説明

エンジン用樹脂製カバー部材のシール構造

【課題】カバー部材とエンジン本体との間の空間の密閉状態をより確実に保つことにより、ガス漏れ等の不具合を防止する。
【解決手段】弾性シール部材11のフランジ部15を可撓性薄肉基部17と、薄肉基部17より厚肉に形成された厚肉先端部19とで構成し、弾性シール部材11を凹状溝部5に嵌入してシリンダヘッドカバー1をシリンダヘッド3に締結した状態で、シール部本体13の基端をシリンダヘッド3に圧接させるとともに、薄肉基部17をシリンダヘッドカバー1から離間させた状態で厚肉先端部19をシリンダヘッドカバー1及びシリンダヘッド3に圧接させる。シリンダヘッドカバー1が浮き上がった際、厚肉先端部19がシリンダヘッドカバー1に両者の粘着力で密着したままシリンダヘッド3から離間するとともに薄肉基部17が浮き上がり動作に追従して浮き上がり方向に変位してシール部本体13のシリンダヘッド3への圧接状態を保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性シール部材を樹脂製カバー部材とエンジン本体との間で圧縮状態にすることで両者間をシールし、かつ上記カバー部材をエンジン本体に締結したエンジン用樹脂製カバー部材のシール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されたエンジン用樹脂製カバー部材のシール構造では、カバー部材に環状の凹状溝部を形成し、ゴム製弾性シール部材を上記凹状溝部に嵌入してカバー部材とエンジン本体との間をシールし、上記カバー部材をエンジン本体に締結することによりカバー部材とエンジン本体との間の空間を密閉している。上記弾性シール部材は、基端が上記凹状溝部から露出するように該凹状溝部に嵌入されるシール部本体と、該シール部本体の基端近傍から側方に延出するフランジ部とで断面T字状に形成され、上記フランジ部は、延出方向全体に亘って上記カバー部材とエンジン本体とに圧接している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−18389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ゴム等により弾性を付与された弾性シール部材は可塑剤等としての油分を含んでおり、上記特許文献1では、弾性シール部材は、カバー部材とエンジン本体とに圧接することによって親水性である金属製のエンジン本体よりも親油性である樹脂製のカバー部材の方に強く接着することになる。したがって、カバー部材に伝わる振動を減衰させるためにカバー部材を所定の力で浮き上がり可能に構成すると、カバー部材が浮き上がった際に、シール部材のフランジ部はカバー部材に接着していてシール部本体がフランジ部と共にエンジン本体から離れるため、カバー部材とエンジン本体との間の空間の密閉状態が保たれず、ガス漏れ等の不具合が発生するおそれがある。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、カバー部材とエンジン本体との間の空間の密閉状態をより確実に保つことにより、ガス漏れ等の不具合を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、フランジ部の延出基端側を薄肉に形成してカバー部材から離間させたことを特徴とする。
【0007】
具体的には、本発明は、樹脂製カバー部材に、環状の凹状溝部が上記カバー部材の外周縁部に沿うように形成され、弾性シール部材を上記凹状溝部に嵌入してカバー部材とエンジン本体との間で圧縮状態にすることで両者間をシールし、かつ上記カバー部材を所定の力で弾性シール部材の反圧縮方向へ浮き上がり可能にエンジン本体に締結したエンジン用樹脂製カバー部材のシール構造を対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0008】
すなわち、本発明は、上記弾性シール部材は、基端が上記凹状溝部から露出するように該凹状溝部に嵌入されるシール部本体と、該シール部本体の基端近傍から側方に延出するフランジ部とからなり、かつ該フランジ部は、延出基端側の可撓性薄肉基部と、該薄肉基部より厚肉に形成された延出先端側の厚肉先端部とからなり、上記弾性シール部材を凹状溝部に嵌入して上記カバー部材をエンジン本体に締結した状態で上記シール部本体の基端をエンジン本体に圧接させるとともに、上記フランジ部の薄肉基部をカバー部材から離間させた状態で上記フランジ部の厚肉先端部をカバー部材及びエンジン本体に圧接させ、上記カバー部材が浮き上がった際、上記フランジ部の厚肉先端部がカバー部材に両者の粘着力で密着したままエンジン本体から離間するとともに上記フランジ部の薄肉基部が浮き上がり動作に追従して浮き上がり方向に変位して上記シール部本体のエンジン本体への圧接状態を保持するように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フランジ部の薄肉基部がカバー部材から離間している。また、フランジ部の薄肉基部は薄肉に形成されているので変位し易い。したがって、カバー部材が浮き上がった際にフランジ部の厚肉先端部がカバー部材に接着したままエンジン本体から離間しても、上記フランジ部の薄肉基部が浮き上がり動作に追従して浮き上がり方向に変位し、厚肉先端部の移動が薄肉基部を変位させるだけでシール部本体に影響を及ぼさない。これにより、上記シール部本体は浮き上がり動作に追従することなくシール部本体のエンジン本体への圧接状態が保持される。その結果、カバー部材とエンジン本体との間の空間の密閉状態がより確実に保たれ、ガス漏れ等の不具合が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態におけるシリンダヘッドに組み付けられた状態のシリンダヘッドカバーを示す平面図である。
【図2】図1のA−A線における断面図である。
【図3】図2における弾性シール部材周りの拡大図である。
【図4】本発明の一実施形態における弾性シール部材の一部を示す斜視図である。
【図5】シリンダヘッドカバーが浮き上がった際の図3相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は、エンジン本体としてのシリンダヘッド3(図2参照)にカバー部材としてのシリンダヘッドカバー1が組み付けられた状態を示す。このシリンダヘッドカバー1は、樹脂製であり、平面視略矩形状に形成されている。このシリンダヘッドカバー1には、図2及び図3に示すように、環状の凹状溝部5が該シリンダヘッドカバー1の外周縁部に沿うように形成されている。この凹状溝部5のさらに外側には、該シリンダヘッドカバー1の外周縁部に沿うように複数のボルト挿通孔7が互いに間隔を空けて形成されている。また、シリンダヘッドカバー1の長手方向一端寄りには、オイル注入孔9が形成されている。
【0013】
上記シリンダヘッド3は、鉄又はアルミ製であり、上記シリンダヘッドカバー1のボルト挿通孔7に対応する位置にネジ孔21を有している。
【0014】
上記シリンダヘッドカバー1のボルト挿通孔7には鉄製のカラー27が挿入され、該カラー27のボルト挿通孔7から露出した部分に環状ゴムリング29が挿通している。この状態で、ワッシャ25を金属製のボルト23の頭部23aとゴムリング29とで挟み込んで、ボルト23の軸部23bをカラー27に挿通してシリンダヘッド3のネジ孔21にねじ込むことにより、シリンダヘッドカバー1がシリンダヘッド3に締結されている。また、上記ゴムリング29は、シリンダヘッドカバー1のボルト挿通孔7周縁とワッシャ25とに圧縮状態で挟まれている。ゴムリング29は弾性を有しているので、シリンダヘッドカバー1は所定の力で反締結方向(後述する弾性シール部材11の反圧縮方向)へ浮き上がり可能である。
【0015】
上記シリンダヘッドカバー1の凹状溝部5には、図4に示すような環状のゴム製弾性シール部材11が嵌入されてシリンダヘッドカバー1とシリンダヘッド3との間で圧縮状態にされることで両者間をシールしている。上記弾性シール部材11は、基端が上記凹状溝部5から露出するように該凹状溝部5に嵌入される断面矩形状の環状シール部本体13と、該シール部本体13の基端近傍から両側方に延出するフランジ部15とから構成されている。上記各フランジ部15は、延出基端側の可撓性薄肉基部17と、該薄肉基部17より厚肉に形成された延出先端側の厚肉先端部19とから構成されている。
【0016】
このように構成された弾性シール部材11は、シール部本体13を基端が上記凹状溝部5から露出するように該凹状溝部5に嵌入することでシリンダヘッドカバー1に装着され、上記シール部本体13の基端をシリンダヘッド3に接触させた状態で上記シリンダヘッドカバー1はシリンダヘッド3に締結される。この状態で、フランジ部15の薄肉基部17がシリンダヘッド3に当接し、かつシリンダヘッドカバー1から離間している。また、フランジ部15の厚肉先端部19がシリンダヘッドカバー1及びシリンダヘッド3に圧接して両者が直接接触しないようにしている。
【0017】
そして、エンジンに振動が加わる等して上記シリンダヘッドカバー1が弾性シール部材11の反圧縮方向に浮き上がると、図5に示すように、上記フランジ部15の厚肉先端部19がシリンダヘッドカバー1に両者の粘着力で密着したままシリンダヘッド3から離間する。この現象は、フランジ部15の厚肉先端部19がシリンダヘッドカバー1及びシリンダヘッド3に圧接することで弾性シール部材11に含まれる可塑剤等の油分が染み出し、樹脂製で親油性であるシリンダヘッドカバー1の方が親水性である金属製のシリンダヘッド3よりも弾性シール部材11に接着しやすくなっていることにより生じる。このとき、フランジ部15の薄肉基部17がシリンダヘッドカバー1から離間している。また、フランジ部15の薄肉基部17は薄肉に形成されているので変位し易い。したがって、上記フランジ部15の薄肉基部17がシリンダヘッドカバー1の浮き上がり動作に追従して浮き上がり方向に変位する。したがって、厚肉先端部19の移動は、薄肉基部17を変位させるだけでシール部本体13に影響を及ぼさない。なお、このときのシリンダヘッドカバー1の浮き上がり量は、シール部本体13の圧縮を大幅に低減させない程度である。したがって、上記シール部本体13と凹状溝部5の側壁との間に隙間が生じてシール部本体13の凹状溝部5への圧接力が若干弱まるものの、上記シール部本体13先端の凹状溝部5の底壁への圧接状態、及び上記シール部本体13基端のシリンダヘッド3への圧接状態が保持され、シール性が確保される。その結果、シリンダヘッドカバー1とシリンダヘッド3との間の空間の密閉状態がより確実に保たれ、ガス漏れ等の不具合が防止される。
【0018】
なお、上記実施形態では、カバー部材がシリンダヘッドカバー1である場合を示したが、タイミングベルトカバー等、エンジン本体の別の箇所の樹脂製カバーであってもよい。
【0019】
また、上記実施形態では、フランジ部15をシール部本体13の両側方に設けたが、片側のみに設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、弾性シール部材を樹脂製カバー部材とエンジン本体との間で圧縮状態にすることで両者間をシールし、かつ上記カバー部材をエンジン本体に締結したエンジン用樹脂製カバー部材のシール構造として有用である。
【符号の説明】
【0021】
1 シリンダヘッドカバー(カバー部材)
3 シリンダヘッド(エンジン本体)
5 凹状溝部
11 弾性シール部材
13 シール部本体
15 フランジ部
17 薄肉基部
19 厚肉先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製カバー部材に、環状の凹状溝部が上記カバー部材の外周縁部に沿うように形成され、弾性シール部材を上記凹状溝部に嵌入してカバー部材とエンジン本体との間で圧縮状態にすることで両者間をシールし、かつ上記カバー部材を所定の力で弾性シール部材の反圧縮方向へ浮き上がり可能にエンジン本体に締結したエンジン用樹脂製カバー部材のシール構造であって、
上記弾性シール部材は、基端が上記凹状溝部から露出するように該凹状溝部に嵌入されるシール部本体と、該シール部本体の基端近傍から側方に延出するフランジ部とからなり、かつ該フランジ部は、延出基端側の可撓性薄肉基部と、該薄肉基部より厚肉に形成された延出先端側の厚肉先端部とからなり、
上記弾性シール部材を凹状溝部に嵌入して上記カバー部材をエンジン本体に締結した状態で上記シール部本体の基端をエンジン本体に圧接させるとともに、上記フランジ部の薄肉基部をカバー部材から離間させた状態で上記フランジ部の厚肉先端部をカバー部材及びエンジン本体に圧接させ、上記カバー部材が浮き上がった際、上記フランジ部の厚肉先端部がカバー部材に両者の粘着力で密着したままエンジン本体から離間するとともに上記フランジ部の薄肉基部が浮き上がり動作に追従して浮き上がり方向に変位して上記シール部本体のエンジン本体への圧接状態を保持するように構成されていることを特徴とするエンジン用樹脂製カバー部材のシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−32891(P2011−32891A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177910(P2009−177910)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(390026538)ダイキョーニシカワ株式会社 (492)
【Fターム(参考)】