説明

ガスターボポンプが有するポンプロータの疲労度を決定する方法

【解決手段】
ガスターボポンプが有するポンプロータの疲労度を決定する方法。ガスターボポンプが有するポンプロータの疲労度を決定する方法は、ポンプロータの回転速度(n)を継続的に決定するステップ、検討中の一時的回転速度プロファイルにおける回転速度の極大値および極小値を決定するステップ、回転速度の極大値および極小値がペアをなすように関連付けるステップ、回転速度のペアそれぞれに対してペア疲労度(L)を決定するステップ、及びすべてのペア疲労度(L)を累積して全体疲労度(Ltot)を形成するステップを含む。このような構成により、真空ポンプのポンプロータに対する繰り返し応力を決定することができ、その繰り返し応力を考慮して全体疲労度を計算することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速回転ガスターボポンプが有するポンプロータの疲労度を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスターボポンプ、特にターボ分子ポンプは、10000〜100000rpmといった非常に高速な回転動作を強いられる。大きな遠心力および温度などの影響により、ポンプロータに機械的疲労が生じる。特にガスターボポンプに於いては、できる限り容量が大きくなるようにするために、ポンプロータとポンプステータとの間の空間を狭くしてある。一定時間の経過後に、ポンプロータの疲労によりポンプロータが機能しなくなる可能性がある。また、ポンプロータの金属疲労により、ポンプステータとポンプロータとが衝突する可能性がある。このような事態を回避するために、予測した衝突発生時間の経過前にポンプロータを交換する。
【0003】
そのために、一定時間の経過後または一定の操作期間の経過後に整備作業またはポンプロータの交換を行うことにより、経時的・継続的にメンテナンスを行うことが考えられる。
【0004】
特許文献1は、ポンプロータの絶対回転速度と温度とを用いて変動性メンテナンス期間を計算する方法を開示している。この方法では、いわゆるクリープ応力をポンプロータに関して決定し、そのクリープ応力を変動性メンテナンス期間の計算に用いている。所定の操作状況の場合に、この方法のみでは十分に正確な実践的な変動性メンテナンス期間を計算できないということが、これまでの研究で示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許第10151682号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、実際のすべての操作状況を考慮して、できる限り現実的値に近いポンプロータの疲労度を決定するポンプロータ疲労度決定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、請求項1で記載した特徴を用いて上記目的の達成を目指す。
【0008】
本発明に関するガスターボポンプが有するポンプロータの疲労度決定方法は、ポンプロータの回転速度(n)を継続的に決定するステップ、検討中の一時的回転速度プロファイルにおける回転速度の極大値および極小値を決定するステップ、回転速度の極大値および極小値がペアをなすように関連付けるステップ、前記回転速度のペアそれぞれに対してペア疲労度(L)を決定するステップ、及びすべてのペア疲労度(L)を累積して全体疲労度(Ltot)を形成するステップを含む。
【0009】
起こりうるクリープ応力に加えて、いわゆる繰り返し応力も独立して実質的に高速回転金属部品の寿命および疲労度に関与していることが、様々な研究により明らかになってきた。繰り返し応力も検出される場合にのみ、特に、ポンプロータの機械的疲労度の決定を用いてポンプロータが破断する恐れを現実的に評価することができる。
【0010】
繰り返し応力は、金属材料のいわゆる引張強度Rmよりもかなり低い応力レベルでも発生する。また繰り返し応力は、マクロ的塑性変形が始まる降伏点Re以下でもしばしばし発生する。そのように繰り返し応力が発生する理由は、材料それぞれのミクロ構造と繰り返し負荷応力との関係による。材料のミクロ的塑性変形は、降伏点以下でも起こり得る。このミクロ的塑性変形は、部品の局部における物質濃度に基づいて生じるのかもしれないが、例えば析出硬化材料中の比較的軟らかい構造領域でも生じる。しかしながらミクロ的変形は、応力方向に対して好ましい結晶学的配向を示す微小結晶の領域中でも発生し得る。したがって、すべり変形・塑性変形はそのような微小結晶の領域中でも発生し得る。このようにすべり変形した部分が部品の表面からはみ出した場合、嵌入箇所及び突出箇所と呼ばれるミクロ的段差が生じることになる。このようなミクロ的段差は、局部応力の過剰負荷を引き起こしかねない切欠部を形成することになる。このような部分では、更なる繰り返し応力により表面の破断が起こり得る。また、部品自体の破断が生じる程度に至るほどこの部分が弱くなるまで、表面の破断範囲は繰り返し応力により増大する。
【0011】
繰り返し応力を検出・概算するためには、ポンプロータの回転速度を監視し、回転速度の周期の終了または中断を検出する必要がある。本発明に於いて回転速度の周期とは、ポンプロータの加速度に関する兆候が変化する開始時点と終了時点との間の期間を意味する。すなわち、ポンプロータの加速に関する一時的プロファイルがゼロ交差を示す開始時点と終了時点との間の期間を意味する。回転速度の周期は、一時的加速プロファイルのあるゼロ交差から次のゼロ交差まで続くことが望ましい。また回転速度の周期は、正の加速の開始時点から始まり引き続く負の加速の終了時点で終了するまで続く構成であってもよい。
【0012】
ポンプロータに於けるいわゆる繰り返し応力の決定を可能にするために、ポンプロータの回転速度(n)は継続的に決定される。したがって回転速度の一時的プロファイルは、回転速度の極大値および極小値のそれぞれが決定されるように構成されている。回転速度の極大値および極小値は、それぞれ、その値に達した場合に加速度に関する兆候が変化する極値のことを意味している。回転速度が極大値に達した後、回転速度は遅くなる。また、回転速度が極小値に達した後、回転速度は速くなる。検討中の期間とは、極大値から極小値まで続く一つの周期、極小値から極大値まで続く一つの周期、ポンプロータの始動開始から停止までの一つの周期、所定の固定された期間、又は所定の数の極大値および極小値を含む期間を意味する。
【0013】
回転速度の極大値および極小値は、検討中である回転速度プロファイルの期間のために、ペアを形成するようにそれぞれお互いに関連付けられている。回転速度の極大値および極小値のペアを形成するために、様々な公式またはアルゴリズムを利用して回転速度の極大値および極小値を互いに関連付けることが可能である。
【0014】
ペア疲労度Lは、回転速度の極大値および極小値の各ペアを用いて計算される。計算されたすべてのペア疲労度Lは累積され、全体疲労度Ltotを形成するために利用される。
【0015】
回転速度プロファイルは複雑であるため、まず、回転速度のペアすべてが所定の公式に基づいて決定され、回転速度のペアそれぞれに対して疲労度が計算される。計算された疲労度が累積され、全体疲労度が形成される。したがって全体疲労度は、検討中の期間におけるポンプロータの繰り返し応力を考慮した全体疲労度を示している。上記の構成により、ポンプロータの繰り返し応力を考慮してメンテナンス期間を計算することが可能になる。それゆえ、非常に信頼できてより精度が高いメンテナンス期間を決定することができ、疲労に関連する破断を回避することができ、メンテナンス期間を決定するために必要な時間が長くなる事態を回避することができる。
【0016】
回転速度のペアそれぞれの機械的負荷特性は、ペア疲労度Lの決定の際に考慮されることが望ましい。回転速度のペアの負荷特性として、例えば、回転速度に関する最大値および最小値のペアの2つの回転速度において、該当部品の遠心力により生じる機械的負荷の平均値を用いてもよい。したがって、回転速度の度合いと回転速度の変動とが疲労度の計算に考慮され得る。
【0017】
ロータの回転速度は、一定の間隔で決定されることが望ましい。したがってその条件において、ロータの回転速度の継続的な決定とは、一定の間隔で実行される決定を意味している。間隔は1秒以上続いてもよい。例えば、ガスターボポンプの回転速度は全体を通してそれほど変化しないものであり、それほど急速に変化しないため、一般的に前述した条件で十分である。ロータの回転速度決定に関する適切な間隔を利用することは、決定に必要なコンピュータハードウェアの負荷を抑制することにつながる。
【0018】
本発明の好適な実施の形態では、ペア疲労度が少なくとも平方である多項式を用いて決定される。また特に好ましくは、立方多項式を用いて決定される。したがって、現実の状態に近い疲労度が計算可能であり、生じた応力を十分正確に示すことが可能となる。それほど正確である必要がない場合は、より簡単な方法によりペア疲労度を決定することも可能である。
【0019】
全体疲労度が全体疲労度用の閾値を超えた場合、疲労信号が即座に出力されることが望ましい。たとえば、メンテナンス間隔が終了するまでまだ余裕があり、メンテナンスを予定より数日または数週間早く準備する場合には、全体疲労度用の閾値を選択することが可能な構成であってもよい。もちろん、全体疲労度用の閾値を複数用意し、メンテナンス間隔の終了に近づくにつれて異なる警告が生じるように構成してもよい。
【0020】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】各回転速度に関する応力振幅σaと破断までの周期回数との相関関係を示す図である(ヴェーラーの概略図)。
【図2】回転速度に対するσaと他の所定の応力パラメータとを関連付けた、回転速度周期と応力周期との関係を示す概略図である。
【図3】ガスターボポンプの起こり得る周期的操作を示す図であり、例えば、種々のパラメータを設定するために時間tにおける回転速度がnとして示されている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
ガスターボポンプの操作において、特にターボ分子ポンプの操作において、速い回転速度と高速回転により生じる大きな遠心力とは、応力として、特にポンプロータの部分に、大きな径方向の機械的負荷を生じる。ポンプステータとポンプロータとの間の空間はできる限り狭くなるように構成されているため、ポンプロータにおける非常に小さな機械的変化であっても、ポンプロータとポンプステータとの衝突を引き起こしかねない。
【0023】
特許文献1で説明されている回転速度自身の影響およびロータ温度の影響に加えて、いわゆるクリープ応力および繰り返し応力もポンプロータの機械的疲労に関与する。いわゆるクリープ応力による物質的疲労およびいわゆる繰り返し応力による物質的疲労の大部分は、実際の経験で知られている応力の負荷範囲および温度の負荷範囲において互いに独立していることが、これまでの研究で示されている。クリープ応力および繰り返し応力は一時的に連続するが、その一時的な連続は部品の全体疲労度を考慮する場合にそれほど重要ではなく、クリープ応力および繰り返し応力が決定された後にクリープ応力および繰り返し応力を追加することが可能である。
【0024】
図1は、縦軸に示される応力振幅σaと横軸に示されており破断までの対応する回転速度周期の回数との相関関係を示す図である。破断までの耐久周期回数が無限大となるσaの限界値が明確に示されている。回転速度と応力との関係は、ポンプロータの材質、形状、大きさなどにより決定される。したがって、クリープ応力および繰り返し応力の値は交互に、計算に利用される。一例として、疲労度決定に機械的応力を考慮する場合について、以下に述べる。
【0025】
図2は、以下のアルゴリズムを理解しやすくするための図であり、一例として、ポンプの回転速度がnであり時間tにおける対応応力がσである場合の周期プロファイルを示している。
【0026】
ガスターボポンプが有する周期の変形例に対応できるようにするため、図1に基づく1つの曲線部分または複数の曲線から構成される曲線セットの全体は、異なる負荷を用いた実験により決定される。これらの曲線から多項式に関する一定要因が選択され、破断が生じるまでに全体として発生する同型の周期回数を、図2に基づいて、周期の変形例ごとに決定することができる:
log (Ntot) =α01・σm2・σm23・σm31・σa2・σa22・σa3
tot = 破断までに生じる同型の周期回数(応力幅)
【0027】
【数1】

【0028】
係数β1〜β3 及びγ1〜γ3は、α0と同様に、実験結果に基づいて設定される3つの値Ntot, σmaに基づいて決定される値であり、例えば2乗和平方根法を用いた補間処理により決定される。
【0029】
平均応力σm及び応力幅σa・2が機械的応力を介して計算に用いられることは明らかである。
【0030】
図3は、経験に基づいて見出される一時的回転速度プロファイルの一例を示している。ロータの回転速度nは一定時間間隔Δtで決定される。Δtが図3で示されている間隔よりもかなり短い間隔であってもよいことは、いうまでもない。したがって、より短い間隔での回転速度の決定を行うことができ、より正確な一時的回転速度プロファイル像を得ることができる。最小回転速度に到達した後、又は、例えば10Hzである最小回転速度周波数に到達した後、疲労度の決定が実行される。
【0031】
加速度が変化する兆候がある場合すぐに、到達したばかりである最大回転速度または最小回転速度が極大値または極小値として記憶される。記憶される回転速度が極大値である場合、極大値用メモリに記憶される。記憶される回転速度が極小値である場合、極小値用メモリに記憶される。本実施の形態では、このようにしてB、D、F及びH点における極小値が検出され、A、C、E及びG点における極小値が検出される。
【0032】
繰り返し応力を検出するために、経過した全時間を考慮して時間的に近傍にある最大値と最小値とのペアを形成するのではなく、観察している期間中に生じる極値のペアを形成する。第1のペアは、回転速度の最も小さい極小値と回転速度の最も大きい極大値とを用いて構成される。すなわち本実施の形態では、例えば、A〜Dから選択されて第1のペアが構成される。第2のペアは、残りの極値G及びFを用いて形成される。第3のペアは、C及びBの値を用いて構成される。このような処理は、所定の方法としてすでに確立されている。
【0033】
ペアを形成するために用いられる回転速度が、経過した全時間における最小値を示す回転速度と最大値として利用される回転速度とである場合、その最大値は実際の極大値ではなく、回転速度の全体像を無視した値になっている。経過した全時間における最小値を示す回転速度と最大値として利用される回転速度とである場合、その最小値についても同じことが言える。この問題については、本実施の形態のE及びHのペアを考慮する場合を想定すると理解しやすいであろう。
【0034】
疲労度決定を検討する期間は、全操作期間と同じであってもよい。すなわち、最後にガスポンプを起動にしてからその後にガスポンプを停止するまで疲労度決定を検討する期間が続くようにしてもよい。しかしながら、ポンプの全寿命期間中は常に検討を行う構成であってもよい。実際には、利用可能なコンピュータ及びメモリ容量により、監視できる期間は制限される。過去のポンプ寿命期間全体を考慮する場合、蓄積された疲労度全体が各時間に於いて完全に再計算される。
【0035】
ペア疲労度Lは、最大回転速度および最小回転速度のペアそれぞれに対して、Ntotを算出した公式を用いた以下の公式により計算される:
L= 1/Ntot
【0036】
全体疲労度Ltotは、ペア疲労度Lの和を用いて計算される:
tot = Σ1/Ntot =ΣLi
【0037】
更に、継続して蓄積するクリープ疲労度をその計算に追加することも可能である。累積される周期的な疲労度Ltotの値またはクリープ疲労度及び周期的な疲労度を組み合わせた値は、継続的に全体限界疲労度Lmaxと比較することが可能である。限界値Lmaxが1.0の場合に故障が発生すると予期できるため、限界値Lmaxは1.0より小さい値にしてある。全体疲労度Ltotが限界値Lmaxを超えた場合すぐに、対応する疲労信号が出力される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスターボポンプが有するポンプロータの疲労度を決定する方法において、
前記ポンプロータの回転速度(n)を継続的に決定するステップと、
対象となる一時的回転速度プロファイルにおける回転速度の極大値および極小値を決定するステップと、
前記回転速度の極大値と極小値とがペアをなすように関連付けるステップと、
前記回転速度のペアそれぞれについてペア疲労度(L)を決定するステップと、
すべてのペア疲労度(L)を累積して全体疲労度(Ltot)を形成するステップと
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ペア疲労度(L)の決定に際して、前記回転速度のペアが有する少なくとも一つの特徴的な応力を考慮することを特徴とする請求項1に記載のガスターボポンプが有するポンプロータの疲労度を決定する方法。
【請求項3】
回転速度のペアそれぞれが有する平均応力を特徴的な応力とすることを特徴とする請求項2に記載のガスターボポンプが有するポンプロータの疲労度を決定する方法。
【請求項4】
回転速度の極大値または極小値は、前記ロータの加速度に関する一時的プロファイルのゼロ交差をそれぞれ示していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載のガスターボポンプが有するポンプロータの疲労度を決定する方法。
【請求項5】
前記ロータの回転速度(n)の決定は、一定時間間隔(Δt)で実行されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載のガスターボポンプが有するポンプロータの疲労度を決定する方法。
【請求項6】
前記ペア疲労度(L)は、少なくとも平方、より好ましくは立方である多項式を用いて決定されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載のガスターボポンプが有するポンプロータの疲労度を決定する方法。
【請求項7】
前記全体疲労度(Ltot)が全体疲労度限界値(Lmax)を超えた時に、疲労信号を出力することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載のガスターボポンプが有するポンプロータの疲労度を決定する方法。
【請求項8】
前記ロータの回転速度(n)と温度とを用いてクリープ疲労度を継続的に決定し、継続的に前記全体疲労度(Ltot)中に累積することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載のガスターボポンプが有するポンプロータの疲労度を決定する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−519450(P2010−519450A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550255(P2009−550255)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/050452
【国際公開番号】WO2008/101752
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(508206070)オーリコン レイボルド バキューム ゲーエムベーハー (43)
【Fターム(参考)】