説明

エンボス調クリア塗装ステンレス鋼板の製造方法

【課題】 意匠性の高いエンボス調クリア塗装ステンレス鋼板を提供する。
【解決手段】 本発明のエンボス調ステンレス鋼板は、ステンレス鋼板表面に、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂系塗料を乾燥膜厚で5〜30μmになるように塗布し、融点以上の温度で加熱処理した後、融点以上の温度を保ったまま、エンボス加工したロールで押圧し、ただちに急冷して当該エンボス模様を固定させる方法により作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼板の外観を活かしながらエンボス外観を呈し、指紋が付着しても拭き取り易く、家電機器・器物の筐体、内装材等に好適なエンボス調クリア塗装ステンレス鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼板は、清潔感、高級感を有することから、家電機器・器物の筐体や内装材等に使用されている。ステンレス鋼板無垢では、付着した指紋を拭き取り難いことから、ステンレス鋼板表面にクリア塗膜を設けたクリア塗装ステンレス鋼板等が使用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
エンボス加工を施したステンレス鋼板は、高い意匠性を有することから、多くの部材に使用されているが、付着した指紋を拭き取り難い問題が残る。また、エンボス加工を施したステンレス鋼板にクリア塗膜を設けようとしても、凹部にクリア塗料が溜まり、焼付け乾燥時にワキを発生する。クリア塗装を施したステンレス鋼板にエンボス加工を施すことも検討したが、エンボス加工時にクリア塗膜が脱落し、目的を達成できなかった。また、特開2004−160758号公報には、複数のクリア塗膜からなり最上層塗膜の直下塗膜にシリコーン化合物やポリフルオロカーボン鎖含有化合物を含ませた塗料を用い、その性状を利用してエンボス模様をパターン化させたものが開示されている。この方法は、塗料のはじきを利用するもので、工程が複雑な上に、メンテナンスなどの問題がある。
【特許文献1】特開2004−160758号公報
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、このような問題を解決すべく案出されたものであり、ステンレス鋼板表面に、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂系塗料を乾燥膜厚で5〜30μmになるように塗布し、融点以上の温度で加熱処理した後、融点以上の温度を保ったまま、エンボス加工したロールで押圧し、ただちに急冷して当該エンボス模様を固定させることを特徴とするエンボス調クリア塗装ステンレス鋼板の製造方法とした。
【0005】
本発明者等は、ステンレス鋼板にエンボス加工を施すことなく、エンボス調の外観が得られるクリア塗装ステンレス鋼板について種々検討した。その結果、ステンレス鋼板表面にポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂クリア塗膜を設け、当該塗膜にエンボス加工を施すことにより、指紋が付着しても拭き取り易いエンボス外観を呈するクリア塗装ステンレス鋼板を得ることができた。ステンレス鋼板自体にエンボス加工を施さずに、エンボス外観を得る方法として、例えば、塩ビ塗膜のように、塗膜厚さが200μm前後もあるような厚い塗膜にエンボス加工を施す方法も考えられる。
【0006】
しかし、エンボス適性に優れる厚い塗膜は逆に、クリア塗膜といえどもステンレス鋼板の金属素地感を損ねることから、これまで適用されなかった。本発明では塩ビ塗膜に比べて格段に薄いポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂クリア塗膜にエンボス加工を施すことによって、金属素地感を損ねずにエンボス外観を得る。ここで、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂クリア塗膜は厚くても30μmであり、塩ビ塗膜のようなエンボス外観が得られないと考えられ、これまで検討されなかったが、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂は塩ビ樹脂よりも硬質塗膜であるが故に、エンボスが鋭利に刻まれることから、塩ビ鋼板に劣らないエンボス外観を発現することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明方法によれば、薄膜のクリア塗膜でも厚膜塩ビ塗膜のように、塗装後のエンボス加工により、優れた形態を発現でき、透明性も損なわれない。工程も複雑でなく、メンテナンスフリーであり、作業性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明によるエンボス調クリア塗装ステンレス鋼板は、ステンレス鋼板上にポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂クリア塗料を塗布、焼付け、塗膜の溶融段階でエンボス加工を施し、水冷することによって得ることができる。
【0009】
本発明で用いるステンレス鋼板は、鋼種を特に限定せず、常法にしたがって適宜、研磨、脱脂、酸洗等を経てリン酸塩処理、クロメート処理、クロムフリー処理等の塗装前処理が施される。
【0010】
ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂の樹脂比率は特に限定されるものではないが、4/6〜8/2の範囲が塗膜物性、また、塗装作業性等の点から好ましい。アクリル樹脂としては、メタクリル酸メチルのホモポリマー、もしくは、メタクリル酸メチルを主モノマーとし、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸アルキル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸アルキル、スチレン、アルキルビニルエーテルなどのモノマーの少なくとも1種以上をコモノマーとするコポリマーを挙げることができる。
【0011】
ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂クリア塗膜は、塗膜を透かしステンレス鋼板外観を損なわない程度であれば、着色顔料、メタリック、パール顔料や種々の添加剤を配合することができる。ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂クリア塗膜は、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂クリア塗料を乾燥膜厚が5〜30μmとなるようステンレス鋼板表面に塗布し焼付ける。乾燥膜厚が5μm未満ではポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂クリア塗膜に施したエンボス外観が不鮮明となり、逆に乾燥膜厚が30μmを越えることは、一般的な連続式塗装金属板製造設備で製造する際、クリア塗装ステンレス鋼板の意匠感を損ねるワキが発生する虞があり、好ましくない。
【0012】
ステンレス鋼板とポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂クリア塗膜との間に、クリアプライマー塗膜を設けることができる。例えば、エポキシ樹脂クリア塗膜、ポリエステル樹脂クリア塗膜、アクリル樹脂クリア塗膜、フェノキシ樹脂クリア塗膜等を用いることができ、塗膜を透かしステンレス鋼板外観を損なわない程度であれば、着色顔料、メタリック、パール顔料や種々の添加剤を配合することもできる。
【0013】
本発明におけるポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂クリア塗料、また、必要に応じて、プライマークリア塗料の塗布は、ロールコート法、カーテンフロー法等の常法によるものでよく、ステンレス鋼板に塗装、焼付けして当該塗膜を設ける。プライマークリア塗膜を設ける場合、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂クリア塗料の塗布、焼付け乾燥に先立って、プライマークリア塗料の塗装、焼付け乾燥を行うことによって、クリア塗装ステンレス鋼板を得ることができる。
【0014】
本発明では、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂クリア塗膜が溶融段階にある状態で、例えば、エンボスロールを塗膜表面に押し当てて、エンボス模様をポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂クリア塗膜に押圧して当該エンボス模様を刻み、直ちに、急冷(水冷)してエンボス形態を固定する。ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂塗膜はミクロ層分離形態を取る混合樹脂塗膜であり、アクリル樹脂の融点が80〜120℃程度、ポリフッ化ビニリデン樹脂の融点が165〜185℃であることから、エンボス加工温度は185℃以上で行う。なお、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂クリア塗膜の焼付温度が225〜245℃程度であることから、当該塗膜を焼き付けた後の溶融段階でエンボス加工する。なお、エンボス深さはクリア塗装ステンレス鋼板の要求特性、使用環境を鑑みるべきであり、エンボスロールを用いてエンボスを刻む場合、エンボスロールの圧下力でその深さを調整することができる。
【実施例1】
【0015】
厚さ0.5mmのSUS430HL鋼板を脱脂後、Ti系クロムフリー塗装前処理を施し、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂(メタクリル酸メチル−アクリル酸ブチルコポリマー)=7/3クリア塗料を乾燥膜厚で18μm塗布し、オーブンにて235℃×60秒間の焼付条件で焼付け乾燥し、直ちに梨地エンボスロールをポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂クリア塗膜表面にシリンダー力8kgで圧下し、続いて、水冷してクリア塗装ステンレス鋼板を得た。得られたクリア塗装ステンレス鋼板は梨地肌が明確に刻まれたエンボス外観を有した。断面顕鏡でエンボス深さを測定したところ、実際には12μm程度しかなかったが、エンボスのエッジ部位が非常に鮮明であった。
【実施例2】
【0016】
厚さ0.8mmのSUS3042D鋼板を脱脂後、Ti系クロムフリー塗装前処理を施し、エポキシ樹脂系クリアプライマー塗料を乾燥膜厚で3μm塗付し、オーブンにて215℃×45秒間の焼付条件で焼付け乾燥し、直ちに水冷した。次いで、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂(メタクリル酸メチルホモポリマー)=8/2クリア塗料を乾燥膜厚で23μm塗布し、オーブンにて235℃×60秒間の焼付条件で焼付け乾燥し、直ちに皮シボ調エンボスロールをポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂クリア塗膜表面にシリンダー力12kgで圧下し、続いて、水冷してクリア塗装ステンレス鋼板を得た。得られたクリア塗装ステンレス鋼板は皮シボ肌が明確に刻まれたエンボス外観を有した。断面顕鏡でエンボス深さを測定したところ、実際には14μm程度しかなかったが、エンボスのエッジ部位が非常に鮮明であった。
【実施例3】
【0017】
厚さ1.0mmのSUS304BA鋼板を脱脂後後、Ti系クロムフリー塗装前処理を施し、フェノキシ樹脂系クリアプライマー塗料を乾燥膜厚で3μm塗付し、オーブンにて215℃×45秒間の焼付条件で焼付け乾燥し、直ちに水冷した。次いで、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂(メタクリル酸メチルホモポリマー)=5/5クリア塗料を乾燥膜厚で20μm塗布し、オーブンにて235℃×60秒間の焼付条件で焼付け乾燥し、直ちに砂目エンボスロールをポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂クリア塗膜表面にシリンダー力14kgで圧下し、続いて、水冷してクリア塗装ステンレス鋼板を得た。得られたクリア塗装ステンレス鋼板は砂目肌が明確に刻まれたエンボス外観を有した。断面顕鏡でエンボス深さを測定したところ、実際には8μm程度しかなかったが、エンボスのエッジ部位が非常に鮮明であった。
【産業上の利用可能性】
【0018】
家電機器・器物の筐体、内装材等にステンレス鋼板が多く採用される中、ステンレス鋼板の外観を活かしながらエンボス外観を有し、指紋が付着しても拭き取り易いクリア塗装ステンレス鋼板が得られる。また、塗装後にエンボス加工が施されるので、作業性もよく、煩雑なメンテナンス処理が不要である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼板表面に、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂系塗料を乾燥膜厚で5〜30μmになるように塗布し、融点以上の温度で加熱処理した後、融点以上の温度を保ったまま、エンボス加工したロールで押圧し、ただちに急冷して当該エンボス模様を固定させることを特徴とするエンボス調クリア塗装ステンレス鋼板の製造方法。































【公開番号】特開2006−82524(P2006−82524A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−272345(P2004−272345)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】