説明

カンナビノイドの新規な使用

本発明はCB1および/またはCB2カンナビノイド受容体のインバースアゴニズムから利益を受ける疾病および状態の治療における使用のための医薬の製造における1個以上のカンナビノイドの使用に関する。好ましくは該カンナビノイドがカンナビジオール(CBD)型化合物またはその誘導体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCB1および/またはCB2カンナビノイド受容体のインバースアゴニズムから利益を受ける疾病および状態の治療における使用のための医薬の製造における1個以上のカンナビノイドの使用に関する。好ましくは該カンナビノイドがカンナビジオール(CBD)型化合物またはその誘導体である。好ましくは治療される該疾病または状態が、肥満症、統合失調症、てんかん、認知障害(例えばアルツハイマー病)、骨障害(例えば骨粗鬆症)、過食症、II型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病)に関連する肥満症、薬物治療、アルコールおよびニコチンの濫用または依存症、ならびに炎症性疾患からなる群から選択される。それはまた、CB1および/またはCB2カンナビノイド受容体のインバースアゴニズムから利益を受ける疾病および状態を治療する方法に関する。本発明はさらに食欲の抑制を誘導することによって美容的に有益な体重減少を生じる方法に関する。本発明はまたさらにCB1および/またはCB2カンナビノイド受容体のインバースアゴニズムを引き起こす有効量の1個以上のカンナビノイドを含む食料または飲料補助剤に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの既知のカンナビノイドの作用は、カンナビノイド受容体とそれらとの相互作用に起因する。カンナビノイド受容体は哺乳類のシステムに存在し、Gタンパク質共役受容体のいくつかのクラスが同定されている。主に中枢神経系に存在する該受容体はCB1受容体として知られ、異なる型の受容体(実質的には免疫系に見られる)はCB2受容体として知られる。
【0003】
カンナビノイドは一般にカンナビノイド受容体アゴニストであることが知られている。カンナビノイド受容体アゴニストがカンナビノイド受容体と結合すると、ある応答が引き起こされる。この応答はシグナル経路として知られている。
【0004】
CB1カンナビノイド受容体と結合することが知られている化合物にはデルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(THC)、R-(+)-WIN55212およびアナンダミドが挙げられる。これらの化合物はCB1受容体と結合すると特異的反応を生じるような、CB1アゴニストといわれているものである。
【0005】
受容体におけるアゴニズムはしばしば該細胞による活性応答をもたらす。多くの疾病状態はそれらの受容体における過剰活性のまたは過剰量のアゴニストの影響に起因する。
【0006】
カンナビノイド受容体は構成的に活性であることが知られている。それは該受容体がアゴニストを欠く場合でさえそれらのシグナル経路にある程度結合すること意味する。それらはそのようなバックグラウンドトーン(background tone)を示す。
【0007】
アゴニストの存在下では、このバックグラウンドトーンは増加し、それは該細胞の該活性応答に起因する疾病状態の増大を引き起こし得る。
【0008】
該アゴニストの能力に対抗することができる化合物を研究することにより、カンナビノイド受容体アンタゴニストとして作用する化合物が発見された。
【0009】
ニュートラルアンタゴニストは該受容体に結合するが受容体アゴニストとしての効力を欠く化合物である。そのようなニュートラルアンタゴニストはその受容体についてアゴニストと競合し、一旦結合すると活性応答を何ら生じないであろう。構成的に活性な受容体においては、該バックグラウンドトーンは無影響のままである。
【0010】
インバースアゴニストもまたその受容体と結合するが、受容体アゴニストとしての効力を欠くであろう。インバースアゴニストは一旦受容体と結合すると、該活性応答とは反対の影響を生じることができる。それ故、構成的に活性な受容体において、インバースアゴニストは部分的にまたは完全に該バックグラウンドトーンを遮断することができる。
【0011】
構成的に活性な受容体がアゴニストおよび異なる型の受容体アンタゴニストの存在下で作用する方法が図1に示される。
【0012】
構成的に活性な受容体のインバースアゴニズム特性を有する化合物の能力は、細胞のバックグラウンドトーンにおける変化が疾病状態の原因である疾病の治療に極めて有益でありうる。
【0013】
構成的に活性なカンナビノイド受容体のバックグラウンドトーンの結果である疾病および状態の例には、これらに限定されないが、肥満症、統合失調症、てんかん、認知障害(例えばアルツハイマー病)、骨障害(例えば骨粗鬆症)、過食症、II型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病)に関連する肥満症、薬物治療、アルコールおよびニコチンの濫用または依存症、ならびに炎症性疾患が挙げられる(Pertwee, R.G., 2000)。
【0014】
内因性CB1アゴニストであるアナンダミドは脳で放出され、摂食および食欲などのプロセスを媒介することが証明されている(Di Marzo et al., 2001)。これにより、CB1受容体インバースアゴニストは食欲抑制剤として臨床的に有効である可能性が生じる。
【0015】
該カンナビノイド受容体インバースアゴニストの一つはSR141716Aである。食欲の調節におけるこの化合物の使用がMaruaniおよびSoubrieによりUS 6,444,474およびEP0969835に記載される。
【0016】
化合物SR141716Aは合成化合物であり、その長期効果を臨床試験によって完全には定量化することができない。このような合成化合物がどのように該カンナビノイド受容体を長期的に妨害するかは知られていない(SR141716Aの臨床試験で蓄積されたデータから食欲抑制剤治療は慢性になる可能性がある)。該臨床試験により試験に登録した患者の少なくとも一部にうつ(depression)が著しく増加したことが示された。またジャーナル Multiple Sclerosisの最近の記事に、これまでは無症状であった多発性硬化症が、SR141716Aでの治療を開始したときに、活動性となった患者について記載がされている。
【0017】
天然のCB1およびCB2受容体インバースアゴニストは大麻植物によって生成され、その薬理学は、化学的に合成された該カンナビノイド受容体と結合するインバースアゴニストと比較して、複雑ではなさそうである。これは、人体は該物質と数千年間接触し、人体の薬理学的システムは植物カンナビノイドの存在下で発達しており、もし有害な副作用があったならばこれらはすでに知られていたであろう。しかしながら、現在のところ、カンナビノイド受容体のインバースアゴニズム特性を持つ大麻植物によって生成されるカンナビノイドは発見されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題と課題を解決するための手段】
【0018】
驚くべきことに、本出願人は、カンナビノイドカンナビジオール(CBD)はCB1およびCB2カンナビノイド受容体の両方のインバースアゴニストであることを示した。
【0019】
カンナビノイドCBDはフィトカンナビノイドであり、これはTHCとは異なり、使用者に精神活性作用を生じない。
【0020】
CBDはCB1およびCB2受容体の両方のインバースアゴニストとして作用するとの発見は、特に予期しないことであった。なぜならそれがこれまで両カンナビノイド受容体に対する親和性が低いことが示されていたためである。これにより、該受容体のインバースアゴニズムは該カンナビノイド受容体の結合部位から離れた部位で起こりうることが示唆される。
【0021】
本出願人はまた前臨床試験において、CBDは哺乳類で食欲抑制作用を生じることができることを発見した。
【0022】
本発明の概要
本発明の第1の態様に従って、CB1および/またはCB2カンナビノイド受容体のインバースアゴニズムから利益を受ける疾病または状態の治療また予防における使用のための医薬の製造における1個以上のカンナビノイドの使用が提供される。
【0023】
好ましくは、該1個以上のカンナビノイドがカンナビジオール(CBD)型化合物またはその誘導体である。
【0024】
CBD、CBD型化合物またはその誘導体についての言及は、特に治療的使用に関しては、該化合物の医薬的に許容される塩もまた包含することと理解されるであろう。用語「医薬的に許容される塩」は、当該技術分野における当業者によく知られているような、医薬的に許容される無毒の塩基または酸(無機塩基または酸および有機塩基または酸を含む)から調製される塩またはエステルをいう。多くの適当な無機塩基および有機塩基が当該技術分野において知られている。
【0025】
前躯体分子がゲラニルピロリン酸と反応して環状構造を形成したときにカンナビノイド生合成は開始する。下記に示されるように、CBD型化合物は主に炭素数21の化合物である。
【化1】

【0026】
芳香環に結合する側鎖(構造の右側下)の長さのバリエーションにより、異なる型のCBD化合物を生じることができる。例えば該側鎖がペンチル(5炭素)鎖のとき、生じた化合物はCBDであろう。該ペンチル鎖がプロピル(3炭素)鎖によって置き換えられたときは、形成されるCBD型化合物はCBDV(カンナビジバリン)である。生合成経路の第1段階で12炭素の化合物よりも10炭素の前駆体が反応する場合は、該プロピル変異体が形成されるであろう。
【0027】
CBDの合成変異体にはジメチルヘプチルCBDがある。この化合物はまた該CBD骨格の側鎖においてバリエーションを有する。
【0028】
本発明の範囲はまた所望のCB1および/またはCB2受容体のインバースアゴニズムの活性を保有するCBDの誘導体にまで及ぶ。実質的には出発物質と同一の活性を保有する、またはより好ましくは改良された活性を示す誘導体は医薬品化学の標準的な原理に従って調製することができ、これは当該技術分野において周知である。治療上有効である十分な活性を保有する限り、該誘導体は出発物質と比較してより低い活性を示してもよい。誘導体は医薬活性薬剤において好ましい他の特性における改良(例えば、溶解性の改良、毒性の低下、取り込みの強化)を示しうる。
【0029】
好ましくは該治療すべき疾病または状態は: 肥満症、統合失調症、てんかん、認知障害(例えばアルツハイマー病)、骨障害(例えば骨粗鬆症)、過食症、II型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病)に関連する肥満症、薬物治療、アルコールおよびニコチンの濫用または依存症、ならびに炎症性疾患を含む群から選択される。
【0030】
より好ましくはCB1および/またはCB2カンナビノイド受容体のインバースアゴニズムは食欲の抑制に作用する。
【0031】
好ましくはCB1および/またはCB2の該インバースアゴニズムはCB1および/またはCB2カンナビノイド受容体と異なる部位で生じる。
【0032】
好ましくは該1個以上のカンナビノイドが大麻植物の少なくとも1つから調製された抽出物の形態である。
【0033】
より好ましくは該大麻植物の少なくとも1つからの抽出物が植物学の薬物である。
【0034】
好ましくは該大麻植物の少なくとも1つからの抽出物が超臨界または臨界前CO2による抽出によって調製される。
【0035】
別法として、該大麻植物の少なくとも1つからの抽出物が植物物質を100℃より高く、該植物物質中の1個以上のカンナビノイドを揮発させるのに十分な温度で加熱ガスと接触させて気体を形成し、そして、該気体を凝縮して、抽出物を形成することによって調製される。
【0036】
好ましくは該大麻植物の少なくとも1つからの抽出物は、該植物中の天然のカンナビノイドの全てを含む。
【0037】
別法として、該1個以上のカンナビノイドが実質的に純粋なまたは単離された形態である。
【0038】
カンナビノイドの「実質的に純粋な」調製物は、HPLCプロファイルの面積正規化(area normalisation)によって決定したとき、クロマトグラフの純度(所望のカンナビノイドの)が90%より高い、より好ましくは95%より高い、より好ましくは96%より高い、より好ましくは97%より高い、より好ましくは98%より高い、より好ましくは99%より高い、および最も好ましくは99.5%より高い調製物と定義される。
【0039】
好ましくは本発明に使用される実質的に純粋な1個以上のカンナビノイドは、その他の天然のまたは合成のカンナビノイド(大麻植物中で自然に発生するカンナビノイドを含む)が実質的にフリーである。これに関連して「実質的にフリー」とは、HPLCにより検出可能な、該活性な1個以上のカンナビノイド以外のカンナビノイドは存在しないことを意味しうる。
【0040】
本発明の別の態様において、該1個以上のカンナビノイドが合成物である。
【0041】
好ましくは該1個以上のカンナビノイドが、さらに1個以上の医薬的に許容される担体、賦形剤または希釈剤を含む医薬組成物として製剤化される。
【0042】
別法として、該1個以上のカンナビノイドが、1個以上の許容される担体、賦形剤または希釈剤をさらに含む食料または飲料補助剤として製剤化される。
【0043】
本発明はまたCBD型化合物またはその誘導体、または医薬的に許容される塩またはその誘導体を含む医薬組成物を包含し、これは適当な医薬的に許容される担体(例えば希釈剤、賦形剤、塩、緩衝剤、安定剤、可溶化剤など)と共に医薬製剤型に製剤化される。該製剤型は状態(例えばpH、モル浸透圧濃度、味、粘度、無菌性、親油性、溶解性など)を改変するために他の医薬的に許容される賦形剤含むことができる。該希釈剤、担体または賦形剤の選択は、該所望の製剤型に依存し、言い換えれば、意図された患者への投与ルートに依存する。
【0044】
適当な製剤型には、固体製剤型、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、分散性顆粒剤、カシュ剤および坐剤が挙げられ、徐放性および遅延放出性製剤が含まれるが、これらに限定されない。散剤および錠剤は通常約5%〜約70%の活性成分を含むであろう。適当な固体担体および賦形剤は一般に当該技術分野において知られており、例えば炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、乳糖などが挙げられる。錠剤、散剤、カシュ剤およびカプセル剤は経口投与に適する全ての製剤型である。
【0045】
液体製剤型には溶液、懸濁液および乳濁液が挙げられる。液体製剤は静脈内、脳内、腹腔内、非経口または筋肉内注射または注入によって投与することができる。滅菌注入製剤は無毒の医薬的に許容される希釈剤または溶剤中の該有効成分の滅菌溶液または滅菌懸濁液を含むことができる。液体製剤型はまた鼻腔内、バッカルまたは舌下投与用の溶液または噴霧剤を含む。吸入に適するエアゾール製剤には、溶液および粉末状固体が挙げられ、医薬的に許容される担体(例えば不活性圧縮ガス)と組み合わせることができる。
【0046】
また経皮投与用の製剤型にはクリーム、ローション、エアゾールおよび/または乳濁液が挙げられ、包含される。これらの製剤型は該マトリックスまたはリザーバー型の経皮パッチに含まれることができ、これらは通常当該技術分野において知られている。
【0047】
医薬製剤は医薬製剤の標準的な方法に従って好都合に単位製剤型に調製することができる。単位用量あたりの活性な化合物の量は該活性な化合物の性質および意図する投与レジメンに従って変えることができる。これは通常0.1mg〜1000mgの範囲内であろう。
【0048】
本発明の第2の態様に従って、CB1および/またはCB2受容体のインバースアゴニズムから利益を受ける疾病の治療また予防のための方法が提供され、これは、その必要がある対象に有効量の1個以上のカンナビノイドを投与することを特徴とする。
【0049】
別の実施態様において、本発明はCB1および/またはCB2カンナビノイド受容体の恒常的活性によって引き起こされる疾病、例えば肥満症、統合失調症、てんかんまたは認知障害(例えばアルツハイマー病)、骨障害、過食症、II型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病)に関連する肥満症、薬物、アルコールまたはニコチンの濫用または依存症、または炎症性疾患の治療また予防のためのCBD型化合物またはその誘導体を患者に投与する方法に関する。
【0050】
本発明の第3の態様に従って、対象に食欲の抑制を誘導することによって美容的に有益な体重減少を生じる、CB1および/またはCB2受容体のインバースアゴニズムを引き起こす有効量の1個以上のカンナビノイドを該対象に投与することを特徴とする方法が提供される。
【0051】
好ましくは該1個以上のカンナビノイドがCBD型化合物またはその誘導体である。
【0052】
本発明はさらに食欲抑制剤としてのCBD型化合物またはその誘導体の使用にまで及ぶ。ある特定の状況では、該食欲抑制剤は、必ずしもその対象に医学的または治療的利益を生じることなく、ヒト対象における美容的に有益な体重減少を達成するために利用することができる。これに関連して、食欲抑制剤の投与は、該対象の医学的または治療的処置とは解釈されない。
【0053】
本発明の第4の態様に従って、CB1および/またはCB2受容体のインバースアゴニズムを引き起こす有効量の1個以上のカンナビノイドを含む食料または飲料補助剤が提供される。
【0054】
好ましくは該1個以上のカンナビノイドがCBD型化合物またはその誘導体である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
(原文に記載なし)
【実施例】
【0056】
具体的な説明
下記に詳細される実施例はCB1およびCB2カンナビノイド受容体でのCBDの特性を調査するために行われた試験を記載する。特に構成的に活性なCB1およびCB2受容体のバックグラウンドトーンを変えるCBDの該能力を調査した。さらに、CB1およびCB2カンナビノイド受容体のインバースアゴニズムでもたらされる疾病または状態の該治療に関するCBDの治療的有用性が保証された。
【0057】
本発明の特定の態様が添付の図面に準拠してさらに記載され(単に一例として)、そのなかで:
図1は構成的に活性な受容体のアゴニズムおよびアンタゴニズムを示す。
【0058】
実施例1:
CB1およびCB2受容体でのCBDの特性の調査
【0059】
該主成分のカンナビス デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(THC)は薬物として十分に調査されてきたが、その治療的有用性はその付加的な向精神活性によってしばしば妨害されうる。これによりしばしば患者に投与され得るTHCの量が制限される。
【0060】
対照的に、天然の植物カンナビノイドカンナビジオール(CBD)は、あまり治療的な文書化はされていないが、CBDは非精神活性であり、CB1およびCB2カンナビノイド受容体の両方に対する親和性は低いことが知られている。
【0061】
CBDは非CB1部位で前接合的に(pre-junctionally)作用することによる、非CB1媒介メカニズムによって、電気的に誘発されたマウス単離輸精管の収縮を拮抗することができることがこれまでに示されている (Pertwee, 2002)。マウス輸精管を用いたこのこれまでのデータは、CBDは非CB1部位についての既知のCB1受容体アゴニスト WIN55212と競合していたことを示唆した。
【0062】
WIN55212のCBDアンタゴニズム作用は前接合的に生じるので、また、CBDはCB1およびCB2カンナビノイド受容体の両方に対する親和性は低いことが知られていたので、このカンナビノイドが該構成的に活性なCB1およびCB2受容体でインバースアゴニズムを生じることができることを意味する特性を持つことは考えられなかった。
【0063】
本試験はCB1およびCB2受容体それら自体でのCBDの影響を調査した。脳組織中のCB1受容体およびヒトCB2受容体でトランスフェクトしたCHO細胞膜中のCB2受容体を用いて、CBDの特性を確立されているCB1受容体インバースアゴニスト SR141716Aおよび既知のCB2受容体インバースアゴニスト SR144528と比較した。
【0064】
方法:
使用した被験物質は: CBD(精製された植物抽出物)、SR141716A(既知のCB1受容体インバースアゴニスト)およびSR144528(既知のCB2受容体インバースアゴニスト)であった。使用の前に該化合物をDMSAに溶解した。
【0065】
全マウス脳膜をThomas et al., 2004.に記載されるように調製した。CHO細胞をヒトカンナビノイドCB2受容体をコードするcDNAで安定にトランスフェクトし、ダルベッコ変法イーグル培地栄養混合物中で、37℃および5%CO2で維持した。
【0066】
放射性リガンド置換アッセイ
該アッセイを確立されているCB1およびCB2カンナビノイド受容体アゴニスト CP55940で行った。これを放射性標識して、[3H]CP55940を得た。
【0067】
該放射性標識化合物の結合は、該脳膜(33μgタンパク質/チューブ)または該トランスフェクトしたhCB2細胞(25μgタンパク質/チューブ)を添加することによって開始した。
【0068】
全てのアッセイを37℃で60分間行い、その後、氷冷洗浄緩衝液 (50mM トリス緩衝液、1mg mL-1 ウシ血清アルブミン、pH 7.4)を添加し、24-ウェルサンプリングマニフォールドと洗浄緩衝液に4℃で少なくとも24時間浸漬したGF/Bフィルターを用いて真空濾過して終了した。
【0069】
[35S]GTPγS結合アッセイ
該アッセイをGTPγS結合緩衝液(50mM トリス-HCl; 50mM トリス-塩基; 5mM MgCl2; 1mM EDTA; 100mM NaCl; 1mM DTT; 0.1% BSA)を用いて、[35S]GTPγSおよびGDPの存在下に、最終体積500μlで行った。結合を、[35S]GTPγSを該チューブに添加して開始した。該薬物を該アッセイにて30℃で60分間インキュベートした。トリス緩衝液(50mM トリス-HCl; 50mM トリス-塩基; 0.1% BSA)を用いて、上記のように急速な真空濾過法によって反応を終了し、液体シンチレーション分光によって放射活性を定量した。
【0070】
CP55940によるCB1またはCB2受容体の該アゴニズムは該細胞の応答をもたらす。この応答は[35S]GTPγSと該細胞膜の該結合である。
【0071】
該化合物がアゴニスト、ニュートラルアンタゴニストまたはインバースアゴニストとして作用しているかどうかを決定するために、該試験化合物の存在下での該応答の変化を測定することができる。図1に記載されるとおり、アゴニストは該応答を増加し、ニュートラルアンタゴニストは該応答に対して影響せず、およびインバースアゴニストは該応答を終止しまたは逆にするであろう。従ってこれらの調査に由来するKB-値は、該細胞応答の指標である。
【0072】
また該試験化合物について、それらが該アゴニストCP55940をCB1またはCB2受容体の結合部位から離すことができるかどうかを決定するために試験した。この調査に由来するKi-値は、該試験化合物がいかに強く該アゴニストと該結合部位について競合するかについての見識を提供する。
【0073】
結果:
1. CB1受容体における活性を決定するために全マウス膜で行った実験
テーブル1にCB1受容体におけるCBDおよび該既知のCB1受容体インバースアゴニスト SR141716Aによって調製されたデータが記載される。
【0074】
該既知のCB1受容体インバースアゴニストおよびCBDの存在下で該細胞膜と結合する[35S]GTPγSのCP55940誘導活性化についてのKB-値が該テーブルに記載される。該膜からの[3H]CP55940の置換についてのKi-値もまた示される。
【表1】

【0075】
測定された応答が[35S]GTPγS結合の刺激であるとき、SR141617AおよびCBDは共に該マウス脳膜において該確立されているCB1/CB2受容体アゴニストCP55940の対数-濃度応答曲線において右方向へのシフトを生じることができた。これらのデータにより両化合物はCP55940によるCB1受容体の活性化によって引き起こされた該応答を阻害することができたことが示される。
【0076】
SR141716Aの該KB-値は0.09nMであり、その[3H]CP55940の該マウス脳膜からの置換についてのCB1 Ki-値の2.2nMと比較してわずかに少なかった。このことから、この化合物は該細胞においてそれが競合し該受容体と結合する濃度と同様の濃度でインバース応答を生じることができることが推論される。
【0077】
しかしながらCBDの該KB-値は78.8nMであり、これは該マウス脳膜からの[3H]CP55940の該置換についてのそのCB1 Ki-値の4.9μMをはるかに下回った。これらのデータからCBDはCB1受容体においてインバースアゴニストとして作用することができることが示される。またそれらから、それが該結合部位について該アゴニストと競合するであろう濃度を大きく下回る濃度でCBDはインバースアゴニストとして作用することができることが示される。
【0078】
この特性は重要な値であり得る。なぜなら、そのことからCBDはインビボで該カンナビノイド受容体とより強くない相互作用を形成するであろうこと推論されるため、およびそれは化合物SR141716Aと比較して使用における副作用が少ない可能性があるためである。
【0079】
更なる実験を該試験化合物の異なる濃度で行った。1および10μMの濃度において、CBDは該マウス脳膜と結合する[35S]GTPγSの有意な阻害を生じた。1μMでのCBDの阻害性効果は1μMでのSR141716Aの効果と同様であるのに対して、10μMでのCBDの阻害性効果は、同一濃度でのSR141716Aの効果をはるかに上回っていた。該高濃度では、CBDはSR141716Aと比較してより強力なCB1受容体のインバースアゴニストである。
【0080】
2. CB2受容体における活性を決定するためにCHO細胞膜で行った実験
テーブル2にCB2受容体におけるCBDおよび該既知のCB2受容体インバースアゴニスト SR144528によって調製されたデータが記載される。
【0081】
該テーブルに該既知のCB1受容体インバースアゴニストおよびCBDの存在下で該細胞膜と結合する[35S]GTPγSのCP55940誘導活性化についての該KB-値が記載される。該膜からの該[3H]CP55940の置換についてのKi-値もまた示される。
【表2】

【0082】
該測定された応答が[35S]GTPγS結合の刺激のとき、該CHO細胞膜における確立されているCB1/CB2受容体アゴニスト CP55940の該対数-濃度応答曲線において、SR144528およびCBDの両方は下方および右方向へのシフトを生じることができた。これらのデータにより両化合物はCP55940によるCB2受容体の該活性化によって引き起こされた該応答を阻害することができたことが示される。
【0083】
SR144528のKB-値は0.49nMであり、これは該CHO細胞膜からの[3H]CP55940の置換についてのそのCB1 Ki-値 7.5nMと比較して15倍低かった。
【0084】
CBDのKB-値は65.1nMであり、これは該CHO細胞膜からの[3H]CP55940の置換についてのそのCB1 Ki-値 4.2μMと比較して65倍低かった。
【0085】
これらのデータにより、CBDはまたCB2受容体においてインバースアゴニストとして作用することができることが示される。またそれらから、CBDおよびSR144528の両方はそれらが該結合部位についての該アゴニストと競合する濃度より低い濃度でインバースアゴニストとして作用することができることが示される。しかしながら、CBDはSR144528と比較してはるかに低い濃度で競合することが示された。
【0086】
要約すると、この実施例において調製された該データにより、CBDはCB1およびCB2受容体の両方に対してインバースアゴニストとして作用することが示唆される。またCBDは該細胞で該インバースアゴニズムを生じることができる濃度と比較してはるかに高い濃度で、それらのカンナビノイド受容体結合部位からアゴニストを離すであろうことが示される。このため、CBDは全ての哺乳類において作動されうる該内因性カンナビノイド系を妨げる可能性が低いので、該臨床における使用のためのはるかに優れた候補物である。
【0087】
実施例2:
ラットにおける食欲に影響するカンナビジオールの能力の調査
上記の実施例1に記載される該データにより、CBDはCB1カンナビノイド受容体の強力なインバースアゴニストであることが示される。該既知のCB1受容体インバースアゴニスト SR141716Aは臨床試験において肥満の対象の体重を減らすのに役立つことが認められているので、CB1受容体のインバースアゴニズムは、食欲の調節に役立つと考えられている。
【0088】
構成的に活性なCB1およびCB2カンナビノイド受容体のインバースアゴニズムはまた、他の疾病または状態の治療また予防に有用であると考えられる。なぜなら内因性カンナビノイドの過剰産生がそのような疾病に関わることが知られているためである。そのような疾病には、これらに限定されないが: 肥満症、統合失調症、てんかん、認知障害(例えばアルツハイマー病)、骨障害(例えば骨粗鬆症)、過食症、II型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病)に関連する肥満症、薬物治療、アルコールおよびニコチンの濫用または依存症、ならびに炎症性疾患が挙げられる。
【0089】
そのような疾病におけるCB1もしくはCB2受容体または両受容体のインバースアゴニズムは、該エンドカンナビノイドによって引き起こされる細胞における該応答が停止または逆作動であることを意味する。
【0090】
上記の実施例1に示されるように、CBDはCB1およびCB2受容体におけるインバースアゴニストとして作用することができる。該カンナビノイド受容体の該インバースアゴニズムから利益を得ることが知られている該疾病および状態に対するこの特性を評価するために、体重増加、餌消費および餌変換効率を測定する前臨床試験を行うことが決定した。
【0091】
該試験を雄および雌ラットについて104週に渡る試験を行った。
【0092】
方法:
使用した被験物質はCBD(全植物抽出物)であり、これを該試験の104週の間、ラットにそれらの食餌中で経口投与した。使用した投与レベルは、CBDを5、15および50mg/kg/日であった。コントロール動物はそれらの食餌中の被験物質は投与しなかった。
【0093】
該CBD全植物抽出物は該主要カンナビノイドCBDと共に、他のカンナビノイドおよび非カンナビノイド成分を含む。これらは下記のテーブルに示される:
【表3】

【0094】
HsdBrlHan: ラットのWIST由来系をグループにつき各性の50動物を含む試験グループにランダムに配分した。
【0095】
体重および餌消費を、該試験の最初の16週間は毎週、ついでその後は4週毎に測定した。
【0096】
結果:
1. 体重増加
下記のテーブル3は該試験期間に渡る平均体重増加をグラム表示で詳述し、また該コントロール動物のパーセンテージとして示す。
テーブル3:
【表4】

【0097】
テーブル3で認められるように、試験の開始(1週)および試験の終わり(104週)の間の体重増加全体に用量に関連する減少があった。体重増加におけるこの減少は、15および50mg/kg/日投与量の雄および全ての投与レベルの雌において観測された。
【0098】
2. 餌消費
下記テーブル4は試験期間に渡り各グループによって消費された餌の該平均量をグラム表示で詳述する。
テーブル4:
【表5】

【0099】
15および50mg/kg/日を投与された雄および雌動物の両方によって消費された餌の量は該コントロールと比較して減少したことが観測された。
【0100】
3. 餌変換効率
下記テーブル5は試験期間に渡る試験動物の平均餌変換効率を詳述する。餌変換効率値を計算して、動物の体重を1グラムを増加するために必要とされる餌の重さをグラム表示で決定した。
テーブル5:
【表6】

【0101】
テーブル5から分かるように、試験期間に渡って餌変換効率値の明らかな減少がある。該減少はCBDを15および50mg/kg/日与えられた雌および50mg/kg/日与えられた雄について用量に関連した。
【0102】
結論として、CBD全植物抽出物の試験動物への該投与は、15および50mg/kg/日の両方で、全体的な体重増加に著しい影響を及ぼした。両グループは、雄および雌について等しく、試験期間に渡ってコントロールと比較して10%より多い体重減少を示した。これらの投与量グループにおける餌変換効率の目覚ましい減少より、該体重減少は、純粋に該食餌の食欲不振に起因しないことが推測される。
【0103】
結論として、上記実施例に示された該データからCBDはCB1およびCB2カンナビノイド受容体の両方について強力なインバースアゴニストであることが示される。これらのデータはインビトロおよびインビボにおいてこの両特性を実証する。この天然のカンナビノイドはCB1および/または該CB2カンナビノイド受容体のインバースアゴニズムから利益を受ける疾病の治療また予防における使用の現実的な可能性を有する。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
CB1および/またはCB2カンナビノイド受容体のインバースアゴニズムから利益を受ける疾病または状態の治療また予防における使用のための医薬の製造における1個以上のカンナビノイドの使用。
【請求項2】
該1個以上のカンナビノイドがカンナビジオール(CBD)型化合物またはその誘導体である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
CB1および/またはCB2カンナビノイド受容体のインバースアゴニズムから利益を受ける疾病または状態が下記: 肥満症、統合失調症、てんかん、認知障害(例えばアルツハイマー病)、骨障害、過食症、II型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病)に関連する肥満症、薬物治療、アルコールまたはニコチンの濫用または依存症、または炎症性疾患の1個以上を含む群から選択される、請求項1または請求項2に記載の使用。
【請求項4】
CB1および/またはCB2カンナビノイド受容体のインバースアゴニズムが食欲の抑制に作用する、上記請求項のいずれか1つに記載の使用。
【請求項5】
CB1および/またはCB2カンナビノイド受容体の該インバースアゴニズムがCB1および/またはCB2カンナビノイド受容体とは異なる部位で生じる、上記請求項のいずれか1つに記載の使用。
【請求項6】
該1個以上のカンナビノイドが大麻植物の少なくとも1つから調製された抽出物の形態である、上記請求項のいずれか1つに記載の使用。
【請求項7】
該大麻植物の少なくとも1つから調製された抽出物が植物学の薬物の形態である、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
該大麻植物の少なくとも1つから調製された抽出物が該少なくとも1つの大麻植物中の天然のカンナビノイドの全てを含む、請求項6または7に記載の使用。
【請求項9】
該1個以上のカンナビノイドが実質的に純粋なまたは単離された形態である、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
該1個以上のカンナビノイドが合成物である、請求項1に記載の使用。
【請求項11】
該1個以上のカンナビノイドが1個以上の医薬的に許容される担体、賦形剤または希釈剤をさらに含む医薬組成物として製剤化される、上記請求項のいずれか1つに記載の使用。
【請求項12】
該1個以上のカンナビノイドが1個以上の許容される担体、賦形剤または希釈剤をさらに含む食料または飲料補助剤として製剤化される、上記請求項のいずれか1つに記載の使用。
【請求項13】
1個以上のカンナビノイドの治療上有効量をその必要がある対象に投与することを特徴とする、CB1および/またはCB2カンナビノイド受容体のインバースアゴニズムから利益を受ける疾病または状態の該治療また予防ための方法。
【請求項14】
該疾病または状態が肥満症、統合失調症、てんかん、認知障害(例えばアルツハイマー病)、骨障害、過食症、II型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病)に関連する肥満症、薬物、アルコールまたはニコチンの濫用または依存症、および炎症性疾患からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
CB1および/またはCB2カンナビノイド受容体のインバースアゴニズムを引き起こす有効量の1個以上のカンナビノイドを対象に投与することを特徴とする、該対象に食欲の抑制を誘導することによって美容的に有益な体重減少を生じる方法。
【請求項16】
該1個以上のカンナビノイドがカンナビジオール(CBD)型化合物またはその誘導体である、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
CB1および/またはCB2カンナビノイド受容体のインバースアゴニズムを引き起こす有効量の1個以上のカンナビノイドを含む食料または飲料補助剤。
【請求項18】
該1個以上のカンナビノイドがカンナビジオール(CBD)型化合物またはその誘導体である、請求項17に記載の食料または飲料補助剤。

【公表番号】特表2009−538893(P2009−538893A)
【公表日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−512670(P2009−512670)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際出願番号】PCT/GB2007/002008
【国際公開番号】WO2007/138322
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(508368987)ジーダブリュー・ファーマ・リミテッド (16)
【氏名又は名称原語表記】GW PHARMA LIMITED
【Fターム(参考)】