説明

カテキン組成物及びその製造方法

【課題】 高濃度で非重合体カテキン類を含有する、不快な苦味の少ないカテキン組成物の提供する。
【解決手段】 (A)ガレート型カテキン類と(B)非重合体カテキン類の含有重量比[(A)/(B)]が0.50〜0.75で、(B)非重合体カテキン類と(C)総ポリフェノール類の含有重量比[(B)/(C)]が0.80〜0.97で、(D)フラボノールアグリコンと(B)非重合体カテキン類の含有重量比[(D)/(C)]が0.002未満で、(E)カフェインと(B)非重合体カテキン類の含有重量比[(E)/(C)]が0.1未満であり、C00型センサを用いたCPA測定法により測定される水溶液のCPA値が、非重合体カテキン濃度当たり5μV/ppm以上を示すものであれば、高濃度で非重合体カテキン類を含むにもかかわらず、不快な苦味の少ないカテキン組成物として提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非重合体カテキン類を高濃度で含むにもかかわらず、ポリフェノール成分に由来する苦味の少ないカテキン組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
茶葉中に多く含まれている茶カテキン類は、ポリフェノール化合物の一種であって、(−)−エピカテキン(EC)、(−)−エピガロカテキン(EGC)、ならびにこれらの没食子酸エステルである(−)−エピカテキンガレート(ECg)および(−)−エピガロカテキンガレート(EGCg)の4種類が主なものであり、乾燥茶葉中にはこれら茶カテキン類が10〜15wt%含まれており、茶(茶浸出液としての茶)の渋味の主体となっている。
【0003】
これらの茶カテキン類には、抗酸化作用、抗菌作用、消臭作用、血中コレステロール抑制作用、α−アミラーゼ活性阻害作用などの様々な化学的・生理的活性作用が知られている。しかし、茶カテキン類のこのような生理効果を発現させるためには、多量の茶カテキン類を摂取することが必要である。この際、高濃度にカテキン類を含有するカテキン組成物を食品や飲料に配合し、カテキン類を摂取し易い形態とすれば、お茶(茶浸出液としてのお茶)を飲用して摂取するよりも、より一層効率的に多量のカテキン類を摂取することが可能となる。
【0004】
このようなカテキン類を高濃度で含有するカテキン組成物を茶葉から製造するには、茶葉中にカテキン類と共存する夾雑物、例えばプリン塩基、糖類、アミノ酸、有機酸、無機塩類、カテキンの酸化重合物などの夾雑物をできるだけ分離除去するように精製し、カテキン類をより高濃度で含有するカテキン組成物を得る必要がある。
【0005】
従来、この種のカテキン組成物、すなわち高濃度でカテキン類を含有するカテキン組成物を得るための方法として、有機溶媒を用いた液液抽出法やクロマト分離法などを利用する技術が知られていた。例えば特許文献1には、クロロホルムでカフェインを除去し、酢酸エチルにより茶タンニン類を抽出することで、天然抗酸化剤を工業的に製造する方法が開示されている。
また、特許文献2や特許文献3には、クロマト分離を用いて茶カテキン類を選択的に充填剤に吸着させ、吸着成分を親水性有機溶媒により溶出させて茶カテキン類を精製する方法が開示されている。
さらにまた、特許文献4には、陽イオン交換樹脂に茶抽出物を接触させてカフェインを除去した後、エタノールを添加して沈殿物を生じさせ、該沈殿物を濾別除去することで、茶葉タンニン類を精製する方法が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特許1561043号公報
【特許文献2】特許2703241号公報
【特許文献3】特許3052175号公報
【特許文献4】特開平11−228565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の如き従来の技術で得られるカテキン組成物は、総ポリフェノール類と非重合体カテキン類の含有量との差が大きいものであり、このことは、非重合体カテキン類以外のポリフェノール類が多く含まれていることを示していた。つまり、非重合体カテキン類以外のポリフェノール類は不快な苦味を呈する傾向があるため、食品や飲料へ配合した際、その食品や飲料の風味に悪影響を与える可能性が高いという課題を抱えており、このような課題を改善するため、更なる精製を行うか、或いは総ポリフェノール類と非重合体カテキン類の含有量の差が小さい原料を使用するか、或いはシクロデキストリンや甘味料などを添加するなど、方策を別途検討する必要があった。
【0008】
そこで本発明の目的は、高濃度で非重合体カテキン類を含むにもかかわらず、非重合体カテキン類以外のポリフェノール成分に由来する不快な苦味が少なく、好ましくは渋味も少ないカテキン組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、非重合体カテキン類、ガレート型カテキン類、フラボノールアグリコン、およびプリン塩基(特にカフェイン)の含有量を制御することにより、高濃度で非重合体カテキン類を含むにもかかわらず、不快な苦味の少ないカテキン組成物が得られることを見出し、かかる知見に基づいて本発明を想到したものである。
【0010】
本発明は、(A)ガレート型カテキン類と(B)非重合体カテキン類の含有重量比[(A)/(B)]が0.50〜0.75であり、(B)非重合体カテキン類と(C)総ポリフェノール類の含有重量比[(B)/(C)]が0.80〜0.97であり、(D)フラボノールアグリコンと(B)非重合体カテキン類の含有重量比[(D)/(C)]が0.002未満であり、(E)カフェインと(B)非重合体カテキン類の含有重量比[(E)/(C)]が0.1未満であり、且つ、その苦味は、該カテキン組成物をイオン交換水に加えて非重合体カテキン類濃度300ppmの水溶液を調製し、C00型センサを用いてCPA(Change of membrane Potential caused by Adsorption)測定法により測定した時の前記水溶液のCPA値が、非重合体カテキン濃度当たり5μV/ppm以上を示し、好ましくは、その渋味が、該カテキン組成物をイオン交換水に加えて非重合体カテキン類濃度300ppmの水溶液を調製し、AE1型センサを用いて、CPA(Change of membrane Potential caused by Adsorption)測定法により測定した時のCPA値(電位差)が、非重合体カテキン濃度当たり−125μV/ppm以上を示すことを特徴とするカテキン組成物を提案するものである。
【0011】
本発明者はまた、カテキン組成物、特に本発明のカテキン組成物の製造方法として、茶抽出成分(茶抽出物又は茶抽出液に含まれる成分)の分画操作において、N−アルキルグルカミン基を有する構造体を吸着剤として使用することで、ポリフェノール類のうちから非重合体カテキン類を選択的に分離でき、且つカフェインを同時に低減できることを見出し、かかる知見に基づいて新たな製造方法を想到した。すなわち、本発明は、茶抽出物又は茶抽出液を、N−アルキルグルカミン基を有する構造体に接触させ、好ましくは水で該構造体を洗浄した後、該構造体に吸着した成分を回収することを特徴とするカテキン組成物の製造方法を提案するものでもある。
【0012】
なお、本発明において「総ポリフェノール類」とは、酒石酸鉄比色定量法において、標準品として没食子酸エチルを用い、没食子酸の換算量として求める方法によって定量され得る成分のことを意味し、「総ポリフェノール類の含有重量」とは、酒石酸鉄比色定量法において、標準品として没食子酸エチルを用い、没食子酸の換算量として算出される値を示すものである(詳しくは実施例参照)。
【0013】
また、本発明において「非重合体カテキン類」とは、(−)−エピガロカテキン(EGC)、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCg)、(−)−エピカテキン(EC)、(−)−エピカテキンガレート(ECg)、(±)−ガロカテキン(GC)、(−)−ガロカテキンガレート(GCg)、(±)−カテキン(C)、(−)−カテキンガレート(Cg)のいずれか、或いはこれらのうちの二種類以上の組み合わせからなる混合物を包含する意であり、本発明において「非重合体カテキン類の含有重量」は、カテキン組成物中に含まれる全非重合体カテキン類の合計含有重量の意であり、各非重合体カテキン類の含有重量はHPLCによる分離分析により定量することができる(詳しくは実施例参照)。
【0014】
また、本発明において「ガレート型カテキン類」とは、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCg)、(−)−エピカテキンガレート(ECg)、(−)−ガロカテキンガレート(GCg)、(−)−カテキンガレート(Cg)のいずれか、或いはこれらのうちの二種類以上の組み合わせからなる混合物を包含する意であり、本発明において「ガレート型カテキン類の含有重量」は、カテキン組成物中に含まれる全ガレート型カテキン類の合計含有重量の意であり、各ガレート型カテキン類の含有重量はHPLCによる分離分析により定量することができる(詳しくは実施例参照)。
【0015】
また、本発明において「フラボノールアグリコン」とは、ケンフェロール、ケルセチン、ミリセチンのいずれか、或いはこれらのうちの二種類以上の組み合わせからなる混合物を包含する意であり、本発明において「フラボノールアグリコンの含有重量」とは、カテキン組成物中に含まれる全フラボノールアグリコンの合計含有重量の意であり、各フラボノールアグリコンの含有重量はHPLCによる分離分析により定量することができる(詳しくは実施例参照)。
【0016】
なお、本明細書において「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合には、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意味である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は下記実施形態に限定されるものではない。
【0018】
本実施形態のカテキン組成物は、茶に由来するカテキン組成物、言い換えれば茶葉などを抽出して得られる茶抽出物から得られるカテキン組成物であり、少なくともカテキン類、カテキン類以外のポリフェノール類、カフェイン、テオフィリン、キサンチンなどのプリン塩基類(プリン環のメチル誘導体)、フラボノールアグリコンを含むカテキン組成物であって、次の特徴を備えた組成物である。
但し、本発明のカテキン組成物は、茶に由来するカテキン組成物に限定されるものではない。
【0019】
(ガレート型カテキン類/非重合体カテキン類)
本実施形態のカテキン組成物は、(A)ガレート型カテキン類と(B)非重合体カテキン類との含有重量比[(A)/(B)]が0.50〜0.75である特徴を備えており、好ましくは0.5〜0.7、特に好ましくは0.5〜0.6である。
【0020】
(非重合体カテキン類/総ポリフェノール類)
また、本実施形態のカテキン組成物は、(B)非重合体カテキン類と(C)総ポリフェノール類との含有重量比[(B)/(C)]が0.80〜0.97である特徴を備えており、好ましくは0.85〜0.97、特に好ましくは0.90〜0.97である。
【0021】
(フラボノールアグリコン/非重合体カテキン類)
また、本実施形態のカテキン組成物は、(D)フラボノールアグリコンと(B)非重合体カテキン類との含有重量比[(D)/(B)]が0.002未満である特徴を備えており、好ましくは0.001未満、特に好ましくは0.0005未満である。
【0022】
(カフェイン/非重合体カテキン類)
また、本実施形態のカテキン組成物は、(E)カフェインと(B)非重合体カテキン類との含有重量比[(E)/(B)]が0.1未満である特徴を備えており、好ましくは0.05未満、特に好ましくは0.02未満である。
【0023】
(苦味成分)
また、本実施形態のカテキン組成物は、カテキン組成物をイオン交換水に加えて非重合体カテキン類濃度300ppmの水溶液を調製し、C00型センサを用いて、CPA(Change of membrane Potential caused by Adsorption)測定法により測定した時のCPA値が、非重合体カテキン濃度当たり5μV/ppm以上を示す苦味を有する、言い換えればそのような苦味成分を含有する特徴を備えており、特に6μV/ppm以上、中でも特に7μV/ppm以上を示すものが好ましい。
【0024】
(渋味成分)
さらにまた、本実施形態のカテキン組成物は、必須ではないが好ましい特徴として、カテキン組成物をイオン交換水に加えて非重合体カテキン類濃度300ppmの水溶液を調製し、AE1型センサを用いて、CPA(Change of membrane Potential caused by Adsorption)測定法により測定した時のCPA値が、非重合体カテキン濃度当たり−125μV/ppm以上を示す渋味を有する、言い換えればそのような渋味成分を含有する特徴を備えており、特に−115μV/ppm以上、中でも特に−110μV/ppm以上を示すものが好ましい。
【0025】
なお、本発明において、味覚センサによる苦味及び渋味の測定は、例えば株式会社インテリジェントセンサーテクノロジの味認識装置「SA402」を使用し、苦味を感知するセンサとして「C00型センサ」、渋味を感知するセンサとして「AE1型センサ」を用いて、CPA(Change of membrane Potential caused by Adsorption)測定法により行うことができ、特に後味を客観的に評価することができる。
この際、「味覚センサによる測定値」は、前記方法で測定されるCPA値と呼ばれる電位差を指し、電位差が高いほど感知する味が弱いことを意味する。
また、測定に際しては、非重合体カテキン類の濃度に対して電位差が線形性を有する濃度範囲で測定すればよいが、比較する試料間の非重合体カテキン類の濃度を揃えて測定することが望ましく、一つの目安として非重合体カテキン類の濃度を200ppm〜500ppmに揃えて測定するのが好ましい。本発明の場合、非重合体カテキン類の濃度を300ppmに調製した場合のCPA値で、苦味及び渋味の程度を特定している。
【0026】
(その他の含有物)
本実施形態のカテキン組成物は、苦味及び渋味を上記範囲から逸脱させない範囲で、上記成分以外の成分、すなわちカテキン類、カテキン類以外のポリフェノール類(フラボノールアグリコンを含む)、カフェイン、テオフィリン、キサンチンなどのプリン塩基類以外の成分を含んでいてもよい。特に、上記成分以外の茶抽出成分を含んでいてもよい。
【0027】
(形態)
本実施形態のカテキン組成物は、その形態を制限するものではなく、例えば固形状、粉体状、液状、粘液状など各種形態に調製することが可能である。
【0028】
(用途)
本実施形態のカテキン組成物は、カフェインが少なく、苦味乃至渋味も低減されているため、カフェインのもつマイナス効果を懸念することなく配合できるため、茶カテキン類の本来の作用、例えば血中コレステロール抑制作用、α−アミラーゼ活性阻害作用などの生理活性機能を十分に付与することができる。
【0029】
よって、本実施形態のカテキン組成物は、例えばこれを有効成分として医薬品、医薬部外品などの薬剤を調製することができる。具体的には経口投与剤を調製することができ、その際、技術常識に基づき配合及び剤型を調製すればよい。
剤型について言えば、液剤、錠剤、散剤、顆粒、糖衣錠、カプセル、懸濁液、乳剤、丸剤などの形態に調製することができる。
また、配合(製剤)について言えば、通常用いられている賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、表面活性剤、潤滑剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤などを用いて常法により製造することができる。また、例えば乳糖、果糖、ブドウ糖、でん粉、ゼラチン、炭酸マグネシウム、合成ケイ酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、シロップ、ワセリン、グリセリン、エタノール、プロピレングリコール、クエン酸、塩化ナトリウム、亜硫酸ソーダ、リン酸ナトリウムなどの無毒性の添加剤を配合することも可能である。
【0030】
また、本実施形態のカテキン組成物を有効成分として、薬理効果を備えた健康食品・健康飲料・特定保健用食品・機能性食品、食品添加剤、その他ヒト以外の動物に対する薬剤や餌、餌用添加剤などを調製することもできる。
特に本実施形態のカテキン組成物は、苦味及び渋みが低減されているため、飲食品材料や飲食品に添加して、健康食品、健康飲料、特定保健用食品、機能性食品、その他ヒト以外の動物に対する餌(飼料含む)を好適に調製することができる。
この際に配合する「飲食品材料」としては、水、炭酸、賦形剤(造粒剤含む)、希釈剤、或いは更に甘味剤、フレーバー、小麦粉、でんぷん、糖、油脂類等の各種タンパク質、糖質原料やビタミン、ミネラルなどの飲食品材料群から選ばれた一種或いは二種以上を挙げることができる。例えば、精製水や生理食塩水などに所望濃度となるように溶解してカテキン含有飲料とすることも可能である。
また、配合する「飲食品」として、現在公知の飲食品、例えばスポーツ飲料、果実飲料、乳飲料、茶飲料、野菜ジュース、乳性飲料、アルコール飲料、ゼリー、ゼリー飲料、炭酸飲料、チューインガム、チョコレート、キャンディ、ビスケット、スナック、パン、乳製品、魚肉練り製品、畜肉製品、冷菓類、菓子類、乾燥食品、各種麺類、加工食品、サプリメントなどを挙げることができる。
【0031】
さらにまた、本実施形態のカテキン組成物を、練り歯磨き、口紅、リップクリーム、内服薬、トローチ、口中清涼剤、うがい薬などの各種の口腔衛生品、化粧品、医薬品等に添加することで、その風味や呈味を大きく損なうことなく茶カテキン類の生理作用を付加し、その付加価値を高めることもできる。
【0032】
(製造方法)
本実施形態のカテキン組成物は、例えば茶抽出物又は茶抽出液を、N−アルキルグルカミン基を有する構造体に接触させ、必要に応じて水で該構造体を洗浄した後、該構造体に吸着した成分を回収することにより得ることができる。
【0033】
この際、茶抽出物又は茶抽出液は、原料としての茶、好ましくは緑茶を適宜溶媒で抽出して得ることができる。
【0034】
原料とする緑茶としては、茶樹(学名:Camellia sinensis)から摘採した葉や茎であれば、その品種、産地、摘採時期、摘採方法、栽培方法などに限られず、どのような茶も使用することが出来る。例えば、煎茶、釜炒り茶、かぶせ茶、玉露、てん茶、抹茶、番茶、焙じ茶、蒸製玉緑茶、釜炒製玉緑茶などのいずれか、或いはこれらの二種以上の組み合わせからなる混合物を原料として用いることができる。また、上記の茶に現在公知の仕上加工を施して得られる仕上茶も原料として用いることが出来る。
【0035】
原料としては、上記の緑茶以外に、烏龍茶や紅茶などの半発酵茶、発酵茶も原料として用いることができる。但し、これらの発酵茶は、発酵により非重合体カテキン類の重合化が進み、非重合体カテキン類が減少しているために、本発明で目的とする非重合体カテキン類を濃縮するための原料としては適当とは言い難い。そのために、原料としては不発酵茶である緑茶を用いることが好ましい。
【0036】
茶の抽出は、水、温水、熱水、或いはエタノール、メタノール、アセトンなどの有機溶媒、或いは当該有機溶媒と水との混合溶液(例えば30〜80%エタノール水溶液、30〜80%メタノール水溶液、30〜80%アセトン水溶液など)によって抽出することが出来る。抽出する液をこれらに限定するものではない。
なお、有機溶媒や含水有機溶媒により抽出を行う場合は、得られる茶抽出液から有機溶媒を留去するか、或いは一旦乾燥した後に水に懸濁、溶解するかなどの手段で茶抽出液中の有機溶媒濃度を極力下げるのが望ましい。そのために、抽出は温水乃至熱水、特に抽出効率の点からすれば熱水で行うことが好ましい。
【0037】
抽出方法は、通常行われている方法を採用すればよい。例えば、カラムに原料を充填し、当該カラムに熱水等の抽出溶媒を順次送液して抽出液を得る装置、或いは、抽出釜に原料を充填し所定量の熱水等の抽出溶媒で一定時間浸漬するニーダーと呼ばれる抽出装置など、処理する原料の量などに応じて適宜好ましい抽出装置を選択して抽出を行い、通常の方法にて固液分離すればよい。その方法に格別の制限はなく、所望又は目的により選択することができる。
【0038】
このようにして得られる茶抽出液には、一般的に、乾燥重量換算で25〜50重量%の総ポリフェノール類、20〜40重量%の非重合体カテキン類、および5〜15重量%のカフェインが含まれる。また、総ポリフェノール類に対する非重合体カテキン類の含有重量比は0.6〜0.9、非重合体カテキン類に対するカフェインの含有重量比は0.2〜0.5である。
【0039】
次に、上記の如く得られた茶抽出液(茶抽出物を水に溶解したものも含む)を、N−アルキルグルカミン基を有する構造体に接触させることにより、選択的に非重合体カテキン類を吸着分離させることができ、非重合体カテキン類を高濃度で含有する成分を得ることができる。
【0040】
上記構造体とは、ポリスチレンやスチレン−ジビニルベンゼン共重合体などの基体となる架橋樹脂にN−アルキルグルカミン基を結合させた樹脂を指す。例えば、架橋ポリスチレン(モノビニル芳香族化合物とポリビニル芳香族化合物の共重合体)或いは架橋ポリメタクリル酸エステル(メタクリル酸エステルとポリビニル芳香族化合物との共重合体)を基体とし、該基体にN−アルキルグルカミン基を導入したものなどを挙げることができるが、基体の構造はこれらに制限されるものではない。
【0041】
N−アルキルグルカミン基を有する構造体を製造するには、例えば(1)該基体に公知の方法でハロアルキル基を導入した後、該ハロアルキル基とN-アルキルグルカミンとを反応させる方法や、(2)架橋ポリスチレンを構成するモノビニル芳香族化合物として、クロロメチルスチレン、クロロエチルスチレン、ブロモメチルスチレン、ブロモブチルスチレンなどのハロアルキルスチレン等を用い、これとジビニルベンゼンなどのポリビニル芳香族化合物とを共重合させて得られる架橋共重合体にN−アルキルグルカミンを反応させる方法、などを挙げることができる。
より具体的な一例として、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体に上記いずれかの方法でハロアルキル基を導入したものに対してN−アルキルグルカミンを反応させることにより、N−アルキルグルカミン基を有する構造体を製造する方法を挙げることができる。この際、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体にハロアルキル基を導入する方法としては、例えば、スチレンジビニルベンゼン共重合体にクロロメチルメチルエーテルを加え、塩化亜鉛、塩化鉄などのルイス酸触媒の存在下、反応させればよい。クロロメチルメチルエーテルの量は、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体が膨潤しスラリー状態を保つことができる量でよく、反応条件は、反応剤の量にもよるが、通常室温から60℃までの温度で30分から20時間反応させればよい。
【0042】
N−アルキルグルカミン基を有する構造体としては、市販品を用いることも可能であり、例えばダイヤイオンCRB02(三菱化学社製)、アンバーライトIRA743(ローム・アンド・ハース社製)、デュオライトES371N(ローム・アンド・ハース社製)などを用いることができる。
【0043】
このようなN−アルキルグルカミン基を有する構造体に、上記茶抽出液を接触させる方法は、特に限定するものではなく、例えば、構造体をカラムに充填し、カラム内に抽出液を通液すればよい。また、タンク内でバッチ式に接触させる方法を採用することもできるし、その他の接触方法を採用することもできる。
茶抽出液の接触量は、上記構造体の容量の1〜10倍量、特に3〜7倍量を接触させるのが好ましい。
【0044】
次いで、構造体から非重合体カテキン類以外のポリフェノール類、プリン塩基、及びアミノ酸、蛋白、糖など水溶性成分を溶出させるために、構造体の容量の1〜20倍量、好ましくは5〜15倍量の水を使用して、構造体を充分に洗浄するのが好ましい。
なお、洗浄に用いる水の水温は、構造体の耐熱温度以下であれば特に限定するものではなく、特に冷却も加温もしない通常の水(5〜30℃)を用いることが可能であるが、30〜60℃、特に30〜40℃の温水を使用すれば、カフェインの低減をより一層充分に行うことができる。
【0045】
次に、エタノール、メタノール、アセトンなどの有機溶媒、或いは当該有機溶媒と水との混合溶液(例えば30〜80%エタノール水溶液、30〜80%メタノール水溶液、30〜80%アセトン水溶液など)を上記構造体に接触させて、非重合体カテキン類を含む吸着画分を溶出させることにより、本実施形態のカテキン組成物を含む茶カテキン濃縮液を回収する。
この際、有機溶媒、或いは有機溶媒と水との混合溶液は、構造体の容量の1〜20倍、特に3倍量以上を用いることが好ましい。
【0046】
上記製造方法によれば、カフェイン含量が少なく、渋味及び苦味の低減された茶カテキン濃縮液を得ることができ、この濃縮液をそのまま本実施形態のカテキン組成物として利用することもできるが、さらに濃縮、乾燥させて本実施形態のカテキン組成物として利用することもできる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例について説明するが、本発明の範囲が下記実施例に限定されるものではない。
先ずは、実施例及び比較例で得られたカテキン組成物1、2及び対照緑茶抽出物1〜7(以下、これらを「試料」或いは「分析試料」ともいう)の分析方法について説明する。
【0048】
<総ポリフェノール類の定量>
実施例及び比較例で得られたカテキン組成物1、2及び対照緑茶抽出物1〜7の総ポリフェノール類の含有重量(以下「含量」と略す)は、「茶業研究報告,Vol.71,p.43〜74,1990年」に従い、酒石酸鉄比色定量法に準拠し、標準品として没食子酸エチルを用いて没食子酸の換算量として算出した(表1)。
具体的には、次の条件で総ポリフェノール類の含量を定量した。
【0049】
・酒石酸鉄試薬の調製:硫酸第一鉄・七水和物100mgと酒石酸カリウム・ナトリウム500mgを蒸留水に溶解して100mLとした。
・りん酸緩衝液の調製:1/15Mりん酸水素二ナトリウム水溶液と1/15Mりん酸二水素カリウム水溶液を混合してpH7.5に調整した。
・標準液の調製:没食子酸エチルの50,100,150,200,250ppm水溶液を調製した。
・分析試料溶液の調製:分析試料をイオン交換水に溶解して各分析試料の水溶液中濃度が250ppmとなるように分析試料溶液を調製した。但し、対照緑茶抽出物1の場合は、成分含有量が低いため、分析試料の水溶液中濃度が500ppmとなるように分析試料溶液を調製した。
【0050】
(測定方法)
標準液或いは分析試料溶液5mLに酒石酸鉄試薬5mLを加え、りん酸緩衝液で25mLに定容して混和した後にUV540nmでの吸光度を測定した。
標準液の測定値から検量線を作成し、それを用いて分析試料中の没食子酸エチル相当量を求め、その1.5倍量を総ポリフェノール類含有量とした。
【0051】
<非重合体カテキン類及びカフェインの定量>
実施例及び比較例で得られたカテキン組成物1、2及び対照緑茶抽出物1〜7の含量は、「Journal of Food Composition and Analysis,Vol.17,p.675〜685,2004年」に従い、次のようなHPLC法により測定した(表1)。
【0052】
・標準液の調製:EGC,EGCg,EC,ECg、GC,GCg、C,Cg,及びカフェインの各10mgを100mLのメスフラスコに秤取し、0.5%アスコルビン酸−0.01%EDTA二ナトリウム水溶液に溶解し、定容した。この溶液をさらに2倍又は5倍に希釈した。分析前に0.45μmのバーサポアフィルターを通過させた。
・分析試料溶液の調製:分析試料をイオン交換水に溶解して各分析試料の水溶液中濃度が250ppmとなるように分析試料溶液を調製し、0.45μmのバーサポアフィルターを通過させた。但し、対照緑茶抽出物1の場合は、成分含有量が低いため、分析試料の水溶液中濃度が500ppmとなるように分析試料溶液を調製した。
【0053】
(測定方法)
未希釈,2倍希釈,5倍希釈の標準液を用いて下記条件にてHPLCにかけ、得られたクロマトグラムの各成分のピーク面積と成分濃度で検量線を作成し、それを用いて分析試料溶液中の各成分の濃度を求めた。
【0054】
(HPLC条件)
HPLC装置:島津LC−10AD二液高圧グラジエントシステム
カラム:Wakosil−II 5C18 HG(3.0mm I.D.×150
mm)
カラム温度:40℃
移動相A:水−メタノール−りん酸(85:15:0.1)
移動相B:水−メタノール−酢酸エチル−りん酸(85:15:1:0.1)
検出:UV 280nm
注入量:5μL
グラジエントプログラム:移動相Aを100%、流速を0.3mL/分で分析開始から12分まで流し、その後1分間で流速を0.45mL/分にリニアに上昇させた。以降19分まで流速を保持し、その後1分間で流速を1.0mL/分に、移動相Bを0%から100%にリニアに上昇させた。以降40分まで流速を保持した。
【0055】
<フラボノールアグリコンの定量>
実施例及び比較例で得られたカテキン組成物1、2及び対照緑茶抽出物1〜7に含まれるフラボノールアグリコンの含量は、「茶業研究報告,Vol.69,p.45〜50,1986年」に従い、次のようなHPLC法により測定した(表2)。
【0056】
・標準液の調製:ケンフェロール,ケルセチン,ミリセチンの各1mgを100mLのメスフラスコに秤取し、メタノールに溶解し,定容し、さらに10倍に希釈した。分析前に0.45μmのバーサポアフィルターを通過させた。
・分析試料溶液の調製:分析試料を25%エタノールに溶解して各分析試料の溶液中濃度が2000ppmとなるように分析試料溶液を調製し、0.45μmのバーサポアフィルターを通過させた。但し、対照緑茶抽出物1の場合は、成分含有量が低いため、分析試料の溶液中濃度が5000ppmとなるように分析試料溶液を調製した。
【0057】
(測定方法)
標準液を下記条件でHPLCにかけ、得られたクロマトグラムの各成分のピーク面積と成分濃度で検量線を作成し、それにより分析試料溶液中の各成分の濃度を求めた。
【0058】
(HPLC条件)
HPLC装置:島津LC−10AD二液高圧グラジエントシステム
カラム:Wakosil−II 5C18 HG(4.6mm I.D.×250
mm)
カラム温度:40℃
移動相A:水−アセトニトリル−りん酸二水素ナトリウム・二水和物(900mL:100mL:780mg)を混合し、りん酸でpH2.3に調整した。
移動相B:水−アセトニトリル−りん酸二水素ナトリウム・二水和物(650mL:350mL:780mg)を混合し、りん酸でpH2.3に調整した。
流速:1mL/分
検出:UV 325nm
注入量:20μL
グラジエントプログラム:移動相Bを0%から100%に分析開始から32分まででリニアに上昇させた。以降45分まで移動相Bを100%に保持した。
【0059】
[実施例1]
緑茶葉15gを80℃の熱水250mLに浸して20分間抽出し、目開き106μmの金属メッシュで固液分離して抽出液を得た。
N−アルキルグルカミン基を有する構造体であるダイヤイオンCRB02を30mL充填したカラム(φ25×60mm)に、前記で得られた抽出液(全部)を注入した後、常温(約20℃)の水を300mL、次いで60%含水エタノールを150mL流して「60%含水エタノール溶出液」150mLを回収した。当該「60%含水エタノール溶出液」を濃縮及び凍結乾燥させて「茶カテキン組成物1」340mgを得た。
【0060】
[実施例2]
緑茶葉15gを80℃の熱水250mLに浸して20分間抽出し、目開き106μmの金属メッシュで固液分離して抽出液を得た。
N−アルキルグルカミン基を有する構造体であるダイヤイオンCRB02を30mL充填したカラム(φ25×60mm)に、当該抽出液(全部)を注入した後、45℃の温水を300mL、次いで60%含水エタノールを150mL流して「60%含水エタノール溶出液」150mLを回収した。当該60%含水エタノール溶出液を濃縮及び凍結乾燥させて「茶カテキン組成物2」490mgを得た。
【0061】
[比較例1]
緑茶葉15gを80℃の熱水250mLに浸して20分間抽出し、目開き106μmの金属メッシュで固液分離して抽出液を得た。当該抽出液(全部)を濃縮、凍結乾燥させて「対照緑茶抽出物1」4.27mgを得た。
【0062】
[比較例2]
緑茶葉15gを80℃の熱水250mLに浸して20分間抽出し、目開き106μmの金属メッシュで固液分離して抽出液を得た。
スチレン−ジビニルベンゼン共重合体ダイヤイオンHP20(三菱化学社製)を30mL充填したカラム(φ25×60mm)に、当該抽出液(全部)を注入した後、常温(約20℃)の水を300mL、次いで60%含水エタノールを180mL流して「60%含水エタノール溶出液」150mLを回収した。当該60%含水エタノール溶出液を濃縮及び凍結乾燥させて「対照緑茶抽出物2」930mgを得た。
【0063】
[比較例3]
緑茶葉15gを80℃の熱水250mLに浸して20分間抽出し、目開き106μmの金属メッシュで固液分離して抽出液を得た。
強酸性陽イオン交換樹脂ダイヤイオンPK216(三菱化学社製)を30mL充填したカラム(φ25×60mm)に、当該抽出液(全部)を注入した後、常温(約20℃)の水を300mL、次いで60%含水エタノールを180mL流して「60%含水エタノール溶出液」150mLを回収した。当該「60%含水エタノール溶出液」を濃縮及び凍結乾燥させて「対照緑茶抽出物3」290mgを得た。
【0064】
[比較例4]
緑茶葉15gを80℃の熱水250mLに浸して20分間抽出し、目開き106μmの金属メッシュで固液分離して抽出液を得た。
強塩基性陰イオン交換樹脂ダイヤイオンPA316(三菱化学社製)を30mL充填したカラム(φ25×60mm)に、当該抽出液(全部)を注入した後、常温(約20℃)の水を300mL、次いで60%含水エタノールを180mL流して「60%含水エタノール溶出液」150mLを回収した。当該「60%含水エタノール溶出液」を濃縮及び凍結乾燥させて「対照緑茶抽出物4」20mgを得た。
【0065】
[比較例5]
緑茶葉15gを80℃の熱水250mLに浸して20分間抽出し、目開き106μmの金属メッシュで固液分離して抽出液を得た。
弱酸性陽イオン交換樹脂ダイヤイオンWK11(三菱化学社製)を30mL充填したカラム(φ25×60mm)に、当該抽出液(全部)を注入した後、常温(約20℃)の水を300mL、次いで60%含水エタノールを180mL流して「60%含水エタノール溶出液」150mLを回収した。当該「60%含水エタノール溶出液」を濃縮及び凍結乾燥させて「対照緑茶抽出物5」130mgを得た。
【0066】
[比較例6]
緑茶葉15gを80℃の熱水250mLに浸して20分間抽出し、目開き106μmの金属メッシュで固液分離して抽出液を得た。
弱塩基性陰イオン交換樹脂ダイヤイオンWA30(三菱化学社製)を30mL充填したカラム(φ25×60mm)に、当該抽出液(全部)を注入した後、常温(約20℃)の水を300mL、次いで60%含水エタノールを180mL流して「60%含水エタノール溶出液」150mLを回収した。当該「60%含水エタノール溶出液」を濃縮及び凍結乾燥させて「対照緑茶抽出物6」110mgを得た。
【0067】
[比較例7]
緑茶葉15gを80℃の熱水250mLに浸して20分間抽出し、目開き106μmの金属メッシュで固液分離して抽出液を得た。
親水性ポリビニル樹脂トヨパールHW−40(東ソー社製)を30mL充填したカラム(φ25×60mm)に、当該抽出液(全部)を注入した後、常温(約20℃)の水を600mL、次いで60%含水エタノールを180mL流して「60%含水エタノール溶出液」150mLを回収した。当該「60%含水エタノール溶出液」を濃縮及び凍結乾燥させて「対照緑茶抽出物7」910mgを得た。
【0068】
【表1】

【0069】
表1を見ると、実施例1及び2ではカフェインが選択性良く低減され、非重合体カテキン類は満遍なく回収されている。また、「非重合体カテキン類/総ポリフェノール類」は0.874〜0.943と高い値を示し、樹脂処理を行っていない比較例1と比較すると、非重合体カテキン類以外のポリフェノール成分が大きく低減できていることを確認できた。構造体の洗浄に温水を使用した実施例2は、実施例1と比較してカフェインの低減がより効率的に行われていた。
【0070】
他方、比較例2は、N−アルキルグルカミン基を有さない母体のみの構造体であるが、カフェインはほとんど除去されていなかった。また、比較例3及び比較例5の陽イオン交換樹脂ではカフェインを濃縮する傾向が見られた。
比較例4の強塩基性陰イオン交換樹脂では非重合体カテキン類はほとんど回収されておらず、比較例6の弱塩基性陰イオン交換樹脂でもEGCgやECgのエステル型カテキン類の回収性が大きく劣る結果であった。
比較例7はカフェインの除去性能は優れている一方で、非重合体カテキン類の回収性は偏りが顕著で、EGCやECの非エステル型カテキンは回収できなかった。また「非重合体カテキン類/総ポリフェノール類」は0.740であり、非重合体カテキン類以外のポリフェノール成分は多くが残存していることが示唆された。
【0071】
【表2】

【0072】
表2に基づいてフラボノールアグリコン含量について検討すると、実施例1及び2では、非重合体カテキン類の構造類似成分であるフラボノールアグリコンは低減されており、非重合体カテキン類に対するフラボノールアグリコン含量の比率[(D)/(B)]についてみると、実施例1及び2では、4.7×10-4或いは5.7×10-4のように1/104(10の4乗分の1)の桁の含有量であったのに対し、比較例1〜7の場合には、1.9×10-3〜7.3×10-3のように1/103(10の3乗分の1)の桁の含有量であり、実施例と比較例の間には1桁の差異、すなわち顕著な差異が認められた。
【0073】
<苦味・渋味の測定>
実施例及び比較例で得られたカテキン組成物1、2及び対照緑茶抽出物1、2、7について、味覚センサを備えた味認識装置を使用してCPA(Change of membrane Potential caused by Adsorption)測定法によりCPA値を測定することで、各試料の苦味・渋味を検討した。結果を下記表3に示す。
なお、比較例3〜6で得られた対照緑茶抽出物3〜6は、上記の結果において成分組成(特にカテキンの組成比)、カフェインの含有量および抽出物の回収率の点で、実施例に対する優位点が見出せなかったため、味覚センサによる結果を示すまでもないと判断した。
【0074】
<味覚センサ:CPA測定法>
試料溶液の調製:各サンプルにイオン交換水を加えて、溶液中の非重合体カテキン濃度が300ppmとなるように試料を蒸留水により溶解した。また、別途EGCg濃度が100ppmとなるように試料を蒸留水により溶解した。
洗浄液1の調製:100mM塩化カリウム+10mM水酸化カリウムの30%エタノール溶液を調製した。
洗浄液2の調製:30mM塩化カリウム+0.3mM酒石酸の水溶液を調製した。
洗浄液3〜5、安定液、CPA液:洗浄液2と同じとした。
使用した味認識装置:株式会社インテリジェントセンサーテクノロジ社製「SA402」
使用したセンサ:苦味を測定するセンサとして「C00型」を、渋味を測定するセンサとして「AE1型」を使用した。
【0075】
(測定方法)
センサを洗浄液1で90秒間、次いで洗浄液2と3で各120秒間洗浄した。そして安定液、次いで試料溶液で各30秒間電位測定を行った。洗浄液4と5で各3秒間の洗浄を行った後に、CPA液で30秒間電位測定を行った。
「CPA液の測定電位」−「安定液の測定電位」で求められる電位差をCPA値とした。
【0076】
評価した各試料の濃度を、非重合体カテキン類濃度が300ppmとなるように調製した場合において、比較例1を基準とした各実施例及び比較例の苦味と渋味の分布を図1に示す一方、EGCgとして100ppmとなるように調製した場合における、比較例1を基準とした各実施例及び比較例の苦味と渋味の分布を図2に示した。
なお、味覚の分布は、味認識装置「SA402」に付属のソフトウェアを用いて評価した。
【0077】
【表3】

【0078】
表3より、実施例1及び実施例2の苦味は、C00型センサを用いた時の非重合体カテキン濃度当たりCPA値(すなわち「電位差/非重合体カテキン類濃度」)が約8μV/ppmと高く、比較例1、2、7との差は明確であり、苦味が大きく低減していることが確かめられた。
他方、実施例1及び実施例2の渋味は、AE1型センサを用いた時の非重合体カテキン濃度当たりCPA値(すなわち「電位差/非重合体カテキン類濃度」)が−11μV/ppm〜−100μV/ppmであり、比較例2、7と比較すると高い値を示しており、渋味が弱くなっていることが確かめられた。
【0079】
また、図1に基づいて、樹脂処理を行っていない比較例1と比較すると、実施例1及び2の苦味は有意に減弱して感知されており、渋味も弱く感知される傾向が見てとれる。一方、比較例2及び7は、渋味、苦味共に比較例1から有意に強く感知されていることが確認できる。
図2を見ると、比較例1に対して、実施例1及び2の渋味は大差ないが、苦味は有意に減弱して感知されている。比較例2は、渋味は比較例1と同程度まで弱まるものの、苦味は依然有意に強く感知されている。比較例7は、表1で示したように他の実施例、比較例と比較してEGCg濃度が高いために、EGCg濃度を基準として評価試料を調製した場合の抽出物濃度は低くなる。そのために、渋味、苦味共に減弱して感知されるようになる。それでもなお実施例1及び2との苦味の差は歴然としている。
【0080】
<成分含有比と味覚センサ測定値の相関の考察>
実施例及び比較例の成分組成比と味覚センサによる測定結果の相関を評価した(図3および図4)。
【0081】
図3を見ると、苦味を示すC00の非重合体カテキン濃度当たりのCPA値はフラボノールアグリコンと非重合体カテキン類の含有重量比と相関を示し、相関係数はR2=0.9882と高い相関を示した。このことより、茶カテキン組成物の苦味は、フラボノールアグリコンを制御することで低減できることが裏付けられた。
他方、図4を見ると、渋味を示すAE1の非重合体カテキン濃度当たりのCPA値はエステル型カテキン類と非重合体カテキン類の含有重量比と相関を示し、相関係数はR2=0.8906と比較的高い値を示した。このことより、カテキン組成物の渋味はカテキンの組成比率に依存することが示され、非重合体カテキン濃度を向上させても、その組成比率を維持することで、渋味の上昇を抑えられることが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】味覚センサを用いた苦味及び渋味の測定において、各試料濃度を、非重合体カテキン類濃度が300ppmとなるように調製した場合において、比較例1を基準に各実施例及び比較例の苦味と渋味の分布を示したグラフである。
【図2】同じく味覚センサを用いた苦味・渋味の測定において、各試料濃度を、EGCgとして100ppmとなるように調製した場合において、比較例1を基準に各実施例及び比較例の苦味と渋味の分布を示したグラフである。
【図3】(D)フラボノールアグリコンと(B)非重合体カテキン類の含有重量比率「(D)/(B)」を横軸にとり、C00型センサで測定される非重合体カテキン類の濃度当たりのCPA値(単位:μV/ppm)を縦軸にとった座標中に実施例及び比較例の値をプロットしたグラフである。
【図4】(A)エステル型カテキン類と(B)非重合体カテキン類の含有重量比率「(A)/(B)」を横軸にとり、AE1型センサで測定される非重合体カテキン類の濃度当たりのCPA値(単位:μV/ppm)を縦軸にとった座標中に実施例及び比較例の値をプロットしたグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(1)〜(5)の条件を満たすカテキン組成物。
(1):(A)ガレート型カテキン類と(B)非重合体カテキン類との含有重量比[(A)/(B)]が0.50〜0.75である。
(2):(B)非重合体カテキン類と(C)総ポリフェノール類との含有重量比[(B)/(C)]が0.80〜0.97である。
(3):(D)フラボノールアグリコンと(B)非重合体カテキン類との含有重量比[(D)/(B)]が0.002未満である。
(4):(E)カフェインと(B)非重合体カテキン類との含有重量比[(E)/(B)]が0.1未満である。
(5):カテキン組成物の苦味は、該カテキン組成物をイオン交換水に加えて非重合体カテキン類濃度300ppmの水溶液を調製し、C00型センサを用いてCPA(Change of membrane Potential caused by Adsorption)測定法により測定した時の前記水溶液のCPA値が、非重合体カテキン濃度当たり5μV/ppm以上を示す。
【請求項2】
カテキン組成物の渋味は、該カテキン組成物をイオン交換水に加えて非重合体カテキン類濃度300ppmの水溶液を調製し、AE1型センサを用いてCPA(Change of membrane Potential caused by Adsorption)測定法により測定した時の前記水溶液のCPA値が、非重合体カテキン濃度当たり−125μV/ppm以上を示すことを特徴とする請求項1に記載のカテキン組成物。
【請求項3】
茶抽出物又は茶抽出液を、N−アルキルグルカミン基を有する構造体に接触させ、該構造体に吸着した成分を回収することを特徴とするカテキン組成物の製造方法。
【請求項4】
茶抽出物又は茶抽出液を、N−アルキルグルカミン基を有する構造体に接触させ、水で該構造体を洗浄した後、該構造体に吸着した成分を回収することを特徴とする請求項3に記載のカテキン組成物の製造方法。
【請求項5】
得られたカテキン組成物が、該カテキン組成物をイオン交換水に加えて非重合体カテキン類濃度300ppmの水溶液を調製し、AE1型センサを用いてCPA(Change of membrane Potential caused by Adsorption)測定法により測定した時の前記水溶液のCPA値が、非重合体カテキン濃度当たり−125μV/ppm以上を示すことを特徴とする請求項3又は4に記載のカテキン組成物の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−1893(P2007−1893A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181730(P2005−181730)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】