説明

ガスセンサー素子

【課題】最小限の加熱操作で従来では望むことの出来ない高感度な検出が可能なガスセンサー素子を提供する。
【解決手段】半導体基板上にショットキー電極とオーミック電極とが配置され、ガスの存在を感知したときに生じるショットキー電極とオーミック電極間の電流−電圧特性の変化によってガスの存在を検知する原理のガスセンサー素子であって、ガスセンサー素子は、ショットキー電極と基板との界面に絶縁膜が設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板上にショットキー電極とオーミック電極とが配置され、
ガスの存在を感知したときに生じるショットキー電極とオーミック電極間の電流−電圧特性の変化によってガスの存在を検知する原理のガスセンサー素子に関し、より詳しくは、水素などの特定のガスが雰囲気中に存在することを検出するガスセンサー素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、図4に示すように、主にショットキー電極を直接、半導体上に作製する構造を有しており、図5に示すように、その感度はせいぜい0.30V程度のものであった(素子電流0.1μAの時)。
この感度を向上するが為に種々の試みがなされているが、その内で、環境温度を高温化することがなされているが、これはPtやPdなどのショットキー電極において感知すべき水素分子の分解及び電極金属内への水素原子の拡散を活発化することによって感度を増加させるものであり、実質的な感度の向上ではないし、また、過度に高温の場合、ショットキー電極とオーミック電極の間の電流リークより、測定が不可能になることもある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明はこのような実情に鑑み、最小限の加熱操作で従来では望むことの出来ない高感度な検出が可能なガスセンサー素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明のガスセンサー素子は、ショットキー電極と基板との界面に絶縁膜が設けてあることを特徴とする構成を採用した。
【発明の効果】
【0005】
この結果、実施例にも示すように、室温で従来の2倍近い高感度で水素などを検知することが出来るようになった。また、MIS型構造を取り入れることによって、高温で素子を動作させる際に懸念されるショットキー電極とオーミック電極の間の電流リークも低減することが可能なので、素子温度を上昇させることで、さらなる感度の向上も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明のガスセンサー素子ではないが、これと類似した構造をもつMIS型ダイオード(例えばApplied Physics Letters 84 2919 (2004))における挙動の異同により判断するに、下記の実施例から、以下のようなことが実施例と同様な効果を発揮するものと予測できる。
本発明を構成する絶縁膜は、厚さが100nm以下1nm以上であるのが好ましい。これは、絶縁膜の厚さが100nm以上の場合、素子に流れる電流が小さくなるので、ガスの検出に伴う電流−電圧特性の変化を検出することが難しくなり、また、絶縁膜の厚さが1nm以下の場合、絶縁膜による感度向上の効果が薄れてしまうためである。
また、実施例では、絶縁膜としてSiOを使用しているが、広く酸化性絶縁膜は、水素などの還元性物質に強い親和性を持つために、本実施例と同様に、水素ガスに対して高い応答性を持つと予想される。従って、本技術は絶縁膜としてSiO以外にもAl、LaAlO、HfO、HfAlON、La、Y、HfSiON、SiON等の酸化性絶縁膜に適用できる。
実施例では、半導体材料としてGaNを使用している。その理由として、1)窒化物系半導体材料はバンドギャップを大きくすることが可能なので、高温等の過酷な状況下でも素子を安定に動作させることができる、2)素子構造にヘテロ接合を取り入れることで素子感度を向上できる、等が挙げられる。しかしながら、本発明は半導体材料としてGaN以外の材料、例えばAlGaN,AlInN、AlN、ZnO等を用いた場合に対しても、同様の効果が予測できる。
実施例では、ショットキー電極、オーミック電極はEB蒸着法で作成したが、スパッタリング法での電極製造も可能である。なお、本発明を構成するショットキー電極は、厚さが25nm以下であるのが好ましい。これは、ショットキー電極上に吸着した水素原子が電極/半導体界面に拡散する時間を短くすることで、素子の反応時間を短縮するためである。
【実施例1】
【0007】
図1に示すように、酸化性絶縁膜(本実験ではSiOを採用)を取り入れたMIS型ダイオード構造を用いることで、図2、5及び表1に示すように、水素応答特性を、通常のショットキーダイオード型センサーに比べて、約2倍程度に高めることができる。
【0008】
以下の、本実施例の構造および製造方法を詳しく説明する。図1に示す構造のデバイスは、厚さ0.43mmのc面サファイア基板上にMOCVDによって製膜された2.0μmの厚さのn型GaNを半導体材料として用いる。この半導体材料上に、フォトリソグラフィーとEB蒸着装置を用いてTi(20nm)/Al(100nm)/Pt(40nm)/Au(100nm)からなるオーミック電極を形成した後に、窒素雰囲気中で750℃、30秒の電極シンター処理を行った。次に、RFスパッタ装置を用いて半導体材料上に10nmのSiOを形成した。この際、アルゴンを8sccm、酸素を2sccm流しチャンバーの圧力を3mTorrに保ち、プラズマのパワーを100Wにして、12分間の蒸着を行った。その後、フォトリソグラフィーとEB蒸着装置を用いてPt(25nm)からなるショットキー電極を形成した。ショットキー電極とオーミック電極はリング状に配置されており、ショットキー電極の直径は300μm、ショットキー電極とオーミック電極との距離は20μmである。
【0009】
前記本実施例による水素感度の検査結果を図2及び表1に示す。なお、表1は図2を作成した測定結果から作成した。感度検査は以下の条件で行った。ステンレス製チャンバー内に素子を入れ、室温において、窒素希釈の1%水素ガスを200ml/minの流量で25分流して、素子の電流−電圧特性の変化をKeithley 2602 system source meterを用いて計測した。
【表1】

【実施例2】
【0010】
図3に示すように、酸化性絶縁膜(本実験ではSiOを採用)を取り入れたMIS型HEMT構造を用いることで、実施例1と同様に水素応答特性を、通常のHEMT型センサーに比べて、高めることができる。
図3に示す構造のデバイスは、厚さ0.43mmのc面サファイア基板上にMOCVDによって製膜された2.0μmの厚さのノンドープGaN半導体材料上に10−30nm程度のノンドープAlGaN半導体材料をヘテロ接合させたものを用いる。この半導体材料上に、フォトリソグラフィーとドライエッチング装置を用いてメサ構造を作製する。次に、フォトリソグラフィーとEB蒸着装置を用いてTi(20nm)/Al(100nm)/Pt(40nm)/Au(100nm)からなるソースおよびドレイン電極を形成した後に、窒素雰囲気中で850℃、30秒の電極シンター処理を行った。次に、RFスパッタ装置を用いて半導体材料上に10nmのSiOを形成した。この際、アルゴンを8sccm、酸素を2sccm流しチャンバーの圧力を3mTorrに保ち、プラズマのパワーを100Wにして、12分間の蒸着を行った。その後、フォトリソグラフィーとEB蒸着装置を用いてPt(25nm)からなるゲート電極を形成した。
実施例1はショットキーダイオードのMIS構造化に関するものであるが、本実施例(HEMT型FET)において、ゲート電極をMIS構造化した際にも、同様の効果が予測できる。
【実施例3】
【0011】
図1に示すような酸化性絶縁膜(本実験ではSiOを採用)を取り入れたMIS型ダイオード構造において、オーミック電極を接地し、Keithley 2602 system source meterを用いてショットキー電極に−5Vの電圧を印加した状態で測定した水素ガス導入前後の電流変化率を表2に示す。
【表2】



表2に示すように、本実施例に述べる制御法を用いれば、水素応答特性を、通常のショットキーダイオード型センサーに比べて、約1000倍程度に高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0012】
近い将来に実現されるであろう水素社会において、多様な仕様の水素ガスセンサーが必要となる。従来の水素ガスセンサーは、1)高温環境や放射線にあふれた過酷な環境での使用が困難である、2)数ppmから数%の幅広い濃度の水素ガスを一台の素子で検出することは困難である、等の問題がある。本発明の素子は、窒化物半導体等のワイドバンドギャップ半導体を用いた素子において、検出感度を向上させることで、上記2点の問題を一度に解決するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1のガスセンサー素子の構造を示す模式図
【図2】実施例1のガスセンサー素子による感度を示すグラフ
【図3】実施例2のガスセンサー素子の構造を示す模式図
【図4】従来例のガスセンサー素子の構造を示す模式図
【図5】図4のガスセンサー素子による感度を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上にショットキー電極とオーミック電極とが配置され、ガスの存在を感知したときに生じるショットキー電極とオーミック電極間の電流−電圧特性の変化によってガスの存在を検知する原理のガスセンサー素子であって、前記ショットキー電極と基板との界面に絶縁膜が設けてあることを特徴とするガスセンサー素子

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−42213(P2009−42213A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113325(P2008−113325)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】