説明

オキアミ油加工方法

本発明は,オキアミから高濃度のオメガ−3脂肪酸の組成物を製造する方法に関する。本発明はさらに,高濃度のオメガ−3脂肪酸を含む組成物,および鎖長C14およびC16の脂肪酸を多量に含むオキアミからの脂質画分に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,オキアミから高濃度のオメガ−3脂肪酸の組成物を製造する方法に関する。さらに,本発明は,鎖長C14およびC16を有する脂肪酸を大量に含むオキアミからの脂質画分に関する。
【背景技術】
【0002】
水産物リン脂質は,医薬品,健康食品およびヒトの栄養摂取において,ならびに魚の餌,およびタラ,オヒョウおよびターボット等の海洋生物の稚魚および小魚の生存率を上昇させる手段において有用である。
【0003】
海洋生物からのリン脂質はオメガ−3脂肪酸を含む。水産物のリン脂質に結合したオメガ−3脂肪酸は,特に有用な特性を有していると想定される。
【0004】
魚の白子および卵等の産物は,水産物リン脂質の伝統的な原料である。しかし,これらの原料は,入手できる量が限られており,原料の価格が高い。
【0005】
オキアミは,小さな,エビに似た動物であり,比較的高濃度のリン脂質を含む。Euphasiidsのグループには,80種を超える種があり,ナンキョクオキアミもその1つである。現在のところ商業的用途として最も可能性が高いものは,ナンキョクオキアミEuphausia superbaである。E.superbaは,長さ2−6cmである。別のナンキョクオキアミ種はE.crystallorphiasである。Meganyctiphanes norvegica,Thysanoessa inermisおよびT.raschiiは,北方オキアミの例である。
【0006】
新鮮なオキアミは約10%までの脂質を含み,Euphausia superbaではこのうち約50%がリン脂質である。オキアミからのリン脂質は非常に高いレベルのオメガ−3脂肪酸を含み,このうちエイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)の含有率は40%を超える。ナンキョクオキアミの2つの主な種の脂質のおおよその組成を表1に示す。
【0007】
【表1】

【0008】
さらに,ナンキョクオキアミは伝統的な魚油より環境汚染物質のレベルが低い。
【0009】
市販のオキアミ油の典型的な組成は次のとおりである。
【表2】

【0010】
市販製品Superba(商標)オキアミ油のサンプル(Aker Biomarine ASA,Norway)を分析したところ,以下の組成を有していた。
【表3】

【0011】
オキアミは酵素を用いる消化系を有しており,これには,約0℃で非常に活性が高いリパーゼが含まれる。リパーゼはオキアミが死んだ後でも活性であり,オキアミ脂質の一部を加水分解する。このことによる望ましくない効果は,オキアミ油が通常は数パーセントの遊離脂肪酸を含むことである。オキアミを加工する前に小さな断片に切断しなければならない場合には,当業者はこれにより加水分解の程度が高くなることをただちに理解するであろう。すなわち,新鮮なオキアミ全体,またはオキアミの身体部分の全体を利用することができるプロセスを見いだすことが望まれている。そのようなプロセスは,改良された品質をもち,脂質の加水分解の程度が低い製品を与えるであろうからである。この改良された品質は,すべての種類のオキアミ脂質,例えば,リン脂質,トリグリセリドおよびアスタキサンチンエステルに対して影響を及ぼすであろう。
【0012】
オキアミ脂質はその大部分がオキアミの頭部に存在する。したがって,新鮮なオキアミを利用することができるプロセスは,頭部を除去したオキアミから副生成物を迅速に加工して,漁船の船上で製造することができる製品を得るのに非常に適している。
【0013】
Beaudionらの米国特許6,800,299では,アセトンおよびエタノール等の有機溶媒を順番に用いて低温で抽出することにより,オキアミから総脂質画分を抽出する方法が開示されている。このプロセスは大量の有機溶媒を用いる抽出を必要とし,これはあまり好ましくない。
【0014】
K.Yamaguchiら(J Agric.Food Chem.1986 34,904−907)は,凍結乾燥ナンキョクオキアミを超臨界流体抽出の最も一般的な溶媒である二酸化炭素を用いて超臨界流体抽出すると,主として非極性脂質(ほとんどがトリグリセリド)から構成され,リン脂質を含まない生成物が得られることを示した。Yamaguchiらは,オキアミミール中の油が酸化または重合により劣化しており,超臨界COではほとんど抽出できない程度であったことを報告している。
【0015】
Y.TanakaおよびT.Ohkubo(J.Oleo.Sci.(2003),52,295−301)は,イクラからの脂質の抽出についての研究に関連して,Yamaguciらの研究を引用している。より新しい発表において(Y.Tanaka et al.(2004),J.Oleo.ScL,53,417−424),同じ著者はリン脂質を抽出するためにエタノールとCOとの混合物を用いることによりこの問題を解決しようとしている。COを5%エタノールとともに用いると,凍結乾燥したサケ卵からリン脂質を除去することができなかったが,10%エタノールを加えることにより30%のリン脂質が除去され,30%もの量のエタノールを加えることにより80%を超えるリン脂質が除去された。凍結乾燥はコストがかかりエネルギー消費の多いプロセスであり,商業的なオキアミ漁業により利用可能となるであろう非常に大量の原料の処理には適していない。
【0016】
Tanakaらは,抽出の温度を変化させることによりプロセスを最適化することを試みており,低温が最良の結果を与えることを見いだした。COの臨界温度よりわずかに高い33℃が最良の結果を与える温度として選択された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
これらの知見とは異なり,我々は,驚くべきことに,大量の凍結乾燥等の複雑でコストのかかる前処理を必要とせずに,新鮮なオキアミから実質的に総脂質画分を抽出するプロセスを見いだした。脂質画分はトリグリセリド,アスタキサンチンおよびリン脂質を含んでいた。原料を加工前に乾燥または脱脂する必要はなかった。Tanakaらとは異なり,水産物原料の短時間加熱は抽出の収率にプラスの効果を与えることが見いだされた。また,オキアミの中程度の温度までの短時間の加熱,またはモレキュラーシーブ等の固体乾燥剤との接触などの前処理により,エタノール洗浄のみで新鮮なオキアミからのリン脂質の効率的な除去に十分であることが示された。これらの知見は,国際出願PCT/NO2007/000402(参照として本明細書中に引用する)に開示される発明の基礎となっている。
【0018】
今回,驚くべきことに,PCT/NO2007/000402にしたがうプロセスを実施する前に,オキアミ原料をマイクロ波で前処理しうることが見いだされた。マイクロ波処理は,凍結オキアミに容易に適合させることができる。凍結オキアミを適切なエネルギーのマイクロ波で処理し,融解させるかまたは中程度の温度(10−30℃)まで加熱することは,エタノール洗浄のみでオキアミからリン脂質を除去するのに十分であるようにするのに適している。下記の実施例に示されるように,オキアミ材料から,マイクロ波処理によって,マイクロ波を用いずに加熱するより多くのリン脂質を除去することができる。
【0019】
超臨界圧下で液体に暴露すると,酸化が起こることが防止され,二酸化炭素/エタノールの組み合わせは,オキアミ脂質の酵素による加水分解を不活性化すると予測される。本発明にしたがう方法は,原料の取り扱いの必要性が最少であり,新鮮なオキアミに対して用いるのに,例えば,漁船の船上で行うのに非常に適しているため,本発明にしたがう製品に含まれる,加水分解された,および/または酸化された脂質は,慣用の方法により製造される脂質の場合より実質的に少ないと予測される。このことはまた,オキアミ脂質抗酸化剤の劣化が慣用の加工法より少ないことが予測されることを意味する。新鮮なオキアミを短時間加熱するという追加の前処理は,脂質の酵素的分解を不活性化させ,したがって,製品中の遊離脂肪酸のレベルを非常に低くすることを確実にする。
【0020】
国際出願PCT/NO2007/000402は,新鮮なオキアミから実質的に総脂質画分を抽出する方法を提供しており,この方法は次の工程を含む:a)オキアミ原料の含水量を低下させ;そしてb)脂質画分を単離する。
【0021】
上述の方法は,工程a)からの含水量が低下したオキアミ材料をエタノール,メタノール,プロパノールまたはイソプロパノールを含むCOで超臨界圧で抽出する追加の工程a−1)を任意に含む。この工程a−1)は,工程a)の後に直接実施する。
【0022】
1つの態様においては,新鮮なオキアミから実質的に総脂質画分を抽出する方法が提供され,この方法は以下の工程を含む:a)オキアミ原料の含水量を低下させ;a−1)工程a)からの含水量が低下したオキアミ材料をエタノールを含むCOで抽出し,ここで,抽出は超臨界圧で実施され;そしてb)エタノールから脂質画分を単離する。
【0023】
好ましい態様においては,工程a)は,オキアミ原料を重量比1(オキアミ):0.3(エタノール)から1:5,より好ましくは1:0.5から1:1のエタノール,メタノール,プロパノールおよび/またはイソプロパノールで洗浄することを含む。洗浄は,すべてのエタノールを1回の操作で用いて行ってもよく,合計量のエタノールをいくつかの連続した工程に分割して行ってもよい。
【0024】
好ましくは,オキアミ原料を洗浄する前に,60−100℃に,より好ましくは70−100℃に,最も好ましくは80−95℃に加熱する。さらに,オキアミ原料は,洗浄する前に,好ましくは約1から40分間,より好ましくは約1から15分間,最も好ましくは約1から5分間加熱する。
【0025】
本発明の別の好ましい態様においては,新鮮なまたは凍結したオキアミを洗浄する前にマイクロ波で処理する。
【0026】
洗浄した後,アルコールはオキアミ脂質を含み,これはオキアミリン脂質の大部分を含む。
【0027】
別の態様においては,工程a)は,水を除去するためにオキアミ原料をモレキュラーシーブまたは他の形の膜,例えば水吸収膜または水透過性膜と接触させることを含む。
【0028】
好ましくは,工程a−1)におけるエタノール,メタノール,プロパノールおよび/またはイソプロパノールの量は,5−20重量%,より好ましくは10−15重量%である。
【0029】
オキアミの総脂質を含む生成物を製造することに加えて,リン脂質を他の脂質から分離することができる。本発明にしたがって超臨界圧での抽出により得られた総脂質を異なる種類の脂質に分離するためには,該総脂質を純粋な二酸化炭素で抽出することにより,オメガ−3の豊富なリン脂質から非極性脂質を除去すればよい。総脂質を5%未満のエタノールまたはメタノールを含む二酸化炭素で抽出してもよい。
【0030】
リン脂質は有益なオメガ−3脂肪酸を他のタイプの脂質よりはるかに豊富に含むため,高濃度のオメガ−3脂肪酸を製造することができる。市販の魚油は11−33%の総オメガ−3脂肪酸を含むが(Hjaltason,B and Haraldsson,GG (2006) Fish oils and lipids from marine sources,In:Modifying Lipids for Use in Food(FD Gunstone,ed),Woodhead Publishing Ltd,Cambridge,pp.56−79),オキアミのリン脂質ははるかに高いレベルで含む (Ellingsen,TE(1982) Biokjemiske studier over antarktisk krill,PhD thesis,Norges tekniske hoyskole,Trondheim. English summary in Publication no.52 of the Norwegian Antarctic Research Expeditions(1976/77 and 1978/79)),表1も参照のこと。
【0031】
オメガ−3の豊富なリン脂質は,そのまま用いることができ,オメガ−3含有リン脂質に起因する種々のポジティブの生物学的効果を与える。あるいは,エステル(典型的にはエチルエステル)または遊離脂肪酸,またはオメガ−3脂肪酸をさらに濃縮するのに適した他の誘導体を得るために,リン脂質をエステル交換または加水分解することができる。例として,オキアミリン脂質のエチルエステルは,ヨーロッパ薬局方モノグラフ1250(オメガ−3−酸エチルエステル90),2062(オメガ−3−酸エチルエステル60)および1352(オメガ−3−酸トリグリセリド)に適合する濃縮物を製造するための中間体生成物として有益である。同時に,残留脂質(アスタキサンチン,抗酸化剤,トリグリセリド,ワックスエステル)は,そのままで水産養殖の餌等の種々の用途に用いることができ,あるいは脂質を種類別にさらに分離してもよい。
【0032】
高濃度のオメガ−3脂肪酸を含む組成物は,医薬品として,例えば,高トリグリセリド血症,脂質異常症,高コレステロール血症,心不全,動脈細動,冠動脈性心疾患(CHD),血管疾患,アテローム硬化性疾患および関連する病気の治療,および心臓血管および血管の事象の予防または軽減において有用である。
【0033】
そのような組成物はK85EEまたはAGP(Pronova Bio Pharma ASA,Norway)であり,これはOmacor(登録商標),Lovaza(商標)およびSeacor(登録商標)等の医薬製品における脂質組成物である。この点に関して,1つの態様においては,Breivikらの米国特許5,656,667およびこれに開示される可能な脂肪酸組成が参照される。
【0034】
別の態様においては,医薬用オメガ−3脂肪酸エチルエステル脂質組成物は下記の特徴を有する。
【表4】

【0035】
通常は,非常に高濃度のオメガ−3脂肪酸を含むK85EEおよび他の組成物は,複数の手法の組み合わせにより製造しなければならず,これらの手法のあるものは,鎖長にしたがって作用し(短行程蒸留,または分子蒸留とも称される),別のものは不飽和の程度にしたがって作用する(尿素分画)。
【0036】
短行程蒸留および分子蒸留のプロセスは同一のプロセスとみなすことができ,主な問題点は,熱不安定性ポリ不飽和脂肪酸の分解を防ぐのに十分低い温度を保つためには,真空度を高くしなければならないことである。本明細書において用いる場合,"薄膜蒸留"および"流下薄膜蒸留"との用語は,"短行程蒸留"との用語に含まれる。
【0037】
今般,非常に驚くべきことに,オキアミ脂質を用いて,不飽和の程度にしたがって作用する分離技術(尿素分画)を用いることなく,またはそのような技術をわずかだけ用いることにより,K85EE等の組成物を製造しうることが見いだされた。K85EEの製造に必要な尿素の量を著しく減少させることにより,収率は実質的に増加し,製造コストは実質的に減少する。
【0038】
発明の概要
本発明の主たる目的は,不飽和の程度にしたがって作用する分離技術(尿素分画)を用いることなく,あるいはそのような技術を少しだけ用いることにより,高濃度のオメガ−3脂肪酸を含む組成物を製造する方法を提供することである。
【0039】
この目的および他の目的は,特許請求の範囲に定義される方法および組成物により達成される。
【発明を実施するための形態】
【0040】
発明の詳細な説明
本発明にしたがえば,高濃度のオメガ−3脂肪酸を含む組成物を製造する方法が提供され,この方法は,上述の国際出願PCT/NO2007/000402にしたがって得られたオキアミ脂質画分を短行程蒸留,または超臨界流体抽出,クロマトグラフィー,またはこれらの組み合わせの1またはそれ以上の工程に供する工程を含む。
【0041】
本発明の好ましい態様においては,新鮮なまたは凍結したオキアミを洗浄する前にマイクロ波で処理する。
【0042】
本発明の別の好ましい態様においては,短行程蒸留は1工程または2工程短行程蒸留であり,好ましくは2工程短行程蒸留である。
【0043】
本発明のある態様においては,国際出願PCT/IB2003/002827に開示される2工程短行程蒸留を実施する。
【0044】
任意に,上述の方法は,温和な尿素分画の追加の工程を含み,および最終短行程蒸留を含んでいてもよい。
【0045】
温和な尿素分画とは,飽和およびモノ不飽和脂肪酸エステルを,尿素と複合体を形成させて,エタノール中の溶液から結晶化することにより,脂肪酸エステルの混合物から除去するプロセスを意味し,このプロセスでは,魚油の短行程蒸留により,オメガ−3エステル濃縮物を製造するのに必要な尿素の量が他の方法より少ない。下記の表5に示される脂肪酸組成を有するオメガ−3濃縮物を,好ましくは0.1−1.5,より好ましくは0.5−1.0の尿素/エチルエステル比率で尿素分画により加工することができる。
【0046】
本発明のさらに別の態様においては,超臨界流体抽出,クロマトグラフィー,またはこれらの組み合わせの1またはそれ以上の工程が実施される。任意に,該工程の前または後に温和な尿素分画を実施する。
【0047】
さらに,本発明により,上述の方法により得ることができる高濃度のオメガ−3脂肪酸の組成物が提供される。
【0048】
本発明のある観点においては,高濃度のオメガ−3脂肪酸の組成物は,少なくとも75重量%のエイコサペンタエン酸(EPA)および/またはドコサヘキサエン酸(DHA),より好ましくは80重量%のEPAおよびDHAを含む。
【0049】
本発明の別の観点においては,高濃度のオメガ−3脂肪酸の組成物は,EPAとDHAとの組み合わせを含む。
【0050】
本発明のさらに別の観点においては,高濃度のオメガ−3脂肪酸の組成物中のEPAおよび/またはDHAはエチルエステルとして存在する。
【0051】
本発明の組成物は,Lovaza(商標)orOmacor(登録商標)の製品ラベル(Label)で定義される医薬組成物であってもよい。
【0052】
本発明にしたがえば,組成物は,高濃度のオメガ−3脂肪酸および低濃度のオメガ−6脂肪酸を含んでいてもよい。オメガ−3/オメガ−6の比率は,好ましくは30より大きく,より好ましくは40より大きく,最も好ましくは50より大きい。
【0053】
本発明のある観点においては,組成物の脂肪酸C22:5n−6の濃度は0.8%未満である。
【0054】
さらに,本発明は,鎖長C14およびC16の脂肪酸を25重量%より多い量で含み;かつ,EPAおよび/またはDHAを30重量%より多い量で含む,オキアミからの脂質画分を提供する。好ましくは,脂質画分中のEPAおよび/またはDHAの量は35重量%より多く,より好ましくは40重量%より多い。
【0055】
本発明の別の好ましい態様においては,脂質画分は脂肪酸C22:5n−6を実質的に含まない。
【0056】
本発明の別の好ましい態様においては,脂質画分はオキアミ油サプリメント製品である。
【0057】
本発明の別の好ましい態様においては,高濃度のオメガ−3酸またはエステル製品を得るために,脂質画分を追加の工程において出発材料として用いる。
【0058】
本発明の別の観点においては,オメガ−3サプリメント製品または医薬組成物を得るために上述の脂質画分を出発材料として使用することが提供される。
【0059】
本発明の方法は,広範な種類の製造条件で実施することができ,そのいくつかを以下に例示する。
【0060】
以下,"新鮮な"オキアミとは,収穫後直ちに処理されたか,または収穫後,脂質の加水分解または酸化等の品質の低下を回避するのに十分な短時間の間に処理されたオキアミ,あるいは収穫後直ちに凍結されたオキアミと定義される。
【0061】
新鮮なオキアミは,全オキアミでもよく,または新鮮なオキアミからの副生成物(すなわち皮むき後)であってもよい。新鮮なオキアミはまた,収穫後短時間のうちに凍結されたオキアミまたはオキアミからの副生成物であってもよい。
【実施例】
【0062】
表5は,国際出願PCT/NO2007/000402の方法にしたがって,および本発明にしたがって製造されたエタノール抽出物は,主としてオメガ−3脂肪酸が非常に豊富なリン脂質を含むことを示す。
【0063】
サンプル番号EO−014(前加熱なし)では,サンプル番号EO−013(前加熱あり)よりこれらの酸がわずかに多い。しかし,後者は収率がより高いため十分である。
【0064】
サンプル番号132−1は,凍結オキアミをマイクロ波で18℃の温度で溶解するまで処理したものである。さらにマイクロ波で82℃に加熱したサンプルは同様の結果を示した。このマイクロ波処理により,エタノール抽出物中で5%の収率が得られることがわかった。エタノール洗浄済みオキアミを温和にプレスすることにより,追加の液体が得られた。エタノールおよび水を除去した後,出発オキアミ重量と比較して1.3%の乾燥抽出物が得られた(サンプル132−1)。この画分はEPAおよびDHAが非常に少ないことは興味深く,これは,この画分にはリン脂質が少なくトリグリセリドが多いことと一致する。当業者には,これらの結果から,非常に注意深くエタノールを除去することにより,オキアミ残留物に対する物理学的ストレスが最小限になり,サンプル132−1よりさらにオメガ−3脂肪酸の多い第1の抽出物を得ることができることが理解されるであろう。また,当業者には,簡単なエタノール抽出による分離によって,脂肪酸組成が非常に異なる,すなわち,一方はオメガ−3酸が豊富であり,一方はオメガ−3酸が低い2つの抽出物が得られることは,新鮮なまたは凍結したオキアミに基づく場合にのみ得られる驚くべき効果であることが理解されるであろう。オキアミミールに基づく方法は,この例に示されるような簡単なプレス法に基づいては,脂肪酸含有量の相違の基礎を形成しないであろう。当業者には,第2の抽出物は残留オキアミ材料から多くの方法,例えば,プレスまたは遠心分離によりエタノールを除去することにより得られることが理解される。さらに,当業者には,上述の第2の抽出物の製造にも,国際出願PCT/NO2007/000402に開示される前処理を適用しうることが理解される。
【0065】
当業者は,上述のようにして第2の抽出物を得る場合,二酸化炭素で,または国際出願PCT/NO2007/000402に開示されるように二酸化炭素と共溶媒とで抽出することにより,残留脂質を除去するのに必要な溶媒がより少ないことを理解するであろう。これは,上述のように2つのエタノール抽出物を作成することから得られる別の利点である。
【0066】
【表5】

【0067】
サンプル番号EO−013は47.7%(GC面積)のオメガ−3脂肪酸を含む。サンプル番号132−1は43.9%(GC面積)のオメガ−3脂肪酸を含む。慣用の方法を用いることにより,脂肪酸をエチル化することができ,当業者は極性成分および無機成分を除去した後,そして必要ならば短行程蒸留または同様に作用する技術により精製した後に,得られるエチルエステル生成物は50%に近いオメガ−3脂肪酸を含むことがわかるであろう。
【0068】
表5からの驚くべき知見は,オキアミ脂質がポリ飽和脂肪酸C22:5n−6を実質的に含まないことである。
【0069】
表5からの別の驚くべき知見は,C14およびC16脂肪酸の濃度が高いことである(サンプル番号EO−013では合計32.8%,サンプル番号132−1では合計35.7%)。このことにより,エチルエステルは驚くべきことに鎖長にしたがって分離する分離技術による処理に適している。そのような分離技術の一例は,短行程蒸留である。C20−C22脂肪酸と比較して約96%のC14酸,約90%のC16酸,および約50%のC18酸を除去する技術を用いることにより,以下の相対組成を有する生成物が得られる。
【0070】
【表6】

【0071】
オキアミ油は脂肪酸C22:5n−6を含まないようであることは興味深い。
【0072】
当業者には,例えば既知の方法にしたがう2工程短行程蒸留によりこの画分をさらに精製して,C22脂肪酸のほとんどを生成物中に残しながら,C20未満の鎖長の脂肪酸のほとんど,ならびにC20脂肪酸の一部を除去しうることがわかる。当業者には,そのような方法から,K85EEに対応する組成物につながることが理解されるであろう。
【0073】
そのような組成物の例は,下記の表7に示されるように,C22脂肪酸と比較して約90%のC14,約80%のC16,約55%のC18,約25%のC20を除去することにより得られる。当業者は,分離方法および所望の収率によって,さらに良い分離を得ることができることを理解するであろう。
【0074】
【表7】

【0075】
エタノール抽出物中で得られる生成物は,国際出願PCT/NO2007/000402に開示される方法と同様にして,超臨界流体技術を用いて脱脂することができる。当業者には,これはサンプル番号EO−013およびEO−014よりさらにオメガ−3脂肪酸が高い出発材料,例えば,55%程度またはそれ以上のオメガ−3脂肪酸を含有するサンプルにつながることが理解されるであろう。そのような生成物は,さらに簡単な様式で,かつ上述したものより高い収率でK85EE等の組成物を製造するために利用することができる。
【0076】
下記に,オキアミ脂質(表7より)に基づく組成を典型期なK85EE組成と比較したものを示す。
【0077】
【表8】

【0078】
表8からの驚くべき知見は,オキアミ脂質が実質的にK85EE組成物.より少ない量のポリ不飽和脂肪酸C18:4n−3,C22:5n−3およびC22:5n−6を含むことである。
【0079】
飽和およびモノ不飽和脂肪酸エチルエステルを除去するための温和な尿素分画,および続く最終短行程蒸留の後,表6および7/8の脂肪酸組成物を濃縮して,表9に示される組成物とすることができる。
【0080】
【表9】

【0081】
しかし,オキアミ油からの尿素分画生成物の総オメガ−3含量は,K85EEの場合より著しく高いようである。この相違の主な理由は,驚くべきことにオキアミ油がC22:5n−6を有していないようにみえることである。このことは,オキアミ油リン脂質から得られる組成のオメガ−3/オメガ−6の比率が,魚油に基づく濃縮物から得られるものより著しく高いことを意味する。すなわち,表8のオキアミ油に基づく2つの組成物においてオメガ−3/オメガ−6比率は約54から約58と高い。当業者はこの比率が魚油からの製品において得られるよりはるかに高いことをただちに認識するであろう。
【0082】
実際の組成は蒸留条件によって異なるであろう。条件は,様々なEPA/DHA比が得られるように変更することができる。ただし,最終製品中のEPA/DHA比率が出発オキアミ油における比率と大きく異なる場合,総収率の低下を犠牲にすることによってのみ得ることができる。しかしながら,高濃度のオメガ−3脂肪酸を含む組成物中で利用されない蒸留物は,オメガ−3脂肪酸を含む他の組成物の製造に有用でありうる。
【0083】
表9から明らかなように,表6および7/8の組成から製造することができる生成物は事実上同一であることができ,唯一の相違点は,表6にしたがう組成物を濃縮する場合には,表7/8にしたがう組成物を濃縮する場合よりいくぶん多い尿素が必要であることである。一方,表6にしたがう組成物から出発すると,表7/8にしたがう組成物から出発する場合より高い総収率を得ることができる。また,短行程蒸留または類似の技術を用いる最初の濃度工程を実施することなく,オキアミ油のリン脂質のエチルエステルの尿素分画から直接出発することも可能である。
【0084】
当業者には,尿素分画により形成される固形付加物中で有益な長鎖C20−C22オメガ−3脂肪酸の一部が失われることが理解されるであろう。これは高い尿素/エチルエステル比を用いた場合に特に顕著である。オキアミリン脂質のエステルから出発することにより,尿素の相対量を著しく低下させることができ,したがって,この濃度工程の間の長鎖オメガ−3脂肪酸の損失も低下させることができる。
【0085】
本発明は,示される態様および実施例に限定されるべきではない。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
高濃度のオメガ−3脂肪酸を含む組成物を製造する方法であって,
a)オキアミ生材料の含水量を低下させ;および
b)脂質画分を単離して新鮮なオキアミからの実質的に総脂質画分を取得し;そして
前記脂質画分を短行程蒸留に供し;または超臨界流体抽出,クロマトグラフィー,またはこれらの組み合わせの1またはそれ以上の工程に供する,
の各工程を含む方法。
【請求項2】
工程a)は,オキアミ原料を1:0.5から1:5の重量比のエタノール,メタノール,プロパノールまたはイソプロパノールで洗浄することを含み;および工程b)はアルコールから脂質画分を単離することを含む,請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程a)はオキアミ原料をエタノールで洗浄することを含み,および工程b)はエタノールから脂質画分を単離することを含む,請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
a−1)工程a)からの水分減少オキアミ材料を,エタノール,メタノール,プロパノールまたはイソプロパノールを含むCOで超臨界圧で抽出する追加の工程を含む,請求項1−3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
オキアミ原料を洗浄する前に60−100℃に加熱する,請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
オキアミ原料を洗浄する前に70−100℃に加熱する,請求項5記載の方法。
【請求項7】
オキアミ原料を洗浄する前に80−95℃に加熱する,請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
オキアミ原料を洗浄する前にマイクロ波を用いて前処理する,請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
2種類の抽出物,すなわち,第1に工程a)におけるオキアミの洗浄からの溶媒からオメガ−3脂肪酸の豊富な抽出物,および第2に工程b)における残留オキアミ材料からの残留溶媒の除去によりオメガ−3脂肪酸の少ない抽出物が得られる,請求項1−8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
工程b)におけるオキアミ材料からの残留溶媒の除去は,プレスまたは遠心分離によって行われる,請求項9記載の方法。
【請求項11】
短行程蒸留は1工程または2工程短行程蒸留である,請求項1−10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
得られた組成物を温和な尿素分画に供する追加の工程を含む,請求項1−11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
尿素/エチルエステルの比率は0.1−1.5である,請求項12記載の方法。
【請求項14】
尿素/エチルエステルの比率は0.5−1.0である,請求項13記載の方法。
【請求項15】
得られた組成物を最終短行程蒸留に供する追加の工程を含む,請求項12記載の方法。
【請求項16】
請求項1−15のいずれかに記載の方法により得ることができる高濃度のオメガ−3脂肪酸を含む組成物。
【請求項17】
脂質組成物は,少なくとも80重量%のエイコサペンタエン酸(EPA)および/またはドコサヘキサエン酸(DHA)を含む,請求項16記載の組成物。
【請求項18】
脂質組成物は,少なくとも90重量%のオメガ−3脂肪酸を含む,請求項16または17記載の組成物。
【請求項19】
エイコサペンタエン酸(EPA)対ドコサヘキサエン酸(DHA)の重量比は1:2から2:1である,請求項16−18のいずれかに記載の組成物。
【請求項20】
組成物は,EPAおよびDHAの組み合わせを含む,請求項16−19のいずれかに記載の組成物。
【請求項21】
EPAおよび/またはDHAは,酸またはエステルの形で,好ましくはエチルエステルとして存在する,請求項16−20のいずれかに記載の組成物。
【請求項22】
脂質組成物は,Lovaza(商標)またはOmacor(登録商標)の製品ラベルで定義される脂肪酸組成物と類似するものである,請求項16−21のいずれかに記載の組成物。
【請求項23】
主要活性成分は,Lovaza(商標)またはOmacor(登録商標)の製品ラベルで定義されるとおりである,請求項22記載の組成物。
【請求項24】
組成物は,高濃度のオメガ−3脂肪酸および低濃度のオメガ−6脂肪酸を含む,請求項16記載の組成物。
【請求項25】
オメガ−3/オメガ−6の比率は30より多い,請求項24記載の組成物。
【請求項26】
オメガ−3/オメガ−6の比率は40より多い,請求項25記載の組成物。
【請求項27】
オメガ−3/オメガ−6の比率は50より多い,請求項26記載の組成物。
【請求項28】
脂肪酸C22:5n−6の濃度は0.8%未満である,請求項16記載の組成物。
【請求項29】
鎖長C14およびC16の:脂肪酸を25重量%より多い量で含み;およびEPAおよび/またはDHAを30重量%より多い量で含む,オキアミからの脂質画分。
【請求項30】
EPAおよび/またはDHAの量は35重量%より多い,請求項29記載の脂質画分。
【請求項31】
EPAおよび/またはDHAの量は40重量%より多い,請求項29記載の脂質画分。
【請求項32】
脂肪酸C22:5n−6を実質的に含まない,請求項29記載の脂質画分。
【請求項33】
前記画分はオキアミ油サプリメント製品である,請求項29−32のいずれかに記載の脂質画分。
【請求項34】
前記画分は,高濃度オメガ−3酸またはエステル製品を製造するために,追加の工程において出発材料として用いられる,請求項29−32のいずれかに記載の脂質画分。
【請求項35】
オメガ−3サプリメント製品または医薬組成物を製造するための出発材料としての,請求項29−34のいずれかに記載の脂質画分の使用。
【請求項36】
請求項1−15のいずれかに記載の方法により得ることができる脂質画分。
【請求項37】
前記画分は医薬組成物である,請求項36記載の脂質画分。
【請求項38】
脂肪酸C22:5n−6を実質的に含まない,請求項36記載の脂質画分。



【公表番号】特表2011−522913(P2011−522913A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509430(P2011−509430)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【国際出願番号】PCT/NO2009/000184
【国際公開番号】WO2009/139641
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(509123471)プロノヴァ バイオファーマ ノルゲ アーエス (5)
【Fターム(参考)】