説明

ガラス粉粒体及びこれを含有するスラリー状混合物

【課題】優れた光触媒活性を有する光触媒機能性素材を提供する。
【解決手段】
光触媒特性を有する結晶を含有するガラス粉粒体および加熱されることによりガラス内に光触媒特性を有する結晶を生成するガラス粉粒体が提供される。これらのガラス粉粒体は、酸化物換算組成のモル%で、WO成分、及びTiO成分のうち少なくとも1種以上を10〜95%含有することができ、さらに、P成分、B成分、SiO成分、およびGeO成分のうち少なくとも1種以上の成分を5〜60%、を含有することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒機能性素材として有用な、あるいは、光触媒機能性素材となりうるガラス粉粒体及びこれを含有するスラリー状混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンや酸化タングステンは、高い光触媒活性を有することが知られている。これら光触媒活性を有する化合物(以下、単に「光触媒」と記すことがある)は、バンドギャップエネルギー以上のエネルギーの光が照射されると、電子や正孔を生成するため、光触媒を含む成形体の表面近傍において、酸化還元反応が強く促進される。また、光触媒を含む成形体の表面は、水に濡れ易い親水性を呈するため、雨等の水滴で洗浄される、いわゆるセルフクリーニング作用を有することが知られている。
【0003】
光触媒としては、主に酸化チタンが研究されてきたが、酸化チタンはバンドギャップが3〜3.2eVであるため、波長400nm以下の紫外線を照射する必要があり、可視光では十分な光触媒活性が得られないという欠点があった。一方、酸化タングステン(例えばWO)は、バンドギャップが約2.5eVであり、可視光応答性の光触媒活性を持つことから紫外線が少ない屋内でも利用できる長所がある。
【0004】
ところで、光触媒を基材に担持させる手法として、基材の表面に光触媒を含む膜を成膜する技術や、光触媒を基材中に含ませる技術などが検討されている。基材の表面に光触媒を含む膜を成膜する方法としては、塗布によって塗布膜を形成する塗布法のほか、スパッタリング、蒸着、ゾルゲル、CVD(化学気相成長)等の方法が知られている。例えば、特許文献1では、平均粒子径が0.01〜0.05μmの酸化タングステン微粒子をバインダーとともに含有する可視光応答型光触媒塗料が提案されている。また、特許文献2では、基材の表面に金属タングステンを酸素雰囲気でスパッタリングして酸化タングステン膜を成膜する方法が提案されている。
【0005】
一方、光触媒を基材中に含ませる技術として、酸化チタンに関するものであるが、例えば特許文献3では、SiO、Al、CaO、MgO、B、ZrO、及びTiOの各成分を所定量含有する光触媒用ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−56398号公報
【特許文献2】特開2001−152130号公報
【特許文献3】特開平9−315837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、従来技術では、基材の表面に光触媒を含む膜を成膜することによって、光触媒を担持させるという考え方を採用している。しかし、このような考え方に立脚する手法に共通の課題として、基材と光触媒を含む膜との密着性及び膜自体の耐久性を確保することが難しい点が挙げられる。つまり、これらの手法で製造された光触媒機能性製品は、光触媒を含む膜が基材から剥離したり、膜が劣化して光触媒機能が損なわれたりするおそれがある。例えば特許文献1のように、塗料を用いて塗布膜を形成した場合、塗布膜に残留している樹脂や有機バインダーが、紫外線等によって分解されたり、光触媒の触媒作用で酸化還元されたりする結果、塗布膜が経時的に劣化しやすく、耐久性が十分ではないという問題があった。
【0008】
また、塗布膜等の薄膜中に担持させた光触媒の活性を十分に引き出すためには、光触媒をナノサイズの超微粒子に加工する必要があるが、ナノサイズの超微粒子は作製コストが高くなるとともに、表面エネルギーの増大によって凝集しやすくなり、取り扱いが難しいという問題点があった。
【0009】
特許文献2のようにスパッタリングによって光触媒膜を形成する場合、微粒子化は必要でなく、基材と光触媒膜との密着性も多少改善されるが、成膜速度が遅いこと、スパッタリング装置などの大掛かりな設備が必要になること、適用できる基材の材質や形状が限定されること、などの問題があった。
【0010】
一方、特許文献3で開示される光触媒用ガラスは、ガラス中に酸化チタンを含有させている点で他の従来技術とは考え方を異にしている。しかし、特許文献3の技術では、光触媒である酸化チタンは結晶構造を有しておらず、アモルファスの形でガラス中に存在するため、その光触媒活性が弱く、不充分であった。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、優れた光触媒活性を有する光触媒機能性素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、光触媒特性を有する結晶をガラス中で生成させることにより、優れた光触媒機能性素材として利用できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の(1)〜(27)に存する。
【0013】
(1)光触媒特性を有する結晶を含有するガラス粉粒体。
【0014】
(2)前記光触媒特性を有する結晶は、ガラス成分がガラスの中で結晶化することによって生じたものである上記(1)に記載のガラス粉粒体。
【0015】
(3)加熱されることによりガラス内に光触媒特性を有する結晶を生成するガラス粉粒体。
【0016】
(4)前記加熱の温度が、前記ガラス体のガラス転移温度(Tg)以上であり且つTgより600℃高い温度以下である上記(3)に記載のガラス粉粒体。
【0017】
(5)前記光触媒特性を有する結晶は、WO、TiO、及びこれらの固溶体から選ばれるいずれか1つ以上である上記(1)から(4)のいずれかに記載のガラス粉粒体。
【0018】
(6)酸化物換算組成のモル%で、
WO成分、及びTiO成分のうち少なくとも1種以上を10〜95%、及び/又は
成分、B成分、SiO成分、およびGeO成分のうち少なくとも1種以上の成分を5〜60%、
を含有する上記(1)から(5)のいずれかに記載のガラス粉粒体。
【0019】
(7)酸化物換算組成のモル%で、
Al成分を0〜30%、及び/又は
Ga成分を0〜30%、及び/又は
In成分を0〜10%
含有する上記(1)から(6)のいずれかに記載のガラス粉粒体。
【0020】
(8)酸化物換算組成のモル%で、
ZrO成分を0〜20%、及び/又は
SnO成分を0〜10%
含有する上記(1)から(7)のいずれかに記載のガラス粉粒体。
【0021】
(9)酸化物換算組成のモル%で、
LiO成分を0〜40%、及び/又は
NaO成分を0〜40%、及び/又は
O成分を0〜40%、及び/又は
RbO成分を0〜10%、及び/又は
CsO成分を0〜10%及び/又は
MgO成分を0〜40%、及び/又は
CaO成分を0〜40%、及び/又は
SrO成分を0〜40%、及び/又は
BaO成分を0〜40%、及び/又は
Nb成分を0〜50%、及び/又は
Ta成分を0〜50%、及び/又は
MoO成分を0〜50%、及び/又は
ZnO成分を0〜50%、及び/又は
Bi成分を0〜20%、及び/又は
TeO成分を0〜20%、及び/又は
Ln成分(式中、LnはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選択される1種以上とする)を合計で0〜30%、及び/又は
成分(式中、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、Niからなる群より選択される1種以上とし、e及びfはそれぞれe:f=2:Mの価数、を満たす最小の自然数とする。ここで、Vの価数は5、Crの価数は3、Mnの価数は2、Feの価数は3、Coの価数は2、Niの価数は2とする。)を合計で0〜10%、及び/又は
As成分及び/又はSb成分を合計で0〜5%
の各成分を含有する上記(1)から(8)のいずれかに記載のガラス粉粒体。
【0022】
(10)F、Cl、Br、S、N及びCからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の成分を、酸化物基準のガラス全質量に対する外割り質量比で15%以下含む上記(1)から(9)のいずれかに記載のガラス粉粒体。
【0023】
(11)Cu、Ag、Au、Pd、Ru、Rh、Re及びPtからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粒子を、酸化物基準のガラス全質量に対する外割り質量比で10%以下含む上記(1)から(10)のいずれかに記載のガラス粉粒体。
【0024】
(12)平均粒径が、0.05μm〜5000μmの範囲内である上記(1)から(11)のいずれかに記載のガラス粉粒体。
【0025】
(13)上記(1)から(12)のいずれかに記載のガラス粉粒体と、溶媒と、を含有するスラリー状混合物。
【0026】
(14)前記溶媒は、水、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、酢酸、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、及びアセトンからなる群より選ばれる1種以上を含む上記(13)に記載のスラリー状混合物。
【0027】
(15)さらに、無機バインダー、及び有機バインダーから選ばれる1つ以上のバインダーを含有する上記(13)又は(14)に記載のスラリー状混合物
【0028】
(16)前記ガラス粉粒体の含有量が、混合物全体の2質量%以上である上記(13)から(15)のいずれかに記載のスラリー状混合物。
【0029】
(17)上記(1)から(12)のいずれかに記載のガラス粉粒体を固化成形してなる成形部材。
【0030】
(18)上記(1)から(12)のいずれかに記載のガラス粉粒体を含有する塗料。
【0031】
(19)上記(18)に記載の光触媒機能性塗料を部材に塗布することで作られる塗膜形成部材。
【0032】
(20)光触媒特性を有する結晶を含有する結晶化ガラス粉粒体の製造方法であって、
原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、前記ガラス体に熱処理を施し、結晶化ガラスを作製する結晶化工程と、前記結晶化ガラスを粉砕して前記結晶化ガラス粉粒体を作製する粉砕工程と、を有する結晶化ガラス粉粒体の製造方法。
【0033】
(21)光触媒特性を有する結晶を含有する結晶化ガラス粉粒体の製造方法であって、
原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、前記ガラス体を粉砕して未結晶化ガラス粉粒体を作製する粉砕工程と、前記未結晶化ガラス粉粒体に熱処理を施し、前記結晶化ガラス粉粒体を作製する結晶化工程と、を有する結晶化ガラス粉粒体の製造方法。
【0034】
(22)前記熱処理を、前記ガラス体のガラス転移温度(Tg)以上であり且つTgより600℃高い温度以下で行う上記(20)又は(21)に記載の結晶化ガラス粉粒体の製造方法。
【0035】
(23)結晶化ガラス粉粒体と溶媒とを含有するスラリー状混合物の製造方法であって、原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、前記ガラス体に熱処理を施し、結晶化ガラスを作製する結晶化工程と、前記結晶化ガラスを粉砕して前記結晶化ガラス粉粒体を作製する粉砕工程と、前記結晶化ガラス粉粒体を溶媒に分散させる混合工程と、を有するスラリー状混合物の製造方法。
【0036】
(24)結晶化ガラス粉粒体と溶媒とを含有するスラリー状混合物の製造方法であって、原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、前記ガラス体を粉砕して未結晶化ガラス粉粒体を作製する粉砕工程と、前記未結晶化ガラス粉粒体に熱処理を施し、前記結晶化ガラス粉粒体を作製する結晶化工程と、前記結晶化ガラス粉粒体を溶媒に分散させる混合工程と、を有するスラリー状混合物の製造方法。
【0037】
(25)前記熱処理を、前記ガラス体のガラス転移温度(Tg)以上であり且つTgより600℃高い温度以下で行う上記(23)又は(24)に記載のスラリー状混合物の製造方法。
【0038】
(26)粉粒体の凝集体を除去する工程を有する上記(23)から(25)のいずれかに記載のスラリー状混合物の製造方法。
【0039】
(27)前記凝集体の除去は、前記スラリー状混合物を濾過することで行う上記(26)に記載のスラリー状混合物の製造方法。
【発明の効果】
【0040】
本発明のガラス粉粒体は、光触媒特性を有する結晶を含有するか、あるいは、加熱されることによって粉粒体内部に前記結晶を生成させ得るものであるため、優れた光触媒活性を有する光触媒機能性素材として、あるいは光触媒機能を潜在的に有する素材として有用なものである。また、本発明のガラス粉粒体は、粉粒状をしているために、他の成分を混合しやすく、基材等への適用も容易であり、さらに、例えばスラリー状、固形状など任意の形態にも加工しやすい。従って、その用途や、適用される基材等の種類や形状に応じて最適な形態で提供でき、様々な光触媒機能性部材への適用が可能である。
【0041】
また、本発明のガラス粉粒体では、原料の配合組成と熱処理温度の制御によってガラス相から光触媒活性を呈する結晶相を生成させ得るため、凝集し易く取り扱いが難しいナノサイズの光触媒結晶材料を必ずしも用いる必要がなく、特殊な設備を用いる必要もない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例1のガラス粉粒体(結晶化後)についてのXRDパターンである。
【図2】本発明の実施例11のガラス粉粒体(結晶化後)についてのXRDパターンである。
【図3】本発明の実施例1bのガラス粉粒体(結晶化後)についてのメチレンブルー分解活性評価の結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例14のガラス粉粒体(結晶化後)についてのメチレンブルー分解活性評価の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
<ガラス粉粒体>
本発明に係るガラス粉粒体は、ガラス内に光触媒特性を有する結晶を含有するか、あるいは、加熱されることにより、ガラス内に前記結晶を生成させ得るものである。この結晶はガラス粉粒体を構成する非晶質のガラスの内部及び表面に均一に分散して存在し、または生成する。
【0044】
「ガラス粉粒体」が結晶を含む場合は、ガラス粉粒体は光触媒特性を有している。このようなガラス粉粒体は、原料組成物から得られたガラス体を粉砕した後結晶化させるか、あるいは原料組成物から得られたガラス体を熱処理して結晶化させた後に粉砕することにより得られる。本明細書では、このように結晶を含むガラス粉粒体を「結晶化ガラス粉粒体」と記すことがある。一方、「ガラス粉粒体」が結晶相を含まない場合は、ガラス粉粒体は光触媒特性を有しておらず、ガラス粉粒体を加熱することにより、結晶相を析出させることができる。本明細書では、このように、熱処理によって光触媒特性を有する結晶を生成させることができるガラス粉粒体を「未結晶化ガラス粉粒体」と記すことがある。単にガラス粉粒体というときは、「結晶化ガラス粉粒体」と「未結晶化ガラス粉粒体」の両方を含む意味で用いる。
【0045】
[結晶化ガラス粉粒体]
次に、本発明の結晶化ガラス粉粒体の組成について説明する。本明細書中において、各成分の含有率は、特に断りがない場合、全て酸化物換算組成のガラス体(あるいは結晶化ガラス)の全物質量に対するモル%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、結晶化前のガラス体の構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総物質量を100モル%として、ガラス体中に含有される各成分を表記した組成である。
【0046】
結晶化ガラス粉粒体を作るために用いる原料組成物は、得られるガラス体が酸化物換算組成のモル%で、
WO成分、及びTiO成分のうち少なくとも1種以上を10〜95%、及び/又は
成分、B成分、SiO成分、およびGeO成分のうち少なくとも1種以上の成分を5〜60%、及び/又は
Al成分を0〜30%、及び/又は
Ga成分を0〜30%、及び/又は
In成分を0〜10%、及び/又は
ZrO成分を0〜20%、及び/又は
SnO成分を0〜10%、及び/又は
LiO成分を0〜40%、及び/又は
NaO成分を0〜40%、及び/又は
O成分を0〜40%、及び/又は
RbO成分を0〜10%、及び/又は
CsO成分を0〜10%及び/又は
MgO成分を0〜40%、及び/又は
CaO成分を0〜40%、及び/又は
SrO成分を0〜40%、及び/又は
BaO成分を0〜40%、及び/又は
Nb成分を0〜50%、及び/又は
Ta成分を0〜50%、及び/又は
MoO成分を0〜50%、及び/又は
ZnO成分を0〜50%、及び/又は
Bi成分を0〜20%、及び/又は
TeO成分を0〜20%、及び/又は
Ln成分(式中、LnはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選択される1種以上とする)を合計で0〜30%、及び/又は
成分(式中、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、Niからなる群より選択される1種以上とし、e及びfはそれぞれe:f=2:Mの価数、を満たす最小の自然数とする。ここで、Vの価数は5、Crの価数は3、Mnの価数は2、Feの価数は3、Coの価数は2、Niの価数は2とする。)を合計で0〜10%、及び/又は
As成分及び/又はSb成分を合計で0〜5%、及び/又は
F、Cl、Br、S、N及びCからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の成分を、酸化物基準のガラス全質量に対する質量比で0〜15%、及び/又は
Cu、Ag、Au、Pd、Ru、Rh、Re及びPtからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粒子を、酸化物基準のガラス全質量に対する質量比で0〜10%、
含有するように調製されたものを用いることが好ましい。
【0047】
酸化タングステンは、結晶化ガラス粉粒体に光触媒特性をもたらす成分である。酸化タングステンは、原料や調製方法により2〜6価の酸化物になり、WO、WO、W、W11、WO、W、W及びW14が存在する。本発明では、光触媒活性を持つ限り酸化タングステンの種類は問わないが、特に強い光触媒活性を有するWOを含むことが好ましい。従って、以下の説明では酸化タングステンの代表例としてWOを挙げて説明する。WOは、波長480nmまでの可視光を吸収して光触媒活性を奏するため、結晶化ガラス粉粒体に可視光応答性の光触媒特性を付与する。WOは、立方晶系、正方晶系、斜方晶系、単斜晶系及び三斜晶系の結晶構造を持つことが知られているが、光触媒活性を有する限り、どの結晶構造のものでもよい。
【0048】
WO結晶は、他の元素との固溶体の状態で結晶化ガラス粉粒体中に存在していてもよい。ここで、前記固溶体としては、例えばMo1−q、RnTaW1−q、RnNb1−q、RZr1−q(式中、RnはLi、Na、K、Rb、Csから選ばれる1種以上とし、RはMg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種以上とし、qは化学量論的にとり得る数を意味する)などを挙げることができる。なお、固溶体は置換型固溶体でも侵入型固溶体でもよい。
【0049】
本発明では、酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%でWO成分を10〜95%の範囲内で含有させることが好ましい。WO成分は任意成分であるが、WO成分の含有量が10%未満では、WO結晶を十分な量で生成させることができず、十分な光触媒活性が得られない。一方、WO成分の含有量が95%を超えると、ガラスの安定性が損なわれる。従って、WO成分を添加する場合は、酸化物換算組成の全物質量に対するWO成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは15%、最も好ましくは20%を下限とし、好ましくは95%、より好ましくは80%、最も好ましくは75%を上限とする。WO成分は、原料として例えばWO等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0050】
TiO成分は、結晶化することにより、TiOの結晶、又はリンとの化合物の結晶をガラスから析出させ、結晶化ガラス粉粒体に特に紫外線領域で強い光触媒活性を付与する成分である。TiO成分は任意成分であるが、結晶化ガラス粉粒体中にWO結晶と組み合わせてTiO結晶を含有させることによって、結晶化ガラス粉粒体に紫外線から可視光までの幅広い範囲の波長に対する応答性を持つ光触媒活性を付与できる。酸化チタンの結晶型としては、アナターゼ(Anatase)型、ルチル(Rutile)型及びブルッカイト(Brookite)型が知られているが、アナターゼ型及びブルッカイト型が好ましく、特に高い光触媒特性をもつアナターゼ型の酸化チタンを析出させることが有利である。また、TiO成分は、P成分と組み合わせて含有させることによって、より低い熱処理温度でTiO結晶を析出させることが可能になり、光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減することができる。また、TiO成分はWO結晶相の核形成剤の役割を果たす効果もあるので、WO結晶相の析出に寄与する。しかし、TiO成分の含有量が60%を超えると、ガラス化が非常に難しくなる。従って、TiO成分を添加する場合は、酸化物換算組成の全物質量に対するTiO成分の含有量は、好ましくは1%、より好ましくは5%、最も好ましくは10%を下限とし、好ましくは60%、より好ましくは50%、最も好ましくは45%を上限とする。TiO成分は、原料として例えばTiO等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0051】
本発明の結晶化ガラス粉粒体は、酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%でWO成分、及びTiO成分のうち少なくとも1種以上を10〜95%の範囲内で含有することが好ましい。特に、WO成分、及びTiO成分の合計量を10%以上とすることで、十分な光触媒活性が得られるとともに、95%以下にすることで、ガラスの安定性が得られる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する、合計量(WO+TiO)は、好ましくは10%、より好ましくは15%、最も好ましくは20%を下限とし、好ましくは95%、より好ましくは80%、最も好ましくは75%を上限とする。
【0052】
成分は、ガラスの網目構造を構成する成分であり、任意に添加できる成分である。ガラス体を、P成分が網目構造の主成分であるリン酸塩系ガラスにすることにより、より多くのWO成分をガラスに取り込ませることができる。また、P成分を配合することによって、より低い熱処理温度でWO結晶を析出させることが可能であるとともに、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、Pの含有量が60%を超えるとWO結晶相が析出し難くなる。従って、P成分を添加する場合は、酸化物換算組成の全物質量に対するP成分の含有量は、好ましくは1%、より好ましくは5%、最も好ましくは15%を下限とし、好ましくは60%、より好ましくは50%、最も好ましくは40%を上限とする。P成分は、原料として例えばAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、Na(PO)、BPO、HPO等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0053】
成分は、ガラスの網目構造を構成し、ガラスの安定性を高める成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、その含有量が60%を超えると、WO結晶相が析出し難い傾向が強くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するB成分の含有量は、好ましくは60%、より好ましくは50%、最も好ましくは40%を上限とする。B成分は、原料として例えばHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0054】
SiO成分は、ガラスの網目構造を構成し、ガラスの安定性と化学的耐久性を高める成分であるとともに、Si4+イオンが析出したWO結晶相の近傍に存在し、光触媒活性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、SiO成分の含有量が60%を超えると、ガラスの溶融性が悪くなり、WO結晶相が析出し難くなる。従って、SiO成分を添加する場合、酸化物換算組成の全物質量に対するSiO成分の含有量は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%を下限とし、好ましくは60%、より好ましくは50%、最も好ましくは40%を上限とする。SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0055】
GeO成分は、上記のSiOと相似な働きを有する成分であり、ガラス体中に任意に添加できる成分である。特に、GeO成分の含有量を60%以下にすることで、高価なGeO成分の使用が抑えられるため、ガラス体の材料コストを低減することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するGeO成分の含有量は、好ましくは60%、より好ましくは45%、最も好ましくは30%を上限とする。GeO成分は、原料として例えばGeO等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0056】
以上のP成分、B成分、SiO成分及びGeO成分は、それぞれ単独では任意成分である。しかし、ガラス体は、結晶化ガラス粉粒体の前駆体であるガラスを得るために、P成分、B成分、SiO成分及びGeO成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を5以上60%以下の範囲内で含有することが好ましい。特に、P成分、B成分、SiO成分及びGeO成分の合計量を60%以下にすることで、ガラスの溶融性、安定性及び化学耐久性が向上するとともに、熱処理後の結晶化ガラス粉粒体にひび割れが生じ難くなるので、より高い機械強度の結晶化ガラス粉粒体が簡単に得られ、さらに目的の結晶相がより析出しやすくなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(P+B+SiO+GeO)は、好ましくは60%、より好ましくは55%、最も好ましくは45%を上限とする。なお、P成分、B成分、SiO成分及びGeO成分を含有しなくとも光触媒特性を有する結晶化ガラス粉粒体を得ることは可能であるが、P成分、B成分、SiO成分及びGeO成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を含有することにより、その特性が更に向上する。これらの成分の合計量が5%未満であると、ガラスが得られにくくなるので、5%以上の添加が好ましく、10%以上がより好ましく、20%以上が最も好ましい。
【0057】
LiO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させ、熱処理後の結晶化ガラス粉粒体にひび割れを生じ難くさせる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてWO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、LiO成分の含有量が40%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、WO結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するLiO成分の含有量は、好ましくは40%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0058】
NaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させ、熱処理後の結晶化ガラス粉粒体にひび割れを生じ難くさせる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてWO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、NaO成分の含有量が40%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、WO結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するNaO成分の含有量は、好ましくは40%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。NaO成分は、原料として例えばNaO、NaCO、NaNO、NaF、NaS、NaSiF等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0059】
O成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させ、熱処理後の結晶化ガラス粉粒体にひび割れを生じ難くさせる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてWO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、KO成分の含有量が40%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、WO結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するKO成分の含有量は、好ましくは40%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。KO成分は、原料として例えばKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0060】
RbO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させ、熱処理後の結晶化ガラス粉粒体にひび割れを生じ難くさせる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてWO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、RbO成分の含有量が10%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、WO結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するRbO成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは5%を上限とする。RbO成分は、原料として例えばRbCO、RbNO等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0061】
CsO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させ、熱処理後の結晶化ガラス粉粒体にひび割れを生じ難くさせる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてWO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、CsO成分の含有量が10%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、WO結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するCsO成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは5%を上限とする。CsO成分は、原料として例えばCsCO、CsNO等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0062】
ガラス体は、以上のアルカリ金属酸化物であるRnO(式中、RnはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選択される1種以上)成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を40%以下含有することが好ましい。特に、RnO成分の合計量を40%以下にすることで、ガラスの安定性が向上し、WO結晶相が析出し易くなるため、結晶化ガラス粉粒体の触媒活性を確保することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する、RnO成分の合計量は、好ましくは40%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。また、RnO成分を含有する場合、その効果を発現させるためには、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、もっとも好ましくは1%を下限とする。
【0063】
MgO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてWO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、MgO成分の含有量が40%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、WO結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するMgO成分の含有量は、好ましくは40%、より好ましくは30%、最も好ましくは20%を上限とする。MgO成分は、原料として例えばMgCO、MgF等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0064】
CaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてWO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、CaO成分の含有量が40%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、WO結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するCaO成分の含有量は、好ましくは40%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。CaO成分は、原料として例えばCaCO、CaF等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0065】
SrO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてWO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、SrO成分の含有量が40%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、WO結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するSrO成分の含有量は、好ましくは40%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。SrO成分は、原料として例えばSr(NO、SrF等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0066】
BaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてWO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、BaO成分の含有量が40%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなりWO結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するBaO成分の含有量は、好ましくは40%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。BaO成分は、原料として例えばBaCO、Ba(NO、BaF等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0067】
ガラス体は、以上のアルカリ土類金属酸化物であるRO(式中、RはMg、Ca、Sr及びBaからなる群より選択される1種以上)成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を50%以下含有することが好ましい。特に、RO成分の合計量を50%以下にすることで、ガラスの安定性が向上し、WO結晶相が析出し易くなるため、結晶化ガラス粉粒体の触媒活性を確保することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する、RO成分の合計量は、好ましくは50%、より好ましくは40%、最も好ましくは30%を上限とする。また、RO成分を含有する場合、その効果を発現させるためには、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、もっとも好ましくは1%を下限とする。
【0068】
また、ガラス体は、RO(式中、RはMg、Ca、Sr及びBaからなる群より選択される1種以上)成分及びRnO(式中、RnはLi、Na、K、Rb、Csからなる群より選択される1種以上)成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を50%以下含有することが好ましい。特に、RO成分及びRnO成分の合計量を50%以下にすることで、ガラスの安定性が向上し、ガラス転移温度(Tg)が下がり、ひび割れが生じ難く機械的な強度の高い結晶化ガラス粉粒体がより容易に得られる。一方で、RO成分及びRnO成分の合計量が50%より多いと、ガラスの安定性が悪くなり、WO結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(RO+RnO)は、好ましくは50%、より好ましくは40%、最も好ましくは30%を上限とする。また、RO成分及びRnOを含有する場合、その効果を発現させるためには、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、もっとも好ましくは1%を下限とする。
【0069】
ここで、ガラス体は、RO(式中、RはMg、Ca、Sr及びBaからなる群より選択される1種以上)成分及びRnO(式中、RnはLi、Na、K、Rb、Csからなる群より選択される1種以上)成分から選ばれる成分のうち2種類以上を含有することにより、ガラスの安定性が大幅に向上し、熱処理後の結晶化ガラス粉粒体の機械強度がより高くなり、WO結晶相がガラスからより析出し易くなる。従って、ガラス体は、RO成分及びRnO成分から選ばれる成分のうち2種類以上を含有することが好ましい。
【0070】
Al成分は、ガラスの安定性及び結晶化ガラス粉粒体の化学的耐久性を高め、ガラスからのWO結晶相の析出を促進し、且つAl3+イオンがWO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、その含有量が30%を超えると、溶解温度が著しく上昇し、ガラス化し難くなる。従って、Al成分を添加する場合は、酸化物換算組成の全物質量に対するAl成分の含有量は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1%を下限とし、好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは15%を上限とする。Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0071】
Ga成分は、ガラスの安定性を高め、ガラスからのWO結晶相の析出を促進し、且つGa3+イオンがWO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、その含有量が30%を超えると、溶解温度が著しく上昇し、ガラス化し難くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するGa成分の含有量は、好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは10%を上限とする。Ga成分は、原料として例えばGa、GaF等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0072】
In成分は、上記のAl及びGaと相似な効果がある成分であり、任意に添加できる成分である。In成分は高価なため、その含有量の上限は10%以下にすることが好ましく、8%以下にすることがより好ましく、5%以下にすることが最も好ましい。In成分は、原料として例えばIn、InF等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0073】
ガラス体は、M成分(式中、Mは、Al、Ga、及びInからなる群より選ばれる1種以上である。)、すなわち、Al成分、Ga成分、及びIn成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を50%以下含有することが好ましい。特に、これらの成分の合計量を50%以下にすることで、WO結晶相がより析出し易くなるため、結晶化ガラス粉粒体の光触媒特性のさらなる向上に寄与することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(Al+Ga+In)は、好ましくは50%、より好ましくは40%、最も好ましくは30%を上限とする。なお、M成分を全く含有しなくとも高い光触媒特性を有する結晶化ガラス粉粒体を得ることは可能であるが、これらの成分の合計量を0.1%以上にすることで、WO結晶相の析出がさらに促進されるため、結晶化ガラス粉粒体の光触媒特性のさらなる向上に寄与することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(Al+Ga+In)は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1%を下限とする。
【0074】
ZrO成分は、ガラスの化学的耐久性を高め、WO結晶の析出を促進し、且つZr4+イオンがWO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、ZrO成分の含有量が20%を超えると、ガラス化し難くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するZrO成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrF等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0075】
SnO成分は、WO結晶の析出を促進し、W6+の還元を抑制してWO結晶相を得易くし、且つWO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に効果がある成分であり、また、光触媒活性を高める作用のある後述のAgやAuやPtイオンと一緒に添加する場合は還元剤の役割を果たし、間接的に光触媒の活性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が10%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するSnO成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは5%を上限とする。また、これらの成分を添加する場合は、好ましくは0.01%、より好ましくは0.02%、最も好ましくは0.03%を下限とする。SnO成分は、原料として例えばSnO、SnO、SnO等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0076】
ガラス体は、M成分(式中、Mは、Zr及びSnからなる群より選ばれる1種以上である。c及びdは、c:d=2:Mの価数、を満たす最小の自然数である。ここで、Zrの価数は4、Snの価数は2とする。)、すなわち、ZrO成分、及びSnO成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を20%以下含有することが好ましい。特に、これらの成分の合計量を20%以下にすることで、ガラスの安定性が確保されるため、良好な結晶化ガラス粉粒体を形成することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(ZrO+SnO)は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。なお、M成分を全く含有しなくとも高い光触媒特性を有する結晶化ガラス粉粒体を得ることは可能であるが、これらの成分の合計量を0.1%以上にすることで、結晶化ガラス粉粒体の光触媒特性をさらに向上させることができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(ZrO+SnO)は、好ましくは0.01%、より好ましくは0.02%、最も好ましくは0.03%を下限とする。
【0077】
Nb成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、且つWO結晶相に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、Nb成分の含有量が50%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するNb成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは20%を上限とする。Nb成分は、原料として例えばNb等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0078】
Ta成分は、ガラスの安定性を高める成分であり、且つWO結晶相に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、Ta成分の含有量が50%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するTa成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは20%を上限とする。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0079】
MoO成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、且つWO結晶相に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、MoO成分の含有量が50%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するMoO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは20%を上限とする。MoO成分は、原料として例えばMoO等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0080】
ガラス体は、M成分(式中、Mは、Nb、Ta、及びMoからなる群より選ばれる1種以上である。a及びbは、a:b=2:Mの価数、を満たす最小の自然数である。ここで、Nbの価数は5、Taの価数は5、Moの価数は6とする。)、すなわち、Nb成分、Ta成分、及びMoO成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を50%以下含有することが好ましい。特に、これらの成分の合計量を50%以下にすることで、ガラスの安定性が確保されるため、良好な結晶化ガラス粉粒体を形成することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(Nb+Ta+MoO)は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは20%を上限とする。なお、M成分を全く含有しなくとも高い光触媒特性を有する結晶化ガラス粉粒体を得ることは可能であるが、これらの成分の合計量を0.1%以上にすることで、結晶化ガラス粉粒体の光触媒特性をさらに向上することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(Nb+Ta+MoO)は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1%を下限とする。
【0081】
ZnO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてWO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、ZnO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、WO結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するZnO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは40%、最も好ましくは30%を上限とする。ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnF等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0082】
Bi成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてWO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、Bi成分の含有量が20%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、WOの析出が難しくなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するBi成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。Bi成分は、原料として例えばBi等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0083】
TeO成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてWO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、TeO成分の含有量が20%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、WOの析出が難しくなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するTeO成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。TeO成分は、原料として例えばTeO等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0084】
Ln成分(式中、LnはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選択される1種以上とする)は、ガラスの化学的耐久性を高める成分であり、且つWO結晶相に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、Ln成分の含有量の合計が30%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する、Ln成分の合計量は、好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは10%を上限とする。Ln成分の内、特にCe成分がW6+の還元を防ぎ、WOの析出を促進するため、光触媒特性の向上に顕著に寄与する効果がある。Ln成分は、原料として例えばLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)、Gd、GdF、Y、YF、CeO、CeF、Nd、Dy、Yb、Lu等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0085】
成分(式中、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、Niからなる群より選択される1種以上とし、e及びfはそれぞれe:f=2:Mの価数、を満たす最小の自然数とする。ここで、Vの価数は5、Crの価数は3、Mnの価数は2、Feの価数は3、Coの価数は2、Niの価数は2とする。)は、WO結晶相に固溶するか、又はその近傍に存在することで、光触媒特性の向上に寄与し、且つ一部の波長の可視光を吸収して結晶化ガラス粉粒体に外観色を付与する成分であり、任意成分である。特に、M成分の合計量を10%以下にすることで、ガラスの安定性を高め、結晶化ガラス粉粒体の外観の色を容易に調節することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する、M成分の合計量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは5%を上限とする。また、これらの成分を添加する場合は、好ましくは0.0001%、より好ましくは0.002%、最も好ましくは0.005%を下限とする。
【0086】
As成分及び/又はSb成分は、結晶化ガラス粉粒体を清澄させ、脱泡させる成分であり、また、光触媒活性を高める作用のある後述のAgやAuやPtイオンと一緒に添加する場合は、還元剤の役割を果たすので、間接的に光触媒活性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が合計で5%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するAs成分及び/又はSb成分の含有量の合計は、好ましくは5%、より好ましくは3%、最も好ましくは1%を上限とする。また、これらの成分を添加する場合は、好ましくは0.001%、より好ましくは0.002%、最も好ましくは0.005%を下限とする。As成分及びSb成分は、原料として例えばAs、As、Sb、Sb、NaSb・5HO等を用いてガラス体中に導入することができる。
【0087】
なお、結晶化ガラス粉粒体を清澄させ、脱泡させる成分は、上記のAs成分及びSb成分に限定されるものではなく、例えばCeO成分やTeO成分等のような、ガラス製造の分野における公知の清澄剤や脱泡剤、或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0088】
ガラス体には、N成分、S成分、F成分、Cl成分、Br成分、及びC成分からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の非金属元素成分が含まれていてもよい。これらの成分は、WO結晶相に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が合計で15%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、良好な特性を確保するために、酸化物換算組成のガラス体全質量に対する非金属元素成分の含有量の外割り質量比の合計は、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。これらの非金属元素成分は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のフッ化物、塩化物、臭化物、硫化物、窒化物、炭化物等の形でガラス体中に導入するのが好ましい。なお、本明細書における非金属元素成分の含有量は、ガラス体を構成するカチオン成分全てが電荷の釣り合うだけの酸素と結合した酸化物でできていると仮定し、それら酸化物でできたガラス全体の質量を100%として、非金属元素成分の質量を質量%で表したもの(酸化物基準の質量に対する外割り質量%)である。非金属元素成分の原料は特に限定されないが、例えば、N成分の原料としてAlN、SiN等、S成分の原料としてNaS,Fe,CaS等、F成分の原料としてZrF、AlF、NaF、CaF等、Cl成分の原料としてNaCl、AgCl等、Br成分の原料としてNaBr等、C成分の原料としてTiC、SiC又はZrC等を用いることで、ガラス体中に導入することができる。なお、これらの非金属元素成分の原料は、二種以上を組み合わせて使用してもよいし、単独で使用してもよい。
【0089】
ガラス体には、Cu成分、Ag成分、Au成分、Pd成分、Ru成分、Rh成分、Re成分及びPt成分から選ばれる少なくとも1種の金属元素成分が含まれていてもよい。これらの金属元素成分はWO結晶相の近傍に存在することで、光触媒活性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの金属元素成分の含有量の合計が10%を超えるとガラスの安定性が著しく悪くなり、光触媒特性がかえって低下し易くなる。従って、酸化物換算組成のガラス体全質量に対する上記金属元素成分の含有量の外割り質量比の合計は、好ましくは10%、より好ましくは5%、最も好ましくは1%を上限とする。これらの金属元素成分は、原料として例えばCuO、CuO、AgO、AuCl、PtCl、HPtCl、RuO、RhCl、ReCl、PdCl等を用いてガラス体中に導入することができる。これらの金属元素成分の原料は、二種以上を組み合わせて使用してもよいし、単独で使用してもよい。なお、本明細書における金属元素成分の含有量は、ガラス体を構成するカチオン成分全てが電荷の釣り合うだけの酸素と結合した酸化物でできていると仮定し、それら酸化物でできたガラス全体の質量を100%として、金属元素成分の質量を質量%で表したもの(酸化物基準の質量に対する外割り質量%)である。
【0090】
ガラス体には、上記成分以外の成分を結晶化ガラス粉粒体の特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。但し、PbO等の鉛化合物、Th、Cd、Tl、Os、Se、Hgの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、結晶化ガラス粉粒体の製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、結晶化ガラス粉粒体に環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、この結晶化ガラス粉粒体を製造し、加工し、及び廃棄することができる。
【0091】
ガラス体の組成は、酸化物換算組成の全物質量に対するモル%で表されているため直接的に質量%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たす組成物中に存在する各成分の質量%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
WO成分 10〜90質量%
並びに
成分 0〜50質量%及び/又は
成分 0〜50質量%及び/又は
SiO成分 0〜50質量%及び/又は
GeO成分 0〜40質量%及び/又は
TiO成分 0〜80質量%及び/又は
LiO成分 0〜15質量%及び/又は
NaO成分 0〜30質量%及び/又は
O成分 0〜30質量%及び/又は
RbO成分 0〜25質量%及び/又は
CsO成分 0〜30質量%及び/又は
MgO成分 0〜20質量%及び/又は
CaO成分 0〜25質量%及び/又は
SrO成分 0〜45質量%及び/又は
BaO成分 0〜45質量%及び/又は
Al成分 0〜35質量%及び/又は
Ga成分 0〜35質量%及び/又は
In成分 0〜10質量%及び/又は
ZrO成分 0〜30質量%及び/又は
SnO成分 0〜15質量%及び/又は
Nb成分 0〜60質量%及び/又は
Ta成分 0〜70質量%及び/又は
MoO成分 0〜60質量%及び/又は
ZnO成分 0〜45質量%及び/又は
Bi成分 0〜60質量%及び/又は
TeO成分 0〜20質量%及び/又は
Ln成分 合計で0〜50質量%及び/又は
成分 合計で0〜20質量%及び/又は
As成分及びSb成分 合計で0〜10質量%
さらに、
前記酸化物換算組成のガラス体全質量100%に対して、
N成分、S成分、F成分、Cl成分、Br成分、及びC成分からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の非金属元素成分 0〜15質量%及び/又は
Cu成分、Ag成分、Au成分、Pd成分、Ru成分、Rh成分、Re成分、及びPt成分からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素成分 0〜10質量%
【0092】
上記の条件を満たす限りにおいて、原料組成物は、ガラス形成酸化物等を含む非ガラス原料(通常、粉体であり、「バッチ」と称される)であっても、非ガラス体がガラス化されたガラス原料(通常、破砕物であり、「カレット」と称される)であってもよい。
【0093】
本発明の結晶化ガラス粉粒体は、結晶相に、WO、TiO、これらの固溶体のうち1種以上からなる結晶が含まれていることが好ましい。また、結晶相に、さらにTiP、及び(TiO)のうち1種以上からなる結晶が含まれていることがより好ましい。また、TiO結晶は、アナターゼ(Anatase)型又はブルッカイト(Brookite)型の結晶であることがより好ましい。これらの結晶が含まれていることにより、結晶化ガラス粉粒体は高い光触媒機能を有することができる。
【0094】
また、結晶化ガラス粉粒体は、チタンリン酸化合物、特にRnTi(PO結晶又はその固溶体、もしくはRTi(PO結晶又はその固溶体を含有することが好ましい(式中、RnはLi、Na、K、Rb、Csから選ばれる1種以上とし、RはMg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種以上とする。ガラスからこれらの結晶相が析出することにより、より高い光触媒効果が発現できる。このようなチタンリン酸化合物としては、LiTi(PO、NaTi(PO、KTi(PO、MgTi(PO、CaTi(PO、SrTi(PO、BaTi(POなどを例示できる。
【0095】
また、結晶化ガラス粉粒体は、WO、TiO、TiP、(TiO)、RnTi(PO、RTi(PO、及びこれらの固溶体のうち1種以上からなる結晶相をガラス全体積に対する体積比で1%以上95%以下の範囲内で含んでいることが好ましい(式中、RnはLi、Na、K、Rb、Csから選ばれる1種以上とし、RはMg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種以上とする)。これらの結晶相の含有率が1%以上であることにより、結晶化ガラス粉粒体は良好な光触媒特性を有することができる。一方で、上記結晶相の含有率が95%以下であることにより、結晶化ガラス粉粒体は良好な機械的強度を得ることができる。
【0096】
また、結晶化ガラス粉粒体の結晶化率は、体積比で好ましくは1%、より好ましくは5%、最も好ましくは10%を下限とし、好ましくは95%、より好ましくは90%、最も好ましくは85%を上限とする。前記結晶の大きさは、球近似したときの平均径が、5nm〜3μmであることが好ましい。熱処理条件をコントロールすることにより、析出した結晶相のサイズを制御することが可能であるが、有効な光触媒特性を引き出すため、結晶のサイズを5nm〜3μmの範囲とすることが好ましく、10nm〜1μmの範囲とすることがより好ましく、10nm〜300nmの範囲とすることが最も好ましい。結晶粒子径は、XRDの回折ピークの半値幅より、シェラーの式より見積もることができる。
【0097】
結晶化ガラス粉粒体は、紫外領域から可視領域までの波長の光によって触媒活性が発現されることが好ましい。ここで、本発明でいう紫外領域の波長の光は、波長が可視光線より短く軟X線よりも長い不可視光線の電磁波のことであり、その波長はおよそ10〜400nmの範囲にある。また、本発明でいう可視領域の波長の光は、電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の電磁波のことであり、その波長はおよそ400nm〜700nmの範囲にある。これら紫外領域から可視領域までのいずれか波長の光、またはそれらが複合した波長の光が結晶化ガラス粉粒体の表面に照射されたときに触媒活性が発現されることにより、結晶化ガラス粉粒体の表面に付着した汚れ物質や細菌等が酸化又は還元反応により分解されるため、結晶化ガラス粉粒体を防汚用途や抗菌用途等に用いることができる。なお、TiO結晶は紫外線の照射に対して高い触媒効果を示す一方で、可視光に対する応答性は紫外線より弱いが、本発明ではWO結晶が可視光に対して優れた応答性を示すため、WO結晶とTiO結晶の両方を含有させた場合に、紫外線から可視光線までの幅広い波長の光に対して特に優れた応答性を有する結晶化ガラス粉粒体を得ることができる。
【0098】
[未結晶化ガラス粉粒体]
本発明の未結晶化ガラス粉粒体は、加熱(熱処理)によって結晶相を生成させるため、上記結晶化ガラス粉粒体と実質的に同じ組成範囲を有する。この未結晶化ガラス粉粒体は、例えばスラリー状混合物にして任意の基材等に塗布するなどして適用した後や、固化成形物として成形した後で(つまり、塗膜形成物や固化成形物の段階で)熱処理を施すことによって、容易に光触媒特性を有する結晶を析出させる潜在的な光触媒機能性素材である。未結晶化ガラス粉粒体は、未だ光触媒活性を備えていないため、保管や取り扱いの利便性に優れている。具体的には、例えば任意の有機物と接触させ、あるいは有機物と混合させた状態で保存しても、光触媒活性によって該有機物を分解する心配がない。また、未だ光触媒活性を有しないため、保存中に結晶構造が変化するなどして光触媒活性が失活もしくは低下する心配もない。そして、基材等に適用する直前や、塗膜形成物や固化成形物の段階(つまり、製品化の段階)で熱処理を行って光触媒の結晶を析出させることによって、製品に常に安定した光触媒機能を付与することができる。
【0099】
(ガラス粉粒体粒子)
本発明のガラス粉粒体(結晶化ガラス粉粒体及び未結晶化ガラス粉粒体)の粒径や形状は、その用途などに応じて適宜設定できる。十分な光触媒活性を引き出すためには、平均粒径は出来るだけ小さい方が好ましく、形状は出来るだけ球形に近い方が好ましい。特に限定する意図ではなく、好ましい平均粒径の範囲を挙げれば、例えば0.05μm〜5000μmの範囲内である。
【0100】
例えば、ガラス粉粒体を塗料に配合して光触媒機能性塗料とする場合、塗料中での分散性が得られるようにすることや十分な光触媒特性を持たせるために、例えば0.05〜80μmの平均粒径とすることが好ましい。また、ガラス粉粒体を適宜の溶媒等の流体と混合してスラリー状混合物とする場合は、例えば0.05〜300μmの平均粒径とすることが好ましい。また、ガラス粉粒体を焼結などの手法によって固化成形させて光触媒機能性部材とする場合は、例えば0.1〜2000μmの平均粒径とすることが好ましい。
【0101】
ガラス粉粒体の粒度分布が広く大きな粒子が存在すると、均一性または緻密性が得られず、材料内の構造に差が出てしまう可能性がある。そのため、結晶化ガラス粉粒体中に含まれる、平均粒径より極端に大きな粒子を少なくすることが好ましい。そこで、上記各平均粒径を有するガラス粉粒体において、ガラス粉粒体の最大粒径は平均粒径の10倍以下が好ましく、より好ましくは5倍以下、最も好ましくは3倍以下である。なお、平均粒径が大きいほど、最大粒径との差が小さいことが好ましい。
【0102】
ガラス粉粒体の用途によっては、mm単位の大きい粒径のガラス粉粒体を用いることも可能である。大きい粒から通孔を有する焼結体を作ることにより、例えば濾過材(フィルタ)や、噴水などに用いる建材などへの応用も可能である。
【0103】
なお、ガラス粉粒体の平均粒径は、例えばレーザー回折散乱法によって測定した時のD50(累積50%径)の値を使用できる。具体的には日機装株式会社の粒度分布測定装置MICROTRAC(MT3300EXII)よって測定した値を用いることができる。
【0104】
なお、ガラス粉粒体の最小径が2000μmを超える場合、JIS A 120に規定されている篩分析法で平均粒径を求めることができる。
【0105】
<ガラス粉粒体の製造方法>
次に、本発明のガラス粉粒体の製造方法について、結晶化ガラス粉粒体と未結晶化ガラス粉粒体とに分けて説明する。なお、本発明のガラス粉粒体の製造方法は、以下に説明する工程以外の任意の工程を含むことができる。
【0106】
(1)結晶化ガラス粉粒体の製造方法
結晶化ガラス粉粒体は、特に限定されるものではないが、以下の2通りの方法で製造することができる。
【0107】
製造方法A1:
この製造方法A1は、原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、ガラス体に熱処理を施し、結晶化ガラスを作製する結晶化工程と、結晶化ガラスを粉砕して結晶化ガラス粉粒体を作製する粉砕工程と、を有することができる。
【0108】
[ガラス化工程]
ガラス化工程では、所定の原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製する。具体的には、白金又は耐火物からなる容器に原料組成物を投入し、原料組成物を高温に加熱することで溶融する。これにより得られる溶融ガラスを流出させ、適宜冷却することで、ガラス化されたガラス体を形成する。溶融及びガラス化の条件は、特に限定されず、原料組成物の組成及び量等に応じて、適宜設定することができる。また、ガラス体の形状は、特に限定されず、例えば板状、粒状等であってもよい。溶融する温度と時間は、ガラスの組成により異なるが、それぞれ例えば1200〜1650℃、1〜24時間の範囲であることが好ましい。
【0109】
[結晶化工程]
結晶化工程では、ガラス体に熱処理を施し、結晶化ガラスを作製する。結晶化工程により、ガラス体の内部及び表面にWO及び/又はTiOを含む結晶相が析出するため、後でガラス粉粒体中にWO及び/又はTiOを含む結晶相を確実に含有させることができる。熱処理の条件(温度、時間)は、ガラス体の組成、必要とされる結晶化の程度等に応じて、適宜設定することができる。具体的には、熱処理温度の下限は、ガラス体のガラス転移温度(Tg)であり、好ましくはTg+10℃、より好ましくはTg+20℃、最も好ましくはTg+30℃である。他方、温度が高くなりすぎると、目的以外の未知相が析出する傾向が強くなるので、光触媒特性が消失しやすくなる。従って、熱処理における温度の上限は、好ましくはガラス体のTg+600℃、より好ましくはTg+500℃、最も好ましくはTg+450℃である。また、この工程では、昇温速度が結晶サイズに大きな影響を及ぼすので、組成や熱処理温度に応じて適切に制御することが重要である。
【0110】
また、結晶化のための熱処理時間は、ガラスの形や熱処理温度などに応じて設定する必要がある。昇温速度を遅くすれば、熱処理温度まで加熱するだけでいい場合もあるが、目安としては高い温度の場合は短く、低い温度の場合は、長く設定することが好ましい。具体的には、結晶をある程度まで成長させ、かつ十分な量の結晶を析出させ得る点で、好ましくは3分、より好ましくは5分、最も好ましくは10分を下限とする。一方、熱処理時間が24時間を越えると、目的の結晶相が大きくなりすぎたり、他の結晶相が生成したりして十分な光触媒特性が得られなくなるおそれがある。従って、熱処理時間の上限は、好ましくは24時間、より好ましくは19時間、最も好ましくは18時間とする。
【0111】
[粉砕工程]
粉砕工程では、結晶化ガラスを粉砕して結晶化ガラス粉粒体を作製する。なお、ガラスの粉砕方法は、特に限定されないが、例えばボールミル、ジェットミル等を用いて行うことができる。また、目的とする粒径になるまで、粉砕機の種類を変えながら粉砕工程を行うことも可能である。
【0112】
製造方法A2:
製造方法A2は、原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、ガラス体を粉砕して未結晶化ガラス粉粒体を作製する粉砕工程と、未結晶化ガラス粉粒体に熱処理を施し、結晶化ガラス粉粒体を作製する結晶化工程と、を有することができる。
【0113】
[ガラス化工程]
ガラス化工程は、原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製する。このガラス化工程は、製法方法A1のガラス化工程と同様に実施できる。
【0114】
[粉砕工程]
粉砕工程では、ガラス体を粉砕して未結晶化ガラス粉粒体を作製する。この粉砕工程は、結晶化されていないガラス体を粉砕して未結晶化ガラス粉粒体を作製することを除き、製法方法A1における粉砕工程と同様に実施できる。
【0115】
[結晶化工程]
結晶化工程では、未結晶化ガラス粉粒体に熱処理を施し、結晶化ガラス粉粒体を作製する。結晶化工程により、結晶化ガラスの内部及び表面にWO及び/又はTiOを含む結晶相が析出する。この結晶化工程における熱処理の条件(温度、時間)は、ガラス体に代えて未結晶化ガラス粉粒体に熱処理を行う点を除き、製法方法A1における結晶化工程と同様に実施できる。
【0116】
(2)未結晶化ガラス粉粒体の製造方法
製造方法A3:
未結晶化ガラス粉粒体の製造方法は、特に限定されるものではないが、原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、ガラス体を粉砕して未結晶化ガラス粉粒体を作製する粉砕工程と、を有することができる。つまり、結晶化ガラス粉粒体の製造方法A2における結晶化工程を除くこと以外は、上記製造方法A2と同様に実施できる。これにより、光触媒特性を有する結晶を含有しないが、後の加熱によって該結晶を生成し得る未結晶化ガラス粉粒体を製造できる。
【0117】
なお、未結晶化ガラス粉粒体を加熱して結晶を生成させる際の熱処理の方法は、結晶化ガラス粉粒体の製造方法で説明した上記結晶化工程と同様に実施できる。ただし、任意の基材に塗布するなどして担持させている場合は、基材の耐熱温度に応じて熱処理温度を調節することが好ましい。
【0118】
[添加工程]
本発明の製造方法A1〜A3は、ガラス粉粒体に任意の成分を混合することにより、当該成分を増量させる添加工程を含むことができる。この工程は、製造方法A1〜A3において粉砕工程の後に行うことが好ましく、後から熱処理(結晶化工程)を行う製造方法A2において熱処理(結晶化工程)の前に行うことが最も好ましい。添加工程でガラス粉粒体に添加する成分としては、特に制限はないが、ガラス粉粒体の段階で増量させることによって当該成分の機能を増強させ得る成分や、ガラス化が難しくなるために溶融ガラスの原料組成物には少量しか配合できない成分などを混合することが好ましい。なお、本明細書では、本工程でガラス粉粒体に他の成分を混合した後の状態を「粉粒混合物」と総称することがある。添加工程を行った場合は、添加工程以降に行われる各工程において、添加工程を行わない場合の「ガラス粉粒体」を「粉粒混合物」に置き換える以外は同様に実施できる。
【0119】
(WO及び/又はTiOの添加)
本発明の製造方法A1〜A3は、ガラス粉粒体に結晶状態のWO及び/又はTiOを添加して粉粒混合物を作製する添加工程を有してもよい。本発明方法では、結晶状態のWO及び/又はTiOを混合しなくても、ガラス体からWO及び/又はTiOを含む結晶相を生成することができる。しかし、既に結晶状態のWO及び/又はTiOをガラス粉粒体に添加することで、結晶相の量を増加させ、WO、さらにTiOの結晶相を豊富に含有し、光触媒機能が増強されたガラス粉粒体を製造できる。
【0120】
結晶状態のWO及び/又はTiOの混合量は、ガラス体の組成、製造工程における温度等に応じ、所望の量のWO及び/又はTiO結晶相がガラス粉粒体を用いた材料中に存在するよう、適宜設定することができる。ガラス粉粒体の光触媒機能を向上させる観点から、混合する結晶状態のWO及び/又はTiOの量の下限は、粉粒混合物に対する質量比で1%であることが好ましく、より好ましくは5%、最も好ましくは10%である。他方、混合する結晶状態のWO及び/又はTiOの量の上限は、粉粒混合物に対する質量比で95%であることが好ましく、より好ましくは80%、最も好ましくは60%である。なお、WO及びTiOの両方を混合する場合は、WO及びTiOの合計量が上記の上限値及び下限値の範囲内であることが好ましい。
【0121】
本工程で添加するWOは、立方晶系、正方晶系、斜方晶系、単斜晶系及び三斜晶系の結晶構造を持つことが知られているが、光触媒活性を有する限り、どの結晶構造のものでもよい。また、一般に、TiOの結晶型には、アナターゼ、ルチル、ブルッカイトの3種類がある。このうち、本工程で用いる結晶状態のTiOは、これら3種類のうち1種又は2種以上であってよいが、光触媒機能に優れる点で、アナターゼとブルッカイトとの組み合わせであることが好ましく、アナターゼであることがより好ましい。
【0122】
ガラス粉粒体に添加するWO及び/又はTiO結晶の原料粒子サイズは、光触媒活性を高める観点から出来るだけ小さい方がよい。しかし、原料粒子サイズが小さ過ぎると、熱処理の際にガラスと反応し、結晶状態を保つことができずに消失するおそれがある。また、原料粒子が細かすぎると、製造工程における取り扱いが難しくなる問題もある。一方で、原料粒子サイズが大きすぎると、原料粒子の形態で最終製品に残りやすく、所望の光触媒特性を得にくい傾向が強くなる。従って、原料粒子のサイズは11〜500nmの範囲内が好ましく、21〜200nmの範囲内がより好ましく、31〜100nmの範囲内が最も好ましい。
【0123】
(非金属元素成分の添加)
本発明の製造方法A1〜A3は、N成分、S成分、F成分、Cl成分、Br成分、及びC成分からなる群より選ばれる1種以上を含む添加物を、前述のガラス粉粒体又は粉粒混合物に添加する添加工程を有してもよい。これらの非金属元素成分は、前述したようにガラス体を作製する前のバッチやカレットを作る段階で原料組成物の成分の一部として配合しておくことも可能である。しかし、ガラス体を作製してからこれらの非金属元素成分をガラス粉粒体に混合する方が、導入が容易であるとともに、その機能をより効果的に発揮させることができるため、より高い光触媒特性を持つガラス粉粒体を容易に得ることが可能になる。
【0124】
非金属元素成分を添加する場合、その混合量は、ガラス体の組成等に応じ、適宜設定することができる。ガラス粉粒体の光触媒機能を充分に向上させる観点から、非金属成分の合計として、粉砕したガラス体又はその粉粒混合物に対する質量比で好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.05%以上、最も好ましくは0.1%以上を添加することが効果的である。他方、過剰に添加すると光触媒特性が低下し易くなることから、混合量の上限は、非金属成分の合計として、粉砕したガラス又はその粉粒混合物に対する質量比で好ましくは20%であり、より好ましくは10%であり、最も好ましくは5%である。
【0125】
非金属元素成分を添加する場合の原料としては、特に限定されないが、N成分はAlN、SiN等、S成分はNaS、Fe、CaS等、F成分はZrF、AlF、NaF、CaF等、Cl成分はNaCl、AgCl等、Br成分はNaBr等、C成分はTiC、SiC又はZrC等を用いることができる。なお、これらの非金属元素成分の原料は、2種以上を組み合わせて添加してもよいし、単独で添加してもよい。
【0126】
(金属元素成分の添加)
本発明の製造方法A1〜A3は、Cu、Ag、Au、Pd、Ru、Rh、Re及びPtからなる群より選ばれる1種以上からなる金属元素成分をガラス粉粒体又は粉粒混合物に添加する添加工程を有してもよい。これらの金属元素成分は、前述したようにガラス体を作製する前のバッチやカレットを作る段階で原料組成物の成分の一部として配合しておくことも可能である。しかし、ガラス体を作製してからこれらの金属元素成分をガラス粉粒体に混合する方が、導入が容易であるとともに、その機能をより効果的に発揮させることができるため、より高い光触媒特性を持つガラス粉粒体を容易に得ることが可能になる。金属元素成分を添加する場合、その混合量は、ガラス体の組成等に応じ、適宜設定することができる。ガラス粉粒体の光触媒機能を充分に向上させる観点から、金属元素成分の合計として、粉砕したガラス体又はその粉粒混合物に対する質量比で好ましくは0.001%以上、より好ましくは0.005%以上、最も好ましくは0.01%以上を添加することが効果的である。他方、過剰に添加すると光触媒特性が低下し易くなることから、混合量の上限は、金属元素成分の合計として、粉砕したガラス又はその粉粒混合物に対する質量比で好ましくは10%であり、より好ましくは5%であり、最も好ましくは3%である。なお、金属元素成分を添加する場合の原料としては、特に限定されないが、例えばCuO、CuO、AgO、AuCl、PtCl、HPtCl、RuO、RhCl、ReCl、PdCl等を用いることができる。なお、これらの金属元素成分の原料は、2種以上を組み合わせて添加してもよいし、単独で添加してもよい。
【0127】
添加物としての金属元素成分の粒子径や形状は、ガラス体の組成、WO及び/又はTiOの量、結晶型等に応じ、適宜設定することができるが、ガラス粉粒体の光触媒機能を最大に発揮するには、金属元素成分の平均粒子径は、できるだけ小さい方がよい。従って、金属元素成分の平均粒子径の上限は、好ましくは5.0μmであり、より好ましくは1.0μmであり、最も好ましくは0.1μmである。
【0128】
[表面処理工程]
本発明の製造方法A1〜A3は、以上のようにして得られるガラス粉粒体に、エッチング等の表面処理を行う工程(表面処理工程)をさらに有していてもよい。この工程は、特に製造方法A1およびA2により得られる結晶化ガラス粉粒体に対して行うことが好ましい。エッチングは、例えば酸性もしくはアルカリ性の溶液へガラス粉粒体を浸漬することによって実施できる。このようにすれば、ガラス相が溶けてガラス粉粒体の表面を凹凸状態にしたり、多孔質の状態にしたりすることができる。その結果、WO及び/又はTiO結晶を含む結晶相の露出面積が増加するため、より高い光触媒活性を得ることができる。浸漬に使用される酸性もしくはアルカリ性の溶液は、ガラス粉粒体のWO及び/又はTiO結晶を含む結晶相以外のガラス相等を腐蝕することが可能であれば特に限定されず、例えばフッ素又は塩素を含む酸(フッ化水素酸、塩酸など)を用いることができる。
【0129】
また、エッチングの別の方法として、フッ化水素ガス、塩化水素ガス、フッ化水素酸、塩酸等を、ガラス粉粒体の表面に吹き付けることでエッチングを行ってよい。
【0130】
<スラリー状混合物>
以上のようにして得られる本発明のガラス粉粒体(結晶化ガラス粉粒体及び未結晶化ガラス粉粒体)を、任意の溶媒等と混合することによってスラリー状混合物を調製できる。これにより、例えば基材上への塗布等が容易になる。具体的には、ガラス粉粒体に、好ましくは無機もしくは有機バインダー及び/又は溶媒を添加することによりスラリーを調製できる。
【0131】
無機バインダーとしては、特に限定されるものではないが、紫外線や可視光線を透過する性質のものが好ましく、例えば、珪酸塩系バインダー、リン酸塩系バインダー、無機コロイド系バインダー、アルミナ、シリカ、ジルコニア等の微粒子等を挙げることができる。
【0132】
有機バインダーとしては、例えば、プレス成形やラバープレス、押出成形、射出成形用の成形助剤として汎用されている市販のバインダーが使用できる。具体的には、例えば、アクリル樹脂、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、メタクリル樹脂、ウレタン樹脂、ブチルメタアクリレート、ビニル系の共重合物等が挙げられる。
【0133】
溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、酢酸、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、ポリビニルアルコール(PVA)等の公知の溶媒が使用できるが、環境負荷を軽減できる点でアルコール又は水が好ましい。
【0134】
また、スラリーの均質化を図るために、適量の分散剤を併用してもよい。分散剤としては、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類、セロソルブ、カルビトール、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキソラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸アミル等のエステル類等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0135】
本発明のスラリー状混合物には、その用途に応じて、上記成分以外に例えば硬化速度、比重を調節するための添加剤成分等を配合することができる。
【0136】
本発明のスラリー状混合物におけるガラス粉粒体の含有量は、その用途に応じて適宜設定できる。従って、スラリー状混合物におけるガラス粉粒体の含有量は、特に限定されるものではないが、一例を挙げれば、十分な光触媒特性を発揮させる観点から、好ましくは2質量%、より好ましくは3質量%、最も好ましくは5質量%を下限とし、スラリーとしての流動性と機能性を確保する観点から、好ましくは80質量%、より好ましくは70質量%、最も好ましくは65質量%を上限とすることができる。
【0137】
[スラリー状混合物の製造方法]
本発明のスラリー状混合物は、ガラス粉粒体を溶媒に分散させることによって製造できる。すなわち、本発明のスラリー状混合物の製造方法は、以下の製造方法B1〜B3のいずれかによって行うことができる。なお、本発明のスラリー状混合物の製造方法は、以下に説明する工程以外の任意の工程を含むことができる。
【0138】
製造方法B1:
製造方法B1は、結晶化ガラス粉粒体と溶媒とを含有するスラリー状混合物を製造する方法であり、原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、ガラス体に熱処理を施し、結晶化ガラスを作製する結晶化工程と、結晶化ガラスを粉砕して前記結晶化ガラス粉粒体を作製する粉砕工程と、結晶化ガラス粉粒体を溶媒に分散させる混合工程と、を有することができる。
【0139】
製造方法B2:
製造方法B2は、結晶化ガラス粉粒体と溶媒とを含有するスラリー状混合物を製造する別の方法であり、原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、ガラス体を粉砕して未結晶化ガラス粉粒体を作製する粉砕工程と、未結晶化ガラス粉粒体に熱処理を施し、結晶化ガラス粉粒体を作製する結晶化工程と、結晶化ガラス粉粒体を溶媒に分散させる混合工程と、を有することができる。
【0140】
製造方法B3:
製造方法B3は、未結晶化ガラス粉粒体と溶媒とを含有するスラリー状混合物を製造する方法であり、原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、ガラス体を粉砕して未結晶化ガラス粉粒体を作製する粉砕工程と、未結晶化ガラス粉粒体を溶媒に分散させる混合工程と、を有することができる。
【0141】
以上の製造方法B1〜B3では、混合工程以外は、上記製造方法A1〜A3と同様に実施できるので、各工程の詳細は説明を省略する。混合工程は、結晶化ガラス粉粒体または未結晶化ガラス粉粒体を上記溶媒に分散させることにより行うことができる。また、上述の添加工程や表面処理工程も含めることができる。
【0142】
本発明のスラリー状混合物の製造方法B1〜B3は、さらに、ガラス粉粒体の凝集体を除去する工程を有することができる。ガラス粉粒体は、その粒径が小さくなるに従い、表面エネルギーが大きくなって凝集しやすくなる傾向がある。ガラス粉粒体が凝集していると、スラリー状混合物中での均一な分散ができず、所望の光触媒活性が得られないことがある。そのため、ガラス粉粒体の凝集体を除去する工程を設けることが好ましい。凝集体の除去は、例えば、スラリー状混合物を濾過することにより実施できる。スラリー状混合物の濾過は、例えば所定の目開きのメッシュなどの濾過材を用いて行うことができる。
【0143】
以上の方法で得られる本発明のガラス粉粒体及びこれを含有するスラリー状混合物は、光触媒機能性素材として、例えば塗料、成形/固化が可能な混練物などに配合して使用することができる。
【0144】
<固化形成物>
本発明のガラス粉粒体は、固化させることにより、任意の形状の固化成形物を調製できる。ガラス粉粒体は、粉粒状であるため、成形する際の形状選択の自由度が高く、様々な形状の光触媒機能性部材を形成できる。固化成形物は、ガラス粉粒体のみから構成してもよいし、例えば基材を含んでもよく、さらに任意のバインダー等を含有してもよい。
【0145】
[固化成形物の製造方法]
固化成形物の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えばガラス粉粒体を焼結させたり、加熱プレスしたりする熱処理を含む方法により製造できる。この場合、固化成形のための熱処理によって、固化成形物を構成するガラス粉粒体の粒子同士が結合すると同時に、未結晶化ガラス粉粒体を原料とする場合はWO及び/又はTiOを含む結晶相が生成する。なお、熱処理を加えず、例えばバインダーの結着力のみによって固化成形することもできる。しかし、ガラス粉粒体は元々ガラスを母体としているため、所定温度での熱処理を含む固化成形方法を採用することでバインダーを使用しなくともガラス粒子同士を結合させることができることや、未結晶化ガラス粉粒体の場合は、固化成形の際の熱処理によって結晶を析出させることも可能であることから、熱処理を伴うプロセスが好ましい。なお、ガラス粉粒体を一旦上記のスラリー状混合物の形態にしてから、所望の形状に成形して固化成形物を調製することも可能である。
【0146】
焼結や加熱プレスにおける熱処理の条件は、ガラス粉粒体を構成するガラスの組成、混合された添加物の種類及び量等に応じ、適宜設定することができる。具体的に、熱処理温度は、ガラス粉粒体の状態によって、例えば以下の二通りの制御を行うことができる。
【0147】
第1の熱処理方法は、所望のWO及び/又はTiOを含む結晶相を有する結晶化ガラス粉粒体から成形する場合であり、この場合の熱処理温度は、1200℃以下の温度範囲で適宜選択できる。熱処理温度が1200℃を超えると、WO及び/又はTiOを含む結晶相が他の結晶相へと転移し易くなる。従って、熱処理温度の上限は、好ましくは1200℃であり、より好ましくは1100℃であり、最も好ましくは1050℃である。
【0148】
第2の熱処理方法は、未結晶化ガラス粉粒体から成形する場合であり、この場合は固化成形と同時にガラスの結晶化処理を行うことができる。熱処理が低すぎると所望の結晶相を析出させることができないため、少なくともガラス粉粒体を構成するガラスのガラス転移温度(Tg)より高い温度での加熱が必要となる。具体的に、熱処理温度の下限は、ガラスのガラス転移温度(Tg)であり、好ましくはTg+10℃であり、より好ましくはTg+20℃であり、最も好ましくはTg+30℃である。他方、熱処理温度が高くなりすぎると結晶相が減少し光触媒特性が消失する傾向があるので、熱処理温度の上限は、好ましくはガラス粉粒体を構成するガラスのTg+600℃であり、より好ましくはTg+500℃であり、最も好ましくはTg+400℃である。
【0149】
また、焼結や加圧プレスのための熱処理時間は、熱処理温度に応じて設定する必要があるが、高い温度の場合は短く、低い温度の場合は、長く設定することが好ましい。具体的には、固化成形を充分に行うことができる点及び結晶化処理を同時に行う場合に十分な量の結晶を析出させ得る点で、好ましくは3分、より好ましくは5分、最も好ましくは10分を下限とする。一方、熱処理時間が24時間を越えると、WO、TiO等の結晶とガラスとの反応が進み、ガラス中に光触媒機能を発揮するために十分な大きさのWO及び/又はTiOを含む結晶が得られないおそれがある。従って、熱処理時間の上限は、好ましくは24時間、より好ましくは19時間、最も好ましくは18時間とする。
【0150】
以上述べたように、本発明のガラス粉粒体は、光触媒特性を有する結晶を含有するか、あるいは、加熱されることによって粉粒体内部に前記結晶を生成させ得るものであるため、優れた光触媒活性を有する光触媒機能性素材として、あるいは光触媒機能を潜在的に有する素材として有用なものである。また、本発明のガラス粉粒体は、粉粒状をしているために、他の成分を混合しやすく、基材等への適用も容易であり、さらに、例えばスラリー状、固形状など任意の形態にも加工しやすい。また、粉粒体のまま容器状のものに詰めて、例えば濾過用途などに利用することもできる。従って、その用途や、適用される基材等の種類や形状に応じて最適な形態で提供でき、様々な光触媒機能性部材や親水性部材への適用が可能である。
【0151】
また、本発明のガラス粉粒体では、原料の配合組成と熱処理温度、温度及び昇温速度の制御によってガラス相から光触媒活性を呈する結晶相を生成させ得るため、凝集し易く取り扱いが難しいナノサイズの光触媒結晶材料を必ずしも用いる必要がなく、特殊な設備を用いる必要もない。
【実施例】
【0152】
次に、実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら制約を受けるものではない。
実施例1〜35:
本発明の実施例1〜35のガラス粉粒体の組成、これらのガラス粉粒体を用いて結晶化ガラス粉粒体を作製する際の加熱を中止するまでの到達温度および昇温速度、若しくは結晶化温度及び時間、並びに、これらのガラス粉粒体における析出結晶相の種類を表1〜5に示した。実施例1〜35では、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、フッ化物、水酸化物、メタリン酸化合物等の通常のガラスに使用される高純度の原料を選定し、各実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、石英坩堝に投入し、ガラス組成に応じて電気炉で1250〜1500℃の温度範囲で2〜6時間溶解し、攪拌均質化してからガラス融液を流水中に投下することで、粒状又はフレーク状のガラス体を得た。このガラス体をジェットミルで粉砕することで、粒子サイズ(平均粒径)が10μmのガラス粉粒体を得た。このガラス粉粒体を表1〜5に示す結晶化条件で結晶化させた。なお、実施例1〜10については、表1中に示す昇温速度で同表中に示す到達温度まで昇温させた。
【0153】
ここで、実施例1〜35で得られたガラス粉粒体に生成した結晶相の種類は、X線回折装置(フィリップス社製、商品名:X’Pert−MPD)で同定した。
【0154】
【表1】

【0155】
【表2】

【0156】
【表3】

【0157】
【表4】

【0158】
【表5】

【0159】
表1、表3、表4及び表5に表されるように、実施例1〜10及び17〜35のガラス粉粒体の析出結晶相には、いずれも可視光応答性の光触媒活性を有するWO結晶が含まれていた。また、表2に表されるように、実施例11〜16のガラス粉粒体の析出結晶相には、いずれも紫外線に対して強い光触媒活性を有するアナターゼ型のTiO結晶およびNaTi(PO結晶を含む結晶相が含まれていた。
【0160】
次に、WO結晶の構造を調べるために、実施例1と同様の成分組成で結晶化条件(温度、時間)を変えて結晶化を行い、X線回折分析(XRD)を行った。結晶化条件は、実施例1aが800℃、実施例1bが900℃、実施例1cが1000℃とした。XRDの結果を図1に示した。図1のXRDパターンにおいて、実施例1aでは、入射角2θ=23.8°付近をはじめ「○」で表されるピークが生じており、WOの立方晶の存在が確認できた。従って、実施例1aのガラス粉粒体は、可視光応答性の光触媒活性を有するものと考えられた。また、実施例1b、1cのXRDパターンにおいて、入射角2θ=23.1°、23.9°付近をはじめ「□」で表されるピークが生じており、WOの単斜晶または三斜晶の存在が確認できた。従って、実施例1b、1cのガラス粉粒体は、可視光応答性の光触媒活性を有するものと考えられた。
【0161】
さらに、実施例1b、1cでは、図1のXRDパターンにおいて入射角2θ=25.1°付近に「△」で表されるアナターゼ型のTiO結晶のピークが観察された。従って、実施例1b、1cのガラス粉粒体は、紫外領域で優れた光触媒作用を有するアナターゼ型のTiO結晶と可視光領域で強い光触媒作用を有するWO結晶とが混在した状態で存在しており、紫外領域から可視光領域まで幅広い波長の光によって光触媒活性を奏することが推察された。
【0162】
また、図1の結果から、結晶化温度を変化させることによって、WOの結晶構造を制御できることも明らかになった。
【0163】
また、実施例11で得られたガラス粉粒体についてのXRDパターンを図2に示した。図2のXRDパターンでは、入射角2θ=25.1°付近をはじめ「○」で表されるアナターゼ型のTiO結晶のピークと、入射角2θ=24.3°付近をはじめ「□」で表されるNaTi(PO結晶のピークと、さらに、入射角2θ=22.4°付近をはじめ「△」で表されるNaTi(PO結晶のピークが、それぞれ観察された。
【0164】
また、これらの実施例のガラス粉粒体を用いてアセトアルデヒドの気相分解により光触媒特性の有無を確かめたところ、高圧水銀ランプの照射によって、アセトアルデヒド分解によるCOの生成が確認され、光触媒特性を有することが示された。
【0165】
次に、実施例1bで得られたガラス粉粒体のサンプルについて、メチレンブルー(MB)分解活性の評価を行った。まず、ポリスチレン製の容器に、濃度0.01mmol/Lのメチレンブルー(MB)水溶液を5ml入れ、サンプルを暗所で24時間浸漬させた。ここまでを前処理とした。次に、同じ濃度の溶液に交換し、可視光照射あり・なしの条件でMB濃度の変化を測定した。すなわち、サンプルを暗所又は可視光照射のもとでそれぞれMB水溶液に浸漬させた。ここで、光源としては300Wのキセノンランプを用い、波長400nm以下の光をカットし、照度10,000ルクスの可視光をサンプルに照射した。その結果、図3に示したように、暗所に比べて可視光を照射した方がMB濃度の減少がより大きいことが確認された。従って、本発明の実施例のガラス粉粒体は、可視光による優れた光触媒活性を有することが明らかになった。
【0166】
次に、実施例14で得られたガラス粉粒体のサンプルについて、MB溶液に漬けて、紫外線照射あり・なしのMB濃度の変化を測定することにより、光触媒特性を評価した。光源としては、ブラックライトブルー蛍光灯FL10BLB(東芝社製)を用い、照度:1mW/cmで紫外線を照射した。その結果を図4に示した。図4に示したように、サンプルへの紫外線の照射によってMB濃度が大きく減少していることがわかる。従って、実施例14で得られたガラス粉粒体は、優れたMB分解活性を有することが確認できた。
【0167】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。当業者は本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を成し得、それらも本発明の範囲内に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒特性を有する結晶を含有するガラス粉粒体。
【請求項2】
前記光触媒特性を有する結晶は、ガラス成分がガラスの中で結晶化することによって生じたものである請求項1に記載のガラス粉粒体。
【請求項3】
加熱されることによりガラス内に光触媒特性を有する結晶を生成するガラス粉粒体。
【請求項4】
前記加熱の温度が、前記ガラス体のガラス転移温度(Tg)以上であり且つTgより600℃高い温度以下である請求項3に記載のガラス粉粒体。
【請求項5】
前記光触媒特性を有する結晶は、WO、TiO、及びこれらの固溶体から選ばれるいずれか1つ以上である請求項1から4のいずれかに記載のガラス粉粒体。
【請求項6】
酸化物換算組成のモル%で、
WO成分、及びTiO成分のうち少なくとも1種以上を10〜95%、及び/又は
成分、B成分、SiO成分、およびGeO成分のうち少なくとも1種以上の成分を5〜60%、
を含有する請求項1から5のいずれかに記載のガラス粉粒体。
【請求項7】
酸化物換算組成のモル%で、
Al成分を0〜30%、及び/又は
Ga成分を0〜30%、及び/又は
In成分を0〜10%
含有する請求項1から6のいずれかに記載のガラス粉粒体。
【請求項8】
酸化物換算組成のモル%で、
ZrO成分を0〜20%、及び/又は
SnO成分を0〜10%
含有する請求項1から7のいずれかに記載のガラス粉粒体。
【請求項9】
酸化物換算組成のモル%で、
LiO成分を0〜40%、及び/又は
NaO成分を0〜40%、及び/又は
O成分を0〜40%、及び/又は
RbO成分を0〜10%、及び/又は
CsO成分を0〜10%及び/又は
MgO成分を0〜40%、及び/又は
CaO成分を0〜40%、及び/又は
SrO成分を0〜40%、及び/又は
BaO成分を0〜40%、及び/又は
Nb成分を0〜50%、及び/又は
Ta成分を0〜50%、及び/又は
MoO成分を0〜50%、及び/又は
ZnO成分を0〜50%、及び/又は
Bi成分を0〜20%、及び/又は
TeO成分を0〜20%、及び/又は
Ln成分(式中、LnはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選択される1種以上とする)を合計で0〜30%、及び/又は
成分(式中、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、Niからなる群より選択される1種以上とし、e及びfはそれぞれe:f=2:Mの価数、を満たす最小の自然数とする。ここで、Vの価数は5、Crの価数は3、Mnの価数は2、Feの価数は3、Coの価数は2、Niの価数は2とする。)を合計で0〜10%、及び/又は
As成分及び/又はSb成分を合計で0〜5%
の各成分を含有する請求項1から8のいずれかに記載のガラス粉粒体。
【請求項10】
F、Cl、Br、S、N及びCからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の成分を、酸化物基準のガラス全質量に対する外割り質量比で15%以下含む請求項1から9のいずれかに記載のガラス粉粒体。
【請求項11】
Cu、Ag、Au、Pd、Ru、Rh、Re及びPtからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粒子を、酸化物基準のガラス全質量に対する外割り質量比で10%以下含む請求項1から10のいずれかに記載のガラス粉粒体。
【請求項12】
平均粒径が、0.05μm〜5000μmの範囲内である請求項1から11のいずれかに記載のガラス粉粒体。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載のガラス粉粒体と、溶媒と、を含有するスラリー状混合物。
【請求項14】
前記溶媒は、水、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、酢酸、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、及びアセトンからなる群より選ばれる1種以上を含む請求項13に記載のスラリー状混合物。
【請求項15】
さらに、無機バインダー、及び有機バインダーから選ばれる1つ以上のバインダーを含有する請求項13又は14に記載のスラリー状混合物
【請求項16】
前記ガラス粉粒体の含有量が、混合物全体の2質量%以上である請求項13から15のいずれかに記載のスラリー状混合物。
【請求項17】
請求項1から12のいずれかに記載のガラス粉粒体を固化成形してなる成形部材。
【請求項18】
請求項1から12のいずれかに記載のガラス粉粒体を含有する塗料。
【請求項19】
請求項18に記載の光触媒機能性塗料を部材に塗布することで作られる塗膜形成部材。
【請求項20】
光触媒特性を有する結晶を含有する結晶化ガラス粉粒体の製造方法であって、
原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、前記ガラス体に熱処理を施し、結晶化ガラスを作製する結晶化工程と、前記結晶化ガラスを粉砕して前記結晶化ガラス粉粒体を作製する粉砕工程と、を有する結晶化ガラス粉粒体の製造方法。
【請求項21】
光触媒特性を有する結晶を含有する結晶化ガラス粉粒体の製造方法であって、
原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、前記ガラス体を粉砕して未結晶化ガラス粉粒体を作製する粉砕工程と、前記未結晶化ガラス粉粒体に熱処理を施し、前記結晶化ガラス粉粒体を作製する結晶化工程と、を有する結晶化ガラス粉粒体の製造方法。
【請求項22】
前記熱処理を、前記ガラス体のガラス転移温度(Tg)以上であり且つTgより600℃高い温度以下で行う請求項20又は21に記載の結晶化ガラス粉粒体の製造方法。
【請求項23】
結晶化ガラス粉粒体と溶媒とを含有するスラリー状混合物の製造方法であって、原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、前記ガラス体に熱処理を施し、結晶化ガラスを作製する結晶化工程と、前記結晶化ガラスを粉砕して前記結晶化ガラス粉粒体を作製する粉砕工程と、前記結晶化ガラス粉粒体を溶媒に分散させる混合工程と、を有するスラリー状混合物の製造方法。
【請求項24】
結晶化ガラス粉粒体と溶媒とを含有するスラリー状混合物の製造方法であって、原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、前記ガラス体を粉砕して未結晶化ガラス粉粒体を作製する粉砕工程と、前記未結晶化ガラス粉粒体に熱処理を施し、前記結晶化ガラス粉粒体を作製する結晶化工程と、前記結晶化ガラス粉粒体を溶媒に分散させる混合工程と、を有するスラリー状混合物の製造方法。
【請求項25】
前記熱処理を、前記ガラス体のガラス転移温度(Tg)以上であり且つTgより600℃高い温度以下で行う請求項23又は24に記載のスラリー状混合物の製造方法。
【請求項26】
粉粒体の凝集体を除去する工程を有する請求項23から25のいずれかに記載のスラリー状混合物の製造方法。
【請求項27】
前記凝集体の除去は、前記スラリー状混合物を濾過することで行う請求項26に記載のスラリー状混合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−46602(P2011−46602A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172940(P2010−172940)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】