説明

ガス遮断性薄膜、これを備えた電子素子及びその製造方法

【課題】柔軟で水分遮断性が高く、低温で硬化できて製造が容易であり、透明なガス遮断性薄膜を提供する。
【解決手段】基板と、前記基板の一方の表面上に形成された固定層と、前記固定層の、前記基板とは反対側の表面に形成された無機酸化物層と、を備え、前記固定層が、化学式−(SiO)−で表される繰り返し単位と、化学式−(SiR−NR−で表される繰り返し単位と、化学式−[−Si(R)(R)−O−]p−及び化学式−[−OSi(R)−O−Si(R)O−]q−(n+m+r=1、0<n<1、0<m<1、0<r<1、r=p、q、またはp+q)からなる群から選択される一つ以上の繰り返し単位とを含むシリコン含有有機無機複合共重合体を含み、前記シリコン含有有機無機複合共重合体重合度は、2ないし1,000,000である、ガス遮断性薄膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス遮断性薄膜、これを備えた電子素子及びその製造方法に係り、さらに詳細には、新たなシリコン含有有機無機複合共重合体を含むガス遮断性薄膜、これを備えた電子素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
OLED(Organic Light Emitting Device)、LCD(Liquid Crystal Display device)などの電子ディスプレイ素子に含まれる有機物質は、大気中の酸素または水蒸気に非常に脆弱である。したがって、酸素または水蒸気に曝露されると、出力減少または性能低下が発生しうる。
【0003】
金属及びガラスを使用して前記素子を保護することによって、素子の寿命を延ばすための方法が開発されたが、金属は、一般的に不透明であり、ガラスは一般に柔軟性に乏しい。
【0004】
そのため、ポリシラザンのような高分子からシリカ(SiO)を含む薄膜を誘導して前記素子を保護することによって、素子の寿命を延ばす方法が開発された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリシラザンから得られた薄膜は、柔軟性が低く親水性であり、硬化に400℃以上の高温が要求される。
【0006】
したがって、薄くて軽く、曲げることができ、フレキシブルOLEDをはじめとしたその他の電子装置の封止に用いられうるガス遮断性薄膜または封止薄膜の開発が要求されている。すなわち、柔軟で水分遮断性が高く、低温で硬化できて製造が容易であり、透明なガス遮断性薄膜または封止薄膜の開発が要求されている。
【0007】
そこで本発明は、柔軟で水分遮断性が高く、低温で硬化できて製造が容易であり、透明なガス遮断性薄膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、基板と、前記基板の一方の表面上に形成された固定層と、前記固定層の、前記基板とは反対側の表面上に形成された無機酸化物層と、を備え、前記固定層が、下記化学式1で表される繰り返し単位と、下記化学式2で表される繰り返し単位と、下記化学式3及び4からなる群から選択される一つ以上の繰り返し単位とを含むシリコン含有有機無機複合共重合体を含み、前記シリコン含有有機無機複合共重合体の重合度は、2ないし1,000,000である、ガス遮断性薄膜が提供される。
【0009】
【化1】

【0010】
式中、R、R、及びRは、互いに独立して水素原子、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルケニル基、C〜Cのアルキニル基、C〜Cのアルコキシ基またはC〜C15アリール基であり、R、R、及びRのうち少なくとも1つは水素原子であり、R、R、R、及びRは、互いに独立して水素原子、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基、C〜C10のシクロアルキル基またはC〜C15アリール基であり、R、及びRが同時に水素ではなく、R、及びRが同時に水素ではなく、n+m+r=1であり、0<n<1、0<m<1、0<r<1であり、n、m、rは、前記繰り返し単位のモル比であり、rは、p、q、またはp+qである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、柔軟で水分遮断性が高く、低温で硬化できて製造が容易であり、透明なガス遮断性薄膜が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態によるガス遮断性薄膜の断面概略図である。
【図2】本発明の一実施形態によるガス遮断性薄膜の断面概略図である。
【図3】本発明の一実施形態によるガス遮断性薄膜の断面概略図である。
【図4】実施例5及び比較例4で製造されたガス遮断性薄膜の透過率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のガス遮断性薄膜、これを備える電子素子及びガス遮断性薄膜の製造方法についてさらに詳細に説明する。
【0014】
本発明の一実施形態によるガス遮断性薄膜は、基板と、前記基板の一方の表面上に形成された固定層と、前記固定層の、前記基板とは反対側の表面上に形成された無機酸化物層と、を備える。前記固定層は、下記化学式1で表される繰り返し単位と、下記化学式2で表される繰り返し単位と、下記化学式3及び4からなる群から選択される一つ以上の繰り返し単位とを含むシリコン含有有機無機複合共重合体を含み、前記シリコン含有有機無機複合共重合体の重合度は、2ないし1,000,000である。好ましくは、前記シリコン含有有機無機複合共重合体の重合度は、1,000ないし1,000,000であり、より好ましくは、1,000ないし200,000である。
【0015】
【化2】

【0016】
式中、R、R、及びRは、互いに独立して水素原子、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルケニル基、C〜Cのアルキニル基、C〜Cのアルコキシ基またはC〜C15アリール基であり、R、R、及びRのうち少なくとも1つは水素原子であり、R、R、R、及びRは、互いに独立して水素原子、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基、C〜C10のシクロアルキル基またはC〜C15アリール基であり、R、及びRが同時に水素ではなく、R、及びRが同時に水素ではなく、n+m+r=1であり、0<n<1、0<m<1、0<r<1であり、n、m、rは、前記繰り返し単位のモル比であり、rは、p、q、またはp+qである。
【0017】
ここで、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基などが挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基などが挙げられる。アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基などが挙げられる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペントキシ基などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。
【0018】
前記固定層に含まれるシリコン含有有機無機複合共重合体は、向上した柔軟性を有しうる。これは、前記化学式3または4の繰り返し単位に含まれるアルキル基、アルコキシ基に起因するものであると考えられる。また、前記化学式3及び/または4の繰り返し単位が前記化学式1及び/または2の繰り返し単位とランダムに架橋される過程で、前記固定層の表面に露出されたヒドロキシ基が除去されることによって、固定層の表面親水性が低下し、水分遮断性が向上しうる。
【0019】
また、前記固定層は、基板と無機酸化物層との応力を緩衝させる役割を行って無機酸化物層内のクラック発生を抑制し、基板と無機酸化物層との接着力を向上させて、水分及び酸素の侵入抑制能力を向上させうると考えられる。前記固定層は、無機酸化物層の成膜を均一にして、所定厚さ以上に緻密に積層させる役割を果たすと考えられる。前記無機酸化物層は、外部から浸透する酸素、水分及び流体成分を遮断する役割を果たすと考えられる。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態によるガス遮断性薄膜の断面概略図である。図1を参照すれば、ガス遮断性薄膜は、基板10と、前記基板上に形成された、シリコン含有有機無機複合共重合体を含む固定層20と、前記固定層20の、前記基板10と反対側の表面上に形成された、無機酸化物層30と、を備える。
【0021】
前記ガス遮断性薄膜は、好ましくは、可視光領域で70%以上の優れた透過率を有する。より好ましくは、400nm以上の波長範囲で70ないし90%の透過率を有し、500nm以上の波長範囲で80ないし90%の透過率を有する。前記透過率は、用途に適するように適宜調節されうる。
【0022】
前記シリコン含有有機無機複合共重合体は、例えば、ポリシラザンとポリシロキサン系高分子との混合液を基板上にコーティングし、次いで、熱硬化過程、例えば、縮合過程によって、この混合物中のポリシラザンとポリシロキサン系高分子とを架橋させることによって得られうる。前記ポリシラザンとポリシロキサン系高分子との混合液において、ポリシラザンのSi−H結合がポリシロキサン系高分子の末端OH基と縮合反応して水が副産物として生成され、前記水が再びポリシラザンの加水分解及びポリシロキサンの末端基の縮合反応の触媒の役割を担って反応が急速に進み、前記シリコン含有有機無機複合共重合体が得られる。なお、上記化学式1で表される繰り返し単位は、前記ポリシラザンから誘導されうる。例えばIR、NMR、ラマン分光法などを用いて前記シリコン含有有機無機複合共重合体中に上記化学式1で表される繰り返し単位が含まれることを確認することができる。
【0023】
前記熱硬化過程は、前記混合物の熱硬化に適した範囲で行われうる。例えば、前記熱硬化時の温度は、150℃以下であり、好ましくは、60ないし120℃である。
【0024】
前記ポリシラザンは、例えば、下記化学式5で表される繰り返し単位を含む構造を有しうる。
【0025】
【化3】

【0026】
式中、R、R、及びRは、互いに独立して水素原子、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルケニル基、C〜Cのアルキニル基、C〜Cのアルコキシ基またはC〜C15アリール基であり、R、R、及びRのうち少なくとも1つは水素原子であり、aは、2ないし1,000,000の整数である。例えば、aは、100ないし1,000,000の整数でありうる。
【0027】
前記ポリシラザンは、好ましくは、下記化学式8ないし10で表される繰り返し単位を含む構造を有しうる。
【0028】
【化4】

【0029】
式中、dは、2ないし1,000,000の整数である。例えば、dは、500ないし1,000,000の整数でありうる。e及びfは、互いに独立して2ないし500,000の整数である。例えば、e及びfは、互いに独立して250ないし500,000の整数でありうる。
【0030】
また、前記ポリシロキサン系高分子は、好ましくは、下記化学式6及び7で表される群から選択される一つ以上の繰り返し単位を含み、前記ポリシロキサン系高分子の末端基に5モル%以上のヒドロキシ基を含みうる。ここで、ヒドロキシ基の含量は、繰り返し単位に含まれない末端基の総数を基準にした値である。
【0031】
【化5】

【0032】
式中、R、R、R、及びRは、互いに独立して水素原子、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基、C〜C10のシクロアルキル基またはC〜C15アリール基であり、R、及びRが同時に水素ではなく、R、及びRが同時に水素ではなく、b及びcは、互いに独立して2ないし200,000の整数である。例えば、b及びcは、互いに独立して1000ないし200,000の整数であり、好ましくは、互いに独立して2000ないし200,000の整数である。
【0033】
一実施形態によれば、前記ガス遮断性薄膜は、図1で前記固定層20及び無機酸化物層30が形成された基板の、前記固定層とは反対側の表面上に、固定層及び無機酸化物層をこの順でさらに備えうる。前記固定層及び無機酸化物層をさらに交互に複数層積層させてもよい。また、他の実施形態によれば、前記ガス遮断性薄膜は、前記無機酸化物層30上に固定層及び無機酸化物層をこの順でさらに備えうる。前記固定層及び無機酸化物層をさらに交互に複数層積層させてもよい。
【0034】
図2及び図3は、本発明の他の実施形態によるガス遮断性薄膜の断面概略図である。図2を参照すれば、前記ガス遮断性薄膜は、基板10と、前記基板上に形成された、シリコン含有有機無機複合共重合体を含む第1固定層20と、前記第1固定層20上に形成された、無機酸化物層30と、前記無機酸化物層30上に形成された、シリコン含有有機無機複合共重合体を含む第2固定層20aと、を備えうる。図3を参照すれば、前記ガス遮断性薄膜は、基板10と、前記基板10の第1面上に形成された、シリコン含有有機無機複合共重合体を含む第1固定層20と、前記第1固定層20上に形成された、第1無機酸化物層30と、前記第1無機酸化物層30上に形成された、第2固定層20aと、前記第2固定層20a上に形成された、第2無機酸化物層30aと、前記基板10の、前記第1面と反対側の表面である第2面上に形成された、第3固定層20bと、前記第3固定層20b上に形成された、第3無機酸化物層30bと、を備える。
【0035】
図2及び図3に示されるような、前記交互に積層される追加的な層によって、ガス遮断性フィルムの水分、酸素及び有機物質の遮断性がさらに向上しうる。
【0036】
また、前記ガス遮断性薄膜は、必要に応じて、前記無機酸化物層の表面に形成される保護層をさらに備えうる。前記保護層は、無機酸化物層の表面の損傷を防止し、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、親油性高分子からなる群から選択される1種以上の化合物を含みうるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
好ましくは、前記基板は、例えば、プラスチックまたは金属でありうる。前記基板は、好ましくは、柔軟性を有する。すなわち、弾性係数(Young’s modulus)の値が、好ましくは、0.02ないし5GPaである。前記基板は、通常の電子素子の基板及び包装材として使用可能な通常の基板がいずれも用いられうる。例えば、ポリオキシメチレン、ポリビニルナフタレン、ポリエーテルケトン、フルオロ重合体、ポリ−αメチルスチレン、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフタルアミド、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、またはポリエチレンテレフタレート(PET)などの基板が用いられうる。
【0038】
本発明の一実施形態による電子素子は、前記ガス遮断性薄膜、例えば、図1、図2及び図3の一つ以上のガス遮断性薄膜を備える。前記ガス遮断性薄膜は、酸素及び水分の侵入抑制能力に優れるだけでなく、その他の化学種の拡散に対して高い抵抗性を有するので、各種電子素子の封止薄膜として使用すると、電子素子の寿命が向上しうる。
【0039】
前記電子素子は、例えば、有機発光素子、ディスプレイ素子、光起電性素子、集積回路、圧力センサー、化学センサー、バイオセンサー、太陽光熱素子、照明用素子でありうるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0040】
本発明の一実施形態によるガス遮断性薄膜の製造方法は、ポリシラザンとポリシロキサン系高分子との混合液を準備する工程と、前記混合液を基板上にコーティングしてコーティング層を形成する工程と、前記コーティング層を熱硬化させて固定層を形成する工程と、前記固定層上に無機酸化物層を形成する工程と、を含む。好ましくは、前記無機酸化物層は物理気相蒸着(PVD:Phisical Vapor Deposition)法によって形成される。
【0041】
具体的には、有機溶媒を使用してポリシラザンとポリシロキサン系高分子とを混合した後、所定時間放置して混合液を準備する。放置時間は、使用された具体的なポリシラザン及びポリシロキサン系高分子の種類や温度などの条件に応じて決定されるが、例えば、10秒ないし10分でありうる。次いで、前記混合液を基板上にコーティングし、その後熱硬化させてポリシラザンとポリシロキサン系高分子とを架橋させ、かつ、さらに反応させて、所定の厚さの固定層を形成する。前記熱硬化の温度は、好ましくは、50ないし150℃のホットプレートで1ないし10分間硬化させる工程と、50ないし150℃の真空オーブンで1分ないし3時間硬化させる工程と、を含む。また、必要に応じて、50ないし150℃、相対湿度50ないし100%の恒温恒湿オーブンで1ないし3時間硬化させる工程をさらに含みうる。または、前記熱硬化は、50ないし150℃のホットプレートで1ないし10分間硬化させる工程と、50ないし150℃、相対湿度50ないし100%の恒温恒湿オーブンで1ないし3時間硬化させる工程と、を含みうる。次いで、得られた前記固定層上に、例えば、PVD法によって無機酸化物層を形成する。
【0042】
上記の製造方法によれば、簡便な方法で速やかにシリコン含有有機無機複合共重合体を含む固定層が形成できる。また、製造過程で、200℃を超える高温硬化条件を経ないので、製造が容易である。そして、製造条件、例えば、前記ポリシラザンとポリシロキサン系高分子との混合比率、シリコン含有有機無機複合共重合体に含まれる置換基(アルキル基)の含有比率、混合液調製後の放置時間の調節によって、多様な物性を有するシリコン含有有機無機複合共重合体を含む固定層を形成しうる。
【0043】
前記ポリシラザンは、例えば、下記化学式5で表される繰り返し単位を含む構造を有する。
【0044】
【化6】

【0045】
式中、R、R、及びRは、互いに独立して水素原子、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルケニル基、C〜Cのアルキニル基、C〜Cのアルコキシ基またはC〜C15アリール基であり、R、R、及びRのうち少なくとも1つは水素原子であり、aは、2ないし1,000,000の整数である。例えば、aは、100ないし1,000,000の整数でありうる。
【0046】
好ましくは、前記ポリシラザンは、下記化学式8ないし10で表される群から選択される一つ以上の繰り返し単位を含む。
【0047】
【化7】

【0048】
式中、dは、2ないし1,000,000の整数である。例えば、dは、500ないし1,000,000の整数でありうる。e及びfは、互いに独立して2ないし500,000の整数である。例えば、e及びfは、互いに独立して250ないし500,000の整数でありうる。
【0049】
また、前記ポリシロキサン系高分子は、好ましくは、下記化学式6及び7で表される群から選択される一つ以上の繰り返し単位を含み、末端基に5モル%以上のヒドロキシ基を含む。
【0050】
【化8】

【0051】
式中、R、R、R、及びRは、互いに独立して水素原子、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基、C〜C10のシクロアルキル基またはC〜C15アリール基であり、R、及びRが同時に水素ではなく、R、及びRが同時に水素ではなく、b及びcは、互いに独立して2ないし200,000の整数である。例えば、b及びcは、互いに独立して1,000ないし200,000の整数であり、好ましくは、2,000ないし200,000の整数である。
【0052】
前記ポリシラザン及びポリシロキサン系高分子を含む混合液を製造する際、前記ポリシラザン及び/またはポリシロキサン系高分子を予め有機溶媒に溶解させて用いてもよい。前記ポリシラザン及びポリシロキサン系高分子を溶解させるために使われる有機溶媒は、特に制限されず、例えば、アニソール、キシレンのような芳香族炭化水素、メチルイソブチルケトン、アセトンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、イソプロピルエーテル、ジブチルエーテルなどのエーテル系溶媒、シリコーン溶媒、またはこれらの混合物でありうる。前記溶媒が添加されたポリシラザン溶液及び/またはポリシロキサン系高分子の溶液は、好ましくは、前記ポリシラザン及び/またはポリシロキサン系高分子の固形分の濃度が0.1〜80質量%であり、より好ましくは、固形分の濃度が5〜30質量%でありうる。
【0053】
前記混合液で、ポリシラザンとポリシロキサン系高分子との混合比は、質量比で9:1ないし1:2(ポリシラザン:ポリシロキサン系高分子)でありうる。前記質量比であれば本発明の効果がより顕著である。
【0054】
前記基板上に混合液をコーティングする方法としては、例えば、バーコーティング、ドロップキャスティング、スピンコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、フローコーティング、スクリーン印刷などが用いられうるが、これらに制限されるものではない。
【0055】
前記熱硬化の温度は、例えば、150℃以下であり、好ましくは、60ないし120℃でありうる。前記温度範囲であれば本発明の効果がより顕著である。
【0056】
次いで、例えば、PVD蒸着装置を利用して、固定層上に無機酸化物層を蒸着させる。PVD法としては、例えば、スパッタリング法、パルスレーザー蒸着法(PLD)、イオンビーム蒸着法(IBD)、またはイオンビームアシスト蒸着法(IBAD)などが挙げられるが、必ずしもこれに制限されるものではない。
【0057】
好ましくは、前記無機酸化物層は、SiO、Al、MgO、ZnOまたはこれらの混合物を含みうる。
【0058】
また、前記ガス遮断性薄膜の製造方法において、前記無機酸化物層上に保護層を形成する工程をさらに含みうる。前記保護層は、フッ素樹脂、シリコーン樹脂または親油性高分子からなる群から選択される1種以上の化合物を適当な溶媒に溶解させて前記無機酸化物層上にコーティングした後、得られたコーティング膜を、例えば、30秒ないし3時間、50℃ないし100℃の温度で熱硬化させることによって形成できる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明するが、下記実施例は、単に説明の目的のためのものであり、本発明を制限するものではない。
【0060】
(ガス遮断性薄膜の製造)
<実施例1>
ポリシラザンとして、パーヒドロポリシラザンをジブチルエーテルに溶解させた溶液(AZ Electronic materials社製,Lot No.07101676A、固形分の含有量21質量%)3mlと、ポリシロキサン系高分子として、下記化学式11で表されるポリジメチルシロキサン(Aldrich社製,分子量550,Lot No.481939)0.5mlとを混合した後、30秒間放置して混合液を準備した。次いで、前記混合液をポリエチレンナフタレート(PEN)基板(帝人デュポンフィルム社製,厚さ100μm)に1200rpm、40秒の条件でスピンコーティングした。次いで、前記混合液をスピンコーティングした基板を85℃のホットプレートで3分間加熱して硬化させた後、80℃の真空オーブンで2時間硬化させて厚さ700nmの固定層を形成した。次いで、無機酸化物層として、前記固定層上に蒸着装置(アルバックマテリアルズ社製,PME−200)を使用してアルミナ(Al)薄膜を150nmの厚さに蒸着してガス遮断性薄膜を製造した。
【0061】
【化9】

【0062】
<実施例2>
前記混合液をスピンコーティングした基板を85℃のホットプレートで3分間硬化させた後、85℃、相対湿度85%のオーブンで2時間硬化して、厚さ750nmの固定層を形成したことを除いては、実施例1と同じ方法でガス遮断性薄膜を製造した。
【0063】
<実施例3>
前記混合液をスピンコーティングした基板を85℃のホットプレートで3分間硬化させた後、80℃の真空オーブンで1時間硬化させ、次いで、85℃、相対湿度85%のオーブンで2時間硬化させて厚さ700nmの固定層を形成したことを除いては、実施例1と同じ方法でガス遮断性薄膜を製造した。
【0064】
<実施例4>
PEN基板(帝人デュポンフィルム社製,厚さ100μm)上に前記実施例3の方法と同一に固定層及び無機酸化物層を形成した後、さらに固定層を形成してガス遮断性薄膜を製造した。
【0065】
<実施例5>
PEN基板(帝人デュポンフィルム社製,厚さ100μm)上に前記実施例3の方法と同一に固定層、無機酸化物層、固定層を順次形成し、基板の反対側の面に固定層、無機酸化物層、固定層、無機酸化物層を順次形成して、ガス遮断性薄膜を製造した。
【0066】
<比較例1>
ポリエチレンテレフタレート(PET)(厚さ200μm)基板を準備して蒸着装置(アルバックマテリアルズ社製,PME−200)を利用してポリ尿素(PU)1μmを蒸着し、次いで、同一装置内で蒸着チャンバのみ利用して、アルミナの無機酸化物層を50nm蒸着してガス遮断性薄膜を製造した。
【0067】
<比較例2>
前記比較例1と同じ方法でPET基板上でPU 1μm/Al 50nm/PU 1μm/Al 50nmを蒸着して、ガス遮断性薄膜を製造した。
【0068】
<比較例3>
前記比較例1と同じ方法でPET基板上でPU 1μm/Al 50nm/PU 1μm/Al 50nm/PU 1μm/Al 50nm を蒸着して、ガス遮断性薄膜を製造した。
【0069】
<比較例4>
PEN基板(帝人デュポンフィルム社製,商品名TEONX,Q65FA−100μm)のみを用いた。
【0070】
<評価例1:水蒸気透過率(WVTR:Water Vapor Transmission Rate>
実施例4ないし5及び比較例1ないし3で製造されたガス遮断性薄膜に対して、アクアトランモデル1(AQUATRAN Model 1:米国のMOCON社)システムを利用して、37.8℃、100%RH雰囲気で水蒸気透過率(WVTR)を測定して、下記表1に表した。
【0071】
【表1】

【0072】
前記表1から分かるように、実施例4ないし5は、比較例1ないし3に比べて、低下した水蒸気透過率を表す。
【0073】
<評価例2:可視光透過率の評価>
実施例5及び比較例4で製造されたガス遮断性薄膜に対する可視光透過度を、キャリ5000 UV−VIS スペクトロメータ(CARY 5000 UV−VIS Spectrometer: 米国のVARIAN社製)を利用して測定して、図4に示した。図4から分かるように、実施例5のガス遮断性薄膜は、500nm以上の可視光領域で、比較例4の基板自体の可視光透過率と類似した80〜90%の可視光透過率を示した。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、電子素子関連の技術分野に好適に適用可能である。
【符号の説明】
【0075】
10 基板、
20、20a、20b 固定層、
30、30a、30b 無機酸化物層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の一方の表面上に形成された固定層と、
前記固定層の、前記基板とは反対側の表面上に形成された無機酸化物層と、を備え、
前記固定層が、下記化学式1で表される繰り返し単位と、下記化学式2で表される繰り返し単位と、下記化学式3及び4からなる群から選択される一つ以上の繰り返し単位とを含むシリコン含有有機無機複合共重合体を含み、前記シリコン含有有機無機複合共重合体の重合度は、2ないし1,000,000である、ガス遮断性薄膜:
【化1】

式中、
、R、及びRは、互いに独立して水素原子、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルケニル基、C〜Cのアルキニル基、C〜Cのアルコキシ基またはC〜C15のアリール基であり、R、R、及びRのうち少なくとも1つは水素原子であり、
、R、R、及びRは、互いに独立して水素原子、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基、C〜C10のシクロアルキル基またはC〜C15のアリール基であり、
、及びRが同時に水素ではなく、R、及びRが同時に水素ではなく、
n+m+r=1であり、0<n<1、0<m<1、0<r<1であり、n、m、rは、前記繰り返し単位のモル比であり、
rは、p、q、またはp+qである。
【請求項2】
可視光領域の透過率が70%以上であることを特徴とする請求項1に記載のガス遮断性薄膜。
【請求項3】
前記無機酸化物層上に形成された保護層をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載のガス遮断性薄膜。
【請求項4】
前記シリコン含有有機無機複合共重合体が、ポリシラザンとポリシロキサン系高分子との混合液を基板上にコーティングした後、コーティングされた前記混合液を熱硬化させて得られることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス遮断性薄膜。
【請求項5】
前記熱硬化の温度が150℃以下であることを特徴とする請求項4に記載のガス遮断性薄膜。
【請求項6】
前記ポリシラザンが下記化学式5で表される繰り返し単位を含むことを特徴とする請求項4または5に記載のガス遮断性薄膜:
【化2】

式中、R、R、及びRは、互いに独立して水素原子、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルケニル基、C〜Cのアルキニル基、C〜Cのアルコキシ基またはC〜C15のアリール基であり、R、R、及びRのうち少なくとも1つは水素原子であり、
aは、2ないし1,000,000の整数である。
【請求項7】
前記ポリシラザンが下記化学式8ないし10で表される群から選択される一つ以上の繰り返し単位を含むことを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のガス遮断性薄膜:
【化3】

式中、dは、2ないし1,000,000の整数であり、e及びfは、互いに独立して2ないし500,000の整数である。
【請求項8】
前記ポリシロキサン系高分子が下記化学式6及び7で表される群から選択される一つ以上の繰り返し単位を含み、前記ポリシロキサン系高分子の末端基に5モル%以上のヒドロキシ基を含むことを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載のガス遮断性薄膜:
【化4】

式中、
、R、R、及びRは、互いに独立して水素原子、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基、C〜C10のシクロアルキル基またはC〜C15アリール基であり、R、及びRが同時に水素ではなく、R、及びRが同時に水素ではなく、
b及びcは、互いに独立して2ないし200,000の整数である。
【請求項9】
前記基板の、前記固定層とは反対側の表面に、固定層及び無機酸化物層をこの順にさらに備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のガス遮断性薄膜。
【請求項10】
前記無機酸化物層上に、固定層及び無機酸化物層をこの順にさらに備えることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のガス遮断性薄膜。
【請求項11】
前記基板がプラスチックまたは金属であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のガス遮断性薄膜。
【請求項12】
前記基板は、柔軟性を有することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のガス遮断性薄膜。
【請求項13】
前記無機酸化物層がSiO、Al、MgO、及びZnOからなる群から選択される一つ以上を含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載のガス遮断性薄膜。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のガス遮断性薄膜を含む電子素子。
【請求項15】
有機発光素子、ディスプレイ素子、光起電性素子、集積回路、圧力センサー、化学センサー、バイオセンサー、太陽光熱素子、または照明用素子であることを特徴とする請求項14に記載の電子素子。
【請求項16】
ポリシラザンとポリシロキサン系高分子との混合液を準備する工程と、
前記混合液を基板上にコーティングしてコーティング層を形成する工程と、
前記コーティング層を熱硬化させて固定層を形成する工程と、
前記固定層上に無機酸化物層を形成する工程と、
を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載のガス遮断性薄膜の製造方法。
【請求項17】
前記固定層上に無機酸化物層を形成する工程の後に、前記無機酸化物層上に保護層を形成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項16に記載のガス遮断性薄膜の製造方法。
【請求項18】
前記ポリシラザンが下記化学式5で表される繰り返し単位を含むことを特徴とする請求項16または17に記載のガス遮断性薄膜の製造方法:
【化5】

式中、R、R、及びRは、互いに独立して、水素原子、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルケニル基、C〜Cのアルキニル基、C〜Cのアルコキシ基またはC〜C15アリール基であり、R、R、及びRのうち少なくとも1つは水素原子であり、
aは、2ないし1,000,000の整数である。
【請求項19】
前記ポリシロキサン系高分子が、下記化学式6及び7で表される繰り返し単位を含み、前記ポリシロキサン系高分子が前記ポリシロキサン系高分子の末端基に5モル%以上のヒドロキシ基を含むことを特徴とする請求項16〜18のいずれか1項に記載のガス遮断性薄膜の製造方法:
【化6】

式中、
、R、R、及びRは、互いに独立して水素原子、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基、C〜C10のシクロアルキル基またはC〜C15アリール基であり、R、及びRが同時に水素ではなく、R、及びRが同時に水素ではなく、
b及びcは、互いに独立して2ないし200,000の整数である。
【請求項20】
前記混合液において、ポリシラザンとポリシロキサン系高分子との混合比が質量比で9:1ないし1:2(ポリシラザン:ポリシロキサン系高分子)であることを特徴とする請求項16〜19のいずれか1項に記載のガス遮断性薄膜の製造方法。
【請求項21】
前記混合液のコーティングが、スピンコーティング、バーコーティング、またはロールコーティングによって行われることを特徴とする請求項16〜20のいずれか1項に記載のガス遮断性薄膜の製造方法。
【請求項22】
基板と、前記基板の一方の表面上に形成された第1固定層と、前記第1固定層の上に形成された無機酸化物層と、前記無機酸化物層の上に形成された第2固定層と、を備え、
前記第1及び第2固定層が、下記化学式1で表される繰り返し単位と、下記化学式2で表される繰り返し単位と、下記化学式3及び4からなる群から選択された一つ以上の繰り返し単位とを含むシリコン含有有機無機複合共重合体を含み、前記シリコン含有有機無機複合共重合体の重合度は、2ないし1,000,000である、ガス遮断性薄膜:
【化7】

式中、
、R、及びRは、互いに独立して、水素原子、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルケニル基、C2C〜CC5のアルキニル基、C〜Cのアルコキシ基またはC〜C15アリール基であり、R、R、及びRのうち少なくとも1つは水素原子であり、
、R、R、及びRは、互いに独立して水素原子、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基、C〜C10のシクロアルキル基またはC〜C15アリール基であり、
、及びRが同時に水素ではなく、R、及びRが同時に水素ではなく、
n+m+r=1であり、0<n<1、0<m<1、0<r<1であり、n、m、rは、前記繰り返し単位のモル比であり、
rは、p、q、またはp+qである。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−167777(P2010−167777A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288286(P2009−288286)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG ELECTRONICS CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do 442−742(KR)
【Fターム(参考)】