説明

ガスタービン

【課題】静翼と動翼の間の軸方向隙間及び翼端面の冷却を効果的に行う事ができるガスタービンを提供する。
【解決手段】第2段静翼と第3段静翼の翼部17の枚数差が0とされたガスタービンにおいて、第2段静翼と第3段静翼の周方向における相対位置は、クロッキングによって、第3段静翼の静翼部17のハブ側からのスパン方向の長さの0%以上15%以下の範囲で、第2段静翼の静翼部によって形成された後流が、第3段静翼の静翼部17の前縁に導かれるように決定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンの入口ガス温度の高温化により、例えば、動翼回転ディスクと、その上流もしくは下流静翼リングとの間に形成される軸方向キャビティ(軸方向の隙間)の内部や主流部に近い部位の信頼性・耐久性確保を、より少ないシール空気量(キャビティ奥から主流に向かって漏れ出させる主流より温度の低い空気)で達成することが課題となっている。
一般的に翼列間の軸方向キャビティ部位の信頼性を向上させるには、軸方向キャビティ内に挿入しているシール空気量を増やし、主流の高温ガスが入り込まないようにする必要がある。しかしながら、シール空気を増やす事は、ガスタービンの性能を落とす事になる。
また、翼列間の軸方向キャビティから主流に漏れだすシール空気は、主流より低温のガスであり、翼面(シュラウドやプラットフォーム面含む)を冷却する能力があるが、一般的に翼面などの主流部では、翼によって作り出された流れのパターンが支配的であるため、この漏れ出したシール空気で効果的に冷却を行う事が難しい。
ガスタービンの運転実績やリグ試験、非特許文献1から、軸方向キャビティの内部には、主流におかれた静翼や動翼などの翼1枚おきの小さな周方向間隔の圧力・ガス温度分布に加え、全周(360deg)に数個程度のもしくは、複数枚の翼周方向範囲にまたがる、大きい周方向間隔の渦や、圧力分布や温度分布が流れの性質上生じ易い事が分かっている。また、実際のガスタービンエンジンでは構造上完全な周方向の対称性を満たす事が難しく、構造的な周方向の非対称性も、軸方向キャビティ内で全周に1〜数個程度の周期の圧力分布を生じさせる要因になる。
したがって、設計する際には、この様な周方向の不均一性も考慮して、余裕のある多めのシール空気量の設定が必要となる。
【0003】
一方、数値流体(CFD)解析や非特許文献2などから、例えば図9に示すように、静翼同士、もしくは、動翼同士の枚数差に応じて、キャビティ側だけでなく、主流側にも全周にわたる圧力ないし温度の分布が生じる事がわかっている。この場合問題となるのが、枚数差が1枚〜4枚程度の少ない枚数差の場合に生じる、全周に1〜4ノーダル(周期)の間隔の大きい分布である。この様な複数枚の翼周方向範囲にまたがる分布は、翼1枚おきの圧力ないし温度分布の分布にくらべ均一化がしにくい。
【0004】
シール空気が翼列間の軸方向キャビティから主流に漏れ出すには、キャビティ内の圧力が主流に対して高い必要があるが、上述のように軸方向キャビティ側と主流側にそれぞれ、大きい間隔の(1〜4程度の小さいノーダルの)圧力分布が生じる場合には、軸方向キャビティ側の圧力分布の谷と主流側の圧力分布の山が重なると、複数枚の翼周方向範囲にまたがり主流のガスが翼列間の軸方向キャビティ内に入りこむリスクが高くなり、この様な形態では部品の耐久性が著しく低下する。
【0005】
また、特許文献1には、前後の静翼段の周方向における相対位置を変化させて(いわゆるクロッキング)、上流側の静翼の翼面によって形成されるウェーク(後流)を下流側の静翼に到達させて性能を向上させることが開示されている。
特許文献2には前後の静翼段の周方向における相対位置を変化させて、上流側の静翼によって形成されるウェーク(後流)もしくは上流側の静翼から吹き出される冷却空気によって下流翼の冷却を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Engineering for Gas Turbines and Power,October 2004, Vol. 126, No.4, pp.786-793
【非特許文献2】ASME paper GT2004-53829 (pp.1-10)
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平9−512320号公報
【特許文献2】特開2002−155701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1は、あくまでも性能向上が目的とされているため、燃焼ガス流れの主流に対する考慮が主とされているが、静翼と動翼の軸方向キャビティの存在やそこから漏れ出るシール空気の存在、ならびに高温ガスにさらされる部品の耐久性などについては考慮がなされていない。
また、特許文献2は、高温ガスにさらされる部品の耐久性については考慮されているが、静翼と動翼の軸方向キャビティの存在やそこから漏れ出るシール空気の存在は考慮されていない。また、特許文献2では、例えば、静翼、動翼、静翼と3つの連続した翼列配置では、下流側の静翼を冷却するために、上流側に配置された静翼からのウェーク(後流)もしくは上流側に配置された静翼面から吹き出された低温の空気を利用している。上流側の静翼から吹き出された低温のガスは、下流側の静翼に到達する前に、中間の回転中の動翼を通過するため、下流静翼に到達する前に、途中で撹拌され、主流の高温ガスと混合が促進され、冷却能力が低下する。
これに対して、本発明者は、翼のすぐ上流に位置するハブ側、またはチップ側の軸方向キャビティの存在に着目し、軸方向キャビティ部位の耐久性の課題と、軸方向キャビティから主流へ漏れ出す主流より温度の低いシール空気がすぐ下流翼の冷却に効果的に使われていない点に着目した。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、より少ないシール空気で軸方向キャビティ部位の耐久性を確保しかつ、軸方向キャビティから漏れ出るシール空気で効果的にすぐ下流の翼の冷却を行う事ができるガスタービンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のガスタービンは以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかるガスタービンは、半径方向に延在する静翼部が周方向に所定間隔にて複数設けられた第n段静翼(nは自然数)と、該第n段静翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する動翼部が周方向に所定間隔にてロータの外周上に複数設けられた第n段動翼と、該第n段動翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する静翼部が周方向に所定間隔にて複数設けられた第n+1段静翼と、該第n+1段静翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する動翼部が周方向に所定間隔にてロータの外周上に複数設けられた第n+1段動翼とを備えたガスタービンにおいて、前記第n段静翼と前記第n+1段静翼の前記静翼部の枚数の差が0又は5以上とされ、及び/又は、前記第n段動翼と前記第n+1段動翼の前記動翼部の枚数の差が0又は5以上とされ、前記第n段静翼と前記第n+1段静翼の周方向における相対位置は、前記第n+1段静翼の前記静翼部のハブ側からのスパン方向の長さの0%以上15%以下の範囲、及び/又は、85%以上100%以下の範囲で、前記第n段静翼の前記静翼部によって形成された後流が、前記第n+1段静翼の前記静翼部の前縁を中心として周方向に±1/4ピッチ(1ピッチは隣り合う前記静翼部の周方向間隔)の範囲に導かれるように決定されていることを特徴とする。
【0011】
第n段静翼と第n+1段静翼の静翼部の枚数差、及び/又は、第n段動翼と第n+1段動翼の動翼部の枚数差を0又は5以上としたので、枚数差が1〜4となることによって全周において1〜4ノーダル(周期)といった比較的低周期の圧力分布または温度分布を回避することとした。
その上で、第n段静翼と第n+1段静翼との周方向における相対位置を調整することによって、静翼部のスパンの0%以上15%以下のハブ近傍の範囲、及び/又は、85%以上100%以下のチップ近傍の範囲で、第n段静翼の静翼部によって形成された後流が第n+1段静翼の静翼部の前縁を中心として周方向に±1/4の範囲に導かれるようにした。これにより、第n+1段静翼のハブ近傍またはチップ近傍の冷却が促進されることになり、従来から困難とされていたハブ近傍またはチップ近傍の冷却が改善されることになる。特に、ハブ近傍の流れの改善によって、第n段動翼と第n+1段静翼との間のハブ側に形成されるキャビティから導かれるシール空気の流れを有効に利用することができるので、ガスタービン効率の低下を来すことなく冷却を行うことができる。
【0012】
また、本発明のガスタービンは、半径方向に延在する静翼部が周方向に所定間隔にて複数設けられた第n段静翼(nは自然数)と、該第n段静翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する動翼部が周方向に所定間隔にてロータの外周上に複数設けられた第n段動翼と、該第n段動翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する静翼部が周方向に所定間隔にて複数設けられた第n+1段静翼と、該第n+1段静翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する動翼部が周方向に所定間隔にてロータの外周上に複数設けられた第n+1段動翼とを備えたガスタービンにおいて、前記第n段静翼と前記第n+1段静翼の前記静翼部の枚数の差が0又は5以上とされ、及び/又は、前記第n段動翼と前記第n+1段動翼の前記動翼部の枚数の差が0又は5以上とされ、前記第n段静翼と前記第n+1段静翼の周方向における相対位置は、前記第n段動翼と前記第n+1段静翼のハブ側に形成されたキャビティから該第n+1段静翼のハブ側シュラウド表面上を流れるシール空気の流れが、該ハブ側シュラウド表面のピーク熱応力位置に流れるように設定されていることを特徴とする。
【0013】
第n段静翼と第n+1段静翼の静翼部の枚数差、及び/又は、第n段動翼と第n+1段動翼の動翼部の枚数差を0又は5以上としたので、枚数差が1〜4となることによって全周において1〜4ノーダル(周期)といった比較的低周期の圧力分布または温度分布を回避することとした。
その上で、第n段静翼と第n+1段静翼との周方向における相対位置を調整することによって、第n段動翼と第n+1段静翼との間のキャビティから第n+1段静翼のハブ側シュラウド上を流れるシール空気の流れが、ハブ側シュラウド表面のピーク熱応力位置に流れるように調整する。これにより、第n+1段静翼のハブ側シュラウドにおけるピーク熱応力を低減することができる。
なお、「ピーク熱応力位置」は、熱流体場のシミュレーションにより、局所的な高温部として把握することができる。第n段静翼と第n+1段静翼との周方向における相対位置を変化させ、得られたピーク熱応力位置にシール空気が流れるように周方向相対位置を調整する。
【0014】
さらに、本発明のガスタービンは、前記第n+1段動翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する静翼部が周方向に所定間隔にて複数設けられた第n+2段静翼と、該第n+2段静翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する動翼部が周方向に所定間隔にてロータの外周上に複数設けられた第n+2段動翼とを備えたガスタービンにおいて、前記第n+1段静翼と前記第n+2段静翼の前記静翼部の枚数の差が0又は5以上とされ、及び/又は、前記第n+1段動翼と前記第n+2段動翼の前記動翼部の枚数の差が0又は5以上とされていることを特徴とする。
【0015】
第n+段静翼と第n+2段静翼の静翼部の枚数差、及び/又は、第n+1段動翼と第n+2段動翼の動翼部の枚数差を0又は5以上とした。これにより、連続する3段(第n段,第n+1段および第n+2段)の静翼または動翼について1〜4ノーダル(周期)といった比較的低周期の圧力分布または温度分布を回避することができる。
【0016】
また、本発明のガスタービンは、半径方向に延在する静翼部が周方向に所定間隔にて複数設けられた第n段静翼(nは自然数)と、該第n段静翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する動翼部が周方向に所定間隔にてロータの外周上に複数設けられた第n段動翼と、該第n段動翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する静翼部が周方向に所定間隔にて複数設けられた第n+1段静翼と、該第n+1段静翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する動翼部が周方向に所定間隔にてロータの外周上に複数設けられた第n+1段動翼と、該第n+1段動翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する静翼部が周方向に所定間隔にて複数設けられた第n+2段静翼と、該第n+2段静翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する動翼部が周方向に所定間隔にてロータの外周上に複数設けられた第n+2段動翼とを備えたガスタービンにおいて、前記静翼部および前記動翼部の枚数は、20枚以上とされ、前記第n段静翼と前記第n+1段静翼の前記静翼部の枚数の差、及び、前記第n+1段静翼と前記第n+2段静翼の前記静翼部の枚数の差が0又は5以上とされ、及び/又は、前記第n段動翼と前記第n+1段動翼の前記動翼部の枚数の差、及び、前記第n+1段動翼と前記第n+2段動翼の前記動翼部の枚数の差が0又は5以上とされ、第n段静翼、第n+1段静翼および第n+2段静翼の前記静翼部の枚数比、または、第n段動翼、第n+1段動翼および第n+2段動翼の前記動翼部の枚数比が、1〜4以下の整数比(ただし、1:1:1は除く。)とされていることを特徴とする。
【0017】
連続する3段の静翼または動翼の翼部の枚数比を1〜4以下の整数比(例えば、36:36:54(2:2:3))とすることによって、4枚以下で前後の段の翼の粗密を繰り返すことになる。これにより、1〜4ノーダル(周期)といった比較的低周期の圧力分布または温度分布を回避することができる。
静翼部および動翼部の枚数が20枚未満の場合には、1〜4以下の整数比としても、4枚以下で前後の段の翼の粗密を繰り返すことになるので、静翼部および動翼部の枚数は20枚以上が必要である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、上下流の静翼または動翼の周方向における相対位置を変化させるクロッキングによって、下流側の静翼のハブ側近傍またはチップ側近傍の冷却を効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるガスタービンを示した側断面図である。
【図2】後流と静翼部との位置関係を示した図である。
【図3】第2段静翼、第3段動翼、第3段静翼の翼列を示した図である。
【図4】第3段静翼のハブ側シュラウド前縁を示した斜視図である。
【図5】第3段静翼のハブ側シュラウド前縁の圧力を示したグラフである。
【図6】第3段静翼のハブ側シュラウド前縁の温度分布を示した等高線であり、(a)は比較例、(b)は本実施形態を示す。
【図7】第3段静翼のハブ側シュラウド前縁の温度を示したグラフである。
【図8】上下流段における静翼の翼間隔(周方向)が粗密となる状態を示した縦断面図である。
【図9】主流ガスの周方向における圧力分布を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
図1には、ガスタービンのタービン部における側断面が部分的に示されている。このタービン部は、空気を圧縮する軸流圧縮機(図示せず)と、圧縮された空気を燃焼用空気として燃料を燃焼させる燃焼器(図示せず)の下流側に接続されている。
図1に示されているように、タービン部には、燃焼器からの燃焼ガスの流れに沿って、図において左方から右方へ向かって、第1段動翼1、第2段静翼3、第2段動翼5、および第3段静翼7が配置されている。なお、第1段動翼1の上流側に位置する第1段静翼については図示されていない。同様に、第3段静翼7の下流側に位置する第3段動翼や第4段静翼等についても図示が省略されている。
また、図示されていないが、各動翼1,5の回転軸線は、同図において下方に水平方向に延在して位置している。
【0021】
第1段動翼1には、半径方向に延在する複数の動翼部11が設けられている。各動翼部11は、ロータ12対して固定されており、周方向に等間隔にて配置されている。
第2段静翼3には、半径方向に延在する複数の静翼部13が設けられている。各静翼部13は、周方向に等間隔にて配置されている。各静翼部は、ハブ側シュラウド13aを介して回転軸線側に固定され、チップ側シュラウド13bを介して外筒側に固定されている。
第2段動翼5には、半径方向に延在する複数の動翼部15が設けられている。各動翼部15は、ロータ16対して固定されており、周方向に等間隔にて配置されている。
第2段静翼7には、半径方向に延在する複数の静翼部17が設けられている。各静翼部17は、周方向に等間隔にて配置されている。各静翼部は、ハブ側シュラウド17aを介して回転軸線側に固定され、チップ側シュラウド17bを介して外筒側に固定されている。
なお、図示されていないが、第3段動翼や第4段静翼についても、同様の構成とされている。
【0022】
動翼1,5と静翼3,7との間には、軸方向に間隙を有する軸方向キャビティ20が形成されている。この軸方向キャビティには、図示しない圧縮機から抽気された圧縮空気がシール空気として供給されるようになっている。シール空気の圧力は、各翼部11,14,15,17を流れる主流ガス(燃焼ガス)よりも高い圧力とされ、軸方向キャビティ20から主流ガス側に漏れ出るようになっている。
【0023】
本実施形態では、第2段静翼3の静翼部13の枚数と、第3段静翼7の静翼部17の枚数が同枚数(枚数差が0)とされている。また、第1段動翼1の動翼部11の枚数と、第2段動翼5の動翼部15の枚数が同枚数(枚数差が0)とされている。
そして、第2段静翼3と第3段静翼7の周方向における相対位置は、クロッキングによって、第3段静翼7の静翼部17のハブ側からのスパン方向の長さの0%以上15%以下の範囲で、第2段静翼3の静翼部13によって形成された後流(ウェーク)が、第3段静翼7の静翼部17の前縁に導かれるように決定されている。
【0024】
具体的に、図2及び図3を参照して説明する。図2には、第3段静翼7の静翼部17の前縁の位置がスパン方向に示されている。同図には、3つの静翼部17が示されており、10degピッチ(したがって静翼部は全周で36枚)で配置されている。同図において破線で示された符号22は、上流側である第2段静翼3の静翼部13によって形成された後流が第3段静翼7の静翼部17の前縁に到達した位置を示している。また、同図において点線で示された符号24は、比較対象となる比較翼部の前縁位置を示している。
図3には、第2段静翼3、第2段動翼5および第3段静翼7の翼列が示されている。同図には、第2段静翼3の静翼部13によって形成された後流22が示されている。この後流23は、動翼部15間の流路を通り、第3段静翼17へと導かれるようになっている。
本実施形態では、図2に示すように、第3段静翼7の静翼部17のハブ側からのスパン方向の長さの0%以上15%以下の範囲で、第2段静翼3の静翼部13によって形成された後流22が第3段静翼7の静翼部17の前縁に導かれるようになっている。これは、第2段静翼3と第3段静翼7とをクロッキングする(周方向の相対位置をずらす)ことによって実現することができる。実際には、数値流体(CFD)解析を行うことによってクロッキング位置が決定される。例えば、図1の2点鎖線で囲った範囲25で解析を行う。この範囲25に示されているように、軸方向キャビティ20の流れについても考慮した解析が行われている。
【0025】
図4乃至図7には、本実施形態による効果が示されている。
図4には、解析結果である圧力および温度を評価した位置が示されている。すなわち、符号27で示されているように、圧力および温度は、第3段静翼7の静翼部17のハブ側シュラウド17aの前端の中間高さ位置において評価した。
図5には、圧力に関する解析結果が示されている。同図において、太線が本実施形態(図2の符号17参照)を示し、細線が比較例(図2の符号24参照)を示している。本実施形態では、圧力(静圧)の高低差が比較例に対して小さくなっており、かつ、平均圧力が小さくなっていることが分かる。このように、シュラウド17aの前端における圧力を小さくすることができるので、軸方向キャビティ20およびシュラウド17a表面の冷却効果が得られることが分かる。
【0026】
図6(a)には比較例の温度分布、図6(b)には本実施形態の温度分布が示されている。これらの図から分かるように、比較例に比べて、本実施形態は温度が低下した領域が広い範囲で形成されていることが分かる。
図7には、図4に示した評価位置27における温度分布が示されている。同図において、太線が本実施形態(図2の符号17参照)を示し、細線が比較例(図2の符号24参照)を示している。本実施形態では、温度の高低差が比較例に対して小さくなっており、かつ、平均温度が低くなっていることが分かる。
【0027】
以上の通り、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
第2段静翼3と第3段静翼7の静翼部13,17の枚数差、及び、第1段動翼1と第2段動翼5の動翼部11,15の枚数差を0としたので、枚数差が1〜4となることによって全周において1〜4ノーダル(周期)といった比較的低周期の圧力分布または温度分布を回避することとした。
その上で、第2段静翼3と第3段静翼7との周方向における相対位置をクロッキングにより調整することによって、静翼部17のスパンの0%以上15%以下のハブ近傍の範囲で、第2段静翼3の静翼部13によって形成された後流22が第3静翼7の静翼部17の前縁に導かれるようにした。これにより、第3段静翼のハブ近傍の冷却が促進されることになり、従来から困難とされていたハブ近傍の冷却が改善されることになる。特に、クロッキングによるハブ近傍の流れの改善によって、第2段動翼と第3段静翼との間のハブ側に形成されるキャビティ20から導かれるシール空気の流れを有効に利用することができるので、ガスタービン効率の低下を来すことなく冷却を行うことができる。
【0028】
なお、本実施形態では、第3段静翼7の静翼部17の前縁に後流22が導かれるようにしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、静翼部17の前縁に対して所定の範囲に後流22が導かれれば所望の効果を奏することができる。例えば、第3段静翼7の静翼部17の前縁を中心として周方向に±1/4ピッチ(1ピッチは隣り合う前記静翼部の周方向間隔)の範囲に後流を導かれるようにしてもよい。
【0029】
また、本実施形態では、クロッキングによってハブ側シュラウド17a前縁の冷却を改善することとしたが、チップ側シュラウド17bの前縁の冷却を改善するようにクロッキングを行ってもよい。また、ハブ側およびチップ側の両者の冷却改善を狙ってクロッキングを行うようにしても良い。例えば、図2の符号22に静翼部のハブ側からのスパン方向の長さの0%以上15%以下の範囲、及び、85%以上100%以下の範囲が一致するように静翼部17の前縁形状を設計すれば良い。
【0030】
また、本実施形態では、静翼3,7だけでなく動翼1,5の翼枚数を一致させることとしたが、静翼3,7のみの翼枚数を合わせるだけでも所望の効果を得ることができる。ただし、動翼についても翼枚数を一致させた方が主流ガスの低周期の圧力分布ないし温度分布が更に低減されるので好ましい。さらに、連続する3段の静翼及び/又は動翼で翼枚数を一致させることとすれば、さらに低周期の圧力分布ないし温度分布を低減することができる。
【0031】
また、本実施形態では、翼枚数を一致させることとしたが、1〜4周期程度の低周期の圧力分布ないし温度分布を低減させれば十分に効果をえることができるので、上下段の静翼または動翼の翼枚数差を5以上として構成しても良い。
具体的には、翼枚数差については以下のように考える。
翼枚数比(n段静翼:n+1段静翼)が、1:1もしくは2:1の場合では、n+1段静翼周方向全翼枚数で好ましい状態(すなわち、n+1段静翼の前縁0〜15%Htの範囲に、n段静翼のウェークがあたる)を生じさせる事ができる。
翼枚数比が1:2や3:2の場合は、n+1段静翼にて2枚につき1枚(1枚おきに)は好ましい状態を生じさせる事ができ、枚数比が1:3、2:3、4:3の場合は3枚につき1枚、1:4、3:4の場合は、4枚につき1枚となる。あまり大きい整数比での場合では、好ましい状態となる翼の数が減り効果が小さくなってしまうので、有効な形態としては4以下の整数比で表される翼枚数が好ましい。
一方、たとえば翼枚数比が20枚:15枚=4:3の場合には、翼枚数が20枚程度で既に枚数差が5枚となってしまうので、翼枚数差の観点からもあまり大きい整数比は好ましくない。
【0032】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
本実施形態は、第1実施形態と同様に、クロッキングによってハブ側またはチップ側の冷却を改善するものである。したがって、動翼や静翼等の構成は同様であるので、その説明は省略する。
本実施形態では、第2段静翼3と第3段静翼7の周方向における相対位置を、クロッキングによって、第2段動翼5と第3段静翼7のハブ側に形成された軸方向キャビティ20から第3段静翼7のハブ側シュラウド17aの表面上を流れるシール空気の流れが、ハブ側シュラウド17a表面のピーク熱応力位置に流れるように設定する。
これにより、第3段静翼7のハブ側シュラウド17aにおけるピーク熱応力を低減することができる。
【0033】
具体的には、第1実施形態で説明したCFDによってクロッキングを行う。すなわち、図6に示したような温度分布を解析し、局所的に高温となった位置をピーク熱応力が発生する位置とする。そして、静翼3,7の周方向相対位置をクロッキングによって変化させ、キャビティ20から流出するシール空気がピーク熱応力位置に流れるように周方向相対位置を決定する。
このように、本実施形態によれば、クロッキングによって主流ガス流れを調整することにより、静翼のハブ側またはチップ側の冷却を改善することができる。
【0034】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
本実施形態は、第1実施形態と同様に、周方向の圧力分布および温度分布を改善するものである。したがって、第1実施形態と同様の構成についてはその説明を省略する。
本実施形態では、各動翼1,5および各静翼3,7の翼枚数が20枚以上とされている。
第2段静翼3と第3段静翼7の翼枚数の差、及び、第3段静翼7と第4段静翼の翼枚数の差は、0又は5以上とされている。
第2段静翼、第3段静翼および第4段静翼の翼枚数比は、1〜4以下の整数比(ただし、1:1:1は除く。)とされている。
【0035】
このように、連続する3段の静翼の枚数比を1〜4以下の整数比(例えば、36:36:54(2:2:3))とすることによって、上下流の静翼部を軸方向に投影した場合に、4枚以下の翼枚数で翼間隔(周方向)の粗密を繰り返すことになる。これにより、1〜4ノーダル(周期)といった比較的低周期の圧力分布または温度分布を回避することができる。
静翼部の翼枚数が20枚未満の場合には、1〜4以下の整数比としても、4枚以下で前後の段の翼の粗密を繰り返すことになるので、静翼部の枚翼数は20枚以上が必要である。
なお、図8には、参考例として、5枚以上の翼枚数で翼間隔の粗密を繰り返す状態が示されている。
【0036】
なお、本実施形態は、第1実施形態および第2実施形態と組み合わせることができる。
また、静翼に代えて或いは静翼と共に、動翼についても本実施形態の翼枚数比としても良い。具体的には、第1段動翼1と前記第2段動翼5の翼枚数の差、及び、第2段動翼5と第3段動翼の翼枚数の差を0又は5以上とし、第1段動翼、第2段動翼および第3段動翼の翼枚数比を1〜4以下の整数比(ただし、1:1:1は除く。)とする。
【符号の説明】
【0037】
1 第1段動翼
3 第2段静翼
5 第2段動翼
7 第3段静翼
11,15 動翼部
13,17 動翼部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半径方向に延在する静翼部が周方向に所定間隔にて複数設けられた第n段静翼(nは自然数)と、
該第n段静翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する動翼部が周方向に所定間隔にてロータの外周上に複数設けられた第n段動翼と、
該第n段動翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する静翼部が周方向に所定間隔にて複数設けられた第n+1段静翼と、
該第n+1段静翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する動翼部が周方向に所定間隔にてロータの外周上に複数設けられた第n+1段動翼と、
を備えたガスタービンにおいて、
前記第n段静翼と前記第n+1段静翼の前記静翼部の枚数の差が0又は5以上とされ、及び/又は、前記第n段動翼と前記第n+1段動翼の前記動翼部の枚数の差が0又は5以上とされ、
前記第n段静翼と前記第n+1段静翼の周方向における相対位置は、前記第n+1段静翼の前記静翼部のハブ側からのスパン方向の長さの0%以上15%以下の範囲、及び/又は、85%以上100%以下の範囲で、前記第n段静翼の前記静翼部によって形成された後流が、前記第n+1段静翼の前記静翼部の前縁を中心として周方向に±1/4ピッチ(1ピッチは隣り合う前記静翼部の周方向間隔)の範囲に導かれるように決定されていることを特徴とするガスタービン。
【請求項2】
半径方向に延在する静翼部が周方向に所定間隔にて複数設けられた第n段静翼(nは自然数)と、
該第n段静翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する動翼部が周方向に所定間隔にてロータの外周上に複数設けられた第n段動翼と、
該第n段動翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する静翼部が周方向に所定間隔にて複数設けられた第n+1段静翼と、
該第n+1段静翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する動翼部が周方向に所定間隔にてロータの外周上に複数設けられた第n+1段動翼と、
を備えたガスタービンにおいて、
前記第n段静翼と前記第n+1段静翼の前記静翼部の枚数の差が0又は5以上とされ、及び/又は、前記第n段動翼と前記第n+1段動翼の前記動翼部の枚数の差が0又は5以上とされ、
前記第n段静翼と前記第n+1段静翼の周方向における相対位置は、前記第n段動翼と前記第n+1段静翼のハブ側に形成されたキャビティから該第n+1段静翼のハブ側シュラウド表面上を流れるシール空気の流れが、該ハブ側シュラウド表面のピーク熱応力位置に流れるように設定されていることを特徴とするガスタービン。
【請求項3】
前記第n+1段動翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する静翼部が周方向に所定間隔にて複数設けられた第n+2段静翼と、
該第n+2段静翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する動翼部が周方向に所定間隔にてロータの外周上に複数設けられた第n+2段動翼と、
を備えたガスタービンにおいて、
前記第n+1段静翼と前記第n+2段静翼の前記静翼部の枚数の差が0又は5以上とされ、及び/又は、前記第n+1段動翼と前記第n+2段動翼の前記動翼部の枚数の差が0又は5以上とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスタービン。
【請求項4】
半径方向に延在する静翼部が周方向に所定間隔にて複数設けられた第n段静翼(nは自然数)と、
該第n段静翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する動翼部が周方向に所定間隔にてロータの外周上に複数設けられた第n段動翼と、
該第n段動翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する静翼部が周方向に所定間隔にて複数設けられた第n+1段静翼と、
該第n+1段静翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する動翼部が周方向に所定間隔にてロータの外周上に複数設けられた第n+1段動翼と、
該第n+1段動翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する静翼部が周方向に所定間隔にて複数設けられた第n+2段静翼と、
該第n+2段静翼の燃焼ガス流れ下流側に配置され、半径方向に延在する動翼部が周方向に所定間隔にてロータの外周上に複数設けられた第n+2段動翼と、
を備えたガスタービンにおいて、
前記静翼部および前記動翼部の枚数は、20枚以上とされ、
前記第n段静翼と前記第n+1段静翼の前記静翼部の枚数の差、及び、前記第n+1段静翼と前記第n+2段静翼の前記静翼部の枚数の差が0又は5以上とされ、及び/又は、前記第n段動翼と前記第n+1段動翼の前記動翼部の枚数の差、及び、前記第n+1段動翼と前記第n+2段動翼の前記動翼部の枚数の差が0又は5以上とされ、
第n段静翼、第n+1段静翼および第n+2段静翼の前記静翼部の枚数比、または、第n段動翼、第n+1段動翼および第n+2段動翼の前記動翼部の枚数比が、1〜4以下の整数比(ただし、1:1:1は除く。)とされていることを特徴とするガスタービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−223010(P2010−223010A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68716(P2009−68716)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】