説明

カーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体

【課題】高い弾性率と実用上十分な機械的強度を有し、放熱性の改善された耐熱シートや成形物として、多層配線板などの放熱板などに応用できるカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体を提供する。
【解決手段】カーボン繊維と、ベンゾオキサゾール骨格を有するジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類を反応して得られるポリイミドベンゾオキサゾールとの複合体であるカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体で、質量比率でカーボン繊維が30%から60%の間にあり、カーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体の線膨張係数が−10から+16(ppm/℃)であり、その反りが40μm以下であるカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン繊維を含有してなるカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体であって、高い弾性率と実用上十分な機械的強度を有し、スティフネスの改善された加熱冷却によっても補強カーボン繊維とポリイミド樹脂との剥離が生じない、構造材や耐熱シートなどとして、電子部品用の樹脂放熱板などとして使用されるカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムはフレキシブルプリント配線板、COF、TAB、LOCテープなど電気、電子分野において、耐熱性があり、なおかつ柔軟な絶縁材料として広く用いられている。また、最近では携帯電話などの小型機器に用いられる小型薄型のコネクタ端子などに、比較的厚手のポリイミドフィルムが補強材として用いられている。
一般に高分子素材は圧縮弾性率が低いため、曲げ応力が加わった場合に曲がりやすく、柔軟性がある反面、高い剛性、スティフネスが必要な場合には、厚みによりコシの強さを出すという選択をせざるを得ない。
材料の強度や弾性率を上げるために粉体を配合し粉体補強複合材料する手法は一般に知られている。ポリイミド樹脂に粉体を配合するアイデア(特許文献1参照)も、提案されている。当該文献には、ポリイミド基板がフィラーを混合したポリイミド系樹脂からなることを特徴とするポリイミド基板を有した電子部品が開示され、フィラーとしては高熱伝導材料、低線膨張係数材料、磁性体材料、誘電体材料が例示されているが、具体的な例示はない。フィラーを配合した液状樹脂を何らかの基板上にスクリーン印刷し、乾燥、熱処理、硬化させるもので、フィラーを含むポリイミド樹脂のフィルムを意図したものではなく、材料の強度に関する開示もされていない。
粉体、特に体質顔料を含むポリイミド樹脂をフィルム化し、高いスティフネスを実現する試みについて過去十分に検討されてきたとは云えない。スティフネスを上げようとして高濃度に体質顔料を配合すると、硬くなると同時に脆くなる。顔料の分散が不均一でかえってフィルムの強度が下がる。特に製膜プロセス中において、熱風処理などの際に破断などが生じやすく生産性が高くない。フィラーを高濃度に配合した場合、フィルム表面の平滑性が低下し、メタライズ時に欠点が生じやすい。
ポリイミド樹脂に補強繊維を複合化し、上記課題を解決せんとする試みは多数提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
また、カーボン繊維などの繊維にエポキシ樹脂などを含浸させてなる反りや表面のうねりが少ないプリント配線板(特許文献3参照)や、平面状に形成される第1繊維層を有する第1絶縁体と、前記第1絶縁体上に配置され、平面状に形成される第2繊維層を有する第2絶縁体と、前記第1絶縁体と前記第2絶縁体の間に介在されてなる導体とを備えたコアレス基板で、繊維層は、ポリベンゾオキサゾール、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステルなど、樹脂層は、ポリイミド、アラミド、ポリイミドベンゾオキサゾールなどのコアレス基板(特許文献4参照)も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−335440号公報
【特許文献2】特開平09−055562号公報
【特許文献3】特開2001−144413号公報
【特許文献4】特開2008−085107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の高耐熱性のポリイミドでは、延伸により配向性をあげて強度を発現しており、高濃度にフィラーを配合した系では、フィラー近傍で構造破壊が生じ、配向が進まないため高強度のフィルムやシートは得られがたい。さらにはフィラー部分から破断が生じやすく、特にカーボン繊維との線膨張係数に乖離のあるポリイミドを使用したカーボン繊維補強ポリイミド複合体においては、補強繊維とマトリックスポリイミドとの間で加熱による剥離などの問題が発生し、これらを使用した印刷回路基板などにおいて絶縁不良などの欠陥を生じることとなり、使用上、生産性上に大きな問題があった。
【0006】
カーボン繊維の分散が不均一、カーボン繊維とマトリックスとの線膨張係数などの物性差による、複合体シートなどの強度が下がる、使用中の絶縁性不良発生という従来のポリイミド樹脂マトリックスに対して、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸類とが重縮合してなるポリイミドをマトリクスに使用することにより、このポリイミドフィルムは自己組織化的に配向するため、強度が発現しやすく、フィラーを高濃度に配合してもフィルム強度を保つことが出来、さらに線膨張係数がカーボン繊維とマトリックス樹脂との間で差があまりないことに由来する剥離空間からの水分などの浸入などによる絶縁性不良発生が生じ難いことを見出し、軽量で高強度な構造材や放熱板に好適に使用しうる本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、以下の構成からなる。
1.カーボン繊維と、ベンゾオキサゾール骨格を有するジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類を反応して得られるポリイミドベンゾオキサゾールとの複合体であって、複合体中のカーボン繊維が、フィラメント直径が1から20μmであり、フィラメント本数20〜2000のストランドおよびまたは前記ストランドからなる織物であり、複合体中のカーボン繊維が質量比率で30%から60%の範囲で含まれていることを特徴とするカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体。
2.ベンゾオキサゾール骨格を有するジアミン類が下記化1〜化4で示されるジアミン類から選ばれた一種以上である1.のカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

3.線膨張係数が−10〜+16ppm/℃である1.〜2.いずれかのカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体。
4.反りが40μm以下である1.〜3.いずれかのカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体。
5.1.〜4.いずれかのカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体を使用した電子部品用の樹脂放熱板。
【発明の効果】
【0008】
本発明のカーボン繊維と、特定のベンゾオキサゾール骨格を有するジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類を反応して得られるポリイミドベンゾオキサゾールとの複合体であり、複合体中のカーボン繊維が、フィラメント直径が1から20μmであり、フィラメント本数20〜2000のストランドまたは織物であり、複合体中のカーボン繊維が質量比率で30%から60%の範囲で含まれているカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体、特にカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体の線膨張係数が−10から+16(ppm/℃)であるカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体、または反りが40μm以下であるカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体は、カーボン繊維の分散が均一になり易く、カーボン繊維とマトリックス樹脂であるポリイミドベンゾオキサゾールとの線膨張係数などの物性差が少なく、複合体シートなどの強度が低下せず、使用中の補強繊維とマトリックス樹脂との剥離による品質不良発生という従来のポリイミド樹脂マトリックスに対して、特定のベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸類とが重縮合してなるポリイミドをマトリックスに使用することにより、このポリイミドは自己組織化的に配向するため、強度が出やすく、補強繊維のカーボン繊維であるフィラーを高濃度に配合しても複合体の強度を保つことが出来、さらに線膨張係数がカーボン繊維とマトリックス樹脂との間で差があまりないことからくる剥離空間からの水分などの浸入などによる接着不良発生が生じ難いという優れた性能を保有しており、構造材や放熱板などとしてあらゆる電子部品の材料として耐久性を備えた使用が可能であり、工業的に極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】反りの測定方法の概略を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のベンゾオキサゾール構造を有するジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸類とが重縮合(以下、重合ともいう)して得られるポリイミドをマトリックスとするカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体は、例えば化1〜化4の一種または2種以上のベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸類とを溶媒中で重縮合して得られるポリアミド酸溶液を、カーボン繊維布帛などのカーボン繊維に流延もしくは含浸もしくは混合して乾燥し、ポリアミド酸の自己支持性である前駆体複合体(グリーンシートまたは前駆体シートなど)とし、これを高温処理してイミド化してカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体(以下、複合体ともいう)とする方法などで得られるものである。
【0011】
ポリアミド酸溶液にカーボン繊維を添加含有せしめる方法は、特に限定されず例えば溶媒にカーボン繊維を添加含有せしめ、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸類とを添加して重縮合せしめてもよく、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを溶媒中で重縮合して得られるポリアミド酸の溶液にカーボン繊維を添加含有せしめる方法であってもよい。
好ましい態様としては、カーボン繊維布帛に上記ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを溶媒中で重縮合して得られるポリアミド酸の溶液を含浸せしめ、これを乾燥などの手段で脱溶媒を実施し、得られた前駆体複合体をさらに高温処理してカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体とする方法が挙げられる。
本発明のカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体に用いられるベンゾオキサゾール構造を有するジアミン類としては、具体的には以下のものが挙げられる。
【0012】
【化1】

【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

【0015】

【化4】

【0016】
【化5】

【0017】
【化6】

【0018】
【化7】

【0019】
【化8】

【0020】
【化9】

【0021】
【化10】

【0022】
【化11】

【0023】
【化12】

【0024】
【化13】

【0025】
これらの中でも、コストや合成のし易さの観点などから、化1〜化4に示すアミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールの各異性体が好ましい。ここで、「各異性体」とは、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールが有する2つアミノ基が配位位置に応じて定められる各異性体である(例;上記「化1」〜「化4」に記載の各化合物)。これらのジアミンは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
本発明においては、前記ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミンを80モル%以上使用することが好ましい。
【0026】
本発明は、前記事項に限定されず下記の芳香族ジアミンを使用してもよいが、好ましくは全芳香族ジアミンの20モル%未満であれば下記に例示されるベンゾオキサゾール構造を有しないジアミン類を一種または二種以上、併用してのポリイミドフィルムである。
そのようなジアミン類としては、例えば、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−アミノベンジルアミン、p−アミノベンジルアミン。
3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンなどであり、上記芳香族ジアミンにおける芳香環上の水素原子の一部もしくは全てがハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアルコキシル基、シアノ基、またはアルキル基またはアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基またはアルコキシル基で置換された芳香族ジアミン等であってもよい。
【0027】
本発明で用いられる芳香族テトラカルボン酸類は例えば芳香族テトラカルボン酸無水物類である。芳香族テトラカルボン酸無水物類としては、具体的には、以下のものが挙げられる。
【0028】
【化14】

【0029】
【化15】

【0030】

【化16】

【0031】
【化17】

【0032】
【化18】

【0033】
【化19】

【0034】
これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
本発明においては、全テトラカルボン酸二無水物の10モル%未満であれば下記に例示される非芳香族のテトラカルボン酸二無水物類を一種または二種以上、併用しても構わない。そのようなテトラカルボン酸無水物としては、例えば、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ペンタン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサ−1−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−エチルシクロヘキサン−1−(1,2),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0035】
前記芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸(無水物)類とを重縮合(重合)してポリアミド酸を得るときに用いる溶媒は、原料となるモノマーおよび生成するポリアミド酸のいずれをも溶解するものであれば特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックアミド、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、ハロゲン化フェノール類等があげられる。 これらの溶媒は、単独あるいは混合して使用することができる。溶媒の使用量は、原料となるモノマーを溶解するのに十分な量であればよく、具体的な使用量としては、モノマーを溶解した溶液に占めるモノマーの質量が、通常5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%となるような量が挙げられる。
【0036】
ポリアミド酸を得るための重合反応(以下、単に「重合反応」ともいう)の条件は従来公知の条件を適用すればよく、具体例として、有機溶媒中、0〜80℃の温度範囲で、10分〜30時間連続して撹拌および/または混合することが挙げられる。必要により重合反応を分割することや、温度を上下させてもかまわない。この場合に、両モノマーの添加順序には特に制限はないが、芳香族ジアミン類の溶液中に芳香族テトラカルボン酸無水物類を添加するのが好ましい。重合反応によって得られるポリアミド酸溶液に占めるポリアミド酸の質量は、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%であり、前記溶液の粘度はブルックフィールド粘度計による測定(25℃)で、送液の安定性の点から、好ましくは10〜2000Pa・sであり、より好ましくは100〜1000Pa・sである。
本発明におけるポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)は、特に限定するものではないが3.0以上が好ましく、4.0以上がさらに好ましく、これらの還元粘度とすることで、得られるポリイミドベンゾオキサゾールの線膨張係数が−10から+16(ppm/℃)と制御し易くなる。
【0037】
重合反応中に真空脱泡することは、良質なポリアミド酸の有機溶媒溶液を製造するのに有効である。また、重合反応の前に芳香族ジアミン類に少量の末端封止剤を添加して重合を制御することを行ってもよい。末端封止剤としては、無水マレイン酸等といった炭素−炭素二重結合を有する化合物が挙げられる。無水マレイン酸を使用する場合の使用量は、芳香族ジアミン類1モル当たり好ましくは0.001〜1.0モルである。
重合反応により得られるポリアミド酸溶液から、本発明の複合体を形成するためには、前記したように、ポリアミド酸溶液にカーボン繊維を添加含有せしめる方法であってもよく、ポリアミド酸溶液作成時にカーボン繊維を添加含有せしめる方法がある。
好ましい態様としては、カーボン繊維布帛にベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを溶媒中で重縮合して得られるポリアミド酸の溶液を含浸せしめ、これを乾燥などの手段で脱溶媒を実施し、得られた前駆体複合体をさらに高温処理してカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体とする方法が挙げられる。
【0038】
高温処理によるイミド化方法としては、従来公知のイミド化反応を適宜用いることが可能である。例えば、閉環触媒や脱水剤を含まないポリアミド酸溶液を用いて、加熱処理に供することでイミド化反応を進行させる方法(所謂、熱閉環法)やポリアミド酸溶液に閉環触媒および脱水剤を含有させておいて、上記閉環触媒および脱水剤の作用によってイミド化反応を行わせる、化学閉環法を挙げることができる。
熱閉環法の加熱最高温度は、100〜500℃が例示され、好ましくは200〜480℃である。加熱最高温度がこの範囲より低いと充分に閉環されづらくなり、またこの範囲より高いと劣化が進行し、複合体が脆くなりやすくなる。より好ましい態様としては、150〜250℃で3〜20分間処理した後に350〜500℃で3〜20分間処理する2段階熱処理が挙げられる。
化学閉環法では、ポリアミド酸溶液をカーボン繊維と混合した後、イミド化反応を一部進行させて自己支持性を有する前駆体複合体を形成した後に、加熱によってイミド化を完全に行わせることができる。この場合、イミド化反応を一部進行させる条件としては、好ましくは100〜200℃による3〜20分間の熱処理であり、イミド化反応を完全に行わせるための条件は、好ましくは200〜400℃による3〜20分間の熱処理である。
【0039】
シート状として使用する場合のカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体の厚さは特に限定されないが、後述する放熱板などに用いることを考慮すると、通常20〜3000μm、好ましくは25〜1000μmである。 またスティフナーとして使用する場合には15〜300μm、さらには25〜250μm、なおさらには50〜150μmの厚みが好ましい。この厚さはポリアミド酸溶液を含浸せしめるカーボン繊維体容量や厚さ、さらに塗布する際の塗布量や、ポリアミド酸溶液の濃度によって容易に制御し得る。
本発明におけるカーボン繊維は、公知のカーボン繊維であって補強用に使用されるものおよびこれらと同等の線膨張係数と引張り弾性率をもつものであれば特に限定されないが、線膨張係数が0〜10ppm/℃の範囲にあるカーボン繊維が好ましい。例えば、クレカ(呉羽化学製)、パイロフィル(三菱レーヨン製)、ダイアリード(三菱化学製)、トレカ(東レ製)、アルマックス(三井鉱山マテリアル製)などの商品名で知られているものが挙げられる。
本発明における好ましい態様として、質量比率でカーボン繊維が30%から60%の間にあるカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体、またカーボン繊維が、フィラメント直径が1から20μmで、フィラメント本数20〜2000のセラミック長繊維を使用したセラミック織物であるカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体、またカーボン繊維が、フィラメント直径が1から20μm更に好ましくは3から20μmで、フィラメント本数20〜2000更に好ましくは100から2000本のセラミック長繊維ストランドであるカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体が挙げられる。カーボン繊維の質量比率は、カーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体に対して30〜60質量%更に好ましくは35から60質量%である。30質量%未満であると、カーボン繊維による補強効果が十分でなく、60質量%を超えると成形することが困難になる場合が多い。
カーボン繊維の平均繊維長は6mm以上好ましくは10mm以上であり、平均カーボン繊維直径は1〜20μmである。平均繊維長が6mm以下、平均繊維径が20μmを超えるものであると、カーボン繊維による補強効果が不十分になることがある。ここで、カーボン繊維の平均繊維長又は平均繊維直径とは、100本以上の繊維を顕微鏡で観察し、その内の100本の繊維長又は繊維径の平均値をいうものである。
【0040】
本発明における線膨張係数(CTE)の測定は下記による。
<線膨張係数測定>
測定対象について、下記条件にてMD方向およびTD方向の伸縮率を測定し、90℃〜100℃、100℃〜110℃、…と10℃の間隔での伸縮率/温度を測定し、この測定を400℃まで行い、100℃から350℃までの全測定値の平均値をCTE(平均値)として算出した。
装置名 ; MACサイエンス社製TMA4000S
試料長さ ; 10mm
試料幅 ; 2mm
初荷重 ; 34.5g/mm2
昇温開始温度 ; 25℃
昇温終了温度 ; 400℃
昇温速度 ; 5℃/min
雰囲気 ; アルゴン
本発明の好ましい態様である、カーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体の線膨張係数が−10から+16(ppm/℃)であるシート状カーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体のCTEは、より好ましくは、0〜10(ppm/℃)である。使用したカーボン繊維のCTEに較べて乖離の少ないCTE保有ポリイミドベンゾオキサゾ−ルを使用することで本発明の目的である、カーボン繊維とマトリックス樹脂との熱履歴を受けたときの剥離などが生じ難いものとなる。
【0041】
本発明における反りの測定は、下記による。
シート状試料を5mm×35mmの大きさに切り取り試験片とした。反りは面方向に対する厚さ方向への変形度合を意味し、具体的には、図1に示すように、5mm×35mmの試験片を、5mmをサンプル固定台に固定し、サンプル固定台から30mmはみ出た片持ち梁とした。サンプル固定台から、5mm、15mm、25mmの部分をそれぞれ非接触レーザー測長計(キーエンス LK−G85)で測定し、測定値をそれぞれA,B,Cとす
ると、(A+C)/2-Bを反り量とした。それぞれ計10点をサンプリングし、測定値は10点の平均値とした。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は、前記したもの以外は以下の通りである。
【0043】
1.ポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)
ポリマー濃度が0.2g/dlとなるようにN−メチル−2−ピロリドン(又は、N,N−ジメチルアセトアミド)に溶解した溶液をウベローデ型の粘度管により30℃で測定した。(ポリアミド酸溶液の調製に使用した溶媒がN,N−ジメチルアセトアミドの場合は、N,N−ジメチルアセトアミドを使用してポリマーを溶解し、測定した。)
2.ポリイミド複合体の厚さ
マイクロメーター(ファインリューフ社製、ミリトロン(登録商標)1245D)を用いて測定した。
【0044】
3.熱放射特性
熱放射特性は、作成した複合体を電子部品の放熱板として使用したときの除熱能力を確認。評価するものであり、実施例、比較例で得た各複合体を30mm平方に裁断し放熱板とし、支持体で直立させたT0−2型のパワートランジスターに貼り付け、このパワートランジスターに印加電力3.85(W)を流し発熱させて、10分後昇温温度t1を測定し、一方放熱板から5mm離れた位置の10分後昇温温度t2を測定して熱放射特性を評価した。
【0045】
4.形状性判定
複合体の外観を目視して、カーボン繊維のはみ出しなどの外観不良が見られるものを×、そのような異常の見られないものを○として判定した。
5.熱履歴テスト
125℃と-55℃で各30分300サイクル行い、その後に剥がれ、繊維の飛び出し、ふくらみの欠点が生じたものを目視判定し、なかったものを○、あったものを×とした。
【0046】
〔参考例1〕
(ポリアミド酸溶液の調製)
窒素導入管,温度計,攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後,5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール223質量部、N,N−ジメチルアセトアミド4416質量部を加えて完全に溶解させた後、ピロメリット酸二無水物217質量部を加え,26℃の反応温度で33時間攪拌すると、褐色で粘調なポリアミド酸溶液Aが得られた。このものの還元粘度(ηsp/C)は4.1であった。
【0047】
〔参考例2〕
(ポリアミド酸溶液の調製)
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、200質量部のジアミノジフェニルエーテルを入れた。次いで、2190質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、先に得た予備分散液と217質量部のピロメリット酸二無水物を加えて、26℃にて6時間攪拌すると、白褐色の粘調な体質顔料分散ポリアミド酸溶液Bが得られた。この還元粘度(ηsp/C)は3.0であった。
【0048】
*実施例1〜4、比較例1〜4
参考例1〜2で得たポリアミド酸溶液を24時間減圧脱泡したものと、下記カーボン繊維布帛を使用して複合体を作成した。
ポリアミド酸溶液の中に各カーボン繊維布帛を浸漬し含浸せしめ、ポリアミド酸溶液を含浸したカーボン繊維を垂直にポリアミド酸溶液から引き上げ、ロール間を通して余分なポリアミド酸溶液を搾り取り、垂直状態で110℃熱風中乾燥させポリイミド前駆体複合体を作成し、このポリイミド前駆体複合体を、120℃、200℃、450℃の各熱風乾燥機内で熱処理して、各カーボン繊維補強ポリイミド複合体を得た。
各実施例、各比較例の、使用したポリアミド酸溶液、使用したカーボン繊維布帛、得られたカーボン繊維補強ポリイミド(ベンゾオキサゾール)複合体を使用した放熱板の評価を表1に示す。
【0049】
カーボン繊維布帛1;フィラメント直径約7μm、フィラメント本数1000本、
縦横の糸密度がたて:12本/インチ、横:12本/インチ、
平織り、重量64g/m2、厚さ0.13mm

カーボン繊維布帛2; フィラメント直径約10μm、フィラメント本数1000本、
縦横の糸密度がたて:20本/インチ、横:19本/インチ、
平織り、重量200g/m2、厚さ0.41mm

上記布帛1,2においてそれぞれの単繊維は途中断線の無い繊維である。
【0050】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0051】
以上述べてきたように、本発明のカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体は、高い弾性率と実用上十分な機械的強度を有し、耐久性絶縁性の改善された耐熱シートや成形物として、電子部品の放熱板や、飛行機などの一次構造材-主翼、垂直、水平尾翼、二次構造材-補助翼、方向舵、昇降舵、ノズルコーン、モーターケース、内装材-座席、テーブル、他機器として、またチューブトラス構造体、太陽電池パネル、また医療機器、フイルムカセッテ、X線グリッド、車椅子構造材、インナーレビア、ヘルドフレーム、板バネ、工作機械ヘッド、ロボットアーム、遠心分離器ローター、ウラン濃縮筒、各種ローラー、シャフト、人絹製造用ポット、パラボラアンテナ、電池部材、レーダー、音響スピーカーコーン、コンピュウター、ノートパソコン、パソコン関連機器、電話、携帯電話、事務機器、通信機器の筐体、さらにゴルフシャフト、フェース、ヘッド、テニスラケット、バドミントンラケット、ヨット、クルーザー、ボート、マスト、ラダー、野球バット、スキー板、ストック、弓具、剣道竹刀、 軽量化、剛性、振動減衰性、自動車などのドライブシャフト、エンジンパーツ、スポイラー、レーシングカーボディー、リニアモーターカー車体、自転車のフレーム、ディスクホイール、リム、ハンドルや、圧力容器におけるアクチュエーター、シリンダー、ボンベ、化学装置などの装置における撹拌翼、パイプ、タンク、ピットフロアーや、土木建築におけるCFコンポジットケーブル、コンクリート補強部材や家具、洋傘、ヘルメット、時計の歯車など歯車、カムなどの機械部品カメラボディー、ノートパソコン筐体、コンピューター周辺機器の筐体家電品、複写機、プリンター、FAXなどの事務機器のケースなど構造部品、自動車の電装部品、コネクターラジエターグリル、ランプハウジングなどとして広く応用でき、工業的価値が大きいものである。
【符号の説明】
【0052】
1:比接触レーザー変位計
2:サンプル
3:サンプル固定台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン繊維と、ベンゾオキサゾール骨格を有するジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類を反応して得られるポリイミドベンゾオキサゾールとの複合体であって、複合体中のカーボン繊維が、フィラメント直径が1から20μmであり、フィラメント本数20〜2000のストランドおよびまたは前記ストランドからなる織物であり、複合体中のカーボン繊維が質量比率で30%から60%の範囲で含まれていることを特徴とするカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体。
【請求項2】
ベンゾオキサゾール骨格を有するジアミン類が下記化1〜化4で示されるジアミン類から選ばれた一種以上である請求項1記載のカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【請求項3】
線膨張係数が−10〜+16ppm/℃である請求項1〜2いずれかに記載のカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体。
【請求項4】
反りが40μm以下である請求項1〜3いずれかに記載のカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載のカーボン繊維補強ポリイミドベンゾオキサゾール複合体を使用した電子部品用の樹脂放熱板。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−168562(P2010−168562A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290523(P2009−290523)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】