説明

ガス導入機構を備えた長尺基板の処理装置および処理方法、ならびに長尺基板の搬送方法

【課題】 摩擦係数が低減してキャンロールの回転駆動がフィルムに伝わりにくくなることを抑制できる長尺基板の処理装置を提供する。
【解決手段】 真空チャンバー71内でロールツーロールで搬送される長尺基板Fに対して外周面にガス導入孔15を備えたキャンロール76に部分的に巻き付けながら熱負荷の掛かる処理を施す長尺基板の処理装置70であって、キャンロール76の外周面上に画定される搬送経路の前後にそれぞれ長尺基板Fをキャンロール76との間に挟み込むフィードロール75、81が設けられており、これら両フィードロール75、81のうちの少なくとも一方にはその外周面に長尺基板Fが搬送されるに従って長尺基板Fをその幅方向に広げるパターンを有する螺旋状溝30が長尺基板Fの搬送経路の中心線に関して略線対称に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング等の熱負荷のかかる処理が施される長尺基板の冷却を効果的に行うべく、キャンロールの外周面とそこに巻き付けられる長尺基板との間に形成されるギャップ部にキャンロール側からガスを導入する機構を備えた長尺基板の処理装置および処理方法、ならびに長尺基板の搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、耐熱性樹脂フィルムの上に金属膜を被覆して得られる多種類のフレキシブル配線基板が用いられている。このフレキシブル配線基板の材料には、耐熱性樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属膜付耐熱性樹脂フィルムが用いられており、この金属膜付耐熱性樹脂フィルムにフォトリソグラフィーやエッチング等の薄膜技術を適用することにより所定の配線パターンを有するフレキシブル配線基板を得ることができる。フレキシブル配線基板の配線パターンは近年ますます微細化、高密度化しており、従って金属膜付耐熱性樹脂フィルムは平坦でシワのないことがより一層重要になってきている。
【0003】
この種の金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法としては、従来から金属箔を接着剤により耐熱性樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法(3層基板の製造方法)、金属箔に耐熱性樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法(キャスティング法)、あるいは耐熱性樹脂フィルムに真空成膜法により、もしくは真空成膜法と湿式めっき法との組み合わせにより金属膜を成膜して製造する方法(メタライジング法)等が知られている。また、メタライジング法における真空成膜法には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等がある。
【0004】
メタライジング法については、特許文献1に、ポリイミド絶縁層上にクロムをスパッタリングした後、銅をスパッタリングしてポリイミド絶縁層上に導体層を形成する方法が開示されている。また、特許文献2に、銅ニッケル合金をターゲットとするスパッタリングにより形成された第一の金属薄膜と、銅をターゲットとするスパッタリングにより形成された第二の金属薄膜とを、この順でポリイミドフィルム上に積層することによって得られるフレキシブル回路基板用材料が開示されている。なお、基板にポリイミドフィルムの様な耐熱性樹脂フィルムを用い、これに真空成膜を行う場合はスパッタリングウェブコータを用いることが一般的である。
【0005】
ところで、上述した真空成膜法において、一般にスパッタリング法は密着力に優れる反面、真空蒸着法に比べて耐熱性樹脂フィルムに与える熱負荷が大きいといわれている。そして、成膜の際に耐熱性樹脂フィルムに大きな熱負荷がかかると、フィルムにシワが発生し易くなることも知られている。このシワの発生を防ぐため、金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造装置であるスパッタリングウェブコータでは、冷却機能を備えた回転駆動されるキャンロールにロールツーロールで搬送される耐熱性樹脂フィルムを巻き付けることによってスパッタリング処理中の耐熱性樹脂フィルムをその裏面側から冷却する方式が採用されている。
【0006】
例えば特許文献3には、スパッタリングウェブコータの一例である巻出巻取式(ロールツーロール方式)真空スパッタリング装置が開示されている。この巻出巻取式真空スパッタリング装置には上記キャンロールの役割を担うクーリングロールが具備されており、さらにクーリングロールの少なくともフィルム送入れ側若しくは送出し側に設けたサブロールによってフィルムをクーリングロールに密着する制御が行われている。
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載されているように、キャンロールの外周面はミクロ的に見て平坦ではないため、キャンロールとその外周面に密着して搬送されるフィルムとの間には真空空間を介して離間するギャップ部(間隙)が存在している。このため、スパッタリングや蒸着の際に生じるフィルムの熱は、実際にはフィルムからキャンロールに効率よく伝熱されているとはいえず、これがフィルムのシワ発生の原因となっていた。この問題を解決するため、上記キャンロール外周面とフィルムとの間のギャップ部にキャンロール側からガスを導入して、当該ギャップ部の熱伝導率を真空に比べて高くする技術が提案されている。
【0008】
例えば特許文献4や特許文献6には、上記ギャップ部にキャンロール側からガスを導入する具体的な方法として、キャンロールの外周面にガスの導入口となる多数の微細な孔を設ける技術が開示されている。また、特許文献5には、キャンロールの外周面にガスの導入口となる溝を設ける技術が開示されている。さらに、キャンロール自体を多孔質体で構成し、その多孔質体自身の微細孔をガス導入口とする方法も知られている。
【0009】
また、キャンロールの外周面から出没するバルブをガス導入口に設け、このバルブをフィルム面で押さえつけたり(特許文献5)、キャンロールの外周面のうちフィルムを送り出してから送り入れるまでに該当するフィルムの巻き付けられない領域にカバーを取り付けることにより(特許文献6)、キャンロールの外周面においてフィルムが巻き付けられていない領域からチャンバーにガスが放出されるのを防止し、よってキャンロール外周面とフィルム表面とのギャップ部に良好にガスを導入する方法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平2−98994号公報
【特許文献2】特許第3447070号公報
【特許文献3】特開昭62−247073号公報
【特許文献4】国際公開第2005/001157号パンフレット
【特許文献5】米国特許第3414048号明細書
【特許文献6】国際公開第2002/070778号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】"Vacuum Heat Transfer Models for Web Substrates: Review of Theory and Experimental Heat Transfer Data," 2000 Society of Vacuum Coaters, 43rd. Annual Technical Conference Proceeding, Denver, April 15-20, 2000, p.335
【非特許文献2】"Improvement of Web Condition by the Deposition Drum Design," 2000 Society of Vacuum Coaters, 50th. Annual Technical Conference Proceeding (2007), p.749
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記のようないわゆるガス導入機構付キャンロールを使用した場合は、導入されたガスの圧力によりキャンロールの外周面とそこに巻き付けられているフィルムとの間にかえって大きなギャップを生ぜしめ、その結果、キャンロールの外周面とそこに巻き付けられるフィルムとの間の摩擦係数が低減してキャンロールの回転駆動を良好にフィルムに伝えることが困難になることがあった。
【0013】
本発明はこのような従来の問題点に着目してなされたものであり、その課題とするところは、ロールツーロールで搬送される長尺基板(フィルム)を、キャンロールの外周面に部分的に巻き付けて冷却しながら当該長尺基板にスパッタリング成膜などの熱負荷の掛かる処理を施す際、摩擦係数が低減してキャンロールの回転駆動がフィルムに伝わりにくくなる問題を生ずることなくキャンロールの外周面と長尺基板との間に形成されるギャップ部(隙間)に良好にガスを導入することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明者は、減圧下にある真空チャンバー内においてロールツーロールで長尺基板を搬送し、内部に冷媒が循環するキャンロールの外周面に部分的に長尺基板を巻き付けて冷却しながら当該長尺基板に熱負荷の掛かる処理を施す装置において、熱伝導率を向上させて熱負荷による長尺基板のシワ発生を確実に低減させるべくキャンロール外周面とそこに巻き付けられる長尺基板との間に形成されるギャップ部にキャンロール側からガスを導入するガス導入機構を備えたキャンロールについて鋭意研究を重ねた結果、キャンロールの外周面上に画定される長尺基板の搬送経路の前後にそれぞれ長尺基板をキャンロールとの間で挟み込むフィードロールを設け、これら両フィードロールのうちの少なくとも一方の外周面に所定のパターンを有する螺旋状溝を形成することによって効果的に長尺基板を搬送しながら冷却し得ることを見出し本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明が提供する長尺基板の処理装置は、真空チャンバー内でロールツーロールで搬送される長尺基板に対して外周面にガス導入孔を備えたキャンロールに部分的に巻き付けながら熱負荷の掛かる処理を施すものであって、前記キャンロールの外周面上に画定される搬送経路の前後にそれぞれ長尺基板をキャンロールとの間に挟み込むフィードロールが設けられており、これら両フィードロールのうちの少なくとも一方にはその外周面に長尺基板が搬送されるに従って長尺基板をその幅方向に広げるパターンを有する螺旋状溝が長尺基板の搬送経路の中心線に関して略線対称に形成されていることを特徴としている。
【0016】
また、本発明が提供する長尺基板の搬送方法は、真空チャンバー内で熱負荷の掛かる処理が施される長尺基板に対して、ガス導入孔を備えた外周面に部分的に巻き付けて冷却するキャンロールと、該キャンロールの外周面に画定される長尺基板の搬送経路の前後にそれぞれ設けられたフィードロールとによって行うものであって、これらフィードロールの少なくとも一方の外周面には、長尺基板が搬送されるに従って長尺基板をその幅方向に広げるパターンを有する螺旋状溝が搬送経路の中心線に関して略線対称となるように形成されており、これらフィードロールによって長尺基板をキャンロールとの間で挟み込みながらキャンロールの外周面に巻き付けられている長尺基板の両縁部に外側へ拡げる力を作用させながら搬送することを特徴としている。
【0017】
さらに、本発明が提供する長尺基板の処理方法は、真空チャンバー内でロールツーロールで搬送される長尺基板に対して、内部に冷媒が循環し外周面にガス導入孔を備えたキャンロールの当該外周面に部分的に長尺基板を巻き付けながら熱負荷の掛かる処理を行うものであって、前記キャンロールの外周面上に画定される長尺基板の搬送経路の前後にそれぞれ設けられたフィードロールによって長尺基板をキャンロールとの間で挟み込むとともに、これら両フィードロールのうちの少なくとも一方の外周面に長尺基板の搬送経路の中心線に関して略線対称となるように形成された、長尺基板が搬送されるに従って長尺基板をその幅方向に広げるパターンを有する螺旋状溝によって、キャンロールに巻き付けられている長尺基板の両縁部に外側へ拡げる力を作用させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、キャンロールの外周面と長尺基板との間に形成される隙間にキャンロール側からガスを導入して長尺基板とキャンロールと間の摩擦係数が低減するおそれが生じても、キャンロールの回転駆動力を長尺基板に確実に伝えることができ、同時にシワを伸ばし効果を得ることもできる。よって、キャンロールまわりの狭くかつ高温下にさらされるスペースに別途シワ伸ばしロールを設置する必要がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る長尺基板処理装置の一具体例を示す模式図である。
【図2】図1の処理装置が具備するガス導入機構付きキャンロールの一具体例を示す斜視図である。
【図3】本発明に係る長尺基板処理装置が具備するフィードロールの一具体例を示す平面図である。
【図4】比較例に使用したシワ伸ばしロール対の平面図である。
【図5】比較例に使用した長尺基板処理装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の長尺基板の処理装置の一具体例について図面を参照しながら詳細に説明する。先ず、図1を参照しながら、長尺基板の処理装置の一例である長尺基板の真空成膜装置について説明する。なお、長尺基板には、一例として長尺耐熱性樹脂フィルムを用いる場合について説明する。また、長尺基板に対して施される熱負荷の掛かる処理として、スパッタリング処理を例にとって説明する。この図1に示す長尺耐熱性樹脂フィルムの処理装置70はスパッタリングウェブコータと称される装置であり、ロールツーロール方式で搬送される長尺状耐熱樹脂フィルムの表面に連続的に効率よく成膜処理を施す場合に好適に用いられる。
【0021】
具体的に説明すると、ロールツーロール方式で搬送される長尺耐熱性樹脂フィルムの成膜装置(スパッタリングウェブコータ)70は、真空チャンバー71内に設けられており、巻き出しロール72から巻き出された長尺耐熱性樹脂フィルムFに対して所定の成膜処理を行った後、巻き取りロール84で巻き取るようになっている。これら巻き出しロール72から巻き取りロール84までの搬送経路の途中に、ガス導入機構を有し且つモータで回転駆動されるキャンロール76が配置されている。このキャンロール76の内部には、真空チャンバー71の外部で温調された冷媒が循環している。このキャンロール76の構造については後に詳細に説明する。
【0022】
真空チャンバー71内では、スパッタリング成膜のため、到達圧力10−4Pa程度までの減圧と、その後のスパッタリングガスの導入による0.1〜10Pa程度の圧力調整が行われる。スパッタリングガスにはアルゴンなど公知のガスが使用され、目的に応じてさらに酸素などのガスが添加される。真空チャンバー71の形状や材質は、このような減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく、種々のものを使用することができる。上記したように真空チャンバー71内を減圧してその状態を維持するため、真空チャンバー71には図示しないドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置が具備されている。
【0023】
巻き出しロール72からキャンロール76までの搬送経路には、長尺耐熱性樹脂フィルムFを案内するフリーロール73と、長尺耐熱性樹脂フィルムFの張力の測定を行う張力センサロール74とがこの順で配置されている。また、張力センサロール74から送り出されてキャンロール76に向かう長尺耐熱性樹脂フィルムFは、キャンロール76の近傍に設けられたモータ駆動のフィードロール75によって、キャンロール76の周速度に対する調整が行われ、これによりキャンロール76の外周面に長尺耐熱性樹脂フィルムFを密着させることができる。
【0024】
キャンロール76から巻き取りロール84までの搬送経路も、上記同様に、キャンロール76の周速度に対する調整を行うモータ駆動のフィードロール81、長尺耐熱性樹脂フィルムFの張力の測定を行う張力センサロール82、および長尺耐熱性樹脂フィルムFを案内するフリーロール83がこの順に配置されている。上記巻き出しロール72及び巻き取りロール84では、パウダークラッチ等によるトルク制御によって長尺耐熱性樹脂フィルムFの張力バランスが保たれている。
【0025】
キャンロール76の近傍には、キャンロール76の外周面上に画定される搬送経路に対向する位置に、成膜手段としてのマグネトロンスパッタリングカソード77、78、79および80が設けられている。金属膜のスパッタリング成膜の場合は、この図1に示すように板状のターゲットを使用することができるが、板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがある。これが問題になる場合は、ノジュールの発生がなく、ターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを使用することが好ましい。
【0026】
図1の長尺耐熱性樹脂フィルムFの成膜装置70は、熱負荷の掛かる処理としてスパッタリング処理を想定したものであるため、マグネトロンスパッタリングカソードが図示されているが、熱負荷の掛かる処理が蒸着処理などの他のものである場合は、板状ターゲットに代えて他の真空成膜手段が設けられる。
【0027】
ところで、ガス導入機構付キャンロール76は、後述するようにその外周面とそこに巻き付けられる長尺耐熱性樹脂フィルムFとの間のミクロなギャップ部にガスを導入するため、その圧力によりキャンロール76と長尺耐熱性樹脂フィルムFとの間により大きなギャップを生ぜしめることがある。その結果、摩擦係数が低減してキャンロール76の回転駆動がキャンロール76の外周面に沿って搬送される長尺耐熱性樹脂フィルムFに伝わりにくくなる。
【0028】
これに対して、本発明の成膜装置70では、フィードロール75と81の外周面がそれぞれ長尺基板をキャンロール76の外周面との間で挟み込むように配置されている。これにより、キャンロール76の回転とこれに連動して回転するモータ駆動のフィードロール75、81により、巻き出しロール72から巻き出された長尺耐熱性樹脂フィルムFを搬送経路に沿って搬送した後、良好に巻き取りロール84に巻き取らせることが可能となる。
【0029】
これらフィードロール75、81は両方が駆動ロールである必要はなく、少なくとも一方が長尺耐熱性樹脂フィルムFの搬送が可能な駆動ロールであれば、他方は駆動力のないフリーロールでも構わない。また、フィードロール75、81が、常時キャンロール76に密着していると、長尺耐熱性樹脂フィルムFのセッティング作業が困難になってしまうため、これらフィードロール75、81はシリンダー等を利用してキャンロール76に対して密着する位置と離間する位置との間で往復動自在となるように構成されていることが望ましい。
【0030】
キャンロール76は、図2に示すようにジャケットロール構造の円筒部材10で構成されており、その外面側には長尺耐熱性樹脂フィルムFの巻き付く搬送経路が、内面側には冷却水などの冷媒が流通するジャケット11が形成されている(説明のため、キャンロール76の側面に設けられている円板状部材が取り除かれている)。キャンロール76内部の回転軸76aの位置は二重配管構造になっており、その内側配管12の内側に流通する導入ガスが、ガス連絡配管12aを経て後述するガス導入路14に供給される。一方、外側配管13と内側配管12との間に流通する冷却水などの冷媒は冷媒連絡配管13aを経てジャケット11に供給される。
【0031】
このキャンロール76の円筒部材10には、周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って複数のガス導入路14が配設されている。これら複数のガス導入路14の各々は、キャンロール76の回転軸76a方向に沿って円筒部材10の肉厚部内に穿設されている。各ガス導入路14は、キャンロール76の回転軸76a方向に沿って略均等な間隔をおいて円筒部材10の外表面側に開口する複数のガス導入孔15を有している。これにより、キャンロール76の外周面とそこに巻き付けられる長尺耐熱性樹脂フィルムFとの間に形成されるギャップ部(間隙)にガスを導入することができる。
【0032】
なお、各ガス導入孔15の直径は、キャンロール76の外周面とそこに巻き付けられる長尺耐熱性樹脂フィルムFとの間に形成されるギャップ部(隙間)に良好にガスを導入できる大きさであれば特に限定されないが、一般的には直径30μm〜1000μm程度が好ましい。キャンロール76の外周面には、極小の内径を有するガス導入孔15を狭ピッチにして多数具備した方がキャンロール外周面の全面に亘って熱伝導性を均一化できるという点において好ましい。しかしながら、極小内径を有する孔を狭ピッチで多数設ける加工技術は困難を伴うので、現実的には内径150〜500μm程度の小穴を5〜10mmピッチでキャンロール外周面に具備するのがより好ましい。
【0033】
ガス導入路14は円筒部材10の端部において開口しており、ここに前述したガス連通配管12aがそれぞれ接続している。各ガス連通配管12aには電磁弁や圧空弁で作動するガス導入バルブ16が取り付けられており、キャンロール76の外周面に長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付けられている領域にガス導入路14が存在しているときは、ガス導入バルブ16を開いて内側配管12内のガスを供給する。
【0034】
一方、キャンロール76が回転してキャンロール76の外周面に長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付いていない領域にガス導入路14がきたときは、ガス導入バルブ16を閉じてガスの供給を遮断する。これにより、ガス導入孔15から真空チャンバー71に無駄にガスを放出させることなくキャンロール76の外周面と長尺耐熱性樹脂フィルムFとによって形成される隙間にガスを導入して当該隙間の熱伝導率を向上させることができる。なお、ガス導入バルブ16は隣接する複数のガス導入路14を連結する分岐管に設けてもよい。
【0035】
分岐管を使用する場合は、キャンロール76の外周面のうちの長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付けられない領域に同時に存在するガス導入路14の本数を各分岐管によって分岐する配管の本数に一致させることが好ましい。但し、ガスの導入をよりきめ細かく制御することが望まれる場合は、長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付けられていない領域に同時に存在するガス導入路14の本数を2もしくは3以上の整数で等分した数に各分岐管によって分岐される配管の本数を一致させることがより好ましい。
【0036】
前述したように、耐熱性樹脂フィルムFとキャンロール76の外周面は完全な平面ではないため、それらの間のギャップ部が真空により断熱されていることが熱伝導率を大幅に低下させており、これがスパッタ熱による耐熱性樹脂フィルムFのシワ発生の原因となっている。非特許文献2によれば、導入ガスがアルゴンガスの場合、導入ガス圧力が500Paでギャップ間距離が約40μm以下の時、ギャップ間の熱伝導率は250(W/m・K)となる。
【0037】
キャンロール76の外周面上に画定される長尺耐熱性樹脂フィルムFの搬送経路の前後にそれぞれ設けられ、キャンロール76に接触して回転するフィードロール75、81には、その外周面に長尺基板が搬送されるに従って長尺基板をその幅方向に広げるパターンを有する螺旋状の溝が形成されている。また、この螺旋状の溝は、長尺耐熱性樹脂フィルムFの搬送経路の中心線に対して線対称に形成されている。これにより、長尺耐熱性樹脂フィルムFの特に両端部には、搬送されるに従って徐々に幅方向に拡がるような力が作用する。
【0038】
この溝は、図3に示すような1条巻や2条巻で形成されてもよいし、それより多い条が巻かれていても構わない。なお、長尺基板が搬送されるに従って長尺基板をその幅方向に広げるパターンとは、長尺耐熱性樹脂フィルムFの搬送時のフィードロールの回転の際、その螺旋条を平面視したときフィードロールの中心から回転軸方向の外側に向かって移動しているように見えるパターンのことをいう。図3には、フィードロール75の外周面に、長尺耐熱性樹脂フィルムFが搬送されるに従って長尺耐熱性樹脂フィルムFをその幅方向に広げるパターンを有する螺旋状溝30が形成されている例が示されている。
【0039】
フィードロール75、81の外周面は金属製のキャンロール76に接するため、当該外周面は金属製ではなく樹脂製あるはゴム製であることが好ましい。さらにこれらフィードロール75、81は、マグネトロンスパッタリングカソードの近くに配置されるため、耐熱性が高くて耐熱性樹脂フィルムFとのグリップ性がよいフッ素ゴム製(商品名:バイトン)がより好ましい。なお、グリップ性の観点から、これらフィードロール75、81の摩擦係数は大気中で0.5〜1.5であることが望ましい。
【0040】
螺旋状溝付フィードロール75、81は、金属製のキャンロール76の外周面上で強制的に長尺耐熱性樹脂フィルムFをその幅方向に引き伸ばすことになるため、過度の力で長尺耐熱性樹脂フィルムFを引っ張ると、耐熱製樹脂フィルムFにおいてキャンロール76と接する面にすり傷を発生させてしまうおそれがある。このような問題を避けるため、螺旋条の溝は適切な深さと幅を有していることが好ましい。
【0041】
具体的には、螺旋状溝の深さにおいては、耐熱性樹脂フィルムFの厚さの1/2から10倍であり、かつ25〜1000μmで有ることが望ましい。この深さが耐熱性樹脂フィルムFの厚さの1/2未満か、または25μm未満であると、シワ伸ばし効果がほとんど得られない。また、この深さが耐熱性樹脂フィルムFの厚さの10倍越えるか、または1000μmを越えると、シワ伸ばし効果は得られるものの、耐熱製樹脂フィルムFにおいてキャンロール76に接する面にすり傷が発生するおそれがある。
【0042】
一方、螺旋状溝の幅は、耐熱性樹脂フィルムFの厚さの1から20倍であり、かつ50〜2000μmで有ることが望ましい。この幅が耐熱性樹脂フィルムFの厚さの1倍未満か、または50μm未満であると、シワ伸ばし効果がほとんど得られない。また、この幅が耐熱性樹脂フィルムFの厚さの20倍越えるか、または2000μmを越える、とシワ伸ばし効果は得られるものの、耐熱製樹脂フィルムFにおいてキャンロール76に接する面にすり傷が発生するおそれがある。
【0043】
以上、長尺基板として耐熱性樹脂フィルムを例にとって本発明の一具体例の長尺基板処理装置の説明を行ったが、本発明の長尺基板処理装置で使用する長尺基板には、他の樹脂フィルムはもちろんのこと、金属箔や金属ストリップなどの金属フィルムを用いることができる。樹脂フィルムの例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのような比較的耐熱性に劣る樹脂フィルムやポリイミドフィルムのような耐熱性樹脂フィルムを挙げることができる。
【0044】
金属膜付耐熱性樹脂フィルムを作製する場合は、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルムまたは液晶ポリマー系フィルムから選ばれる耐熱性樹脂フィルムが好適に用いられる。なぜなら、これらを用いて得られる金属膜付耐熱性樹脂フィルムは、金属膜付フレキシブル基板に要求される柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性に優れているからである。
【0045】
金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造は、上述したような長尺基板真空成膜装置に長尺基板として上記の耐熱性樹脂フィルムを用い、その表面に金属膜をスパッタリング成膜すれば得られる。例えば、上述したような成膜装置(スパッタリングウェブコータ)70を用いて耐熱性樹脂フィルムをメタライジング法で処理することにより耐熱性樹脂フィルムの表面にNi系合金等から成る膜とCu膜とが積層された構造体を有する金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムを得ることができる。
【0046】
このような構造体を有する金属膜付耐熱性樹脂フィルムは成膜処理後は別工程に送られ、そこでサブトラクティブ法により所定の配線パターンを有するフレキシブル配線基板に加工される。ここで、サブトラクティブ法とは、レジストで覆われていない金属膜(例えば、上記Cu膜)をエッチングにより除去してフレキシブル配線基板を製造する方法のことである。
【0047】
上記したNi系合金等から成る膜はシード層と呼ばれ、金属膜付耐熱性樹脂フィルムに必要とされる電気絶縁性や耐マイグレーション性等の特性により適宜その組成が選択されるが、一般的にはNi−Cr合金、インコネル、コンスタンタン、モネル等の公知の合金で形成される。なお、金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムの金属膜(Cu膜)をより厚くしたい場合は、湿式めっき法を用いることがある。この場合は、電気めっき処理のみで金属膜を形成する方法か、あるいは一次めっきとしての無電解めっき処理と、二次めっきとしての電解めっき処理等の湿式めっき処理とを組み合わせて行う方法で処理される。この湿式めっき処理には、一般的な湿式めっき条件を採用することができる。
【0048】
上記本発明の具体例では、金属膜付耐熱性樹脂フィルムとして長尺耐熱性樹脂フィルムにNi-Cr合金やCu等の金属膜を積層した構造体を例にとって説明したが、上記金属膜のほか、目的に応じて酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜等の成膜に本発明の成膜方法を用いることもできる。
【0049】
また、上記本発明の具体例では長尺基板真空成膜装置に関して説明してきたが、本発明の長尺基板処理装置には、減圧雰囲気下の真空チャンバー内で長尺基板にスパッタリング等の真空成膜を施す処理以外に、プラズマ処理やイオンビーム処理等の熱負荷の掛かる処理が行われることがある。これらプラズマ処理やイオンビーム処理により長尺基板の表面が改質され、その際、長尺基板に熱負荷が掛かる。このような場合においても、本発明の長尺基板の成膜装置を用いることが効果的であり、これにより処理雰囲気に多量の導入ガスをリークさせることなく熱負荷による長尺基板のシワ発生を抑制することができる。
【0050】
ここでプラズマ処理とは、公知のプラズマ処理方法、例えばアルゴンと酸素の混合ガスまたはアルゴンと窒素の混合ガスによる減圧雰囲気下において放電を行うことにより、酸素プラズマまたは窒素プラズマを発生させて長尺基板を処理する方法のことである。また、イオンビーム処理とは、強い磁場を印加した磁場ギャップでプラズマ放電を発生させて、プラズマ中の陽イオンを陽極による電解でイオンビームとして目的物(長尺基板)へ照射する処理である。このイオンビーム処理には、公知のイオンビーム源を用いることができる。なお、これらプラズマ処理やイオンビーム処理は、ともに減圧雰囲気下で行われる。
【実施例】
【0051】
[実施例]
図1に示す成膜装置(スパッタリングウェブコータ)70を用いて金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムを作製した。長尺の耐熱性樹脂フィルム(以下、フィルムFと称する)には、幅500mm、長さ800m、厚さ25μmの宇部興産株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「ユーピレックス(登録商標)」を使用した。
【0052】
キャンロール76には、図2に示すようなジャケットロール構造のガス導入機構付きキャンロールを使用した。このキャンロール76の円筒部材10には、直径900mm、幅750mm、厚み15mmのアルミ製のものを使用し、その外周面にハードクロムめっきを施した。この厚み15mmの肉厚部内に、キャンロール76の回転軸方向に平行に延在する内径4mmのガス導入路14を周方向に均等な間隔をあけて全周に亘って360本穿設した。なお、ガス導入路14の両端のうち先端側は有底にして円筒部材10を貫通しないようにした。
【0053】
各ガス導入路14には、円筒部材10の外表面側(すなわちキャンロール76の外周面側)に開口する内径0.2mmのガス導入孔15を47個設けた。これら47個のガス導入孔15は、円筒部材10の外表面に画定されるフィルムFの搬送経路の両端部からそれぞれ20mm内側の線の間の領域に、フィルムFの進行方向に対して直交する方向において10mmのピッチで配設した。つまり、キャンロール76の外周面のうち両端部からそれぞれ145mmまでの領域にはガス導入孔15を設けなかった。
【0054】
キャンロール76の外周面のうちフィルムFが巻き付けられない領域がキャンロール76の回転中心に対して占める角度、すなわち、キャンロール76の回転軸76aを中心としてフィードロール81に向けて送り出されるフィルムFがキャンロール76から離れる位置からフィードロール75から送り出されるフィルムFがキャンロール76に接する位置までの角度は約30°であった。
【0055】
従って、この領域には30本のガス導入路14が同時に存在することになる。これら30本のガス導入路14からのガスの導入をきめ細かく制御するため、30本を3分割した10本に分岐する分岐管を使用し、各分岐管に対してガス導入バルブ16を1つ取り付けた。すなわち、ガス導入バルブ16は全部で36個になる。
【0056】
フィードロール75、81は、それぞれ直径150mm、幅750mmのアルミ製の芯にフッ素ゴムのバイトンを施したものを使用した。フィードロール75、81の外周面には、フィルムFが搬送されるに従ってフィルムFをその幅方向に広げるパターンを有する螺旋状の溝30を設けた。溝30の深さは50μm、溝30の幅は200μmとし、ピッチ5mmで10条の溝30を形成した。
【0057】
フィルムFに成膜する金属膜としては、シード層であるNi−Cr膜の上にCu膜を成膜するものとし、そのため、マグネトロンスパッタターゲット77にはNi−Crターゲットを用い、マグネトロンスパッタターゲット78、79、80にはCuターゲットを用いた。
【0058】
巻き出しロール72と巻き取りロール84の張力は80Nとした。キャンロール76の外周面上に画定される搬送経路の上流側に位置するモータ駆動のフィードロール75の周速度および下流側に位置するモータ駆動のフィードロール81の周速度は、キャンロール76の周速度と同じになるようにサーボモータを制御した。
【0059】
この実施例の成膜装置70では、キャンロール76からのガス導入を行わない状態ではフィルムFを搬送する駆動力のほとんどがキャンロール76から伝えられていたので、キャンロール76にガス導入を行うことによる耐熱樹脂フィルムFとキャンロール76との間の摩擦係数が低下した状態でのフィルム搬送には、これら2本のフィードロール75、81を駆動する必要があった。もちろん、フィードロール75、81を駆動させる必要性は、成膜装置の各ロールの配置場所やその他のロールのフィルム駆動力に依存する。
【0060】
この成膜装置70の巻き出しロール72側に、巻回されたフィルムFをセットし、その一端をキャンロール76を経由させて巻き取りロール84に取り付けた。この状態で、真空チャンバー71内の空気を複数台のドライポンプを用いて5Paまで排気した後、更に、複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10−3Paまで排気した。キャンロール76のジャケット11内には冷却水を循環させて20℃に温度制御したが、フィルムFとキャンロール76との熱伝導効率が良好でないと冷却効果は期待できなかった。
【0061】
次に回転駆動装置を起動してフィルムFを搬送速度3m/分で搬送させながら、アルゴンガスを300sccmで導入するとともにマグネトロンスパッタカソード77、78、79、80に10kWの電力を印加して電力制御した。更にキャンロール76の内側配管12に500sccmでアルゴンガスを導入した。このようにしてロールツーロールで搬送されるフィルムFに対してその片面にNi−Cr膜からなるシード層及びその上に成膜されるCu膜を連続して成膜する処理を開始した。
【0062】
この処理を行っている際、成膜中におけるキャンロール76上のフィルムF表面の観察が可能な観察窓から、ガス導入が行われているキャンロール76上のフィルムFの表面を観察したところ、マグネトロンスパッタリングカソード77、78、79、80の成膜ゾーンを通過した成膜直後のフィルムFに表れやすい、シワの原因となる進行方向と平行な方向のキャンロール76外周面からのフィルムFの浮きが見られることは無かった。
【0063】
次に、上記成膜処理を開始してからのフィルムFの処理長さが300mになった時点で、各カソードへの印加電力を20kWに、フィルムFの搬送速度を6m/分に変更した。この状態で更にフィルムFを長さ300m処理した。この処理を行っている際も、上記と同様にキャンロール76上のフィルムFの表面の観察が可能な観察窓からキャンロール76上のフィルムFを観察したところ、マグネトロンスパッタリングカソード77、78、79、80の成膜ゾーンを通過した成膜直後のフィルムFに表れやすい、シワの原因となる進行方向と平行な方向のキャンロール76外周面からのフィルムFの浮きが見られることは無かった。
【0064】
成膜処理を開始してからのフィルムFの処理長さが合計600mになった時点で、各マグネトロンスパッタカソードへの電力供給を停止し、それぞれのガス導入も停止した。最後に、フィルムFの搬送を停止するとともに各ポンプの運転を停止してから大気ベントを開放し、巻き出しロール72からフィルムFの終端部を外して全てのフィルムFを巻き取りロール84に巻き取ってから取り外した。
【0065】
この取り外されたフィルムFを大気中にて展開してシワの有無を確認したところ、最初に処理を行った0〜300mのフィルムFおよびスパッタ電力を2倍にするとともに搬送速度を2倍にして処理した300〜600mのフィルムFのいずれにもシワが見つからなかった。
【0066】
この結果から、キャンロール76の外周面上に画定されるフィルムFの搬送経路の上流側に位置するモータ駆動のフィードロール75は、フィルムFの幅をあらかじめ広げてキャンロール76へ導く効果があり、フィルムFの搬送経路の下流側に位置するモータ駆動のフィードロール81は、スパッタリングにより熱負荷を受けたフィルムFを巻き取り前に広げる効果があると推定できる。
【0067】
[比較例1]
比較のため、螺旋状溝付フィードロールに代えて溝加工が施されていないフィードロールを用いた以外は上記した実施例と同様にして成膜処理を行った。
【0068】
その結果、各カソードへの印加電力10kW、フィルムFの搬送速度3m/分の条件で成膜処理している際にキャンロール76上のフィルムFの表面の観察が可能な観察窓からキャンロール76へのガス導入が行われているフィルムFを観察しところ、マグネトロンスパッタリングカソード77、78、79、80の成膜ゾーンを通過した成膜直後のフィルムFに現れやすい、シワの原因となる進行方向と平行な方向のキャンロール76外周面からのフィルムFの浮き上がり(シワ)が見られることは無かった。
【0069】
しかし、スパッタ電力を2倍にして、搬送速度も2倍にした条件で300から600mまで処理している際に同様にキャンロール76上のフィルムFを観察したところ、マグネトロンスパッタリングカソード77、78、79、80の成膜ゾーンを通過した成膜直後のフィルムFに、シワの原因となる進行方向と平行な方向のキャンロール76上からのフィルムFの浮き上がり(シワ)が見られることがあった。
【0070】
成膜が完了した後、取り外したフィルムFを大気中にて展開してシワの有無を確認したところ、0〜300mまでの間にシワは見つからなかったが、スパッタ電力を2倍にして、搬送速度も2倍にした300〜600mでは若干のシワが発生していた。
【0071】
[比較例2]
比較例のため、螺旋状溝付フィードロールに代えて溝加工を施す前のフィードロールを用い、さらに図4に示すシワ伸ばしロール対21を図5に示すようにマグネトロンスパッタリングカソードの前後に合計5対配置した以外は上記実施例と同様にして成膜を行った。
【0072】
これらシワ伸ばしロール対21の各々は、直径20mm幅30mmのフッ素ゴムのバイトン製から成り、両シワ伸ばしロールの回転軸は、それぞれキャンロールの回転軸に対して10度傾いた状態で、耐熱性樹脂フィルムの両端から10mmまでの領域に接触させた。
【0073】
その結果、各カソードへの印加電力10kW、フィルムFの搬送速度3m/分の条件で成膜処理している際にキャンロール36上のフィルムFの表面の観察が可能な観察窓からキャンロール36へのガス導入を行っているフィルムFを観察しところ、マグネトロンスパッタリングカソード37、38、39、40の成膜ゾーンを通過した成膜直後のフィルムFに現れやすい、シワの原因となる進行方向と平行な方向のキャンロール36外周面からのフィルムFの浮き(シワ)が見られることは無かった。
【0074】
また、スパッタ電力を2倍にして、搬送速度も2倍にした条件で300から600mまで処理している際に同様にキャンロール36上のフィルムFを観察した場合においても、マグネトロンスパッタリングカソード37、38、39、40の成膜ゾーンを通過した成膜直後のフィルムFに現れやすい、シワの原因となる進行方向と平行な方向のキャンロール36外周面からのフィルムFの浮き(シワ)が見られることは無かった。
【0075】
成膜が完了した後、取り外したフィルムFを大気中にて展開してシワの有無を確認したところ、最初に処理した0〜300mのフィルムF、及びスパッタ電力を2倍にして、搬送速度も2倍にして処理した300〜600mのフィルムFのいずれにおいてもシワは見つからなかった。しかし、マグネトロンスパッタカソードの近くに配置したシワ伸ばしロール対21の表面は変質していまい、ベアリングの動作も滑らかさを失っており、連続使用には耐えることができなかったと推定できる。
【符号の説明】
【0076】
10 円筒部材
11 ジャケット
12 内側配管
13 外側配管
14 ガス導入路
15 ガス導入孔
16 ガス導入バルブ
20 螺旋状の溝
21 シワ伸ばしロール対
30、70 成膜装置(スパッタリングウェブコータ)
31、71 真空チャンバー
32、72 巻き出しロール
33、43、73、83 フリーロール
34、42、74、82 張力センサロール
35、41、75、81 フィードロール
36、76 キャンロール
37、38、39、40 マグネトロンスパッタリングカソード
77、78、79、80 マグネトロンスパッタリングカソード
44、84 巻き取りロール
F 長尺耐熱性樹脂フィルム(長尺基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバー内でロールツーロールで搬送される長尺基板に対して外周面にガス導入孔を備えたキャンロールに部分的に巻き付けながら熱負荷の掛かる処理を施す長尺基板の処理装置であって、
前記キャンロールの外周面上に画定される搬送経路の前後にそれぞれ長尺基板をキャンロールとの間に挟み込むフィードロールが設けられており、これら両フィードロールのうちの少なくとも一方にはその外周面に長尺基板が搬送されるに従って長尺基板をその幅方向に広げるパターンを有する螺旋状溝が長尺基板の搬送経路の中心線に関して略線対称に形成されていることを特徴とする特徴とする長尺基板処理装置。
【請求項2】
前記両フィードロールの外周面が樹脂またはゴムで形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の長尺基板処理装置。
【請求項3】
前記両フィードロールの外周面がフッ素ゴムであることを特徴とする、請求項2に記載の長尺基板処理装置。
【請求項4】
前記螺旋状溝の深さが、長尺基板の厚さの1/2から10倍であり、かつ25〜1000μmで有ることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の長尺基板処理装置。
【請求項5】
前記螺旋状溝の幅が、長尺基板の厚さの1から20倍であり、かつ50〜2000μmで有ることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の長尺基板処理装置。
【請求項6】
前記両フィードロールのうちの少なくとも一方が駆動ロールであることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の長尺基板処理装置。
【請求項7】
前記熱負荷の掛かる処理が、プラズマ処理またはイオンビーム処理であることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の長尺基板処理装置。
【請求項8】
前記プラズマ処理またはイオンビーム処理を行う機構が、前記キャンロールの外表面に対向した位置に配されていることを特徴とする、請求項7に記載の長尺基板処理装置。
【請求項9】
請求項1から6のいずれかに記載の長尺基板処理装置のうち、前記熱負荷の掛かる処理が真空成膜処理であることを特徴とする長尺基板真空成膜装置。
【請求項10】
前記真空成膜処理が、前記キャンロールの外周面に対向する位置に配された真空成膜機構であることを特徴とする、請求項9に記載の長尺基板真空成膜装置。
【請求項11】
前記真空成膜機構が、スパッタリングカソードであることを特徴とする、請求項10に記載の長尺基板真空成膜装置。
【請求項12】
真空チャンバー内で熱負荷の掛かる処理が施される長尺基板に対して、ガス導入孔を備えた外周面に部分的に巻き付けて冷却するキャンロールと、該キャンロールの外周面に画定される長尺基板の搬送経路の前後にそれぞれ設けられたフィードロールとによって行う長尺基板の搬送方法であって、
これらフィードロールの少なくとも一方の外周面には、長尺基板が搬送されるに従って長尺基板をその幅方向に広げるパターンを有する螺旋状溝が搬送経路の中心線に関して略線対称となるように形成されており、これらフィードロールによって長尺基板をキャンロールとの間で挟み込みながらキャンロールの外周面に巻き付けられている長尺基板の両縁部に外側へ拡げる力を作用させながら搬送することを特徴とする長尺基板の搬送方法。
【請求項13】
真空チャンバー内でロールツーロールで搬送される長尺基板に対して、内部に冷媒が循環し外周面にガス導入孔を備えたキャンロールの当該外周面に部分的に長尺基板を巻き付けながら熱負荷の掛かる処理を行う長尺基板の処理方法であって、
前記キャンロールの外周面上に画定される長尺基板の搬送経路の前後にそれぞれ設けられたフィードロールによって長尺基板をキャンロールとの間で挟み込むとともに、これら両フィードロールのうちの少なくとも一方の外周面に長尺基板の搬送経路の中心線に関して略線対称となるように形成された、長尺基板が搬送されるに従って長尺基板をその幅方向に広げるパターンを有する螺旋状溝によって、キャンロールに巻き付けられている長尺基板の両縁部に外側へ拡げる力を作用させることを特徴とする長尺基板の処理方法。
【請求項14】
前記熱負荷の掛かる処理が、プラズマ処理またはイオンビーム処理であり、プラズマ処理またはイオンビーム処理が前記キャンロールの外周面上に画定される搬送経路に対向した向きで行われることを特徴とする、請求項13に記載の長尺基板処理方法。
【請求項15】
請求項13に記載の長尺基板処理方法のうち前記熱負荷の掛かる処理が真空成膜処理であり、前記真空成膜処理が前記キャンロールの外周面上に画定される搬送経路に対向した向きで行われることを特徴とする長尺基板の成膜方法。
【請求項16】
前記真空成膜処理がスパッタリング処理であることを特徴とする、請求項15に記載の長尺基板の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−117130(P2012−117130A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269770(P2010−269770)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】