説明

オイルポンプ

【課題】 オイルポンプにおいて、ハウジング内から洩れるオイルがオイルシールへ流入することを確実に遮断し、且つ、排出させ、オイルシールに加わるオイルの圧力が上昇するのを防止すること。
【解決手段】 ポンプ室10pを形成するハウジング10と、ポンプ室10p内に配置され、ポンプ室10pを貫通するクランク軸32の外周との間に軸方向に延在する連通溝21dを設けて、クランク軸32と係合して回転駆動されるインナーロータ21と、インナーロータ21に係合して回転されるアウターロータ22と、ハウジング10とクランク軸32との間に配置されるオイルシール33と、を備えたオイルポンプにおいて、ポンプ室10pとオイルシール33との間を区画する区画部11bをハウジング10に形成し、区画部11bのポンプ室10p側には、インナーロータ21に向かって延在する筒部11eの内壁11dと内壁11dに連なり連通溝21dに向かって傾斜する案内部11cを有すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、オイルポンプに関するものである。特に、ポンプ室が形成されるハウジングとオイルポンプを駆動する駆動軸との間にオイルシールが配置されるオイルポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のオイルポンプとしては、互いに噛合するインナーロータとアウターロータとを内部に回転自在に収納したハウジングと、ハウジングの略中心部を貫通し、インナーロータが連結した駆動軸と、ハウジングの一側部と駆動軸との間に介装され、かつ内側にシール室を形成するオイルシールと、インナーロータと駆動軸との連結箇所に駆動軸の軸方向に沿って形成され、一端開口部がシール室に、他端開口部がクランクケースに開口したドレン孔と、ドレン孔の一端開口部よりも駆動軸の回転方向後方位置に配置されていると共に先端部がシール室内に臨む掻集部材と、を備えたものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このオイルポンプにおいては、ハウジング内からシール室方向へ流入しようとするオイルは、インナーロータ端部に設けられた掻集部材によって強制的に掻集されてドレン孔に案内される。しかしながら、ハウジングからシール室へ流入しようとするオイルは、遠心力が加わり、掻集部材の外周へ洩れるため、十分なオイルの掻集ができない虞がある。また、掻集部材は、周方向の2箇所のみに設けられているため、シール室方向へ流入しようとするオイルを十分に掻集できない虞がある。
【特許文献1】実用新案第2573717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、オイルポンプにおいて、ハウジング内から洩れるオイルがオイルシールへ流入することを確実に遮断し、且つ、排出させ、オイルシールに加わるオイルの圧力が上昇するのを防止することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための第1の技術的手段は、ポンプ室を形成するハウジングと、前記ポンプ室内に配置され、前記ポンプ室を貫通する駆動軸の外周との間に軸方向に延在する連通溝を設けて、前記駆動軸と係合して回転駆動されるインナーロータと、前記ポンプ室内に配置され、前記インナーロータの外歯に、内歯を係合して回転されるアウターロータと、前記ハウジングと前記駆動軸との間に配置されるオイルシールと、を備えたオイルポンプにおいて、前記ポンプ室と前記オイルシールとの間を区画する区画部を前記ハウジングに形成し、該区画部の前記ポンプ室側には、インナーロータに向かって延在する筒部の内壁と該内壁に連なり前記連通溝に向かって傾斜する案内部を有することである。
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、ポンプ室とオイルシールとの間を区画する区画部をハウジングに形成し、区画部のポンプ室側には、インナーロータに向かって延在する筒部の内壁と該内壁に連なり連通溝に向かって傾斜する案内部を有することにより、ポンプ室からハウジングの区画部に形成された筒部とインナーロータとの隙間を通して洩れるオイルは、内壁に沿って案内部へ流れる。また、オイルは、案内部によりオイルシールに向かって流れるのを遮断されると共に、連通溝に案内され、連通溝を通して排出される。
【0007】
上記課題を解決するための第2の技術的手段は、前記案内部は、前記内壁の全周に形成されていることである。
【0008】
請求項2に記載の発明によれば、案内部は、内壁の全周に形成されていることにより、オイルを全周から連通溝に案内することができる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明により、ハウジング内から洩れるオイルがオイルシールへ流入することを確実に遮断し、且つ、排出させ、オイルシールに加わるオイルの圧力が上昇するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に従ったオイルポンプの第1の実施形態を図面に基づき説明する。
【0011】
図1は、本発明のオイルポンプの正面図である。このオイルポンプは、ポンプ室10pを形成するハウジング10と、ポンプ室10p内に配置されクランク軸(駆動軸)32により回転駆動されるインナーロータ21と、インナーロータ21の外歯21aに、内歯22aを係合して回転されるアウターロータ22を主要構成部材とする。また、ハウジング10とクランク軸32との間には、ハウジング10に固定されるオイルシール33が配置される。
【0012】
インナーロータ21は、外歯21aを有するとともに、内孔21bを有している。内孔21bには、クランク軸32の外周に形成されるスプライン歯32aに係合するスプライン歯21cが形成されている。インナーロータ21は、スプライン歯21cとクランク軸32のスプライン歯32aとの係合により回転駆動される。インナーロータ21の内孔21bには、スプライン歯21cを7箇所形成せず、ポンプ室10pを貫通するクランク軸32の外周のスプライン歯32aと内孔21bとの間にインナーロータ21の回転軸方向に延在する連通溝21dが設けられている。また、インナーロータ21は、その両側面21f,21gが、ハウジング10の内側面11r,12bに摺接する。側面21fと内側面11rとの間には、両側面が摺接するとき、オイルが流入して潤滑可能な隙間が設けられている。インナーロータ21の内孔21bの周りには、オイルポンプをクランク軸32に組付ける時、クランク軸32に対するインナーロータ21の内孔21bの位置を確保するための環状の突出部21eが設けられている。なお、突出部21eは無くても良い。
【0013】
アウターロータ22は、インナーロータ21の外歯21aに順次噛合する内歯22aを有している。両歯21a,22a間には、複数の容積室Pが形成されている。アウターロータ22は、ハウジング10の本体11に形成した凹部11sにインナーロータ21の回転中心から所定量偏心した回転中心回りに回転可能に収納されて、インナーロータ21によって回転されるようになっている。ここで、アウターロータ22の外周22bの外径は、ハウジング10の凹部11sの内径との間に、クランク軸32の回転振れを吸収できるだけの隙間ができるように設定されている。
【0014】
ハウジング10は、ポンプ室10pを形成するように、本体11とこれにボルト13によって組付けられるカバー12により構成されている。オイルポンプは、ハウジング10の本体11にインナーロータ21とアウターロータ22を組付けた後にカバー12を本体11に組付けることにより組み立てられている。本体11とカバー12には、クランク軸(駆動軸)32が貫通する内孔11a,12aが設けられている。また、前述したように、インナーロータ21の両側面21f,21gが摺接する内側面11r,12bが、内孔11a,12aの周りにそれぞれ形成されている。
【0015】
本体11は、一端側にポンプ室10pが形成され、他端側にオイルシール33が組み付けられている。ポンプ室10pとオイルシール33とを区画する区画部11bが、本体11に形成されている。区画部11bのポンプ室10p側には、インナーロータ21に向かって延在する筒部11eが形成されている。区画部11bには、筒部11eの内壁11dと内壁11dに連なり連通溝21dに向かって傾斜する案内部11cとからなる凹部Sが形成されている。案内部11cは、内壁11dの全周に形成されている。凹部Sは、インナーロータ21の突出部21eを収納している。また、凹部Sの軸方向深さは、インナーロータ21が軸方向に、側面21fと内側面11rとの隙間の距離動いた時、突出部21eの端面と凹部Sの底面とが干渉しないように設定されている。
【0016】
また本体11には、エンジンブロック(図示省略)に組付けるときに、位置きめピン(図示省略)が嵌合する基準孔(図示省略)と、取付ボルト(図示省略)が挿通される複数の取付孔11bが設けられている。更に本体11には、吸入ポート11pと吐出ポート11qが設けられている。
【0017】
次に、上記したように構成されたオイルポンプの作動について説明する。
【0018】
クランク軸32の回転によって、スプライン歯21cによってクランク軸32のスプライン歯32aに勘合しているインナーロータ21は、クランク軸32とともに回転する。インナーロータ21の外歯21aと内歯22aによって噛合しているアウターロータ22も、インナーロータ21とともに回転する。
【0019】
インナーロータ21とアウターロータ22とが噛合った回転により、両歯21a,22a間に形成される複数の容積室Pが、それぞれ拡張および縮小され、オイルを吸入ポート11pから吸入し、吐出ポート11qから吐出する。
【0020】
この時、オイルは、ポンプ室10pから本体11とインナーロータ21とが摺接するときオイルが流入して潤滑可能な隙間、つまり、両側面21fと内側面11rとが摺接する隙間を通して洩れる。洩れたオイルは、オイルシール33内へ流出し、オイルシール33内の圧力を上昇させ、シール性能の低下による外部へのオイル洩れが発生しようとする。
【0021】
しかしながら、ポンプ室10pとオイルシール33との間には区画部11bが形成されている。また、区画部11bのポンプ室10p側には、インナーロータ21に向かって延在する筒部11eが形成されている。区画部11bには、筒部11eの内壁11dと内壁11dに連なり連通溝21dに向かって傾斜する案内部11cとからなる凹部Sが形成されている。このため、ポンプ室10pからハウジング10とインナーロータ21との隙間を通して洩れるオイルは、遠心力より凹部Sの内壁11dに沿って案内部11cへ流れる。また、オイルは、案内部11cにより堰き止められオイルシール33に向かって流れるのを遮断されると共に、連通溝21dに案内される。更に、案内部11cは、内壁11dの全周に形成されているため、オイルを全周から連通溝に案内される。連通溝に案内されたオイルは、例えばクランクケース(図示省略)へ排出される。
【0022】
次に、本発明に従ったオイルポンプの第2の実施形態を図面に基づき説明する。
【0023】
第2の実施形態のオイルポンプは、図4に示すように、クランク軸232が対向する2面232aからなる外周を有し、インナーロータ221が、その内孔221bをクランク軸232に外挿されている形式のものである。この実施形態では、2面232aに対面する2面221cの略中央に断面が半円を呈する連通溝221dが形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態における、オイルポンプの正面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態における、要部拡大図である。
【図4】本発明の第2の実施形態における、連通溝221dを示す正面図である。
【符号の説明】
【0025】
10・・・ハウジング
10p・・・ポンプ室
11・・・本体(ハウジング)
11b・・・区画部
11c・・・案内部
11d・・・内壁
11e・・・筒部
12・・・カバー(ハウジング)
21、221・・・インナーロータ
21a・・・外歯
21d、221d・・・連通溝
22・・・アウターロータ
22a・・・内歯
32、232・・・クランク軸(駆動軸)
33・・・オイルシール
S・・・凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ室を形成するハウジングと、
前記ポンプ室内に配置され、前記ポンプ室を貫通する駆動軸の外周との間に軸方向に延在する連通溝を設けて、前記駆動軸と係合して回転駆動されるインナーロータと、
前記ポンプ室内に配置され、前記インナーロータの外歯に、内歯を係合して回転されるアウターロータと、
前記ハウジングと前記駆動軸との間に配置されるオイルシールと、を備えたオイルポンプにおいて、
前記ポンプ室と前記オイルシールとの間を区画する区画部を前記ハウジングに形成し、該区画部の前記ポンプ室側には、インナーロータに向かって延在する筒部の内壁と該内壁に連なり前記連通溝に向かって傾斜する案内部を有することを特徴とするオイルポンプ。
【請求項2】
前記案内部は、前記内壁の全周に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のオイルポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−29295(P2006−29295A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−213324(P2004−213324)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】