説明

エンジンのLPG供給装置

【課題】 液相燃料系と気相燃料系とを有するLPG噴射システムにおけるLPGのエンジン供給を安定したものとする。
【解決手段】 タンク温度センサ33と気相圧力センサ25が検出した値に基いてLPG成分計算手段35でLPGの成分比を算出し、この成分比を基準として液相圧力センサ15と液相温度センサ16が検出した値から液相状態判定手段36により液相燃料系FL内の液相LPGの状態を判断させ、完全液相のときは液相燃料系FLによる燃料供給を行ない気相発生と判断したとき気相燃料系FGに切換えることにより常に正確・高精度の燃料制御ができるようにした。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は燃料であるLPGを噴射方式によりエンジンに供給する装置、詳しくは液相のLPGを噴射する系と気相のLPGを噴射する系とをもち、LPGおよびエンジンの諸状態に応じて系を選択して液相または気相のLPGをエンジンに供給する装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】LPGを燃料に使用するエンジンの高出力化を図るため、減圧気化することなく高圧液相の状態で噴射弁を用いて吸気管路に噴射しエンジンに供給することが提案されている。
【0003】周知のように液相のLPGは温度上昇に伴って気化しやすくなる性質をもっており、温度上昇によって燃料タンクから噴射弁に至る液相燃料系内に気相が発生すると圧力が大幅に変動し、また気相燃料も噴射してしまうため噴射弁からの噴射量を狂わせてエンジンを不調または運転不能とする。
【0004】その対策として、液相燃料系とは別の噴射弁をもった気相燃料系を具えさせ、液相燃料系内に気相が発生しない状態のときは液相LPGを噴射するが、気相が発生したときは気相LPGを噴射するように、使用する燃料系を切換えることが特開昭63−18172号公報、特開平11−210557号公報に提示されている。
【0005】図8は前記特開昭63−18172号公報に記載されているLPG噴射システムを概略的に示した図であって、エンジン51の吸気管路52に液相燃料系54の液相噴射弁55と気相燃料系62の気相噴射弁63とを設置している。液相燃料系54は燃料タンク53から液相噴射弁55に至る液相燃料通路56にポンプ57,圧力センサ58,温度センサ59を設けてなり、圧力調整器61を有する戻し通路60を具えている。気相燃料系62は戻し通路60または燃料タンク53から気相噴射弁63に至る気相燃料通路64に気相貯槽65を設けたものとしている。
【0006】そして、圧力センサ58と温度センサ59とによって圧力と温度とを検出して液相燃料通路56の液相LPGに気相が発生していると判断したとき、液相噴射弁55を停止して気相噴射弁63により気相LPGをエンジン51に供給するものである。
【0007】図9は前記特開平11−210557号公報に記載されているLPG噴射システムを概略的に示した図であって、図8のものと同様にエンジン51の吸気管路52に液相燃料系54の液相噴射弁55と気相燃料系62の気相噴射弁63とを設置している。液相燃料系54は燃料タンク53から液相噴射弁55に至る液相燃料通路56にポンプ57,圧力センサ58,温度センサ59を設けてなり、圧力調整器61を有する戻し通路60を具えている。一方、気相燃料系62は燃料タンク53から気相噴射弁63に至る気相燃料通路64に圧力調整器66,圧力センサ67,温度センサ68を設けてなるものとされ、更にエンジン51の冷却水温度を検出する水温センサ69を具えている。
【0008】そして、圧力センサ58と温度センサ59とによって圧力と温度とを検出して液相燃料通路56の液相LPGに気相が発生していると判断したとき、液相噴射弁55を停止して気相噴射弁63により気相LPGをエンジン51に供給する、という基本動作において図8R>8のものと同じである。しかし、図9のものでは、圧力センサ67と温度センサ68とによって検出した気相燃料通路64の気相LPGの状態、即ち完全気相であるか不完全気相であるかに応じて気相噴射弁63の制御モードを変えるようにしており、更に水温センサ69によって高温再始動と判断したときは気相噴射弁63により気相LPGをエンジンに供給するようにしている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】前記図8,図9のLPG噴射システムは、前述のように液相燃料系のLPGの状態、即ち液相のみであるか気相を発生しているかの判断を液相燃料通路の圧力と温度とによって行ない、液相LPGの供給を継続するか気相LPGの供給に切換えるかを決定している。従って、LPGの成分比によっては判断の誤差が大きく、正確な制御が困難になる、という問題がある。
【0010】また、エンジン始動に際して液相燃料系にLPGが満たされていない場合があり、このような場合は図8のLPG噴射システムによる始動はもとより、図9R>9のLPG噴射システムによる冷間始動以外の始動にあたって液相燃料通路のLPGの状態を正確に判断することが困難であり、始動に長時間を要する場合が生じることを避けられない。更に、液相燃料系の液相LPGの状態のみによって使用する燃料系を選択しているので、液相燃料系のみの使用が継続するとエンジンルーム内の熱で高温となった余剰LPGが燃料タンクに戻り循環を繰返すことにより、燃料タンク内のLPGの温度・圧力が上昇する。その結果、噴射弁に高精度のものが要求され、且つその制御に複雑なシステムが必要となるばかりか、燃料系を構成する各部品に大きな耐圧強度が必要となり、加えて燃料タンクにLPGを補給する必要を生じたとき内部が高圧であると充填が困難である、という問題を生じる。
【0011】本発明は前記従来のLPG噴射システムがもっている前述の諸問題を解決するためになされたものであって、液相LPGの噴射と気相LPGの噴射との切換えを適切に行なわせること、およびこのことに加えてエンジンの始動を容易に安定よく行なわせること、更にこれらに加えて燃料タンクの温度・圧力上昇を抑制して噴射弁、制御システム、耐圧強度に対する要求を軽減させることを目的とし、更にまた切換え時の燃料引継ぎが円滑に行なわれるLPG噴射システムとすることを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明は燃料タンクに充填されているLPGの液相部分と気相部分とを個別に吸気管路に噴射しエンジンに供給する液相燃料系と気相燃料系とを有するLPG噴射システムがもっている前記問題点を次のようにして解決させることとした。
【0013】即ち、本発明は前記問題点を解決するための第一手段を、燃料タンクに設置されてその温度を検出するタンク温度センサと;液相燃料系の燃料タンクから液相噴射弁に至る液相燃料通路に設置されてその内部の液相LPGの圧力および温度を検出する液相圧力センサおよび液相温度センサと;気相燃料系の燃料タンクから気相噴射弁に至る気相燃料通路に設置されてその内部の気相LPGの圧力および温度を検出する気相圧力センサおよび気相温度センサと;タンク温度センサと気相圧力センサまたは液相温度センサとが検出した各値に基いてLPGの成分比を算出するLPG成分計算手段と;LPG成分計算手段により算出された成分比を基準として、液相圧力センサおよび液相温度センサが検出した各値から液相燃料系内の液相LPGの状態を判断する液相状態判定手段と;を具え、液相状態判定手段が液相燃料系内の液相LPGを完全な液相と判断したときは液相燃料系による燃料供給を行なわせ、液相燃料系内に気相を発生していると判断したときは気相燃料系による燃料供給を行なわせるようにした。
【0014】このように、液相LPGと気相LPGとの切換えを液相燃料系内の液相LPGの圧力・温度のみによることなく、これらに加えLPGの組成を考慮して決定するものとした第一手段によると、LPGの成分比の相違による判断誤差がなくなり、正確且つ高精度の制御が可能となって、気相発生後も液相燃料系による燃料供給を行なって混合気過薄となる不都合を回避し、広範囲の運転条件下で安定したエンジン性能を得ることができる。
【0015】次に、本発明は前記問題点を解決するための第二手段を、前記の第一手段に加えてエンジンの温度を検出するエンジン温度センサと;LPG成分計算手段により算出されたLPG成分比およびエンジン温度センサが検出した値に基いてエンジンの始動時に供給する燃料を選定する始動燃料選定手段と;を具え、始動燃料選定手段は始動時のエンジン温度が基準温度よりも低温のとき液相燃料系に始動燃料供給を行なわせ、高温のとき気相燃料系に始動燃料供給を行なわせるものとした。
【0016】このように、始動時に供給する燃料をエンジン温度によって液相LPGと気相LPGのいずれかに選定することを第一手段に付加した第二手段によると、第一手段が有する機能に加えて、あらゆる環境条件下で常にエンジンを容易に且つ安定よく始動させることができる。
【0017】ここで、始動燃料選定手段をLPGのプロパン比率が高いほど基準温度を低温側へ移行させて気相燃料系による始動燃料供給温度領域を拡張するものとした場合は、始動燃料を適確に供給してエンジンの始動性を更に高めることができる。
【0018】また、本発明は前記問題点を解決するための第三手段を、前記の第一手段または第二手段に加えてタンク温度センサが検出した値に基いて燃料の切換えを行なわせる切換指令手段;を具え、切換指令手段は燃料タンクが設定温度以上となったとき、液相状態判定手段が液相燃料系による燃料供給を行なわせる判断をしていても、気相燃料系による燃料供給に切換えさせるものとした。
【0019】このように、燃料タンクが設定温度以上となったとき、燃料供給が液相燃料系で行なわれていてもこれを強制的に気相燃料系に切換えさせることを第一手段または第二手段に付加した第三手段によると、これらが有する機能に加えて、燃料タンク内の気相LPGが消費されて液相LPGの蒸発量が大幅に増加することによる気化潜熱がもたらす冷却効果が、燃料タンク内の温度・圧力上昇を抑制して噴射弁、制御システム、各部品の耐圧強度に対する要求を軽減させることができる。
【0020】更に、本発明は前記問題点を解決するための第四手段を、前記第一手段、第二手段または第三手段に加えてエンジンの回転速度を検出する回転速度センサと;回転速度センサが検出した値に応じて燃料切換え時における液相燃料系の燃料供給停止・開始時期を気相燃料系の燃料供給開始・停止時期よりも遅らせる時間を設定する遅延時間設定手段と;を具え、遅延時間設定手段は液相燃料系から気相燃料系への切換え時に後者の燃料供給開始時点から設定された時間だけ遅れて前者の燃料供給を停止させ、気相燃料系から液相燃料系への切換え時に前者の燃料供給停止時点から設定された時間だけ遅れて後者の燃料供給を開始させるものとした。
【0021】本発明は液相LPGを吸気管路に噴射してエンジンに供給することを基本とし、特定条件で気相LPGを吸気管路に噴射してエンジンに供給するものであり、液相噴射弁はガソリンエンジンの噴射弁と同様に各気筒に対応させて吸気マニホルド枝管のそれぞれに設置して各気筒への応答性・分配性を良好なものとし、気相噴射弁は一時的に使用されるものであることから経済性を考慮して少ない個数を気筒分配性を考慮して液相噴射弁よりも上流側に設置すること、殊に一個のみとしてこれを吸気マニホルド集合部またはそれよりも上流側に設置することが好ましい。
【0022】燃料切換え時に液相燃料系の燃料供給停止・開始の時期を前述のようにすることを第一手段、第二手段または第三手段に付加した第四手段によると、これらが有する機能に加えて、特に液相噴射弁と気相噴射弁を前記の配置とした場合における燃料切換え時の空燃比変動が解消され、運転性と排気状態を良好に維持することができる。
【0023】ここで、遅延時間設定手段をエンジンの回転速度が高いほど遅延させる時間を短く設定するものとした場合は、燃料切換え時の空燃比変動を更に確実に解消することができる。
【0024】
【発明の実施の形態】以下に図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明に係るLPG噴射システムの実施の一形態を示す配置図であって、1はエンジン、2はスロットルボディ3、吸気マニホルド5を含む吸気管路、6は排気管路、7は耐圧容器からなる燃料タンク、8は電子式制御ユニット、FLは液相燃料系、FGは気相燃料系である。
【0025】液相燃料系FLは燃料タンク7の液相LPGに浸漬され、フィルタを通して吸込んだ高圧の液相LPGを更に加圧する燃料ポンプ12と、これより送出した液相LPGを燃料ギャラリ17に送る液相燃料通路11と、この通路11に設置した電磁駆動の液相遮断弁14,液相圧力センサ15,液相温度センサ16と、燃料ギャラリ17に接続されてエンジン1の各気筒に対応して吸気マニホルド5の枝管のそれぞれに設置した液相噴射弁18と、液相圧力調整器20を有し液相燃料通路11の燃料ギャラリ17に接近した個所から分岐して燃料タンク7に接続した液相戻し通路19とを具えている。
【0026】液相圧力センサ15および液相温度センサ16は燃料ギャラリ17に近い個所に設置され、また液相噴射弁18はエンジン1の吸気ポートに接近した個所に設置されており、噴射直前の液相LPGの状態を検出し且つエンジン入口近くで噴射させることにより、適正量の液相LPGを応答よくエンジンに供給できるようになっている。
【0027】一方、気相燃料系FGは燃料タンク7の気相LPGに入口を開口させた気相燃料通路22と、この通路22に設置した電磁駆動の気相遮断弁23,気相圧力調整器24,気相圧力センサ25,気相温度センサ26と、吸気マニホルド5の集合部のスロットルボディ3に近い個所に設置した一個の気相噴射弁27とを具えている。もっとも、気相噴射弁27は複数個を各気筒に均等分配できるように適宜個所に設置してもよい。
【0028】気相圧力センサ25および気相温度センサ26は気相噴射弁27に近い個所に設置されており、噴射直前の気相LPGの状態を検出して適正量の気相LPGをエンジンに供給するようになっている。
【0029】エンジン1にはその温度、一般には冷却水の温度を検知するエンジン温度センサ31および回転速度を検知する回転速度センサ32とが付設され、これらのほかに排気管路6に設置されて排気状態を検知する酸素センサ、吸気管路2の絞り弁4上流側に設置されて吸入空気量を検知する空気流量センサ、絞り弁4の位置を検知するスロットル開度センサなどエンジン1の状態を検知するセンサ類が設置されていて、これらが検出した値が電子式制御ユニット8に送られて液相噴射弁18,気相噴射弁27を制御することは、従来の燃料噴射制御システムと同じである。
【0030】本実施の形態では、エンジン温度センサ31,回転速度センサ32に加えて、燃料タンク7にその内部に充填されているLPGの温度を検知するタンク温度センサ33を設置している。また、気相圧力調整器24はエンジン冷却水で加熱するようになっており、温度が低下しても気相を維持して気相噴射弁27から噴射させることができる。
【0031】電子式制御ユニット8にはLPGの成分、具体的には図2に示す圧力−温度線図で表されるプロパン成分比に応じた圧力と温度との関係が記憶させてあり、また通常の空燃比制御のためのコントロール変数入力・演算処理・コントロール信号出力手段のほかに、LPG成分計算手段35,液相状態判定手段36,始動燃料選定手段37,切換指令手段38,遅延時間設定手段39が含まれている。
【0032】通常のエンジン運転において、液相燃料系FLによる燃料供給を行なっているときは液相圧力センサ15,液相温度センサ16が検出した液相LPGの状態とエンジン1の運転状態とに応じて液相噴射弁18を制御し、気相燃料系FGによる燃料供給を行なっているときは気相圧力センサ25,気相温度センサ26が検出した気相LPGの状態とエンジン1の運転状態に応じて気相噴射弁27を制御する。
【0033】本実施の形態によると、タンク温度センサ33と気相圧力センサ25または液相圧力センサ15とが検出した値に基いて、現在燃料タンク7に充填されているLPGの成分比、本実施の形態ではプロパン成分比をLPG成分計算手段35により算出する。この成分比は図2に示す圧力−温度の関係から正確に算出することができる。
【0034】そして、算出されたLPGの成分比と液相圧力センサ15,液相温度センサ16が検出した液相燃料系FL内の圧力および温度とを用いて、液相状態判定手段36により液相燃料系FL内の液相LPGの状態、即ち完全な液相であるか気相を発生しているかを判断させる。この場合、成分比によって一定の圧力−温度関係を有しているので、検出した圧力および温度の値がこの関係から逸脱していれば気相を発生している、と判断されて液相燃料系FLによる燃料供給を停止して気相燃料系FGによる燃料供給に切換える。
【0035】以上は請求項1に記載した第一手段の実施の形態であり、現在使用しているLPGの組成を液相燃料系FL内の液相LPGの状態判断の要素に加えたことにより、LPGの成分比の相違による判断誤差がなくなり、正確且つ高精度の制御が可能となって、気相発生後も液相燃料系FLによる燃料供給を継続して混合気過薄を生じる、という不都合をなくし広範囲の運転条件下で安定したエンジン性能を得ることができる。
【0036】次に、エンジン始動にあたって、LPG成分計算手段35により算出されたLPGの成分比とエンジン温度センサ31が検出したエンジン温度とを用いて、始動燃料選定手段37により液相LPGと気相LPGのいずれによって始動させるかを選択する。即ち、図3R>3に示すようにエンジン温度が基準温度TEよりも低いときは液相燃料系FLから供給される液相LPGで始動させ、エンジン温度が基準温度TEよりも高いときは気相燃料系FGから供給される気相LPGで始動させるものである。このことにより、液相LPGが気化しにくい低温域で液相LPGが供給され、あらゆる環境条件下で常にエンジン1を容易に且つ安定よく始動させることが可能となる。尚、エンジン始動後は液相状態判定手段36の判断に従った燃料供給が行なわれる。
【0037】本実施の形態では基準温度TEをLPGの成分比に応じて可変としている。即ち、図4に示すようにLPG成分計算手段35によって算出したLPG成分比の内でプロパンが占める比率が高いほど基準温度TEを低温側へ移行させて気相LPGによる始動温度領域を拡張する。反対に、プロパンが占める比率が低いほど基準温度TEを高温側に移行させて液相LPGによる始動温度領域を拡張する。
【0038】以上は請求項2,6に記載した第二手段の実施の形態であり、LPG成分比による蒸気圧の相違に応じて基準温度TEを変更することにより、エンジン1の始動性を更に高めることができる。
【0039】エンジン1が長時間運転を続けたときや高温雰囲気で運転されたとき、エンジン1の周辺が高温となってこれにより熱せられた余剰液相LPGが液相戻し通路19を通って燃料タンク7に戻り、これが循環することによって燃料タンク7の温度が次第に上昇する。燃料タンク7の温度が上昇すると、充填されているLPGの気化が進んで圧力が大幅に上昇する。
【0040】燃料タンク7の温度はタンク温度センサ33によって検出されており、図5に示すように予め設定した基準温度TFよりも低いときは液相燃料系FLによる燃料供給を継続するが、基準温度TFよりも高温となったときは気相燃料系FGによる燃料供給に切換える。この切換えは切換指令手段38がタンク温度センサ33によって検出された温度と基準温度TFとを比較して指令を発することによって行なわれ、液相状態判定手段36が液相燃料系FL内を完全な液相LPGと判断していても、この判断よりも優先して切換えを強制的に行なうものとされている。
【0041】以上は請求項3に記載した第三手段の実施の形態であり、燃料タンク7の気相LPGを消費することによって燃料タンク7の圧力が低下し、液相LPGの蒸発量が大幅に増加して蒸発の際の気化潜熱による冷却効果で燃料タンク7の温度が低下する。このように、燃料タンク7の温度・圧力の上昇が抑制されることによって、液相噴射弁18,気相噴射弁27に高い加工精度、複雑な動作制御システムを必要としなくなるとともに、液相燃料系FL、気相燃料系FGの構成部品の耐圧強度に対する要求を軽減することができ、更に燃料タンク7にLPGを補給するときの充填作業を容易に行なうことができるものである。
【0042】尚、燃料タンク7の温度が基準温度TFよりも低下したときは、液相状態判定手段36の判断に従う燃料供給に戻る。尚また、この実施の形態における基準温度TFは一定値に固定しておいてもよいが、LPGの成分比に応じてプロパン比率が高いほど低温側へ移行させ、気相LPGに切換える温度領域を拡張させるようにしてもよく、このようにすると燃料タンク7内の温度・圧力の上昇を更に適切に抑制することができる。
【0043】更に、図1に示した実施の形態のように、常用する液相燃料系FLの液相噴射弁18を吸気マニホルド枝管毎にエンジン入口近くに設置し、特定条件で使用する気相燃料系FGの気相噴射弁27を吸気マニホルド集合部に設置したものにおいて、液相燃料系FLによる燃料供給の停止と気相燃料系FGによる燃料供給の開始とを同時に行なうと、気相噴射弁27がエンジン1から遠いために供給遅れを生じ、混合気が一時的に過薄となる。また、気相燃料系FGによる燃料供給の停止と液相燃料系FLによる燃料供給の開始とを同時に行なうと、液相噴射弁18がエンジン1に近いために気相LPGと液相LPGとが同時に供給されて混合気を一時的に過濃とする。
【0044】図6(B)はこの様子を示したものであり、切換え時に空燃比がスパイクを発生してエンジン運転性、排気状態を悪化する、という不都合を生じる。
【0045】そこで、液相状態判定手段36および切換指令手段38が発する指令により切換えを行なうとき、回転速度センサ32が検出した値に基いて遅延時間設定手段39により液相燃料系FLの燃料供給停止・開始時期を気相燃料系FGの燃料供給開始・停止時期よりも遅らせる時間を設定し、この設定された遅延時間に従って液相燃料系FLの燃料供給停止と開始とを遅らせるものとした。
【0046】即ち、液相燃料系FLから気相燃料系FGに切換えるときは、気相燃料系FGによる燃料供給の開始から少し遅れて液相燃料系FLによる燃料供給を停止させることにより、燃料を途切れることなくエンジン1に供給することができる。また、気相燃料系FGから液相燃料系FLに切換えるときは、気相燃料系FGによる燃料供給の停止から少し遅れて液相燃料系FLによる燃料供給を開始させることにより、これらからの燃料を重複させることなくエンジン1に供給することができる。
【0047】尚、遅延時間設定手段39で遅延時間を設定するにあたり、図7に示すようにエンジン回転速度が高いほど遅延時間を短く設定することが、回転速度の高低にかかわらず燃料の途切れおよび重複を生じさせないために有効である。
【0048】以上は請求項4,7に記載した第四手段の実施の形態であり、図6(A)に示したように切換え時における空燃比スパイクの発生がなくなり、一定空燃比の混合気をエンジン1に供給して運転性、排気状態を良好に維持することができる。
【0049】
【発明の効果】以上のように、燃料タンクのLPGの液相部分を吸気管路に噴射する液相燃料系と、特定条件下で気相部分を吸気管路に噴射する気相燃料系とを具えたLPG噴射システムにおいて、各燃料系内のLPGの圧力および温度を検知することに加えて、燃料タンクの温度を検知して使用しているLPGの成分比を算出し、これを基準として液相燃料系内の液相LPGが完全な液相であるか気相を発生しているかを判断するようにした本発明によると、組成が異なるLPGを用いても常に完全な液相LPGまたは気相LPGを噴射させることができ、正確な制御を行なって広範囲の運転条件下で安定したエンジン性能を得ることができるものである。
【0050】また、このことにエンジン温度とLPG成分比とに基いて始動燃料を選定する手段、燃料タンクの温度に基いて液相燃料系による燃料供給を気相燃料系による燃料供給に強制的に切換える手段、エンジン回転速度に応じた時間だけ燃料切換え時の液相燃料系の供給停止・開始を気相燃料系の供給開始・停止よりも遅延させる手段、のいずれかまたは二以上を加えた本発明によると、エンジンの始動を容易且つ安定よく行なうこと、燃料タンクの温度・圧力上昇を抑制して噴射弁、制御システム、各部品に対する諸要求を軽減すること、切換え時の燃料引継ぎを途切れや重複を生じることなく円滑に行なってエンジン運転性、排気状態を損なわないこと、ができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態を示す配置図。
【図2】LPGの圧力−温度線図。
【図3】エンジン温度による始動燃料選択を説明する図。
【図4】始動燃料選択のエンジン基準温度とLPG成分比との関係を示す図。
【図5】燃料タンク温度による使用燃料切換えを説明する図。
【図6】液相LPGと気相LPGの切換えと空燃比との関連を説明する図。
【図7】燃料切換えの遅延時間設定とエンジン回転速度との関係を示す図。
【図8】従来例の概略配置図。
【図9】異なる従来例の概略配置図。
【符号の説明】
1 エンジン,2 吸気管路,7 燃料タンク,8 電子式制御ユニット,11 液相燃料通路,15 液相圧力センサ,16 液相温度センサ,18 液相噴射弁,22 気相燃料通路,25 気相圧力センサ,26 気相温度センサ,27 気相噴射弁,31 エンジン温度センサ,32 回転速度センサ,33タンク温度センサ,35 LPG成分計算手段,36 液相状態判定手段,37始動燃料選定手段,38 切換指令手段,39 遅延時間設定手段,FL 液相燃料系,FG 気相燃料系,

【特許請求の範囲】
【請求項1】 燃料タンクに充填されているLPGの液相部分と気相部分とのいずれかを選択して吸気管路に噴射しエンジンに供給する液相燃料系と気相燃料系とを有するものであって、前記燃料タンクに設置されてその温度を検出するタンク温度センサと、前記液相燃料系の前記燃料タンクから液相噴射弁に至る液相燃料通路に設置されてその内部の液相LPGの圧力および温度を検出する液相圧力センサおよび液相温度センサと、前記気相燃料系の前記燃料タンクから気相噴射弁に至る気相燃料通路に設置されてその内部の気相LPGの圧力および温度を検出する気相圧力センサおよび気相温度センサと、前記タンク温度センサと前記気相圧力センサまたは液相圧力センサとが検出した各値に基いてLPGの成分比を算出するLPG成分計算手段と、前記LPG成分計算手段により算出された成分比を基準として、前記液相圧力センサおよび液相温度センサが検出した各値から前記液相燃料系内の液相LPGの状態を判断する液相状態判定手段と、を具え、前記液相状態判定手段が前記液相燃料系内の液相LPGを完全な液相と判断したときは前記液相燃料系による燃料供給を行なわせ、前記液相燃料系内に気相を発生していると判断したときは前記気相燃料系による燃料供給を行なわせるようにした、ことを特徴とするエンジンのLPG供給装置。
【請求項2】 請求項1に記載したエンジンのLPG供給装置において、エンジンの温度を検出するエンジン温度センサと、前記LPG成分計算手段により算出されたLPG成分比および前記エンジン温度センサが検出した値に基いてエンジンの始動時に供給する燃料を選定する始動燃料選定手段と、を具え、前記始動燃料選定手段は始動時のエンジン温度が基準温度よりも低温のとき前記液相燃料系に始動燃料供給を行なわせ、高温のとき前記気相燃料系に始動燃料供給を行なわせるものとした、ことを特徴とするエンジンのLPG供給装置。
【請求項3】 請求項1または2に記載したエンジンのLPG供給装置において、前記タンク温度センサが検出した値に基いて燃料の切換えを行なわせる切換指令手段、を具え、前記切換指令手段は前記燃料タンクが設定温度以上となったとき、前記液相状態判定手段が前記液相燃料系による燃料供給を行なわせる判断をしていても、気相燃料系による燃料供給に切換えさせるようにした、ことを特徴とするエンジンのLPG供給装置。
【請求項4】 請求項1,2または3に記載したエンジンのLPG供給装置において、エンジンの回転速度を検出する回転速度センサと、前記回転速度センサが検出した値に応じて燃料切換え時における前記液相燃料系の燃料供給停止・開始時期を前記気相燃料系の燃料供給開始・停止時期よりも遅らせる時間を設定する遅延時間設定手段と、を具え、前記遅延時間設定手段は前記液相燃料系から気相燃料系への切換え時に後者の燃料供給開始時点から設定された時間だけ遅れて前者の燃料供給を停止させ、前記気相燃料系から液相燃料系への切換え時に前者の燃料供給停止時点から設定された時間だけ遅れて後者の燃料供給を開始させるようにした、ことを特徴とするエンジンのLPG供給装置。
【請求項5】 前記液相燃料系の液相噴射弁はエンジンの各気筒に対応して前記吸気管路の吸気マニホルド枝管のそれぞれに設置され、前記気相燃料系の気相噴射弁は一個であって前記吸気管路の吸気マニホルド集合部またはそれよりも上流側に設置されている請求項1,2,3または4に記載したエンジンのLPG供給装置。
【請求項6】 前記始動燃料選定手段はLPGのプロパン比率が高いほど前記基準温度を低温側に移行させて前記気相燃料系による始動燃料供給温度領域を拡張するようにされている請求項2,3または4に記載したエンジンのLPG供給装置。
【請求項7】 前記遅延時間設定手段はエンジンの回転速度が高いほど遅延させる時間を短く設定するようにされている請求項4に記載したエンジンのLPG供給装置。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【図7】
image rotate


【図8】
image rotate


【図9】
image rotate


【公開番号】特開2003−239785(P2003−239785A)
【公開日】平成15年8月27日(2003.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−35085(P2002−35085)
【出願日】平成14年2月13日(2002.2.13)
【出願人】(000153122)株式会社ニッキ (296)
【Fターム(参考)】