説明

ガスバリア性フィルムおよびその製造方法

【課題】
本発明は、低コストで高度なガスバリア性を有するガスバリア性フィルムおよびかかるガスバリア性フィルムを簡便かつ安定して製造することができる方法を提供せんとするものである。
【解決手段】
本発明のガスバリア性フィルムは、高分子フィルム上に無機化合物層を有するフィルムであって、X線光電子分光法により測定される該無機化合物層内のAl原子濃度に対するO原子濃度の比率が2〜3、SIMSにより測定される該無機化合物層内のC原子濃度が1×1021〜1×1022atoms/ccであることを特徴とするものである。
かかるガスバリア性フィルムの製造方法は、高分子フィルムを巻き出したのち、次いで、金属を蒸気化して該フィルム表面上に無機物層を形成する際に、該無機物層を、該無機物層形成時に投入される酸素原子数に対する炭素原子数の0.1〜10%である炭素元素含有ガスプラズマ雰囲気中で形成することを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子フィルム上に無機化合物層を有するフィルムおよびその製造方法に関し、特に、高分子フィルム上に無機化合物の層を有する無機化合物蒸着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラスチック基材の表面に、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム等の無機物(無機酸化物を含む)を使用し、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(PVD法)、あるいは、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(CVD法)等を利用して、その無機物の蒸着膜を形成してなるガスバリア性フィルムは、水蒸気や酸素などの各種ガスの遮断を必要とする食品、医薬品および工業用品等の種々の物品を包装するために用いられている。
【0003】
包装用蒸着フィルムのガスバリア性向上のため、蒸着膜形成後の蒸着膜表面を処理する種々の方法が用いられている。例えば、フィルム基材上にPVD法あるいはCVD法により金属酸化物層を形成し、その上に無機・有機ハイブリッドポリマー層を積層する方法がある(例えば、特許文献1)、また、フィルム基材上に酸化アルミニウムと酸化ケイ素の混合物を蒸着する方法(例えば、特許文献2)、 無機の蒸発源が無機の蒸発種を発生してる間にオルガノシリコンガスを流入する方法(例えば、特許文献3)、基材に無機酸化物を蒸着した後、有機物をコーティングし、さらに無機酸化物を蒸着する方法(例えば、特許文献4)、基材上に酸化ケイ素を蒸着する方法(例えば、特許文献5)が提案されている。
【特許文献1】特開2002-46209号公報([0015]〜[0091]段落)
【特許文献2】特開平10-95067号公報([0028]〜[0034]段落)
【特許文献3】特開平4-251736号公報([0008]〜[0009]段落)
【特許文献4】特開2003-181973号公報([0010]〜[0020]段落)
【特許文献5】特開2003-299339号公報([0008]〜[0010]段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような無機蒸着膜の表面にハイブリッドポリマーを形成、フィルム基材上に酸化アルミニウムと酸化ケイ素の混合物を蒸着、無機の蒸発源が無機の蒸発種を発生してる間にオルガノシリコンガスを流入しても、高バリア性を有するガスバリア性フィルムを安定して製造することは困難であるというのが実状であった。また、基材に無機酸化物を蒸着した後、有機物をコーティングし、さらに無機酸化物を蒸着、基材上に酸化ケイ素を蒸着してもコストが高くなると言うのが実状であった。
【0005】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、低コストで高度なガスバリア性を有するガスバリア性フィルムおよびかかるガスバリア性フィルムを簡便かつ安定して製造することができる方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明のガスバリア性フィルムは、高分子フィルム上に無機化合物層を有するフィルムであって、X線光電子分光法により測定される該無機化合物層内のAl原子濃度に対するO原子濃度の比率が2〜3、SIMSにより測定される該無機化合物層内のC原子濃度が1×1021〜1×1022atoms/ccであることを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明のガスバリア性フィルムの製造方法は、高分子フィルムを巻き出したのち、次いで、金属を蒸気化して該フィルム表面上に無機物層を形成する際に、該無機物層を、該無機物層形成時に投入される酸素原子数に対する炭素原子数の0.1〜10%である炭素元素含有ガスプラズマ雰囲気中で形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、酸素ガス、水蒸気等に対する高ガスバリア性を有するガスバリア性フィルムであるから、例えば、食品、医薬品および工業用品等の種々の物品を包装するために有用なガスバリア性フィルムを安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、前記課題、つまり低コストで高度なガスバリア性を有するガスバリア性フィルムについて、鋭意検討し、無機物層を、特定な炭素濃度にある炭素元素含有ガスプラズマ雰囲気中で形成してみたところ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。すなわち、かくして得られた無機化合物層は、従来技術で得られる膜とは異なる、Al原子濃度に対するO原子濃度の比率およびCの原子濃度を有することを究明したものである。
【0010】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
【0011】
本発明のガスバリア性フィルムは、高分子フィルム上に無機化合物層を有するフィルムであって、X線光電子分光法により測定される該無機化合物層内のAl原子濃度に対するO原子濃度の比率が2〜3、SIMSにより測定される該無機化合物層内のC原子濃度が1×1021〜1×1022atoms/ccであるという特定原子濃度範囲にある無機化合物層膜を有するフィルムである。
【0012】
本発明において、Al原子濃度、O原子濃度の値は、Journal of Polymer Science Vol.26 559−572(1988)および日本接着学会誌 Vol.27No.4(1991)で例示されているX線光電子分光法(ESCA)を用いることにより求めることができる。すなわち、ワイドスキャン、ナロースキャンを行い、ナロースキャンの化学シフトから元素の化学状態を判断する。次いで、ナロースキャンスペクトルをピーク分割することにより求めることができる。
【0013】
本発明にかかる無機化合物層は、ガスバリア性向上の観点から、SIMSで測定したC原子濃度の値が1×1021〜1×1022atms/ccであることが必要である。C原子濃度は、層内部の炭素の量を定量的に表している。C原子濃度の値が1×1021atms/cc以上であると、酸化アルミニウム内に炭素原子が導入され、酸化アルミニウムの欠陥が塞がれ、緻密化するので、酸素などガスが透過しにくくなる。しかし、C原子濃度の値が高くなりすぎると製造中の原料濃度を高くする必要があり、真空度が悪化することで同時に膜内部の不純物濃度も増加するため、膜の緻密性が悪くなりガスが透過しやすくなる。したがって、C原子濃度の上限は1×1022atms/cc以下とすることが必要である。
【0014】
また、C原子濃度は、「表面分析:SIMS−二次イオン質量分析法の基礎と応用−(アグネ承風社)p.181〜200」記載の方法にしたがって測定することができる。すなわち、高分子フィルムを含む層全体をSIMSにより分析する。 本発明のCの原子濃度とは、形成した無機化合物の膜厚の半分の場所のCの原子濃度のことをいう。
【0015】
本発明にかかる無機化合物層は、X線光電子分光法により測定されるAl原子濃度に対するO原子濃度の比率は、酸化アルミニウム中の欠陥に炭素元素含有化合物およびその分解物を導入してガス透過を抑える観点から、2〜3であることが必要である。好ましくは、2.1〜2.3である。Al原子濃度に対するO原子濃度の比率が2より少ない、あるいは3より大きいと酸化アルミニウム内の欠陥量が増え炭素元素含有化合物による欠陥の封止ができないので、ガスの透過を抑えることが出来ず高ガスバリア性が達成できない。
【0016】
また、本発明の目的とするガスバリア性、透明性などの特性を阻害しない範囲内であれば、無機化合物層内に他の原子を含有していてもかまわない。
【0017】
本発明にかかる蒸気化して用いる金属としては、本発明の目的の範囲内であれば、特に限定されないが、例えば、珪素、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、それらの酸化物およびこれらの混合物が用いられる。好ましくはアルミニウムが用いられる。
【0018】
高分子フィルム上に無機化合物層を形成する方法は特に限定されず、例えば、アルミニウム等の金属等を使用し、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等によって、形成することができる。好ましくは真空蒸着法である。上記において、蒸着原料の加熱方式としては、例えば、エレクトロンビーム(EB)方式、高周波誘導加熱方式、抵抗加熱方式等が用いられる。
【0019】
本発明にかかる無機化合物層を形成する方法において使用される炭素元素含有ガスプラズマ雰囲気を構成する炭素元素含有化合物としては、分子内部に炭素を含有する化合物を使用することができる。例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、アセチレン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールなどがあげられるが、炭素含有化合物であれば特に限定されるものではない。安全性、取り扱いなどから、好ましくは、メタン、エタノールが用いられる。また、炭素元素含有化合物はそれぞれ予め公知の方法により、分解して導入しても良い。
【0020】
また、本発明にかかる炭素元素含有ガスプラズマ雰囲気としては、該無機物層形成時に投入される酸素原子数に対する炭素原子数が0.1〜10%であり、好ましくは、0.1〜8%、さらに好ましくは2〜5%である。0.1より少ないと目的とする炭素原子数を得ることができず、10%より大きくなると蒸着中の真空度が悪化し、真空槽中の不純物の導入が行われてしまう。
【0021】
本発明で製造したフィルムを、製造後に個別に表面の処理を行っておいても良いし、インラインで行っても良い。未反応基を減少させる上で有効な加熱処理(例えば、60℃で2日間程度)やコロナ処理、あるいは酸素ガスや水蒸気を用いたプラズマ処理を行う方法などが好ましい。これらの処理は蒸着機内で行っても良い。
【0022】
高分子フィルム上に形成する無機化合物層の厚みは素材により一概に言えないが、例えば、0.002〜0.3μmが好ましく、より好ましくは、0.003〜0.2μm、さらに好ましくは0.005〜0.01μmがよい。無機化合物の膜厚がかかる好ましい範囲であると、その膜の柔軟性を保てるので、膜にクラック等が発生しにくくなり、酸素ガス、水蒸気ガスによる膜の修復が容易となる。また、ピンホール等の影響が小さく、酸素分子の透過を無機化合物によって十分に阻止でき高バリア性を維持できるので好ましい。
【0023】
本発明に使用する高分子フィルムとしては、有機高分子化合物からなるフィルムであれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートあるいはポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレン酢酸ビニル共重合体のケン化物、ポリアクリロニトリル、ポリアセタール等の各種ポリマからなるフィルムを使用することができる。好ましくは、ポリエチレンテレフタレートからなるフィルムである。高分子フィルムを構成するポリマは、ホモポリマー、コポリマーのいずれでもよいし、また、単独またはブレンドして用いることができる。
【0024】
また、高分子フィルムとして、単層フィルム、あるいは、2層以上の共押し出し法で製膜したフィルムや、一軸方向あるいは二軸方向に延伸されたフィルム等を使用することができる。
【0025】
本発明に使用する高分子フィルムの厚さは特に限定されないが、無機化合物を形成する時の安定性等から、5〜100μmが好ましく、より好ましくは、7〜60μmである。
【0026】
本発明に使用する高分子フィルムには、必要に応じて、例えば、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、充填剤等の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲内で添加したフィルム等も用いることができる。
【0027】
本発明のガスバリア性フィルムは、包装材料や包装体の一部として用いる観点からは、酸素透過率は1.0cc/(m・atm・24h)以下であることが好ましい。より好ましくは0.8cc/(m・atm・24h)以下である。また、水蒸気透過率は、1.0g/(m・24h)以下であることが好ましく、より好ましくは0.8g/(m・24h)以下、更に好ましくは0.5g/(m・24h)以下である。
【0028】
次に、本発明のガスバリア性フィルムを製造する方法の一例を具体的に説明する。
【0029】
巻き取り式真空蒸着装置を使用し、高分子フィルムを基材とし、真空蒸着装置の巻き取り室から、高分子フィルムを巻きだし、巻き出し側のガイドロールを介して、クーリングドラムに導入する。アルミニウムワイヤーをボートに導入して、抵抗加熱方式によりアルミニウムを蒸気化し、酸素、炭素元素含有ガスプラズマを導入することで、導入された高分子フィルムの片面に無機化合物の蒸着膜を形成する。その際、炭素元素含有ガスを酸素ガスプラズマ中に導入しても良いし、酸素、炭素元素含有ガスをアルミ蒸気中に導入する際に事前に混合し、プラズマ状態にして導入しても良い。酸素、炭素元素含有ガスプラズマ中でアルミニウムを蒸着する方法が好ましい。また、アルミニウム蒸気がプラズマ化されていても良い。また、アルミニウム自身を蒸気化しアルミニウム蒸気を形成しても良いし、酸化アルミニウム加熱して酸素、アルミニウム蒸気を形成しても良い。その後、巻き取り側のガイドロールを介して、巻き取りロールに巻き取る。
【0030】
高分子フィルム上に無機化合物層を形成する方法は特に限定されず、例えば、アルミニウム等の金属等を使用し、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等によって、形成される。このようにして形成された膜中には欠陥が存在するためガス透過が完全には阻止できず、ガスバリア性には限界がある。そのため、本発明では、炭素元素含有化合物ガスプラズマで欠陥を塞ぎ、炭素元素化合物あるいはその分解物が酸化アルミニウム中に入り込むことで高ガスバリア性が達成できる。
【0031】
したがって、高分子フィルムを巻きだした後、金属を蒸気化し、フィルム表面上に無機物層を形成する際に、該無機化合物層を、酸素原子数に対する炭素原子数が0.1〜10%である炭素元素含有ガスプラズマ雰囲気中で形成する。
【0032】
本発明の方法で製造されたフィルムは、例えば、他の樹脂フィルム、紙基材、金属素材、合成紙、セロハン、その他等の包装用容器を構成する包装用素材等と任意に組み合わせ、ラミネートして種々の積層体を製造することもできる。これらの積層体は、例えば、種々の物品を包装するのに適した包装材料として用いることができる。
【0033】
上記した他の樹脂フィルムとしては、未延伸、一軸ないし二軸方向に延伸されたもの等、いずれのものでも使用することができる。また、その厚さは、数μmから数100μmの範囲から選択して使用することができる。また、そのフィルム性状は、押し出し成膜、インフレーション成膜、コーティング膜等のいずれの性状でもよい。使用する樹脂素材は特に限定されず、具体的な素材としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレンアクリル酸エチル共重合体、エチレンアクリル酸またはメタクリル酸共重合体、酸変性ポリオレフィン系樹脂、メチルペンテンポリマー、ポリブテン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩化ビニル塩化ビニリデン共重合体、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリアクリルニトリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリルスチレン共重合体(AS系樹脂)、アクリロニトリルブタジェンスチレン共重合体(ABS系樹脂)、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体のケン化物、フッ素系樹脂、ジエン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ニトロセルロース、等から任意に選択して使用することができる。
【0034】
また、上記した紙基材としては、坪量80〜600g/mのものが好ましく、より好ましくは、坪量10〜450g/mのものを使用することが望ましい。具体的には、例えば、強サイズ性の晒または未晒の紙基材、あるいは純白ロール紙、クラフト紙、板紙、加工紙等の紙基材、その他等を使用することができる。
【0035】
また、上述の金属素材としては、例えば、アルミニウム箔、あるいは、アルミニウム蒸着膜を有する樹脂フィルム等を使用することができる。
【0036】
本発明の製造方法で得られるガスバリア性フィルムを用いて積層体を得る方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法で好ましく製造される。
【0037】
本発明の製造方法で得られたフィルムの表面に、必要に応じて、コロナ処理、オゾン処理、フレーム処理等の前処理を施した上で、ポリエステル系、イソシアネート系(ウレタン系)、ポリエチレンイミン系、ポリブタジェン系、有機チタン系等のアンカーコーティング剤、あるいはポリウレタン系、ポリアクリル系、ポリエステル系、エポキシ系、ポリ酢酸ビニル系、セルロース系、その他のラミネート用接着剤等を使用して、公知の包装材料をラミネートする方法等により製造することができる。ここで、ラミネート方法は特に限定されず、例えば、ウエットラミネーション法、ドライラミネーション法、無溶剤型ドライラミネーション法、押し出しラミネーション法、Tダイ押し出し成形法、共押し出しラミネーション法、インフレーション法、共押し出しインフレーション法、その他の方法等を使用することができる。
【0038】
次に、積層体を使用して、製袋ないし製函する方法について説明する。例えば、包装用容器として高分子フィルム等からなる軟包装袋を形成する場合、上記のような方法で製造した積層体を使用し、その内層のヒートシール性樹脂層の面を対向させて、それを折り重ねるか、或いはその二枚を重ね合わせ、更にその周辺端部をヒートシールしてシール部を設けて袋体を構成することができる。また、その製袋方法としては、積層体を、その内層の面を対向させて折り曲げるか、あるいはその二枚を重ね合わせ、更にその外周の周辺端部を、例えば、側面シール型、二方シール型、三方シール型、四方シール型、封筒貼りシール型、合掌貼りシール型(ピローシール型)、ひだ付シール型、平底シール型、角底シール型、その他等のヒートシール形態によりヒートシールして、種々の形態の包装用容器を製造することもできる。その他、例えば、自立性包装袋(スタンディングパウチ)等も製造することが可能であり、上記の積層体を使用してチューブ容器等を製造することもできる。ここで、ヒートシールの方法としては、例えば、バーシール、回転ロールシール、ベルトシール、インパルスシール、高周波シール、超音波シール等の公知の方法で行うことができる。なお、上記のような包装用容器には、例えば、ワンピースタイプ、ツウーピースタイプ、その他の注出口、あるいは開閉用ジッパー等を任意に取り付けることができる。
【0039】
また、包装用容器として、紙基材を含む液体充填用紙容器を製造する場合、例えば、積層体として、本発明の製造方法で得られたガスバリア性フィルムに紙基材を積層した積層体を製造し、該積層体から所望の紙容器を製造するブランク板を製造後、このブランク板を使用して胴部、底部、頭部等を製函して、例えば、ブリックタイプ、フラットタイプあるいはゲーベルトップタイプの液体用紙容器等を製造することができる。また、その容器の形状は、角形容器、丸形等の円筒状の紙缶等のいずれのものでも製造することができる。
【0040】
図1は無機化合物層を形成する製造方法を実施するための巻き取り式真空蒸着装置の一例の概略を模式的に示す装置構成図である。まず、巻き取り式真空蒸着装置1の巻き取り室2の中で、巻き出しロール6に高分子フィルム16をセットし、巻出し、ガイドロール8、9、10を介して、クーリングドラム16に通す。ボート5上にはアルミニウム等のワイヤーが導入されていて、ボート5上からアルミニウムが蒸発され、巻き出し側プラズマガス導入装置14、巻き取り側プラズマガス導入装置15から炭素元素含有化合物のプラズマガスを導入するので、このクーリングドラム17上の位置において高分子フィルム16の表面上に無機化合物層が形成される。その後、この無機化合物層が形成された高分子フィルム16、つまり本発明のガスバリア性フィルムを、ガイドロール13、12、11を介して、巻き取りロール7に巻き取る。
【0041】
本発明の製造方法で得られたガスバリア性フィルムを使用した容器は、酸素ガス等に対するガスバリア性、耐衝撃性等に優れ、更に、ラミネート加工、印刷加工、製袋ないし製函加工等の後加工適性に優れ、また、バリア性膜としての無機物の剥離を防止し、かつ、その熱的クラックの発生を阻止し、その劣化を防止して、バリア性膜として優れた耐性を発揮し、例えば、食品、医薬品、洗剤、シャンプー、オイル、歯磨き、接着剤、粘着剤等の化学品ないし化粧品、その他等の種々の物品の包装適性、保存適性等に優れているものである。
【実施例】
【0042】
次に、実施例を挙げて、具体的に本発明を説明する。なお、製造したフィルムの特性は下記の条件下で測定した。
【0043】
A)高分子フィルム上の無機化合物層のAl原子濃度に対するO原子濃度の比率の測定方法
Journal of Polymer Science Vol.26 559−572(1988)および日本接着学会誌 Vol.27No.4(1991)記載の方法にしたがって測定した。すなわち、超高真空中においた試料表面に軟X線を照射し、表面から放出される光電子をワイドスキャン、ナロースキャンを行い、ナロースキャンの化学シフトから元素の化学状態を判断する。次いで、ナロースキャンスペクトルをピーク分割することにより求めることができる。
【0044】
測定条件は以下の通りとした。
・装置:ESCALAB220iXL
・励起X線:monochromatic AlKα1,2線(1486.6eV)
・X線径:1mm
・光電子脱出角度:90°(試料表面に対する検収機の傾き)
・データ処理 スムージング
・横軸補正:C1Sメインピークを284.6eVにした。
【0045】
B)高分子フィルム上の無機化合物層のC濃度の測定方法
「表面分析:SIMS−二次イオン質量分析法の基礎と応用−(アグネ承風社)p.181〜200」記載の方法にしたがって測定した。
【0046】
すなわち、高分子フィルムを含む層全体に1次電子をあて、でてきた2次電子を質量分析器により、その質量を分析した。定量分析を行うために、あらかじめイオン注入により膜内部のC濃度が既知の試料により、検量線を引き、膜内部の炭素の量を定量した。測定条件は以下の通りとした。
・測定装置:ULVAC PHI社製 ADEPT1010
・測定条件:
・一次イオン:Csイオン
・一次イオン加速エネルギー:1KV
・二次イオン極性:Negative(負イオン検出)
・ラスター領域:400μm×800μm
・分析領域(面積比):9%
・帯電補償:E−gun(電子銃)
C)酸素透過率の測定方法
温度23℃、湿度0%RH、測定面積50cmの条件で、米国、モコン(MOCON)社製の酸素透過率測定装置(機種名:OXTRAN(登録商標) 2/20)を使用して測定した。
【0047】
D)水蒸気透過率の測定方法
温度40℃、湿度90%RH、測定面積50cmの条件で、米国、モコン(MOCON)社製の水蒸気透過率透過率測定装置(機種名:PERMATRAN(登録商標) W3/31)を使用して測定した。
【0048】
(実施例1)
図1に示す装置構造の巻き取り式の真空蒸着装置を使用し、厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製ルミラー(登録商標) 12T705)を基材とし、その片面に、アルミニウムを蒸着源に用いて抵抗加熱方式によりアルミニウムを蒸気化し、炭素元素含有ガスプラズマを導入して無機化合物を設けたフィルムを製造した。
【0049】
図1は無機化合物層を形成する製造方法を実施するための巻き取り式真空蒸着装置の一例の概略を模式的に示す装置構成図である。まず、巻き取り式真空蒸着装置1の巻き取り室2の中で、巻き出しロール6に高分子フィルム16をセットし、巻出し、ガイドロール8、9、10を介して、クーリングドラム16に通す。ボート5上にはアルミニウム等のワイヤーが導入されていて、ボート5上からアルミニウムが蒸発され、巻き出し側プラズマガス導入装置14、巻き取り側プラズマガス導入装置15から炭素元素含有化合物のプラズマガスを導入するので、このクーリングドラム17上の位置において高分子フィルム16の表面上に無機化合物が形成される。その後、この無機化合物が形成された高分子フィルム16を、ガイドロール13、12、11を介して、巻き取りロール7に巻き取る。
【0050】
このとき、炭素元素含有化合物としてメタンを用い、導入酸素原子数に対して炭素原子数が0.46%になるように導入し、プラズマ投入電力を1000Wとした。
得られたフィルムの無機化合物のAl原子濃度に対するO原子濃度の比率、C原子濃度、23℃、0%RHでの酸素透過率および水蒸気透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0051】
(実施例2)
炭素元素含有化合物にエタノールを用い、導入酸素原子数に対して炭素原子数が7.7%になるように導入し、プラズマ投入電力を400Wにした以外は、実施例1と同様にして無機化合物フィルムを作製した。
【0052】
得られたフィルムの無機化合物のAl原子濃度に対するO原子濃度の比率、C原子濃度、23℃、0%RHでの酸素透過率および水蒸気透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0053】
(実施例3)
炭素元素含有化合物にアセチレンを用い、導入酸素原子数に対して炭素原子数が5.1%になるように導入し、プラズマ投入電力を1200Wにした以外は、実施例1と同様にして無機化合物フィルムを作製した。
【0054】
得られたフィルムの無機化合物のAl原子濃度に対するO原子濃度の比率、C原子濃度、 23℃、0%RHでの酸素透過率および水蒸気透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
(実施例4)
炭素元素含有化合物にイソプロパノールを用い、導入酸素原子数に対して炭素原子数が9.7%になるように導入し、プラズマ投入電力を900Wにした以外は、実施例1と同様にして無機化合物フィルムを作製した。
【0056】
得られたフィルムの無機化合物のAl原子濃度に対するO原子濃度の比率、C原子濃度、 23℃、0%RHでの酸素透過率および水蒸気透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0057】
(比較例1)
導入ガスを酸素のみ行い、プラズマ投入を行わなかった以外は、実施例1と同様にして酸化アルミニウム蒸着フィルムを作製した。
【0058】
得られたフィルムの無機化合物のAl原子濃度に対するO原子濃度の比率、C原子濃度、 23℃、0%RHでの酸素透過率および水蒸気透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0059】
(比較例2)
Al供給量を倍増させ、炭素元素含有化合物にエタノールを用い、導入酸素原子数に対して 炭素原子数が0.08%になるように導入し、プラズマ投入電力を1200Wにした以外は、実施例1と同様にして無機化合物フィルムを作製した。
【0060】
得られたフィルムの無機化合物のAl原子濃度に対するO原子濃度の比率、C原子濃度、 23℃、0%RHでの酸素透過率および水蒸気透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
(比較例3)
酸素導入を倍増させ、炭素元素含有化合物にブタノールを用い、導入酸素原子数に対して 炭素原子数が11%になるように導入し、プラズマ投入電力を150Wにした以外は、実施例1と同様にして無機化合物フィルムを作製した。
【0062】
得られたフィルムの無機化合物のAl原子濃度に対するO原子濃度の比率、C原子濃度、 23℃、0%RHでの酸素透過率および水蒸気透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
(比較例4)
酸素導入を1/2にし、炭素元素含有化合物にエタンを用い、導入酸素原子数に対して 炭素原子数が12%になるように導入し、プラズマ投入電力を1500Wにした以外は、実施例1と同様にして無機化合物フィルムを作製した。
【0064】
得られたフィルムの無機化合物のAl原子濃度に対するO原子濃度の比率、C原子濃度、 23℃、0%RHでの酸素透過率および水蒸気透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0066】
ガスバリア性フィルムは、酸素ガス、水蒸気等に対する高ガスバリア性を有し、例えば、食品、医薬品および工業用品等の種々の物品を包装するために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明のガスバリア性フィルム製造方法を実施するための巻き取り式真空蒸着装置の一例の概略を模式的に示す概略図である。
【符号の説明】
【0068】
1:巻き取り式真空蒸着装置
2:巻き取り室
3:蒸着室
4:隔壁
5:ボート
6:巻き出しロール
7:巻き取りロール
8、9、10:巻き出し側のガイドロール
11、12、13:巻き取り側のガイドロール
14:巻き出し側酸素導入装置
15:巻き取り側酸素導入装置
16:高分子フィルム(基材フィルム)
17:クーリングドラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子フィルム上に無機化合物層を有するフィルムであって、X線光電子分光法により測定される該無機化合物層内のAl原子濃度に対するO原子濃度の比率が2〜3、SIMSにより測定される該無機化合物層内のC原子濃度が1×1021〜1×1022atoms/ccであるガスバリア性フィルム。
【請求項2】
前記高分子フィルムが、ポリエチレンテレフタレートフィルムである請求項1記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
高分子フィルムを巻き出したのち、次いで、金属を蒸気化して該フィルム表面上に無機物層を形成する際に、該無機物層を、該無機物層形成時に投入される酸素原子数に対する炭素原子数が0.1〜10%である炭素元素含有ガスプラズマ雰囲気中で形成するガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記金属が、アルミニウムである請求項3記載のガスバリア性フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−90681(P2007−90681A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283729(P2005−283729)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】