説明

オイルミストセパレータ

【課題】フィルタで捕捉されたオイルの再飛散を抑制し、オイルミストの捕捉効率を向上させることができるオイルミストセパレータを提供する。
【解決手段】シリンダヘッドカバー11内にはバッフルプレート12で区画されたオイルミスト分離室16が形成されている。該オイルミスト分離室16内にはフィルタ17が支持され、ブローバイガス中のオイルミストがフィルタ17で捕捉され、捕捉されたオイルはバッフルプレート12の回収孔24からクランク室へ戻される。一方、オイルミストが除去されたブローバイガスがシリンダヘッドカバー11の供給孔26からエンジンの吸気系に供給されるようになっている。そして、フィルタ17の下流側には、フィルタ17から染み出すオイルを集めてバッフルプレート12の回収孔24へ誘導するガイド部材28が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの燃焼室で生ずるブローバイガスからオイルミストを効率良く分離させるためのオイルミストセパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンの燃焼室で燃料が燃焼する際には、シリンダブロックとピストンやピストンリングとの隙間等から未燃焼ガス(ブローバイガス)がクランクケース内に漏れる。このブローバイガスをそのまま排出すると環境への負荷が大きいため、ブローバイガスをインテークマニホールドに戻して燃焼させるシステムが実施されている。この場合、ブローバイガス中にはオイルミストが含まれていることから、そのオイルミストを分離するオイルミストセパレータが従来から提案されている。
【0003】
この種のオイルミストセパレータとして、例えば特許文献1に記載の構造を有するものが知られている。すなわち、オイルミストの分離構造は、オイルを分離するためのフィルタエレメントを備え、該フィルタエレメントは上から下へブローバイガスが通過するように構成されている。そのため、ブローバイガスから捕集されたフィルタエレメント内のオイルが自重で降下するとともに、ブローバイガスの上から下への流れによりオイルを下方へ押し出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−152890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているオイルミストの分離構造では、ブローバイガスから捕集されたフィルタエレメント(フィルタ)内のオイルはその下端部からクランクケースとの間に設けられたバッフルプレート上に落下し、バッフルプレートに設けられた孔からクランクケースに戻される。ところが、オイルはフィルタエレメントの下面全体から落下し、オイルの粒子径が小さいことから、オイルがフィルタエレメントから落下する際に、ブローバイガスの流れによって再飛散するおそれがある。そのため、フィルタエレメントで一旦捕捉されたオイルが再飛散する分だけ回収率が悪くなり、従ってオイルミストの捕捉効率が低いという欠点があった。
【0006】
そこで、本発明の目的とするところは、フィルタで捕捉されたオイルの再飛散を抑制し、オイルミストの捕捉効率を向上させることができるオイルミストセパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明のオイルミストセパレータでは、エンジンのシリンダヘッドカバー内にはオイルミスト分離室が形成され、該オイルミスト分離室内にはフィルタが支持され、オイルミスト分離室内に導入されたブローバイガス中のオイルミストがフィルタで捕捉され、捕捉されたオイルはシリンダヘッド側へ戻されるとともに、オイルミストが除去されたブローバイガスがシリンダヘッドカバーの供給孔からエンジンの吸気系に供給されるように構成されたオイルミストセパレータであって、前記フィルタの下流側の底部には、フィルタから染み出すオイルを集めてシリンダヘッド側へ誘導するガイド部材を設けたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明のオイルミストセパレータは、請求項1に係る発明において、前記ガイド部材はフィルタと一体形成されていることを特徴とする。
請求項3に記載の発明のオイルミストセパレータは、請求項1に係る発明において、前記ガイド部材はフィルタと別体の硬質樹脂をフィルタに接着して構成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明のオイルミストセパレータは、請求項1から請求項3のいずれか1項に係る発明において、前記ガイド部材はブローバイガスの下流側ほど低くなるガイド溝を有することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明のオイルミストセパレータは、請求項1から請求項4のいずれか1項に係る発明において、前記ガイド部材はブローバイガスの下流側ほど幅広に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
本発明のオイルミストセパレータでは、フィルタの下流側の底部にフィルタから染み出すオイルを集めてシリンダヘッド側へ誘導するガイド部材が設けられている。このため、フィルタから染み出すオイルはガイド部材により集められてシリンダヘッド側へ誘導され、ブローバイガスの影響を受け難くなることから再飛散が抑えられる。
【0012】
従って、本発明のオイルミストセパレータによれば、フィルタで捕捉されたオイルの再飛散を抑制し、オイルミストの捕捉効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態におけるオイルミストセパレータを示す概略断面図。
【図2】(a)はオイルミストセパレータを示す横断面図、(b)は(a)の2b−2b線における断面図、(c)はフィルタ及びガイド部材を示す断面図。
【図3】ガイド部材の別例を示す断面図。
【図4】ガイド部材のさらに別例を示す断面図。
【図5】フィルタが鉛直方向に配置されている場合のガイド部材を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した実施形態を図1及び図2に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、自動車用エンジンのシリンダヘッドにはシリンダヘッドカバー11が装着され、該シリンダヘッドカバー11の内側にはバッフルプレート12が支持されている。シリンダヘッドカバー11の頂壁13とバッフルプレート12との間に架設された上流側区画壁14と下流側区画壁15とが対向するように配置され、それらの上流側区画壁14と下流側区画壁15との間にオイルミスト分離室16が形成されている。オイルミスト分離室16内には、フィルタ17がその両端部の支持部18において上流側区画壁14と下流側区画壁15に支持されることにより、フィルタ17が水平に配置されている。このフィルタ17は、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)等のポリエステル樹脂で形成された不織布等で構成されている。
【0015】
図2(a),(b)に示すように、フィルタ17は断面ほぼ台形状に形成された一対のフィルタ部17a,17bを備えている。このフィルタ部17a,17bは、それぞれブローバイガス中のオイルミストを捕捉するようになっている。
【0016】
図1に示すように、前記上流側区画壁14、シリンダヘッドカバー11及びバッフルプレート12で囲まれる空間が上流側空間部19となり、下流側区画壁15、シリンダヘッドカバー11及びバッフルプレート12で囲まれる空間が下流側空間部20となっている。バッフルプレート12には、上流側空間部19に連通する連通孔21が透設され、クランク室内のブローバイガスが上流側空間部19に導かれるようになっている。上流側区画壁14の上部にはブローバイガスの流入孔22が開口されるとともに、下流側区画壁15の下部にはブローバイガスの流出孔23が開口されている。そして、上流側空間部19内のブローバイガスが流入孔22からオイルミスト分離室16に流入され、フィルタ17でオイルミストが捕捉された後、流出孔23から下流側空間部20に流入されるようになっている。
【0017】
オイルミスト分離室16の下流側におけるバッフルプレート12には、オイルの回収孔24が開口されている。シリンダヘッドカバー11には下流側空間部20に連通するガス供給管25が貫通支持され、下流側空間部20内のブローバイガスがガス供給管25の供給孔26からエンジンの吸気系へ送られるようになっている。
【0018】
前記フィルタ17の下流側の底部には、フィルタ17から染み出すオイル27をバッフルプレート12の回収孔24へ誘導するガイド部材28が一体形成されている。このガイド部材28はフィルタ17の不織布を圧縮して固形化することにより構成され、樋形状に形成されている。図2(b),(c)に示すように、ガイド部材28はその中央部に図2(c)の左右方向に延び、バッフルプレート12の回収孔24側ほど低くなる断面V字状のガイド溝29を有し、ガイド溝29の下流側の端部にはオイル27が落下する開口30が形成されている。従って、図1に示すように、そのガイド溝29を介してフィルタ17から染み出したオイル27を回収孔24へ導くようになっている。
【0019】
図2(a)の破線に示すように、ガイド部材28はフィルタ17のブローバイガス流方向の下流側半部に配置されるとともに、上流側から下流側に向けて次第に幅広になるテーパ状に形成されている。オイルミストセパレータ10は、上記のシリンダヘッドカバー11、バッフルプレート12とその回収孔24、フィルタ17、ガイド部材28等によって構成されている。
【0020】
前記のように構成されたオイルミストセパレータ10の作用について説明する。
図1に示すように、ブローバイガス中のオイルミストを分離する場合、クランク室内のブローバイガスは連通孔21から上流側空間部19に入り、上流側区画壁14の流入孔22からオイルミスト分離室16に流入する。オイルミスト分離室16内では、ブローバイガスは図中の矢印に示すようにフィルタ17内を流れる。
【0021】
このとき、ブローバイガス中のオイルミストはフィルタ17の不織布内で捕捉されて一部はフィルタ17のガイド部材28のない部分からバッフルプレート12上に落下し、残りはガイド部材28に到る。この場合、粒子径の大きなオイルミストは落下しやすいためフィルタ17の上流側で捕捉され、粒子径の小さなオイルミストはフィルタ17の下流側で捕捉される。バッフルプレート12に落下したオイル27はバッフルプレート12上を流れて回収孔24からシリンダヘッド側に到る。
【0022】
ガイド部材28では、オイル27がガイド溝29に集められ、開口30からバッフルプレート12の回収孔24に向けて落下する。オイルミストが分離された後のブローバイガスは下流側区画壁15の流出孔23を通って下流側空間部20に入り、ガス供給管25の供給孔26から放出され、エンジンの吸気系に送られる。
【0023】
以上詳述した実施形態のオイルミストセパレータ10により発揮される効果について以下にまとめて説明する。
(1) 本実施形態のオイルミストセパレータ10では、フィルタ17の下流側に、フィルタ17から染み出すオイル27を集めてバッフルプレート12の回収孔24へ誘導するガイド部材28が設けられている。このとき、ブローバイガスはガイド部材28内を通ることはないため、フィルタ17から染み出すオイル27はガイド部材28に案内されてバッフルプレート12の回収孔24へ誘導されるとき、再飛散し難くなる。その結果、オイル27がバッフルプレート12の回収孔24へ落ちてクランク室へ回収される。
【0024】
従って、本実施形態のオイルミストセパレータ10によれば、フィルタ17で捕捉されたオイル27を再飛散させることなくクランク室へ戻すことができ、オイルミストの捕捉効率を著しく向上させることができる。
【0025】
(2) 前記ガイド部材28はバッフルプレート12の回収孔24側ほど低くなるガイド溝29を有している。このため、フィルタ17から染み出したオイル27はバッフルプレート12の回収孔24側へ速やかに流れ、円滑に回収することができる。
【0026】
(3) 前記ガイド部材28は不織布が圧縮されて硬質に形成されていることから、フィルタ17を機械的に補強することができる。
(4) 前記ガイド部材28はブローバイガスの下流側ほど幅広のテーパ状に形成されていることから、フィルタ17で捕捉されたオイル27をガイド部材28で十分に集めることができ、捕捉効率を高めることができる。
【0027】
なお、前記実施形態を次のように変更して実施することも可能である。
・ 図3に示すように、前記ガイド部材28の上面をフィルタ17の下面から離間させ、ガイド溝29側ほど低くなる傾斜面31を設けることができる。この場合、フィルタ17から染み出したオイル27を傾斜面31からガイド溝29へ容易に導くことができる。
【0028】
・ 図4に示すように、ガイド部材28をフィルタ17とは別体の硬質材料から構成し、そのガイド部材28をフィルタ17の下面に接着することができる。この場合、ガイド部材28の表面が平滑であることから、オイル27を円滑に導くことができる。
【0029】
・ 図5に示すように、フィルタ17が鉛直方向に配置され、ブローバイガスが図中右から左へ流れるオイルミストセパレータ10において、ガイド部材28をフィルタ17の下流側に斜めに配置することもできる。この場合、フィルタ17から染み出したオイル27はガイド部材28を伝って流れ落ち、バッフルプレート12の回収孔24へと誘導することができる。
【0030】
・ 前記ガイド部材28の最下端部をバッフルプレート12の回収孔24内まで延びるように形成することも可能である。
・ 前記ガイド部材28のガイド溝29を、バッフルプレート12の回収孔24側が低くなるように円弧状等の滑らかな曲面に形成することもできる。
【符号の説明】
【0031】
10…オイルミストセパレータ、11…シリンダヘッドカバー、16…オイルミスト分離室、17…フィルタ、26…供給孔、27…オイル、28…ガイド部材、29…ガイド溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのシリンダヘッドカバー内にはオイルミスト分離室が形成され、該オイルミスト分離室内にはフィルタが支持され、オイルミスト分離室内に導入されたブローバイガス中のオイルミストがフィルタで捕捉され、捕捉されたオイルはシリンダヘッド側へ戻されるとともに、オイルミストが除去されたブローバイガスがシリンダヘッドカバーの供給孔からエンジンの吸気系に供給されるように構成されたオイルミストセパレータであって、
前記フィルタの下流側の底部には、フィルタから染み出すオイルを集めてシリンダヘッド側へ誘導するガイド部材を設けたことを特徴とするオイルミストセパレータ。
【請求項2】
前記ガイド部材はフィルタと一体形成されていることを特徴とする請求項1に記載のオイルミストセパレータ。
【請求項3】
前記ガイド部材はフィルタと別体の硬質樹脂をフィルタに接着して構成されていることを特徴とする請求項1に記載のオイルミストセパレータ。
【請求項4】
前記ガイド部材はブローバイガスの下流側ほど低くなるガイド溝を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のオイルミストセパレータ。
【請求項5】
前記ガイド部材はブローバイガスの下流側ほど幅広に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のオイルミストセパレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−252462(P2011−252462A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128018(P2010−128018)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】