説明

ガラスフィルムの製造方法及びガラスフィルムの処理方法並びにガラスフィルム積層体

【課題】ガラスフィルムに対してデバイス製造関連処理等を行う際の取り扱い性を向上させ、加熱を伴う処理後にガラスフィルムを各種デバイスに組み込む際等には、支持ガラスからガラスフィルムを容易に剥離させることを可能とし、且つ剥離後において粘着剤等がガラスフィルムに残存することを確実に防止できる、清浄なガラスフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】支持ガラス3の表面に、成膜後の表面粗さRaが2.0nm以下となるように無機薄膜4を形成する第1の工程と、前記無機薄膜4の表面に、表面粗さRaが2.0nm以下のガラスフィルム2を接触させた状態で積層してガラスフィルム積層体1とする第2の工程と、前記ガラスフィルム積層体1に対して加熱を伴う処理を行う第3の工程と、前記加熱を伴う処理後に前記ガラスフィルム2を前記支持ガラス3から剥離する第4の工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイや、太陽電池、リチウムイオン電池、デジタルサイネージ、タッチパネル、電子ペーパー等のデバイスのガラス基板、及び有機EL照明等のデバイスのカバーガラスや医薬品パッケージ等に使用されるガラスフィルムの製造方法、及び支持ガラスによって支持したガラスフィルム積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
省スペース化の観点から、従来普及していたCRT型ディスプレイに替わり、近年は液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ等のフラットパネルディスプレイが普及している。これらのフラットパネルディスプレイにおいては、さらなる薄型化が要請される。特に有機ELディスプレイには、折りたたみや巻き取ることによって持ち運びを容易にすると共に、平面だけでなく曲面にも使用可能とすることが求められている。また、平面だけでなく曲面にも使用可能とすることが求められているのはディスプレイには限られず、例えば、自動車の車体表面や建築物の屋根、柱や外壁等、曲面を有する物体の表面に太陽電池を形成したり、有機EL照明を形成したりすることができれば、その用途が広がることとなる。従って、これらデバイスに使用される基板やカバーガラスには、更なる薄板化と高い可撓性が要求される。
【0003】
有機ELディスプレイに使用される発光体は、酸素や水蒸気等の気体が接触することにより劣化する。従って有機ELディスプレイに使用される基板には高いガスバリア性が求められるため、ガラス基板を使用することが期待されている。しかしながら、基板に使用されるガラスは、樹脂フィルムと異なり引っ張り応力に弱いため可撓性が低く、ガラス基板を曲げることによりガラス基板表面に引っ張り応力がかけられると破損に至る。ガラス基板に可撓性を付与するためには超薄板化を行う必要があり、下記特許文献1に記載されているような厚み200μm以下のガラスフィルムが提案されている。
【0004】
フラットパネルディスプレイや太陽電池等の電子デバイスに使用されるガラス基板には、加工処理や、洗浄処理等、様々な電子デバイス製造関連の処理がなされる。ところが、これら電子デバイスに使用されるガラス基板のフィルム化を行うと、ガラスは脆性材料であるため多少の応力変化により破損に至り、上述した各種電子デバイス製造関連処理を行う際に、取り扱いが大変困難であるという問題がある。加えて、厚み200μm以下のガラスフィルムは可撓性に富むため、処理を行う際に位置決めを行い難く、パターンニング時にずれ等が生じるという問題もある。
【0005】
ガラスフィルムの取り扱い性を向上させるために、下記特許文献2に記載されている積層体が提案されている。下記特許文献2では、支持ガラス基板とガラスシートとが繰返しの使用によってもほぼ一定に維持される粘着材層を介して積層された積層体が提案されている。これによれば、単体では強度や剛性のないガラスシートを用いても、従来のガラス用液晶表示素子製造ラインを共用して、液晶表示素子を製造することが可能となり、工程終了後は、ガラス基板を破損することなくすみやかに剥離することが可能となっている。また、支持体の剛性が高いため、処理の際の位置決め時のずれ等の問題も生じ難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−133174号公報
【特許文献2】特開平8−86993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記した様々な製造関連処理には、透明導電膜の形成処理や、封着処理等、加熱工程を伴うものが存在する。粘着剤層は耐熱性に劣るため、加熱を伴う処理を行った場合、粘着剤層の溶着により、ガラスフィルムが汚染されるおそれがある。
【0008】
また、粘着剤層を使用することなく、例えば結晶化ガラス等からなる焼結用のセッター等をガラスフィルムの支持に使用することも考えられるが、ガラスフィルムがセッター上を滑るおそれがあり、処理の際の位置決めを行い難いという問題が再度生ずる。
【0009】
従って、従来は、ガラスフィルムの支持に関し、支持部材の表面上を滑らずにガラスフィルムの適正な位置決めを可能としつつ、加熱工程を伴う処理を行った後にガラスフィルムを清浄な状態で容易に剥離可能とすることができなかった。
【0010】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、ガラスフィルムに対してデバイス製造関連処理等を行う際の取り扱い性を向上させ、適正な位置決めを可能にしつつ、特に加熱を伴う処理後にガラスフィルムを各種デバイスに組み込む際等には、支持ガラスからガラスフィルムを容易に剥離させることを可能にしつつ、且つ剥離後において粘着剤等がガラスフィルムに残存することを確実に防止し、清浄なガラスフィルムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、Raが2.0nm以下のガラス基板同士を貼り合わせ、貼り合わせた面を加熱することによりガラス基板同士が接着すること、及び一方のガラス基板に無機薄膜を形成した場合は、加熱してもガラス基板同士が接着しないこと、さらに、無機薄膜の表面粗さを小さくした場合、ガラス基板同士が無機薄膜を介して貼着する一方、加熱を伴う処理を行っても接着せず、加熱後に容易に剥離できることを見出し、本発明に至った。
【0012】
請求項1に係る発明は、支持ガラスの表面に、成膜後の表面粗さRaが2.0nm以下となるように無機薄膜を形成する第1の工程と、前記無機薄膜の表面に、表面粗さRaが2.0nm以下のガラスフィルムを接触させた状態で積層してガラスフィルム積層体とする第2の工程と、前記ガラスフィルム積層体に対して加熱を伴う処理を行う第3の工程、前記加熱を伴う処理後に前記ガラスフィルムを前記支持ガラスから剥離する第4の工程とを有することを特徴とするガラスフィルムの製造方法に関する。
【0013】
請求項2に係る発明は、前記無機薄膜は、酸化物薄膜であることを特徴とする請求項1に記載のガラスフィルムの製造方法に関する。
【0014】
請求項3に係る発明は、前記ガラスフィルムと前記支持ガラスとは、縁部の少なくとも一部において段差を設けて積層されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラスフィルムの製造方法に関する。
【0015】
請求項4に係る発明は、支持ガラスの表面に、成膜後の表面粗さRaが2.0nm以下となるように無機薄膜を形成する第1の工程と、前記無機薄膜の表面に、表面粗さRaが2.0nm以下のガラスフィルムを接触させた状態で積層してガラスフィルム積層体とする第2の工程と、前記ガラスフィルム積層体に対して加熱を伴う処理を行う第3の工程と、前記加熱を伴う処理後に前記ガラスフィルムを前記支持ガラスから剥離する第4の工程とを有することを特徴とするガラスフィルムの処理方法に関する。
【0016】
請求項5に係る発明は、支持ガラスにガラスフィルムを積層したガラスフィルム積層体であって、前記ガラスフィルムが積層される前記支持ガラスの表面に、成膜後の表面粗さRaが2.0nm以下となるように無機薄膜が形成され、前記ガラスフィルムの少なくとも積層側の表面の表面粗さRaが2.0nm以下であり、前記無機薄膜の表面と前記ガラスフィルムの表面とが接触した状態で積層されていることを特徴とするガラスフィルム積層体に関する。
【0017】
請求項6に係る発明は、前記ガラスフィルムの積層側の表面と前記無機薄膜の表面のGI値がそれぞれ1000pcs/m以下であることを特徴とする請求項5に記載のガラスフィルム積層体に関する。
【0018】
請求項7に係る発明は、前記ガラスフィルムの厚みは、300μm以下であることを特徴とする請求項5又は6に記載のガラスフィルム積層体に関する。
【0019】
請求項8に係る発明は、前記支持ガラスの厚みは、400μm以上であることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のガラスフィルム積層体に関する。
【0020】
請求項9に係る発明は、前記ガラスフィルムと前記支持ガラスとの30〜380℃における熱膨張係数の差が、5×10−7/℃以内であることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載のガラスフィルム積層体に関する。
【0021】
請求項10に係る発明は、前記ガラスフィルムと前記支持ガラスは、それぞれオーバーフローダウンドロー法によって成形されていることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載のガラスフィルム積層体に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、支持ガラスの表面に形成された表面粗さが2.0nm以下の無機薄膜の表面に、表面粗さが2.0nm以下のガラスフィルムを接触させた状態で積層してガラスフィルム積層体を構成するので、ガラスフィルムと無機薄膜との密着性が良く、粘着剤を使用しなくてもガラスフィルムと支持ガラスとを無機薄膜を介して固定して積層することが可能となる。これにより、デバイス製造関連処理時にガラスフィルムが支持ガラスに対してずれ動くことがなく、ガラスフィルムを正しい位置に位置決めすることができる。また、加熱を伴う処理を受けても、ガラスフィルムは無機薄膜とは接着しないので、処理後にガラスフィルムを支持ガラス(無機薄膜)から容易に剥離することができる。しかも、剥離後のガラスフィルムは、粘着剤等の付着がない清浄なものとなる。
【0023】
一方、無機薄膜とガラスフィルムの表面粗さRaが2.0nmを超えると、両者の密着性が低下し、ガラスフィルムと支持ガラスとを粘着剤無しで強固に固定して積層することができない。
【0024】
上記無機薄膜として、酸化物薄膜を採用すると、ガラスフィルムと支持ガラスとをより安定的に固定して積層することができる。
【0025】
また、ガラスフィルムと支持ガラスとを、縁部の少なくとも一部において段差を設けた状態で積層することにより、支持ガラスからガラスフィルムが食み出している場合は、ガラスフィルムと支持ガラスとをより容易かつ確実に剥離することが可能となる。一方、ガラスフィルムから支持ガラスが食み出している場合は、ガラスフィルムの端部を打突等から適切に保護することが可能となる。
【0026】
支持ガラスとガラスフィルムとを無機薄膜を介して積層した本発明のガラスフィルム積層体は、ガラスフィルム単体に比べてハンドリング性が良く、また、加熱を伴うデバイス製造関連処理等を経た後でも、支持ガラスからガラスフィルムを容易に剥離することができる。また、粘着剤等を使用していないので、ガラスフィルムは剥離後も粘着剤等の付着がなく清浄である。
【0027】
無機薄膜の表面とガラスフィルムの積層側の表面のGI値をそれぞれ1000pcs/m以下とすることにより、ガラスフィルムと支持ガラスとをより強固に積層固定することができる。
【0028】
本発明は、厚みが300μm以下であることにより、ハンドリングがより困難である超薄肉のガラスフィルムの製造及び処理に好適である。また、支持ガラスは、厚みを、400μm以上とすることにより、ガラスフィルムを確実に支持することが可能となる。
【0029】
また、ガラスフィルムと支持ガラスとの30〜380℃における熱膨張係数の差を、5×10−7/℃以内に規制することにより、加熱を伴う処理を行っても、熱反り等が生じにくいガラスフィルム積層体とすることができる。
【0030】
本発明におけるガラスフィルムと支持ガラスは、オーバーフローダウンドロー法によって成形されていることにより、研磨工程を必要とすることなく極めて表面精度の高いガラスを得ることが可能となる。これにより、支持ガラスの表面に表面精度の高い無機薄膜を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るガラスフィルム積層体の断面図である。
【図2】ガラスフィルム、及び、支持ガラスの製造装置の説明図である。
【図3】ガラスフィルムと支持ガラスとを縁部において段差を設けて積層したガラスフィルム積層体の図であって、(a)は支持ガラスがガラスフィルムから食み出している形態の図、(b)はガラスフィルムが支持ガラスから食み出している形態の図、(c)は支持ガラスに切り欠き部を設けた形態の図である。
【図4】本発明に係るガラスフィルム製造方法の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係るガラスフィルムの製造方法の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0033】
本発明に係るガラスフィルムの製造方法は、図4に示すように、成膜手段(8)によって、支持ガラス(3)の表面に、成膜後の表面粗さRaが2.0nm以下となるように無機薄膜(4)を形成する第1の工程と、無機薄膜(4)の表面に表面粗さRaが2.0nm以下のガラスフィルム(2)を接触させた状態で積層してガラスフィルム積層体(1)とする第2の工程と、処理手段(9)によって、ガラスフィルム積層体(1)に対して加熱を伴う処理を行う第3の工程と、加熱を伴う処理後にガラスフィルム(2)を支持ガラス(3)から剥離する第4の工程とを備えている。
【0034】
ガラスフィルム(2)は、ケイ酸塩ガラスが用いられ、好ましくはシリカガラス、ホウ珪酸ガラスが用いられ、最も好ましくは無アルカリガラスが用いられる。ガラスフィルム(2)にアルカリ成分が含有されていると、表面において陽イオンの脱落が発生し、いわゆるソーダ吹きの現象が生じ、構造的に粗となる。この場合、ガラスフィルム(2)を湾曲させて使用していると、経年劣化により粗となった部分から破損する可能性がある。尚、ここで無アルカリガラスとは、アルカリ成分(アルカリ金属酸化物)が実質的に含まれていないガラスのことであって、具体的には、アルカリが1000ppm以下のガラスのことである。本発明でのアルカリ成分の含有量は、好ましくは500ppm以下であり、より好ましくは300ppm以下である。
【0035】
ガラスフィルム(2)の厚みは、好ましくは300μm以下、より好ましくは5μm〜200μm、最も好ましくは5μm〜100μmである。これによりガラスフィルム(2)の厚みをより薄くして、適切な可撓性を付与することができるとともに、ハンドリング性が困難で、かつ、位置決めミスやパターニング時のずれ等の問題が生じやすいガラスフィルム(2)に対して、デバイス製造関連処理等を容易に行うことができる。ガラスフィルム(2)の厚みが5μm未満であると、ガラスフィルム(2)の強度が不足がちになり、ガラスフィルム積層体(1)からガラスフィルム(2)を剥離して、デバイスに組み込む際に破損を招き易くなる。
【0036】
支持ガラス(3)は、ガラスフィルム(2)と同様、ケイ酸塩ガラス、シリカガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス等が用いられる。支持ガラス(3)については、ガラスフィルム(2)との30〜380℃における熱膨張係数の差が、5×10−7/℃以内のガラスを使用することが好ましい。これにより、製造関連処理の際に熱処理を行ったとしても、膨張率の差による熱反り等が生じ難く、安定した積層状態を維持できるガラスフィルム積層体(1)とすることが可能となる。支持ガラス(3)とガラスフィルム(2)とは、同一の組成を有するガラスを使用することが最も好ましい。
【0037】
支持ガラス(3)の厚みは、400μm以上であることが好ましい。支持ガラス(3)の厚みが400μm未満であると、支持ガラス単体で取り扱う場合に、強度の面で問題が生じる可能性があるからである。支持ガラス(3)の厚みは、400μm〜700μmであることが好ましく、500μm〜700μmであることが最も好ましい。これによりガラスフィルム(2)を確実に支持することが可能となるとともに、ガラスフィルム(2)と支持ガラス(3)とを剥離する際に生じ得る破損を効果的に抑制することが可能となる。尚、図示しないセッター上に、ガラスフィルム積層体(1)を載置する場合は、支持ガラス(3)の厚みは400μm未満でも良い。
【0038】
上記の第1の工程は、支持ガラス(3)の表面に、成膜後の表面粗さRaが2.0nm以下となるように無機薄膜(4)を形成する工程である。支持ガラス(3)上の表面に無機薄膜(4)を形成することから、熱処理等の加熱を伴う処理を行っても、支持ガラス(3)とガラスフィルム(2)とが接着するのを防止することができる。また、無機薄膜(4)の表面粗さRaが2.0nm以下であることから、粘着剤等を使用することなく、ガラスフィルム(2)を接触させた状態で積層することが可能となる。
【0039】
支持ガラス(3)上に形成される無機薄膜(4)の表面粗さRaは、1.0nm以下であることが好ましく、0.5nm以下であることがより好ましく、0.2nm以下であることが最も好ましい。
【0040】
無機薄膜(4)を、支持ガラス(3)上に表面粗さRaが2.0nm以下に形成することができれば、支持ガラス(3)の表面粗さRaは特に限定されない。しかし、支持ガラス(3)の表面が粗いと、表面の凹凸が形成後の無機薄膜(4)に影響を及ぼすため、無機薄膜(4)の表面粗さRaを2.0nm以下に形成し難くなるおそれがある。従って、支持ガラス(3)の表面粗さRaは、2.0nm以下であることが好ましく、1.0nm以下であることがより好ましく、0.5nm以下であることがさらに好ましく、0.2nm以下であることが最も好ましい。
【0041】
無機薄膜(4)の厚みは、1nm〜10000nmであることが好ましい。成膜コストを抑えるには膜厚は少ない方が有利であり、1nm〜1000nmであることがより好ましく、1nm〜200nmが最も好ましい。
【0042】
無機薄膜(4)は、ITO、Ti、Si、Au、Ag、Al、Cr、Cu、Mg、Ti、SiO、SiO、Al、MgO、Y、La、Pr11、Sc、WO、HfO、In、ITO、ZrO、Nd、Ta、CeO、Nb、TiO、TiO、Ti、NiO、ZnOから選択される1種又は2種以上で形成されていることが好ましい。
【0043】
無機薄膜(4)は、酸化物薄膜であることがより好ましい。酸化物薄膜は熱的に安定である。そのため、支持ガラスに酸化物薄膜を設けることで、ガラスフィルム積層体(1)に対して加熱を伴う処理を行っても、薄膜付支持ガラス(3)を繰り返し使用することが可能となる。酸化物薄膜として、SiO、SiO、Al、MgO、Y、La、Pr11、Sc、WO、HfO、In、ITO、ZrO、Nd、Ta、CeO、Nb、TiO、TiO、Ti、NiO、ZnO及びそれらの組み合わせを使用することが好ましい。
【0044】
図1では、支持ガラス(3)上に無機薄膜(4)を1層のみ形成しているが、無機薄膜(4)を複数の層で構成しても良い。この場合、最外層(ガラスフィルム(2)と接触する層)は、酸化物薄膜であることが好ましい。前述の通り、酸化物薄膜は熱的に安定であるからである。
【0045】
図1では、ガラスフィルム(2)が積層される支持ガラス(3)の表面にのみ無機薄膜(4)を形成しているが、支持ガラス(3)の両面を使用可能とするために、上記表面と反対側の表面にも無機薄膜(4)を形成してもよい。また、無機薄膜(4)を支持ガラス(3)の全表面に形成しても良い。
【0046】
上記第1の工程において、図4に示す成膜手段(8)としては、公知の方法を使用することができ、スパッタ法、蒸着法、CVD法、ゾルゲル法等を使用することができる。
【0047】
上記の第2の工程は、無機薄膜(4)の表面に、表面粗さRaが2.0nm以下のガラスフィルム(2)を接触させた状態で積層して、図1に示すガラスフィルム積層体(1)を形成する工程である。
【0048】
無機薄膜(4)の表面とガラスフィルム(2)の積層側の表面の表面粗さRaは、いずれも2.0nm以下である。Raが2.0nmを超えると、ガラスフィルム(2)と支持ガラス(3)上の無機薄膜(4)との密着性が低下し、ガラスフィルム(2)と支持ガラス(3)上の無機薄膜(4)とを接着剤無しで強固に積層固定することができない。ガラスフィルム(2)の表面粗さRaは、1.0nm以下であることが好ましく、0.5nm以下であることがより好ましく、0.2nm以下であることが最も好ましい。
【0049】
ガラスフィルム(2)の積層側の表面及び支持ガラス(3)上の無機薄膜(4)の表面のGI値は、それぞれ1000pcs/m以下であることが好ましい。これにより、ガラスフィルム(2)の積層側の表面と支持ガラス(3)上の無機薄膜(4)の表面が清浄であるため表面の活性が損なわれておらず、接着剤を使用しなくてもガラスフィルム(2)と支持ガラス(3)とをより強固に安定して積層固定することが可能となる。本明細書においてGI値とは、1mの領域内に存在する長径1μm以上の不純粒子の個数(pcs)のことである。ガラスフィルム(2)の積層側の表面及び支持ガラス(3)上の無機薄膜(4)の表面のGI値は、夫々500pcs/m以下であることがより好ましく、100pcs/m以下であることが最も好ましい。
【0050】
本発明に使用されるガラスフィルム(2)及び支持ガラス(3)は、ダウンドロー法によって成形されていることが好ましい。ガラスフィルム(2)及び支持ガラス(3)の表面をより滑らかに成形することができるからである。特に、図2に示すオーバーフローダウンドロー法は、成形時にガラス板の両面が、成形部材と接触しない成形法であり、得られたガラス板の両面(透光面)には傷が生じ難く、研磨しなくても高い表面品位を得ることができる。
【0051】
図2に示すオーバーフローダウンドロー法において、断面が楔型の成形体(6)の下端部(61)から流下した直後のガラスリボン(G)は、冷却ローラ(7)によって幅方向の収縮が規制されながら下方へ引き伸ばされて所定の厚みまで薄くなる。次に、前記所定厚みに達したガラスリボン(G)を徐冷炉(アニーラ)で徐々に冷却し、ガラスリボン(G)の熱歪を除き、ガラスリボン(G)を所定寸法することにより、ガラスフィルム(2)及び支持ガラス(3)が成形される。
【0052】
上記の第3の工程は、第2の工程で作製されたガラスフィルム積層体(1)に対して、処理手段(9)により加熱を伴う処理を行う工程である。
【0053】
第3工程における加熱を伴う処理としては、例えば、デバイス、特に電子デバイス製造において、スパッタ法等による成膜処理、素子等を封止する封止処理、ガラスフリットの焼結処理等が挙げられる。また、ガラスフィルムの製造において、スパッタ法等による反射防止膜、透過防止膜等の成膜処理等も挙げられる。
【0054】
上記第3の工程で用いる処理手段(9)は、単一の処理手段で構成されたものであってもよいし、複数の同じ又は異なる処理手段で構成されたものであっても良い。
【0055】
上記の第4の工程は、第3の工程後にガラスフィルム(2)を支持ガラス(3)から剥離する工程である。第1の工程によって支持ガラス(3)の表面に無機薄膜(4)を形成していることから、第3の工程で加熱を伴う製造関連処理を行っても、支持ガラス(3)とガラスフィルム(2)とが接着するのを防止することができ、ガラスフィルム(2)を容易に剥離することができる。尚、デバイス製造関連処理後にガラスフィルム(2)を各種デバイスに組み込む際に、支持ガラス(3)からガラスフィルム(2)を1箇所でも剥離させることができれば、その後連続してガラスフィルム(2)全体を容易に支持ガラス(3)から剥離させることが可能となる。また、剥離後のガラスフィルム(2)は、粘着剤等が全く残存しない清浄なものとなる。
【0056】
上記の第2工程を経て作成されるガラスフィルム積層体(1)は、図3に示すように、ガラスフィルム(2)と支持ガラス(3)とが、縁部において段差(5)を設けて積層されていることが好ましい。図3(a)に示す形態では、ガラスフィルム(2)よりも支持ガラス(3)が食み出すように段差(51)が設けられている。これにより、ガラスフィルム(2)の端部をより適切に保護することができる。一方、図3(b)に示す形態では、支持ガラス(3)よりもガラスフィルム(2)が食み出した状態で段差(52)が設けられている。これにより、ガラスフィルム(2)と支持ガラス(3)の剥離開始時において、ガラスフィルム(2)のみを容易に把持することが可能なり、両者をより容易かつ確実に剥離することが可能となる。図3(c)に示す形態では、支持ガラス(3)の縁部に切り欠き部が設けられている。
【0057】
段差(5)は、ガラスフィルム積層体(1)の周辺部の少なくとも一部に設けられていればよく、例えば、ガラスフィルム積層体(1)が平面視矩形状の場合は、4辺のうち少なくとも1辺に設けられていればよい。また、支持ガラス(3)又はガラスフィルム(2)の4隅の一部に切り欠き(オリフラ)を設けることによって、段差を設けてもよい。
【0058】
図3(b)に示す形態において、ガラスフィルム(3)の食み出し量は、1mm〜20mmであることが好ましい。1mm未満であると、剥離開始時においてガラスフィルム(2)の縁部を把持し難くなる可能性があり、20mmを超えるとガラスフィルム積層体(1)の側縁に打突等の外力が加わった場合にガラスフィルム(2)が破損する可能性がある。
【0059】
さらに、ガラスフィルム積層体(1)の端部において、ガラスフィルム(2)の縁部から支持ガラス(3)の縁部を食み出させて形成された段差と、支持ガラス(3)の縁部からガラスフィルム(2)の縁部を食み出させて形成された段差(5)の双方を設けることにより、ガラスフィルム(2)と支持ガラス(3)とをそれぞれ同時に把持することが可能となり、さらに容易にガラスフィルム(2)を剥離させることが可能となる。上記双方の段差は、交互に近接させて形成するのが最も好ましい。
【0060】
さらに、図3(c)に示すように、支持ガラス(3)よりもガラスフィルム(2)が小さい場合において、支持ガラス(3)の端部に、切り欠き部(31)が設けられていることが好ましい。ガラスフィルム(2)の端部を適切に保護しつつ、ガラスフィルム(2)の剥離の際には、支持ガラス(3)の切り欠き部(31)で露出しているガラスフィルム(2)を容易に把持することができ、ガラスフィルム(2)を容易に剥離することができる。切り欠き部(31)は、砥石等により支持ガラス(3)端部の一部を研削することや、コアドリル等により端部の一部を切り抜くことにより、形成することができる。
【0061】
本発明に係るガラスフィルムの製造方法は、図4に模式的に示す、第1の工程、第2の工程、第3の工程、及び第4の工程を連続して行うことができる。支持ガラス(3)は再利用することが可能であるため、第1の工程としては、無機薄膜(4)が既に形成された支持ガラス(3)を第2工程直前のラインに投入することも含まれる。また、第1の工程から第4の工程まで連続して行う構成には限定されず、例えば、第2の工程後に製造されたガラスフィルム積層体(1)を梱包、出荷し、別途製造関連処理施設において、第3の工程及び第4の工程を行う構成であっても良い。
【実施例】
【0062】
以下、本発明のガラスフィルムの製造方法を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
(積層試験)
縦250mm、横250mm、厚み700μmの矩形状の透明なガラス板を支持ガラスとして使用した。支持ガラスの上に積層するガラスフィルムとして、縦230mm、横230mm、厚み100μmのガラスフィルムを使用した。支持ガラスとガラスフィルムは、日本電気硝子株式会社製の無アルカリガラス(製品名:OA−10G、30〜380℃における熱膨張係数:38×10−7/℃)を使用した。オーバーフローダウンドロー法によって成形されたガラスを、未研磨の状態でそのまま使用するか、研磨及びケミカルエッチングの量を適宜制御することによって、Raの制御を行った。支持ガラス上には、表1に示す通り、無機薄膜としてITO及びTiを50〜200nm成膜した。成膜は、BOC社製インラインスパッタ装置を使用して行った。次に、支持ガラス上の無機薄膜の表面、及びガラスフィルムの積層側の表面の表面粗さRaをVeeco社製AFM(Nanoscope III a)を用い、スキャンサイズ10μm、スキャンレイト1Hz、サンプルライン512の条件で測定した。表面粗さRaは、測定範囲10μm四方の測定値から算出した。測定後、表1で示した試験区に支持ガラス及びガラスフィルムの夫々について区分けを行った。
【0064】
その後、それぞれ表1に示された区分けに従って、支持ガラス上の無機薄膜の表面にガラスフィルムを直接重ね合わせた。支持ガラスとガラスフィルムとが強固に貼り付き、積層可能であったものについて○を、貼り付かなかったものについては×とすることによって判定を行った。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1に示される通り、ガラスフィルムと無機薄膜の表面粗さRaがいずれも2.0nm以下の実施例1〜7については、ガラスフィルムと支持ガラスの無機薄膜は十分な密着性を有しており、強固に積層固定可能であることがわかる。それに対して、支持ガラス上の無機薄膜の表面粗さRaが2.0nmを超えている比較例1〜3については、接触面が粗いことからガラスフィルムと支持ガラスの無機薄膜との密着性が低く、強固に積層できなかったことがわかる。
【0067】
(剥離試験)
上述した積層試験と同一の支持ガラス及びガラスフィルムを使用した。支持ガラス上には、表2に示す通り、無機薄膜としてITO及びTiに加えて、SiOとNbを使用した。製膜方法、及びその後の表面粗さRaの測定も上述の積層試験と同様である。その後、それぞれ表2に示された区分けに従って、支持ガラスの無機薄膜の表面にガラスフィルムを直接重ね合わせ、実施例8〜11のガラスフィルム積層体を得た。支持ガラスに無機薄膜の製膜を行わずにガラスフィルムを積層したガラスフィルム積層体を、比較例4とした。実施例8〜11、比較例4のガラスフィルム積層体の積層状態を確認したところ、いずれも支持ガラスとガラスフィルムとが強固に貼り付いており、積層可能であった。
【0068】
次に、実施例8〜11、比較例4の積層体に対して、400℃、15分間加熱による熱処理を行った。尚、加熱処理は、ADVANTEC社製電気マッフル炉(KM−420)を使用することにより行った。加熱処理後の実施例8〜11、比較例4の積層体について、支持ガラスとガラスフィルムとの剥離を試みた。支持ガラスとガラスフィルムとが剥離可能であったものについて○を、剥離不可能であり、ガラスフィルムが剥離途中で破損したものについて×とすることによって、判定を行った。結果を表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
表2に示される通り、支持ガラスに無機薄膜が形成された実施例8〜11については、加熱処理を行った後でも、ガラスフィルムと支持ガラスとは十分に剥離可能であることがわかる。それに対して、支持ガラスに無機薄膜を形成していない比較例4については、加熱処理後に、ガラスフィルムと支持ガラスとの接着により、ガラスフィルムと支持ガラスとは剥離不可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイや太陽電池等のデバイスに使用されるガラス基板、及び有機EL照明のカバーガラスに好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 ガラスフィルム積層体
2 ガラスフィルム
3 支持ガラス
4 無機薄膜
5 段差
8 製膜手段
9 加熱を伴う処理手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持ガラスの表面に、成膜後の表面粗さRaが2.0nm以下となるように無機薄膜を形成する第1の工程と、前記無機薄膜の表面に、表面粗さRaが2.0nm以下のガラスフィルムを接触させた状態で積層してガラスフィルム積層体とする第2の工程と、前記ガラスフィルム積層体に対して加熱を伴う処理を行う第3の工程、前記加熱を伴う処理後に前記ガラスフィルムを前記支持ガラスから剥離する第4の工程とを有することを特徴とするガラスフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記無機薄膜は、酸化物薄膜であることを特徴とする請求項1に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ガラスフィルムと前記支持ガラスとは、縁部の少なくとも一部において段差を設けて積層されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項4】
支持ガラスの表面に、成膜後の表面粗さRaが2.0nm以下となるように無機薄膜を形成する第1の工程と、前記無機薄膜の表面に、表面粗さRaが2.0nm以下のガラスフィルムを接触させた状態で積層してガラスフィルム積層体とする第2の工程と、前記ガラスフィルム積層体に対して加熱を伴う処理を行う第3の工程と、前記加熱を伴う処理後に前記ガラスフィルムを前記支持ガラスから剥離する第4の工程とを有することを特徴とするガラスフィルムの処理方法。
【請求項5】
支持ガラスにガラスフィルムを積層したガラスフィルム積層体であって、
前記ガラスフィルムが積層される前記支持ガラスの表面に、成膜後の表面粗さRaが2.0nm以下となるように無機薄膜が形成され、
前記ガラスフィルムの少なくとも積層側の表面の表面粗さRaが2.0nm以下であり、
前記無機薄膜の表面と前記ガラスフィルムの表面とが接触した状態で積層されていることを特徴とするガラスフィルム積層体。
【請求項6】
前記ガラスフィルムの積層側の表面と前記無機薄膜の表面のGI値がそれぞれ1000pcs/m以下であることを特徴とする請求項5に記載のガラスフィルム積層体。
【請求項7】
前記ガラスフィルムの厚みは、300μm以下であることを特徴とする請求項5又は6に記載のガラスフィルム積層体。
【請求項8】
前記支持ガラスの厚みは、400μm以上であることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のガラスフィルム積層体。
【請求項9】
前記ガラスフィルムと前記支持ガラスとの30〜380℃における熱膨張係数の差が、5×10−7/℃以内であることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載のガラスフィルム積層体。
【請求項10】
前記ガラスフィルムと前記支持ガラスは、それぞれオーバーフローダウンドロー法によって成形されていることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載のガラスフィルム積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−184284(P2011−184284A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205158(P2010−205158)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】