説明

エンジン用部品

【課題】 クロムめっき層の形成に用いられるCrの種類(六価クロムまたは三価クロム)にかかわらず、高温の排気ガスによる表面の変色や劣化を防止し得るエンジン用部品を提供する。
【解決手段】本発明のエンジン用部品は、金属基材1と、金属基材1表面の350℃以上の温度に加熱される領域を少なくとも覆うクロムめっき層3と、金属基材とクロムめっき層3との間に設けられた中間めっき層2とを備え、クロムめっき層3は領域において0.2μm以上の厚さを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン用部品に関し、特に、エンジンから排出される高温の排気ガスによって高温に曝されるエンジン用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車や全天候型四輪車両などの車両では、車両自体の性能に加えて、優れた意匠を備えていることが重要な課題のひとつである。図10は、スポーツタイプの自動二輪車の一例を示す側面図である。図10に示す自動二輪車200は、V型エンジン201と、排気ガスを導くための排気管202とを備えている。V型エンジン201は、シリンダー203と、シリンダーヘッド204と、ヘッドカバー205とを備えている。V型エンジン201は、形状の美観が優れているため、外部に露出するように自動二輪車に搭載される場合が多く、自動二輪車全体の外観に大きな影響を及ぼしている。
【0003】
排気管202は、V型エンジン201の2つのシリンダー203のそれぞれから導かれ、一本に集合され、車体後部から排気ガスを噴出させるよう後輪側へ伸ばされている。排気管202は、エンジン201で発生した排気ガスを効率よく排出するために、所定の太さを備えていることが必要であり、また、消音器202aを構成している部分では、消音のための構造を収納するために直径が大きくなる。このため、自動二輪車全体の外観に占める排気管の割合は比較的大きく、排気管の形状や色が自動二輪車全体の意匠に及ぼす影響は大きい。
【0004】
シリンダー203、シリンダーヘッド204、ヘッドカバー205などのエンジン部分、および、エンジンから排気ガスを導くための排気管202などを本願明細書ではエンジン用部品と呼ぶ。上述した理由から、エンジン用部品の形状や色は、自動二輪車全体の意匠を決定する上で重要な要素となっている。
【0005】
従来より、こうした外観に表れるエンジン用部品には、めっきなどの表面処理を行うことによって光沢のある金属色を付与され、エンジン用部品の意匠が高められている。なかでも装飾クロムめっきは、光沢感のある特有の銀白色を被めっき材に付与することができるため、エンジン用部品に広く用いられてきた(たとえば、特許文献1)。
【0006】
装飾クロムめっきは、優れた金属光沢を有し、耐腐食性に優れるため、エンジン用部品以外の様々な分野において用いられている。優れた外観および耐腐食性を得るためには、装飾クロムめっきを厚く形成する必要はない。逆に装飾クロムめっきを厚く形成すると色調や表面の仕上げが悪くなる。このため、一般に装飾クロムめっきは、0.1μmから0.15μmの厚さで用いられる。
【0007】
なお、Crを用いためっきとして、硬質クロムめっき(工業用クロムめっき)も広く工業製品に利用されている。硬質クロムめっきは、摩擦係数が低く、耐摩耗性に優れているため、各種機械部品の摺動部などに用いられる。耐磨耗性が求められるため、硬質クロムめっきは通常、数μm以上の厚さで形成される。また、硬質クロムめっきは、装飾クロムめっきのような装飾性に優れた表面を有していない。通常、めっき後の装飾クロムめっきは1μm以下、典型的には0.2μm以下の表面粗さ(Ra)を有しているのに対して、硬質クロムめっきは1μm以上の表面粗さを有している。
【特許文献1】特開2003−41933号公報
【特許文献2】特許3073789号公報
【特許文献3】特開平9−228069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらのエンジン用部品では、エンジンから発生する高温の排気ガスにより、クロムめっき層の表面の色調が変化して紫色に変色したり、装飾クロムめっき層にクラックが発生して剥離することがある。特に、近年、エンジンの性能が向上し、また、排気ガス浄化のために触媒が設置されるなどの理由によって排気ガスの温度は高くなってきている。このため、高温の排気ガスによってエンジン用部品の変色がさらに生じやすくなっている。前述したとおり、自動二輪車全体の外観に占めるエンジン用部品の割合は比較的大きいため、クロムめっきにくすみが発生しただけでも意匠が大きく損なわれる。
【0009】
この問題に対し、例えば、排気管などの表面が高温にならないよう、排気管を2重あるいは3重の筒状構造に形成することが考えられる。しかし、2重あるいは3重の筒状構造を採用しても、排気管表面の温度を十分に下げることはできず、熱による表面の酸化や劣化を完全には防止できない。また、この場合、排気管の外形が大きくなってしまうという別の課題が生じる。
【0010】
エンジン用部品の表面の変色や劣化に対して、例えば、排気管が外観に表れないようカウルやプロテクタで覆うことも考えられる。しかし、この場合、排気管が自動二輪車全体の意匠に現れないため、自動二輪車独特の美観を訴求しにくいものとなる可能性がある。特に、排気管をプロテクタで覆うと排気管よりも径が大きくなるため、レイアウトの制約が大きくなる。
【0011】
装飾クロムめっき層の形成には、通常、六価クロム(Cr6+)を含むクロム酸塩が用いられている。六価クロムは安価であり、六価クロムを用いた装飾クロムめっき層は、素地基材との密着性が良好で、耐食性や耐摩耗性などに優れている。さらに、六価クロムを用いたクロムめっき層は、独特の金属光沢のある銀白色を有するため、自動二輪車のエンジン用部品などに汎用されている。しかしながら、近年、その有害性が認識されるにつれ、六価クロムの代わりに三価クロム(Cr3+)を用いた装飾クロムめっきが提案されている。三価クロムは、六価クロムに比べて耐食性、素地基材との密着性などの点で劣っているが、環境汚染を配慮し、安全性を最優先して三価クロムを選択的に使用する動きが高まっている。六価クロムから三価クロムへの代替めっきの動向は、エンジン用部品の分野でも普及しつつあり、例えば、最近になって、マフラーの外周部に設けられたプロテクタに三価クロムめっきを施した自動二輪車が開発されている。
【0012】
しかしながら、三価クロムを用いた場合でも、高温での加熱によるめっき層の変色や表面の劣化が見られ、その程度は、六価クロムを用いた場合よりも顕著に認められることが本願発明者の検討によって明らかになった。
【0013】
さらに、三価クロムを用いて得られる装飾クロムめっき層は、やや、黒味を帯びた色調を備える。このため、六価クロムを用いたときのような銀白色の色調は得られ難いという、新たな課題が生じる。このような色調の相違は、外観が重要視される自動二輪車などの分野では、大きな問題である。従って、三価クロムを用いた場合でも、六価クロムと同程度の色調を有するエンジン用部品が切望されている。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、クロムめっき層の形成に用いられるCrの種類(六価クロムまたは三価クロム)にかかわらず、高温の排気ガスによる表面の変色や劣化を防止し得るエンジン用部品を提供することにある。また、三価クロムを用いた場合は、六価クロムを用いた場合と同程度の色調を備えたエンジン用部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のエンジン用部品は、金属基材と、前記金属基材表面の350℃以上の温度に加熱される領域を少なくとも覆うクロムめっき層と、前記金属基材と前記クロムめっき層との間に設けられた中間めっき層とを備えたエンジン用部品であって、前記クロムめっき層は前記領域において0.2 μm以上の厚さを有している。
【0016】
ある好ましい実施形態において、前記クロムめっき層は、前記領域において、0.2〜0.9μmの範囲の厚さを有している。
【0017】
ある好ましい実施形態において前記クロムめっき層は、前記領域において、0.2〜0.5μmの範囲の厚さを有している。
【0018】
ある好ましい実施形態において、前記金属基材は、エンジンからの排気ガスが通過する通路を規定する金属管である。
【0019】
ある好ましい実施形態において、前記クロムめっき層は、前記金属管の外側面を覆っている。
【0020】
ある好ましい実施形態において、前記金属管は屈曲部を有し、前記領域は前記屈曲部の屈曲によって形成される凸状表面である。
【0021】
ある好ましい実施形態において、前記金属管は複数の枝管が接続されるマニホールド部を有し、前記領域は前記マニホールド部の外側表面である。
【0022】
ある好ましい実施形態において、前記金属管は、前記排気ガスの少なくとも1つの成分を分解するための触媒装置を収納する触媒収納部を有し、前記領域は前記触媒収納部の外側表面である。
【0023】
ある好ましい実施形態において、前記クロムめっき層は装飾クロムめっきからなる。
【0024】
ある好ましい実施形態において、前記中間めっき層はCおよびSの少なくとも一方を含む。
【0025】
ある好ましい実施形態において、前記中間めっき層はさらにNiを含む。
【0026】
ある好ましい実施形態において、前記中間めっき層は、前記クロムめっき層を構成するCrよりも硬度が低い金属から形成されている。
【0027】
ある好ましい実施形態において、前記中間めっき層はニッケルめっきから形成されている。
【0028】
ある好ましい実施形態において、前記金属基材は、Fe、Al、Zn、MgまたはTiを主成分とする材料から構成されている。
【0029】
ある好ましい実施形態において、前記クロムめっき層は六価クロムめっき浴を用いて形成されている。
【0030】
ある好ましい実施形態において、前記クロムめっき層は三価クロムめっき浴を用いて形成されている。
【0031】
本発明のエンジン用部品は、金属基材と、前記金属基材の表面の少なくとも一部を覆うクロムめっき層と、前記金属基材と前記クロムめっき層との間に設けられた中間めっき層とを備えたエンジン用部品であって、前記クロムめっき層を構成するCrは、実質的に非晶質構造を有し、前記クロムめっき層に含まれるFeの含有量は2質量%以下である。
【0032】
ある好ましい実施形態において、前記クロムめっき層の色調は、CIE(Commision Internationale de IEclairage)1976で測定されるL*値が68〜80の範囲を満足する。
【0033】
ある好ましい実施形態において、前記クロムめっき層は、前記金属基材表面の350℃以上の温度に加熱される領域を覆い、前記領域において0.2〜0.6μmの範囲の厚さを有している。
【0034】
ある好ましい実施形態において、前記金属基材は、エンジンからの排気ガスが通過する通路を規定する金属管である。
【0035】
ある好ましい実施形態において、前記クロムめっき層は、前記金属管の外側面の少なくとも一部を覆っている。
【0036】
ある好ましい実施形態において、前記金属管は屈曲部を有し、前記領域は前記屈曲部の屈曲による凸状表面である。
【0037】
ある好ましい実施形態において、前記金属管は複数の枝管が接続されるマニホールド部を有し、前記領域は前記マニホールド部の外側表面である。
【0038】
ある好ましい実施形態において、前記金属管は、前記排気ガスの少なくとも1つの成分を分解するための触媒装置を収納する触媒収納部を有し、前記領域は前記触媒収納部の外側表面である。
【0039】
ある好ましい実施形態において、前記クロムめっき層は装飾クロムめっきからなる。
【0040】
ある好ましい実施形態において、前記中間めっき層はCおよびSの少なくとも一方を含む。
【0041】
ある好ましい実施形態において、前記中間めっき層はさらにNiを含む。
【0042】
ある好ましい実施形態において、前記中間めっき層は、前記クロムめっき層を構成するCrよりも硬度が低い金属から形成されている。
【0043】
ある好ましい実施形態において、前記中間めっき層はニッケルめっきから形成されている。
【0044】
ある好ましい実施形態において、前記金属基材は、Fe、Al、Zn、MgまたはTiを主成分とする材料から構成されている。
【0045】
本発明の排気管は、屈曲部を有する金属管と、前記屈曲部の屈曲による外側凸状表面を少なくとも覆うように設けられた厚さ0.2μm以上の装飾クロムめっき層とを備える。
【0046】
ある好ましい実施形態において、前記金属管は、複数の枝管が接続されるマニホールド部および触媒装置を収納する触媒収納部を有し、前記装飾クロムめっき層は、前記マニホールド部および触媒収納部の外側をさらに覆っている。
【0047】
ある好ましい実施形態において、前記クロムめっき層は、0.2〜0.5μmの範囲の厚さを有している。
【0048】
ある好ましい実施形態において、前記クロムめっき層の色調は、CIE(Commision Internationale de IEclairage)1976で測定されるL*値が68〜80の範囲を満足する。
本発明のエンジンは、上記エンジン部品を含む。
【0049】
本発明の輸送機器は上記排気管を備えている。
【0050】
本発明のエンジン用部品の製造方法は、金属基材をめっき装置内に配置する工程と、
前記金属基材に中間めっき層を形成する工程と、クロムめっき浴を用い、前記金属基材表面の350℃以上の温度に加熱される領域に0.2μm以上のクロムめっき層が形成されるように、前記中間めっき層が形成された前記金属基材を配置してめっきする工程とを包含する。
【0051】
ある好ましい実施形態において、前記クロムめっき浴中に含まれるFeの含有量を実質的に0に制御することにより、クロムめっき層に含まれるFeの含有量を2質量%以下に抑制する。
【0052】
ある好ましい実施形態において、前記クロムめっき浴はFeを構成成分とする添加剤を含まない。
【0053】
ある好ましい実施形態において、前記クロムめっき浴に含まれるFeを陽イオン交換樹脂によって除去する。
【発明の効果】
【0054】
本発明のエンジン用部品によれば、高温に加熱される領域におけるクロムめっき層厚さが適切に制御されているため、加熱によるめっき層の変色を防止することができる。また、クロムめっき層に含まれるFe含有量が著しく低減されているため、三価クロムを用いて形成されたクロムめっき層の色調は、六価クロムと同程度の銀白色を有し、優れた光沢感を有する。また、Fe含有量が著しく低減されているため、クロムめっき層は、高い耐腐食性を備え、錆びの発生を防止することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
本願発明者は、高温の排気ガスによる装飾クロムめっき層の変色や表面の劣化を防止することができるエンジン用部品を検討した。ここで、クロムめっき層の変色とはめっき層の表面が、銀白色から青色または紫色へ変化することを言う。また、本願発明者は、三価クロムを用いて装飾クロムめっき層を形成する場合であっても、六価クロムを用いてクロムめっき層を形成した場合と同程度の色調を備えたエンジン用部品を検討した。装飾クロムめっきでは、通常、素地基材との密着性を高めるなどの目的で、素地基材とクロムめっき層との間に中間めっき層が設けられていることから、本願発明者も、このような構成を備えたエンジン用部品について検討した。以下において、装飾クロムめっきを単にクロムめっきと呼ぶ。
【0056】
その結果、クロムめっき層の表面の変色は、主に、中間めっき層から供給されるC(炭素)またはS(イオウ)が、加熱によって拡散し、中間めっき層とクロムめっき層との界面近傍に集まって濃化する(「C−Sの濃化層」の形成)ことが、主な原因であることを突き止めた。また、中間めっき層としてニッケルめっき層が形成されている場合は、ニッケルめっき層に含まれるNiも、前述したCまたはSの元素とともに「C−S−Niの濃化層」を形成し、クロムめっき層の表面の変色に関与していることを突き止めた。詳細な検討によれば、めっき中において濃化した元素により、クロムめっきの入射光に対する屈折率や光の吸収に変化が生じる。この変化による変色が、通常のクロムめっき層の最表面に形成される酸化皮膜により生じる干渉色よりも顕著であるためと考えられる。
【0057】
このような表面の変色を防止するための方法を検討した結果、少なくとも、高温の排気ガスによって加熱されるクロムめっき層部分の厚さを従来よりも大きくして所定の範囲に制御すれば、クロムめっき層が厚くなったことにより、クロムめっき層へ入射する光が濃化層まで到達できず、上記の「C−Sの濃化層」または「C−S−Niの濃化層」による悪影響が解消されることを見出した。
【0058】
さらに、三価クロムを用いて得られるクロムめっき層が、黒味を帯びた色調となる原因は、主に、クロムめっき層に含まれるFeに起因することを見出した。従って、クロムめっき層中のFe含有量をできるだけ低減すれば、三価クロムを用いたクロムめっき層であっても、六価クロムを用いたときと同程度の色調を発揮できることが分かった。また、Fe含有量を低減させることによって耐腐食性が向上することをCASS(Copper-Accelerated Acetic Acid Salt Spray)試験によって確認した。これにより、錆びの発生を抑制できるという効果が得られることも確認した。
【0059】
以下、図1を参照して、本発明によるエンジン用部品の構成を説明する。図1に示すように、本発明のエンジン用部品は、金属基材1と、金属基材1の表面を覆うクロムめっき層3と、金属基材1とクロムめっき層3との間に設けられた中間めっき層2とを備えている。クロムめっき層は、金属基材1の表面の350℃以上の温度に加熱される領域を少なくとも覆っている。以下、これら各構成要素について詳述する。
【0060】
1.金属基材
金属基材1は、用途に適した強度と、必要に応じた耐食性などを備え、エンジン用部品として通常使用される材料により形成することができる。代表的には、Fe系材料が挙げられる。そのほか、Al系材料、Zn系材料、Mg系材料、Ti系材料などの非Fe材料から金属機材1を形成してもよい。
【0061】
Fe系材料としては、FeまたはFeを主成分とする鋼であり、機械構造用鋼(例えば、機械構造用炭素鋼(STKM)、機械構造用合金鋼など)、ステンレス鋼(例えば、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼など)、軟鋼(例えば、SPCC、SPHCなど)などが挙げられる。Al系材料としては、AlまたはAl−Si合金、Al−Si−Mg系合金などのAl合金が挙げられる。Zn系材料としては、Znのほか、Znめっきが被覆されたZnめっき鋼板、またはZnを主成分とし、Ni、Co、Cr、Alなどの合金元素を含有するZn合金めっきが被覆されたZn合金めっき鋼板が挙げられる。Mg系材料としては、Mg−Al系合金やMg−Zn系合金などが挙げられる。Ti系材料としては、Ti、またはTiを主成分とし、Al、V、Siなどの元素を含有するTi合金が挙げられる。
【0062】
これらの材料は、種類によって、それぞれ、特性が異なる。例えば、Alは、軽量で光輝性を有しており、Tiは、軽量で優れた強度を有しているなどの特徴がある。このため、用途や要求特性などに応じて、適切な材料を選択することができる。
【0063】
2.中間めっき層
金属基材1の上に形成される中間めっき層2は、クロムめっき層3の下地めっきとして用いられる。前述したとおり、クロムめっきでは、通常、素地基材との密着性を高めるなどの目的で、クロムめっき層の下に中間めっき層が形成されている。このため、中間めっき層は、各種金属基材との密着性、および、クロムめっき層との密着性に優れていることが好ましい。さらに、耐食性などの他の特性も兼ね備えていることが好ましい。
【0064】
本発明に用いられる中間めっき層2を構成する金属は、クロムめっき層の形成に用いられるCrの硬度(ビッカース硬度)との関係で規定することができる。具体的には、中間めっき層2を構成する金属は、Crの硬度(約400〜1200Hv)よりも低い硬度を有する金属で形成されていることが好ましい。クロムめっき層と金属基材との間に硬度が低い金属からなる層を介在させることにより、ヒートサイクルによるクロムめっき層へのストレスを小さくすることができるため、クラックの発生などが抑えられ、表面性状に優れたクロムめっき層を得ることができる。Crよりも硬度が低い金属として、例えば、Ni(硬度:約150〜400Hv)、Cu(硬度:約40〜250Hv)、Sn(硬度:約20〜200Hv)、Pb(測定不能)などが挙げられる。
【0065】
これらの金属を含む中間めっき層として、例えば、ニッケルめっき、Cuめっき、Snめっき、Pbめっき、Zn−ニッケルめっきなどからなる層を用いる。これらのめっき層は、単独で形成されていても良いし、二種以上が組み合わされて複数の中間めっき層を構成していてもよい。また、同種の中間めっき層であって、添加剤などの種類が異なるめっき層が複数形成されていてもよい。クロムめっき層の下地処理として用いられる代表的な中間めっき層は、ニッケルめっきであり、これにより、耐食性、光沢性などが一層向上する。ニッケルめっきの詳細は、後述する。
【0066】
中間めっき層2には、種々の添加剤を構成する元素が含まれている。これらの添加剤は、クロムめっき層の光沢性を高める目的で、中間めっき層2を形成するメッキ浴中に添加されている。具体的には、一次光沢剤(サッカリンナトリウム、ナフタレン−1,3,6−トリスルホン酸三ナトリウム、ベンゼンスルホン酸などの非ブチン系光沢剤)、二次光沢剤(2−ブチル−1,4−ジオール、アリルスルホン酸ナトリウムなど)などが用いられる。これらの添加剤は、いずれも、Cおよび/またはSを構成元素として含んでいる。中間めっき層に含まれるCおよび/またはSは、中間めっき層の種類や添加剤の種類などによっても相違するが、おおむね、合計で、約0.001〜1.0質量%である。以下において詳述するように、これらの元素は、加熱によって約0.1〜10質量%まで濃化し、クロムめっき層の表面の変色をもたらす。さらに、中間めっき層2がニッケルめっき層の場合、ニッケルめっき層に含まれるNiも、表面の変色に大きく関与する。
【0067】
以下、中間めっき層の代表例であるニッケルめっきについて、詳しく説明する。ニッケルめっきは、主に、めっき浴に添加される光沢剤の種類や添加の有無などにより、無光沢ニッケルめっきと、半光沢ニッケルめっきと、光沢ニッケルめっきとに大別される。これらは、要求される特性や用途などに応じて、適宜、適切に組合わせることができ、これにより、所望の外観を得ることができる。
【0068】
このうち光沢ニッケルめっきは、めっき浴中にサッカリンやベンゼンスルホン酸などの光沢剤を添加して得られ、表面のレベリング(平滑化)作用やクロムめっき層との密着性などに優れているため、クロムめっき層の真下に形成される下地層として広く用いられている。光沢ニッケルめっきに用いられる光沢剤は、通常、めっき層中に、CおよびSの少なくとも一方を合計で約0.001〜1.0質量%含み、Sの含有量が多いほど耐食性が低下する傾向にある。
【0069】
これに対し、無光沢ニッケルめっきは、めっき浴中に光沢剤を含まない点で、光沢ニッケルめっきと相違する。無光沢ニッケルめっきは、光沢ニッケルめっきに比べて光沢性に劣るが、めっき層のつきまわり(付着性)、耐食性、変色防止作用などに優れている。
【0070】
また、半光沢ニッケルめっきは、めっき浴中に非クマリン系の半光沢剤を添加して得られる。半光沢剤は、上記の光沢剤とは異なり、Cおよび/またはSの含有量が少ない。このため、光沢ニッケルめっきに比べて耐食性は良好であるが、光沢性に劣る。
【0071】
一般に、S含有量の異なるニッケルめっき層を重ねて形成すると、各めっき層の間に電位差が生じ、S含有量の多い皮膜が優先的に腐食される。このような性質を利用して、ニッケルめっきの構成を2層以上の複数とし、耐食性の向上を図る場合が多い。例えば、素地金属に、半光沢ニッケルめっき層および光沢ニッケルめっき層を順次形成した2層めっきの場合、光沢めっき層は半光沢めっき層に比べて卑な電位となり、優先的に腐食される。このため、半光沢めっき層の下にある素地金属は腐食されずに保護される。上記の2層めっき層において、さらに耐食性を高める目的で、半光沢ニッケルめっき層と光沢ニッケルめっき層の間に、S含有量の多いトリニッケルめっき層(光沢ニッケルめっき層の一種)を形成し、3層めっきとする場合もある。トリニッケルめっき層に含まれるSは、主に、光沢剤以外の添加剤から供給されることが多い。この場合は、まず、最上層の光沢ニッケルめっき層が優先的に腐食し、次いで、中間層のトリニッケルめっき層が腐食することにより、半光沢ニッケルめっき層および素地金属の両方が保護されることになる。
【0072】
このようなニッケルめっきによる作用を有効に発揮させるためには、ニッケルめっき層の厚さは、合計で、約10〜30μmであることが好ましい。より好ましくは、約15μm以上、25μm以下である。
【0073】
なお、ニッケルめっき層以外の中間めっき層を形成する場合は、おおよそ、10〜30μmの厚さに制御することが好ましい。
【0074】
3.クロムめっき層
中間めっき層2の上には、クロムめっき層3が形成されている。クロムめっき層3の形成に用いられるCrの種類は、特に限定されず、三価クロムおよび六価クロムの両方が含まれる。つまり、クロムめっき層3は、三価クロムめっきによって形成してもよいし、六価クロムめっきによって形成してもよい。
【0075】
いずれのCrを用いてクロムめっき層を形成したかは、クロムめっき層をX線回折することにより、容易に判別することができる。図2(a)および(b)に、X線回折法によるクロムめっき層の分析結果を、それぞれ、示す。測定方法の詳細は、以下のとおりである。
分析機器:理学電機製X線回折装置RAD−3C型
測定条件:Cu対陰極を使用、40kV/40mAで通電
【0076】
六価クロムを用いて形成されたクロムめっき層のX線回折結果は、図2(b)に示すとおりである。約40θ〜50θの回折角付近に、約1200cpsの極めて大きな回折ピークが観測されるとともに、約65θおよび約83θの回折角付近に、それぞれ、約200cpsの大きな回折ピークが観測される。これらのピークは、回折角の小さい順に、(111)配向の結晶、(200)配向の結晶、および、(211)配向の結晶に由来する。
【0077】
これに対し、三価クロムを用いて形成されたクロムめっき層のX線回折結果は、図2(a)に示すとおりである。約40〜50θの回折角付近に、(111)配向の結晶に由来する約100cpsの小さい回折ピークが観測されるのみである。(111)配向結晶に由来するピークの半値幅をピーク強度で除した値(半値幅/ピーク高さ)は、約0.6rad/cpsであり、六価クロムを用いたときに観測される(111)配向結晶の値(約7.9×10-4rad/cps)に比べて、非常に広い。
【0078】
これらの図より、六価クロムを用いたクロムめっき層は、多結晶からなる結晶構造を有しているのに対し、三価クロムを用いたクロムめっき層は、実質的に非晶質構造を有していることがわかる。めっき層が結晶構造か非結晶構造であるかは、例えば、約40〜50θの回折角付近に、(半値幅/ピーク高さ)が約0.001rad/cps以下の回折ピークが観測されるかどうかによって判別することができる。
【0079】
三価クロムを用いてクロムめっき層を形成する場合は、クロムめっき層に含まれるFeの含有量をできるだけ低減することが好ましい。これにより、三価クロムを用いた場合であっても、六価クロムを用いたときと同程度の色調を得ることができる。その理由は、詳細には不明であるが、三価クロムめっき浴に添加される硫酸第一鉄などの添加剤を構成するFeが関与し、種々の元素と結合するなどして黒色のFe系析出物を生成するためと考えられる。
【0080】
三価クロムの使用に基づく色調の劣化は、Feの含有量が多いほど増加することから、クロムめっき層に含まれるFeの含有量は、少ないほどよい。六価クロムと同程度の色調を得るためには、クロムめっき層に含まれるFeの含有量を2質量%以下に低減することが好ましい。Feの含有量は、少なければ少ないほど良く、より好ましくは1質量%以下、さらにより好ましくは0.5質量%以下である。
【0081】
このようにして得られるクロムめっき層の色調は、以下のようにして測定されるL*値が、68〜80の範囲である。L値は、分光式色差計(例えば、東京電色カラーアナライザー製TC−1800MK−IIなど)を用い、CIE1976に記載の方法に基づいて算出する。
【0082】
クロムめっき層に含まれるFeの含有量は、GDS分析法(Glow Discharge Spectrometry、グロー放電発光分光分析法)により、クロムめっき層の深さ方向(0〜1μm)に含まれるFeの含有量を分析することにより求められる。
【0083】
4.変色防止のメカニズム
本発明のエンジン用部品は、金属基材表面の350℃以上の温度に加熱される領域におけるクロムめっき層が、0.2μm以上の厚さを有していることに特徴がある。従来は、高温に曝される部位も含めて、クロムめっき層全体の厚さは、せいぜい、0.1μm程度であった。これに対し、本発明では、少なくとも、高温の排気ガスによって表面の変色や劣化が生じるクロムめっき層の部分が厚くなるように形成されているため、「C−Sの濃化層」の形成による変色などの悪影響を低く抑えることができる。
【0084】
以下、クロムめっき層の厚さを制御することにより、加熱によるクロムめっき層の変色を防止できる理由について、図3および図4を用いて説明する。
【0085】
図3は、クロムめっき層表面の変色をもたらすと考えられる「C−Sの濃化層」または「C−S−Niの濃化層」(以下、単に「濃化層」と呼ぶ場合がある。)が生成するメカニズムを説明する図であり、加熱により、クロムめっき層と中間めっき層との界面近傍にCおよび/またはSが集まってくる様子を模式的に説明している。図3には、Fe基材とクロムめっき層との間にニッケルめっき層が形成された、本発明の代表的な構成を示しており、ニッケルめっき層は、Fe基材側から順に、半光沢ニッケルめっき層、トリニッケルめっき層、および光沢ニッケルめっき層の三層から構成されている。
【0086】
なお、クロムめっき層とニッケルめっき層との界面近傍には、加熱により、クロムめっき層やニッケルめっき層に含まれる添加剤を構成する様々な元素が集まってくる。図3には、クロムめっき層の変色に関与していると考えられる元素、すなわち、上記の濃化層を構成する元素(C、S、およびNiの少なくとも1つ)と、これらの元素と結合しやすい元素(FeやCrなど)についてのみ示し、それ以外の元素(例えば、加熱により、上記の界面近傍に集まってくるOなど)は省略している。
【0087】
図3に示すように、ニッケルめっき層側からクロムめっき層側に向かって、主に、CまたはSが移動し、上記の界面近傍に集まってくる。前述したとおり、CまたはSは、主に、ニッケルめっき浴に添加される非ブチン系の光沢剤(ベンゼンスルホン酸など)を構成する元素であり、特に、光沢ニッケルめっき層およびトリニッケルめっき層には、Sが多く含まれている。そのため、上記の界面近傍には、CまたはSが多く集まった「C−Sの濃化層」が形成される。ここで、「C−Sの濃化層」は、CまたはSの少なくとも1つが集まっている層を意味する。なお、CまたはSは、クロムめっき層側から拡散移動する場合もあり得るが、ニッケルめっき層側から拡散移動する場合に比べて、その比率は非常に少ないため、図示していない。
【0088】
中間めっき層がニッケルめっき層の場合、Niを含有する「C−S−Niの濃化層」が形成される。Niも、CまたはSと同様、変色に関与していると考えられる。ここで、「C−S−Niの濃化層」は、CまたはSまたはNiの少なくとも1つが集まっている層を意味する。
【0089】
このような濃化層の形成により、クロムめっき層の表面の変色が生じる理由は、詳細には不明であるが、例えば、クロムめっき層を構成するCrが、上記の濃化層を構成する元素(CまたはSまたはNi)と結合し、クロムめっき層の屈折率が変化するため、変色を招くことが考えられる。また、三価クロムを用いてクロムめっき層を形成する場合は、主に、三価クロムめっき浴に添加される硫酸第一鉄などから供給されるFeも、変色をもたらす原因物質と考えられる。また、金属基材がFe系材料から構成されている場合、加熱により、Fe系材料からFeが拡散して上記の界面近傍に濃化してくることもある(図示せず)。
【0090】
このような濃化層に基づくクロムめっき層表面の変色は、クロムめっき層の厚さを0.2μm以上にすることによって防止できる。以下、図4(a)および(b)を参照しながら、その理由を説明する。
【0091】
図4(b)は、従来のCr−ニッケルめっき層の一部を模式的に説明する図である。図4(b)に示すように、従来のクロムめっき層の厚さは、約0.1μm以下と小さいため、入射光は、クロムめっき層とニッケルめっき層との界面付近まで透過するようになる。その結果、上記の界面付近に生成される濃化層によって入射光の一部が吸収され、加熱による変色の程度がより顕著に見られるようになる。
【0092】
これに対し、クロムめっき層の厚さを0.2μm以上とした場合は、図4(a)に示すように、入射光は、クロムめっき層の表面付近で大部分が反射され、クロムめっき層とニッケルめっき層との界面近傍まで透過することはない。そのため、通常のクロムめっき層の最表面に形成される酸化皮膜による干渉色だけとなり、濃化層による影響を抑えることができる。
【0093】
このような作用を有効に発揮させるため、クロムめっき層の厚さは、0.2μm以上とする。加熱による熱変色の防止という観点からすれば、クロムめっき層の厚さの上限は、特にない。ただし、クロムめっき層の厚さが0.9μmを超えると、肌あれなどの問題が新たに発生し、特に、光沢性が低下する。また、表面にクラックが発生しやすくなる。好ましい厚さの範囲は、これらを総合的に勘案して決定すればよい。具体的には、加熱条件や、Crの種類(六価クロムまたは三価クロム)などによっても相違するが、好ましくは、0.2μm以上、0.9μm以下であり、より好ましくは、0.3μm以上、0.5μm以下である。特に、三価クロムを使用する場合は、六価クロムを使用する場合に比べて、350℃以上の加熱による光沢度の低下やクラックの発生が顕著に見られるようになるため、クロムめっき層の厚さを、とりわけ、0.3μm以上、0.5μm以下にすることが好ましい。
【0094】
クロムめっき層3の厚さは、光学顕微鏡観察(倍率:400倍)によって測定する。具体的には、めっき層の厚さ方向断面を鏡面研摩し、エッチングする。これにより、クロムめっき層と中間めっき層とが明瞭に分離される。なお、クロムめっき層の表面粗さRaは、せいぜい、0.01μm程度であるため、表面粗さRaがクロムめっき層の厚さに及ぼす影響は、ほとんど、無視して良いと考えられる。また、測定部位によってクロムめっき層の厚さは、若干、異なるため、任意の観察領域において、測定場所を変えて合計3箇所測定し、その平均値を、「クロムめっき層の厚さ」と定めた。
【0095】
なお、濃化層の形成による他の変色防止手段として、例えば、CまたはSの含有量を低減する方法も考えられるが、この方法は、実用的でない。例えば、CまたはSの含有量を低減するためには、主に、中間めっき層に含まれる光沢剤の量を低減しなければならないが、その結果、光沢性が低下してエンジン用部品の意匠が著しく損なわれてしまう。本発明のように、優れた意匠を備えていることを重要課題のひとつとして掲げている場合は、光沢剤の減少に伴って意匠が損なわれることは、最も避けなければならない。
【0096】
加熱による変色を防止するためには、350℃以上の温度に加熱されるクロムめっき層3の部分が、上記範囲の厚さを満足していればよく、金属基材1に形成されるクロムめっき層3の全ての部分が、上記範囲の厚さを満足する必要はない。また、350℃以下の温度にしかならない領域では、クロムめっき層3の厚さは0.2μm以下であってもよい。一般に、クロムめっき層は、加熱により、銀白色から黄色、黄金色へと着色していき、さらに約350〜500℃の高温になると、黄金色から紫色に変色する。このような色調の変化は、クロムめっき層が形成される部分全体に、均一に見られるのではなく、高温の排気ガスに曝されやすい部分で、顕著に発生する。従って、黄金色から紫色への変色を防止するためには、加熱による変色が最も進行しやすい部分、すなわち、350℃以上の温度に曝されるクロムめっき層の厚さを上記範囲に制御すれば良い。
【0097】
上記の「350℃以上の温度に加熱される部分」としては、例えば、シリンダー、シリンダーヘッド、ヘッドカバーなどのエンジンを構成するエンジン用部品の一部、およびエンジンから排出される排気ガスを導く流路を構成している排気管の一部が挙げられる。ここで言う排気管は直接的に排気ガスを案内する排気管であってもよいし、間接的に排気ガスによって加熱される排気管(二重管)であってもよい。排気管には、各シリンダーからの排気ガスを導くマニホールド部、触媒装置を覆う触媒装置収納部、消音器(マフラー)などが含まれる。
【0098】
5.エンジン用部品の構造
図5を参照しながら、本発明によるエンジン用部品具体的な構造を説明する。図5は、本発明のエンジン用部品である排気管が用いられた自動二輪車100を示している。図5に示すように、自動二輪車100は、エンジン30と、エンジン30で生じた排気ガスを車体後方から排出するために、排気ガスを導く排気管4とを備えている。排気管4は、エンジン30に接続され、エンジン30の前方から排出された排気ガスを後方へ導くよう、大きく曲がった排気経路を構成している排気管集合部4aと、消音器4bとを含む。排気管集合部4aは、一体的に1つの部品によって構成されていてもよいし、複数の部品を接合することにより構成されていてもよい。本実施形態では、排気管4は自動二輪車100の外観に表れるよう全体が露出しており、自動二輪車100全体の意匠の一部を構成している。以下において詳細に説明するように、排気管4全体が露出しているほうが、長期にわたって排気管4の変色が生じず、新車のような外観を保つという本発明の効果が顕著に外観に表れる。しかし、排気管4の少なくとも一部が外観に表れる限り、自動二輪車の意匠によっては、排気管4の一部がカウルやプロテクタによって覆われていてもよい。また、排気管が用いられた自動二輪車の形状は図5に限られるわけではなく、たとえば、図10に示すような構造を備えた自動二輪車に本発明の排気管を採用してもよい。
【0099】
次に、図6(a)、(b)および(c)を参照しながら、厚さ0.2μm以上のクロムめっき層が形成される「金属基材表面の350℃以上の温度に加熱される領域」を具体的に説明する。これらの図は、排気管4の一部を示す断面図である。
【0100】
図6(a)は、エンジンに直接、接続される排気管4の排気管集合部4aを示している。図6(a)に示すように、エンジン(不図示)に接続される排気管集合部4aは、排気ガスが通過する通路6を規定している金属管5と、金属管5の外側面を覆うめっき層10とを含む。金属管5は屈曲部9を有している。屈曲部9は通路6が折れ曲る、あるいは通路6の伸びる向きが変化している部分である。
【0101】
めっき層10は、前述したとおり、中間めっき層とクロムめっき層とから構成されている。金属管5は、通路6を規定しておればよく、通路6を規定する内管および内管の外側を囲むように保持された外管から構成される2重管構造を有していてもよい。
【0102】
エンジン(不図示)と直接、接続される排気管集合部4aから入った排気ガスは、早い速度で通路6を移動するため、屈曲部9において、金属管5と衝突し、特に屈曲により形成される凸状表面部分9aに位置する金属管5の内側面9bと激しく衝突する。このため、外側部分9aが高温の排気ガスにより、約350℃以上の温度(例えば、約400〜500℃)に加熱される。
【0103】
また、金属管5が2重管構造を有している場合、他の排気管部材23とを接続する連結部分21では1重管構造を採用することが多い。連結部21に2重管構造を採用すると、他の排気管部材23との溶接の際、外管と内管との熱膨張差によって金属管5が変形したり破損したりする可能性があるからである。金属管5がこのような構造を採用している場合、連結部分21の内側面が高温の排気ガスに直接接触することによって、連結部分21は、約350℃以上の温度(例えば、約400〜500℃)に加熱される。
【0104】
図6(b)は、排気管4の触媒装置8を収納する触媒収納部22の断面を模式的に示している。触媒装置8は、触媒収納部22内に設けられ排気ガスが通過することによって、排気ガスに含まれる少なくとも1つの成分を分解する。分解の際、触媒装置8が発熱するため、触媒収納部22は、約350℃以上の温度(例えば、約400〜500℃)に加熱される。
【0105】
また、エンジン30(図5)が複数のシリンダーを備えている場合、排気管4は各シリンダーで生じた排気ガスを一緒にして自動二輪車100の後方へ導くため、マニホールド部を備えていることがある。図6(c)は、シリンダーに接続された枝管4d、4eがマニホールド部15により集合され、一体化した排気管部材4fで排出される排気管4を示している。このような排気管集合部4aのマニホールド部15では、複数の枝管4d、4eがから排気ガスが集まることによって、排気ガスの流量が増大するとともに、流路が曲げられるため、排気ガスがマニホールド部15の内側面に衝突する。このため、排気ガスによってマニホールド部15は、約350℃以上の温度(例えば、約400〜500℃)に加熱される。
【0106】
本実施形態の自動二輪車は、図6(a)、(b)および(c)を用いて例示したこれら排気管の高温に加熱される部分の外側を覆うように0.2μm以上のクロムめっき層が形成されている。このため、高温の排気ガスに曝されても、加熱によるクロムめっき層の変色を防止することができる。
【0107】
また、三価クロムを用いて形成されるクロムめっき層は、クロムめっき層に含まれるFe含有量が低減されているため、六価クロムを用いた場合と同程度の優れた色調を発現することができる。
【0108】
本発明には、前述したエンジン用部品を備えた輸送機器も包含される。輸送機器としては、例えば、エンジンを備えた自動二輪車や全天候型四輪車両などの車両、エンジンを備えた船舶、飛行機などの輸送機器などが挙げられる。
【0109】
6.エンジン用部品の製造方法
次に、本発明のエンジン用部品を製造する方法について説明する。本発明によるエンジン用部品の製造方法は、金属基材をめっき装置内に配置する工程と、金属基材に中間めっき層を被覆する工程と、クロムめっき浴を用い、350℃以上の温度に加熱される領域に0.2μm以上のクロムめっき層が形成されるように、前記中間めっき層が形成された前記金属基材を配置してめっきする工程とを包含する。
【0110】
まず、金属基材の表面を脱脂して清浄にするため、金属基材を、水洗槽、超音波アルカリ脱脂槽、電界脱脂槽、酸処理活性化槽などの槽に所定時間、浸漬する。これにより、金属基材の表面は、充分脱脂されるため、金属表面に中間めっき層やクロムめっき層を形成しやすくなる。
【0111】
次に、上記のようにして洗浄された金属基材を用い、電気めっきにより、金属基材の少なくとも外側表面上に中間めっき層およびクロムめっき層を順次、形成する。電気めっきは、めっきしようとする金属のイオンを含むめっき液中に被めっき材を入れて陰極とし、めっきしようとする金属(可溶性陽極)を用いて、両極間に直流電源を接続して通電することにより、陰極側で、めっきしようとする金属のイオンが還元されて金属が析出する反応を利用して行われる。中間めっき層もクロムめっき層も、ともに、電気めっきを用いて形成され、その原理は、同じであるため、以下の説明では、クロムめっき層を形成する工程について、図7に示すめっき装置を用いて詳細に説明することにし、中間めっき層を形成する工程は、図面を参照せずに説明する。
【0112】
中間めっき層は、めっきしたい金属の溶液を含むめっき槽に上記の金属基材を浸漬し、所望の厚さが得られるまで通電することによって形成される。例えば、中間めっき層として、半光沢ニッケルめっき層、トリニッケルめっき層、および光沢ニッケルめっき層の三層からなるニッケルめっき層を形成する場合は、上記のようにして洗浄された金属基材を、半光沢ニッケルめっき浴、トリニッケルめっき浴、および光沢ニッケルめっき浴に、それぞれ、浸漬し、所望のめっき層が形成されるまで通電する。具体的なめっき条件は、使用する金属基材やめっき浴の組成、用途などによっても相違し、Ni−クロムめっきに通常、用いられる条件を適宜、選択すればよい。例えば、Fe基材に、5〜15μmの半光沢ニッケルめっき層、1〜2μmのトリニッケルめっき層、および5〜15μmの光沢ニッケルめっき層を、順次、形成する場合、めっき浴の温度を約40〜65℃、めっき浴のpHを約2〜5とすることが好ましい。また、めっき時間は、半光沢ニッケルめっきおよび光沢ニッケルめっきの場合、約10〜20分間とし、トリニッケルめっきの場合、約1〜5分間とすることが好ましい。
【0113】
次いで、中間めっきされた金属基材にクロムめっき層を形成する。図7に示すように、クロムめっき装置20は、クロムめっきを行うためのクロムめっき槽11と、クロムめっき槽11に添加されためっき液を汲み上げるポンプ12と、めっき液中に浮遊する不純物を除去するためのろ過器13と、めっき液の流量を調整する調整バルブ14と、めっき液の流量をモニターする流量計15とから構成されている。クロムめっき装置20の下流側には、めっき液中に含まれるFeなどの金属イオンを除去するためのイオン交換装置16が設置されている。クロムめっき装置20と、イオン交換装置16とは、金属管(不図示)で連結されている。
【0114】
クロムめっき槽11には、クロム酸を構成するCrの種類により、六価クロム浴または三価クロム浴が用いられる。六価クロム浴と三価クロム浴とは、主に、クロム酸の種類が相違するが、そのほか、浴中に添加される他の添加剤の種類や量なども相違する。三価クロムは、六価クロムに比べて耐食性や素地基材との密着性などに劣るため、三価クロム浴には、通常、多くの添加剤が添加されている。例えば、三価クロム浴には、三価クロムイオン(Cr3+)を含む塩基性硫酸クロム(Cr(OH)SO4)のほか、ギ酸アンモニウム(HCOONH4)、ホウ酸(H3BO4)などのpH調整剤が含まれる。さらに、界面活性剤(スルホコハク酸エステルナトリウム、硫酸−2−エチルヘキシルナトリウムなど)や硫酸第一鉄(FeSO4・2H2O)などの添加剤も少量添加されている。これに対し、六価クロム浴には、一般に、六価クロムイオン(Cr6+)を含む無水クロム酸(CrO3)のほか、硫酸(H2SO4)、ケイフッ化ナトリウム(Na2SiF6)などの添加剤が含まれている。六価クロム浴には、通常、硫酸第一鉄やホウ酸は添加されていない。すなわち、六価クロムを用いたクロムめっき層には、実質的にFeやBは含まれない。
【0115】
クロムめっきは、電気めっきによって行われる。クロムめっき槽11に、上記の六価クロム浴または三価クロム浴を構成するめっき液を添加し、クロムめっきが施される金属基材17を陰極とする。クロムめっきは、めっき液からクロムイオンを補給して行われるため、陽極には、クロムめっき液に溶解しない不溶性陽極18が用いられる。
【0116】
次に、両極間に直流電源19を接続し、通電する。クロムめっき液に含まれるクロムイオンは、陰極側の金属基材17に向かって移動し、金属のCrに還元されて析出する。
【0117】
本発明のように、350℃以上の温度に加熱される領域に0.3μm以上のクロムめっき層を形成したい場合は、所望のクロムめっき層が形成されるよう、金属基材を配置してめっきすることが好ましい。特に、湾曲形状を有する排気管などの金属基材をめっきする場合は、電極と被めっき材(金属基材)との距離が、できるだけ、短くなるように金属基材を配置することが好ましい。
【0118】
例えば、図8(a)に示すように、金属基材17の屈曲部の凸状部分9aと電極18との距離が最も短くなるように配置されている場合は、高温に加熱される凸状部分9aにCr層を効率よく形成することができる。
【0119】
これに対し、図8(b)に示すように、金属基材17の凸状部分9aと電極18との距離が長くなるように配置されている場合は、凸状部分9aとは反対の凹状部分にクロムめっき層が形成されやすく、凸状部分9aには、クロムめっき層が形成されにくくなるため、めっき効率が悪くなる。
【0120】
そのほか、例えば、電極面を通過する電気量(電流×時間)や電流密度などを制御することにより、クロムめっき層の厚さを所定の範囲に制御することもできる。特に、350℃以上の温度に加熱される領域に所定のクロムめっき層が形成されやすくなるように、電極の配置を工夫したり、補助電極を取り付けたりするなどして、電流密度などを制御することができる。具体的な制御方法は、使用する金属基材の種類や形状、めっき浴の構成、クロムめっき層の厚さなどによって、適宜、適切な条件を選択すればよい。
【0121】
また、三価クロムを用いてクロムめっき層を形成する場合は、クロムめっき層に含まれるFeの含有量をできるだけ低減することが好ましい。これにより、六価クロムを用いたときと同程度の銀白色が得られる。このため、本発明では、三価クロムめっき浴に、Feを構成成分とする添加剤(例えば、硫酸第一鉄など)を添加しない。三価クロムめっき浴には、通常、めっき層のつきまわりなどを良くするため、約0.0001〜0.0003質量%の硫酸第一鉄が添加されており、そのため、クロムめっき層には、約2〜20質量%のFeが含まれている。これに対し、本発明に用いられ三価クロム浴には、Feの供給源となる硫酸第一鉄は全く添加されていないため、クロムめっき層には、Feは実質的に含まれない。
【0122】
なお、クロムめっき浴に硫酸第一鉄を添加しない場合、めっき層のつきまわりが悪くなるなどの問題が生じる。しかし、この問題は、例えば、前述した方法などによって電流密度が均一になるよう、電極の配置を工夫するなどの方法によって解消される。
【0123】
一方、めっきが進むにつれ、めっき液中には、FeイオンやCuイオンなどの様々な金属陽イオンが混入するようになる。例えば、Fe基材を用いてクロムめっきする場合、Fe基材からFeが溶出し、クロムめっき層に向かって拡散する。Fe基材を用いない場合であっても、クロムめっき層側にFeが不可避的に集まってくる場合がある。このようなFeの溶出は、硫酸第一鉄の有無にかかわらず見られる現象であり、特に、本発明のようにクロムめっき層を厚くするときは、より顕著に見られる傾向にある。従って、Fe含有量を制御するためには、クロムめっき浴の組成を制御するだけでは不充分であり、Fe基材などからクロムめっき浴中に混入するFeの含有量を定期的にモニターし、除去する必要がある。
【0124】
めっき液中に混入するFeイオンは、陽イオン交換樹脂を供えたイオン交換装置16を用いて除去する。本発明に用いられる陽イオン交換樹脂は、Feなどの2価の金属陽イオンと容易に交換し得る樹脂であれば特に限定されない。
【0125】
具体的な除去方法は、以下のとおりである。まず、めっき中、定期的に、ポンプ12でめっき槽11からめっき液を汲み上げ、ろ過器13を用いて浮遊物を除去する。次に、浮遊物が除去されためっき液は、調整バルプ14によって流量を調整しながら、イオン交換装置16に導入され、陽イオン交換樹脂によってFeイオンなどの金属陽イオンを除去する。めっき液の流量は、流量計15でモニターする。イオン交換装置16によって処理されためっき液は、定期的に採取し、Fe濃度をチェックする。本発明のようにクロムめっき層のFe濃度を2質量%以下に低減するためには、めっき液中のFe濃度を約0.0001質量%以下に制御する必要があるため、上記の範囲になるまで、イオン交換装置16による除去を行う。
【0126】
このようにしてFeイオンが除去されためっき液(再生めっき液)は、イオン交換装置16の出口から管路24を通ってめっき槽11に循環される。再生めっき液は、例えば、適切な貯蔵容器(不図示)に蓄えてもよい。
【0127】
なお、イオン交換装置16を用いてめっき液中の金属陽イオンを除去する方法は、例えば、特許文献2などに詳細に説明されており、本発明の方法に適用することができる。また、その改変例も種々提案されており(例えば、特許文献3など)、これらの改変例も、本発明の方法に適用できる。
【0128】
めっき後のクロムめっき層は、約1μm以下の表面粗さ(Ra)を有し、好ましくは0.2μm以下の表面粗さを有している。このため、めっき後、特に表面の仕上げを行わなくとも黒むめっき層は十分な光沢を有している。
【0129】
7.実験例
本実験例では、本発明のエンジン用部品において、クロムめっき層の厚さと、加熱による変色との関係を調べるとともに、クロムめっき層中のFe含有量と、表面の色調およびクラックの発生との関係を調べた。
【0130】
まず、STKM材から構成される金属管を用意し、以下の方法により、半光沢ニッケルめっき層とトリニッケルめっき層と光沢ニッケルめっき層とからなるニッケルめっき層を形成した。これらのめっき層を形成するために使用しためっき浴の組成を、それぞれ、表1に示す。なお、トリニッケルめっき浴に含まれるCおよび/またはSは、光沢剤以外の添加剤から供給されている。
【0131】
【表1】

【0132】
半光沢ニッケルめっき層(厚さ約5〜15μm)
めっき条件 :10〜12V(ボルト)、1800〜2800A(アンペア)で
通電。
トリニッケルめっき層(厚さ約1〜5μm)
めっき条件 :3〜3.5V、20〜40Aで通電。
光沢ニッケルめっき層(厚さ約5〜15μm)
めっき条件 :10〜12V、1800〜2800Aで通電。
【0133】
次に、図7に示す、イオン交換装置を備えたクロムめっき装置を用い、中間めっき層の上にクロムめっき層を形成した。クロムめっき浴として、表2に記載の六価クロムめっき浴と、表2に記載の2種類の三価クロムめっき浴を用いた。表3に記載の三価クロムめっき浴のうち、「本発明例」は、めっき浴中に硫酸第一鉄を全く添加しない例であり、「従来例」は、めっき浴中に硫酸第一鉄を含有した例である。
【0134】
【表2】

【0135】
【表3】

【0136】
クロムめっき層の厚さは、めっき時間を5〜20分間の範囲で変化させることにより、0.05〜1μmまで変えた。
【0137】
めっき中に混入するFeイオンは、陽イオン交換樹脂を備えたイオン交換装置を用いて除去した。具体的には、定期的に、めっき液をイオン交換装置に送り、めっき液中に含まれるFe濃度が0〜0.0001質量%の範囲になるように制御した。このようにして得られた各試料のクロムめっき層中のFe濃度を表4に示す。
【0138】
【表4】

【0139】
上記の各試料について、以下の方法によってめっき直後の色調および光沢を測定し、下記基準で評価した。
【0140】
<めっき直後の色調>
分光式色差計(東京電色カラーアナライザー製TC−1800MK−II)を用い、CIE1976に記載の方法に基づいてL*値、a*値、およびb*値を測定するとともに、肉眼観察する。
【0141】
評価基準(◎〜△を本発明例とする)
◎:六価クロムと同程度の色調が得られる。
(L*値=72以上、80以下)
○:やや金属光沢が低下するが、六価クロムと同程度の色調が得られる。
(L*値=68以上、72未満)
△:わずかに、黒味を帯びた色調となる。
(L*値=65以上、68未満)
×:黒味を帯びた色調となる。
(L*値=65未満)
【0142】
<光沢>
分光式色差計(東京電色カラーアナライザー製TC−1800MK−II)を用い、CIE1976に記載の方法に基づいてL*値、a*値、およびb*値を測定するとともに、肉眼観察する。
【0143】
評価基準(◎〜△を本発明例とする)
◎: 鏡面に近い光沢が得られる。
○:ほとんど鏡面に近い光沢が得られる。
△:わずかに、光沢が低下する。
×:光沢が低下し、くもってみえる。
【0144】
次に、上記の各試料を大気炉に設置し、500℃×8時間の条件で加熱した後、以下の方法によって加熱による熱変色の程度およびクラックの発生状況を測定し、下記基準で評価した。
【0145】
<熱変色の程度>
測定方法:分光式色差計(東京電色カラーアナライザー製TC−1800MK−II)を用い、CIE1976に記載の方法に基づいて、加熱前後のL*値、a*値、およびb*値を、それぞれ、測定する。加熱前の値を、それぞれ、L0*値、a0*値、およびb0*値とし、加熱後の値を、それぞれ、L1*値、a1*値、およびb1*値とし、以下のようにして、加熱後の色差ΔE*値を測定する。
【0146】
【数1】

【0147】
評価基準(◎〜△を本発明例とする)
◎:ΔE*値<1
○:1≦ΔE*値<3
△:3≦ΔE*値<4
×: 4≦ΔE*値
【0148】
<クラックの発生状況>
測定方法:光学顕微鏡(倍率400倍)を用い、クロムめっき層表面(約10mm×10mm)に発生するクラックを観察する。
【0149】
評価基準(◎〜△を本発明例とする)
◎: クラックの発生なし。
○:不連続なクラックが、わずかに観察される。
△:連続したクラックが、わずかに発生する。
×: 連続的なクラックが多数発生している。
【0150】
これらの結果を表5にまとめて示す。
【0151】
【表5】

【0152】
表5に示すように、クロムめっき層の厚さを0.2μm以上に制御することにより、加熱による熱変色を有効に防止することができる。この結果は、三価クロムを用いた場合も六価クロムを用いた場合も、同様に得られた。ただし、クロムめっき層の厚さが大きくなると光沢が低下し、クラックが発生するようになった。クラックの発生は、本発明例の三価クロムめっき浴(硫酸第一鉄を含有しない)を用いたときよりも、従来の三価クロムめっき浴(硫酸第一鉄を含有する)を用いた場合に、顕著に見られた。これらの結果を総合的に勘案すれば、六価クロムを用いた場合は、クロムめっき層の厚さを0.9μm以下(より好ましくは0.6μm以下)に制御することが好ましいことが分かる。一方、三価クロムを用いた場合は、クロムめっき層の厚さを0.5μm以下に制御することが好ましい。
【0153】
また、三価クロムを用いてクロムめっき層を形成する場合、本発明例の三価クロムめっき浴を用いてクロムめっき層中のFe濃度を所定範囲まで低減することにより、六価クロムと同程度の色調が得られた。このような色調改善作用は、クロムめっき層の厚さが0.1〜0.7μmの範囲にわたって見られた。
【0154】
図9(a)および(b)に、クロムめっき層の厚さが異なる試料を用い、500℃で8時間加熱した後における、クロムめっきの表面の変色を観察した写真を示す。いずれの写真も、クロムめっき層の厚さは、左から順に、0.1μm(比較例)、0.3μm(本発明例)、0.5μm(本発明例)と大きくなっている。
【0155】
図9(a)は、硫酸第一鉄を含有しない三価クロムめっき浴を用い、クロムめっき層中のFe含有量が低減されたクロムめっき層を加熱したときの写真であり、図9(b)は、硫酸第一鉄をする従来の三価クロムめっき浴を用いて得られたクロムめっき層を加熱したときの写真である。いずれの場合においても、クロムめっき層の厚さを0.3μm以上に制御することにより、加熱による熱変色は見られないことが明瞭に分かる。
【0156】
以上の実験結果より、クロムめっき層の厚さを0.3μm以上とすることにより、クロムめっき層の形成に用いたCrの種類にかかわらず、高温の排気ガスによる熱変色を防止できることが確認された。また、三価クロムを用いてクロムめっき層を形成する場合、クロムめっき層中のFe濃度を低減することにより、六価クロムを用いた場合と同程度の色調が得られることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明は、エンジンを備えた自動二輪車や全天候型四輪車両などの車両、エンジンを備えた船舶、飛行機などの輸送機器に幅広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】本発明によるエンジン用部品の構成を模式的に示す図である。
【図2】(a)は、三価クロムを用いて形成されたクロムめっき層のX線回折法による分析結果を示す図であり、(b)は、六価クロムを用いて形成されたクロムめっき層のX線回折法による分析結果を示す図である。
【図3】加熱により、クロムめっき層と中間めっき層との界面近傍に「C−S濃化層」または「C−S−Ni濃化層」が生成する様子を模式的に示す図である。
【図4】(a)は、クロムめっき層の厚さを大きくすることによってクロムめっき層の変色を防止できることを説明するための模式図であり、(b)は、従来のCr−ニッケルめっき層の一部を模式的に説明する図である
【図5】本発明のエンジン用部品が用いられる自動二輪車の側面図である。
【図6】(a)は、エンジンに直接、接続される排気管の部分を模式的に示す図であり、(b)は、排気管の触媒収納部の断面を模式的に示す図であり、(c)はマニホールド部の断面を模式的に示す図である。
【図7】本発明に用いられるクロムめっき装置の例を示す図である。
【図8】(a)は、金属基材の湾曲部分と電極との距離が最も短くなるように配置されている状態を模式的に示す図であり、(b)は、金属基材の湾曲部分と電極との距離が長くなるように配置されている状態を模式的に示す図である。
【図9】(a)は、硫酸第一鉄を含有しない三価クロムめっき浴を用いて形成されたクロムめっき層を加熱したときの写真であり、(b)は、硫酸第一鉄を含有する従来の三価クロムめっき浴を用いて得られたクロムめっき層を加熱したときの写真である。
【図10】自動二輪車の外観を示す側面図である。
【符号の説明】
【0159】
30、201 エンジン
4、4a、202 排気管
203 シリンダー
204 シリンダーヘッド
205 ヘッドカバー
1 金属基材
2 中間めっき層
3 クロムめっき層
5 金属管
6 通路
7 サイレンサー部分
8 触媒
9 屈曲部
9a 凸状表面部分
9b 内側面
10 めっき層
11 クロムめっき槽
12 ポンプ
13 ろ過器
14 調整バルブ
15 流量計
16 イオン交換装置
17 金属基材
18 不溶性陽極
19 直流電源
20 クロムめっき装置
21 連結部分
22 触媒収納部
23 他の排気管
24 管路
100、200自動二輪車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材と、前記金属基材表面の350℃以上の温度に加熱される領域を少なくとも覆うクロムめっき層と、前記金属基材と前記クロムめっき層との間に設けられた中間めっき層とを備えたエンジン用部品であって、
前記クロムめっき層は前記領域において0.2μm以上の厚さを有している、エンジン用部品。
【請求項2】
前記クロムめっき層は、前記領域において、0.2〜0.9μmの範囲の厚さを有している、請求項1に記載のエンジン用部品。
【請求項3】
前記クロムめっき層は、前記領域において、0.2〜0.5μmの範囲の厚さを有している、請求項1に記載のエンジン用部品。
【請求項4】
前記金属基材は、エンジンからの排気ガスが通過する通路を規定する金属管である請求項1から3のいずれかに記載のエンジン用部品。
【請求項5】
前記クロムめっき層は、前記金属管の外側面を覆っている請求項4に記載のエンジン用部品。
【請求項6】
前記金属管は屈曲部を有し、
前記領域は前記屈曲部の屈曲によって形成される凸状表面である請求項5に記載のエンジン用部品。
【請求項7】
前記金属管は複数の枝管が接続されるマニホールド部を有し、
前記領域は前記マニホールド部の外側表面である請求項5に記載のエンジン用部品。
【請求項8】
前記金属管は、前記排気ガスの少なくとも1つの成分を分解するための触媒装置を収納する触媒収納部を有し、
前記領域は前記触媒収納部の外側表面である請求項5に記載のエンジン用部品。
【請求項9】
前記クロムめっき層は装飾クロムめっきからなる請求項1から8のいずれかに記載のエンジン用部品。
【請求項10】
前記中間めっき層はCおよびSの少なくとも一方を含む、請求項1から9のいずれかに記載のエンジン用部品。
【請求項11】
前記中間めっき層はさらにNiを含む、請求項7に記載のエンジン用部品。
【請求項12】
前記中間めっき層は、前記クロムめっき層を構成するCrよりも硬度が低い金属から形成されている、請求項1から10のいずれかに記載のエンジン用部品。
【請求項13】
前記中間めっき層はニッケルめっきから形成されている、請求項1から12のいずれかに記載のエンジン用部品。
【請求項14】
前記金属基材は、Fe、Al、Zn、MgまたはTiを主成分とする材料から構成されている、請求項1から13のいずれかに記載のエンジン用部品。
【請求項15】
前記クロムめっき層は六価クロムめっき浴を用いて形成されている請求項1から14のいずれかに記載のエンジン用部品。
【請求項16】
前記クロムめっき層は三価クロムめっき浴を用いて形成されている請求項1から14のいずれかに記載のエンジン用部品。
【請求項17】
金属基材と、前記金属基材の表面の少なくとも一部を覆うクロムめっき層と、前記金属基材と前記クロムめっき層との間に設けられた中間めっき層とを備えたエンジン用部品であって、
前記クロムめっき層を構成するCrは、実質的に非晶質構造を有し、前記クロムめっき層に含まれるFeの含有量は2質量%以下である、エンジン用部品。
【請求項18】
前記クロムめっき層の色調は、CIE(Commision Internationale de IEclairage)1976で測定されるL*値が68〜80の範囲を満足する、請求項17に記載のエンジン用部品。
【請求項19】
前記クロムめっき層は、前記金属基材表面の350℃以上の温度に加熱される領域を覆い、前記領域において0.2〜0.6μmの範囲の厚さを有している、請求項17または18に記載のエンジン用部品。
【請求項20】
前記金属基材は、エンジンからの排気ガスが通過する通路を規定する金属管である請求項17から19のいずれかに記載のエンジン用部品。
【請求項21】
前記クロムめっき層は、前記金属管の外側面の少なくとも一部を覆っている請求項20に記載のエンジン用部品。
【請求項22】
前記金属管は屈曲部を有し、
前記領域は前記屈曲部の屈曲による凸状表面である請求項21に記載のエンジン用部品。
【請求項23】
前記金属管は複数の枝管が接続されるマニホールド部を有し、
前記領域は前記マニホールド部の外側表面である請求項21に記載のエンジン用部品。
【請求項24】
前記金属管は、前記排気ガスの少なくとも1つの成分を分解するための触媒装置を収納する触媒収納部を有し、
前記領域は前記触媒収納部の外側表面である請求項21に記載のエンジン用部品。
【請求項25】
前記クロムめっき層は装飾クロムめっきからなる請求項1から8のいずれかに記載のエンジン用部品。
【請求項26】
前記中間めっき層はCおよびSの少なくとも一方を含む、請求項17から25のいずれかに記載のエンジン用部品。
【請求項27】
前記中間めっき層はさらにNiを含む、請求項26に記載のエンジン用部品。
【請求項28】
前記中間めっき層は、前記クロムめっき層を構成するCrよりも硬度が低い金属から形成されている、請求項17から27のいずれかに記載のエンジン用部品。
【請求項29】
前記中間めっき層はニッケルめっきから形成されている、請求項17から28のいずれかに記載のエンジン用部品。
【請求項30】
前記金属基材は、Fe、Al、Zn、MgまたはTiを主成分とする材料から構成されている、請求項17から29のいずれかに記載のエンジン用部品。
【請求項31】
屈曲部を有する金属管と、前記屈曲部の屈曲による外側凸状表面を少なくとも覆うように設けられた厚さ0.2μm以上の装飾クロムめっき層とを備えた排気管。
【請求項32】
前記金属管は、複数の枝管が接続されるマニホールド部および触媒装置を収納する触媒収納部を有し、
前記装飾クロムめっき層は、前記マニホールド部および触媒収納部の外側をさらに覆っている請求項31に記載の排気管。
【請求項33】
前記クロムめっき層は、0.2〜0.5μmの範囲の厚さを有している、請求項32に記載の排気管。
【請求項34】
前記クロムめっき層の色調は、CIE(Commision Internationale de IEclairage)1976で測定されるL*値が68〜80の範囲を満足する、請求項31から33のいずれかに記載の排気管。
【請求項35】
請求項1または17に規定されるエンジン用部品を備えたエンジン。
【請求項36】
請求項31から34のいずれかに規定される排気管を備えた輸送機器。
【請求項37】
金属基材をめっき装置内に配置する工程と、
前記金属基材に中間めっき層を形成する工程と、
クロムめっき浴を用い、前記金属基材表面の350℃以上の温度に加熱される領域に0.2μm以上のクロムめっき層が形成されるように、前記中間めっき層が形成された前記金属基材を配置してめっきする工程と、
を包含するエンジン用部品の製造方法。
【請求項38】
前記クロムめっき浴中に含まれるFeの含有量を実質的に0に制御することにより、クロムめっき層に含まれるFeの含有量を2質量%以下に抑制する、請求項37に記載のエンジン用部品の製造方法。
【請求項39】
前記クロムめっき浴はFeを構成成分とする添加剤を含まない、請求項38に記載のエンジン用部品の製造方法。
【請求項40】
前記クロムめっき浴に含まれるFeを陽イオン交換樹脂によって除去する、請求項37または38に記載のエンジン用部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−70894(P2006−70894A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222943(P2005−222943)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】