説明

カラーレジスト用剥離剤

【課題】金属(特にアルミニウム)の腐食を抑えつつ、金属イオンを含まない、優れたカラーレジスト剥離性を有するカラーレジスト用剥離剤を提供する。
【解決の手段】水、第4級アンモニウム水酸化物[B]、アルカノールアミン[C]、3〜8価の多価アルコール[D]、及び、下記一般式(1)で表わされるシラン系化合物[A]を含有し、多価アルコールを除く水溶性有機溶剤[E]を含有しないか、又は、30重量%未満の量で含有し、かつ、前記[B]成分の含有量の上限が10重量%であるカラーレジスト用剥離剤。
[(XN−(CH−)NH2−m−(CH−]Si(OR)4−n (1)
[但し、式中k、lは1〜4の整数、mは0〜2の整数、nは1〜3の整数を表す。Rは水素又は炭素数1〜4のアルキル基、Xは水素又は炭素1〜4のアルキル基である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属(特にアルミニウム)配線を使用した液晶基板上のカラーレジストを剥離する際に使用されるカラーレジスト用剥離剤に関する。
【背景技術】
【0002】
カラーTFT液晶パネルには、カラー表示を行うためにカラーフィルタが用いられる。カラーフィルタは一般に、液晶パネルを構成する基板上に液状のカラーレジストを塗布するかまたはフィルム状のカラーレジストを接着したのち、露光、現像、ベークして形成される。カラーフィルタ形成時に、異物混入、パターン欠損等の不良等が発生することがある。もしも修正不能な不良が発生したなら、そのような基板はそのままでは製品化できないため、廃棄することになるが、しかし、その場合、廃棄物が発生する等、コストがかかる。そこで、不良の発生した基板からカラーレジストを剥離し、基板を再生することが求められる。
【0003】
カラーTFT液晶パネルの基板製造の際に用いられるレジストには、カラーレジスト及び金属配線パターン形成に用いられるフォトレジスト(以下、フォトレジスト)がある。このうち、フォトレジストの剥離には、溶剤、アミンを主成分としたフォトレジスト用剥離剤が一般に使用されている。しかし、カラーレジストとフォトレジストでは、樹脂組成が異なる上、カラーレジストは高温ベークにより硬化しているため、フォトレジスト用剥離剤では剥離困難である。そのため、カラーレジストの剥離剤として、一般的には、濃硫酸等の強酸(例えば、特許文献1、2等参照。)、又は無機アルカリ水溶液等の強アルカリ(例えば、特許文献3〜6等参照。)が使用されている。
【特許文献1】特開2005−189679号公報
【特許文献2】特開2002−267827号公報
【特許文献3】特開2005−31682号公報
【特許文献4】特開2001−124916号公報
【特許文献5】特開平11−21483号公報
【特許文献6】特開平06−321581号公報
【0004】
ところで、TFT液晶パネルはアレイ基板と対向基板を張り合わせて製造される。通常、カラーフィルタは対向基板に作成される。対向基板にはアルミニウム等、腐食しやすい配線金属が存在しないため、強酸や強アルカリによるカラーレジスト剥離を行っても問題がなかった。しかし、近年、性能向上のため、アレイ基板にカラーフィルタを作成することが検討されている。アレイ基板にはアルミニウム等、腐食しやすい配線金属が存在しているため、強酸や強アルカリからなる従来のカラーレジスト剥離剤で処理すると、金属配線が腐食するという問題があった。さらに、濃硫酸等の強酸は生体や環境への危険性が高く、無機アルカリ水溶液は金属イオンを大量に含み、TFTの動作に悪影響を与える可能性があるという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来技術では、カラーレジストの剥離性及びアルミニウム等の金属配線の防食性を両立できていないのが現状であり、これらの諸問題の改善が要望されていた。
【0006】
したがって、本発明は、金属(特にアルミニウム)の腐食を抑えつつ、金属イオンを含まない、優れたカラーレジスト剥離性を有するカラーレジスト用剥離剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水、第4級アンモニウム水酸化物[B]、アルカノールアミン[C]、3〜8価の多価アルコール[D]、及び、下記一般式(1)で表わされるシラン系化合物[A]を必須成分とし、3〜8価の多価アルコールを除く水溶性有機溶剤[E]の配合割合の下限が0重量%であり上限が30重量%未満であり、かつ、前記[B]成分の含有量の上限が10重量%であるカラーレジスト用剥離剤である。
[(XN−(CH−)NH2−m−(CH−]Si(OR)4−n (1)
但し、式中k、lは1〜4の整数、mは0〜2の整数、nは1〜3の整数を表す。Rは水素又は炭素数1〜4のアルキル基、Xは水素又は炭素1〜4のアルキル基である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のカラーレジスト用剥離剤はカラーレジスト剥離性に優れ、かつ、金属(特にアルミニウム)防食性に優れている。そのため液晶パネルのアレイ基板の金属配線にダメージを与えず、カラーレジストを容易に剥離洗浄することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
上記シラン系化合物[A]としては、上記一般式(1)で表わされる化合物であれば特に限定されず、具体的には、例えば、γ−アミノプロピルトリヒドロキシシランおよびその縮合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(3−アミノプロピル)アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。その中でも特に好ましいのはγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランである。上記シラン系化合物[A]は1種を使用してもよく又は2種以上を併用してもよい。
【0010】
本発明においては、上記シラン系化合物[A]の含有量は、0.1〜10重量%が好ましい。シラン系化合物[A]の含有量が0.1重量%未満ではアルミニウム等の金属防食性が不十分となるおそれがあり、10重量%を超えるとカラーレジスト剥離性が低下するおそれがある。より好ましくは0.2〜5重量%である。
【0011】
本発明で使用される第4級アンモニウム水酸化物[B]は下記一般式(2)で表される。
【0012】
【化1】

【0013】
式中Rは炭素数1〜3のアルキル基、または炭素数1〜3のヒドロキシ置換アルキル基を表し、R1、R、R3は、同一又は異なった、炭素数1〜3のアルキル基を表す。第4級アンモニウム水酸化物[B]としては、具体的には、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド、トリプロピル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド、トリメチル(1−ヒドロキシプロピル)アンモニウムヒドロキシド等が例示できる。これらの中で特に好ましいのはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(以下TMAHと略称する)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシドである。これらは1種を使用してもよく又は2種以上を併用してもよい。
【0014】
本発明において、第4級アンモニウム水酸化物[B]の含有量の上限は、10重量%であり、下限はとくに限定しないが0.1重量%が好ましく、より好ましくは0.2重量%であり、上限は好ましくは5重量%である。好ましい範囲は、例えば、0.1〜10重量%、より好ましくは0.2〜5重量%である。第4級アンモニウム水酸化物の含有量が0.1重量%未満ではカラーレジスト剥離性が不十分である場合があり、10重量%を超えると、金属腐食性が強くなるとともに、第4級アンモニウム水酸化物が溶解しない場合があり、好ましくない。
【0015】
アルカノールアミン[C]としては特に限定されず、同一分子中にアミノ基とアルコール性水酸基を持つ化合物でモノ、ジ、トリ等のエタノールアミン、イソプロパノールアミン等が挙げられる。これらの中でモノエタノールアミンが特に好ましい。
【0016】
本発明において、アルカノールアミン[C]の含有量は、50〜95重量%が好ましく、より好ましくは60〜85重量%である。アルカノールアミンの含有量が50重量%未満ではカラーレジスト剥離性が不十分である場合があり、95重量%を超えると、他成分の含有量が減少し、剥離性が低下する。
【0017】
本発明において、水の含有量は、1〜30重量%が好ましく、より好ましくは5〜20重量%である。水の含有量が1重量%未満では第4級アンモニウム水酸化物が溶解せず、30重量%を超えると金属防食性が不十分となるおそれがある。
【0018】
本発明における3〜8価の多価アルコール[D]は、アルカリ洗浄に使用可能なものであれば特に限定はない。具体例としては、グリセリン、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等が挙げられる。この中で、特に好ましいのはグリセリン、ソルビトールである。
【0019】
本発明において、3〜8価の多価アルコール[D]の含有量は、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%である。3〜8価の多価アルコールの含有量が0.5重量%未満では金属防食性が不十分となるおそれがあり、10重量%を超えると剥離性が低下するおそれがある。
【0020】
非必須成分である本発明における3〜8価の多価アルコールを除く水溶性有機溶剤[E]は、3〜8価の多価アルコールを除く水溶性有機溶剤であれば特に限定しない。具体的にはエチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノターシャルブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N−メチル−2ピロリドン、γ−ブチロラクタム、フルフラール等が挙げられる。これら水溶性有機溶剤は単独または混合して用いてもよい。上記[E]成分は、配合割合の下限が0重量%であり上限が30重量%未満であって、含有してもよく、含有しなくてもよいが、含有する場合の含有量は、組成物中、上限が30重量%未満である。3〜8価の多価アルコールを除く水溶性有機溶剤の含有量が30重量%以上になると、剥離性が低下する恐れがある。
【0021】
本発明においては、上述の水、[A]、[B]、[C]、及び[D]並びに該当する場合は[E]成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲内で、水溶性有機溶剤、界面活性剤等一般の添加剤をその他成分として加えることができる。これらその他成分の配合量は、通常、組成物中、0.01〜10重量%であってよい。
【0022】
上記その他成分における界面活性剤としては、例えば、炭素数6〜12の分岐脂肪酸塩をあげることができる。
【0023】
本発明のカラーレジスト用剥離剤は、上記各成分を混合して製造することができ、例えば、水、[A]、[B]、[C]、及び[D]、並びに該当する場合は[E]及び/又は上記その他成分を混合して調製できる。
【0024】
本発明のカラーレジスト用剥離剤の使用方法を以下に例示する。ただし、本発明はこの例に限定されるものではない。まず、カラーレジストによりカラーフィルタが形成された基板を用意する。次に、この基板のカラーレジストを本発明のカラーレジスト用剥離剤中に、例えば室温〜80℃、1〜30分間浸せきする。このとき、必要により剥離剤を攪拌するか、又は基板を振動してもよい。または、本発明の剥離剤を基板にシャワーやスプレー等で吹き付けることもできる。この際、ブラシ洗浄を併用することにより、カラーレジスト剥離性を向上させることもできる。カラーレジストを溶解又は剥離した後、好ましくは純水で、溶解したカラーレジストを含むカラーレジスト用剥離剤を洗浄除去し、カラーレジストを基板上から除去する。その後、エアナイフ等で、基板上の液体を吹き飛ばし、基板を乾燥させる。
【0025】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0026】
実施例1〜3、比較例1〜8
表1記載の各成分部数(重量部)(純分表示)を1Lポリ容器中に入れ、室温で充分振とうして実施例及び比較例の剥離剤を調製した。
表1中の略号は以下の通りである。
A成分(シラン系化合物)
A1:γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン
B成分(第4級アンモニウム水酸化物)
B1:テトラメチルアンモニウム水酸化物
C成分(アルカノールアミン)
C1:モノエタノールアミン(MEA)
C2:ジエタノールアミン
D成分(3〜8価の多価アルコール)
D1:ソルビトール
E成分(水溶性有機溶剤)
E1:ジメチルスルホキシド(DMSO)
E2:ジエチレングリコール モノエチルエーテル(EDG)
F成分:硫酸
【0027】
実施例及び比較例で得られた剥離剤の評価試験方法を以下に示し、評価結果を表1に示す。
1.金属防食性
ガラス基板上にMo/Al配線がパターニングされた基板を評価に用いた。この基板をカラーレジスト剥離剤中に60℃で30分間浸漬した。その後、基板を取り出し、純水で洗浄し、Nガスを用いたエアーガンで純水を吹き飛ばし、自然乾燥させた。処理後の基板を電子顕微鏡で観察し、金属配線の防食性を下記評価基準で評価した。
<評価基準>
○:金属配線に腐食なし。
△:金属配線に僅かに腐食あり。
×:金属配線に大きく腐食あり。
金属防食性評価において、評価が○であったカラーレジスト用剥離剤(実施例1〜3、比較例3〜4、9)について、以下のカラーレジスト剥離性評価を行った。
2.カラーレジスト剥離性
顔料、アクリル樹脂、溶剤を主成分とするカラーレジストをレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)の3種類用意した。それぞれ個別にガラス基板上に塗布し、100℃で3分間ベークした。次にブロードバンド露光機でパターン露光した(150mJ/cm)。次に水酸化カリウム水溶液でカラーレジストを現像した。最後に基板をホットプレートを用い200℃で5分間ベークして厚さ約2μmのカラーレジストパターンを得た。これをカラーレジスト剥離性評価に用いた。まず、この基板をカラーレジスト剥離剤中に60℃で5分間浸漬した。その後、基板を取り出し、純水で洗浄し、Nガスを用いたエアーガンで純水を吹き飛ばし、自然乾燥させた。処理後の基板を下記評価基準で目視で観察し、カラーレジストパターンの剥離性を確認した。
<評価基準>
○:カラーレジストパターン残りなし。
△:カラーレジストパターン残りが僅かにあり。
×:カラーレジストパターン残りが多数あり。
【0028】
【表1】

【0029】
表1の結果から、実施例1〜3の剥離剤は、金属イオンを含まず、金属配線を腐食することなく、カラーレジストを剥離できることがわかる。
一方、硫酸水溶液である特開2002−267827号公報記載の組成物(比較例1)、強アルカリである特開2005−31682号公報記載の組成物(比較例2)、B〜D成分及び水を含有するがA成分を含有していない組成物(比較例5)、A〜C成分及び水を含有するがD成分を含有していない組成物(比較例6)、B〜C成分及び水を含有するがA成分およびD成分を含有していない組成物(比較例7)、B成分を10重量%超えて含有している組成物(比較例8)は、アルミニウム防食性が不十分であることがわかる。また、A、C〜D成分及び水を含有するがB成分を含有していない組成物(比較例3)、A、C〜D成分含有するがB成分及び水を含有していない組成物(比較例4)、並びにA〜D成分を含有するがE成分を過剰に含有する組成物(比較例9)は、アルミニウム防食性は十分であるが、カラーレジスト剥離性が不十分であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、第4級アンモニウム水酸化物[B]、アルカノールアミン[C]、3〜8価の多価アルコール[D]、及び、下記一般式(1)で表わされるシラン系化合物[A]を必須成分とし、3〜8価の多価アルコールを除く水溶性有機溶剤[E]の配合割合の下限が0重量%であり上限が30重量%未満であり、かつ前記[B]成分の含有量の上限が10重量%であるカラーレジスト用剥離剤。
[(XN−(CH−)NH2−m−(CH−]Si(OR)4−n (1)
[但し、式中k、lは1〜4の整数、mは0〜2の整数、nは1〜3の整数を表す。Rは水素又は炭素数1〜4のアルキル基、Xは水素又は炭素1〜4のアルキル基である。]
【請求項2】
シラン系化合物[A]が、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランである、請求項1記載のカラーレジスト用剥離剤。
【請求項3】
シラン系化合物[A]を0.1〜10重量%、第4級アンモニウム水酸化物[B]を0.1〜10重量%、アルカノールアミン[C]を50〜95重量%、3〜8価の多価アルコール[D]を0.5〜10重量%、水を1〜30重量%含有し、3〜8価の多価アルコールを除く水溶性有機溶剤[E]を含有しないか、又は、30重量%未満の量で含有する請求項1又は2記載のカラーレジスト用剥離剤。
【請求項4】
液晶基板上のカラーフィルタを剥離する際に使用するための請求項1〜3のいずれか記載のカラーレジスト用剥離剤。

【公開番号】特開2009−115929(P2009−115929A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286782(P2007−286782)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【出願人】(000115083)ユシロ化学工業株式会社 (69)
【Fターム(参考)】