説明

ガスセンサーおよびその製造方法

【課題】 常温で動作する金属酸化物半導体ガスセンサーを提供する。
【解決手段】 平板状のセンサー基板1と、該センサー基板1上に形成される電極2,2と、該電極2,2上に形成される、酸化テルルナノワイヤーからなる薄膜層3と、を備えるガスセンサーである。酸化テルルナノワイヤーは、金属テルルおよび生成基板を同時に加熱し、生成基板上に成長させる。ナノワイヤーを水またはアルコールに投入して懸濁液を生成し、この懸濁液を、電極を形成したセンサー基板上に滴下して乾燥させることで、酸化テルルナノワイヤーからなる薄膜層を備えるガスセンサーが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温で動作可能な、酸化テルルのナノワイヤーからなる半導体ガスセンサーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可燃性ガスや毒性ガスを検知するためのガスセンサーとして、一般に半導体ガスセンサーが多く用いられている。半導体ガスセンサーは、半導体素子と被検出ガスとの相互作用に基づく電気抵抗変化を利用するものであり、半導体としては酸化スズの焼結体など多孔質の金属酸化物半導体が用いられる。しかし、従来の金属酸化物半導体ガスセンサーは、使用の際、表面化学反応を促進するために、200〜500℃程度に加熱しないと十分な感度が得られなかった。このように高温動作させると、ヒーターによる電力消費が大きく、また、使用するうちに素子の焼結が進み、特性が変化してしまう。さらに、水素などの可燃性ガスを爆発させる危険性もある。そこで、文献1および文献2において、素子として有機半導体を用いた常温で動作可能なガスセンサーが提案されている。
【特許文献1】特開平11−153566号公報
【特許文献2】特開2001−281192号公報
【0003】
しかしながら、これら有機半導体は、無機半導体(金属酸化物半導体)と比較して、酸素や水に弱いなど環境からの影響を受けやすいため、長期間安定した特性を得ることが難しく、また精製が難しいため高純度の材料を得ることが困難であるという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情を鑑みたものであり、常温で動作可能な金属酸化物半導体のガスセンサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のうち請求項1の発明は、平板状のセンサー基板と、該センサー基板上に形成される電極と、該電極上に形成される、酸化テルルナノワイヤーからなる薄膜層と、を備えることを特徴とする。
【0006】
また、請求項2の発明は、金属テルルおよび生成基板を同時に加熱し、前記生成基板上に酸化テルルナノワイヤーを成長させ、該酸化テルルナノワイヤーを水またはアルコールに投入して懸濁液を生成し、該懸濁液を、電極を形成したセンサー基板上に滴下して乾燥させることで、酸化テルルナノワイヤーからなる薄膜層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のうち請求項1の発明によれば、二酸化窒素、硫化水素やアンモニアといった環境汚染ガスや、水素、プロパンガスや都市ガス(主成分メタンガス)といった可燃性ガス等、あらゆる酸化性ガスおよび還元性ガスを対象として、素子を加熱することなしに検出することができ、素子を比表面積が大きいナノワイヤーにより構成したことで、小さな素子でも素早い応答性と高い感度が得られる。また、ヒーターによる加熱が必要ないので、消費電力が小さい。さらに、焼結が進んで素子構造が変化することもなく、またナノワイヤーは単結晶であるために構造が安定しているので、長期間安定した特性を得ることができる。さらに、被検出ガスが可燃性ガスである場合でも引火や爆発の危険がない。また、一般的な金属酸化物半導体がn型の半導性を示すのに対し、酸化テルルからなる半導体はp型の半導性を示す。よって、本発明のガスセンサーと他のn型半導体ガスセンサーを組み合わせて使用することで、任意のガスを検出できるようにすることもできる。
【0008】
本発明のうち請求項2の発明によれば、特別な装置等を必要とすることなく、非常に簡単な方法で、酸化テルルナノワイヤーを用いたガスセンサーを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のガスセンサーの具体的な構成について、各図面に基づいて説明する。図1は本発明のガスセンサーを示すものであり、(a)は上面図、(b)はS−S線断面図である。センサー基板1は、8mm角のシリコン基板であり、表面が酸化され、厚さ1μmの酸化シリコン(SiO)の膜(表面層4)が形成されている。このセンサー基板1上に、一対のくし型電極2,2が形成される。電極2,2は白金製で、厚さが100nm、くしの本数は一方の極で8本、くしの歯の太さと間隔はともに200μmである。そして、さらにこの電極2,2を覆うように、酸化テルルナノワイヤーの薄膜層3が形成される。薄膜層3は、厚さ20μmであり、ナノワイヤーがランダムに折り重なって形成されている。電極2,2には金のリード線5,5が取り付けられ、さらにリード線5,5には図示しない電源および電流計が接続され、センサー素子である薄膜層3の抵抗値の変化を検出する。なお、図1(b)は便宜的な図であり、各部の厚さの比率は実際と異なる。
【0010】
次に、本ガスセンサーの製造方法について説明する。図2に示すのは、ガスセンサーの素子として用いられるナノワイヤーの製造方法である。アルミナ製のるつぼ11の底に金属テルル12の小片を入れ、その上方1〜50mmの位置にシリコンまたはアルミナ製の生成基板13を設置し、るつぼ11に蓋14をする。これを、熱電対16を備える電気炉15により、300〜600℃で1〜4時間加熱すると、生成基板13上に酸化テルル(TeO)のナノワイヤーが成長する(テルルの酸化物にはTeO、TeO、TeOがあるが、金属テルルを空気中で酸化させた場合、TeOが生成する)。このナノワイヤーは、直径が20〜200nm、長さが数十μmである。図3に、上記方法により生成した酸化テルルナノワイヤーの電子顕微鏡写真を示す。なお、図中の白線は200nmを表す。また、図4には、酸化テルルナノワイヤーのX線回折分析の結果を示す。
【0011】
また、図5に示すのは、ナノワイヤーの別の製造方法である。筒状の石英管21の両端に、より直径の小さな管を接続し、一方を空気導入管22、他方を空気排出管23とする。この石英管21の内部にアルミナ製の皿24を設置し、その上に金属テルル12の小片およびシリコンまたはアルミナ製の生成基板13を載置する。この際、金属テルル12が空気導入管22側に、生成基板13が空気排出管23側に位置するようにする。この石英管21を、熱電対16を備える電気炉15により加熱しつつ、空気導入管22より空気Aを送入することで、生成基板13上に酸化テルルのナノワイヤーが成長する。
【0012】
次に、上記いずれかの方法で得られたナノワイヤーからセンサー素子を形成する方法について説明する。ナノワイヤーは、水やアルコールに投入し、数分から数十分の間超音波を加えることによって、よく分散し、懸濁液となる。このようにして得たナノワイヤーの懸濁液を、電極を形成したセンサー基板上に滴下し、乾燥させることでナノワイヤーがセンサー基板の上に薄膜状に堆積する。この際、滴下と乾燥を繰り返すことで薄膜層の厚さを任意に調整することができるが、特に1〜50μmとすることが望ましい。これを100〜300℃で数時間熱処理すると、ナノワイヤーのガスセンサーが得られる。
【0013】
本実施例では、0.5gの酸化テルルナノワイヤーを、2mlのアルコールに投入し、超音波処理を30分間施して、懸濁液を得た。この懸濁液を、くし型電極を形成したセンサー基板の上に一滴たらし、乾燥させ、これを5回繰り返して、厚さ20μmのナノワイヤーの薄膜層を形成した。そして、このセンサー基板に200℃・1時間の熱処理を施し、センサー素子とした。
【0014】
図6に、本発明のガスセンサーを室温において乾燥した空気中に置き、被検出ガスを導入したときの応答特性、すなわち素子の電気抵抗値の変化を示す。(a)は、被検出ガスとして二酸化窒素(NO)を導入した場合であり、ガス濃度を10ppm、50ppm、100ppmとして、それぞれ10分間(100s〜700s)導入した。(b)は、被検出ガスとして硫化水素(HS)を導入した場合であり、ガス濃度を50ppm、100ppmとして、それぞれ10分間(100s〜700s)導入した。(c)は、被検出ガスとしてアンモニア(NH)を導入した場合であり、ガス濃度を100ppm、200ppm、500ppmとして、それぞれ10分間(80s〜680s)導入した。
【0015】
図より、ガスの種類および濃度を問わず、いずれの場合においても、ガス導入開始とほぼ同時に抵抗値が変化し、導入停止により抵抗値が回復しており、ガスセンサーとして十分な性能を有していることがわかる。なお、二酸化窒素は酸化性ガスであるので、二酸化窒素が素子の表面に吸着すると、素子中の電子をとらえ、p型半導体のキャリアである正孔が増加するため、抵抗値が小さくなる。一方、硫化水素およびアンモニアは還元性ガスであるので、素子の表面に吸着している酸素原子と反応し、酸素原子がとらえていた電子が解放され、p型半導体のキャリアである正孔が減少するため、抵抗値が大きくなる。
【0016】
本発明のガスセンサーは、例示したガス以外にも、種々の酸化性ガスおよび還元性ガスに対応する。また、ガスセンサーの構成は、上記実施形態に限定されるものではなく、センサー基板や電極の素材および形状は異なるものであってもよい。さらに、ナノワイヤーの製造方法について、上記以外の一般に知られた方法を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のガスセンサーの上面図および断面図。
【図2】酸化テルルナノワイヤーの製造方法を示す概念図。
【図3】酸化テルルナノワイヤーの電子顕微鏡写真。
【図4】酸化テルルナノワイヤーのX線回折分析結果を示すグラフ。
【図5】酸化テルルナノワイヤーの別の製造方法を示す概念図。
【図6】本発明のガスセンサーの応答特性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0018】
1 センサー基板
2 電極
3 薄膜層
12 金属テルル
13 生成基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状のセンサー基板(1)と、該センサー基板(1)上に形成される電極(2,2)と、該電極(2,2)上に形成される、酸化テルルナノワイヤーからなる薄膜層(3)と、を備えることを特徴とするガスセンサー。
【請求項2】
金属テルル(12)および生成基板(13)を同時に加熱し、前記生成基板(13)上に酸化テルルナノワイヤーを成長させ、該酸化テルルナノワイヤーを水またはアルコールに投入して懸濁液を生成し、該懸濁液を、電極(2,2)を形成したセンサー基板(1)上に滴下して乾燥させることで、酸化テルルナノワイヤーからなる薄膜層(3)を形成することを特徴とするガスセンサーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−286704(P2008−286704A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133252(P2007−133252)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年4月25日 インターネットアドレス「http://apl.aip.org/」に発表
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】