説明

カーボンナノチューブ膜およびカーボンナノチューブ膜の製造方法

【課題】簡便な方法で導電性を向上させることの出来るカーボンナノチューブ膜および製造方法を提供する
【解決手段】(1)カーボンナノチューブ含有組成物と(2)スルホン酸塩を含む高分子と(3)スルホン酸塩の陽イオンと交換可能な金属塩を配合してなるカーボンナノチューブ分散体層を基材上に形成させてなる薄膜、(1)カーボンナノチューブ含有組成物と(2)スルホン酸塩を含む高分子と(3)スルホン酸塩の陽イオンと交換可能な金属塩を配合し、(1)カーボンナノチューブ含有組成物を溶媒中に分散させてなるカーボンナノチューブ分散液を用いて基材上にカーボンナノチューブ分散体層を形成させることを特徴とする薄膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブ膜およびカーボンナノチューブ膜の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ膜の製造方法は、カーボンナノチューブ自立膜を作製する方法、カーボンナノチューブ樹脂組成物をスライスする方法、カーボンナノチューブと高分子や樹脂との混合物をフィルム状に成形する方法、カーボンナノチューブ分散液を基盤などに塗布する方法などが開発されている。これらの方法によって、カーボンナノチューブ膜を利用した導電性フィルム、透明導電性フィルム等が製造されてきたが、単に導電性や透明性を持つだけのフィルムでは不十分であり、近年では非常に高い導電性や透明性を有する膜が求められる様になった。
【0003】
特許文献1には、カーボンナノチューブ自立膜を作製する方法が記載されているが、このものは、膜の上下方向にカーボンナノチューブの配向が揃っていることを特徴とするカーボンナノチューブ膜が開示されているが、この技術では、膜厚を薄くするのが困難であり、高い透過率を必要とする用途に適用するのは困難であるという問題がある。樹脂や高分子とカーボンナノチューブの混合物からなるフィルムの場合、樹脂や高分子が絶縁性であるため、カーボンナノチューブとの混合物としてフィルムに用いるとカーボンナノチューブの導電特性を十分に引き出すことができない。
【0004】
導電性を向上させるために導電性樹脂を用いたフィルムも開発されているが(特許文献2)、導電性樹脂しか使えないためフィルムの用途が制限されてしまう問題があり、より高い導電性やより高い光透過率を求められる用途に応用するのが困難である。また、カーボンナノチューブ分散液を基材などに塗布して乾燥する方法でも、分散液中に存在する分散剤がカーボンナノチューブ膜の導電性を損なう問題があり、導電性高分子を分散剤として用いたカーボンナノチューブ分散液(特許文献3)も開発されているが、導電性高分子は合成が煩雑なものや、高価なものが多く、用いるカーボンナノチューブの種類によっては十分な分散性を得られるとは限らないため、導電性の高いカーボンナノチューブ膜を製造する方法としては問題点が残されている。
【0005】
また一般的な分散剤として界面活性剤や水溶性高分子を用いる方法があるが、基材上に塗布した後に該基材を洗浄(リンス)工程を加える必要(非特許文献1)があり、専用の設備や工程が困難化するため現実的でない。その他、カーボンナノチューブ膜の導電性や光透過率を向上させる工夫として、カーボンナノチューブ合成時に生じる不純物を取り除く工夫や合成時点で非常にグラファイト化度の高いカーボンナノチューブを合成してカーボンナノチューブ自体の導電性が良いものを製造する工夫、金属性カーボンナノチューブを選別する方法などが考案されているが、いずれの方法も技術が高度になり、実用化という視点で見たときの工程の困難さ、効率の点で産業化への敷居が高くなりつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−182342号公報
【特許文献2】特開2004−195678号公報
【特許文献3】特開2005−241600号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ACS Nano, 2009, 3(4), 835−843
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みなされたものであり、簡便な方法で導電性を向上させることの出来るカーボンナノチューブ膜および製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、(1)カーボンナノチューブ含有組成物と(2)スルホン酸塩を含む高分子と(3)スルホン酸塩の陽イオンと交換可能な金属塩から配合されたカーボンナノチューブ分散体層が基材上に形成させることで、リンス工程なしに透明導電性が向上することを見出した。すなわち以下の特徴を有するカーボンナノチューブ膜および製造方法である。
【0010】
[1](1)カーボンナノチューブ含有組成物と(2)スルホン酸塩を含む高分子と(3)スルホン酸塩の陽イオンと交換可能な金属塩を配合してなるカーボンナノチューブ分散体層を基材上に形成させてなる薄膜。
【0011】
[2]前記分散体が、(1)カーボンナノチューブ含有組成物に対する(2)スルホン酸塩を含む高分子の配合比が1.2〜7、(3)金属塩が(1)カーボンナノチューブ含有組成物に対する配合比が0.5〜3で調整されたものであることを特徴とする[1]に記載の薄膜。
【0012】
[3]前記金属塩を構成する金属元素がFe、Ag、Au、Al、Cu、Co、Ni、Znからなる群より選択される少なくとも1つの金属元素であることを特徴とする[1]または[2]に記載の薄膜。
【0013】
[4](1)カーボンナノチューブ含有組成物と(2)スルホン酸塩を含む高分子と(3)スルホン酸塩の陽イオンと交換可能な金属塩とを配合し、カーボンナノチューブ含有組成物を分散媒中に分散させることを特徴とするカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0014】
[5](1)カーボンナノチューブ含有組成物と(2)スルホン酸塩を含む高分子を配合し、(1)カーボンナノチューブ含有組成物を分散媒中に分散させた後に(3)スルホン酸塩の陽イオンと交換可能な金属塩を配合することを特徴とする[4]に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0015】
[6][4]または[5]記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法により得られるカーボンナノチューブ分散液。
【0016】
[7](1)カーボンナノチューブ含有組成物と(2)スルホン酸塩を含む高分子と(3)スルホン酸塩の陽イオンと交換可能な金属塩を配合し、(1)カーボンナノチューブ含有組成物を分散媒中に分散させてなるカーボンナノチューブ分散液を用いて基材上にカーボンナノチューブ分散体層を形成させることを特徴とする薄膜の製造方法。
【0017】
[8]基材を含む光透過率が85%以上、表面抵抗値が1×10Ω/□以下である[1]〜[5]のいずれか記載の薄膜。
【発明の効果】
【0018】
本発明によってリンス工程なしに導電性の向上したカーボンナノチューブ膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は金属塩添加による導電性向上の推定メカニズムを説明した概略説明図である。
【図2】図2は(3)スルホン酸塩の陽イオンと交換可能な金属塩を添加して薄膜を製造した場合の薄膜の表面を観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】図3は(3)スルホン酸塩の陽イオンと交換可能な金属塩を添加せず薄膜を製造した場合のリンス前の薄膜の表面を観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】図4は(3)スルホン酸塩の陽イオンと交換可能な金属塩を添加せず薄膜を製造した後リンスをした薄膜の表面を観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明において(1)カーボンナノチューブ含有組成物とは、複数のカーボンナノチューブが存在している総体を意味し、存在形態は特に限定されず、それぞれが独立で、あるいは束状、絡まり合うなどの形態あるいはこれらの混合形態で存在していてもよい。また、種々の層数、直径のものが含まれていてもよい。また、分散液や他の成分を配合した組成物中、あるいは他の成分と複合した複合体中に含まれる場合でも複数のカーボンナノチューブが含まれていればこれら複数のカーボンナノチューブについて、カーボンナノチューブ含有組成物が含まれていると解する。また、カーボンナノチューブ製造法由来の不純物(例えば触媒)を含み得るが、実質的には炭素で構成されたものを示す。
【0021】
カーボンナノチューブは、グラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有しており、1層に巻いたものを単層カーボンナノチューブ、多層に巻いたものを多層カーボンナノチューブ、その中で特に2層に巻いたものを二層カーボンナノチューブという。カーボンナノチューブの形態は、高分解能透過型電子顕微鏡で調べることができる。グラファイトの層は、透過型電子顕微鏡でまっすぐにはっきりと見えるほど好ましいが、グラファイト層は乱れていても構わない。
【0022】
本発明においてカーボンナノチューブ含有組成物の基本的な合成方法は通常知られている化学気相成長方法である。すなわち炭素含有化合物と担体に担持させた触媒金属を500〜1200℃の範囲の加熱反応域で接触させることにより、カーボンナノチューブを合成する方法、好ましくは単層および/または二層カーボンナノチューブを合成する方法をベースとしている。本発明ではこのような合成方法で得られた粗カーボンナノチューブ含有組成物、好ましくは二層カーボンナノチューブを含む粗カーボンナノチューブ含有組成物から精製を行ったカーボンナノチューブ含有組成物を用いる。
【0023】
本発明において(2)スルホン酸塩を含む高分子とは、スルホン酸基を側鎖あるいは主鎖に持つ高分子のことを指し、側鎖、主鎖のいずれの構造においても飽和炭化水素、不飽和炭化水素、芳香族を含んでいてもかまわない。例えば、(スチレンスルホン酸、ビニルアニソールスルホン酸、ビニルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミドエタンスルホン酸、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸、および2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸、2−ヒドロキシ−3−(2−プロペニルオキシ)プロパンスルホン酸などのスルホン酸基含有モノマーおよびその誘導体を重合したものが挙げられる。上記の中でスチレンスルホン酸の重合物であるポリスチレンスルホン酸、ポリアニソールスルホン酸などの構造を持つものが好ましい。分子量は特に限定しないが、好ましくは平均分子量が5万〜100万であり、さらに好ましくは7万から30万である。また分子量分布は特に限定しない。ここでいう平均分子量はGPCにより測定される重量平均分子量である。
【0024】
スルホン酸塩はスルホン酸イオンとそのカウンターイオンが存在する塩の状態である。またカウンターイオンの種類も特に限定しないが、好ましくはNHイオン、Naイオン、Liイオンである。さらに好ましくはNHイオン、Naイオンであり特に好ましくはNHイオンである。
【0025】
本発明において(3)スルホン酸塩の陽イオンと交換可能な金属塩とは、上述のスルホン酸基のカウンターイオンは正電荷を持つ陽イオンであり、この陽イオンと分散体中でイオン交換可能な金属イオンをさす。具体的には後述するが、イオン化傾向に従った金属イオンである。すなわち、(2)スルホン酸塩を含む高分子のカウンターイオンよりもイオン化傾向の小さい金属イオンが選択される。
【0026】
本発明においては、これら(1)〜(3)各成分を配合し、(1)カーボンナノチューブ含有組成物を分散させる分散処理を施すことにより分散体が得られる。
【0027】
(1)カーボンナノチューブ含有組成物は(2)スルホン酸塩を含む高分子を分散剤として用いることで、水溶液中でカーボンナノチューブ含有組成物のコロイド粒径が0.2〜2μmとなる分散体とすることが可能である。そのときの配合比は、重量基準で分散剤(スルホン酸を含む高分子)/カーボンナノチューブ含有組成物=1.2以上あることが好ましく、導電性を加味すると7までが適切である。カーボンナノチューブ含有組成物が前述のコロイド粒径となって分散させるには分散剤/カーボンナノチューブ含有組成物=1.2の比率であることが好ましい。配合比は大きいほどカーボンナノチューブ含有組成物を容易に分散することができる。
【0028】
図1に示すように、従来の技術では、(2)スルホン酸塩を含む高分子2を用いて(1)カーボンナノチューブ含有組成物1を分散させたのみの分散体を基材3上に塗布、噴霧など、液状で塗布するなどの方法で形成すると、基材3上で少なくとも一部の分散剤が分散媒とともにカーボンナノチューブ含有組成物よりも表面側に移動する結果、分散剤が再表面側に、カーボンナノチューブ含有組成物が基材3側に局在化する(図3)。分散剤は基本的に絶縁物であるので、該分散剤が最表面に存在すると、表面抵抗値が大きくなる欠点があった。この問題を解消して表面抵抗値を下げるためにはカーボンナノチューブ分散体層を基材に形成した後、洗浄(リンス)工程を追加することで、過剰な分散剤を基材の最表面層から除去する必要があった(図4)。しかし、リンス工程の追加は製造工程の増加を意味し、製造費用が高くなるため、工業的には不利であった。
【0029】
本発明においては、(3)スルホン酸塩の陽イオンと交換可能な金属塩を添加することで、表面抵抗値を損なうことなく薄膜を得ることができることを見出したものである。この機構としては、(3)スルホン酸塩の陽イオンと交換可能な金属塩を添加することで、分散剤中のスルホン酸塩をイオン交換することにより、(2)スルホン酸塩を含む高分子と(3)金属塩がイオン交換して生成する生成物4となるので、基材上での過剰な分散剤による膜形成を阻害し、カーボンナノチューブ含有組成物導電層を表面に露出させることができ(図2)、結果として表面抵抗値の上昇を抑制できるものと考えられる。
【0030】
該金属塩を構成する金属元素としては鉄、銀、金、アルミニウム、銅、コバルト、ニッケル、亜鉛を含んでいることが好ましい。これら金属元素は一種または二種以上で用いることができる。なかでも特に硝酸鉄、塩化鉄、硝酸銀、酢酸銀、塩化金酸、硝酸アルミニウムなどが好ましい。金属塩における金属イオンの対イオンであるマイナスイオンの構造に制限はなく、水溶性であることが好ましい。上記のイオンは分散剤のスルホン酸塩の陽イオンとイオン交換し、粒子状の形態をとると推測できる(図1)。そのためカーボンナノチューブ含有組成物と粒子形態で相互作用するため、基材上で膜形成を抑制することができると考えられる。また金属イオンは価数によって必要なスルホン酸基が異なり、その結果、分散剤/カーボンナノチューブ含有組成物/金属塩の好ましい比率が金属種により異なる。
【0031】
分散剤/カーボンナノチューブ含有組成物/金属塩の好ましい比率が、カーボンナノチューブ含有組成物が1のときに分散剤比が1.2〜7であり、またカーボンナノチューブ含有組成物1に対して金属塩の比が0.5〜3の比で調整されることが分散性と導電性を両立させる点で好ましい。なかでもカーボンナノチューブ含有組成物が1のときに分散剤比が3〜6であることが好ましい。また、カーボンナノチューブ含有組成物1に対して金属塩の比が0.5〜2であることが好ましい。
【0032】
本発明の薄膜におけるカーボンナノチューブ分散体層は、基材上に前記(1)〜(3)の各成分を配合してなるカーボンナノチューブ分散体層を形成させるものであるが、該層は、(1)〜(3)の各成分を配合し、(1)成分を溶媒などの分散媒中で分散させてなるカーボンナノチューブ分散液を用いて塗布その他の方法により形成することができる。
上記カーボンナノチューブ分散液の調製方法は、(1)カーボンナノチューブ含有組成物と(2)スルホン酸塩を含む高分子、(3)スルホン酸塩の陽イオンと交換可能な金属塩および分散媒を塗装製造に慣用の混合分散機(例えば超音波ホモジナイザー、振動ミル、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波装置、アトライター、デゾルバー、ペイントシェーカー等)を用いて混合し、得られる。中でも、超音波を用いて分散することで得られる分散体のカーボンナノチューブ含有組成物の分散性が向上し好ましい。分散させるカーボンナノチューブは乾燥状態であっても、溶媒を含んだ状態でもよいが、精製後乾燥させずに溶媒を含んだ状態で分散させることで、分散性が向上し好ましい。
【0033】
また、分散液が水系であるときの好ましいpHは酸性領域(pH7未満)である。分散剤の種類にもよるがより好ましくはpH3〜6である。さらに好ましくはpH3〜5である。pHが低すぎると分散剤の溶解性が低下したり、カーボンナノチューブ同士の斥力が小さくなり、カーボンナノチューブが凝集してしまう。しかしながらpHが中性以上であると基材への濡れ性が低下し塗布しにくくなる傾向にある。したがって、pHが酸性領域であるとカーボンナノチューブの分散安定性が高く基材への濡れ性も高く高導電性であり耐久性の高い導電性複合体を形成することができる。pHの調整はアルカリ性溶液を添加することにより行うことができる。アルカリ性溶液はアンモニアや有機アミンの溶液を用いる。有機アミンはエタノールアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、ピリジン、ピペリジン、ヒドロキシピペリジンなどの窒素を含む有機化合物が好ましい。これらアンモニア、有機アミンの中で最も好ましいのはアンモニアである。これら有機アミンやアンモニアを溶解する溶媒としては、水を用いることが好ましい。pHはpHメーター(東亜電波工業社製、HM−30S)により測定される。
【0034】
分散媒に用いる溶媒は、(2)スルホン酸塩を含む高分子および(3)スルホン酸塩の陽イオンと交換可能な金属塩が溶解し、カーボンナノチューブ含有組成物が分散するものであれば限定はなく、水系溶媒でも良いし非水系溶媒でも良い。非水系溶媒としては、炭化水素類(トルエン、キシレン等)、塩素含有炭化水素類(メチレンクロリド、クロロホルム、クロロベンゼン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ等)、エーテルアルコール(エトキシエタノール、メトキシエトキシエタノール等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル等)、ケトン類(シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等)、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、フェノール等)、低級カルボン酸(酢酸等)、アミン類(トリエチルアミン、トリメタノールアミン等)、窒素含有極性溶媒(N、N−ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、N−メチルピロリドン、アセトニトリル等)、硫黄化合物類(ジメチルスルホキシド等)などを用いることができる。
【0035】
これらのなかでも、水、アルコール、エーテルおよびそれらを組み合わせた溶媒を含有することがカーボンナノチューブの分散性から好ましい。
【0036】
本発明における分散体調製時に各成分を配合する順番は(1)カーボンナノチューブ含有組成物、(2)スルホン酸塩を含む高分子、(3)スルホン酸塩の陽イオンと交換可能な金属塩を配合した後に分散しても良いし、予め(1)カーボンナノチューブ含有組成物、(2)スルホン酸塩を含む高分子を配合して分散した後に(3)スルホン酸塩の陽イオンと交換可能な金属塩を添加して混合しても良い。(2)と(3)とを配合すると(2)のスルホン酸基のカウンターイオンと(3)の金属イオンとの間でイオン交換が生じる。このイオン交換は瞬時に起きると考えられるため、混合するタイミングを選ばない。
【0037】
本発明において、分散体は、製膜前に遠心分離、フィルター濾過、ゲル濾過によって分画することが好ましい。例えば、組成物を遠心分離することによって、未分散のカーボンナノチューブや、過剰量の分散剤、カーボンナノチューブ合成時に混入する可能性のある金属触媒などは沈殿するので、遠心上清を回収すれば組成物中に分散しているカーボンナノチューブを採取することができる。未分散のカーボンナノチューブおよび、不純物などは沈殿物として除去することができ、それによって、カーボンナノチューブの再凝集を防止でき、組成物の安定性を向上することができる。さらに、強力な遠心力においては、カーボンナノチューブの太さや長さによって分離することができ、塗膜の光線透過率を向上させることができる。
【0038】
遠心分離する際の遠心力は、100G以上の遠心力であればよく、好ましくは、1000G以上、より好ましくは10,000G以上である。上限としては特に制限はないが、汎用超遠心機の性能より2,000,000G以下であることが好ましい。
【0039】
かくして得られる分散体は後述の方法により製膜され導電層が形成される。
【0040】
本発明のカーボンナノチューブ分散体層が基材上に形成された薄膜の製造に用いる基材は、分散体が塗布でき、得られる導電層が固定できれば形状、サイズ、および材質は特に限定されず、目的とする用途によって選択でき、例えばフィルム、シート、板、紙、繊維、粒子状であってもよい。材質は例えば、有機材料であれば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、アクリル、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート、セルロース、トリアセチルセルロース、非晶質ポリオレフィンなどの樹脂、無機材料であればステンレス、アルミ、鉄、金、銀などの金属、ガラスおよび炭素材料等から選択できる。基材に樹脂フィルムを用いた場合は、接着性、延伸追従性、柔軟性に優れた導電性フィルムを得ることができ好ましい。その際の好ましい基材の厚みは、特に限定されず中程度の厚さから非常に薄い厚さまで種々の範囲をとることができる。例えば、本発明の基材は約0.5nm〜約1000μmの間の厚さとしうる。好ましい実施形態では基材の厚さは約0.005〜約1000μmとなりうる。別の好ましい実施形態では基材の厚さは約0.05〜約500μmである。また、別の好ましい実施形態では基材の厚さは約1.0〜約200μmである。
【0041】
基材は必要に応じ表面処理を施してあってもよい。表面処理は、コロナ放電処理、グロー放電やオゾン処理等の物理的処理、あるいは樹脂層を設けてあっても良い。
【0042】
樹脂層の樹脂は特に限定されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂であってよく、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂、アルキッド樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂およびこれら樹脂を2種類以上組み合わせたものなどを用いることができる。基材、導電層との密着性に特に優れ、高耐熱性、高透明性であることからポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる樹脂を用いることがより好ましく、ポリエステル樹脂とアクリル樹脂、ポリエステル樹脂とウレタン樹脂、アクリル樹脂とウレタン樹脂を組み合わせてもよい。
【0043】
樹脂層には、樹脂以外の成分として各種の添加剤、例えば、架橋剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、および核剤が添加されていてもよい。
【0044】
樹脂層は通常、フィルムを基材とした場合には、樹脂成分をオフラインコーティングあるいはインラインコーティングすることにより形成することができる。また、易接着層を有するポリエステルフィルムの“ルミラー”(東レ(株)社製)等の商標で市販されているものを使用してもよい。樹脂層が存在することの確認方法は、積層されていることが確認できる方法であれば限定されないが、例えば透過型電子顕微鏡を用いてフィルムの断面写真をとることで確認できる。必要であればフィルムを染色してもよい。樹脂層は基材との界面が明確でなくグラデーションがかかっている場合においても、グラデーション部分の片側(基材とは反対側)に樹脂層が認められれば、樹脂層があることとする。また、基材はカーボンナノチューブを塗布する反対面に耐摩耗性、高表面硬度、耐溶剤性、耐汚染性、耐指紋性等を付与したハードコート処理が施されているものも併せて用いることができる。
【0045】
また、基材は透明性があってもなくてもどちらでもよい。透明性がある基材を用いることにより透明性・導電性に優れた導電性複合体を得ることができ好ましい。透明性がある基材とは、550nmの光線透過率が50%以上であることを示す。
【0046】
分散体を製膜する方法は特に限定されない。公知の塗布方法、例えばスプレーコーティング、ディップコーティング、ロールコーティング、スピンコーティング、ドクターナイフコーティング、キスコーティング、スリットコーティング、ダイコーティング、スリットダイコーティング、グラビアコーティング、マイクログラビアコーティング、ブレードコーティング、ワイヤーバーコーティング、押出コーティングや、スクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷、パット印刷、他の種類の印刷などが利用できる。また塗布は、何回行ってもよく、異なる2種類の塗布方法を組み合わせても良い。最も好ましい塗布方法は、マイクログラビアコーティング、ワイヤーバーコーティングである。
【0047】
塗布厚み(ウエット厚)は塗布液の濃度にも依存するため、望む導電性が得られれば特に規定する必要はない。しかしその中でも0.01μm〜50μmであることが好ましい。さらに好ましくは0.1μm〜20μmである。塗布厚み(Dry厚)は導電性複合体断面を観察することで測定でき、例えば、透過型顕微鏡において観察でき、必要であれば染色してもよい。好ましいDry厚は望む導電性が得られれば規定はないが、好ましくは、0.001μm〜5μmである。さらに好ましくは、0.001〜1μmである。
【0048】
分散体が水系分散液であるとき、基材上に塗布する時、組成物中に濡れ剤を添加しても良い。非親水性の基材へは特に界面活性剤やアルコール等の濡れ剤を組成物中に添加することで、基材に組成物がはじかれることなく塗布することができる。中でもアルコールが好ましく、アルコールの中でもメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールが好ましい。メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコールは揮発性が高いために塗布後の基材乾燥時に容易に除去可能である。場合によってはアルコールと水の混合液を用いても良い。
【0049】
このようにして分散体を基材に塗布した後、風乾、加熱、減圧などの方法により不要な溶媒を除去し、形成される導電層を乾燥させることが好ましい。それによりカーボンナノチューブは、3次元編目構造を形成し基材に固定化される。中でも加熱による乾燥が好ましい。乾燥温度は溶媒が除去可能であり基材の耐熱温度以下であればよく、樹脂製基材の場合は、好ましくは0℃〜250℃であり、さらに好ましくは、15℃〜150℃である。
【0050】
本発明で製造する薄膜は、優れた透明性および低ヘイズを示し、透明性のある基材を用いた場合、550nmの光線透過率/基材の550nmの光線透過率が少なくとも約50%である。可視光のヘイズ値は約2.0%以下であることが好ましい。好ましい実施形態では導電性複合体の550nmの光線透過率/基材の550nmの光線透過率は約60%以上である。別の好ましい実施形態では、導電性複合体の550nmの光線透過率/基材の光線透過率は70%以上である。また、別の好ましい実施形態では導電性複合体の550nmの光線透過率/基材の550nmの光線透過率は80%以上である。さらに、別の好ましい実施形態では導電性複合体の550nmの光線透過率/基材の550nmの光線透過率は90%以上である。別の好ましい実施形態では、導電性複合体のヘイズ値は1.0%未満である。また、別の好ましい実施形態では、導電性複合体のヘイズ値は0.5%未満である。
【0051】
本発明において光線透過率は、導電性複合体を分光光度計(日立製作所 U−2100)に装填し、波長550nmでの光線透過率を測定して得られる値である。
【0052】
表面抵抗値はJISK7194(1994年度制定)準処の4探針法を用い、ロレスタEP MCP−T360((株)ダイアインスツルメンツ社製)を用いて得られる値である。
【0053】
ヘイズは、スガ試験機(株)製、全自動直読ヘイズコンピューターメーター HGM−2DP型を用いて測定する。
【0054】
本発明におけるカーボンナノチューブ分散体の塗布量は、導電性を必要とする種々の用途を達成するために、容易に調整可能であり、例えば膜厚を厚くすることにより表面抵抗は低くなり、膜厚を薄くすることにより高くなる傾向にあり、塗布量が1mg/mから40mg/mであれば導電性複合体の550nmの光線透過率/基材の550nmの光線透過率を50%以上とすることができる。塗布量を40mg/m以下とすれば50%以上とすることができる。さらに、塗布量を30mg/m以下とすれば60%以上とすることができる。さらに、塗布量を20mg/m以下であれば70%以上、塗布量を10mg/m以下であれば80%以上とすることでき好ましい。基材の550nmの光線透過率とは、基材に樹脂層がある場合は、樹脂層も含めた光線透過率をいう。
【0055】
また、塗布量により導電性複合体の表面抵抗値も容易に調整可能であり、塗布量が1mg/mから40mg/mであれば導電性複合体の表面抵抗値は10から10Ω/□とすることができ、好ましい。さらに、塗布量を40mg/m以下とすれば導電性複合体の表面抵抗値を10Ω/□以下とすることができる。塗布量を30mg/m以下とすれば導電性複合体の表面抵抗値を10Ω/□以下とすることができる。さらに、塗布量が20mg/m以下であれば、10Ω/□以下、塗布量を10mg/m以下であれば10Ω/□以下とすることできる。
【0056】
ただし、光線透過率と表面抵抗値は、光線透過率をあげるために塗布量を減らすと表面抵抗値が上昇し、表面抵抗値を下げるために塗布量を増やすと光線透過率が減少するといった相反する値であるため、所望の表面抵抗値および、光線透過率を選択し塗布量を調整する。
【0057】
本発明の製造方法によって得られた導電性複合体は高導電性であり、制電靴や、制電板などのクリーンルーム用部材や、電磁波遮蔽、近赤外カット、透明電極、タッチパネル、電波吸収などのディスプレー用、自動車用部材として使える。中でもタッチパネル用途に特に優れた性能を発揮する。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は例示のために示すものであって、いかなる意味においても、本発明を限定的に解釈するものとして使用してはならない。
【0059】
(参考例1)
以下のようにカーボンナノチューブを得た。
【0060】
(触媒調製)
約24.6gのクエン酸鉄(III)アンモニウム(和光純薬工業社製)をイオン交換水6.2kgに溶解した。この溶液に、酸化マグネシウム(岩谷社製MJ-30)を約1000g加え、撹拌機で60分間激しく撹拌処理した後に、懸濁液を10 Lのオートクレーブ容器中に導入した。この時、洗い込み液としてイオン交換水0.5kgを使用した。密閉した状態で160℃に加熱し6時間保持した。その後オートクレーブ容器を放冷し、容器からスラリー状の白濁物質を取り出し、過剰の水分を吸引濾過により濾別し、濾取物中に少量含まれる水分は120℃の乾燥機中で加熱乾燥した。得られた固形分は篩い上で、乳鉢で細粒化しながら、20〜32メッシュの範囲の粒径を回収した。左記の顆粒状の触媒体を電気炉中に導入し、大気下600℃で3時間加熱した。かさ密度は0.32g/mLであった。また、濾液をエネルギー分散型X線分析装置(EDX)により分析したところ鉄は検出されなかった。このことから、添加したクエン酸鉄(III)アンモニウムは全量酸化マグネシウムに担持されたことが確認できた。さらに触媒体のEDX分析結果から、触媒体に含まれる鉄含有量は0.39wt%であった。
【0061】
(カーボンナノチューブの製造)
上記の触媒を用い、カーボンナノチューブを合成した。固体触媒132gをとり、鉛直方向に設置した反応器の中央部の石英焼結板上に導入することで触媒層を形成した。反応管内温度が約860℃になるまで、触媒体層を加熱しながら、反応器底部から反応器上部方向へ向けて窒素ガスを16.5L/minで供給し、触媒体層を通過するように流通させた。その後、窒素ガスを供給しながら、さらにメタンガスを0.78L/minで60分間導入して触媒体層を通過するように通気し、反応させた。メタンガスの導入を止め、窒素ガスを16.5L/min通気させながら、石英反応管を室温まで冷却して触媒付きカーボンナノチューブ組成物を得た。この触媒付きカーボンナノチューブ組成物を115g用いて4.8Nの塩酸水溶液2000mL中で1時間撹拌することで触媒金属である鉄とその担体であるMgOを溶解した。得られた黒色懸濁液は濾過した後、濾取物は再度4.8Nの塩酸水溶液400mLに投入し脱MgO処理をし、濾取した。この操作を3回繰り返し、触媒が除去されたカーボンナノチューブ組成物を得た。
【0062】
(カーボンナノチューブの酸化処理)
上記のカーボンナノチューブ組成物を約300倍の重量の濃硝酸(和光純薬工業社製 1級 Assay60〜61%)に添加した。その後、約140℃のオイルバスで25時間攪拌しながら加熱還流した。加熱還流後、カーボンナノチューブ含有組成物を含む硝酸溶液をイオン交換水で3倍に希釈して吸引ろ過した。イオン交換水で濾取物の懸濁液が中性となるまで水洗後、水を含んだウェット状態のままカーボンナノチューブ組成物を保存した。このカーボンナノチューブ組成物の平均外径を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、1.7nmであった。また2層カーボンナノチューブの割合は90%であり、波長633nmで測定したラマンG/D比は79であり、燃焼ピーク温度は725℃であった。
【0063】
(pH測定)
pHはpHメーター(東亜電波工業社製、HM−30S)で測定した。
【0064】
(走査型電子顕微鏡観察)
走査型電子顕微鏡観察は、日本電子社製の走査型電子顕微鏡(JSM−6301NF)を用いた。
【0065】
(光線透過率測定)
光線透過率は、分光光度計(日立製作所 U−2100)で、波長550nmでの光線透過率を測定した。
【0066】
(表面抵抗値測定)
表面抵抗値はJISK7194(1994年度制定)準処の4探針法を用い、ロレスタEP MCP−T360((株)ダイアインスツルメンツ社製)を用いた。
【0067】
(実施例1)(PSS‐NH/CNT/AgNO=3/1/1;同時添加)
20mLの容器に参考例1で得られたカーボンナノチューブ含有組成物15mg(乾燥時換算)、分散剤としてポリスチレンスルホン酸アンモニウム(PSS‐NH)水溶液(アルドリッチ社製、30重量%、重量平均分子量20万、)150mg(ポリスチレンスルホン酸アンモニウム量として45mg、分散剤/カーボンナノチューブ含有組成物重量比=3)、金属塩として硝酸銀水溶液(1重量%で調製)1.5g(金属塩/カーボンナノチューブ含有組成物重量比=1)を量りとり、蒸留水を加え最終調製量を10gにした。アンモニア水溶液を添加して、pHメーターにてpHが3.8±0.4の範囲となるように調製した。その後、超音波ホモジナイザー出力20W、5.3分間で氷冷下分散処理しカーボンナノチューブ液を調製した。得られた液を高速遠心分離機にて10000G、15分遠心し、上清9mLを得た。上清取得後の残液にも目視で分かる大きさの沈殿は見られなかった。
【0068】
上記で得た遠心後上清のカーボンナノチューブ分散液をイオン交換水で2.5倍に希釈し、ポリエステル樹脂表面樹脂層(Dry厚み140nm)を持つポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム((東レ(株)社製(ルミラー U46)、188μm)光線透過率90.2%、15cm×10cm)上にバーコーターを用いて塗布し、120℃乾燥機内で1分間乾燥させカーボンナノチューブを固定化した。波長550nmにおける光線透過率が87%となるように塗布厚みを調節した導電性複合体を作製し、その表面抵抗値を読み取ったところ、550Ω/□であり、高い導電性および透明性を示した。走査型電子顕微鏡で該基材の塗布面を観察したところ、図2のような画像が得られた。カーボンナノチューブ含有組成物の薄膜上にポリスチレンスルホン酸アンモニウムと硝酸銀がイオン交換して生成する生成物5が粒子状で存在していることが確認できた。
【0069】
(実施例2)(PSS‐NH/CNT/AgNO=6/1/2)
20mLの容器に参考例1で得られたカーボンナノチューブ含有組成物15mg(乾燥時換算)、分散剤としてポリスチレンスルホン酸アンモニウム水溶液(アルドリッチ社製、30重量%、重量平均分子量20万、)300mg(ポリスチレンスルホン酸アンモニウム量として90mg、分散剤/カーボンナノチューブ含有組成物重量比=6)、金属塩として硝酸銀水溶液(1重量%で調製)3.0g(金属塩/カーボンナノチューブ含有組成物重量比=2)を量りとり、蒸留水を加え最終調製量を10gにした。アンモニア水溶液を添加して、pHメーターにてpHが3.8±0.4の範囲となるように調製した。その後、超音波ホモジナイザー出力20W、5.3分間で氷冷下分散処理しカーボンナノチューブ液を調製した。得られた液を高速遠心分離機にて10000G、15分遠心し、上清9mLを得た。上清取得後の残液にも目視で分かる大きさの沈殿は見られなかった。
【0070】
上記で得た遠心後上清のカーボンナノチューブ分散液をイオン交換水で2.5倍に希釈し、ポリエステル樹脂表面樹脂層(Dry厚み140nm)を持つポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム((東レ(株)社製(ルミラー U46)、188μm)光線透過率90.2%、15cm×10cm)上にバーコーターを用いて塗布し、120℃乾燥機内で1分間乾燥させカーボンナノチューブを固定化した。波長550nmにおける光線透過率が87%となるように塗布厚みを調節した導電性複合体を作製し、その表面抵抗値を読み取ったところ、750Ω/□であり、高い導電性および透明性を示した。
【0071】
(実施例3)(PSS‐NH/CNT/AgNO=3/1/1;AgNO後から添加)
20mLの容器に参考例1で得られたカーボンナノチューブ含有組成物15mg(乾燥時換算)、分散剤としてポリスチレンスルホン酸アンモニウム水溶液(アルドリッチ社製、30重量%、重量平均分子量20万、)150mg(ポリスチレンスルホン酸アンモニウム量として45mg、分散剤/カーボンナノチューブ含有組成物重量比=3)を量りとり、蒸留水を加え最終調製量を10gにした。アンモニア水溶液を添加して、pHメーターにてpHが3.8±0.4の範囲となるように調製した。その後、超音波ホモジナイザー出力20W、5.3分間で氷冷下分散処理しカーボンナノチューブ液を調製した。得られた液を高速遠心分離機にて10000G、15分遠心し、上清9mLを得た。上清取得後の残液にも目視で分かる大きさの沈殿は見られなかった。
【0072】
上記で得た遠心後上清のカーボンナノチューブ分散液をイオン交換水と、金属塩として硝酸銀水溶液(1重量%で調製)で2.5倍に希釈し(金属塩/カーボンナノチューブ含有組成物重量比=1)、ポリエステル樹脂表面樹脂層(Dry厚み140nm)を持つポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム((東レ(株)社製(ルミラー U46)、188μm)光線透過率90.2%、15cm×10cm)上にバーコーターを用いて塗布し、120℃乾燥機内で1分間乾燥させカーボンナノチューブを固定化した。波長550nmにおける光線透過率が87%となるように塗布厚みを調節した導電性複合体を作製し、その表面抵抗値を読み取ったところ、580Ω/□であり、高い導電性および透明性を示した。
【0073】
(実施例4)(PSS‐NH/CNT/Fe(NO=6/1/1;Fe(NO後から添加)
20mLの容器に参考例1で得られたカーボンナノチューブ含有組成物15mg(乾燥時換算)、分散剤としてポリスチレンスルホン酸アンモニウム水溶液(アルドリッチ社製、30重量%、重量平均分子量20万、)300mg(ポリスチレンスルホン酸アンモニウム量として90mg、分散剤/カーボンナノチューブ含有組成物重量比=6)を量りとり、蒸留水を加え最終調製量を10gにした。アンモニア水溶液を添加して、pHメーターにてpHが3.8±0.4の範囲となるように調製した。その後、超音波ホモジナイザー出力20W、5.3分間で氷冷下分散処理しカーボンナノチューブ液を調製した。得られた液を高速遠心分離機にて10000G、15分遠心し、上清9mLを得た。上清取得後の残液にも目視で分かる大きさの沈殿は見られなかった。
【0074】
上記で得た遠心後上清のカーボンナノチューブ分散液をイオン交換水と、金属塩として硝酸鉄水溶液(1重量%で調製)で2.5倍に希釈し(金属塩/カーボンナノチューブ含有組成物重量比=1)、ポリエステル樹脂表面樹脂層(Dry厚み140nm)を持つポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム((東レ(株)社製(ルミラー U46)、188μm)光線透過率90.2%、15cm×10cm)上にバーコーターを用いて塗布し、120℃乾燥機内で1分間乾燥させカーボンナノチューブを固定化した。波長550nmにおける光線透過率が87%となるように塗布厚みを調節した導電性複合体を作製し、その表面抵抗値を読み取ったところ、500Ω/□であり、高い導電性および透明性を示した。
【0075】
(実施例5)(PSS‐NH/CNT/FeCl=6/1/1;FeCl後から添加)
20mLの容器にカーボンナノチューブ含有組成物15mg(乾燥時換算)、分散剤としてポリスチレンスルホン酸アンモニウム水溶液(アルドリッチ社製、30重量%、重量平均分子量20万、)300mg(ポリスチレンスルホン酸アンモニウム量として90mg、分散剤/カーボンナノチューブ含有組成物重量比=6)を量りとり、蒸留水を加え最終調製量を10gにした。アンモニア水溶液を添加して、pHメーターにてpHが3.8±0.4の範囲となるように調製した。その後、超音波ホモジナイザー出力20W、5.3分間で氷冷下分散処理しカーボンナノチューブ液を調製した。得られた液を高速遠心分離機にて10000G、15分遠心し、上清9mLを得た。上清取得後の残液にも目視で分かる大きさの沈殿は見られなかった。
【0076】
上記で得た遠心後上清のカーボンナノチューブ分散液をイオン交換水と、金属塩として塩化鉄水溶液(1重量%で調製)で2.5倍に希釈し(金属塩/カーボンナノチューブ含有組成物重量比=1)、ポリエステル樹脂表面樹脂層(Dry厚み140nm)を持つポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)社製(ルミラー U46)、188μm)光線透過率90.2%、15cm×10cm)上にバーコーターを用いて塗布し、120℃乾燥機内で1分間乾燥させカーボンナノチューブを固定化した。波長550nmにおける光線透過率が87%となるように塗布厚みを調節した導電性複合体を作製し、その表面抵抗値を読み取ったところ、520Ω/□であり、高い導電性および透明性を示した。
【0077】
(実施例6)(PSS‐NH/CNT/Al(NO=6/1/1;Al(NO後から添加)
20mLの容器に参考例1で得られたカーボンナノチューブ含有組成物15mg(乾燥時換算)、分散剤としてポリスチレンスルホン酸アンモニウム水溶液(アルドリッチ社製、30重量%、重量平均分子量20万、)300mg(ポリスチレンスルホン酸アンモニウム量として90mg、分散剤/カーボンナノチューブ含有組成物重量比=6)を量りとり、蒸留水を加え最終調製量を10gにした。アンモニア水溶液を添加して、pHメーターにてpHが3.8±0.4の範囲となるように調製した。その後、超音波ホモジナイザー出力20W、5.3分間で氷冷下分散処理しカーボンナノチューブ液を調製した。得られた液を高速遠心分離機にて10000G、15分遠心し、上清9mLを得た。上清取得後の残液にも目視で分かる大きさの沈殿は見られなかった。
【0078】
上記で得た遠心後上清のカーボンナノチューブ分散液をイオン交換水と、金属塩として硝酸アルミニウム水溶液(1重量%で調製)で2.5倍に希釈し(金属塩/カーボンナノチューブ含有組成物重量比=1)、ポリエステル樹脂表面樹脂層(Dry厚み140nm)を持つポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム((東レ(株)社製(ルミラー U46)、188μm)光線透過率90.2%、15cm×10cm)上にバーコーターを用いて塗布し、120℃乾燥機内で1分間乾燥させカーボンナノチューブを固定化した。波長550nmにおける光線透過率が87%となるように塗布厚みを調節した導電性複合体を作製し、その表面抵抗値を読み取ったところ、550Ω/□であり、高い導電性および透明性を示した。
【0079】
(比較例1)(PSS‐NH/CNT/AgNO=3/1/0;リンス工程有)
20mLの容器にカーボンナノチューブ含有組成物15mg(乾燥時換算)、分散剤としてポリスチレンスルホン酸アンモニウム水溶液(アルドリッチ社製、30重量%、重量平均分子量20万、)150mg(ポリスチレンスルホン酸アンモニウム量として45mg、分散剤/カーボンナノチューブ含有組成物重量比=3)を量りとり、蒸留水を加え最終調製量を10gにした。アンモニア水溶液を添加して、pHメーターにてpHが3.8±0.4の範囲となるように調製した。その後、超音波ホモジナイザー出力20W、5.3分間で氷冷下分散処理しカーボンナノチューブ液を調製した。得られた液を高速遠心分離機にて10000G、15分遠心し、上清9mLを得た。上清取得後の残液にも目視で分かる大きさの沈殿は見られなかった。
【0080】
上記で得た遠心後上清のカーボンナノチューブ分散液をイオン交換水で2.5倍に希釈し、ポリエステル樹脂表面樹脂層(Dry厚み140nm)を持つポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)社製(ルミラー U46)、188μm)光線透過率90.2%、15cm×10cm)上にバーコーターを用いて塗布し、120℃乾燥機内で1分間乾燥させカーボンナノチューブを固定化した。波長550nmにおける光線透過率が87%となるように塗布厚みを調節した導電性複合体を作製し、その表面抵抗値を読み取ったところ、1000Ω/□であった。走査型電子顕微鏡で該基材の塗布面を観察したところ、図3のような画像が得られた。カーボンナノチューブ含有組成物の表面が被覆されていることが確認できた。該基材をイオン交換水中に5秒間浸漬、保持した後に、イオン交換水から引き上げて120℃乾燥機内で1分間乾燥させた。波長550nmにおける光線透過率が87%となるように塗布厚みを調節した導電性複合体を作製し、その表面抵抗値を読み取ったところ、500Ω/□であった。この基材に関しても走査型電子顕微鏡でと譜面を観察したところ、図4のような画像が得られ、カーボンナノチューブ含有組成物がはっきりと確認できた。イオン交換水による洗浄で基材の最表面に存在したポリスチレンスルホン酸アンモニウムが除去されたことを確認できた。
【0081】
【表1】

【符号の説明】
【0082】
1 (1)カーボンナノチューブ含有組成物
2 (2)スルホン酸塩を含む高分子
3 基材
4 (2)スルホン酸塩を含む高分子と(3)金属塩がイオン交換して生成する生成物
5 ポリスチレンスルホン酸アンモニウムと硝酸銀がイオン交換して生成する生成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)カーボンナノチューブ含有組成物と(2)スルホン酸塩を含む高分子と(3)スルホン酸塩の陽イオンと交換可能な金属塩を配合してなるカーボンナノチューブ分散体層を基材上に形成させてなる薄膜。
【請求項2】
前記分散体が、(1)カーボンナノチューブ含有組成物に対する(2)スルホン酸塩を含む高分子の配合比が1.2〜7、(3)金属塩が(1)カーボンナノチューブ含有組成物に対する配合比が0.5〜3で調整されたものであることを特徴とする請求項1に記載の薄膜。
【請求項3】
前記金属塩を構成する金属元素がFe、Ag、Au、Al、Cu、Co、Ni、Znからなる群より選択される少なくとも1つの金属元素であることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜。
【請求項4】
(1)カーボンナノチューブ含有組成物と(2)スルホン酸塩を含む高分子と(3)スルホン酸塩の陽イオンと交換可能な金属塩とを配合し、カーボンナノチューブ含有組成物を分散媒中に分散させることを特徴とするカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項5】
(1)カーボンナノチューブ含有組成物と(2)スルホン酸塩を含む高分子を配合し、(1)カーボンナノチューブ含有組成物を分散媒中に分散させた後に(3)スルホン酸塩の陽イオンと交換可能な金属塩を配合することを特徴とする請求項4に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法により得られるカーボンナノチューブ分散液。
【請求項7】
(1)カーボンナノチューブ含有組成物と(2)スルホン酸塩を含む高分子と(3)スルホン酸塩の陽イオンと交換可能な金属塩を配合し、(1)カーボンナノチューブ含有組成物を分散媒中に分散させてなるカーボンナノチューブ分散液を用いて基材上にカーボンナノチューブ分散体層を形成させることを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項8】
基材を含む光透過率が85%以上、表面抵抗値が1×10Ω/□以下である請求項1〜5のいずれか記載の薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−240889(P2012−240889A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113050(P2011−113050)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】