説明

エンジンの燃料供給制御装置

【課題】燃料通路を介して吸気管に接続されたインジェクターからの最初の燃料噴射に際しても吸気中に適量の燃料を供給することのできるエンジンの燃料供給制御装置を提供する。
【解決手段】液体燃料用インジェクター3と、燃料通路5を介して吸気管2に接続された気体燃料用インジェクター4とを備え、液体燃料と気体燃料との間で吸気中に供給する燃料を切り換えるエンジンにおいて、電子制御ユニット6は、液体燃料から気体燃料への切り換え後における気体燃料用インジェクター4の最初の燃料噴射に際して、燃料通路5に気体燃料を満すために必要な量の燃料の増量補正を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料通路を介してインジェクターが吸気管に接続されたエンジンの燃料供給制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用のエンジンとして、気体燃料と液体燃料とを切り換えて使用可能なバイフューエル(デュアルフューエル)・エンジンが実用されている。この種のエンジンでは、液体燃料噴射用、気体燃料噴射用の双方のインジェクターを吸気管に直接設置することが設置スペース上困難なことがある。このような場合には、例えば特許文献1に見られるように、気体燃料用のインジェクターを吸気管から離れた位置に設置し、その気体燃料用インジェクターから噴射された気体燃料を、パイプやホース等により構成された燃料通路を介して吸気管に導く構成とすることがある。
【0003】
なお、この種のエンジンでは、気体燃料供給から液体燃料供給への切り換えの直後に、吸気管内に気体燃料が残留していることがある。そこで従来、特許文献2に記載のエンジンの燃料供給制御装置では、気体燃料供給から液体燃料供給の切り換え直後に、吸気管内の気体燃料の残留量に応じて、液体燃料の噴射量を減量補正する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−242559号公報
【特許文献2】特開2001−193511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような気体燃料用インジェクターが燃料通路を介して吸気管に接続された構成のエンジンでは、液体燃料から気体燃料への切り換え後の最初の燃料噴射に際しては、燃料通路に気体燃料が満されていない状態で燃料噴射を行うことになる。
【0006】
燃料通路に燃料が満たされた状態では、気体燃料用インジェクターから燃料を噴射すると、その量の燃料が燃料通路から押し出されて吸気管内に供給される。したがって、このときには、噴射した量と同量の気体燃料が吸気中に供給される。一方、燃料通路に気体燃料が満されていない状態では、気体燃料用インジェクターから燃料を噴射しても、吸気通路内に気体燃料が満されるまで、吸気中に気体燃料は供給されないことになる。そのため、図7に示すように、燃料切換後の最初の燃料噴射も以降の燃料噴射と同様に燃料噴射指令を行うと、噴射した燃料のすべてが吸気中に供給されないため、最初の噴射での燃料の供給量が必要な量に満たなくなり、燃料切り換え直後に空燃比が一時的にリーン側にずれてしまう。そしてその結果、燃焼状態が悪化して、ドライバビリティーやエミッションの悪化を招くことがある。
【0007】
なお、こうした問題は、噴射する燃料が液体であっても、ある程度よりも大きい容積を有した燃料通路を介してインジェクターが吸気管に接続された構成のエンジンでは、同様に発生し得るものとなっている。
【0008】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、燃料通路を介して吸気管に接続されたインジェクターからの最初の燃料噴射に際しても吸気中に適量の燃料を供給することのできるエンジンの燃料供給制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、燃料通路を介してインジェクターが吸気管に接続されたエンジンの燃料供給制御装置としての請求項1に記載の発明は、上記インジェクターによる燃料噴射開始時の最初の燃料噴射に際しての燃料噴射量に、燃料通路に燃料を満すために必要な量の燃料を増量補正するようにしている。
【0010】
上記構成では、燃料通路を介して吸気管に接続されたインジェクターからの燃料噴射の開始時の最初の燃料噴射に際しては、吸気中への供給を必要とする量の燃料に加え、燃料通路に燃料を満せるだけの量の燃料が余分に噴かれる。そのため、上記インジェクターからの燃料噴射の開始時の最初の燃料噴射から、エンジンに対する必要量の燃料供給が行われることになる。したがって、上記構成によれば、燃料通路を介して吸気管に接続されたインジェクターからの最初の燃料噴射に際しても吸気中に適量の燃料を供給することができる。
【0011】
なお、吸気管内の圧力が高ければ、その分、燃料通路に満される燃料の密度は高くなる。よって請求項2によるように、吸気管内の圧力が高いほど、増量補正の量を大きくすることで、より的確な燃料供給が可能となる。
【0012】
また、燃料温度や吸気管内の吸気温度が高ければ、その分、燃料の密度は小さくなるため、燃料通路に燃料を満すために必要な燃料噴射量は小さくなる。よって請求項3によるように吸気管内の吸気温度及び燃料温度の少なくとも一方が高いほど、増量補正の量を小さくすることで、より的確な燃料供給が可能となる。
【0013】
更に、通常、吸気管内の圧力は、エンジン負荷が高ければ高くなる。そのため、請求項4によるように、エンジン負荷が高いほど、増量補正の量を大きくすることでも、より的確な燃料供給が可能となる。
【0014】
一方、以前に上記インジェクターからの燃料噴射が行われていた場合には、その中断後もある程度の期間までは、燃料通路内にある程度の量の燃料が残存する。残存する燃料の量は、中断期間が長くなるほど減少する。したがって、請求項5によるように、上記インジェクターの燃料噴射の中断期間が長いほど、増量補正の量は大きくするようにすると良い。
【0015】
また、多気筒エンジンでは、設置の関係上、各インジェクターに接続される燃料通路の長さ等が異なり、その容積も異なることがある。こうした場合には、燃料通路を燃料で満すために必要な燃料噴射量は、インジェクター毎に異なることになる。したがって、各インジェクターに容積の異なる燃料通路がそれぞれ接続されたエンジンでは、請求項6によるように、各インジェクターの上記増量補正の量をそれぞれ個別に算出することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る燃料供給制御装置の適用されるエンジンのインジェクターの搭載態様を模式的に示す略図。
【図2】同実施形態の燃料供給装置の燃料切換前後の燃料噴射態様の一例を示すタイムチャート。
【図3】燃料噴射休止後の燃料通路内の残存燃料量と噴射再開時に燃料通路の充填に必要な燃料量の推移を示すグラフ。
【図4】同実施形態に適用される通路充填補正量演算ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【図5】本発明の第2の実施の形態に適用される通路充填補正量演算ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【図6】本発明の第3の実施の形態に適用される通路充填補正量演算ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【図7】従来の燃料供給装置の燃料切換前後の燃料噴射態様の一例を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施の形態)
以下、本発明のエンジンの燃料供給制御装置を具体化した第1の実施の形態を、図1〜図4を参照して詳細に説明する。なお、本実施の形態の燃料供給制御装置は、気体燃料と液体燃料とを切り換えて使用可能なバイフューエル・エンジンに適用されるものとなっている。
【0018】
まず、図1を参照して、本実施の形態に係るエンジンの燃料供給制御装置の構成を説明する。
同図に示すように、エンジンのシリンダーヘッド1に接続された吸気管(吸気マニホールド)2には、その内部を流れる吸気中に燃料を噴射供給するインジェクターとして、液体燃料を噴射する液体燃料用インジェクター3と気体燃料を噴射する気体燃料用インジェクター4との2つのインジェクターが気筒毎に接続されている。液体燃料用インジェクター3は、吸気管2に直接接続されている。また気体燃料用インジェクター4は、ホースやパイプで形成された燃料通路5を介して吸気管2に接続されている。
【0019】
これら2つのインジェクターは、エンジン制御を司る電子制御ユニット6により制御されている。電子制御ユニット6は、エンジン制御に係る各種の演算処理を実行する中央演算処理装置(CPU)、エンジン制御用のプログラムやデータが記憶された読込専用メモリー(ROM)、CPUの演算結果やセンサーの検出結果等を一時的に記憶するランダムアクセスメモリー(RAM)を備えている。こうした電子制御ユニット6には、吸気量を検出するエアフローメーター、吸気管2内の圧力(吸気圧)を検出する吸気圧センサー、エンジン出力軸であるクランクシャフトの回転角を検出するクランク角センサーを始め、エンジン各部に設けられた各種センサーの検出信号が入力されている。
【0020】
電子制御ユニット6は、運転者の操作やエンジンの運転状況に応じて燃料噴射に使用するインジェクターを切り換えて、吸気中に供給する燃料を変更する。ここで気体燃料の噴射では、燃料通路5内に気体燃料が満された状態では、気体燃料用インジェクター4から噴射された気体燃料の分、燃料通路5内の気体燃料が吸気管2内に押し出されるため、噴射した量と同じだけの気体燃料が吸気中に供給される。一方、燃料通路5内から気体燃料が抜けた状態では、燃料通路5内が気体燃料で満されるまでは、吸気中に燃料が供給されないため、噴射した量よりも少ない量の気体燃料しか吸気中に供給されないことになる。上記エンジンでは、液体燃料噴射を行い、気体燃料の噴射を休止している期間には、燃料通路5内の気体燃料が徐々に抜けていく。そのため、液体燃料から気体燃料への切り換え後の最初の燃料噴射では、噴射した量よりも少ない量の気体燃料しか吸気中に供給されないことになる。
【0021】
そこで本実施の形態では、液体燃料から気体燃料への切り換え後の最初の燃料噴射に際して、燃料通路5に気体燃料を満すために必要な量の燃料を増量補正することで、燃料供給量の不足を防止し、その不足による空燃比の一時的なリーンずれを回避するようにしている。
【0022】
こうした本実施の形態では、図2に示すように、液体燃料から気体燃料への燃料切り換え後の気体燃料用インジェクター4からの最初の燃料噴射に際しては、気体燃料用インジェクター4に指令される噴射信号に、燃料通路5に気体燃料を満すために必要な量分の燃料を増量するための燃料噴射量の増量補正、すなわち通路充填補正が行われる。そのため、本実施の形態では、燃料通路5から気体燃料が抜けた状態で行われる気体燃料用インジェクター4からの最初の燃料噴射に際しても、不足なく燃料供給を行うことができ、空燃比のリーンずれが防止されるようになる。ちなみに、多気筒エンジンの場合、各気筒の気体燃料用インジェクター4のそれぞれにおける燃料切換後の最初の燃料噴射について、こうした通路充填補正を行う必要がある。
【0023】
一方、燃料通路5内の気体燃料の残存量は、気体燃料噴射の休止期間の長さにより変化する。図3に示すように、燃料通路5内の燃料残存量は、休止期間の長期化に応じて対数関数的に減少する。したがって、気体燃料の噴射再開時に燃料通路5の燃料充填に必要な燃料の量、すなわち燃料切り換え後の最初の気体燃料噴射時に必要とされる気体燃料噴射量の通路充填補正量は、同図に示すように、対数関数的に増加することになる。
【0024】
次に、気体燃料切換後の気体燃料用インジェクター4からの最初の燃料噴射に適用される通路充填補正量の演算ロジックについて説明する。この通路充填補正量の演算は、図4に示される通路充填補正量演算ルーチンにより行われる。同ルーチンの処理は、気体燃料噴射の休止から再開までの期間に、規定の制御周期毎に電子制御ユニット6によって繰り返し実行される。
【0025】
さて、本ルーチンの処理が開始されると、まずステップS100において、気体燃料噴射の休止直後であるか否かの判定が行われる。ここで休止直後であれば(S100:YES)、ステップS101において、燃料通路5の残存燃料量Frに、規定の標準吸気圧P0(例えば1気圧)における燃料通路5の最大燃料充填量F0が初期値として設定される。そしてその後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0026】
一方、気体燃料噴射の休止直後でなければ(S100:NO)、ステップS102において、燃料通路5の現時点の残存燃料量Frの演算が行われる。ここでの残存燃料量の演算は、下式(1)に従って行われる。下式(1)において、「R」は、制御周期における燃料通路5内の燃料減少率[%]を示す定数となっている。
【0027】

Fr←Fr[前回値]×(100−R)/100 …(1)

現時点の残存燃料量Frの演算が完了すると、続くステップS103において、気体燃料噴射が再開されるか否かの判定が行われる。ここで気体燃料噴射が再開されないのであれば(S103:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。一方、気体燃料噴射が再開されるのであれば、先に演算した残存燃料量Fr、及び現在の吸気圧Pに基づいて、通路充填補正量Fの演算が行われる。ここでの通路充填補正量Fの演算は、下式(2)に従って行われる。そしてその演算後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0028】

F←(F0−Fr)×(P0/P) …(2)

なお、上式(2)によれば、吸気圧Pが高いほど、通路充填補正量Fの値は大きくなる。これは、吸気圧Pが高いほど、燃料通路5内の気体燃料の密度が高くなり、燃料通路5内を満すためにより多くの気体燃料が必要とされるためである。
【0029】
以上の本実施の形態のエンジンの燃料供給制御装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施の形態では、燃料通路5を介して吸気管2に接続された気体燃料用インジェクター4からの燃料噴射の開始時の最初の燃料噴射に際しては、供給を必要とする燃料噴射量に加え、燃料通路5に燃料を満せるだけの量の燃料が余分に噴かれる。そのため、気体燃料用インジェクター4の最初の燃料噴射から、エンジンに対する必要量の燃料供給を行うことができる。したがって、本実施の形態によれば、燃料通路5を介して吸気管2に接続された気体燃料用インジェクター4からの最初の燃料噴射に際しても吸気中に適量の燃料を供給することができる。
【0030】
(2)吸気圧Pが高いほど、燃料通路5内の気体燃料の密度が高くなり、燃料通路5内を満すためにより多くの気体燃料が必要とされる。その点、本実施の形態では、気体燃料用インジェクター4からの最初の燃料噴射に適用される増量補正の量である通路充填補正量Fが、吸気圧Pが高いほど大きくされるため、吸気圧Pに拘わらず、適量の燃料供給を行うことができる。
【0031】
(3)本実施の形態では、気体燃料用インジェクター4の燃料噴射の中断期間(休止期間)が長いほど、通路充填補正量Fを大きくしている。燃料通路5内の気体燃料の残存量は、気体燃料噴射の休止期間が長くなるほど減少するため、そうした態様で通路充填補正量Fを設定することで、より適量の燃料供給を行うことができる。
【0032】
(第2の実施の形態)
次に、本発明のエンジンの燃料供給制御装置を具体化した第2の実施の形態を、図5を併せ参照して詳細に説明する。なお、下記の各実施の形態において、上述の実施の形態と共通する構成については、同一の符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0033】
上述したように、液体燃料から気体燃料への切り換え後の最初の燃料噴射では、吸気中への供給を必要とする量の気体燃料に加え、燃料通路5に気体燃料を満せるだけの量の気体燃料を余分に噴く必要がある。一方、気体燃料用インジェクター4から噴射される気体燃料の密度は、その温度が高くなるほど小さくなる。そのため、燃料通路5内に残存する気体燃料の質量は、燃料温度や吸気管2内の吸気温度が高くなるほど、小さくなる。
【0034】
そこで本実施の形態では、燃料温度や吸気管2内の吸気温度が高いほど、液体燃料から気体燃料への切り換え後の最初の燃料噴射における気体燃料噴射量の通路充填補正量を小さくしている。こうした通路充填補正量の演算は、図5に示される通路充填補正量演算ルーチンにより行われる。同ルーチンの処理は、気体燃料噴射の休止から再開までの期間に、規定の制御周期毎に電子制御ユニット6によって繰り返し実行される。
【0035】
さて、本ルーチンの処理が開始されると、まずステップS200において、気体燃料噴射の休止直後であるか否かの判定が行われる。ここで休止直後であれば(S200:YES)、ステップS201において、燃料通路5の残存燃料量Frに、規定の標準吸気圧における燃料通路5の最大燃料充填量F0が初期値として設定される。そしてその後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0036】
一方、気体燃料噴射の休止直後でなければ(S200:NO)、ステップS202において、燃料通路5の現時点の残存燃料量Frの演算が行われる。ここでの残存燃料量の演算は、上式(1)に従って行われる。
【0037】
現時点の残存燃料量Frの演算が完了すると、続くステップS203において、気体燃料噴射が再開されるか否かの判定が行われる。ここで気体燃料噴射が再開されないのであれば(S203:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。一方、気体燃料噴射が再開されるのであれば、先に演算した残存燃料量Fr、及び現在の燃料温度及び吸気温度の少なくとも一方(T[K])に基づいて、通路充填補正量Fの演算が行われる。ここでの通路充填補正量Fの演算は、下式(3)に従って行われる。なお、下式(3)の「T0」は、予め規定された標準温度([K])となっている。そしてその演算後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0038】

F←(F0−Fr)×(T0/T) …(3)

なお、上式(3)によれば、燃料温度Tfや吸気温度Taが高いほど、通路充填補正量Fの値は小さくなる。これは、燃料温度Tfや吸気温度Taが高いほど、燃料通路5内に残存する気体燃料の質量が小さくなり、燃料通路5内を満すために必要な気体燃料量が小さくなるためである。
【0039】
以上説明した本実施の形態によれば、上記(1)、(3)に記載の効果に加え、更に下記の効果を奏することができる。
(4)燃料温度Tfや吸気温度Taが高いほど、燃料通路5内に残存する気体燃料の質量が小さくなり、燃料通路5内を満すためにより多くの気体燃料が必要とされる。その点、本実施の形態では、気体燃料用インジェクター4からの最初の燃料噴射に適用される増量補正の量である通路充填補正量Fが、燃料温度及び吸気温度の少なくとも一方が高いほど大きくされるため、燃料温度Tfや吸気温度Taに拘わらず、適量の燃料供給を行うことができる。
【0040】
(第3の実施の形態)
次に、本発明のエンジンの燃料供給制御装置を具体化した第3の実施の形態を、図6を併せ参照して詳細に説明する。
【0041】
第1の実施の形態では、気体燃料用インジェクター4からの最初の燃料噴射に適用される増量補正の量である通路充填補正量Fを、吸気圧Pに応じて補正していた。また第2の実施の形態では、通路充填補正量Fを、吸気温度Taに応じて補正していた。これに対して本実施の形態では、通路充填補正量Fを、吸気圧Pと燃料温度及び吸気温度の少なくとも一方との双方に応じて補正している。
【0042】
こうした本実施の形態での通路充填補正量の演算は、図6に示される通路充填補正量演算ルーチンにより行われる。同ルーチンの処理は、気体燃料噴射の休止から再開までの期間に、規定の制御周期毎に電子制御ユニット6によって繰り返し実行される。
【0043】
さて、本ルーチンの処理が開始されると、まずステップS300において、気体燃料噴射の休止直後であるか否かの判定が行われる。ここで休止直後であれば(S300:YES)、ステップS301において、燃料通路5の残存燃料量Frに、規定の標準吸気圧における燃料通路5の最大燃料充填量F0が初期値として設定される。そしてその後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0044】
一方、気体燃料噴射の休止直後でなければ(S300:NO)、ステップS302において、燃料通路5の現時点の残存燃料量Frの演算が行われる。ここでの残存燃料量の演算は、上式(1)に従って行われる。
【0045】
現時点の残存燃料量Frの演算が完了すると、続くステップS303において、気体燃料噴射が再開されるか否かの判定が行われる。ここで気体燃料噴射が再開されないのであれば(S303:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。一方、気体燃料噴射が再開されるのであれば、先に演算した残存燃料量Fr、及び現在の燃料温度及び吸気温度の少なくとも一方(T)に基づいて、通路充填補正量Fの演算が行われる。ここでの通路充填補正量Fの演算は、下式(4)に従って行われる。そしてその演算後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0046】

F←(F0−Fr)×(T0/T)×(P/P0) …(4)

このように、本実施の形態では、通路充填補正量Fが、燃料温度及び吸気温度の一方又は双方と吸気圧Pとに応じて補正される。こうした本実施の形態によれば、上記(1)〜(4)に記載の効果を奏することができる。
【0047】
なお、上記実施の形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施の形態では、吸気圧が高いほど、通路充填補正量Fを大きくしていた。なお、吸気圧は、エンジン負荷と相関があり、エンジン負荷が高いほど、大きくなる。そこで、吸気圧の代わりにエンジン負荷を用い、エンジン負荷が高いほど、通路充填補正量Fを大きくすることでも、同様の燃料供給が可能となる。
【0048】
・多気筒エンジンでは、気筒毎に、気体燃料用インジェクター4と吸気管2とを繋ぐ燃料通路5の容積が異なることがある。そうした場合、必要な通路充填補正量Fを大きさも気筒毎に異なることになる。したがって、そうした場合には、各気体燃料用インジェクター4の通路充填補正量Fを、各々の接続される燃料通路5の容積に応じてそれぞれ個別に算出する必要がある。
【0049】
・上記実施の形態では、上式(1)に従って燃料通路5の残存燃料量Frを演算していたが、残存燃料量Frの演算式は、適用されるエンジンでの残存燃料量の推移傾向に応じて適宜の式を採用すれば良い。
【0050】
・上記実施の形態では、気体燃料噴射の休止期間に応じて通路充填補正量Fを調整するようにしていたが、休止期間が常に一定時間以上あり、燃料切換直後の燃料通路5の残存燃料量が常にほぼ「0」となる場合には、休止期間に応じた通路充填補正量Fの調整は割愛しても良い。
【0051】
・また気体燃料噴射の休止期間が常に一定である場合には、燃料切換直後の燃料通路5の残存燃料量も一定となる。よってそうした場合にも、休止期間に応じた通路充填補正量Fの調整は割愛しても良い。
【0052】
・上記実施の形態では、気体燃料用インジェクター4からの最初の燃料噴射に際して、燃料噴射量の増量補正を行うようにしていた。もっとも、ある程度よりも大きい容積の燃料通路を介して吸気管2に接続されていれば、液体燃料用インジェクター3においても、その最初の燃料噴射時に同様の燃料供給量の不足が発生することがある。よって、そうした構成の液体燃料噴射用のインジェクターの燃料噴射についても、上記実施の形態と同様の燃料噴射量の増量補正を適用することで、その最初の燃料噴射における燃料供給量の不足を防止乃至は抑制することができる。
【0053】
・上記実施の形態では、気体燃料と液体燃料とを切り換えて使用可能なバイフューエル・エンジンに本発明を適用した場合を説明したが、燃料通路を介して吸気管に接続された単一種のインジェクターのみを備えるエンジンにも、本発明の燃料供給装置は同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1…シリンダーヘッド、2…吸気管、3…液体燃料用インジェクター、4…気体燃料用インジェクター、5…燃料通路、6…電子制御ユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料通路を介してインジェクターが吸気管に接続されたエンジンの燃料供給制御装置において、
前記インジェクターによる燃料噴射開始時の最初の燃料噴射に際しての燃料噴射量に、前記燃料通路に燃料を満すために必要な量の燃料を増量補正する
ことを特徴とするエンジンの燃料供給制御装置。
【請求項2】
前記増量補正の量は、前記吸気管内の圧力が高いほど、大きくされる
請求項1に記載のエンジンの燃料供給制御装置。
【請求項3】
前記増量補正の量は、前記吸気管内の吸気温度及び燃料温度の少なくとも一方が高いほど、小さくされる
請求項1に記載のエンジンの燃料供給制御装置。
【請求項4】
前記増量補正の量は、エンジン負荷が高いほど、大きくされる
請求項1に記載のエンジンの燃料供給制御装置。
【請求項5】
前記増量補正の量は、前記インジェクターの燃料噴射の中断期間が長いほど、大きくされる
請求項1〜4のいずれか1項に記載のエンジンの燃料供給制御装置。
【請求項6】
各インジェクターに容積の異なる前記燃料通路がそれぞれ接続されたエンジンにあって、各インジェクターの前記増量補正の量をそれぞれ個別に算出する
請求項1〜5のいずれか1項に記載のエンジンの燃料供給制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−233418(P2012−233418A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101356(P2011−101356)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【Fターム(参考)】