説明

カルボキシルエチルセルロース

【課題】カルバモイルエチル基をほとんど含まず、化成品として有効に利用できる水溶性のカルボキシルエチルセルロースを提供し、また、副反応の抑制されたカルボキシルエチルセルロースの効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】カルボキシルエチル基の置換度が0.2〜2.8であって、カルバモイルエチル基の置換度が0.04以下であり、重合度が2〜3000であることを特徴とするカルボキシルエチルセルロース、及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシルエチル基の置換度が0.2〜2.8であって、カルバモイルエチル基の置換度が0.04以下であり、重合度が2〜3000であるカルボキシルエチルセルロース及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは植物主成分の約50%を占めており、地球上で最も多量に生産されているバイオマスである。近年、石油のような化石資源の枯渇や燃焼による二酸化炭素増加などの環境問題から、再生産可能でカーボンニュートラルであるセルロースの石油代替の材料への変換が注目されている。特にセルロースの遊離の水酸基に官能基が導入された有機溶剤や水に対して溶解性を示すセルロース誘導体は、成形性や取扱の容易さ等の観点から現在でも様々な分野で利用されている。
例えば、セルロースアセテート(CA)は、アセトン等の有機溶剤に溶け、繊維、フィルター、プラスチック、フィルム、塗料の分野で利用されている。また、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシルメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等はいずれも水溶性を示すが、それぞれの水溶液特性は大きく異なり(例えば、チキソトロピー性:CMC水溶液大、MC水溶液小、熱ゲル化性:MC水溶液あり、CMC水溶液なし)、その特性に応じた用途分野(食料品、医薬品、化粧品或いは建材など)で広く利用されている。
このようにセルロース誘導体は、官能基の構造によって独自の機能を発現することから、新規構造を有するセルロース誘導体を創出することにより、その利用価値は将来的に更に高まるといえる。
【0003】
一方、近年、日本では公害対策基本法、大気汚染防止法を始めとした環境関連規制が進んでおり、塗料や接着剤、インキ等のVOC削減対策として主成分としての合成樹脂の水性化が求められていることから、これらの分野で利用できる新規水溶性セルロース誘導体の開発が期待されている。
セルロースの水性化の考え方としては、アミド基、カルボキシル基等の親水基の導入が挙げられる。特許文献1では、セルロースをアクリルアミドと反応させカルバモイルエチルセルロースを得た後、加水分解によりカルボキシルエチル基を有するカルボキシルエチルセルロースが合成できることが開示されている。また特許文献2には、アクリロニトリルに対してセルロースを付加反応させてシアノエチルセルロースを得てから、過酸化水素水によりカルバモイルエチルセルロースを経由し、最後に酸加水分解することによりカルボキシルエチルセルロースを得ることが開示されている。しかしながら、特許文献1、2に開示された方法で得られたカルボキシルエチルセルロースやカルバモイルエチルセルロースは、カルバモイルエチル基及びカルボキシルエチル基の総置換度が0.1程度と低く、水溶性を示さない。
【0004】
特許文献3には、カルボキシルエチル基とカルバモイルエチル基を有する水溶性のカルボキシルエチルカルバモイルエチルセルロースが開示されている。しかしながら、カルバモイルエチル基を有するカルボキシルエチルカルバモイルエチルセルロースは、ポリマーが経時的に黄変する。またポリマーが黄変することで、水溶液の透明性が変化したり、更に悪いことには水溶性を示さなくなったり、当該水溶液を利用した製品の性能を著しく損なわせる。
また特許文献3には、セルロースをアルカリセルロース化した後にアクリロニトリルと反応させ、反応途中で水を加えることによりカルボキシルエチルカルバモイルエチルセルロースを得られることが開示されている。しかしながら、この方法ではカルボキシルエチル基とカルバモイルエチル基の置換度比率の制御が非常に困難で、再現性良く置換度比率が同じカルボキシルエチルカルバモイルエチルセルロースを得ることができないという問題があった。更に、この方法ではアクリロニトリルの利用率が30%前後と低く、同時に発生する副生成物が多いため有機溶剤による繰り返し精製が必要であるうえ十分に純度を上げることができなくなり、コスト高になるという欠点を有している。
【0005】
【特許文献1】米国特許第2,338.681号明細書(1944)
【特許文献2】米国特許第2,820,691号明細書(1959)
【特許文献3】特開昭60−044502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、カルバモイルエチル基をほとんど含まず、化成品として有効に利用できる水溶性のカルボキシルエチルセルロースを提供することにある。また、本発明の別の目的は、副反応の抑制されたカルボキシルエチルセルロースの効率的製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、セルロースとアクリロニトリルを特定濃度のアルカリ水溶液で反応させ、加水分解させること、更に当該工程を特定様式の攪拌機を用いることによりカルバモイルエチル基を含まないカルボキシルエチルセルロースが高効率的且つ高純度で得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
すなわち本発明は、カルボキシルエチル基の置換度が0.2〜2.8であるカルボキシルエチルセルロースであって、カルバモイルエチル基の置換度が0.04以下であり、重合度が2〜3000であるカルボキシルエチルセルロース、にかかるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のカルボキシルエチルセルロースは、白度に優れ製品品位が高い。また不純物も少ないので安定性、安全性が高い。また本発明に係る製造方法は、原料の利用率が高く、工程が1ステップかつ精製も簡便であるため、生産コストが安くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のカルボキシルエチルセルロースは、カルボキシルエチル基の置換度が0.2〜2.8の範囲であることが必要である。カルボキシルエチル基の置換度が0.2未満であると、カルボキシルエチルセルロースは水溶性を示さない。一方、カルボキシルエチル基の置換度が2.8を超えると、水溶液の透明性が著しく低下する。水溶性及び水溶液の透明性の観点から、カルボキシルエチル基は0.3〜2.7が好ましく、最も好ましくは0.4〜2.5の範囲である。また本発明のカルボキシルエチルセルロースは、カルバモイルエチル基が0.04以下であることが必要である。カルバモイルエチル基が0.04を超えると、水溶液の状態で保存している間に黄変する。好ましくは、カルバモイルエチル基の置換度が0.03以下であって、更に好ましくはカルバモイルエチル基の置換度が0.01以下である。
本発明のカルボキシルエチルセルロースの重合度は、成形材料としての機械的特性及び塗膜材料として使用した時の塗膜強度を発揮するために2〜3000の範囲であることが必要である。好ましくは200〜2500、より好ましくは300〜2000の範囲である。
【0010】
本発明のカルボキシルエチルセルロースは、アクリル酸、2−シアノエタノール、3−ヒドロキシプロピオン酸、3−シアノエチルエーテル、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウムの群から選ばれる不純物の総量がカルボキシルエチルセルロースの重量に対して1000ppm以下であることが好ましい。不純物の総量が1000ppmを超えると、塗料材料として必要な水溶液のチキソトロピー性を失い、接着剤としての接合能力が低下する。好ましくは、不純物の総量が500ppm以下であり、更に好ましくは200ppm以下である。
本発明のカルボキシルエチルセルロースは、水溶液、フィルム、養魚用飼料、食品、壁材組成物、掘削安定液用調整剤、化粧品、医薬品、洗浄剤、塗料、高分子架橋体、高吸水性樹脂などの分野に使用することができるが、用途はこれらの分野を限定されない。
【0011】
本発明のカルボキシルエチルセルロースは、特に限定はされないが、下記(a)〜(d)の工程を含み、かつ(c)及び(d)工程において、(e)攪拌軸が自転公転式で回転する二軸型混練機を使用することで製造することができる。
(a)セルロースにアルカリ濃度0.1〜40wt%のアルカリ金属水酸化物からなる水溶液をセルロースの重量に対して1.2〜50倍量になるように添加し、0〜80℃、5〜120分間浸漬する工程。
(b)セルロース重量に対してアルカリ水溶液が0.2〜10倍量になるように圧搾する工程。
(c)上記工程(b)で得られたアルカリセルロースにアクリロニトリルをセルロースのグルコース残基当り0.2〜15モル相当量投入してから、アルカリセルロースとアクリロニトリルを−30〜50℃で、2〜350時間反応させシアノエチルセルロースを合成する工程。
(d) 上記工程(c)のシアノエチルセルロースを単離することなく、温度−30〜30℃で、水及びアルカリ水溶液を添加し、反応系内のアルカリ濃度0.1〜18wt%に調整して1〜36時間アルカリ加水分解させ、カルボキシルエチルセルロースに変換する工程。
【0012】
(a)の工程は、原料セルロースをアルカリ水溶液に浸漬し、アルセル化を行い、アルカリセルロースを生成させるアルセル化工程である。
(b)の工程は、工程(a)で得られたアルカリセルロース中のアルカリ水溶液量をセルロース重量に対して特定範囲内にコントロールする圧搾工程である。
(c)の工程は、工程(b)のアルカリセルロースにアクリロニトリルを添加し、シアノエチルセルロースを生成させるシアノエチル化工程であり、下記の反応式(式1)で示される。
【化1】

(d)の工程は、工程(c)のシアノエチルセルロースを加水分解反応し、カルボキシルエチルセルロースに変換する工程であり、下記の反応式(式2)で示される。
【化2】

【0013】
以下、工程(a)〜(d)及び(e)の攪拌要件について、詳細に説明する。
(a)アルセル化工程
本発明で使用されるセルロース原料は、綿、木材等の天然セルロース、コットンリンター、または再生セルロースや結晶セルロースであってもよく、目的とする用途の必要性に応じて、適宜選択することができる。
使用するセルロース原料は、ロータリーカッターなどによる粉砕機で1〜50mm角に裁断することが反応の均一性を高める観点から好ましい。
セルロースをアルカリ金属水酸化物からなる水溶液に浸漬する際の水溶液のアルカリ濃度は0.1〜40wt%の範囲である。アルカリ濃度が40wt%を超えるとセルロースが解重合反応を起こし大幅な重合度の低下を招き、目的とする重合度のカルボキシルエチルセルロースを得ることができない。またアルカリ濃度が0.1wt%未満であると、アルセル化が円滑に進まず、アクリロニトリルへのセルロースの付加反応(式1)が進行しない。好ましくはアルカリ濃度が5〜35wt%で、更に好ましくは8〜30wt%の範囲である。
【0014】
アルセル化工程において用いるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウムなどが使用し得るが、アルセル化の効率及び生成したカルボキシルエチルセルロースからの塩の除去効率などの観点から水酸化ナトリウムが好ましい。
セルロースをアルカリ金属水酸化物からなる水溶液(以下、「アルカリ水溶液」と略記する。)に浸漬する場合、アルカリ水溶液の量はセルロース重量の1.2〜50倍量の範囲である。アルカリ水溶液の量が1.2倍量未満であると、アルセル化が円滑に進まず、セルロースへのアクリロニトリルの付加反応(式1)が均一に進行しなくなり、未反応セルロースが大量に残存してしまう。50倍量を超えると、カルボキシルエチルセルロースに多量の不純物が残存し、洗浄を繰り返しても不純物量を1000ppm以下にすることができない。アルカリ水溶液の量はセルロース重量の1.5〜45倍量が好ましく、更に好ましくは2〜40倍量の範囲である。
浸漬温度は、0〜80℃である。0℃未満であるとアルセル化が円滑に進まず、セルロースへのアクリロニトリルの付加反応が起きない。80℃を超えるとセルロースの解重合反応が起こり、重合度が低下する。アルセル化を円滑に進行させ、かつ重合度低下を抑制するためには、5〜40℃が好ましい。浸漬時間は、アルカリ水溶液のアルカリ濃度と浸漬温度により決定されるが、反応の均一性や効率性から5〜120分である。
【0015】
(b)圧搾工程
アルカリ水溶液浸漬後、セルロース重量に対してアルカリ水溶液0.2〜10倍量となるようにプレスやローラー等を用いて圧搾する。10倍量を超えるとアクリロニトリルと水との副反応(式3)及び逆平衡反応であるシアノエチルセルロースからの脱シアノエチル化反応(式4)が促進され、目的とする置換度のカルボキシルエチルセルロースが得られないとともに、カルボキシルエチルセルロースに含まれる不純物の総量が1000ppmを超えてしまう。
【化3】

【化4】

一方、0.2倍量未満に圧搾することは機械操作上難しい。圧搾後のアルカリ水溶液量はセルロース重量に対して0.5〜8倍量が好ましく、更に好ましくは0.8〜6倍量の範囲である。
【0016】
(c)シアノエチル化工程
アルカリセルロースを(e)にて後述する二軸型混練機に移した後、アクリロニトリルをセルロースのグルコース残基当り0.2〜15モル加える。このアクリロニトリルの添加の際、アルカリセルロースは攪拌状態である方が均一性という面で好ましい。アクリロニトリルの添加量がグルコース残基当り0.2モル未満だと水溶性を示すカルボキシルエチルセルロースが得られず、15モルをこえるとアクリロニトリルの自己重合及び副反応が起こり、得られたカルボキシルエチルセルロースの分離精製が困難になる。アクリロニトリルの添加量はグルコース残基当り0.3〜10モルが好ましく、更に好ましくは0.4〜5モルの範囲である。
【0017】
アルカリセルロースとアクリロニトリルを−30〜50℃の温度で、2〜350時間反応させることは、脱シアノエチル化反応(式4)を抑制し、目的とする置換度のカルボキシルエチルセルロースを得るという観点から重要である。反応温度が−30℃未満だと、アルカリ水溶液が固まってしまい攪拌が機械上困難である。50℃をこえるとシアノエチルセルロースからの脱シアノエチル化が促進されるため、目的とする置換度のカルボキシルエチルセルロースを得ることができない。反応時間が2時間未満だと十分にシアノエチル化反応が行われず、目的とする置換度のカルボキシルエチルセルロースを得ることができない。また350時間をこえて反応を行うと得られるカルボキシルエチルセルロースを水溶液にした時の透明性が著しく低下する。置換度のコントロールの観点から反応温度−20〜40℃、反応時間2〜240時間で、更に好ましくは−10〜30℃で、反応時間3〜120時間である。
【0018】
(d)加水分解工程
本発明に係る製造方法の特徴は、工程(c)で合成したシアノエチルセルロースを一旦単離することなく、比較的低温かつ低アルカリ濃度に調整することで脱シアノエチル化を抑制しながら、シアノエチル基を定量的に加水分解する点にある。
一旦単離したシアノエチルセルロースを加水分解すると、例え反応系内の温度を−30〜30℃、アルカリ濃度を0.1〜18wt%に調整しても加水分解反応と同時に脱シアノエチル化反応も進行し、目的とする置換度のカルボキシルエチルセルロースを得ることができないばかりか、得られたカルボキシルエチルセルロースは水溶性を示さなくなる場合もある。
【0019】
次に、反応系内の温度を−30〜30℃で、アルカリ濃度を0.1〜18wt%に調整する必要がある。反応系内の温度が−30℃未満だと加水分解反応が十分に進行せず、シアノエチル基及びカルバモイルエチル基が残存する。反応系内の温度が30℃を超えると、脱シアノエチル化が促進され目的とする置換度のカルボキシルエチルセルロースを得ることができないばかりか、多量のアクリロニトリル由来の副生成物ができるため、得られたカルボキシルエチルセルロースの分離精製が困難になる。また本工程で、アルカリ濃度が0.1wt%未満だと、加水分解反応が十分に進行せずシアノエチル基及びカルバモイルエチル基が残存してしまう。アルカリ濃度が18wt%を超えると、脱シアノエチル化反応が主反応として進行する。好ましくは反応温度−20〜20℃で、アルカリ濃度1〜16wt%で、更に好ましくは−10〜10℃で、アルカリ濃度5〜15wt%である。
加水分解における反応時間は、水添加後1〜36時間である。反応時間が1時間未満であると加水分解反応が十分に進行せず、シアノエチル基及びカルバモイルエチル基、カルボキシルエチル基それぞれが残存し、これらの置換度を制御することは困難である。36時間より反応時間をかけても意味は薄く、非効率である。好ましくは反応時間2〜30時間、更に好ましくは3〜26時間の範囲である。
【0020】
(e)二軸型混練機
本発明のカルボキシルエチルセルロースを得るために自転公転式で回転する二軸型混練機を使用することが必要である。一軸型攪拌機、二軸型ニーダーを用いた場合では反応系を均一に攪拌することが困難であり、反応中間体として生成するカルバモイルエチル基が十分に加水分解されず、置換度が0.04を超えて残存する。また副反応の制御が困難であり、多量の不純物が残存することとなる。
攪拌速度は、自転1〜400rpm、公転2〜450rpmである必要がある。自転が400rpmを超え、更に公転450rpmを超えると、メカノケミカル的に重合度の低下が起こり目的とする重合度のカルボキシルエチルセルロースを得ることができない。回転刃と反応器壁のクリアランスは5mm以下である必要がある。5mmを超えると、反応物が反応器壁に付着するため、壁に付着した反応物の攪拌が困難であるから、部分的にカルバモイルエチル基が残存し、更に得られたカルボキシルエチルセルロースを水溶液にした場合の透明度も低下する。好ましくは、クリアランスが3mm以下であり、更に好ましくは1mm以下である。
本発明の方法で得られたカルボキシルエチルセルロースは下記の工程(f)及び工程(g)に記載された方法で中和、精製されることが好ましい。
【0021】
(f)反応後のポリマーを酸でpH3〜10の範囲で中和する工程
反応後のポリマーは酸でpH3〜10の間に中和することが製品の安全性及び安定性の観点から好ましい。
本発明における酸としては、塩酸、硫酸、酢酸などが使用し得るが、経済的な理由から塩酸が好ましい。
中和後、洗浄操作を行う前に沈殿剤で沈殿させ、固体の中和物を回収する。本発明における沈殿剤は、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、アセトン、クロロホルム、ヘキサン、酢酸エチル、エーテルなどが使用し得るが、経済的な理由からメタノールが好ましい。
【0022】
(g)工程(f)の中和物を含水率5〜50wt%のメタノール水溶液で洗浄する工程
沈殿させた後のカルボキシルエチルセルロースを含水率5〜50wt%のメタノール水溶液で洗浄することがカルボキシルエチルセルロースに含まれる不純物量の総量を1000ppm以下に抑制するという観点から好ましい。メタノール水溶液の含水率が5%未満であると、ポリマーの表面が固化してしまい、不純物をポリマー内部に取り込んでしまい、不純物の含有量を1000ppm以下にすることが不可能になる。含水率が50wt%を超えるとカルボキシルエチルセルロースが、含水メタノールに溶け込んでしまい、収率が低下する。含水率10〜40wt%含水メタノールで洗浄することが好ましく、更に好ましくは15〜30wt%含水メタノールで洗浄することである。
回収した固体の中和物は、有機溶媒及び水等を含んでいるために、30〜90℃、1〜60時間で真空下加熱乾燥することが望ましい。30℃未満であると、有機溶媒及び水を完全に除去できず高純度のカルボキシルエチルセルロースが得られない。90℃を超えると、乾燥中に黄色及び褐色に変色する。乾燥時間は1時間より少ないと有機溶媒及び水を完全に除去できない。60時間をこえても、カルボキシルエチルセルロースに変化はなくエネルギーがかかるだけで不経済である。そのため、好ましくは温度40〜80℃、反応時間2〜50時間で、更に好ましくは温度50〜70℃、反応時間10〜36時間である。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を挙げて本発明より詳細に説明するが、いうまでもなく本発明は実施例などにより何ら限定されるものでない。なお、実施例中の主な測定値は以下の方法で測定した。
(1)カルバモイルエチル基及びカルボキシルエチル基の置換度
置換度測定用のサンプルを重水に溶解させ、3〜5wt%重水溶液を調整し、BRUKER社製のFT−NMR(Avance、400MHz)を用いて、13C−NMRにより測定を行い、置換度はセルロースのC1のピーク(106.32−104.2ppm)面積Aを基準とし、カルバモイルエチル基のα炭素のピーク(38.55−38.27ppm)面積B及びカルボキシルエチル基のα炭素のピーク(40.96−39.72ppm)面積Cから下式のように算出した。
総置換度=B/A(カルバモイルエチル基の置換度)+C/A(カルボキシルエチル
基の置換度) (1)
なお、上記の分析でカルバモイルエチル基が検出されない場合は、JASCO社製のFT−IR−6200を用いて測定を行い、カルバモイルエチル基に基づく吸収3300−3200cm−1のピークを検出されないことを確認する。
【0024】
(2)カルボキシルエチルセルロースの重合度の測定方法
カルボキシルエチルセルロース0.005〜0.010gを10mlの水に溶解させ、島津製作所社製のGPC(SIL−20A)を用いて測定した。測定条件は以下の通りである。
カラム:OHpak、SB−806MHQ
検出方式:RI
カラム温度:40℃
流量:1.0ml/分
注入量:0.3ml
このように測定された分子量分布に基づいて重量平均分子量cを割り出し、上記式(1)で求めた置換度からグルコース単位の分子量dを計算、更に以下の式(2)に基づいて重合度eを算出した。
e=c/d (2)
【0025】
(3)ポリマーのb*値の測定方法
ポリマーの粉末を、ガラス製のセル(内径61mm、深さ30mm)に深さの90〜100%まで満たし、スガ試験機社製の色彩色差系(SM−7−CH)を用いて、b*値を測定した。
(4)アクリロニトリルの利用率の算出方法
アクリロニトリルの利用率xは前述で求めた置換度をa、使用したアクリロニトリルのセルロースのグルコース残基に対するモル比をbとした時、以下に示す方法で算出した。
利用率x=a/b
(5)2wt%水溶液の粘度測定方法
2wt%粘度測定方法は、サンプル1.0gを50gの純水に残留物がなくなるまで完全に溶解させてからHAAKE社製のビスコテスター(VT6 plus)を用いて、粘度測定を行った。
【0026】
(6)アクリル酸、2−シアノエタノール、3−ヒドロキシプロピオン酸、3−シアノエチルエーテルそれぞれの含有量の測定方法
アクリル酸、2−シアノエタノール、3−ヒドロキシプロピオン酸、3−シアノエチルエーテルの測定は、島津製作所社製のガスクロマトグラフ(GC−2010)を用いて行った。測定条件は以下の通りである。なお、測定用試料溶液は、得られたカルボキシルエチルセルロースを水に溶解して調整した0.5wt%水溶液を用いた。
カラム:ガスクロパック56、86−100mesh
検出方式:FID
注入量:2μl
カラム温度:170℃
インジェクションポート温度:200℃
ヘリウム流量:40ml/min
ガス圧(H):0.63kg/cm
ガス圧(空気):0.50kg/cm
(7)塩化ナトリウムの含有量の測定方法
塩化ナトリウム含有量はダイオネックス社製の元素分析機を用いてイオンクロマト法により、測定した。
【0027】
[実施例1]
重合度1300のコットンリンターをホソカワミクロン社製の粉砕機(機種:ACMパルペライザ)を用いて約1〜5mm角に粉砕して、70℃で12時間真空乾燥し、10g採取し、15wt%濃度の水酸化ナトリウム水溶液100gに30℃で30分間浸漬した。セルロース重量に対してアルカリ水溶液重量が5倍量になるまで圧搾し、アクリロニトリルをセルロースのグルコース残基当り1.0モル加え、プライミクス社製の二軸型混練機(クリアランス:4mm)を用いて自転50rpm、公転35rpm、0℃で24時間攪拌した。その後、25gの純水を加えて反応系内のアルカリ濃度を10wt%に調整し、30℃で16時間混練した後、6N塩酸でpH8.4まで中和し、含水率20wt%メタノール水溶液で洗浄し、回収した。
ここで得られた反応物を真空乾燥機内で70℃、36時間乾燥させて、カルボキシルエチルセルロースを得た。カルボキシルエチル基の置換度は0.93であり、カルバモイルエチル基は検出されなかった。なお、赤外吸収スペクトルより、シアノエチル基は検出されなかった。またこのカルボキシルエチルセルロースは、水溶性を示し、b*値は3だった。このカルボキシルエチルセルロースの2wt%水溶液の粘度は1360mPa・sであった。
【0028】
[実施例2〜5]
重合度200〜1800のパルプを原料に用いた以外は、実施例1と同じ条件で、カルボキシルエルチルセルロースを合成し、回収した。いずれのカルボキシルエチルセルロースも、本発明の範囲を満足するものだった。
[実施例6〜8]
アルカリ浸漬工程で、セルロースに対してアルカリ濃度が0.1〜30wt%の水酸化ナトリウム水溶液を添加した以外は、実施例1と同じ条件で、カルボキシルエチルセルロースを合成し、回収した。いずれのカルボキシルエチルセルロースも、本発明の範囲を満足するものだった。
【0029】
[実施例9〜11]
アルカリ圧搾工程で、セルロース重量に対して、アルカリ水溶液重量が0.2〜10倍量になるまで圧搾した以外は、実施例1と同じ条件で、カルボキシルエチルセルロースを合成し、回収した。いずれのカルボキシルエチルセルロースも、本発明の範囲を満足するものだった。
[実施例12〜18]
シアノエチル化工程におけるアクリロニトリル添加量及び反応温度を表1−1〜表1−3に示した条件で調整した以外は、実施例1と同じ条件で、カルボキシルエチルセルロースを合成し、回収した。いずれのカルボキシルエチルセルロースも、本発明の範囲を満足するものだった。
[実施例19〜22]
加水分解工程での水酸化ナトリウム水溶液の濃度及び反応温度、反応時間を表1−1〜表1−3に示した条件で調整した以外は、実施例1と同じ条件で、カルボキシルエチルセルロースを合成し、回収した。いずれのカルボキシルエチルセルロースも、本発明の範囲を満足するものだった。
【0030】
[比較例1]
重合度1300のコットンリンターを実施例1と同様に粉砕し、全く同じ条件で、一軸型攪拌機を用いて合成し、ここで得られたポリマーを真空乾燥機内で70℃、36時間乾燥させて、カルボキシルエチルセルロースを得た。得られたカルボキシルエチルセルロースの置換度、アクリロニトリル利用率及び粘度、不純物含有量は表1−1〜表1−3、表2に記す。カルボキシルエチルセルロースは得られたものの、カルバモイルエチル基が残存しており、本発明の範囲をはずれるものだった。
[比較例2]
重合度1300のコットンリンターを実施例1と同様に粉砕し、全く同じ条件で、ニーダーを用いて合成し、比較例1と同様に洗浄、乾燥しカルボキシルエチルセルロースを得た。得られたカルボキシルエチルセルロースの置換度、アクリロニトリル利用率及び粘度、不純物含有量は表1−1〜表1−3、表2に記す。カルボキシルエチルセルロースは得られたものの、カルバモイルエチル基が残存しており、本発明の範囲をはずれるものだった。
【0031】
[比較例3〜10]
シアノエチル化工程での反応温度及び加水分解工程での反応系内の水酸化ナトリウム水溶液の濃度及び反応温度を表1−1〜表1−3に示した条件で調整した以外は、実施例1と同じ条件で、カルボキシルエチルセルロースを合成し、回収した。いずれのサンプルも、本発明の範囲をはずれるものだった。
[比較例11〜12]
重合度1300のコットンリンターを実施例1と同様に粉砕し、同様の条件でカルボキシルエチルセルロースを合成し、含水率3wt%メタノール水溶液(比較例11)及びメタノール(比較例12)で洗浄し、ここで得られたポリマーを真空乾燥機内で70℃、36時間乾燥させて、カルボキシルエチルセルロースを得た。得られたカルボキシルエチルセルロースの不純物含有量を表2に記す。水溶性のカルボキシルエチルセルロースは得られたものの、不純物含有量で本発明の範囲を超えるものだった。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のカルボキシルエチルセルロースは、水溶液、フィルム、養魚用飼料、食品、壁材組成物、掘削安定液用調整剤、化粧品、医薬品、洗浄剤、塗料、高分子架橋体、高吸水性樹脂などの分野に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシルエチル基の置換度が0.2〜2.8であって、カルバモイルエチル基の置換度が0.04以下であり、重合度が2〜3000であることを特徴とするカルボキシルエチルセルロース。
【請求項2】
カルボキシルエチルセルロースポリマーのb*値が15以下であることを特徴とする請求項1に記載のカルボキシルエチルセルロース。
【請求項3】
アクリル酸、2−シアノエタノール、3−ヒドロキシプロピオン酸、3−シアノエチルエーテル、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウムの群から選ばれる不純物の総量がカルボキシルエチルセルロースの重量に対して1000ppm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカルボキシルエチルセルロース。
【請求項4】
下記(a)〜(d)の工程を含み、かつ(c)及び(d)工程において、(e)攪拌軸が自転公転式で回転する二軸型混練機を使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のカルボキシルエチルセルロースの製造方法。
(a)セルロースに、アルカリ濃度0.1〜40wt%のアルカリ金属水酸化物水溶液をセルロースの重量に対して1.2〜50倍量を添加し、0〜80℃、5〜120分間浸漬する工程。
(b)セルロース重量に対してアルカリ水溶液が0.2〜10倍量になるように圧搾する工程。
(c)上記工程(b)で得られたセルロースにアクリロニトリルをセルロースのグルコース残基当り0.2〜15モル相当量投入してから、アルカリセルロースとアクリロニトリルを−30〜50℃で、2〜350時間反応させシアノエチルセルロースを合成する工程。
(d)上記工程(c)のシアノエチルセルロースを単離することなく、温度−30〜30℃で、水及びアルカリ水溶液を添加し、反応系内のアルカリ濃度0.1〜18wt%に調整して1〜36時間アルカリ加水分解させ、カルボキシルエチルセルロースに変換する工程。
【請求項5】
攪拌様式が、自転公転式で攪拌速度が自転1〜400rpm、公転2〜450rpmで、回転刃と反応器壁のクリアランスが5mm以下である二軸型混練機を用いて攪拌する様式であることを特徴とする請求項4に記載のカルボキシルエチルセルロースの製造方法。
【請求項6】
下記(f)及び(g)の後処理工程を含むことを特徴とする請求項4又は5に記載のカルボキシルエチルセルロースの製造方法。
(f)反応後のカルボキシルエチルセルロースを酸でpH3〜10の範囲に中和する工程。
(g)上記工程(f)の中和物を含水率5〜50wt%のメタノール水溶液で洗浄する工程。
【請求項7】
請求項1〜3いずれかに記載のカルボキシルエチルセルロースを0.1〜60wt%含有する水溶液
【請求項8】
請求項1〜3いずれかに記載のカルボキシルエチルセルロースを0.1〜99wt%含有するフィルム。
【請求項9】
請求項1〜3いずれかに記載のカルボキシルエチルセルロースを20〜90wt%含有する養魚用飼料。
【請求項10】
請求項1〜3いずれかに記載のカルボキシルエチルセルロースを0.1〜60wt%含有する食品。
【請求項11】
請求項1〜3いずれかに記載のカルボキシルエチルセルロースを20〜90wt%含有する壁材組成物。
【請求項12】
請求項1〜3いずれかに記載のカルボキシルエチルセルロースを1〜90wt%含有する掘削安定液用調整剤。
【請求項13】
請求項1〜3いずれかに記載のカルボキシルエチルセルロースを0.1〜60wt%含有する化粧品。
【請求項14】
請求項1〜3いずれかに記載のカルボキシルエチルセルロースを0.1〜30wt%含有する医薬品。
【請求項15】
請求項1〜3いずれかに記載のカルボキシルエチルセルロースを0.01〜90wt%含有する洗浄剤。
【請求項16】
請求項1〜3いずれかに記載のカルボキシルエチルセルロースを0.1〜80wt%含有する塗料。

【公開番号】特開2010−13549(P2010−13549A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−174233(P2008−174233)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】