説明

エンジンの補強構造

【課題】 シリンダボア間に位置するシリンダヘッドの剛性強化を図ることで、ボア間の合面の面圧の底上げを図り、隣接ボア間の合面のシール性を向上させることを課題とする。
【解決手段】 シリンダヘッド4とシリンダブロック2がボルト3で締結されたエンジンEの補強構造において、シリンダブロック2のボア間に位置するシリンダヘッド4の下壁部9にシリンダヘッド高さ方向Z上方に突き出すよう形成されたリブ(補強部)13を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン本体の組み付けにおいてシリンダヘッドとシリンダブロックをボルトによって締結するエンジンの補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
多気筒エンジンのエンジン本体ではシリンダヘッドとシリンダブロックを重ね、ヘッドボルトにより両者を一体的に締結している。例えば、図8に示す乾式ライナー式水冷エンジンにおいて、シリンダブロック100は外壁部110とその内側のボア部120との間にウオータージャケット130を有し、ボア部の内側にシリンダライナ140を一体的に埋め込み鋳造し、外壁部110とボア部120の上端を上壁150で連結する。上壁150近傍であってシリンダ列の両外側、両端部および各ボア間にヘッドボルト160の嵌着用のボルト孔170が多数形成されている。
【0003】
一方、シリンダヘッド180には、各ボルト孔170と対向する位置にボルト貫通孔190が形成される。これにより各ボルト貫通孔190に挿通されたヘッドボルト160を対向するシリンダブロック100のボルト孔170に螺合し、ボルト締め付けによってシリンダヘッド下壁210とシリンダブロックの上壁150とがヘッドガスケット200を介して所定の面圧で結合するようにし、各シリンダのシール性を保持している。
【0004】
このようにシリンダヘッド180とシリンダブロック100をヘッドボルト160の締め付けにより結合する場合、各ヘッドボルト160の締め付けトルクを一定値に保持するにもかかわらず、例えば、図6に符号Aの実線で示すように、各シリンダボア周りのシール面圧は偏りを示し、しかも、その際のシリンダライナの変形量(図7の符号a参照)はシリンダライナの上端縁より、例えば、70〜120mmの位置近傍で過度に大きくなる。
【0005】
図6で明らかなように、エンジン長手方向Xである隣接ボア間のシール面圧は最も低下し、ガス漏れしやすくなり、エンジン長手方向Xと直行するエンジン左右方向である幅方向Yにおけるシール面圧は比較的高く、面圧余裕度が過大気味となる傾向を示す。
【0006】
これはシリンダブロック100の隣接するボア間の間隔が狭いために、図6で示すX方向にヘッドボルトを配置することが出来ないことと、この部位の剛性が比較的低いことに起因している。また、ボア間のシリンダヘッド180とシリンダブロック100の合面部ではガスケット200の各シリンダボア周りの不図示のビード部同士が接近するため、そのシール面圧が得難い状態にある。
【0007】
このような理由からヘッドボルトの締め付けによるシリンダヘッドとシリンダブロックの合面の面圧分布は、ボア間における面圧が低くなってしまう。
このような実情を考慮し、従来はシリンダボア全周におけるすべての位置のボア周りシール面圧が必要最小限面圧値(図6に符号Bの実線で示す)を上回るようにヘッドボルトの締付け力を加えるようにしていた。
【0008】
なお、特開平06−307287号公報(特許文献1)には、シリンダライナの上端面に形成された凹溝内にC状断面を有する中空状ガスケットを配備して、同ガスケットを比較的小さなヘッドボルトの締付け力で変形させて高いシール性を発揮するようにして、ボアのシール性を向上させる技術が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開平06−307287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上述のように、シリンダボア全周におけるすべての位置のボア周りシール面圧が必要最小限の面圧値を上回るようにヘッドボルトに締付け力を加えると、この場合の締付け力が大きくなるに従い、例えば図7に示すように、シリンダライナの真円度の変形量(符号a参照)が過度に大きくなり、これに起因して、シリンダ内部を上下動するピストン/ピストンリングとライナ内壁間の環状隙間が変形し、ガス、潤滑油のシール性を低下させる原因となる。
【0011】
なお、特許文献1のC状断面を有する中空状ガスケットもこれに加わる締結力が最大変形量を超えて締結力が加わると、シリンダの真円度が低下し、シリンダヘッドとシリンダブロックの合面部ではそのシール性が悪くなり、シリンダ内部を上下動するピストン/ピストンリングとライナー内壁間のガス、潤滑油のシール性を低下させることとなる。
本発明は、上述のような問題を解消するために、ボア間に位置するシリンダヘッドの剛性強化を図ることでボア間部の面圧増大を図り、ボア間の合面のシール性を向上させることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明は、シリンダヘッドとシリンダブロックがボルトで締結されたエンジンの補強構造において、上記シリンダブロックのボア間に位置するシリンダヘッドの下壁部にシリンダヘッド高さ方向上方に突き出すよう形成された補強部を設けたことを特徴とする。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1記載のエンジンの補強構造において、上記シリンダブロックの互いに隣り合う一対のシリンダ壁間を連結する補強連結材を設けたことを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2記載のエンジンの補強構造において、上記補強部は上記下壁よりウオータージャケット内に突き出すよう形成され、かつ、上記補強部はその突き出し部側にシリンダヘッド長手方向に開口する冷却水流動用の凹部が形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、このようにシリンダボア間のヘッド下壁に埋設された補強部がシリンダヘッド長手方向と直行する方向に延出形成されると共に上記下壁よりシリンダヘッド高さ方向に突き出すよう形成されるので、この補強部によりシリンダヘッドのボア間に位置する下壁の剛性を補強することで、シリンダヘッドとシリンダブロックがボルトで締結された際に、ボア間のシール面圧が増大し、ボア回りの面圧を均一化できると共にボア間のシール性を向上させることができる。
しかも、最も面圧が低いボア間の面圧を増大させることにより、ボア回りの面圧を均一化することができるので、従来はボア間のシール面圧を確保するために余剰にかけていたボルトの締め付け力を低減させることが可能となり、ボルトの締め付けによるボア変形を抑制することが出来、ピストンリングとライナー内壁間のガス、潤滑油のシール性を改善できる。
【0016】
更に、本発明は、タイバーが互いに隣り合う一対のシリンダ壁間である隣接シリンダ壁間の剛性を強化でき、更なるボア変形量の低減が図られ、ピストンリングとライナー内壁間のガス、潤滑油のシール性を改善できる。
更に、本発明は、凹部が冷却水のシリンダヘッド長手方向への流動を許容できるので、シリンダヘッドの冷却性能の低下を極力抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1、2にはこの発明の一実施形態としてのエンジンの補強構造が適用された多気筒エンジンを示した。
この多気筒エンジン(以後単にエンジンEと記す)のエンジン本体1は複数のシリンダSを有するシリンダブロック2とその上側にヘッドボルト3(以後単にボルト3と記す)3で一体的に締結されたシリンダヘッド4及びヘッドカバー5と、シリンダブロック2の下側に一体結合されるオイルパン6とを有する。エンジンEは同一形状のシリンダSをエンジン長手方向Xに4つ有し、各シリンダS内にはピストン7が上下摺動可能に配備され、シリンダライナ8、ピストン7、シリンダヘッド4の下壁9間に燃焼室Cが形成されている。
【0018】
シリンダブロック2とその上側のシリンダヘッド4との間にはガスケット11が配備され、両者は複数のヘッドボルト3の締付によってシリンダブロック2の上壁12(トップデッキ)とシリンダヘッド4の下壁9とがガスケット11を挟持した状態で強固に一体結合されている。
シリンダブロック2には鍔部を備えたシリンダライナ8が着脱自在に嵌挿されている。
【0019】
ところで、シリンダブロック2はシリンダ長手方向X(図1参照)に沿って等間隔で直列状に4つのシリンダライナ8を配備する。更に、シリンダブロック2は外壁部15とその内側のシリンダボア部16との間にウオータージャケット17を有する。ウオータージャケット17はシリンダブロック2の長手方向Xの一端に不図示のウオーターポンプからの冷却水を流入させる流入口19(図3(b)参照)が形成され、更に、同冷却水をシリンダヘッド4側のウオータージャケット21(図1参照)に流動させる連通口22を上壁12(トップデッキ)(図1参照)に複数形成されている。
【0020】
シリンダブロック2の外壁部15であって、各シリンダボア部16の上部側との対向部にはシリンダ周方向に沿ってボルト孔23を有するボス部24が複数ほぼ所定間隔を介して順次配設される。
このようなシリンダブロック2はエンジン長手方向Xに直状に所定間隔を介して各シリンダボア部16を配設し、その上壁12(トップデッキ)から所定長さ分だけ下方の位置で補強連結材であるタイバー14によって各シリンダボア部16が一体結合されている。この時の所定の長さとして、図7に示された変形量の大きい位置Sに対応する上壁12からの距離を設定することにより、効果的にボス変形を抑えることができる。よって、タイバー装着により、結果的にはピストンリングとライナー内壁間の環状隙間の変形を抑え、ガス、潤滑油のシール性を改善することができる。
【0021】
なお、タイバー14はシリンダブロック2の鋳造時において、中間部がウオータージャケット17に露呈する状態で両側端が互いに対向するシリンダボアに同時に鋳込まれる。
また、ここでは互いに隣り合う一対のボア部(シリンダ壁)間を1つのタイバー14で連結しているが、場合により2つ以上のタイバー14を用いてよりシリンダライナ8の変形を確実に抑制しても良い。
【0022】
一方、シリンダヘッド4のシリンダブロックボア間に位置するヘッド下壁9内側には、上先端をヘッドウォータージャケット21内に突き出す補強部であるリブ13が設けられる。
このリブ13は、横断面が三角形をなし、頂部中間にエンジン高さ方向Zに向かって切欠された切欠凹部131が形成される。このリブ13はボア間の距離より多少狭い横幅と、ヘッド下壁9の肉厚Lw(図2参照)より大きい縦幅と、シリンダヘッド長手方向Xと直行する方向のリブ長手方向(Y)長さLcとを有する。
【0023】
リブ13はその低面がヘッド下壁9の上面より連続して上方に延在している。リブ長手方向長さLcはボア間に位置する一対のボルト貫通孔27の間隔Ld(図3)より小さいLcに設定され、これにより、一対のボルト貫通孔27との干渉を避けた上で、シリンダボア間に位置する下壁9の剛性を十分に強化し、シール面圧が得られるよう機能させることができる。
【0024】
なお、リブ13の頂部中間の切欠凹部131はヘッドウォータージャケット21内をエンジン長手方向Xに流動する冷却水の流れに対しリブ13が流動抵抗となることを抑制するため設けられる。なお、このように、リブ13がその頂部の中間を切欠し、左右端の頂部を残すことで、この左右端の頂部がシリンダボア間に位置する一対のボルト3の締結力をより確実に受け取るので、補強部材として十分に機能する。なお、図3(a)に示す複数の符号20は図3(b)に示すシリンダブロック2側の連通口22に対向して配設され、ウォータージャケット17よりヘッドウォータージャケット21に冷却水を流動可能に形成される。
【0025】
このようなエンジンEの補強構造が適用されたエンジン本体1の組み付け時において、シリンダブロック2とシリンダヘッド4とが重ね合わされ、複数ボルト3を用い、これらをシリンダヘッド4の各ボルト貫通孔27より差込み、対向するガスケット11の貫通孔(不図示)、シリンダブロック2のボルト孔23へと嵌挿させ、ボルト孔23の螺子部に順次羅着させることで、シリンダブロック2とシリンダヘッド4とがガスケット11を介して一体結合されるとする。
【0026】
この場合、ヘッドボルト3の締め付けトルクを従来同様の比較的大きな値に保持した場合、隣接シリンダボア間の剛性が十分強化されていることで、図6に符号Cで示すように、シリンダ長手方向に位置する部位p1、p2のシール面圧が底上げされ、シリンダボア周りのシール面圧が均一化されるので、シリンダブロックとシリンダヘッド間における燃焼ガスのシール性を向上できる。
【0027】
また、リブ13によりシリンダボア間の面圧を底上げした状態(図6符合C)は必要最小面圧値(図6符合B)に対し、余裕があるので、従来のヘッドボルト締め付け力よりも小さい締め付け力で必要十分な面圧を得ることが可能となる。
シリンダボア周りのシール面圧を必要十分な面圧まで低下させるべく、ヘッドボルトの締め付け力を低下させた場合、図7に符合dで示されるように、ボア変形量を低減することが可能となり、ピストンリングとシリンダライナ8の内壁間のガス、潤滑油のシール性を十分に改善できる。
【0028】
このような結果を考慮し、ここでのエンジン本体1の組付けにあたっては、ボルト3の締付力を従来値より所定量低滅させる。この際、リブ13の働きでヘッド下壁9側の隣接シリンダ対向部間の曲げ剛性を強化させているため、締付力を従来値より所定量低減させているにもかかわらず、シリンダヘッド4とシリンダブロック2の合面の内シリンダ長手方向Xに位置する部位のシール面圧を底上げさせることができ、シリンダボア部16回りのシール面圧の不均一性を抑制して、均一化を図れ、ボア間のシール性を向上させることができる。
【0029】
また、ボルト3の締付力の低減およびタイバー14の働きにより、シリンダボア周辺部にかかる総荷重の低下およびシリンダブロック2のボア間部のシリンダ壁の剛性が強化されるため、シリンダ変形の抑制が可能であり、ピストンリングとライナ内壁間のガス、潤滑油のシール性を十分に改善できる。
【0030】
このように、最も低下しやすいシリンダヘッド4のシリンダボア間に位置する下壁9の剛性がリブ13により高まりシール面圧の不均一性を抑制できるので、ボア周辺部にかかる総荷重を低下させても必要最低面圧値Bを上回るように設定でき、シリンダブロック2側のボルトボス部24が過度の締結力を受けることを抑制でき、これによりシリンダライナ8の変形を抑制でき、ピストンリングとライナー内壁間のガス、潤滑油のシール性を改善できる。
【0031】
上述のところにおいて、シリンダブロック2は互いに隣り合う一対のボア部(シリンダ壁)間をタイバー14を用いて連結しているが、このタイバー14を排除し、単に、シリンダヘッド4にリブ13を設けてシリンダヘッド4のヘッドボア間の下壁9の剛性を補強するのみとして構成の簡素化を図ってもよい。この場合も、タイバー14を備えた場合より多少のピストンリングとライナー内壁間のガス、潤滑油のシール性の低下があるものの、図1の装置とほぼ同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は直列多気筒エンジンに適応されるとして説明されていたが、V型エンジンにも同様に本発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態としてのエンジンの補強構造が適用されたエンジンの側面図である。
【図2】図1のエンジンの正面図である。
【図3】図1のエンジンの要部端面図を示し、(a)はヘッド低壁の底面図、(b)はシリンダブロック上壁の上面図である。
【図4】図1のエンジンのシリンダブロック内のタイバーを説明する図で、(a)は概略斜視図、(b)は要部断面図である。
【図5】図1のエンジンのシリンダヘッド内のリブを説明する図である。
【図6】図1のエンジン本体及び比較例としての従来装置のシール面圧特性図である。
【図7】図1のエンジン本体及び比較例としての従来装置の真円度特性線図である。
【図8】従来装置の切欠断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 エンジン本体
2 シリンダブロック
3 ボルト
4 シリンダヘッド
9 ヘッド下壁
13 リブ(補強部)
14 タイバー
E エンジン
Z シリンダヘッド高さ方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドとシリンダブロックがボルトで締結されたエンジンの補強構造において、
上記シリンダブロックのボア間に位置するシリンダヘッドの下壁部にシリンダヘッド高さ方向上方に突き出すよう形成された補強部を設けたことを特徴とするエンジンの補強構造。
【請求項2】
請求項1記載のエンジンの補強構造において、
上記シリンダブロックの互いに隣り合う一対のシリンダ壁間を連結する補強連結材を設けことを特徴とするエンジンの補強構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のエンジンの補強構造において、
上記補強部は上記下壁よりウオータージャケット内に突き出すよう形成され、かつ、上記補強部はその突き出し部側にシリンダヘッド長手方向に開口する冷却水流動用の凹部が形成されたことを特徴とするエンジンの補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−2695(P2006−2695A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181324(P2004−181324)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】