説明

カラーフィルタ製造装置、カラーフィルタ製造方法およびカラーフィルタ

【課題】感光体上のトナーを効率よくかつ適切にガラス基板に転写する。
【解決手段】カラーフィルタ製造装置は、外周に感光体212を有する感光ドラム21を備え、感光ドラム21の周囲には、感光体212に静電潜像を形成する画像形成部、感光体212上の静電潜像に湿式のカラーのトナーを付与する現像部、および、感光体212上のトナー91をガラス基板9に転写する転写部3を有する。転写部3の転写ローラ31には、正弦波電圧を生成する交流電源33、および、直流電圧を生成する直流電源34が直列に接続され、感光体212上のトナー91をガラス基板9に転写する際に、感光体212とガラス基板9との間に、直流電圧と振幅がこの直流電圧の値より小さい正弦波電圧とを重畳した電圧が付与される。これにより、カラーフィルタ製造装置では感光体212上のトナー91を効率よくかつ適切にガラス基板9に転写することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法にてカラーフィルタを製造する技術、および、カラーフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
TV装置やコンピュータの表示部に用いられる液晶表示装置等には、従来よりカラーフィルタが利用されている。カラーフィルタを製造する手法として、例えば、透明な基板上にフォトリソグラフィ技術を用いて感光性樹脂から形成されたパターンを染色する染色法や、顔料等の色素を分散した感光性樹脂を利用する顔料分散法、基板上に透明導電層(例えば、ITO(Indium-Tin-Oxide:酸化インジウムスズ))のパターンを形成して電着により着色パターンを形成する電着法、あるいは、凹版法、凸版法、シルクスクリーン法等によりインクを基板上に直接印刷する印刷法が知られている。
【0003】
しかしながら、これらの手法は、煩雑なフォトリソグラフィプロセスを伴うことによりカラーフィルタの製造に長時間を要したり、カラーフィルタのセルの形状や配列に大きな制約が生じたり、あるいは、カラーフィルタの要求精度を満たすために高精度かつ高価なパターン原板や極めて特殊な技術が必要となる等のいずれかの問題を少なくとも有している。特に、近年、カラーフィルタの製造に用いられるガラス基板の大型化(いわゆる、第7世代や第8世代)に伴い、フォトリソグラフィ工程における液状の感光性樹脂の塗布に利用される一般的なスピンコート法では、感光性樹脂を均一に塗布することが困難となりつつある。
【0004】
一方、ガラス基板に設けられた透明光導電層上に静電潜像を形成し、静電潜像にトナーを付与してカラーフィルタを製造する電子写真法も知られている。電子写真法では、感光性材料の塗布等の煩雑な工程を経ることがないため短時間で、また、廃材がほとんど生じないため低コストで所望のセル形状や配列のカラーフィルタを製造することが可能となる。また、特許文献1では、感光ドラムの周囲に配置された帯電器、画像形成部および現像部により感光ドラムの外周面にトナー像を形成し、感光ドラムとガラス基板との間にギャップを設けつつ感光ドラム上のトナーをガラス基板に転写する印刷装置が開示されている。このような印刷装置では、高価なパターン原板を必要とせず、カラーフィルタのパターンを示すデジタルの画像データからカラーフィルタを直接製造することができる。
【特許文献1】特表2002−527783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、感光ドラムを有する印刷装置では、一般的に、感光ドラムの感光体と印刷用紙との間に直流電圧を付与して感光体上のトナーが印刷用紙に転写される。しかしながら、カラーフィルタを製造する際に用いられるガラス基板や透明の絶縁フィルム等(以下、「フィルタ部材」という。)はある程度の厚さを有しているため、印刷用紙の場合と同様の値の直流電圧を感光体とフィルタ部材との間に付与したのでは、感光体上のトナーに転写に必要な電界を作用させることができず、トナーをフィルタ部材に適切に転写することができない(例えば、トナーの転写効率が低くなってしまう。)。また、トナーの転写の際に付与する直流電圧の値が高すぎると、転写位置の近傍で感光体とフィルタ部材との間に放電が発生し、トナー像が破壊されてしまう。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、感光体上のトナーを効率よくかつ適切にフィルタ部材に転写することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、電子写真法にてカラーフィルタを製造するカラーフィルタ製造装置であって、感光体と、帯電後の前記感光体に光を照射して静電潜像を形成する画像形成部と、前記感光体上の静電潜像に湿式のカラーのトナーを付与する現像部と、前記感光体上の前記トナー、または、前記感光体上から転写された中間転写体上の前記トナーをフィルタ部材に転写する際に、前記感光体または前記中間転写体と前記フィルタ部材との間に直流電圧と振幅が前記直流電圧の値よりも小さい交流電圧とを重畳した電圧を付与する転写部とを備える。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のカラーフィルタ製造装置であって、前記交流電圧が正弦波電圧である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のカラーフィルタ製造装置であって、トナーの転写時にフィルム部材上の同一箇所に作用する前記正弦波電圧のサイクル数が5サイクル以上100サイクル以下である。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のカラーフィルタ製造装置であって、前記交流電圧が矩形波電圧である。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のカラーフィルタ製造装置であって、トナーの転写時にフィルム部材上の同一箇所に作用する前記矩形波電圧のサイクル数が5サイクル以上100サイクル以下であり、デューティ比が40パーセント以下である。
【0012】
請求項6に記載の発明は、電子写真法にてカラーフィルタを製造するカラーフィルタ製造方法であって、帯電後の感光体に光を照射して静電潜像を形成する工程と、前記感光体上の静電潜像に湿式のカラーのトナーを付与する工程と、フィルタ部材に前記感光体上の前記トナー、または、前記感光体上から転写された中間転写体上の前記トナーを転写する工程とを備え、前記トナーを転写する工程において、前記感光体または前記中間転写体と前記フィルタ部材との間に直流電圧と振幅が前記直流電圧の値よりも小さい交流電圧とを重畳した電圧を付与する。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載のカラーフィルタ製造装置にて製造されたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、感光体または中間転写体上のトナーを効率よくかつ適切にフィルタ部材に転写することができる。
【0015】
また、請求項2の発明では、転写に利用される電圧を容易に生成することができ、請求項4の発明では、効率のよいトナーの転写を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は本発明の第1の実施の形態に係るカラーフィルタ製造装置1の構成を示す図であり、カラーフィルタ製造装置1は電子写真法を用いてカラーフィルタを製造する装置である。カラーフィルタ製造装置1は、図示省略のモータに減速機を介して接続された感光ドラム21を備え、感光ドラム21は図1中の回転軸J1を中心に回転可能に支持される。感光ドラム21は、アルミニウム等の金属により形成されるとともに回転軸J1を中心とする円筒部材211を有し、円筒部材211は電気的に接地される。円筒部材211の外周面には、例えば、フタロシアニン顔料を有する単層型有機感光体(以下、単に「感光体212」という。)が一様に塗布される(または、蒸着される)。なお、感光体212はフタロシアニン顔料を有する単層型有機感光体以外であってもよい。
【0017】
カラーフィルタ製造装置1は、感光ドラム21に対向して設けられる帯電器22をさらに備え、帯電器22はイオンを発生して感光体212を帯電させる。また、感光ドラム21の周囲には帯電器22から時計回りに、画像形成用の光を出射して感光体212に静電潜像を形成する画像形成部23、感光体212上に形成された静電潜像に湿式トナー(例えば、イソパラフィン系の溶媒に分散しているトナー)を付与して現像する現像ユニット24、感光体212上のトナーをガラス基板9(例えば、厚さ0.7mmのガラス基板)に転写する転写部3、感光体212の表面をクリーニングするクリーナ25、並びに、光を出射して感光体212を除電する除電器26が配置される。現像ユニット24は、R(赤)、G(緑)、B(青)、K(黒)の色のトナーをそれぞれ保持する現像部241a,241b,241c,241dを有し、各現像部241a〜241dは感光体212の表面に対してそれぞれ独立して進退可能とされる。
【0018】
図2は転写部3の構成を示す図である。転写部3は、芯金に半導電性のスポンジゴムが巻き付けられることにより形成される転写ローラ31、および、転写ローラ31の(+Y)側に設けられる除電ローラ32を有する。転写ローラ31の芯金には、正弦波の交流電圧(以下、「正弦波電圧」という。)を生成する交流電源33、および、直流電圧を生成する直流電源34が直列に接続され、直流電圧と正弦波電圧とを重畳した電圧が転写ローラ31に付与される。除電ローラ32は半導電性のゴムにより形成され、電気的に接地される。
【0019】
図3は、カラーフィルタ製造装置1がカラーフィルタを製造する処理の流れを示す図である。ただし、図示を省略しているが実際にはステップS12〜S14は繰り返される。カラーフィルタ製造装置1では、まず、感光ドラム21が回転軸J1を中心に時計回り(すなわち、図1中の矢印71が示す回転方向)に回転を開始する(ステップS11)。カラーフィルタ製造装置1では感光ドラム21の回転により、感光体212が周囲に配置された各周辺構成(すなわち、帯電器22、画像形成部23、現像ユニット24、転写部3、クリーナ25および除電器26)に対して連続的に移動し、これらの周辺構成による感光体212に対する処理が開始される。ただし、カラーフィルタ製造処理の初期段階(ステップS11〜S14)において転写部3およびクリーナ25は、図示省略の進退機構によりそれぞれ感光ドラム21の近傍から離れている。
【0020】
帯電器22では、対向する位置へと到達する感光体212の一部(以下、「対象部位」と呼ぶ。)に電荷が順次付与され、対象部位の表面を一様に帯電させる(ステップS12)。帯電後の対象部位は画像形成部23の光の照射位置へと連続的に移動する。画像形成部23は、所定の波長の光を出射する複数の発光ダイオード(LED)が配列されたもの(LEDアレイ)を光源として有する。画像形成部23には、カラーフィルタのパターンを示す画像から生成された各色成分の画像データのうち、例えばRの色に対応する画像データが入力され、この画像データに応じて画像形成用の光が感光体212に向けて出射される。感光体212の対象部位において光が照射された部位は、表面に帯電した電荷が感光体212内に移動して除去される。また、光が照射されない部位は帯電状態がそのまま維持されるため、感光体212の表面には電荷の分布による画像(すなわち、静電潜像)が形成される(ステップS13)。画像形成部23の光源は、必ずしもLEDである必要はなく、例えば、半導体レーザや、ランプと液晶シャッタとを組み合わせたもの等であってもよい。
【0021】
静電潜像が形成された部分(対象部位)は現像部241aに対向する位置へと移動し、現像部241aの上流側の現像ローラ242によりRの色の湿式トナー(溶媒中に分散されるとともに帯電しているトナー)が静電潜像に付与される(ステップS14)。このとき、現像ローラ242には所定の電圧が付与され、トナーは感光体212上の対象部位において電荷が除去された部位にのみ付着して静電潜像が現像される。これにより、感光体212の対象部位にトナー像が形成される。なお、感光体212上の帯電した部位にトナーが付着するようにされてもよい。
【0022】
また、対象部位上の不要な湿式トナーは現像部241aの下流側のスキージローラ243により掻き取られて現像部241a内へと戻される。トナー像が形成された対象部位は、現像ユニット24の下流側に設けられた半導電性スポンジローラ244へと移動する。このとき、他の現像部241b〜241dは感光体212の表面から離れており、現像部241b〜241dがRの色のトナー像に干渉することはない。半導電性スポンジローラ244の中心にはトナーと同じ極性の電圧が付与され、対象部位上の不要な溶媒を除去しつつ、対象部位のトナーが電気的な反発力により感光体212に押し付けられる。なお、対象部位上の不要な溶媒はコロナ放電器等を用いて、いわゆる、コロナスクイーズ法により除去されてもよい。
【0023】
以上に説明したステップS12〜S14は感光体212の各部位に対して行われることから、実際には、ステップS12〜S14は感光体212に対してほぼ並行して行われる。やがて、感光体212上のRの色のトナー像が最初に形成された部位が帯電器22に対向する位置へと戻り、電荷が再度付与されて帯電し、画像形成部23の位置へと移動する(ステップS12)。一方、Rの色のトナー像の最も後ろの部位が現像部241aを通過した段階で、カラーフィルタ製造装置1では、感光ドラム21の外周面にカラーフィルタのRの色成分の画像データの全体に対応するトナー像が形成される。なお、ガラス基板9上に印刷されるカラーフィルタのパターンのX方向の長さは感光ドラム21の幅(X方向の幅)よりも短く、パターンのY方向の長さも感光ドラム21の外周の長さよりも十分に短くされる。そして、Rの色のトナー像の先頭が画像形成部23の位置へと再度到達する際には、画像形成部23に入力される画像データはRからGの色成分のものに切り替えられており、Gの色成分の画像データに応じた静電潜像が形成される(ステップS13)。
【0024】
また、現像ユニット24において現像部241aがRの色成分に対応する静電潜像の最後尾の部位へ湿式トナーを付与した後、Gの色成分に対応する静電潜像の先頭の部位が対向する位置へと到達するまでに(すなわち、感光ドラム21の外周面上において静電潜像(または、トナー像)が形成されない予備の部位が現像ユニット24の位置を通過する間に)、現像部241aが感光体212の表面から離れるとともに現像部241aの下流側の現像部241bが感光ドラム21に当接する。これにより、現像ユニット24へと到達する対象部位には、現像部241bからGの色のトナーが付与されて静電潜像が現像され(ステップS14)、感光体212上にRの色のトナー像に重ねてGの色のトナー像が形成される。
【0025】
トナー像の先頭がさらに1周すると、画像形成部23によりBの色成分の画像データに応じて帯電後の対象部位に静電潜像が形成され(ステップS12,S13)、現像部241bの下流側の現像部241cからR、Gの色のトナーに重ねてBの色のトナーが付与され、静電潜像が現像される(ステップS14)。さらに1周後、感光体212にKの色成分の静電潜像が順次形成され、現像部241cの下流側の現像部241dによりKの色のトナー像がR、G、Bの色のトナー像に重ねて感光ドラム21上に形成される(ステップS12〜S14)。このように、カラーフィルタ製造装置1では、ステップS12〜S14の処理が各現像部241a〜241dを利用して繰り返され、感光ドラム21の外周上に、カラーフィルタのパターンに対応するR、G、B、Kの色のトナー像が形成される。なお、Kの色のトナー像は、ブラックマトリクスに対応する。
【0026】
R、G、B、Kの色のトナー像の全体が形成されると、転写部3が感光ドラム21へと近接する。そして、感光体212上のR、G、B、Kの色のトナー像の先頭の部位が転写部3に対向する位置へと到達するのに合わせて、ガラス基板9が(+Y)方向に水平に一定速度にて移動し、図2に示すように転写ローラ31と感光ドラム21との間に進入する。そして、交流電源33および直流電源34から転写ローラ31に付与される電圧により感光体212上のトナー91がガラス基板9の表面(感光体212側の面)へと転写される(ステップS15)。
【0027】
図4は、交流電源33および直流電源34により転写ローラ31に付与される電圧を示す図であり、縦軸が電圧を示し、横軸が時間を示している。図4中の符号61を付す線が交流電源33が発生する電圧を示し、符号62を付す線が直流電源34が発生する電圧を示している。
【0028】
転写部3では、直流電源34による値V1の直流電圧と、振幅V2が直流電圧の値V1よりも小さい交流電源33による正弦波電圧とが重畳され、図4中の符号63を付す線にて示す電圧が転写ローラ31に付与される。また、前述のように感光体212は円筒部材211を介して電気的に接地されており、これにより、重畳された電圧(すなわち、直流電圧によりバイアスされた正弦波電圧)が感光体212とガラス基板9との間に付与されることとなる。そして、感光体212とガラス基板9との間には、大きさが周期的に変動する一定の向きの電界が作用することにより、トナー91が感光体212上からガラス基板9上に効率よく受け渡されることとなる。本実施の形態では、交流電源33により周波数500Hz、振幅2キロボルト(kV)(VP−P(ピークトゥピーク電圧)では、4kV)の正弦波電圧が付与されるとともに、直流電源34により6kVの直流電圧が付与されることにより、80%以上のトナーの転写効率を得ることができる。
【0029】
ガラス基板9は転写ローラ31の(+Y)側に水平に移動し、除電ローラ32により裏面(感光体212とは反対側の面)に帯電した不要な電荷が除去される。また、ガラス基板9上のトナーは、図1に示す加熱器41により加熱されて溶融され、トナーがガラス基板9上に定着する。
【0030】
転写後の感光体212上の部位は、感光ドラム21の表面へと当接したクリーナ25の位置へと続けて移動し、クリーナ25により感光体212上に残留したトナー(すなわち、ガラス基板9に転写されなかったトナー)等の不要物が除去されて感光体212の表面がクリーニングされ、感光体212が機械的に初期状態に戻される。そして、ランプとフィルタとの組合せ、あるいは、LED等を有する除電器26により光が照射されて感光体212が除電され、電気的に初期状態に戻される。
【0031】
カラーフィルタ製造装置1では、感光体212上のR、G、B、Kの色のトナー像の全体がガラス基板9に一括して転写される。そして、ガラス基板9が転写部3から離れると感光ドラム21の回転が停止し(ステップS16)、カラーフィルタ製造装置1によるカラーフィルタ1枚分の製造処理が終了する。
【0032】
ここで、転写ローラ31に直流電圧のみを付与した場合の比較例について述べる。カラーフィルタ製造装置1において、転写ローラ31に9kVの直流電圧のみを付与した場合にはガラス基板9上のトナーのパターンに乱れが生じ(いわゆる、転写崩れが生じ)、7kVの直流電圧のみを付与した場合にはガラス基板9上のトナーのパターンに目立った乱れは生じなかったが、転写効率が50%以下となった。これに対して、上述のように、6kVの直流電圧と振幅2kVの正弦波電圧とを重畳させた電圧を転写ローラ31に付与した場合には、比較的低い電圧にてガラス基板9上にトナーが適切にかつ(80%以上の転写効率にて)効率よく転写される。
【0033】
本実施の形態におけるカラーフィルタ製造装置1では、ガラス基板9と感光体212との間で転写が行われる領域(すなわち、付与される電圧が実質的に作用する領域)のY方向の幅は約2mmとなる。なお、この幅(転写幅)は実験により得られるものであり、感光ドラム21の外径等に依存すると考えられ、2mmに限定されない。このカラーフィルタ製造装置1において、ガラス基板9の転写部3に対する相対速度を毎秒20mmとし(この場合、ガラス基板9のある箇所が転写が行われる領域に含まれる時間は0.1秒となる。)、交流電源33からの正弦波電圧の周波数を50Hzから1kHzまで変更した場合に、正弦波電圧の振幅や直流電源34からの直流電圧の値、感光体212の帯電電位や露光後の表面電位、あるいは、トナーの帯電量等を調整することによりトナーが適切にかつ効率よく転写される。したがって、トナーの転写時にガラス基板9の同一箇所に作用する正弦波電圧のサイクル数に着目すると、5サイクル以上100サイクル以下となる場合が好ましいといえる。
【0034】
また、カラーフィルタ製造装置1では、ガラス基板9の転写部3に対する相対速度が毎秒200mmであり、正弦波電圧の周波数が1kHzである場合に(この場合、サイクル数が10サイクルとなる。)、より好ましい転写結果が取得される。ガラス基板9の転写部3に対する相対速度については毎秒300mm以下の範囲内が実用的であると考えられる。なお、正弦波電圧の周波数を1kHzより大きくすることも可能であるが、転写ローラ31と他の構成との間での電気的なリークやノイズ等の対策が必要となる。
【0035】
以上のように、図1のカラーフィルタ製造装置1では、感光体212上に形成された静電潜像に現像部241a〜241dにより湿式のカラーのトナーが付与されて感光体212上にトナー像が形成され、感光体212とガラス基板9との間に、転写部3により正弦波の波形に倣って振動する一定方向の電圧が付与される。これにより、カラーフィルタ製造装置1では、空気放電が発生しない程度の低い電圧にて感光体212上のトナーを効率よくかつ適切にガラス基板9に転写して、高精度なカラーフィルタを製造することができる。また、正弦波電圧を発生する交流電源33を利用することにより、転写に利用される電圧を容易に生成することができる。
【0036】
次に、転写部の他の例について説明する。図5は他の例に係る転写部3aの構成を示す図である。図5の転写部3aは図2の転写部3と比較して、交流電源33aが矩形波の電圧(以下、「矩形波電圧」という。)を生成する点で相違する。他の構成は転写部3と同様であり、同符号を付している。
【0037】
図5の転写部3aを有するカラーフィルタ製造装置1がカラーフィルタを製造する際には、図1のカラーフィルタ製造装置1と同様に、感光ドラム21の回転を開始した後(図3:ステップS11)、帯電後の感光体212に光を照射して静電潜像が形成され(ステップS12,S13)、感光体212上の静電潜像に湿式のカラーのトナーが付与される(ステップS14)。そして、残りの3色分についてもステップS12〜S14が繰り返された後、転写部3aによりガラス基板9に感光体212上のトナーが転写される(ステップS15)。感光体212上のトナー像の全体がガラス基板9上に転写されると、感光ドラム21の回転が停止され、カラーフィルタ製造処理が終了する(ステップS16)。
【0038】
図6は、感光体212上のトナーをガラス基板9に転写する際に、交流電源33aおよび直流電源34により転写ローラ31に付与される電圧を示す図であり、縦軸が電圧を示し、横軸が時間を示している。図6中の符号64を付す線が交流電源33aが発生する電圧を示し、符号65を付す線が直流電源34が発生する電圧を示している。なお、直流電源34による直流電圧の値をV3として示している。
【0039】
ここで、交流電源33aにより付与される矩形波電圧の値は、図6に示すように0またはV4とされるため、一般的には交流電圧とはいえないが、交流電源33aからの矩形波電圧を振幅がV4/2で値0を中心として振動する交流電圧と捉え、その代わりに直流電源34からの直流電圧の値を(V3+V4/2)とみなすことができるため、本実施の形態では、一定の振幅にて振動する電圧を交流電圧と同等であると捉えるものとする。したがって、転写部3では、値(V3+V4/2)の直流電圧と、振幅V4/2が直流電圧の値(V3+V4/2)よりも小さい矩形波電圧とが重畳されて、図6中に符号66を付す線にて示す電圧が転写ローラ31に付与されているとみなすことができる。図6中の線66にて示す電圧では、図4中の線63にて示す電圧に比べて、電圧の大きさがより急激に変動するため、この電圧が感光体212とガラス基板9との間に付与されることにより、感光体212上のトナーがガラス基板9にさらに効率よく受け渡される。
【0040】
転写部3aを利用した本処理例では、交流電源33aにより周波数500Hz、振幅1.5kV(V0−Pでは、3kV)、デューティ比30%の矩形波電圧が付与され、直流電源34により6kVの電圧が付与されることにより、およそ90%のトナーの転写効率を得ることができる。また、矩形波電圧の周波数、デューティ比または振幅を変化させた場合であっても、他のパラメータを調整することにより、トナーの適切な転写が可能であることが確認されている。しかしながら、矩形波電圧のデューティ比を50%以上とした場合には、良好なトナーの転写結果を得るための他のパラメータの調整範囲が狭くなるため、デューティ比30%における余裕度を考慮すれば、デューティ比は40%以下であることが好ましいといえる。また、矩形波電圧でも正弦波電圧の場合と同様に、トナーの転写時にガラス基板9の同一箇所に作用するサイクル数が5サイクル以上100サイクル以下であることが好ましいと考えられる。
【0041】
以上のように、図5の転写部3aを有するカラーフィルタ製造装置1では、矩形波電圧を生成する交流電源33a(いわゆる、パルス電源)を用いることにより、感光体212とガラス基板9との間に矩形波の波形に倣って振動する一定方向の電圧が付与される。これにより、感光体212とガラス基板9との間に強さが周期的にかつ急激に変動する一定の向きの電界を作用させて効率のよいトナーの転写を容易かつ適切に実現することができ、カラーフィルタを精度よく製造することができる。
【0042】
次に、カラーフィルタ製造装置の他の例について説明する。図7は他の例に係るカラーフィルタ製造装置1aの構成を示す図である。カラーフィルタ製造装置1aでは感光体212上のトナーが転写される中間転写体51が設けられ、中間転写体51を介してガラス基板9上にトナーが転写される。具体的には、中間転写体51は環状のベルトとされ、感光ドラム21に4色のトナー像が形成された後、感光ドラム21と中間転写体51とが当接する。そして、感光体212上のトナーは循環移動する中間転写体51に転写されてガラス基板9へと送られ、転写部3により中間転写体51とガラス基板9との間に、直流電圧と振幅が直流電圧の値よりも小さい交流電圧とを重畳した電圧が付与されて、中間転写体51上のトナーが効率よくかつ適切にガラス基板9に転写される。
【0043】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0044】
上記実施の形態では、交流電源33,33aにより正弦波電圧または矩形波電圧が付与される場合について説明を行ったが、直流電源34からの直流電圧に重畳される交流電圧は、直流電圧の値よりも小さい振幅を有するものであるならば、例えば、のこぎり波や三角波等であってもよい。
【0045】
また、カラーフィルタ製造装置では必ずしも外周に感光体212が付与された感光ドラム21が設けられる必要はなく、例えば、表面に感光体が形成された環状ベルトの周囲に帯電器、画像形成部、現像部および転写部が配置され、感光体上にトナー像が形成されてガラス基板9に転写されてもよい。
【0046】
現像部241a〜241dは、必ずしも2つのローラ(現像ローラ242およびスキージローラ243)を有するものである必要はなく、他の方式により湿式トナーの付与および不要な湿式トナーの回収を行うものでもよい。
【0047】
また、カラーフィルタ製造装置1では、転写ローラ31の(−Y)側にてガラス基板9に湿式トナー中の溶媒と同じ液体(以下、「補助液」という。)を供給する補助液供給部(図2および図5中にて符号35を付して破線にて示す。)が設けられてもよい。補助液供給部35は、ガラス基板9が転写ローラ31と感光体212との間に進入する際に、ガラス基板9の感光ドラム21側の面に補助液を供給し、転写ローラ31による転写位置の近傍において感光体212とガラス基板9との間の間隙が補助液により満たされることにより、空気放電が発生することがより確実に防止される。なお、当該間隙が補助液により満たされない場合に(すなわち、空気が介在する場合に)、放電が生じる条件はパッシェンの法則に則ることが知られている。補助液は感光ドラム21の回転方向における転写部3の上流側において感光体212上に供給されてもよく、また、ガラス基板9および感光体212の双方に供給されてもよい。図7のカラーフィルタ製造装置1aに補助液供給部35が設けられてもよい。
【0048】
上記実施の形態では、ガラス基板9上に4色のトナーが一括して転写されてR、G、Bのカラーフィルタが製造されるが、ガラス基板9上に4色のトナーが順次転写されてもよい。また、それぞれが帯電器22、画像形成部23および1つの現像部241a〜241dの組合せである複数の画像形成ユニットを1つの感光ドラム21の周囲に配置し、感光ドラム21が1回転する間に、複数種類の色のトナーが感光体212上に付与されてガラス基板9に転写されてもよい。このように、カラーフィルタ製造装置の構成は、様々なものとすることができる。
【0049】
カラーフィルタ製造装置においてトナーが転写されてカラーフィルタとなるフィルタ部材はガラス基板9以外に、例えば、透明の絶縁フィルムであってもよい。カラーフィルタの製造に用いられる透明の絶縁フィルムの厚さは、一般的に200μm以上とされるが、この場合にも、カラーフィルタ製造装置では、感光体212上のトナーを効率よくかつ適切に絶縁フィルム上に転写することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】カラーフィルタ製造装置の構成を示す図である。
【図2】転写部の構成を示す図である。
【図3】カラーフィルタを製造する処理の流れを示す図である。
【図4】転写ローラに付与される電圧を示す図である。
【図5】転写部の他の例を示す図である。
【図6】転写ローラに付与される電圧を示す図である。
【図7】カラーフィルタ製造装置の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1,1a カラーフィルタ製造装置
3,3a 転写部
9 ガラス基板
23 画像形成部
51 中間転写体
91 トナー
212 感光体
241a〜241d 現像部
S13〜S15 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真法にてカラーフィルタを製造するカラーフィルタ製造装置であって、
感光体と、
帯電後の前記感光体に光を照射して静電潜像を形成する画像形成部と、
前記感光体上の静電潜像に湿式のカラーのトナーを付与する現像部と、
前記感光体上の前記トナー、または、前記感光体上から転写された中間転写体上の前記トナーをフィルタ部材に転写する際に、前記感光体または前記中間転写体と前記フィルタ部材との間に直流電圧と振幅が前記直流電圧の値よりも小さい交流電圧とを重畳した電圧を付与する転写部と、
を備えることを特徴とするカラーフィルタ製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のカラーフィルタ製造装置であって、
前記交流電圧が正弦波電圧であることを特徴とするカラーフィルタ製造装置。
【請求項3】
請求項2に記載のカラーフィルタ製造装置であって、
トナーの転写時にフィルム部材上の同一箇所に作用する前記正弦波電圧のサイクル数が5サイクル以上100サイクル以下であることを特徴とするカラーフィルタ製造装置。
【請求項4】
請求項1に記載のカラーフィルタ製造装置であって、
前記交流電圧が矩形波電圧であることを特徴とするカラーフィルタ製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載のカラーフィルタ製造装置であって、
トナーの転写時にフィルム部材上の同一箇所に作用する前記矩形波電圧のサイクル数が5サイクル以上100サイクル以下であり、デューティ比が40パーセント以下であることを特徴とするカラーフィルタ製造装置。
【請求項6】
電子写真法にてカラーフィルタを製造するカラーフィルタ製造方法であって、
帯電後の感光体に光を照射して静電潜像を形成する工程と、
前記感光体上の静電潜像に湿式のカラーのトナーを付与する工程と、
フィルタ部材に前記感光体上の前記トナー、または、前記感光体上から転写された中間転写体上の前記トナーを転写する工程と、
を備え、
前記トナーを転写する工程において、前記感光体または前記中間転写体と前記フィルタ部材との間に直流電圧と振幅が前記直流電圧の値よりも小さい交流電圧とを重畳した電圧を付与することを特徴とするカラーフィルタ製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかに記載のカラーフィルタ製造装置にて製造されたことを特徴とするカラーフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−126689(P2006−126689A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−317540(P2004−317540)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】