(13)に伝達されることにより、前記クラッチ(13)が断接されることを特徴とする請求項2又は3に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項6】
前記第2連係部材(103)と前記シフト入力部(66)とを連結するワイヤ(132,133)とを備え、
前記アクチュエータ(101)の駆動力が、前記第2連係部材(103)と前記ワイヤ(132,133)とを介して前記シフト入力部(66)に伝達されることを特徴とする請求項2又は3に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項7】
前記第1連係部材(102)と前記クラッチ(13)との間に介在し、前記第1連係部材(102)の回転により駆動して前記クラッチ(13)を断接する伝達部材(122)を備え、
前記伝達部材(122)が、前記第1連係部材(102)と前記クラッチ(13)とを連結するワイヤであり、
前記アクチュエータ(101)の駆動力が、前記第1連係部材(102)と前記ワイヤとを介して前記クラッチ(13)に伝達されることにより、前記クラッチ(13)が断接され、
前記クラッチ(13)に連結される前記ワイヤ(122)と前記シフト入力部(66)に連結される前記ワイヤとが一体であることを特徴とする請求項6に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項8】
前記クラッチ(13)が、前記入力軸(18)に互いに同軸に配設される第1クラッチ(29)及び第2クラッチ(30)を備えるツインクラッチ(13)であり、
前記アクチュエータ(67,71,101)が、前記第1クラッチ(29)の操作とともに前記変速機構(23a〜23f)の変速段の切替を行うための第1アクチュエータ(67)と、前記第2クラッチ(30)の操作とともに前記変速機構(23a〜23f)の変速段の切替を行うための第2アクチュエータ(71)とで構成され、
前記第1連係部材(68,72)と前記第2連係部材(69,73)とが、前記第1アクチュエータ(67)と前記第2アクチュエータ(71)に対応してそれぞれ一対設けられ、
前記第1アクチュエータ(67)からの駆動力が、一方の前記第1連係部材(68)から前記第1クラッチ(29)側へ伝達され、前記第2アクチュエータ(71)からの駆動力が、他方の前記第1連係部材(72)から前記第2クラッチ(30)側へ伝達され、前記第1アクチュエータ(67)及び前記第2アクチュエータ(71)からの駆動力が、前記第2連係部材(69,73)の双方から前記変速機構(23a〜23f)側へ伝達可能であることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項9】
前記変速機構(23a〜23f)が、前記第1クラッチ(29)と連結し奇数段ギヤを備える第1変速機構(23a,23c,23e)と、前記第2クラッチ(30)と連結し偶数段ギヤを備える第2変速機構(23b,23d,23f)とを備え、
一方の前記第1連係部材(68)が前記第1クラッチ(29)を接続状態とする場合に、他方の前記第1連結部材(72)が前記第2クラッチ(30)を切断状態とし、他方の前記第1連係部材(72)が前記第2クラッチ(30)を接続状態とする場合に、一方の前記第1連係部材(68)が前記第1クラッチ(29)を切断状態とすることを特徴とする請求項8に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項10】
前記第1連係部材(68,72)と前記第2連動部材(69,73)とが連動して回転し、
一方の前記第1連係部材(68)が前記第1クラッチ(29)を接続状態とする回転位置で、この第1連係部材(68)と同軸上の前記第2連係部材(69)が変速段の切替のための駆動力を伝達可能であり、他方の前記第1連係部材(72)が前記第2クラッチ(30)を接続状態とする回転位置で、この第1連係部材(72)と同軸上の前記第2連係部材(73)が変速段の切替のための駆動力を伝達可能であることを特徴とする請求項9に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項11】
前記第2連係部材(69,73)と前記変速機構(23a〜23f)との間に介在し、前記第2連係部材(69,73)から前記変速機構(23a〜23f)へ前記アクチュエータ(67,71)の駆動力を伝達し、前記第1連係部材(102)と前記第2連係部材(103)が設けられる軸と別軸に設けられ、前記変速機構(23a〜23f)の変速段を切り替えるシフト入力部(66)を備えることを特徴とする請求項10に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項12】
前記シフト入力部(66)が前記第1連係部材(68,72)の回転軌跡の外側に配置され、前記第1連係部材(68,72)の回転軌跡の外側に突出するように前記第2連係部材(68,72)のカム部(77,78)が形成され、前記シフト入力部(66)は、一方の前記第1連係部材(68)及び前記第2連係部材(69)と、他方の前記第1連係部材(72)及び前記第2連係部材(73)との間に配置されていることを特徴とする請求項11に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項13】
前記第1連係部材(68,72)と前記クラッチ(13)との間に介在し、前記第1連係部材(68,72)の回転により駆動して前記クラッチ(13)を断接する伝達部材(70,57,74,58)を備え、
前記伝達部材(70,57,74,58)が、前記第1連係部材(68,72)の回転に応じて管路(79,83)内でピストン(80,84)を摺動させることにより前記クラッチ(13)を作動させるための作動油圧を発生する油圧発生部(70,74)を備え、
前記油圧発生部(70,74)が、その長手方向をエンジン(1)の前後方向に沿わせるように配置され、前記シフト入力部(66)、前記第1連係部材(68,72)及び前記第2連係部材(69,72)の軸が、エンジン(1)の幅方向と同方向に配置されていることを特徴とする請求項12に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項14】
前記油圧発生部(70,74)が、前記第1クラッチ(29)に駆動力を伝達する第1油圧発生部(70)と、前記第2クラッチ(30)に駆動力を伝達する第2油圧発生部(74)とで構成され、
前記第1油圧発生部(70)と第2油圧発生部(74)とが、エンジン(1)の上下方向で重なるように配置されるとともに、エンジン(1)の上面視でエンジンケース(2)の外側端部よりも内側に配置されていることを特徴とする請求項13に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項15】
前記第1連係部材(68,72)と前記クラッチ(13)との間に介在し、前記第1連係部材(68,72)の回転により駆動して前記クラッチ(13)を断接する伝達部材(122)を備え、
前記伝達部材(122)が、前記第1連係部材(68,72)と前記クラッチ(13)とを連結するワイヤであり、
前記アクチュエータ(67,71)の駆動力が、前記第1連係部材(68,72)と前記ワイヤとを介して前記クラッチ(13)に伝達されることにより、前記クラッチ(13)が断接されることを特徴とする請求項12に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項16】
前記第2連係部材(69,73)と前記シフト入力部(66)とを連結するワイヤ(132,133)とを備え、
前記アクチュエータ(67,71)の駆動力が、前記第2連係部材(69,73)と前記ワイヤ(132,133)とを介して前記シフト入力部(66)に伝達されることを特徴とする請求項12に記載のエンジンの動力伝達装置。
【請求項17】
前記第1連係部材(68,72)と前記クラッチ(13)との間に介在し、前記第1連係部材(68,72)の回転により駆動して前記クラッチ(13)を断接する伝達部材(122)を備え、
前記伝達部材(122)が、前記第1連係部材(68,72)と前記クラッチ(13)とを連結するワイヤであり、
前記アクチュエータ(67,71)の駆動力が、前記第1連係部材(68,72)と前記ワイヤ(122)とを介して前記クラッチ(13)に伝達されることにより、前記クラッチ(13)が断接され、
前記クラッチ(13)に連結される前記ワイヤ(122)と前記シフト入力部(66)に連結される前記ワイヤ(132,133)とが一体であることを特徴とする請求項16に記載のエンジンの動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2011−202684(P2011−202684A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67993(P2010−67993)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】