説明

オレフィン重合用の触媒成分

オレフィン:CH=CHR(式中、Rは、水素又は1〜12個の炭素原子を有する炭化水素基である)を重合するための触媒成分。特に、本発明は、Mg、Ti、ハロゲン、並びに、リン誘導体、ホウ素誘導体、及び芳香族複素環式窒素誘導体から選択される化合物を含む触媒成分に関する。かかる触媒成分は、エチレンのホモポリマー及びそれとα−オレフィンとのコポリマーを製造するのに特に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン:CH=CHR(式中、Rは、水素又は1〜12個の炭素原子を有する炭化水素基である)を重合するための触媒成分に関する。特に、本発明は、Mg、Ti、ハロゲン、並びに、リン誘導体、ホウ素誘導体、及び芳香族複素環式窒素誘導体から選択される化合物を含む触媒成分に関する。これらの触媒成分は、触媒に転化させると、エチレンのホモポリマー及びそれとα−オレフィンとのコポリマーを製造するのに特に好適である。したがって、本発明の他の対象は、かかるエチレンのホモポリマー及びコポリマーを製造するための、オレフィンを共重合するプロセスにおけるかかる触媒の使用である。
【背景技術】
【0002】
線状低密度ポリエチレン(LLDPE)は、ポリオレフィン分野において最も重要な製品の群の一つである。この群は、0.925〜0.88の範囲の密度を有する生成物を与えるような量のα−オレフィン誘導単位を含むエチレン/α−オレフィンコポリマーを含む。これらの特性のために、これらのコポリマーは、多くの分野、特に、例えばLLDPEをベースとする伸縮性フィルムを使用することが商業的に非常に重要な用途を構成する商品の被包及び包装の分野における用途が見出されている。LLDPEは、液相プロセス(溶液又はスラリー)を用いるか、或いはより経済的な気相プロセスによって商業的に製造されている。いずれのプロセスにも、一般的に、チタン化合物がハロゲン化マグネシウム上に担持されている固体触媒成分を通常はアルキルアルミニウム化合物である好適な活性化剤と反応させることによって形成されるチーグラー・ナッタMgCl担持触媒の幅広い使用が含まれる。
【0003】
LLDPEの製造に関する限りにおいては、かかる触媒は、高い収率と好適に組み合わさった良好なコモノマー分布を示すことが求められている。
ポリマー鎖中及びその間でコモノマー(α−オレフィン)が均一に分布していることが非常に重要である。実際、ポリマー鎖に沿ってランダムか又は交互に分布しているコモノマーを有し、同時に同等の平均コモノマー含量(狭い組成分布)を有するポリマーフラクションを有すると、高品質のエチレンコポリマーを達成することができる。後者のものは、通常、HDPEに対して十分により低い密度、並びに、コポリマーの幾つかの特性を悪化させるヘキサン又はキシレンなどの炭化水素溶媒中に可溶のポリマーフラクションの低い含量を同時に併せ持つ。
【0004】
上記の見地から、LLDPEの製造において用いる触媒が、上記に説明したようなコモノマーを均一に分布させる良好な能力を示すことが非常に重要であろう。上記記載の不均一チーグラー・ナッタ触媒は、一般に、この点に関して特に満足できるものではないので、所謂電子ドナー化合物を用いることによってこの特性を改良する努力が一般的に試みられている。
【0005】
USP−4,142,532においては、式:MgTiCl2mY・nE(式中、YはTiの価数を充足する1つの原子又は複数の原子の群であり、Eは電子ドナー化合物である)の金属コンプレックスによって得られるオレフィン重合用の触媒成分が開示されている。これらのコンプレックスの特定の例は、例えば、TiClと、MgCl、及び酢酸エチル、エタノール、又はテトラヒドロフランのような電子ドナーとを反応させることによって得られるものである。かかる文献においては、これらの触媒成分は、オレフィンの共重合には用いられておらず、単独重合プロセスにおいてのみ用いられている。更に、報告されている数値からは、比活性(kg−PE/g−cat・気圧・時)は極めて低いことを理解することができる。
【0006】
EP−1058696においては、(a)粒子状無機酸化物担体に少なくとも1種類の有機マグネシウム化合物を含侵して第1の反応生成物を形成し;(b)第1の反応生成物をハロゲン化して、有機マグネシウム化合物をハロゲン化マグネシウムに転化して、それによって第2の反応生成物を形成し;(c)第2の反応生成物を、第4又は5族の遷移金属化合物、少なくとも1種類のアルキルジ−又はトリ−置換ピリジン電子ドナー、及び少なくとも1種類の第2又は13族の有機金属化合物で処理する;ことを含む、エチレンのホモ及びコポリマーを製造するための触媒成分が開示されている。かくして得られる触媒は、特に高くないエチレンホモポリマーの製造における低い活性を示し、このためポリマーの分子量分布が狭くなる。この分子量分布の狭小化によって、狭いMWDが溶融破壊を引き起こす可能性がある、高速押出及びブロー成形のような幾つかの用途には望ましくない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、エチレンホモポリマーの製造における分子量分布の大きな変動を示すことなく、エチレンコポリマーの製造における均一なコモノマー分布を与える能力、及び、高い重合活性の両方の能力を示す多用途の触媒成分の必要性が切実に感じられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここで本出願人は、Mg、Ti、ハロゲン、及び、(a)少なくとも1つの窒素原子が5員環構造の一部である芳香族複素環式窒素誘導体、(b)式:BRのホウ素誘導体、及び(c)式:PR又はPORのリン誘導体(上式中、Rは、独立して、ハロゲン、1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビル基、又は20個以下の炭素原子を有するヒドロカルビルオキシ基である)の少なくとも1つに属する少なくとも1種類の化合物を含む、上記の要求を満足することのできるオレフィン重合用の触媒成分を見出した。上記記載の化合物は、また、互いに、或いはアルコール、無水物等のような異なる電子ドナー化合物と混合して用いることもできる。
【0009】
(a)による好ましい芳香族複素環式窒素誘導体は、ピロール誘導体のような5員環のみを有する化合物、及びインドール誘導体のような他の環と縮合しているかかる5員環を有するものの両方を包含する。単環及び縮合環構造は、いずれも、好ましくはC〜C10アルキル、アルケニル、又はアリール基から選択される更なる置換基を有していてよい。(a)による好ましい芳香族複素環式窒素誘導体は、ピロール、1−メチルピロール、1−エチルピロール、インドール、1−メチルインドール、1−エチルインドール、ピラゾール、イミダゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンズトリアゾールである。
【0010】
好ましい式:BRのホウ素誘導体(b)は、Rが、塩素、又は20個以下の炭素原子を有するヒドロカルビルオキシ基、特に1〜10個の炭素原子を有するアルコキシ基から選択されるものである。これらの中で、好ましいホウ素誘導体は、BCl、B(OMe)、B(OEt)、B(Oi−Pr)、B(OBu)、及びB(Cである。
【0011】
好ましい式:PR又はPORのリン誘導体(c)は、Rが、塩素、10個以下の炭素原子を有するヒドロカルビルオキシ基、又は1〜10個の炭素原子を有するアルキル基から選択されるものである。Rが、塩素、又はC〜C10アルコキシ基である化合物、例えばPCl、POCl、P(OMe)、P(OEt)が特に好ましい。
【0012】
Mg/Tiのモル比は、好ましくは1〜50、好ましくは1〜20、より好ましくは4〜20の範囲である。
本発明の特定の態様においては、触媒成分は、(a)、(b)、及び/又は(c)の少なくとも1つに属する化合物に加えて、Ti化合物及び二ハロゲン化マグネシウムを含む。好ましいチタン化合物は、四ハロゲン化物、或いは式:TiX(OR4−n(式中、0≦n≦3であり、Xはハロゲン、好ましくは塩素であり、RはC〜C10炭化水素基である)の化合物である。四塩化チタンが好ましい化合物である。
【0013】
二ハロゲン化マグネシウムは、好ましくは、チーグラー・ナッタ触媒のための担体として特許文献から広く知られている活性形態のMgClである。特許USP−4,298,718及びUSP−4,495,338は、チーグラー・ナッタ触媒反応においてこれらの化合物を使用することを最初に記載したものである。これらの特許から、オレフィン重合用の触媒の成分において担体又は共担体として用いられる活性形態の二ハロゲン化マグネシウムは、非活性ハロゲン化物のスペクトルのASTMカード参照資料において見られる最も強い回折線が強度低下しているか又は広がっているX線スペクトルを示すことを特徴とすることが知られている。活性形態の好ましい二ハロゲン化マグネシウムのX線スペクトルにおいては、かかる最も強い線は、強度が低下し、その最大強度が最も強い線のものよりも低い角度に向かって移動しているハロによって置き換えられる。
【0014】
本発明の触媒成分は、幾つかの方法にしたがって製造することができる。これらの方法の一つによれば、無水状態の二塩化マグネシウム、並びに、好適な量の(a)、(b)又は(c)の少なくとも1つに属する化合物を、二塩化マグネシウムの活性化が起こる条件下で一緒に粉砕する。かくして得られる生成物を、好適量のTiClで1回以上処理することができる。この処理に続いて、塩化物イオンが消失するまで炭化水素溶媒で洗浄する。
【0015】
特定の態様によれば、固体触媒成分は、好適量の式:Ti(ORn−y(式中、nはチタンの価数であり、yは1〜nの数である)のチタン化合物、好ましくはTiClを、式:MgCl・pROH(式中、pは0.1〜6、好ましくは2〜4.5の数であり、Rは1〜18個の炭素原子を有する炭化水素基である)の付加体から誘導される塩化マグネシウムと、(a)、(b)及び/又は(c)の少なくとも1つに属する化合物の存在下で反応させることによって製造することができる。付加体は、好適には、付加体の溶融温度において撹拌条件下で操作して、付加体と非混和性の不活性炭化水素の存在下でアルコールと塩化マグネシウムとを混合することによって、球状形態で調製することができる。次に、エマルジョンを速やかに急冷し、それによって球状粒子の形態で付加体の固化を引き起こす。気相重合のために特に好適な本発明による触媒を製造するために特に好適な方法は、以下の工程を含む。
【0016】
(i)式:MgCl・mROH(式中、0.3≦m≦2.3であり、Rは、1〜12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、又はアリール基である)の化合物を、式:Ti(ORy−n(式中、nは0〜0.5の範囲であり、yはチタンの価数であり、Xはハロゲンであり、Rは、2〜8個の炭素原子を有するアルキル基、又はCOR基である)のチタン化合物と反応させ;(ii)化合物(a)又は(b)又は(c)或いはこれらの混合物を前段工程の生成物と接触させる。
【0017】
MgCl・mROHの付加体は、式:MgCl・pEtOH(式中、pは2以上、好ましくは2.5〜4.5の範囲である)の付加体の熱脱アルコール化によって調製することができる。球状形態のかかる付加体は、溶融付加体から、それらを液体炭化水素中に懸濁し、その後急速冷却によってそれらを固化することによって調製することができる。これらの球状付加体を製造するための代表的な方法は、例えば、USP−4,469,648、USP−4,399,054、及びWO−98/44009において報告されている。球状化のための他の使用可能な方法は、例えばUSP−5,100,849及び4,829,034に記載されている噴霧冷却である。上記に記載したように、かくして得られる付加体は、50〜150℃の範囲の温度において、アルコール含量が、二塩化マグネシウム1モルあたり2.5モルより低く、好ましくは1.7〜0.3モルの範囲の値に低下するまで、熱脱アルコール化にかける。
【0018】
脱アルコール化は、また、OH基と反応することのできる官能基を有する任意の化学薬品を用いることによって化学的に行うこともできる。脱アルコール化剤の特に好ましい群は、アルキルアルミニウム化合物の群である。例えば、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−n−ブチルアルミニウム、トリ−n−ヘキシルアルミニウム、トリ−n−オクチルアルミニウム、及びトリス(2,4,4−トリメチルペンチル)アルミニウムのようなトリアルキルアルミニウム化合物を用いることが特に好ましい。トリエチルアルミニウムを用いることが特に好ましい。また、トリアルキルアルミニウム化合物と、アルキルアルミニウムハロゲン化物、アルキルアルミニウム水素化物、又はアルキルアルミニウムセスキクロリド、例えばAlEtCl及びAlEtClとの混合物を用いることもできる。
【0019】
使用可能な脱アルコール化剤の他の群は、ハロゲン含有ケイ素化合物の群である。かかるケイ素化合物の具体例としては、式:SiX4−n(式中、X及びYは、ハロゲン原子、例えばCl及びBrを表し、nは0〜3の範囲の数である)を有するハロゲン化ケイ素が挙げられる。SiClを用いることが特に好ましい。
【0020】
工程(i)のTi化合物との反応は、例えば、付加体をTiCl(概して冷却)中に懸濁し、混合物を80〜130℃の範囲の温度に加熱し、この温度において0.5〜2時間保持することによって行うことができる。チタン化合物による処理は1回以上行うことができる。好ましくは2回繰り返す。また、これは、上記に記載したような電子ドナー化合物の存在下で行うこともできる。プロセスの終了時において、通常の方法(例えば、沈降及び液体の除去、濾過、並びに遠心分離)によって懸濁液から分離することによって固体を回収し、溶媒による洗浄にかけることができる。洗浄は、通常、不活性炭化水素液体を用いて行うが、ハロゲン化炭化水素のようなより極性の溶媒(例えばより高い誘電率を有する)を用いることも可能である。
【0021】
かくして得られる固体中間体は、また、それに特定の特性を付与するのに好適な特定の化合物による後処理にかけることもできる。一例として、固体中に含まれるチタン化合物の酸化状態を減少させるために、それを、還元性化合物、例えばAl−アルキル化合物による処理にかけることができる。
【0022】
中間体に対して行うことのできる処理の他の例は、予備重合工程である。予備重合は、任意のオレフィン:CH=CHR(式中、RはH又はC〜C10炭化水素基である)を用いて行うことができる。特に、エチレン又はプロピレン、或いは20モル%以下のα−オレフィンを含むこれらと1種類以上のα−オレフィンとの混合物を予備重合して、固体中間体1gあたり約0.1g〜約1000g、好ましくは固体中間体1gあたり約0.5〜約500gの量のポリマーを形成することが特に好ましい。予備重合工程は、液相又は気相中において、0〜80℃、好ましくは5〜70℃の温度で行うことができる。中間体1gあたり0.5〜20gの範囲の量のポリマーを生成するためにエチレン又はプロピレンを用いて中間体を予備重合することが特に好ましい。予備重合は、有機アルミニウム化合物のような好適な共触媒を用いて行うことができ、これは、また、以下に詳細に議論する1種類以上の外部ドナーと組み合わせて用いることもできる。
【0023】
上記に記載したように、工程(i)から得られる生成物は、次に、工程(ii)において、(a)又は(b)及び/又は(c)の少なくとも1つに属する化合物と接触させる。工程(ii)において用いるかかる1種類又は複数の化合物の量は、幅広く変化させることができる。一例として、これは、(i)から得られる生成物中のTi含量に対して0.5〜20、好ましくは1〜10のモル比で用いることができる。強く必要とされてはいないが、この接触は、通常は、液体炭化水素のような液体媒体中で行う。接触を行う温度は、試薬の性質に応じて変動させることができる。一般に、これは、−10℃〜150℃、好ましくは0℃〜120℃の範囲である。分解を引き起こす温度を避けること、或いは概して好適な範囲内に含まれていても任意の特定の試薬の劣化を避けなければならないことは、当業者の通常の知識の範囲内である。また、処理時間を、試薬の性質、温度、濃度等のような他の条件に応じて変動させることができる。一般的な指標として、この接触工程は、10分〜10時間、より頻繁には0.5〜5時間継続させることができる。所望の場合には、最終的なドナー含量を更に増加させるために、この工程を1回以上繰り返すことができる。この工程の終了時において、通常の方法(例えば、沈降及び液体の除去、濾過、並びに遠心分離)によって懸濁液を分離することによって固体を回収し、溶媒による洗浄にかけることができる。洗浄は、通常は不活性炭化水素液体を用いて行うが、ハロゲン化又は酸素化炭化水素のようなより極性の溶媒(例えばより高い誘電率を有する)を用いることも可能である。
【0024】
また、この場合においては、かくして得られる固体を、それに特定の特性を付与するのに好適な特定の化合物による後処理にかけることができる。一例としては、固体中に含まれるチタン化合物の酸化状態を低下させるために、それを、還元性化合物、例えばAl−アルキル化合物による処理にかけることができる。
【0025】
本発明による固体触媒成分は、公知の方法にしたがって有機アルミニウム化合物と反応させることによってオレフィンの重合用の触媒に転化させる。
特に、本発明の対象は、
(1)上記記載の固体触媒成分;
(2)アルミニウムアルキル化合物;及び場合によっては
(3)外部電子ドナー化合物;
の間の反応の生成物を含む、式:CH=CHR(式中、Rは、水素、又は1〜12個の炭素原子を有するヒドロカルビル基である)のオレフィンの重合用の触媒である。
【0026】
アルキル−Al化合物は、好ましくは、例えばトリメチルアルミニウム(TMA)、トリエチルアルミニウム(TEAL)、トリイソブチルアルミニウム(TIBA)、トリ−n−ブチルアルミニウム、トリ−n−ヘキシルアルミニウム、トリ−n−オクチルアルミニウムのようなトリアルキルアルミニウム化合物から選択することができる。また、アルキルアルミニウムハロゲン化物、特に、ジエチルアルミニウムクロリド(DEAC)、ジイソブチルアルミニウムクロリド、Al−セスキクロリド、及びジメチルアルミニウムクロリド(DMAC)のようなアルキルアルミニウムクロリドを用いることができる。また、トリアルキルアルミニウムとアルキルアルミニウムハロゲン化物との混合物を用いることもでき、幾つかの場合においては好ましい。これらの中で、TEALとDEACとの間の混合物が特に好ましい。TIBAを単独か又は混合物で用いることも好ましい。TMAを用いることも特に好ましい。
【0027】
外部電子ドナー化合物は、固体触媒成分において用いる化合物(a)、(b)又は(c)と同じであっても異なっていてもよい。好ましくは、それは、エーテル、エステル、アミン、ケトン、ニトリル、シラン、及び上記の混合物からなる群から選択される。特に、それは、有利には、C〜C20脂肪族エーテル、特に、好ましくは3〜5個の炭素原子を有する環式エーテル、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサンから選択することができる。
【0028】
更に、電子ドナー化合物は、また、有利には、式:RSi(OR(式中、a及びbは0〜2の整数であり、cは1〜3の整数であり、(a+b+c)の合計は4であり;R、R、及びRは、場合によってはヘテロ原子を含む、1〜18個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、又はアリール基である)のケイ素化合物から選択される。aが0であり、cが3であり、Rが場合によってはヘテロ原子を含む分岐鎖アルキル又はシクロアルキル基であり、Rがメチルであるケイ素化合物が特に好ましい。かかる好ましいケイ素化合物の例は、シクロヘキシルトリメトキシシラン、t−ブチルトリメトキシシラン、及びテキシルトリメトキシシランである。
【0029】
上記記載の成分(1)〜(3)は、重合条件下でそれらの活性を有効に引き出すことができる反応器中に別々に供給することができる。しかしながら、上記の成分を、場合によっては少量のオレフィンの存在下で、0.1〜120分の範囲、好ましくは1〜60分の範囲の時間予備接触させることが、特に有利な態様を構成する。予備接触は、液体希釈剤中、0〜90℃の範囲、好ましくは20〜70℃の範囲の温度において行うことができる。
【0030】
かくして形成される触媒系は、主重合プロセスにおいて直接用いることができ、或いは、前もって予備重合することができる。予備重合工程は、通常、主重合プロセスを気相中で行う場合に好ましい。予備重合は、式:CH=CHR(式中、Rは、H又はC〜C10炭化水素基である)の任意のオレフィンを用いて行うことができる。特に、エチレン、又は20モル%以下のα−オレフィンを含むエチレンと1種類以上のα−オレフィンとの混合物を予備重合して、固体成分1gあたり約0.1g〜固体触媒成分1gあたり約1000gの量のポリマーを形成することが特に好ましい。予備重合工程は、0〜80℃、好ましくは5〜70℃の温度において、液相又は気相中で行うことができる。予備重合工程は、連続重合プロセスの一部としてインラインで、或いは別にバッチプロセスで行うことができる。触媒成分1gあたり0.5〜20gの範囲の量のポリマーを生成するために、エチレンを用いて本発明の触媒をバッチ予備重合することが特に好ましい。
【0031】
特に、本発明の触媒成分は、エチレンホモポリマー(0.95g/cmよりも高い密度を有する高密度エチレンホモポリマー:HDPE)を、高い収率、高い嵩密度、及び、メルトフロー比(ASTM D−1238「F」(21.6kgの負荷)にしたがって190℃において測定したメルトインデックスと条件「E」(2.16kgの負荷)におけるそれとの間の比)によって示される中程度にブロードな分子量分布で与えることができる。80%より高いエチレンから誘導された単位のモル含量を有する、エチレンと3〜12個の炭素原子を有するα−オレフィンとの共重合(0.940g/cmより低い密度を有する低密度ポリエチレン−LLDPE−及び0.920g/cmより低く0.880g/cmまでの密度を有する極低密度ポリエチレン及び超低密度ポリエチレン−VLDPE及びULDPE−)において用いると、本発明の触媒は、ポリマー鎖内及びその間にコモノマーを均一に分布させることができる。以下の実施例において示すように、かかるコポリマーは、実際、一般に、コモノマーの導入度合い及び密度について、キシレン可溶フラクションの低い量を示すことを特徴とする。多くの場合、特に外部ドナーを用いる場合においては、コモノマーは、また、導入されたコモノマーの比較的少ない量についても密度を実質的に低下させることによって示されるように、鎖内及びその間に良好に分布される。
【0032】
限定しないで本発明を更に説明するために以下の実施例を与える。
【実施例】
【0033】
特徴付け:
特性は以下の方法にしたがって測定した。
メルトインデックス:ASTM D−1238、条件「E」(2.16kgの負荷)及び「F」(21.6kgの負荷)にしたがって190℃において測定した。
【0034】
キシレン中に可溶のフラクション:以下の方法にしたがって25℃におけるキシレン中での溶解度を測定した。冷却器及び還流凝縮器を取り付けた丸底フラスコ内に、約2.5gのポリマー及び250mLのo−キシレンを配置し、窒素下に保持した。得られた混合物を135℃に加熱し、撹拌下で約60分間保持した。撹拌を継続しながら最終溶液を25℃に冷却し、次に濾過した。次に、濾液を窒素流中140℃において蒸発させて一定の重量に到達させた。かかるキシレンに可溶のフラクションの含量は、元々の2.5gのパーセントとして表す。
【0035】
コモノマー含量:
赤外分光法によって1−ブテンを測定した。
1−ブテンよりも高級なα−オレフィンは、赤外分析を用いて測定した。
【0036】
有効密度:ASTM−D1505。
熱分析:示差走査熱量計DSC Perkin-Elmerを用いることによって熱量測定を行った。装置は、インジウム及びスズ標準試料を用いて較正した。メルトインデックス測定から得られた秤量した試料(5〜10mg)を、アルミニウム皿中に密封し、5℃において3分間恒温保持し、20℃/分で200℃に加熱し、全ての結晶が完全に溶融するのに十分な時間(5分間)、その温度に保持した。引き続き、20℃/分で−20℃に冷却した後、ピーク温度を結晶化温度(Tc)とみなした。0℃において5分間静置した後、試料を20℃/分の速度で200℃に加熱した。この2回目の加熱操作において、ピーク温度を溶融温度(Tm)とみなし、面積を国際標準溶融エンタルピー(ΔH)とみなした。
【0037】
Mg、Tiの測定:誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって行った。
Clの測定:電位差滴定法によって行った。
実施例:
固体触媒成分を製造するための一般的な手順:
球状担体(MgCl/EtOHの付加体)の製造:
USP−4,399,054の実施例1に記載された方法にしたがって、但し10000RPMの代わりに2000RPMで運転して、塩化マグネシウム及び約3モルのアルコールを含むアルコール付加体を調製した。
【0038】
一般的な方法にしたがって調製されたかくして得られた球状担体を、約25%の残留エタノール含量(1モルのMgClあたり1.1モルのエタノール)を有する球状粒子が得られるまで、N流下において50〜150℃の温度範囲にわたって熱処理にかけた。
【0039】
窒素でパージした500mLの四つ口丸底フラスコ中に、250mLのTiClを0℃において導入した。次に、同じ温度において、上記に記載のようにして調製された25重量%のエタノールを含む17.5gの球状MgCl/EtOH付加体を、撹拌下において加えた。温度を1時間で130℃に昇温し、60分間保持した。次に、撹拌を停止し、固体生成物を沈降させ、上澄み液を吸い出した。
【0040】
固体を、無水ヘキサン(5×100mL)で60℃において6回、25℃において1回洗浄した。最後に、固体を真空下で乾燥した。
機械スターラーを取り付け、窒素でパージした500mLの四つ口丸底フラスコ中に、200mLの無水ヘキサン、及び上記に開示のようにして得られた10gの固体中間体成分を、室温において充填した。同じ温度において、撹拌下、中間体成分中のTi含量に対して4のモル比を与えるような示された量の本発明による所望の化合物(a)又は(b)又は(c)を滴加した。温度を50℃に昇温し、混合物を2時間撹拌した。次に、撹拌を停止し、固体生成物を沈降させ、上澄み液を吸い出した。
【0041】
固体を、25℃において無水ヘキサン(3×100mL)で5回洗浄し、回収し、真空下で乾燥し、分析した。
エチレン/α−オレフィン共重合:一般的手順:
電磁スターラー、温度及び圧力の指示計、エチレン、プロパン、1−ブテン、水素用の供給ライン、並びに触媒の注入用のスチールバイアルを備えた4.5Lのステンレススチールオートクレーブを、70℃において純粋窒素を60分間流すことによって清浄化した。次に、プロパンで洗浄し、75℃に加熱し、最後に800gのプロパン、1−ブテン(表1に報告する量)、エチレン(分圧7.0bar)、及び水素(1.5bar)を充填した。
【0042】
100cmの三つ口ガラスフラスコ中に、50cmの無水ヘキサン、10%wt/volのTEA/DEAC(モル比2:1)/ヘキサン溶液9.6cm、外部電子ドナー化合物としてテトラヒドロフラン(Al/THFモル比=5)、及び実施例の固体触媒を、この順番で導入した。これらを、室温において5分間一緒に混合及び撹拌し、次に窒素過圧を用いることによってスチールバイアルを通して反応器中に導入した。
【0043】
撹拌を継続しながら、エチレンを供給することによって、75℃において、全圧を表1に報告する時間一定に保持した。終了時に、反応器を減圧し、温度を30℃に低下させた。回収されたポリマーを窒素流下70℃において乾燥し、秤量した。
【0044】
エチレン単独重合:一般的手順:
スターラー、温度及び圧力の指示計、ヘキサン、エチレン、及び水素用の供給ラインを備えた4.5Lのステンレススチールオートクレーブを用い、70℃において純粋窒素を60分間流すことによって清浄化した。次に、窒素流下、30℃の温度において、10%wt/vol−TEA/ヘキサン溶液(又は等量のトリイソブチルアルミニウム)4.9cmを含む1550cmのヘキサンを導入した。別の200cm丸底ガラスビンに、50cmの無水ヘキサン、1cmの10%wt/vol−TEA/ヘキサン溶液(又は等量のトリイソブチルアルミニウム)、及び約0.010〜0.025gの表2の固体触媒を順次加えた。これらを一緒に混合し、室温において10分間熟成し、窒素流下で反応器中に導入した。オートクレーブを閉止し、温度を85℃に昇温し、エチレン(分圧7.0bar)及び水素(4bar)を加えた。
【0045】
撹拌を継続しながら、エチレンを供給することによって85℃において120分間全圧を保持した。終了時に、反応器を減圧し、温度を30℃に低下させた。回収されたポリマーを窒素流下70℃において乾燥した。
【0046】
実施例1:
化合物(a)として1−メチルピロールを用いて、一般的手順にしたがって触媒成分を製造した。特性データ、及び重合浴中に120gのブテン−1を用いた一般的手順にしたがうエチレンの共重合における結果を表1に示す。
【0047】
実施例2:
実施例1と同じ触媒成分を、一般的手順にしたがうエチレンの単独重合において用いた。結果を表2に報告する。
【0048】
実施例3:
化合物(a)としてピロールを用いて、一般的手順にしたがって触媒成分を製造した。この触媒成分を、一般的手順にしたがうエチレンの単独重合において用いた。結果を表2に報告する。
【0049】
比較例1:
化合物(a)として2,6−ジメチルピリジンを用いて、一般的手順にしたがって触媒成分を製造した。この触媒成分を、一般的手順にしたがうエチレンの単独重合において用いた。結果を表2に報告する。
【0050】
実施例4:
化合物(a)としてインドールを用いて、一般的手順にしたがって触媒成分を製造した。この触媒成分を、TEALに代えてTIBAを用い、75℃の重合温度を用いた一般的手順にしたがうエチレンの単独重合において用いた。結果を表2に報告する。
【0051】
実施例5:
化合物(a)として1−メチルインドールを用いて、一般的手順にしたがって触媒成分を製造した。特性データ、及び重合浴中に120gのブテン−1を用いた一般的手順にしたがうエチレンの共重合における結果を表1に示す。
【0052】
実施例6:
化合物(c)として、1.5のTiとのモル比を与える量のPOClを用いて、一般的手順にしたがって触媒成分を製造した。特性データ、及び重合浴中に70gのブテン−1を用いた一般的手順にしたがうエチレンの共重合における結果を表1に示す。
【0053】
実施例7:
化合物(c)としてPOClを用いて、一般的手順にしたがって触媒成分を製造した。この触媒成分を、一般的手順にしたがうエチレンの単独重合において用いた。結果を表2に報告する。
【0054】
実施例8:
化合物(c)としてPOClを用い、一般的手順にしたがって触媒成分を製造した。特性データ、及び重合浴中に80gのブテン−1を用いた一般的手順にしたがうエチレンの共重合における結果を表1に示す。
【0055】
実施例9:
化合物(b)としてB(OMe)を用い、一般的手順にしたがって触媒成分を製造した。特性データ、及び重合浴中に180gのブテン−1を用いた一般的手順にしたがうエチレンの共重合における結果を表1に示す。
【0056】
実施例10:化合物(b)として、1.3のTiとのモル比を与える量のBClを用いて、一般的手順にしたがって触媒成分を製造した。特性データ、及び重合浴中に100gのブテン−1を用いた一般的手順にしたがうエチレンの共重合における結果を表1に示す。
【0057】
実施例11:
化合物(b)として、1のTiとのモル比を与える量のB(OiPr)を用いて、一般的手順にしたがって触媒成分を製造した。この触媒成分を、TEALに代えてTIBAを用い、75℃の重合温度を用いた一般的手順にしたがうエチレンの単独重合において用いた。結果を表2に報告する。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg、Ti、ハロゲン、及び、(a)少なくとも1つの窒素原子が5員環構造の一部である芳香族複素環式窒素誘導体、(b)式:BRのホウ素誘導体、及び(c)式:PR又はPORのリン誘導体(上式中、Rは、独立して、ハロゲン、1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビル基、又は20個以下の炭素原子を有するヒドロカルビルオキシ基である)の少なくとも1つに属する少なくとも1種類の化合物を含む、オレフィン重合用の固体触媒成分。
【請求項2】
5員環のみを有する化合物、及び他の環と縮合している5員環を有する化合物から選択される化合物(a)を含む、請求項1に記載の固体触媒成分。
【請求項3】
式:BR(式中、Rは、塩素、又は20個以下の炭素原子を有するヒドロカルビルオキシ基から選択される)のホウ素誘導体(b)を含む、請求項1に記載の固体触媒成分。
【請求項4】
式:PR又はPOR(式中、Rは、塩素、10個以下の炭素原子を有するヒドロカルビルオキシ基、又は10個以下の炭素原子を有するアルキル基から選択される)のリン誘導体(c)を含む、請求項1に記載の固体触媒成分。
【請求項5】
化合物(a)、(b)、及び/又は(c)に加えて、Ti化合物及び二ハロゲン化マグネシウムを含む、請求項1に記載の固体触媒成分。
【請求項6】
Ti化合物が、四ハロゲン化チタン、又は式:TiX(OR4−n(式中、0≦n≦3であり、Xは塩素であり、RはC〜C10炭化水素基である)の化合物である、請求項5に記載の固体触媒成分。
【請求項7】
(1)請求項1〜6のいずれかに記載の固体触媒成分;
(2)1種類以上のアルミニウムアルキル化合物;及び場合によっては
(3)外部電子ドナー化合物;
を接触させることによって得られる生成物を含む、オレフィン重合用触媒。
【請求項8】
アルミニウムアルキル化合物が、Alトリアルキル化合物をアルミニウムアルキルハロゲン化物と混合することによって得られる生成物である、請求項7に記載の触媒。
【請求項9】
外部電子ドナー化合物がテトラヒドロフランである、請求項7に記載の触媒。
【請求項10】
請求項7〜10のいずれかに記載の触媒の存在下で行う、オレフィン:CH=CHR(式中、Rは、水素又は1〜12個の炭素原子を有する炭化水素基である)の(共)重合方法。

【公表番号】特表2009−518481(P2009−518481A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543773(P2008−543773)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【国際出願番号】PCT/EP2006/069031
【国際公開番号】WO2007/065816
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(506126071)バーゼル・ポリオレフィン・イタリア・ソチエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ (138)
【Fターム(参考)】