説明

ガスバリア性フィルム、ガスバリア性フィルムの製造方法、および蓄積性蛍光体パネル

【課題】単層のガスバリア層しか有さなくても非常に優れたガスバリア性、すなわち、防湿性を発揮することができ、例えば、蛍光体パネルの防湿保護膜として用いても、蛍光体層に対して十分な防湿性を発揮して長期利用可能な蛍光体パネルを得ることができるガスバリア性フィルム、ガスバリア性フィルムの製造方法、および前記ガスバリア性フィルムを用いる蓄積性蛍光体パネルを提供することにある。
【解決手段】基板フィルムの上にガスバリア層を有するガスバリア性フィルムにおいて、ガスバリア層が、粒径が3nm〜20nmの無機化合物からなる粒界が1nm〜20nmの無機化合物層であることにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性フィルム、ガスバリア性フィルムの製造方法、および蓄積性蛍光パネルの技術分野に属し、詳しくは、蓄積性蛍光体パネルの蓄積性蛍光体層を封止する防湿保護膜として最適なガスバリア性フィルム、ガスバリア性フィルムの製造方法、および前記ガスバリア性フィルムを用いる蓄積性蛍光体パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線(X線、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等)の照射を受けると、この放射線エネルギーの一部を蓄積し、その後、可視光等の励起光の照射を受けると、蓄積されたエネルギーに応じた輝尽発光を示す蛍光体が知られている。この蛍光体は、蓄積性蛍光体(輝尽性蛍光体)と呼ばれ、医療用途などの各種の用途に利用されている。
【0003】
一例として、この蓄積性蛍光体の膜(蓄積性蛍光体層 以下、蛍光体層とする)を有する蓄積性蛍光体パネル(以下、蛍光体パネルとする(放射線像変換シートとも呼ばれている))を利用する、放射線画像情報記録再生システムが知られており、例えば、富士写真フィルム社製のFCR(Fuji Computed Radiography)等として実用化されている。
このシステムでは、人体などの被写体を介してX線等を照射することにより、蛍光体パネル(蛍光体層)に被写体の放射線画像情報を記録する。記録後に、蛍光体パネルをレーザ光等の励起光で2次元的に走査して輝尽発光を生ぜしめ、この輝尽発光光を光電的に読み取って画像信号を得る。そして、この画像信号に基づいて再生した画像を、CRTなどの表示装置や、写真感光材料などの記録材料等に、被写体の放射線画像として出力する。
【0004】
蛍光体パネルは、通常、蓄積性蛍光体の粉末をバインダ等を含む溶媒に分散してなる塗料を調製して、この塗料をガラスや樹脂製のパネル状の支持体に塗布し、乾燥することによって、作成される。
これに対し、真空蒸着やスパッタリング等の真空成膜法(気相成膜法)によって、支持体に蛍光体層を形成してなる蛍光体パネルも知られている(特許文献1、特許文献2参照)。真空成膜法による蛍光体層は、真空中で形成されるので不純物が少なく、また、蓄積性蛍光体以外のバインダなどの成分が殆ど含まれないので、性能のバラツキが少なく、しかも発光効率が非常に良好であるという、優れた特性を有している。
【0005】
しかし、蛍光体層、特に、良好な特性を有するアルカリハライド系の蛍光体層は、吸湿性が高く、通常(常温/常湿)の環境下であっても、容易に吸湿する。その結果、輝尽発光特性すなわち感度の低下や、蓄積性蛍光体の結晶性の低下(例えば、柱状構造をもつアルカリハライド系の蓄積性蛍光体であれば、結晶の柱状性の崩壊)による再生画像の鮮鋭性の低下等を生じてしまう。
【0006】
このような問題点を解決するために、ガスバリア性、すなわち、防湿性を有するガスバリア性フィルムを防湿保護膜として用い、蛍光体層を防湿保護膜で密封することが知られている。また、長期間良好な状態で使用することのできる蛍光体パネルの製造を実現するために、好適な防湿保護膜となるガスバリア性フィルムも各種、提供されている。
【0007】
ガスバリア性フィルムは、通常、可撓性を有するシート状の基板フィルム上にガスバリア層を形成してなるものである。また、ガスバリア層としては、二酸化珪素層(以下、SiO層という)が知られている。
例えば、特許文献3には、基板フィルム上に、酸化アルミニウム層、酸化ケイ素層、酸化アルミニウム層の3層からなるガスバリア層(保護層)を形成してなるガスバリア性フィルムを防湿保護膜として用いる蛍光体パネルが開示されている。
【0008】
また、ガスバリア層として用いられる酸化ケイ素層は、マグネトロンスパッタリングを利用して、スパッタガスであるアルゴンガスの圧力を低くして成膜し、さらに、成膜された酸化ケイ素層の膜厚を小さくすることにより、膜中気孔率及び空孔の平均サイズが小さくなり、良好なガスバリア性が付与されることが知られている(非特許文献1参照)。
【0009】
さらに、Si原子数100に対して、O原子数が180〜200、かつ、C原子数が40〜80の範囲内の成分割合からなり、さらにSi−O−Si伸縮振動に基づくIR吸収が1045cm−1〜1060cm−1の間にあり、かつSi−CH伸縮振動に基づくIR吸収が1274±4cm−1にあることにより、バリア性が良好な酸化ケイ素層が得られることも知られている(特許文献4参照)。
【0010】
【特許文献1】特許第2789194号公報
【特許文献2】特開平5−249299号公報
【特許文献3】特開2004−93560号公報
【特許文献4】特開2002−361774号公報
【非特許文献1】Journal of the Ceramic Society of Japan 112[6]338‐341(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、SiO層を用いることにより、良好なガスバリア性を有するガスバリア性フィルムを得ることができる。
しかしながら、蛍光体パネルの防湿保護膜に要求されるガスバリア性、すなわち、防湿性は、極めて高く、特許文献3にも示されるように、ガスバリア層として、SiO層を利用するガスバリア性フィルムであっても、ガスバリア層を多層膜としなければ十分な防湿性を得ることができない。
そのため、多層膜をつくるための製造時間および製造コストが必要となり、さらに防湿性が要求される場合には成膜総数が増加し、積層する毎に製造時間および製造コストが必要となる。
【0012】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解消し、単層のガスバリア層しか有さなくても非常に優れたガスバリア性、すなわち、防湿性を発揮することができ、例えば、蛍光体パネルの防湿保護膜として用いても、蛍光体層に対して十分な防湿性を発揮して長期利用可能な蛍光体パネルを得ることができるガスバリア性フィルム、ガスバリア性フィルムの製造方法、および前記ガスバリア性フィルムを用いる蓄積性蛍光体パネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、基板フィルムの上にガスバリア層を有するガスバリア性フィルムであって、前記ガスバリア層が、粒径が3nm〜20nmの無機化合物からなる、粒界が1nm〜20nmの無機化合物層であるガスバリア性フィルムを提供するものである。
【0014】
本発明においては、前記無機化合物が、珪素酸化物、珪素窒化物、珪素酸窒化物、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、およびダイアモンドライクカーボンの少なくとも1種であるのが好ましい。
【0015】
また、本発明においては、前記無機化合物が二酸化珪素であるのが好ましい。
【0016】
また、本発明においては、前記無機化合物層が、0.01Pa〜0.13Paの成膜圧力で、インピーダンス制御による反応性スパッタリングによって成膜されてなるものであるのが好ましい。
【0017】
また、上記目的を達成するために、本発明は、基板と、この基板上に形成される蓄積性蛍光体層と、この蓄積性蛍光体層を覆って封止する上記いずれかに記載のガスバリア性フィルムとを有することを特徴とする蓄積性蛍光体パネルを提供するものである。
【0018】
また、上記目的を達成するために、本発明は、基板フィルムの上にガスバリア層を有するガスバリア性フィルムを製造するに際し、0.01Pa〜0.13Paの成膜圧力で、インピーダンス制御による反応性スパッタリングによって、前記ガスバリア層を形成することを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法を提供するものである。
【0019】
本発明においては、前記放電電圧が480V〜660Vであるのが好ましい。
【0020】
本発明においては、遷移領域において前記反応性スパッタリングを行うのが好ましい。
【0021】
本発明においては、前記ガスバリア層が、無機化合物からなるものであるのが好ましい。
【0022】
本発明においては、ターゲットとして珪素を用い、反応性ガスとして酸素ガスを用いるのが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
粒径が3nm〜20nmの無機化合物からなる粒界が1nm〜20nmの無機化合物層であるガスバリア層を用いることにより、単層のガスバリア層しか有さなくても非常に優れたガスバリア性、すなわち、防湿性を発揮することができ、例えば、蛍光体パネルの防湿保護膜として用いても、蛍光体層に対して十分な防湿性を発揮して長期利用可能な蛍光体パネルを得ることができるガスバリア性フィルムおよびガスバリア性フィルムの製造方法を提供することができる。さらに、この優れた防湿性を有するガスバリア性フィルムを用いて、基板上に形成される蓄積性蛍光体層を封止することにより、湿度劣化の非常に少ない蓄積性蛍光体パネルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明のガスバリア性フィルムおよびガスバリア性フィルムの製造方法について、添付の図面を用いて、詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明のガスバリア性フィルムの断面を概念的に示したものである。
図1に示す本発明のガスバリア性フィルム10は、基本的に、基板フィルム12とガスバリア層14とを有して構成される。
なお、図示例においては、基板フィルム12上に、直接、ガスバリア層14を積層しているが、本発明は、これに限定はされず、必要に応じて、ガスバリア層14の下層に形成される密着層や同上層に形成される保護層など、各種の機能を有する層(膜)を有してもよく、また、ガスバリア層として作用する他の層を有してもよい。
【0026】
本発明のガスバリア性フィルム10において、基板フィルム12には特に限定はなく、各種の可撓性フィルムが利用可能である。
例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、TAC(トリアセチルセルロース)、PES(ポリエーテルスルホン)、PAr(ポリアリレート)、ノルボルネン等からなるフィルムが用いられ、機械強度や寸法安定性を有するものが良い。
蓄積性蛍光体パネル(以下、単に蛍光体パネルとする)の蛍光体層の吸湿を防止する防湿保護膜として用いる場合には、上記フィルムのうち、特にPETから成るフィルムを用いるのが好ましい。
【0027】
基板フィルム12の厚さは特に制限を受けるものではないが、後述するガスバリア層14と合わせて、使用される用途に対して十分な強度を維持でき、さらに、不要に厚くならない厚さを適宜決定すればよい。
【0028】
本発明のガスバリア性フィルム10において、ガスバリア層14は、粒径が3nm〜20nmの無機化合物からなる粒界が1nm〜20nmの無機化合物層である。
【0029】
本発明者は、ガスバリア性に優れたガスバリア層について、鋭意検討を重ねた結果、無機化合物からなる気相成膜法によるガスバリア層においては、無機化合物の粒子径と層の粒界の大きさ、および両者のバランスが、非常に重要であることを見いだした。さらに、検討の結果、ガスバリア層を構成する無機化合物の粒径を3nm〜20nmとし、かつ、ガスバリア層の粒界を1nm〜20nmとすることにより、両者の相乗効果により、非常に優れたガスバリア性を得ることができ、単層のガスバリア層しか有さなくても、十分なガスバリア性を有するガスバリア性フィルムを得られることを見いだした。
このガスバリア性フィルムであれば、単層のガスバリア層しか有さなくても、前記蛍光体パネルの防湿保護膜のように、非常に高い防湿性を要求される用途にも、十分に対応することができ、従って、このガスバリア性フィルムを蛍光体パネルに利用することにより、長期にわたって吸湿に起因する特性低下を生じない、高品位な蛍光体パネルを実現できる。
【0030】
前述のように、本発明のガスバリア性フィルム10において、ガスバリア層14は、粒径が3nm〜20nmの無機化合物からなる粒界が1nm〜20nmの無機化合物層である。
ガスバリア層を形成する無機化合物の粒径が3nm未満では、個々の粒子の有する防湿性能が小さくなり、充分なガスバリア性を得ることができない。
他方、この粒径が20nmを超えると、前記所定の粒界を形成することができず、かつ、十分なガスバリア性を得ることができない。
また、ガスバリア層の粒界が1nm未満では、粒子が相当密に充填され、粒子配置に無理が生じるため、層に間隙が生じやすく、結果として充分なバリア性を得ることができない。
他方、この粒界が20nmを超えると、粒径が前記条件を満たしていても、十分なガスバリア性を得ることができない。
なお、粒径とは、無機化合物を成す粒子の大きさを表わし、粒界とは、無機化合物をなす粒子同士の境界間の距離を表わしている。
具体的には、まず対象のフィルムの任意の領域をAFM(Atomic Force Microscope)により撮影する。粒径については、任意地の20個の粒子を選択して画像上の直径(真球でない場合は最大径)を測定し、それらを算術平均したものにより定義する。また、粒界においては、任意の互いに隣接しない20個の粒子を選択した後、周りの粒子との画像上の最短距離を測定し、それらを算術平均したものにより定義する。
【0031】
本発明のガスバリア性フィルム10において、ガスバリア層14を構成する無機化合物には特に限定は無く、各種の無機化合物が利用可能である。
具体的には、SiOで示される酸化硅素、SiNで示される窒化珪素、SiOで示される酸窒化硅素、AlO、TiO等で示される金属酸化物、AlOで示される金属酸窒化物、およびダイアモンドライクカーボンの少なくとも1種が好適に例示される。中でも特に、二酸化硅素(SiO)は好適である。
【0032】
このような本発明のガスバリア性フィルム10は、上記条件(粒径および粒界)を満たすように成膜条件を調整した公知の気相成膜法で、基板フィルム12の表面に、ガスバリア層14を形成することで、製造することができるが、好ましくは、以下に示す本発明のガスバリア性フィルム10の製造方法で製造される。
【0033】
本発明のガスバリア性フィルム10の製造方法は、0.01Pa〜0.13Paの成膜圧力下で、インピーダンス制御による反応性スパッタリングによってガスバリア層14を形成するものである。
【0034】
周知のように、インピーダンス制御とは、反応性スパッタリングにおいて、カソードに印可する電圧を一定にして、酸素ガス等の反応ガスの流量を調整することにより放電電圧を一定に保ちつつ、スパッタリングを行うものである。
インピーダンス制御は、元来、成膜レートを高速化するために開発された成膜電圧の制御方法として知られているものである。本発明者は、ガスバリア性に優れたガスバリア層について検討を重ねた結果、成膜圧力を0.2Pa以下とすることにより、緻密でガスバリア性の高いガスバリア層を形成することができることを見出した。ところが、成膜圧力を0.2Pa以下とすると放電が安定せずに、成膜状態が不安定になってしまう。これに対し、本発明者は、インピーダンス制御を用いる反応性スパッタリングであれば、成膜圧力を低くしても安定な放電を得ることができ、さらに、成膜圧力を0.01Pa〜0.13Paとした、インピーダンス制御による反応性スパッタリングを行うことにより、前記条件を満たす緻密な無機化合物層を、高い成膜レートで安定して作成できることを見いだした。特に、ターゲットとして硅素を用い、反応ガスとして酸素ガスを用いて、上記成膜圧力でインピーダンス制御による反応性スパッタリングを行って、SiO層を形成することにより、上記条件を満たす、極めてガスバリア性に優れたガスバリア層を形成することができる。
【0035】
すなわち、本発明の製造方法によれば、前述のような単層のガスバリア層しか有さなくても非常に優れたガスバリア性を発揮するガスバリア性フィルムを、安定して、かつ、成膜レートの良好な高い生産性で製造することができる。
【0036】
なお、前記非特許文献1には、前述のように、SiO層の成膜において、成膜圧力を低くし、かつ、膜厚を薄くすることにより、空隙を小さくして高いガスバリア性を得られることが開示されている。
しかしながら、ここに開示される成膜圧力は、アルゴンガスの圧力で0.25Pa〜1.5Paと本発明に比して非常に高く、前記本発明のガスバリア層を形成することはできず、かつ、SiO層の構造(粒径や粒界等)についても、何ら開示も示唆すらもされてはいない。
【0037】
前述のように、本発明のガスバリア性フィルムの製造方法では、0.01Pa〜0.13Paの成膜圧力下で、インピーダンス制御による反応性スパッタリングを行う。
【0038】
なお、インピーダンス制御を用いないと、この成膜圧力下では安定した放電を得ることができない。
また、インピーダンス制御を行うための反応ガス量の調整は、公知の手段が各種利用可能であるが、応答性が高く、低い成膜圧力でも、安定して放電電圧を保つことができる等の点で、ピエゾバルブを用いるのが好ましい。
【0039】
本発明の製造方法において、放電電圧には、特に限定は無いが、480V〜660Vが好ましく、特に600V〜620Vが好ましい。
本発明の製造方法においては、成膜レートを向上して生産性を高くできる、反応ガス量を低減して成膜圧力を低くできる(前記成膜圧力を好適に保てる)等の点で、遷移領域で反応性スパッタリングを行うのが好ましいが、放電電圧を上記範囲として成膜を行うことにより、上記成膜圧力でのインピーダンス制御による遷移領域での反応性スパッタリングを安定して行うことが可能となる。
上記範囲でスパッタリングを行うことにより、不都合を回避して、安定した成膜が可能となる。
【0040】
また、ターゲット材に用いる材料も、成膜するガスバリア層に応じて、適宜、選択すればよい。他方、反応ガスも、成膜するガスバリア層に応じて、適宜、選択すればよい。なお、本発明においては、硅素をターゲット材として用い、反応ガスとして酸素を用いて、SiOからなる層をガスバリア層として形成するのが好ましいのは、前述のとおりである。
さらに、本発明においては、インピーダンス制御による反応性スパッタリングであれば、RFスパッタリング、DCパルススパッタリング等の各種のスパッタリング方法が利用可能であるが、DCパルススパッタリングが好適に利用される。
【0041】
さらに、本発明のガスバリア性フィルムの製造方法においては、これ以外の制限はなく、基板フィルムの搬送速度、ガスバリア層の成膜速度、成膜パワー、反応ガス等の導入量等は、要求される生産性や成膜材料等に応じて、適宜、決定すればよい。
【0042】
図2に、本発明のガスバリア性フィルムの製造方法の実施に好適なフィルム走行式スパッタリング装置の概念図を示す。
なお、本発明のガスバリア性フィルムの製造は、このスパッタリング装置で行うのに限定されず、また、このスパッタリング装置は、本発明のガスバリア性フィルムの製造方法の実施専用の装置でないのも、もちろんである。
【0043】
図2に示されるスパッタリング装置20は、プラスチックフィルム等の長尺な帯状の基板フィルム12の表面に、スパッタリング法によってガスバリア層14を成膜するものである。
図2に示されるように、スパッタリング装置20は、真空槽22と、真空槽22内を減圧する真空ポンプ60と、真空槽22内に形成される基板搬送系23および成膜系25を有して構成され、基板フィルム12を長手方向に搬送しつつ、前記インピーダンス制御による反応性スパッタリングによって、基板フィルム12表面にガスバリア層14を形成する。
【0044】
真空ポンプ60は、排気口58を介して真空槽22内を減圧するものであり、スパッタリング装置等に利用される公知のものが各種利用可能である。
図示例においては、真空槽22内の基板搬送系23と成膜系25は、隔壁27(さらに後述するドラム24)によって略気密に分離されており、それに対応して、各系内に対応するように2つの真空ポンプ60が設けられている。
【0045】
基板搬送系23は、長尺な基板フィルム12を長手方向に搬送するものであり、送り出しロール26、ドラム24、巻き取りロール36 、およびガイドロール28を有して構成される。
送り出しロール26は、ロール状に巻回された基板フィルム12を装填されるものであり、回転して基板フィルム12を送り出す。巻き取りロール36は、ガスバリア層を成膜された基板フィルム12をロール状に巻き取る。
ドラム24は、回転軸を基板フィルム12の長手方向(すなわち搬送方向)と直交する方向に一致して、回転するものであり、基板フィルム12を側面に巻き掛けて回転することにより、ガスバリア層が形成される基板フィルム12を所定の成膜位置に保持しつつ、長手方向に搬送する。
ガイドロール28(28a〜28d)は、基板フィルム12を所定の搬送経路に案内するガイドロールである。なお、少なくとも1つのガイドロールは、基板フィルム12に所定の張力を与える、テンションコントロールとなっているのが好ましい。
【0046】
図示例において、基板フィルム12は、送り出しロール26から供給され、ガイドロール28aおよび28bによって案内されて、ドラム24に巻き掛けられ、ガイドロール28cおよび28dに案内されて、巻き取りロール36に至る、所定の搬送経路を搬送される。
【0047】
一方、成膜系25は、ターゲット材38を保持するカソード40、カソード40に放電電圧を印可する放電電源42、反応ガス配管46、反応ガス流量調整ユニット48、反応ガスボンベ50、放電ガス配管52、放電ガスフローコントローラ54、放電ガスボンベ56、および制御器44を有して配置される。
また、図2に示すように、成膜系25のカソード40の上方で、且つ、成膜の邪魔にならない位置に、放電電圧を測定する測定手段66が配置される。
【0048】
カソード40は、ドラム24の下端部に対面するようにターゲット材38を保持する。カソード40に放電電圧を印可する放電電源42には特に限定は無いが、DCパルス電源が好ましいのは、前述のとおりである。
また、ドラム24とターゲット材38(カソード40)との対面部分では、隔壁27は開放されている。
【0049】
酸素ガス等の反応ガスは、反応ガスボンベ50から供給され、反応ガス流量調整ユニット48で流量を調整されて、反応ガス配管46から真空槽22(成膜系25)内に供給される。なお、反応ガス流量調整ユニット48としては、応答性等の点でピエゾバルブを用いるものが好ましいのは、前述のとおりである。
アルゴンガス等の放電ガスは、放電ガスボンベ56から供給され、放電ガスフローコントローラ54で流量を調整され、放電ガス配管52から真空槽22(成膜系25)内に供給される。なお、放電ガスフローコントローラ54は、マスフローコントローラ等の通常スパッタリング装置で用いられるものを利用すれば良い。
【0050】
また、制御器44は、放電電源42による放電電圧、および、反応ガス流量調整ユニット48による反応ガス流量をコントロールするものである。
ここで、図示例の装置において、インピーダンス制御による反応性スパッタリングを行う際には、制御器44は、測定手段66による放電電圧の測定結果をフィードバックして、放電電圧が所定値となるように反応ガス流量すなわち反応ガス流量調整ユニット48を制御する。
なお、測定手段66は、公知のものが利用可能である。
【0051】
次に、上記のような構成を有するスパッタリング装置20を用いて、本発明のガスバリア性フィルムを製造する、一実施形態を説明する。
【0052】
基板フィルム12を送り出しロール26に装填し、ガイドロール28aおよび28b、ドラム24、ガイドロール28cおよび28dを順に介して、巻き取りロール36まで掛け渡す。また、真空槽を閉塞したら、真空ポンプ60を駆動して真空槽22内圧力が所定の値になるまで減圧する。
【0053】
真空槽22内圧力が所定の圧力に到達した後、基板フィルム12を所定の速度で搬送し、放電ガスの流量を放電ガスフローコントローラ54で制御しつつ、真空槽22内に導入する。
成膜時における基板フィルム12の搬送速度には、とくに限定はなく、対象とする基板フィルム12に要求される成膜速度、カソード40の出力等に応じて、適宜決定すればよい。
その後、真空槽22内の圧力を所定の圧力で安定させて放電電源42からカソード40にパワーを供給し、プレスパッタを実施する。
【0054】
プレスパッタ実施後、反応ガス流量を反応ガス流量調整ユニット48によって制御し、反応ガスを反応ガス配管46から真空槽22内へ導入し、カソード40に所定値の電圧を印加する。
【0055】
上記のようにして真空槽22内の放電電圧を所定の値で一定に保った後、放電ガスと反応ガスとの供給量を低減して、真空槽22内が最終的な成膜圧力になるまで制御し、基板フィルム12上にガスバリア層14を成膜する。
この間、成膜系25のカソード40の上方で、且つ、成膜の邪魔にならない位置、すなわち、図示例においては、カソード40の上方の左側に設置された測定手段66で成膜時の放電電圧を測定し、この測定結果を制御器44にフィードバックして、放電電圧が所定値となるように反応ガス流量すなわち反応ガス流量調整ユニット48を制御し、成膜時の放電電圧を一定に保つ。
ガスバリア層14を形成された基板フィルム12(すなわちガスバリア性フィルム)は、ガイドロール28cおよび28bに案内されて、巻き取りロール36に巻き取られる。
【0056】
このような本発明のガスバリア性フィルム10は、各種の用途に利用可能であるが、特に、蛍光体パネルにおいて、蛍光体層の吸湿を防止する防湿性保護膜として最適である。
【0057】
図3に、本発明のガスバリア性フィルムを防湿保護膜として用いる本発明の蛍光体パネル60の一例を示す。
本発明の蛍光体パネル60は、基板62の表面に蛍光体層64を形成し、ガスバリア層14を蛍光体層64に向けて、蛍光体層64をガスバリア性フィルム10(防湿保護膜)で覆って、基板60とガスバリア性フィルム10との間で蛍光体層64を密封してなるものである。
【0058】
なお、基板62には特に限定はなく、本発明の蛍光体パネル60において、基板62は剛性を有するものであれば特に限定はなく、通常の蛍光体パネルで使用されている各種のものが利用可能である。
一例として、セルロースアセテートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、トリアセテートフィルム、ポリカーボネートフィルムなどのプラスチックフィルム; 石英ガラス、無アルカリガラス、ソーダガラス、耐熱ガラス(パイレックスTM等)などから形成されるガラス板; アルミニウムシート、鉄シート、銅シート、クロムシートなどの金属シートあるいは金属酸化物の被服層を有する金属シート; 等が例示される。
【0059】
また、蛍光体層64にも特に限定はなく、蛍光体層64を形成する蓄積性蛍光体には、特に限定はなく、各種のものが利用可能である。
好ましい一例として、特開昭57−148285号公報に開示される、一般式「MI X・aMIIX’2 ・bMIII X''3 :cA」で示されるアルカリハライド系蓄積性蛍光体が例示される。
(上記式において、MI は、Li,Na,K,RbおよびCsからなる群より選択される少なくとも一種であり、MIIは、Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Zn,Cd,CuおよびNiからなる群より選択される少なくとも一種の二価の金属であり、MIII は、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Al,GaおよびInからなる群より選択される少なくとも一種の三価の金属であり、X、X’およびX''は、F,Cl,BrおよびIからなる群より選択される少なくとも一種であり、Aは、Eu,Tb,Ce,Tm,Dy,Pr,Ho,Nd,Yb,Er,Gd,Lu,Sm,Y,Tl,Na,Ag,Cu,BiおよびMgからなる群より選択される少なくとも一種である。また、0≦a<0.5であり、0≦b<0.5であり、0≦c<0.2である。)
【0060】
特に、優れた輝尽発光特性を有し、且つ、本発明の効果が良好に得られる等の点で、MI が、少なくともCsを含み、Xが、少なくともBrを含み、さらに、Aが、EuまたはBiであるアルカリハライド系蓄積性蛍光体は好ましく、中でも特に、一般式「CsBr:Eu」で示される蓄積性蛍光体が好ましい。
【0061】
さらに、基板62と蛍光体層64との間に、反射層や密着層等の各種の機能を発揮する層を有してもよい。
【0062】
本発明の蛍光体パネル60において、ガスバリア性フィルム10は、蛍光体層14の周囲で基板12に接着することで、蛍光体層14を密封してもよく、あるいは、蛍光体層14を囲んで壁部を設け、この壁部の表面にガスバリア性フィルム10を接着することで、蛍光体層14を密封してもよい。
さらに、ガスバリア性フィルム10の浮きの防止や、本発明の蛍光体パネル60の強度向上等を図るために、ガスバリア性フィルム10と蛍光体層64とを接着してもよい。
【0063】
本発明は、基本的に以上のようなものである。
以上、本発明のガスバリア性フィルム、ガスバリア性フィルムの製造方法、および本発明のガスバリア性フィルムを用いる蛍光体パネルについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の具体的実施例を挙げることにより本発明をより詳細に説明する。
【0065】
[実施例]
図2に示される成膜装置20を用いて、成膜を行った。
【0066】
基板フィルム12として、厚さ57μmのPETフィルムを用いて、図2に示すように、送り出しロール26からガイドロール28aおよび28b、ドラム24、ガイドロール28cおよび28dを順に介して、巻き取りロール36まで、基板フィルム12を掛け渡した。
また、ターゲット材38として、カソード40上にシリコンを取り付けた。
【0067】
真空ポンプ60を駆動して真空槽22内の減圧を開始し、真空槽22内の圧力が4×10−4Paになるまで排気した後、基板フィルム12を0.2m/minの速度で長手方向に搬送し、放電ガスであるアルゴンガスを真空槽22内に導入した。このとき、放電ガスフローコントローラ54で、アルゴンガスの流量を調整し、放電ガス配管52から放電ガスを導入した。
放電ガス導入後、真空槽22内の圧力を0.27Paとし、放電電源42から7kWの成膜パワー供給してプレスパッタを実施した。
【0068】
プレスパッタ開始から10分経過した時点で、反応ガスとして酸素ガスを導入した。このとき、酸素ガスの流量は、反応ガス流量調整ユニット48で調整し、反応ガス配管46から導入した。
酸素ガス導入後、放電電圧を610Vに保つように制御した後、アルゴンガスおよび酸素ガスの供給量を低減して、最終的な成膜圧力を0.03Paまで下げ、PETフィルム上にSiO層を100nm成膜した。
なお、成膜中は、測定手段66によって放電電圧を測定し、その結果に応じて(フィードバックして)、反応ガス流量調整ユニット48によって酸素ガスの流量を調整することにより、放電電圧を610Vに保った(インピーダンス制御)。
【0069】
上記のようにしてPET上に成膜したSiO層の表面をAFM(Atomic Force Microscope)で観察したところ、SiO層を成す粒子の粒径は10nm、SiO層の粒界は15nmであった。
さらに、本実施例のガスバリア性フィルムを40℃ 90%RHの環境下で、水蒸気透過試験機(MOCON社製 PERMATRAN W3/33)を用いて、JIS K7129 B法 準拠に従って測定したところ、透湿度は、0.4g/[m・day]であり、良好なガスバリア性が得られた。
【0070】
[比較例]
基板フィルム12の走行速度を0.3m/min、最終的な成膜圧力を0.27Paとした以外は実施例と同様にして、PETフィルム上にSiO層を100nm成膜した。
このときのSiO層の表面をAFMで観察したところ、SiO層を成す粒子の粒径は25nm、SiO層の粒界は30nmであった。
本比較例のガスバリア性フィルムの透湿度も実施例と同様にして測定したところ、透湿度は10.0/[m・day]であり、十分なガスバリア性は得られなかった。
以上の結果より本発明の結果は明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明のガスバリア性フィルムの一実施形態の断面図である。
【図2】本発明のガスバリア性フィルムの製造方法の実施に好適なフィルム走行式スパッタリング装置の概念図を示す。
【図3】本発明のガスバリア性フィルムを防湿保護膜として用いる本発明の蓄積性蛍光体パネルの一実施形態の断面図である。
【符号の説明】
【0072】
10 ガスバリア性フィルム
12 基板フィルム
14 ガスバリア層
20 スパッタリング装置
22 真空槽
23 基板搬送系
24 ドラム
25 成膜系
26 送り出しロール
27 隔壁
28a、28b、28c、28d ガイドロール
36 巻き取りロール
38 ターゲット材
40 カソード
42 放電電源
44 制御器
46 反応ガス配管
48 反応ガス流量調整ユニット
50 反応ガスボンベ
52 放電ガス配管
54 放電ガスフローコントローラ
56 放電ガスボンベ
60 (蓄積性)蛍光体パネル
62 基板
64 (蓄積性)蛍光体層
66 測定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板フィルムの上にガスバリア層を有するガスバリア性フィルムであって、
前記ガスバリア層が、粒径が3nm〜20nmの無機化合物からなる、粒界が1nm〜20nmの無機化合物層であることを特徴とするガスバリア性フィルム。
【請求項2】
前記無機化合物が、珪素酸化物、珪素窒化物、珪素酸窒化物、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、およびダイアモンドライクカーボンの少なくとも1種である請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
前記無機化合物が二酸化珪素である請求項1または2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
前記無機化合物層が、0.01Pa〜0.13Paの成膜圧力で、インピーダンス制御による反応性スパッタリングによって成膜されてなるものである請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【請求項5】
基板と、この基板上に形成される蓄積性蛍光体層と、この蓄積性蛍光体層を覆って封止する請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア性フィルムとを有することを特徴とする蓄積性蛍光体パネル。
【請求項6】
基板フィルムの上にガスバリア層を有するガスバリア性フィルムを製造するに際し、
0.01Pa〜0.13Paの成膜圧力で、インピーダンス制御による反応性スパッタリングによって、前記ガスバリア層を形成することを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記放電電圧が480V〜660Vである請求項6に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項8】
遷移領域において前記反応性スパッタリングを行う請求項6または7に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記ガスバリア層が、無機化合物からなるものである請求項6〜8のいずれかに記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項10】
ターゲットとして珪素を用い、反応性ガスとして酸素ガスを用いる請求項9に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−168145(P2007−168145A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365838(P2005−365838)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】