説明

エンジンオイル検出装置

【課題】 特に時間的な遅れに対して精度良くエンジンオイル温度を算出できるとともに、さらにはエンジンオイルの劣化度も算出でき、これによりエンジンオイルの劣化に対しても精度良くエンジンオイル温度を算出できる内燃機関のエンジンオイル検出装置、及びオイルレベルセンサを要することなくエンジンオイル量を算出できる内燃機関のエンジンオイル検出装置を提供する。
【解決手段】 内燃機関50で使用されるエンジンオイルについての検出を行うためのECU1Aであって、算出過程で内燃機関50の筒内圧P及びクランク角θを用いて内燃機関50の平均フリクショントルクTf,ave(n)を算出するフリクショントルク算出手段と、フリクショントルク算出手段が算出した平均フリクショントルクTf,ave(n)に基づき、エンジンオイル温度Tを算出するエンジンオイル温度算出手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンオイル検出装置に関し、特にエンジンオイルについて温度、劣化度または量を検出するためのエンジンオイル検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンオイルが内燃機関において発揮する性能(例えば油膜性能や潤滑性能)はその温度や劣化度や量などによって変化する。このため、内燃機関においてエンジンオイルの性能を好適に維持するためには、これらについて検出を行う必要があり、また検出するにあたってはより好適に検出できることが望ましい。この点、エンジンオイル温度に関しては、従来から冷却水温に基づきエンジンオイル温度を算出といった検出方法が一般に知られている。またエンジンオイル温度の算出という点で、本発明と関連性があると考えられる技術が例えば特許文献1で提案されている。そのほかエンジンオイルの劣化度の算出という点で、本発明と関連性があると考えられる技術が例えば特許文献2で提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−138468号公報
【特許文献2】特表2002−511948号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した冷却水温に基づくエンジンオイル温度検出方法につき、冷却水温を検出するための水温センサは通常、耐久性や搭載性などの観点から、内燃機関のうち、燃焼室近傍(エンジンオイル温度が最高となる箇所)から離れた箇所に取り付けられる。このため、冷却水温に基づくエンジンオイル温度検出方法では、検出された冷却水温及び算出されたエンジンオイル温度が、燃焼室近傍から水温センサに冷却水が到達するまでの輸送時間分遅れてしまうことになる。
【0005】
一方、エンジンオイル温度は例えば油膜切れの発生を防止するために内燃機関の制御等に用いることができる。しかしながら、上記のように輸送時間分の遅れが発生するエンジンオイル温度検出方法では、例えば急加速時などエンジンオイル温度の変化率が大きくなる場合に、温度推定精度が大幅に悪化してしまうことになる。そしてエンジンオイル温度の推定精度が悪化すると内燃機関の制御等を意図通りに行えない結果、油膜切れが発生し、これによりブローバイガスの増大による空燃比悪化や、最悪の場合、焼き付きによる内燃機関の破損などを招く虞がある。
【0006】
さらにエンジンオイルは経時的に劣化するところ、オイルの劣化は潤滑性能に悪影響を及ぼすことから、後述するようにフリクショントルクとエンジンオイル温度との相関関係に着目してエンジンオイル温度を算出する場合には、算出精度の観点からエンジンオイルの劣化度も考慮する必要がある。またエンジンオイル量を検出するにあたっては、一般にオイルレベルセンサなどで油面検知を行う必要があるところ、オイルレベルセンサを備えればその分コストが高まってしまうほか、油面が安定した状態でしかオイル量を正確に検出できないといった問題がある。
【0007】
そこで本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、特に時間的な遅れに対して精度良くエンジンオイル温度を算出できるとともに、さらにはエンジンオイルの劣化度も算出でき、これによりエンジンオイルの劣化に対しても精度良くエンジンオイル温度を算出できる内燃機関のエンジンオイル検出装置、及びオイルレベルセンサを要することなくエンジンオイル量を算出できる内燃機関のエンジンオイル検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は内燃機関で使用されるエンジンオイルについての検出を行うためのエンジンオイル検出装置であって、算出過程で前記内燃機関の筒内圧及びクランク角を用いて前記内燃機関のフリクショントルクを算出するフリクショントルク算出手段と、該フリクショントルク算出手段が算出したフリクショントルクに基づき、前記エンジンオイルの温度を算出するエンジンオイル温度算出手段とを備えることを特徴とする。ここで、フリクショントルクとエンジンオイル温度との間には相関関係がある。またフリクショントルクは算出過程で筒内圧及びクランク角を用いて算出できるところ、筒内圧及びクランク角はともに内燃機関の燃焼サイクルに対して大きな時間的遅れを伴うことなく(すなわち、通常センサが有する応答遅れ程度の遅れで)検出できる。
【0009】
このため算出過程で筒内圧及びクランク角を用いてフリクショントルクを算出するとともに、算出したフリクショントルクからエンジンオイル温度を算出するようにした本発明によれば、ほぼリアルタイムにエンジンオイル温度の推定が可能になる。すなわち本発明によれば、特に時間的な遅れに対して精度良くエンジンオイル温度を算出できることから、エンジンオイル温度の変化率が大きい場合でも、ブローバイガス量を適正に制御できるようになるため空燃比制御性が向上するとともに、油膜切れによる内燃機関の破損も防止できる。なお、フリクショントルクとエンジンオイル温度の相関関係を把握するにあたっては、フリクショントルクとして平均フリクショントルクを用いることが便宜であることから、本発明において、フリクショントルク算出手段はさらに具体的にはフリクショントルクとして平均フリクショントルクを算出することが好ましい。
【0010】
また本発明は前記内燃機関が停止状態で所定時間放置された後の機関始動時に前記エンジンオイル温度算出手段が算出したエンジンオイルの温度と、前記機関始動時に前記内燃機関の冷却水温から求められたエンジンオイルの温度とに基づき、前記エンジンオイルの劣化度を算出するエンジンオイル劣化度算出手段をさらに備えてもよい。
【0011】
ここでエンジンオイルが劣化するとフリクショントルクが増大する。そしてこれは、フリクショントルクとエンジンオイル温度の相関関係がエンジンオイルの劣化に応じて変化することを意味し、係る相関関係に着目してエンジンオイル温度を算出する場合には、エンジンオイルが劣化するとエンジンオイル温度の推定精度も低下してしまうことになる。これに対して本発明によればエンジンオイルの劣化度を算出することができるため、エンジンオイルの劣化に対してエンジンオイル温度推定精度を向上させることも可能になる。
【0012】
また本発明は前記エンジンオイル劣化度算出手段が算出したエンジンオイルの劣化度を用いて、前記エンジンオイル温度算出手段が算出するエンジンオイルの温度を補正するエンジンオイル温度補正手段をさらに備えてもよい。またエンジンオイルの劣化に対してエンジンオイル温度推定精度を向上させるためには、具体的には例えば本発明のようなエンジンオイル温度補正手段をさらに備えることが好適である。
【0013】
また本発明は内燃機関で使用されるエンジンオイルについての検出を行うためのエンジンオイル検出装置であって、算出過程で前記内燃機関の筒内圧及びクランク角を用いて前記内燃機関のフリクショントルクを算出するフリクショントルク算出手段と、該フリクショントルク算出手段が算出したフリクショントルクのサイクル内変動を算出するフリクショントルク変動算出手段と、該フリクショントルク変動算出手段が算出したフリクショントルクのサイクル内変動に基づき、前記エンジンオイルの量を算出するエンジンオイル量算出手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
ここでエンジンオイル量が減少した場合には、ピストン周りの潤滑が悪化するため、フリクショントルクのサイクル内変動(例えばサイクル内で最大のフリクショントルクと最小のフリクショントルクとの差)が増加することになる。この点、係る相関関係に着目してフリクショントルクのサイクル内変動を算出するとともに、算出したフリクショントルクのサイクル内変動に基づき、エンジンオイル量を算出するようにした本発明によれば、エンジンオイル量を検出するためのオイルレベルセンサを不要化することでコストの低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、特に時間的な遅れに対して精度良くエンジンオイル温度を算出できるとともに、さらにはエンジンオイルの劣化度も算出でき、これによりエンジンオイルの劣化に対しても精度良くエンジンオイル温度を算出できる内燃機関のエンジンオイル検出装置、及びオイルレベルセンサを要することなくエンジンオイル量を算出できる内燃機関のエンジンオイル検出装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
図1はECU(Electronic Control Unit:電子制御装置)1Aで実現されている内燃機関のエンジンオイル検出装置を内燃機関50とともに模式的に示す図である。内燃機関50は直列4気筒の気筒配列構造を有しており、気筒毎に筒内圧Pを検出するための筒内圧センサ71を備えている。また内燃機関50にはクランク角θを検出するためのクランク角センサ72や冷却水温Tを検出するための水温センサ73などが配設されている。
【0018】
ECU1Aは図示しないCPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)とを有して構成されるマイクロコンピュータと、入出力回路などを有して構成されている。ECU1Aは主として内燃機関50を制御するための構成である。内燃機関50を制御するにあたって、ECU1Aには具体的には図示しない点火プラグ(より具体的にはイグナイタ)や燃料噴射弁などが制御対象として電気的に接続されている。またECU1Aには筒内圧センサ71やクランク角センサ72や水温センサ73などが電気的に接続されている。なお、ECU1Aにはこのほか各種の制御対象やセンサ、スイッチ類が電気的に接続されていてよい。
【0019】
ROMはCPUが実行する種々の処理が記述されたプログラムやマップデータなどを格納するための構成であり、本実施例では内燃機関制御用プログラムのほか、以下に示すフリクショントルク算出用プログラムやエンジンオイル温度算出用プログラムなども格納している。なお、これらのプログラムは一体として構成されていてもよい。フリクショントルク算出用プログラムは算出過程で筒内圧P及びクランク角θを用いて内燃機関50の平均フリクショントルクTf,ave(n)(請求項1記載のフリクショントルクに相当)を算出するように作成されている。このフリクショントルク算出用プログラムは具体的には後述する図2に示すフローチャートのステップS11からS25までに示す処理を実現するためのプログラムとして作成されており、筒内圧P及びクランク角θは筒内圧センサ71及びクランク角センサ72の出力に基づき夫々検出される。
【0020】
エンジンオイル温度算出用プログラムは、フリクショントルク算出用プログラムに基づいて算出された平均フリクショントルクTf,ave(n)とクランク角速度ωとに基づき、エンジンオイルの温度Tを算出するように作成されている。このエンジンオイル温度算出用プログラムは具体的には後述する図2に示すフローチャートのステップS26に示す処理を実現するためのプログラムとして作成されている。またこれに関連し、ROMはエンジンオイル温度Tのマップデータ(以下、単にオイル温度マップと称す)も格納している。このオイル温度マップでエンジンオイル温度Tは平均フリクショントルクTf,aveとクランク角速度ωに応じて予め設定されている。
【0021】
なお、オイル温度マップでエンジンオイル温度Tがクランク角速度ωにも応じて定められているのは、平均フリクショントルクTf,aveが算出時のクランク角速度ωに応じて異なってくるためである。また、オイル温度マップの代わりにエンジンオイル温度T、平均フリクショントルクTf,ave及びクランク角速度ω間の相関関係を予め演算式で規定し、これに基づきエンジンオイル温度Tを算出するようにエンジンオイル温度算出用プログラムを作成することも可能である。本実施例ではROMに格納されたプログラムとマイコンとで各種の制御手段や判定手段や検出手段や算出手段などが実現されており、特にフリクショントルク算出用プログラムとマイコンとでフリクショントルク算出手段が、エンジンオイル温度算出用プログラムとマイコンとでエンジンオイル温度算出手段が夫々実現されている。
【0022】
次にECU1Aで行われる処理を図2に示すフローチャートを用いて詳述する。本フローチャートは、ステップS23でフリクショントルク履歴T(θ)を算出する処理を行うために、まずクランク角速度履歴ω(θ)を算出するための処理をステップS11からステップS14までで、筒内圧Pによるトルク履歴T(θ)を算出するための処理をステップS15からステップS20までで、慣性質量によるトルク履歴T(θ)を算出する処理をステップS21で、慣性モーメント履歴J(θ)を算出する処理をステップS22で夫々行い、その後ステップS23を経て、平均フリクショントルクTf,ave(n)を算出する処理をステップS24で、エンジンオイル温度T(n)を算出する処理をステップS25で行うという流れとなっている。
【0023】
クランク角速度履歴ω(θ)を算出するにあたって、CPUはクランク角センサ71の出力を検出するとともに(ステップS11)、クランク角履歴θ(t)を取得する処理を実行する(ステップS12)。続いてCPUはクランク角速度履歴ω(t)を算出する処理を実行する(ステップS13)。本ステップでCPUは具体的にはクランク角履歴θ(t)を時間tで微分することでクランク角速度履歴ω(t)を算出する。さらにCPUはクランク角θの関数としてクランク角速度履歴ω(θ)を算出する処理を実行する(ステップS14)。本ステップでCPUは具体的にはステップS12で取得したクランク角履歴θ(t)を用いて、時間tの関数であるクランク角履歴ω(t)からクランク角θの関数であるクランク角履歴ω(θ)を算出する。
【0024】
筒内圧Pによるトルク履歴T(θ)を算出するにあたって、CPUは筒内圧センサ71の出力を検出するとともに(ステップS15)、筒内圧履歴P(t)を取得する処理を実行する(ステップS16)。続いてCPUはクランク角θの関数として筒内圧履歴P(θ)を算出する処理を実行する(ステップS17)。本ステップでCPUは具体的にはステップS12で取得したクランク角履歴θ(t)を用いて、時間tの関数である筒内圧履歴P(t)からクランク角θの関数である筒内圧履歴P(θ)を算出する。
【0025】
一方、CPUは筒内容積履歴V(θ)を算出する処理を実行するとともに(ステップS18)、筒内容積変化率履歴dV(θ)/dθを算出する処理を実行する(ステップS19)。さらにCPUはステップS17で算出した筒内圧履歴P(θ)と、ステップS19で算出した筒内容積変化率履歴dV(θ)/dθを用いて筒内圧Pによるトルク履歴T(θ)を算出する処理を実行する(ステップS20)。本ステップでCPUは具体的には次の数1に示す式に基づいて筒内圧Pによるトルク履歴T(θ)を算出する。
(数1)
(θ)=P(θ)×dV(θ)/dθ
【0026】
またCPUは慣性質量によるトルク履歴T(θ)を算出する処理を実行するとともに(ステップS21)、慣性モーメント履歴J(θ)を算出する処理を実行する(ステップS22)。なお、筒内容積履歴V(θ)、慣性質量によるトルク履歴T(θ)及び慣性モーメント履歴J(θ)は設計値から算出可能であり、予め式或いはマップデータとして求めて与えておくことができる。これによりクランク角速度履歴ω(θ)、筒内圧によるトルク履歴T(θ)、慣性質量によるトルク履歴T(θ)及び慣性モーメント履歴J(θ)がステップS14、S20、S21及びS22で夫々算出されたことになる。続いてCPUは次の数2に示す式に基づいて、フリクショントルク履歴T(θ)を算出する処理を実行する(ステップS23)。
(数2)
(θ)=T(θ)+T(θ)−J(θ)×dω(θ)/dt
ここで数2に示す式は、筒内圧Pによるトルクと慣性質量によるトルクの和からフリクショントルクを差し引いた値が、慣性モーメントとクランク角加速度との積に等しくなるという力学的関係を移項することで導かれたものである。
【0027】
続いてCPUは次の数3に示す式に基づき、平均フリクショントルクTf,ave(n)を算出する処理を実行する(ステップS24)。
(数3)
f,ave(n)=1/π×∫T(θ)dθ
但し積分∫はnπから(n+1)πまで。
続いてCPUはオイル温度マップを参照することにより、エンジンオイル温度T(n)を算出する処理を実行する(ステップS25)。これにより、ほぼリアルタイムにエンジンオイル温度Tの推定が可能になる。このため例えば急加速時などであっても、ブローバイガス量を適正に制御できるようになるため空燃比制御性が向上するとともに、油膜切れによる内燃機関50の破損も防止できる。以上により、特に時間的な遅れに対して精度良くエンジンオイル温度Tを算出できるECU1Aを実現できる。
【実施例2】
【0028】
本実施例に係るECU1Bは、内燃機関50が停止状態で所定時間(エンジンオイル温度が低下後、安定する程度に長時間)放置された後の機関始動時にエンジンオイル温度算出用プログラムに基づき算出されたエンジンオイルの温度Tと、同じく同様の機関始動時に冷却水温Tから求められた実測エンジンオイル温度T0,measとに基づき、エンジンオイルの劣化度Dを算出するエンジンオイル劣化度算出用プログラムと、エンジンオイル劣化度算出用プログラムに基づき算出されたエンジンオイルの劣化度Dを用いて、エンジンオイル温度算出用プログラムに基づき算出されたエンジンオイルの温度Tを補正し、補正後のエンジンオイル温度T0,compを算出するエンジンオイル温度補正用プログラムとをさらにROMに格納している点以外、実施例1に係るECU1Aと実質的に同一のものとなっている。
【0029】
エンジンオイル劣化度算出用プログラムは、本実施例では具体的には後述する図3に示すフローチャートのステップS34、S35及びS37に示す処理を実現するためのプログラムとして作成されている。またエンジンオイル温度補正用プログラムは、本実施例では具体的には後述する図3に示すフローチャートのステップS39に示す処理を実現するように作成されている。本実施例ではROMに格納されたプログラムとマイコンとで各種の制御手段や判定手段や検出手段や算出手段などが実現されており、特にエンジンオイル劣化度算出用プログラムとマイコンとでエンジンオイル劣化度算出手段が、エンジンオイル温度補正用プログラムとマイコンとでエンジンオイル温度補正手段が夫々実現されている。また本実施例ではECU1Bで内燃機関のエンジンオイル検出装置が実現されている。
【0030】
次にECU1Bで行われる処理を図3に示すフローチャートを用いて詳述する。なお、本フローチャートには、周知技術であることなどから上述の記載で特段明示しなかったプログラムに基づいて行われる処理も含まれているが、本フローチャートに示す処理はすべてROMに格納されたプログラムに基づきCPUが実行するものとなっている。CPUは水温センサ73の出力を検出するとともに(ステップS31)、冷却水温Tを取得する処理を実行する(ステップS32)。続いてCPUは実測エンジンオイル温度T0,measを算出する処理を実行する(ステップS33)。本ステップでCPUは具体的には次の数4に示す式に基づき、冷却水温Tを算出する。
(数4)
0,meas=T
ここで、内燃機関50が停止状態で長時間放置された後に始動したときには、冷却水温Twがそのまま実際のエンジンオイル温度を表すものとして差し支えなく、また本フローチャートでは係る機関始動時の実測エンジンオイル温度T0,measを算出することを目的とするため、数4に示す式により実際のエンジンオイル温度とみなすことが可能な実測エンジンオイル温度T0,measを算出できる。
【0031】
一方、CPUは内燃機関50が始動したか否かを判定する処理を実行する(ステップS34)。肯定判定であれば、CPUは内燃機関50が停止状態で長時間放置された後に始動したか否かを判定する(ステップS35)。肯定判定であれば、CPUはエンジンオイル温度T(n)を算出する処理を実行する(ステップS36)。なお、本ステップに示す処理を実行する前にCPUは具体的には図2に示すフローチャートのステップS11からS25までに示す処理を実行するが、説明の重複を避けるため、ここでは記載を省略している。また本ステップに示す処理は、図2に示すフローチャートのステップS26に示す処理と同じである。
【0032】
ステップS33及びS36で、実測エンジンオイル温度T0,meas及びエンジンオイル温度T(n)を算出した後、CPUはオイル劣化度Dを算出する処理を実行する(ステップS37)。本ステップでCPUは具体的には次の数5に示す式に基づき、オイル劣化度Dを算出する処理を実行する。
(数5)
D=T0,meas/T
さらにCPUは、エンジンオイル温度T(n)にオイル劣化度Dを乗算することにより、補正後エンジンオイル温度T0,comp(n)を算出する処理を実行する(ステップS39)。このときには補正後エンジンオイル温度T0,comp(n)は実測エンジンオイル温度T0,measに補正される。
【0033】
一方、その後ステップS34またはS35で否定判定された場合には、CPUはステップS36と同様にエンジンオイル温度T(n)を算出するとともに(ステップS38)、補正後エンジンオイル温度T0,comp(n)を算出する処理を実行する(ステップS39)。これにより、その後算出したエンジンオイル温度T(n)についても補正でき、以って補正後エンジンオイル温度T0,compを算出することができる。以上により、特に時間的な遅れに対して精度良くエンジンオイル温度Tを算出できるとともに、さらにはエンジンオイルの劣化度Dも算出でき、これによりエンジンオイルの劣化に対してもより精度の良いエンジンオイル温度として補正後エンジンオイル温度T0,compを算出できるECU1Bを実現できる。
【実施例3】
【0034】
本実施例に係るECU1Cは、フリクショントルク算出用プログラムとして、算出過程で筒内圧P及びクランク角θを用いて内燃機関50のフリクショントルク履歴T(θ)(請求項4記載のフリクショントルクに相当)を算出するように作成されたフリクショントルク算出用プログラムをROMに格納している点と、エンジンオイル温度算出用プログラムの代わりに、フリクショントルク算出用プログラムに基づき算出されたフリクショントルクT(θ)のサイクル内変動であるフリクショントルク変動ΔT(n)を算出するフリクショントルク変動算出用プログラムと、フリクショントルク変動算出用プログラムに基づいて算出されたフリクショントルク変動ΔT(n)と角速度ωとに基づき、エンジンオイルの量Mを算出するエンジンオイル量算出用プログラムとをROMに格納している点以外、実施例1に係るECU1Aと実質的に同一のものとなっている。なお、フリクショントルク算出用プログラムは実施例1と同様に作成されていてもよく、またECU1AのROMに対してさらにフリクショントルク変動算出用プログラムとエンジンオイル量算出用プログラムとを格納することも可能である。
【0035】
フリクショントルク算出用プログラムは、本実施例では具体的には前述した図2に示すフローチャートのステップS11からステップS23までに示す処理を実現するように作成されている。なお、図2に示すフローチャートのステップS23で行われる処理と、後述する図4に示すフローチャートのステップS41で行われる処理は同じである。フリクショントルク変動算出用プログラムは、本実施例では具体的には後述する図4に示すフローチャートのステップS42からステップS44までに示す処理を実行するためのプログラムとして作成されている。
【0036】
またエンジンオイル量算出用プログラムは、本実施例では具体的にはステップS45に示す処理を実行するためのプログラムとして作成されている。またこれに関連し、本実施例ではROMがエンジンオイル量Mのマップデータ(以下、単にオイル量マップと称す)を格納している。このオイル量マップでは、エンジンオイル量Mがフリクショントルク変動ΔTとクランク角速度ωに応じて予め設定されている。なお、オイル量マップの代わりにエンジンオイル温度Tとフリクショントルク変動ΔT及びクランク角速度ωとの相関関係を予め演算式で規定し、これに基づきエンジンオイル量Mを算出するようにエンジンオイル量算出用プログラムを作成することも可能である。
【0037】
本実施例ではROMに格納されたプログラムとマイコンとで各種の制御手段や判定手段や検出手段や算出手段などが実現されており、特にフリクショントルク算出用プログラムとマイコンとでフリクショントルク算出手段が、フリクショントルク変動算出用プログラムとマイコンとでフリクショントルク変動算出手段が、エンジンオイル量算出用プログラムとマイコンとでエンジンオイル量算出手段が夫々実現されている。また本実施例ではECU1Cで内燃機関のエンジンオイル検出装置が実現されている。
【0038】
次に図4に示すフローチャートを用いてECU1Cで行われる処理について詳述する。CPUは前述した数2に示す式に基づき、フリクショントルク履歴T(θ)を算出する処理を実行する(ステップS41)。なお、本ステップに示す処理を実行する前に、CPUは図2に示すフローチャートのステップS11からS23までに示す処理を実行するが、説明の重複を避けるためここではその記載を省略している。続いてCPUはサイクル内最大フリクショントルクTf,max(n)を算出する処理を実行する(ステップS42)。本ステップでCPUは具体的には次の数6に示す式に基づき、サイクル内最大フリクショントルクTf,max(n)を算出する処理を実行する。
(数6)
f,max(n)=max{T(θ)|nπ≦θ≦(n+1)π}
【0039】
またCPUはサイクル内最小フリクショントルクTf,min(n)を算出する処理を実行する(ステップS32)。本ステップでCPUは具体的には次の数7に示す式に基づき、サイクル内最小フリクショントルクTf,min(n)を算出する。
(数7)
f,min(n)=min{T(θ)|nπ≦θ≦(n+1)π}
ステップS32及びS33で、Tf,max(n)及びTf,min(n)を算出した後、CPUはフリクショントルク変動ΔT(n)を算出する処理を実行する(ステップS44)。本ステップでCPUは具体的には次の数8に示す式に基づき、フリクショントルク変動ΔT(n)を算出する。
(数8)
ΔT(n)=Tf,max(n)−Tf,min(n)
なお、通常は上死点(TDC)時にピストンが停止し、フリクショントルク履歴T(θ)が最小になると考えられる(図5参照)。
【0040】
続いてCPUはオイル量マップを参照することにより、エンジンオイル量M(n)を算出する処理を実行する(ステップS45)。これにより、エンジンオイル量Mを検出するためのオイルレベルセンサを要することなくエンジンオイル量Mを検出できることから、オイルレベルセンサを不要化することでコストの低減を図ることができる。以上により、オイルレベルセンサを要することなくエンジンオイル量Mを算出できるECU1Cを実現できる。
【0041】
上述した実施例は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】ECU1Aを内燃機関50とともに模式的に示す図である。
【図2】ECU1Aで行われる処理をフローチャートで示す図である。
【図3】ECU1Bで行われる処理をフローチャートで示す図である。
【図4】ECU1Cで行われる処理をフローチャートで示す図である。
【図5】フリクショントルク履歴T(θ)がクランク角θに応じて変化する様子を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1 ECU
50 内燃機関
71 筒内圧センサ
72 クランク角センサ
73 水温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関で使用されるエンジンオイルについての検出を行うためのエンジンオイル検出装置であって、
算出過程で前記内燃機関の筒内圧及びクランク角を用いて前記内燃機関のフリクショントルクを算出するフリクショントルク算出手段と、該フリクショントルク算出手段が算出したフリクショントルクに基づき、前記エンジンオイルの温度を算出するエンジンオイル温度算出手段とを備えることを特徴とするエンジンオイル検出装置。
【請求項2】
前記内燃機関が停止状態で所定時間放置された後の機関始動時に前記エンジンオイル温度算出手段が算出したエンジンオイルの温度と、前記機関始動時に前記内燃機関の冷却水温から求められたエンジンオイルの温度とに基づき、前記エンジンオイルの劣化度を算出するエンジンオイル劣化度算出手段をさらに備えることを特徴とする請求項1記載のエンジンオイル検出装置。
【請求項3】
前記エンジンオイル劣化度算出手段が算出したエンジンオイルの劣化度を用いて、前記エンジンオイル温度算出手段が算出するエンジンオイルの温度を補正するエンジンオイル温度補正手段をさらに備えることを特徴とする請求項3記載のエンジンオイル検出装置。
【請求項4】
内燃機関で使用されるエンジンオイルについての検出を行うためのエンジンオイル検出装置であって、
算出過程で前記内燃機関の筒内圧及びクランク角を用いて前記内燃機関のフリクショントルクを算出するフリクショントルク算出手段と、該フリクショントルク算出手段が算出したフリクショントルクのサイクル内変動を算出するフリクショントルク変動算出手段と、該フリクショントルク変動算出手段が算出したフリクショントルクのサイクル内変動に基づき、前記エンジンオイルの量を算出するエンジンオイル量算出手段とを備えることを特徴とするエンジンオイル検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−31068(P2009−31068A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193900(P2007−193900)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】