説明

ガラス基板用研磨液及びその製造方法、並びに前記研磨液を用いたガラス基板の研磨方法及び前記研磨方法により得られたガラス基板

【課題】磁気ディスク等のガラス基板の研磨において、高速研磨と基板表面の高平坦性とを両立させる。
【解決手段】平均粒子径が10〜50nmで表面に突起を持つ凹凸状コロイダルシリカ粒子が連結してなり、かつ、動的光散乱法によるメディアン径(D1)が30〜150nmで、透過型電子顕微鏡により測定した平均粒子径(D2)との比(D1/D2)が2〜5であるコロイダルシリカ粒子凝集体が水中に分散しているガラス基板用研磨液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板用研磨液及びその製造方法に関する。また、本発明は、前記研磨液を用いたガラス基板の研磨方法及び前記研磨方法により得られたガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ等の情報処理機器に搭載される磁気ディスクに対する高記録密度化の要請は近年強くなっており、このような状況の下、従来のアルミニウム基板に替わってガラス基板が広く用いられるようになってきている。
【0003】
磁気ディスクの記録容量を高めるには、ガラス基板の主表面がより平坦であることが必要であり、高精度の研磨が要求される。磁気ディスク用ガラス基板は、例えば、ガラス板からドーナツ状円形ガラス板(中央に円孔を有する円形ガラス板)を切り取り、内周面及び外周面をダイヤモンド砥石を用いて切削加工し、その後、主表面ラッピング、端面鏡面研磨を順次行い、円形ガラス板の主表面に研磨液を作用させながら研磨パッドにより研磨して製造される。このとき、ガラス基板の主表面を高精度研磨するには、10nm程度の極めて小さな研磨粒子を用いることによりある程度可能であるが、一方で研磨速度が遅く、生産性を著しく低下させてしまう。
【0004】
そのため、研磨速度も併せて重要になっており、例えば特許文献1には、球状コロイダルシリカ粒子が一平面内のみにつながった数珠状コロイダルシリカ粒子が水中に分散した安定なシリカゾルを含有する研磨液を、アルミニウムディスク、ガラスハードディスク、石英ガラス、水晶、半導体デバイスのSiO酸化膜、珪素単体半導体ウェハ、化合物半導体ウェハの研磨に使用すると、研磨速度が向上することが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、表面に突起を有する凹凸状コロイダルシリカ粒子を含有する研磨液をInPウエハの研磨に使用すると、研磨速度が著しく向上することが開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、石英ガラス、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、無アルカリガラス、結晶化ガラスの研磨材として、粒子の最大内接円半径の1/5〜1/2の曲率半径を持った突起を平均2個以上有する凹凸状コロイダルシリカ粒子を用いると、表面粗さの平滑性と研磨速度の両立が満足できることが開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001―11433号公報
【特許文献2】特開2004―207417号公報
【特許文献3】特開2008―13655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の研磨液では、研磨速度と表面平坦性の両立が満足できるレベルではない。また、特許文献1に記載の数珠状コロイダルシリカ粒子の合成に30分から3000分という膨大な時間を要し、製造に時間がかかり、コストも高くなってしまう。
【0009】
そこで本発明は、磁気ディスク等のガラス基板の研磨において、高速研磨と基板表面の高平坦性とを両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、下記を提供する。
(1)平均粒子径が10〜50nmで表面に突起を持つ凹凸状コロイダルシリカ粒子が連結してなり、かつ、動的光散乱法によるメディアン径(D1)が30〜150nmで、透過型電子顕微鏡により測定した平均粒子径(D2)との比(D1/D2)が2〜5であるコロイダルシリカ粒子凝集体が水中に分散していることを特徴とするガラス基板用研磨液。
(2)コロイダルシリカ粒子凝集体の濃度が、SiO換算で0.5〜30質量%であることを特徴とする上記(1)記載のガラス基板用研磨液。
(3)珪酸含有水溶液に、凝集剤と平均粒子径が10〜50nmで表面に突起を持つ凹凸状コロイダルシリカ粒子とを加え、液のpHを8〜10に調整した後、マイクロ波を用いて加熱することを特徴とするガラス基板用研磨液の製造方法。
(4)珪酸含有水溶液をイオン交換してpHを4以下にし、水酸化リチウム、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムからなる群から選ばれる1種以上を用いてpHを9〜14にした後、マイクロ波を用いて加熱することを特徴とするガラス基板用研磨液の製造方法。
(5)上記(1)または(2)に記載のガラス基板用研磨液を用いてガラス基板を研磨することを特徴とするガラス基板の研磨方法。
(6)上記(5)に記載された研磨方法により得られたことを特徴するガラス基板。
【発明の効果】
【0011】
本発明のガラス基板用研磨液を用いることにより、従来よりも高い研磨速度と高い表面平坦性とを実現でき、得られるガラス基板も表面の平坦性に優れたものとなる。また、このガラス基板用研磨液を短時間で製造することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明で使用する連続式マイクロ波加熱装置を示す図であり、(1−1)は長手方向の断面図、(1−2)は長手方向と直交する方向の断面図を示す。
【図2A】比較例4で得られた研磨材を透過型電子顕微鏡で撮影した写真である。
【図2B】実施例4で得られた研磨材を透過型電子顕微鏡で撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に関して図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
本発明では、ガラス基板用研磨液の研磨材として、表面に突起を持つ凹凸状コロイダルシリカ粒子が連結したコロイダルシリカ粒子凝集体(図2B参照)を用いる。本発明では粒子同士が珪酸等により架橋した状態を連結と言う。凹凸状コロイダルシリカ粒子とは、表面に1nm以上の突起を有するコロイダルシリカ粒子であり、その平均粒子径は10〜50nmであり、好ましくは15〜40nmである。また、この凹凸状コロイダルシリカ粒子同士が一次元的、二次元的または三次元的に連結してコロイダルシリカ粒子凝集体を形成するが、その大きさは、動的光散乱法によるメディアン径(D1)で30〜150nm、好ましくは(50〜130)nmであり、かつ、透過型電子顕微鏡により測定した平均粒子径(D2)との比(D1/D2;会合比)で2〜5、好ましくは3〜5であり、より好ましくは3〜4.5である。凹凸状コロイダルシリカ粒子及びコロイダルシリカ粒子凝集体とも、前記の寸法よりも小さくなると研磨速度が遅くなり、大きくなると平坦性が得られない。また、会合比も同様であり、2より小さいと研磨速度が遅くなり、5より大きいと平坦性が得られない。
【0015】
尚、凹凸状コロイダルシリカ粒子は、シリカドール30、シリカドール30B、シリカドール40、シリカドール30LL、シリカドール40KL(日本化学工業株式会社製)、PL2L、PL2(扶桑化学工業株式会社製)、カタロイドPPS−45PKH、カタロイドPPS−50(日揮触媒化成株式会社)、ルドックスAS40、ルドックスHS40、ルドックスTM50(グレースジャパン株式会社製)等の市販品を用いることもできるが、例えば下記に示すような工程(a)〜(d)に従い製造することもできる。
【0016】
工程(a):
先ず、表面に突起の無いコロイダルシリカ粒子を水に分散させ、分散液をpH10以上に調整する。pH調整に使用するアルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、アンモニア、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。その他、陰イオン交換樹脂を用いても良い。液のpHが10未満では、コロイダルシリカ粒子における珪酸の溶解量が足りないため、凹凸状コロイダルシリカ粒子を製造するのが困難になる。
【0017】
工程(b):
上記工程(a)の分散液に、珪酸を添加する。珪酸源としては水ガラスが適当であり、JIS K1408規定の珪酸ソーダ(xNaO・ySiO)相当品、すなわち、JIS1号、2号、3号水ガラスが挙げられる。珪酸の濃度は、SiOとして水100質量部に対して0.015〜0.09質量部、好ましくは(0.02〜0.07)質量部とする。珪酸の濃度が水100質量部に対して0.015質量部未満であると表面に突起が形成できない可能性がり、珪酸の濃度が水100質量部に対して0.09質量部超であると、凹凸状コロイダルシリカ粒子と共にゲル状のシリカが生成される。
【0018】
工程(c):
上記工程(b)の分散液をpH9以下に調整し、所定時間保持する。pH調整に使用する酸としては塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、酢酸、クエン酸等が挙げられる。その他、陽イオン交換樹脂を用いても良い。液のpHが9超では、珪酸の溶解量が多く、珪酸が析出しないため、凹凸状コロイダルシリカ粒子を製造するのが困難になる。生成する凹凸状コロイダルシリカ粒子の安定性を考えると、pH8〜9、もしくはpH1.5〜2.5が好ましい。このpHの範囲外では安定性が悪く、長期保存するとゲル化が進行する可能性が高い。保持時間は、凹凸状コロイダルシリカ粒子の突起の大きさに応じて設定する。
【0019】
工程(d):
上記工程(c)の分散液から、生成した凹凸状コロイダルシリカ粒子を回収する。尚、突起形成の確認は、透過型電子顕微鏡により確認することができる。
【0020】
凹凸状コロイダルシリカ粒子同士を連結させて凝集体とするには、例えば、下記工程(A)〜(E)を行なう。
【0021】
工程(A):
珪酸含有水溶液を調製し、液のpHを4以下に調整する。珪酸源としては上記で用いた水ガラスが適当であり、水溶液中の水ガラスの濃度はSiOとして0.5〜15質量%が好ましい。この水ガラスの濃度が0.5質量%以上であれば水の量が抑えられ、水ガラスからの珪酸の生産効率が良好となるが、15質量%超では珪酸合成時にゲル化が起こるようになる。液のpH調整には、陽イオン交換樹脂を加えることが好ましい。陽イオン交換樹脂としては、ダイヤイオンSK104、SK1B、SK1BH、SK110、SK112、PK212、PK216、PK228(三菱化学株式会社製)が挙げられる。液のpHが4超では、珪酸のゲル化が進行する。
【0022】
工程(B):
上記工程(A)の珪酸含有水溶液に、凹凸状コロイダルシリカ粒子の凝集剤として金属塩を加える。金属塩としてはマグネシウム、カルシウム、バリウム、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウムの塩が挙げられる。金属塩の量は酸化物で換算し、珪酸(SiOとする)100質量部に対して1〜10質量部である。この金属塩量が1質量部以上であれば凝集効果を発揮できるが、10質量部超ではゲル化が起こる。
【0023】
工程(C):
凹凸状コロイダルシリカ粒子を水に分散させ、液のpHを2〜4に調整する。凹凸状コロイダルシリカ粒子の濃度は、SiO換算で20〜50質量%であることが好ましい。この凹凸状コロイダルシリカ粒子濃度が20質量%以上であれば、効率よくコロイダルシリカ粒子凝集体を調製できるが、50質量%超ではゲル化する。pH調整には、液が酸性の場合、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア水、炭酸水素ナトリウム水溶液等を用いる。また、陰イオン交換樹脂を用いても良い。一方、液がアルカリ性の場合、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、酢酸、クエン酸等を用いる。また、陽イオン交換樹脂を用いても良い。
【0024】
工程(D):
上記工程(C)の凹凸状コロイダルシリカ粒子分散液と、上記工程(B)の凝集剤を添加した珪酸含有水溶液とを十分に混合し、液のpHを8〜10に調整する。液のpH調整には水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア水、炭酸水素ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液を滴下するが、その際の滴下速度は混合液1リットルに対して1質量%の水酸化ナトリウム水溶液換算で5〜20g/minとすることが望ましい。この滴下速度が5g/min未満では凝集に時間がかかり効率が悪く、20g/min超では添加時にゲル化を起こすことがある。その他、陰イオン交換樹脂を用いても良い。
【0025】
工程(E):
上記工程(D)の液を加熱して、凹凸状コロイダルシリカ粒子同士を、珪酸を介して連結させて凝集体とする。加熱温度は150℃〜250℃が好ましく、180℃〜230℃が特に好ましい。加熱温度が150℃未満では凹凸状コロイダルシリカ粒子同士が連結しない可能性があり、加熱温度が250℃超では昇温時にゲル化する可能性がある。加熱には、マイクロ波加熱装置またはオートクレーブ装置を用いることができるが、加熱時間をより短縮するためにマイクロ波加熱装置を用いることが好ましい。マイクロ波加熱装置を用いることにより、0.5〜5分間程度の加熱時間でも十分に連結可能となる。尚、マイクロ波加熱装置として、下記構成の連続式マイクロ波加熱装置が好ましい。
【0026】
図1(1−1)は、連続式マイクロ波加熱装置1の長手方向の断面図であり、図1(1−2)は連続式マイクロ波加熱装置1の長手方向に直交する方向の断面図である。図示されるように、マイクロ波が透過する窓4(開口部)を有する金属製容器5と、容器5の窓4にマイクロ波を放射するマイクロ波発振器2と、容器5内に貫通配設された反応液流路6と、容器5と反応液流路6との間に充填されたマイクロ波透過性固体物質からなる充填層7とを有し、容器5の窓4を介して透過したマイクロ波3が反応液流路6内を流れる上記工程(D)の液8を加熱し、液中の凹凸状コロイダルシリカ粒子同士を珪酸で連結させるように構成されている。
【0027】
ここで、マイクロ波とは、波長0.1〜1000mm、周波数300MHz〜3THzの電磁波をいう。尚、汎用されるのは周波数915MHz、2.45GHz、5.8GHzの電磁波である。
【0028】
マイクロ波発振器2としては、クライストロン、ジャイロトロン等を用いることが可能であり、マイクロ波出力は反応液流路6を流通する液8の種類や、反応圧力、反応設定温度、流量、速度等によるが、概ね100〜5000W程度である。
【0029】
マイクロ波発振器2は、金属製容器5の窓4に、マイクロ波発振器2から発振されたマイクロ波3が直接照射されるように、直に取り付けられる構成としてもよいが、図示されるように、マイクロ波伝播のための金属製の矩形導波管や円形導波管等の導波路9を介して金属製容器5の窓4に連結される構成をとる。
【0030】
マイクロ波発振器2から発振されたマイクロ波3は、導波路9を伝播し、窓4に照射され、窓4を介して金属製容器5内を伝播し、更に充填層7を透過して、反応液流路6内の液8に照射される。マイクロ波3は、導波路9を伝播している間は進行方向が制御されているが、窓4を介して伝播する際に拡散する。拡散して進行したことにより反応液流路6に到達せず液8に吸収されなかったマイクロ波3は、充填層7を透過し、金属製容器5の内壁面で反射し、再度充填層7を透過して液8に吸収される。これを繰り返すことによって液8中での凹凸状コロイダルシリカ粒子同士の連結が促進される。
【0031】
尚、金属製容器5に設けられた窓4の数は一つに限らず、複数設けることも可能である。ただし、安全性の観点からは窓の個数は1〜5個であることが好ましい。窓5を複数設ける場合は、反応液流路6を流れる液8の流れに沿って、あるいは反応液流路6を流れる液8の流れ方向に対して反応液流路6の周囲を囲むように配置する。そして、それぞれの窓4に導波路9、マイクロ波発振器2を配置し、反応液流路6を流通する液8を連続的に加熱できるようにする。
【0032】
また、マイクロ波の照射効率を高めるために、金属製容器5の断面積(Sa)と、反応液流路6の断面積(Sb)との比(Sa)/(Sb)が4以上であることが好ましく、60以上であることが特に好ましく、80以上100以下であることがとりわけ好ましい。金属製容器5及び反応液流路6の各断面形状は円形、方形等が挙げられ、同種の形状であってもよく、異なる形状であってもよいが、耐圧性に優れることから金属製容器5及び反応液流路6の各断面とも円形であることが好ましく、これらが同心円状に配置されていることが特に好ましい。更に、このような構成の金属製容器5の円形断面直径(a)は、4mm以上であることが、マイクロ波を金属製容器内に伝播させる観点から好ましく、反応液流路6の円形断面直径(b)との比(a)/(b)は2以上であることがより好ましい。尚、金属製容器5の円形断面直径(a)の上限値は1000mm程度であり、反応液流路6の円形断面直径(b)の上限値は500mm程度である。
【0033】
また、金属製容器5の断面形状が方形であり、反応液流路6の断面形状が円形であり、金属製容器5内に反応液流路6が同軸に配設されたものも好ましい。この場合は、方形を構成する短辺の長さ(c)が4mm以上であることが好ましい。この理由は、マイクロ波を金属製容器5内に良好に伝播させることができるからである。また、短辺の長さ(c)と、反応液流路6の円形断面直径(b)との比(c)/(b)は2以上であることが好ましい。これは、マイクロ波をより均一に液8に照射できるからである。尚、容器断面が正方形である場合は、各辺を上記短辺として規定してもよい。また、長方形の場合の、短辺の長さが上記好ましい範囲であれば、長辺の長さ(d)については、特に制限されるものではない。
【0034】
更に、反応液流路6を流れる液8の液圧は0.001〜10MPa、より好ましくは0.001〜3MPaである。
【0035】
このようにして得られる凹凸状コロイダルシリカ粒子の凝集体は、凹凸状コロイダルシリカ粒子同士が珪酸により強固に連結したものであり、研磨液中で凝集体の状態を保って分散する。そして、ガラス基板の研磨に用いた場合、個々の凹凸状コロイダルシリカ粒子に分離することなく、凝集体の状態をほぼ保ちながらガラス基板の表面を水平移動する。そのため、研磨速度が速く、かつ、平坦性にも優れた研磨を行なうことができる。
【0036】
また、凹凸状コロイダルシリカ粒子の凝集体を含む研磨液を下記工程(F)〜(H)のようにして調製することもできる。
【0037】
工程(F):
先ず、上記工程(A)と同様にして、珪酸含有水溶液を調製し、pHを4以下に調整する。
【0038】
工程(G):
上記工程(F)の液のpHを9〜14、好ましくは9〜12に調整する。pH調整には水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムを用いるが、これら水酸化物は複数を混合して用いてもよい。
【0039】
工程(H):
上記工程(G)の液を、上記のマイクロ波加熱装置を用いて加熱する。
【0040】
研磨液としては、凹凸状コロイダルシリカ粒子の凝集体を含む限り制限はなく、界面活性剤、無機酸または有機酸を更に含む水性スラリーとすることができる。
【0041】
本発明はまた、上記の研磨液を用いてガラス基板を研磨する方法に関する。研磨対象となるガラス基板としては、石英ガラス、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、無アルカリガラス、結晶化ガラス、強化ガラス等が挙げられる。以下に、磁気ディスク用ガラス基板の研磨方法を例示する。
【0042】
先ず、例えばフロート法で成形したシリケートガラスから切り出した円形ガラス板の中央に円孔を開け、次いで面取り、主表面ラッピング、端面鏡面研磨を順次行う。また、主表面ラッピング工程を粗ラッピング工程と精ラッピング工程とに分け、それらの間に形状加工工程(円形ガラス板中央の孔開け、面取り、端面研磨)を設けてもよい。主表面研磨工程の後に化学強化工程を設けてもよい。
【0043】
次いで、主表面の研磨を行う。本発明においては、上記の凹凸状コロイダルシリカ粒子の凝集体を研磨材とする研磨液を用いる。主表面の研磨方法は従来と同様に行えばよく、例えば、2枚の研磨パッドで円形ガラス板を挟み、研磨液を研磨パッドと円形ガラス板との界面に供給しながら研磨パッドを回転させて行う。
【0044】
研磨パッドとしては、ショアD硬度が45〜75、圧縮率が0.1〜10%かつ密度が0.5〜1.5g/cmである発泡ウレタン樹脂、ショアA硬度が30〜99、圧縮率が0.5〜10%かつ密度が0.2〜0.9g/cmである発泡ウレタン樹脂、または、ショアA硬度が5〜65、圧縮率が0.1〜60%かつ密度が0.05〜0.4g/cmである発泡ウレタン樹脂からなるものが典型的である。尚、研磨パッドのショアA硬度は20以上であることが好ましい。20未満では研磨速度が低下するおそれがある。
【0045】
研磨圧力は、4kPa以上であることが好ましい。4kPa未満では研磨時のガラス基板の安定性が低下してばたつきやすくなり、その結果主表面のうねりが大きくなるおそれがある。
【0046】
主表面の研磨量は、0.3〜1.5μmが適当であり、研磨液の供給量や研磨時間、研磨液中のシリカ濃度、研磨圧力、回転数等を調整する。
【0047】
尚、上記の主表面研磨の前に、予備的に主表面を研磨してもよい。この予備的主表面研磨は、例えば、円形ガラス板を研磨パッドで挟み、酸化セリウム砥粒スラリーを供給しながら研磨パッドを回転させて行うことができる。
【0048】
そして、上記の主表面研磨の後、洗浄、乾燥して磁気ディスク用ガラス基板が得られる。洗浄及び乾燥は公知の方法で行われるが、例えば、酸性洗剤溶液への浸漬、アルカリ性洗剤溶液への浸漬、ベルクリン及びアルカリ洗剤によるスクラブ洗浄、アルカリ性洗剤溶液への浸漬、ベルクリン及びアルカリ洗剤によるスクラブ洗浄、アルカリ性洗剤溶液への浸漬した状態での超音波洗浄、純水浸漬状態での超音波洗浄、純水浸漬状態での超音波洗浄を順次行った後、スピンドライ乾燥もしくはイソプロピルアルコール蒸気乾燥等の方法で乾燥を行う。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。尚、研磨材のメディアン径(D1)、平均粒子径(D2)、会合比(D1/D2)、研磨試験方法、研磨速度及び表面粗さの測定方法は以下の通りである。
【0050】
(平均粒子径(D2))
透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子社製、JEM−1230)にて得られたTEM像の中から無作為に選ばれた100個の粒子の粒子径を測定し、平均することにより算出した。尚、比較例4の電子顕微鏡写真を図2A、実施例4の電子顕微鏡写真を図2Bに示す。
【0051】
(メディアン径(D1)及び会合比(D1/D2))
メディアン径(D1)をマイクロトラックUPA(日機装株式会社製)を用いて、動的光散乱法で測定し、上記平均粒子径(D2)との比を求めた。
【0052】
(研磨試験方法)
下記条件にてシリケートガラス円板を研磨した。
・研磨試験機:FAM−12B スピードファム株式会社製
・研磨パッド: KZBR−3N−101U フジボウ愛媛株式会社製
・盤回転数:40rpm
・研磨液供給速度:20cc /min
・研磨時間:10 m i n
・研磨荷重:12kPa
・研磨材濃度:15質量%(SiO換算)
・研磨液pH:2(1Mの硝酸にて調整)
【0053】
(研磨速度)
研磨前後の質量の差から研磨量を求めた。
【0054】
(表面粗さ)
研磨後の研磨面の表面粗さは、Veeco社製AFMを用いて測定した。
【0055】
(実施例1)
ガラス容器内に、水ガラス3号(日本化学工業株式会社製、29質量%)14.3gと水100gを入れ、15分攪拌し、その後、陽イオン交換樹脂(三菱化学株式会社製SK1BH)を添加し、15分攪拌した。この水溶液をろ過し、3.6質量%の珪酸水溶液114.3gを得た。pHは3.3であった。
【0056】
この珪酸水溶液に、攪拌しながら10質量%の硝酸カルシウム水溶液を7.6g添加し、15分攪拌して水溶液1を得た。pHは4.1であった。
【0057】
シリカドール40(日本化学工業株式会社製 pH9.1)255gに陽イオン交換樹脂(三菱化学株式会社製SK1BH)を添加してpHを3.1とし、水溶液2を得た。
【0058】
攪拌中の水溶液1に水溶液2を添加し、15分攪拌して水溶液3を得た。pHは4.1であった。
【0059】
水溶液3に、攪拌しながら2質量%の水酸化ナトリウム水溶液40gを2g/minの滴下速度で添加し、30分攪拌して水溶液4を得た。pHは9.1であった。
【0060】
水溶液4をマイクロ波加熱装置に入れ、210℃で3分保持し、凹凸状コロイダルシリカ粒子凝集体が分散した分散液を得た。TEMで観察したところこのコロイダルシリカ粒子は連結しており、この連結は珪酸による架橋によってなされていると考えられる。平均粒子径(D2)は31nm、メディアン径(D1)は78.5nm、会合比(D1/D2)は2.5であった。
【0061】
また、得られた凹凸状コロイダルシリカ粒子凝集体を15質量%含有する研磨液を調製し、研磨試験を行った。研磨速度と研磨表面粗さの結果を表1に示す。
【0062】
(実施例2)
マイクロ波加熱装置で、210℃で5分保持した以外は、実施例1と同様にして凹凸状コロイダルシリカ粒子凝集体の分散液を得た。TEMで観察したところこのコロイダルシリカ粒子は連結しており、この連結は珪酸による架橋によってなされていると考えられる。平均粒子径(D2)は31nm、メディアン径(D1)は120nm、会合比(D1/D2)は4であった。また、得られた凹凸状コロイダルシリカ粒子凝集体を15質量%含有する研磨液を調製し、研磨試験を行った。研磨速度と研磨表面粗さの結果を表1に示す。
【0063】
(実施例3)
シリカドール40(日本化学工業株式会社製 pH9.1)の代わりにシリカドール30(日本化学工業株式会社製 pH9.2)を用い、添加量を340gに変更した以外は実施例2と同様にして凹凸状コロイダルシリカ粒子凝集体の分散液を得た。TEMで観察したところこのコロイダルシリカ粒子は連結しており、この連結は珪酸による架橋によってなされていると考えられる。平均粒子径(D2)は13nm、メディアン径(D1)は51nm、会合比(D1/D2)は4.2であった。また、得られた凹凸状コロイダルシリカ粒子凝集体を15質量%含有する研磨液を調製し、研磨試験を行った。研磨速度と研磨表面粗さの結果を表1に示す。
【0064】
(実施例4)
ガラス容器内に、水ガラス4号(日本化学工業株式会社製、24質量%)28.4gと水108.1gを入れ、15分攪拌し、その後、陽イオン交換樹脂(三菱化学株式会社製SK1BH)を添加し、15分攪拌した。この水溶液をろ過し、5質量%の珪酸水溶液136.5gを得た。pHは3.0であった。
【0065】
この珪酸水溶液に、攪拌しながら2質量%の水酸化ナトリウム水溶液23.4gを2g/minの滴下速度で添加し、30分攪拌して水溶液を得た。pHは10.3であった。
【0066】
この水溶液をマイクロ波加熱装置に入れ、180℃で15分保持し、凹凸状コロイダルシリカ粒子が連結した鎖状コロイダルシリカ粒子を含む水溶液を得た(図2B参照)。なお、この連結は珪酸による架橋によってなされていると考えられる。平均粒子径(D2)は10nm、メディアン径(D1)は41nm、会合比(D1/D2)は4.1であった。また、得られた凹凸状コロイダルシリカ粒子凝集体を15質量%含有する研磨液を調製し、研磨試験を行った。研磨速度と研磨表面粗さの結果を表1に示す。
【0067】
(比較例1)
シリカドール40(日本化学工業株式会社製 pH9.1)を研磨材として15質量%含有する研磨液を調製し、研磨試験を行った。研磨速度と研磨表面粗さの結果を表1に示す。尚、平均粒子径(D2)は31nm、メディアン径(D1)は40nm、会合比(D1/D2)は1.2であった。
【0068】
(比較例2)
スノーテックスXL(日産化学工業株式会社製 pH9.2)を研磨材として15質量%含有する研磨液を調製し、研磨試験を行った。研磨速度と研磨表面粗さの結果を表1に示す。尚、平均粒子径(D2)は68nm、メディアン径(D1)は84nm、会合比(D1/D2)は1.2であった。
【0069】
(比較例3)
スノーテックスPS−MO(日産化学工業株式会社製 pH3.0)を研磨材として15質量%含有する研磨液を調製し、研磨試験を行った。研磨速度と研磨表面粗さの結果を表1に示す。尚、平均粒子径(D2)は31nm、メディアン径(D1)は62nm、会合比(D1/D2)は2.1であった。
【0070】
(比較例4)
コンポール20(株式会社フジミコーポレーテッド社製 pH3.0)を研磨材として15質量%含有する研磨液を調製し、研磨試験を行った。研磨速度と研磨表面粗さの結果を表1に示す。尚、平均粒子径(D2)は21nm、メディアン径(D1)は22nm、会合比(D1/D2)は1.0であった。
【0071】
【表1】

【0072】
表1に示すように、本発明に従う凹凸状コロイダルシリカ粒子凝集体を研磨材とする研磨液を用いることにより、高速研磨と高平坦性とを両立できる。
【符号の説明】
【0073】
1 連続式マイクロ波反応装置
2 マイクロ波発振器
3 マイクロ波
4 窓
5 金属製容器
6 反応液流路
7 充填層
8 液
9 導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が10〜50nmで表面に突起を持つ凹凸状コロイダルシリカ粒子が連結してなり、かつ、動的光散乱法によるメディアン径(D1)が30〜150nmで、透過型電子顕微鏡により測定した平均粒子径(D2)との比(D1/D2)が2〜5であるコロイダルシリカ粒子凝集体が水中に分散していることを特徴とするガラス基板用研磨液。
【請求項2】
コロイダルシリカ粒子凝集体の濃度が、SiO換算で0.5〜30質量%であることを特徴とする請求項1記載のガラス基板用研磨液。
【請求項3】
珪酸含有水溶液に、凝集剤と平均粒子径が10〜50nmで表面に突起を持つ凹凸状コロイダルシリカ粒子とを加え、液のpHを8〜10に調整した後、マイクロ波を用いて加熱することを特徴とするガラス基板用研磨液の製造方法。
【請求項4】
珪酸含有水溶液をイオン交換してpHを4以下にし、水酸化リチウム、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムからなる群から選ばれる1種以上を用いてpHを9〜14にした後、マイクロ波を用いて加熱することを特徴とするガラス基板用研磨液の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のガラス基板用研磨液を用いてガラス基板を研磨することを特徴とするガラス基板の研磨方法。
【請求項6】
請求項5に記載された研磨方法により得られたことを特徴するガラス基板。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【公開番号】特開2010−250915(P2010−250915A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102059(P2009−102059)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】