説明

ガラス繊維織物の製造方法、ガラス繊維織物及びプリプレグ

【課題】経糸が十分に開繊したガラス繊維織物の製造方法、ガラス繊維織物、及びそれを用いたプリプレグを提供することを目的とする。
【解決手段】ガラス繊維織物1の製造方法は、ガラス単繊維を複数本束ねて糸とし、該糸を経糸及び緯糸として製織してなるガラス繊維織物原反3を、水系液13中で緯糸方向(矢印X方向)に張力をかけながら開繊処理する開繊処理工程を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維織物の製造方法、ガラス繊維織物及びプリプレグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガラス繊維織物を薄化するために、開繊処理が広く行われている。一般的な開繊処理では、ガラス繊維織物は経糸方向に引っ張られながら搬送され処理される。このような開繊処理に関し、下記特許文献1に記載の技術が知られている。この種のガラス繊維織物では、経糸のうねり(上下ウェーブ)が大きいと、該うねりによって経糸が緯糸を抱き込む状態となり、緯糸の開繊が進みにくくなる。そこで、この特許文献1の技術では、ガラス繊維織物の経糸に過度の張力を加え該経糸のうねりが可及的に小さくなる状態で、繊維織物に適宜な開繊処理を施す。経糸のうねりを小さくし経糸が緯糸を拘束する力を小さくすることで、緯糸を良好に開繊させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−207375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の開繊処理のように、処理中の経糸にかかる張力によって経糸が集束してしまい開繊しにくくなるという問題があった。そして、経糸が十分に開繊しないことにより、ガラス繊維織物の薄化を十分に図ることが出来なくなってしまう。そこで、本発明は、経糸が十分に開繊したガラス繊維織物の製造方法、ガラス繊維織物、及びそれを用いたプリプレグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のガラス繊維織物の製造方法は、ガラス単繊維を複数本束ねて糸とし、該糸を経糸及び緯糸として製織してなるガラス繊維織物原反を、水系液中で緯糸方向に張力をかけながら開繊処理する開繊処理工程を備えたことを特徴とする。
【0006】
この製造方法の開繊処理工程では、ガラス繊維織物原反に対し緯糸方向に張力をかけることで、緯糸のうねりが低減された状態で開繊処理が行われる。従って、緯糸のうねりが経糸を拘束する力が低減され、その結果、経糸を十分に開繊させることができる。また、水系液中で開繊処理を行うことにより、ガラス単繊維に付着している表面処理剤・バインダの拘束力が弛み、経糸の開繊を良好にすることができる。
【0007】
また、例えば、ガラス繊維織物原反を経糸方向に搬送しながら開繊処理を行う場合を考えると、本来であれば、ガラス繊維織物原反に対して経糸方向の張力をかけながら搬送することが一般的である。ところが、この製造方法の開繊処理工程では、ガラス繊維織物原反に緯糸方向の張力をかけながら経糸方向に送る構成とすれば、経糸方向の張力がなくても経糸方向の搬送が実現できる。従って、搬送を伴う開繊処理工程を行う場合において、ガラス繊維織物原反に経糸方向の張力をかけないことも可能になる。その結果、開繊処理中の経糸の張力による経糸の集束が抑制され、経糸を十分に開繊させることができる。
【0008】
また、本発明のガラス繊維織物の製造方法は、開繊処理後のガラス繊維織物原反を厚み方向に押圧する押圧処理工程を更に備えることが好ましい。ガラス繊維織物原反を厚み方向に押圧することにより、緯糸も開繊させることができる。
【0009】
また、開繊処理工程では、スプレー方式、バイブロウオッシャー方式、又は超音波方式のいずれかの方式でガラス繊維織物原反の開繊処理を行うこととしてもよい。
【0010】
本発明のガラス繊維織物は、ガラス単繊維を複数本束ねて糸とし、該糸を経糸及び緯糸として製織してなるガラス繊維織物であって、経糸の厚みをガラス単繊維の径で除した値として定義される経糸の構成単繊維段数と、緯糸の厚みをガラス単繊維の径で除した値として定義される緯糸の構成単繊維段数と、が何れも2.0以下であり、経糸の構成単繊維段数と緯糸の構成単繊維段数との合計が3.5以下であることを特徴とする。経糸の構成単繊維段数と緯糸の構成単繊維段数とを上記のようにすることで、経糸が十分に開繊したガラス繊維織物を得ることができる。
【0011】
また、具体的には、本発明のガラス繊維織物においては、ガラス単繊維の径が3.0〜4.7μmであることとしてもよい。
【0012】
また、本発明のガラス繊維織物は、ガラス単繊維の径をA(mm)とし、糸の1本当たりに含まれるガラス単繊維の本数をB(本)とし、糸の配置密度をC(本/25mm)としたとき、経糸におけるA×B×Cの値及び緯糸におけるA×B×Cの値が、ともに8〜50(mm/25mm)であることとしてもよい。経糸のA×B×Cの値及び緯糸のA×B×Cの値を上記のようにすることで、経糸が十分に開繊したガラス繊維織物を得ることができる。
【0013】
本発明のプリプレグは、上記の何れかのガラス繊維織物を用いたことを特徴とする。経糸が十分に開繊した上記のガラス繊維織物を用いることにより、薄化されたプリプレグを得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のガラス繊維織物の製造方法、ガラス繊維織物及びプリプレグによれば、経糸が十分に開繊したガラス繊維織物の製造方法、ガラス繊維織物、及びそれを用いたプリプレグを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のガラス繊維織物の製造方法を示す斜視図である。
【図2】押圧ロールとガラス繊維織物原反との接触部分を緯糸方向に見た側面図である。
【図3】(a)は、ガラス繊維織物を経糸方向に見た断面図であり、(b)は、ガラス繊維織物を緯糸方向に見た断面図である。
【図4】本発明のプリプレグの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るガラス繊維織物の製造方法、ガラス繊維織物及びプリプレグの好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1には、ガラス繊維織物1の製造方法における開繊処理工程と押圧処理工程とを示す。開繊処理工程では、ガラス繊維織物原反3を経糸方向(矢印Y方向)に連続的に走行させながら当該ガラス繊維織物原反3に開繊処理を施す。押圧処理工程では、開繊処理後のガラス繊維織物原反3を厚み方向に押圧する。
【0018】
ガラス繊維織物原反3は、円形断面をなすガラス単繊維を複数本束ねて糸とし、該糸を経糸及び緯糸として製織してなるものである。ガラス繊維織物原反3は、経糸と緯糸とが直交するタイプの織物原反である。ここで用いられるガラス単繊維は、径3.0〜4.7μmのものである。ガラス単繊維からガラス繊維織物原反3を得るまでの工程は公知の工程を採用すればよいので、詳細な説明を省略する。なお、ガラス繊維織物原反3について集束剤の乾式処理(脱油処理)を行うと、ガラス単繊維に付着している表面処理剤が加熱により硬化してガラス単繊維が動きにくくなり開繊の妨げになる。従って、開繊処理工程は、ガラス繊維織物原反3の脱油処理前に行うことが好ましい。
【0019】
(開繊処理工程)
図1に示すように、開繊処理工程を行う開繊処理装置11は、水系液13(例えば、水)を充たした液槽15と、液槽15内に設置されたロータ17とを備えている。ガラス繊維織物原反3は、ガイド19を介してロータ17の外周面に沿って配置される。開繊処理装置11は、ガラス繊維織物原反3に対して経糸方向(矢印Y方向)に張力をかけながら、ガラス繊維織物原反3を経糸方向に連続的に搬送する。ガラス繊維織物原反3に対する経糸方向の張力は適宜調整可能であるが、搬送に必要な通常の張力を採用すればよい。また、ガラス繊維織物原反3の走行速度(搬送速度)は、通常のガラス繊維織物の製造条件における走行速度を採用すればよい。
【0020】
開繊処理工程では、ガラス繊維織物原反3は、経糸方向に搬送されて液槽15内に連続的に送り込まれ、水系液13中を通過して再び液槽15外に送り出される。ガラス繊維織物原反3には、ロータ17の外周面上で水系液13に浸漬された位置において開繊処理が施される。開繊処理の具体的な方式は、スプレー方式、バイブロウオッシャー方式、又は超音波方式等の公知の方式を用いることができる。例えば、ロータ17が、公知のバイブロウオッシャー装置のロータとして機能するように、外周面上に位置するガラス繊維織物原反3に対して圧力波を付与する構成とすればよい。
【0021】
更に、開繊処理装置11は、開繊処理中のガラス繊維織物原反3に対し緯糸方向(矢印X方向)の張力をかける緯糸方向張力付与手段を備えている。上記開繊処理は、ガラス繊維織物原反3に対し水系液13中で緯糸方向の張力を付与しながら行われる。上記の緯糸方向張力付与手段を実現するための具体的な手法として、緯糸方向におけるガラス繊維織物原反3の両端部を狭持し緯糸方向に引っ張りながら搬送してもよい。このとき、ガラス繊維織物原反3にかける経糸方向の張力はゼロとしてもよい。すなわち、ガラス繊維織物原反3の両端部を狭持した狭持手段を経糸方向に送ることでガラス繊維織物原反3の両端部を経糸方向に送る構成とすれば、経糸方向の張力がなくても、開繊処理中のガラス繊維織物原反3を経糸方向に搬送することができる。また、上記の緯糸方向張力付与手段を実現するための具体的な手法として、例えば、ピンチエキスパンダー、わん曲ゴムローラー、回転周動ローラー、ミラボーローラー、又はテンターといったような周知の張力付与手段を採用することもできる。例えば、ロータ17がミラボーローラーの機能を併せ持ち、外周面上のガラス繊維織物原反3を緯糸方向に延伸させる構成とすればよい。
【0022】
開繊処理中のガラス繊維織物原反3には、搬送に伴う経糸方向の張力の他に、上記の緯糸方向張力付与手段による緯糸方向の張力が作用していることになる。緯糸方向張力付与手段による張力の大きさは、各ガラス繊維織物1の製造条件によって異なり、ガラス繊維織物1の開繊状態を確認しながら適宜決定すればよい。例えば、緯糸方向張力付与手段による張力の大きさは、7〜12kgfである。また、前述した搬送に伴う経糸方向の張力も、ガラス繊維織物1の開繊状態を確認しながら、緯糸方向張力付与手段による張力とのバランスも考慮しながら、適宜決定すればよい。
【0023】
なお、上述の開繊処理装置11による開繊処理を2段階で繰り返し行ってもよい。なお、上述の開繊処理装置11による開繊処理を3段階以上繰り返しても、開繊状態向上の効果は薄いと考えられる。また、上述の開繊処理装置11による開繊処理の上流又は下流の位置において、ガラス繊維織物原反3に対し経糸方向にのみ張力をかけながら行う開繊処理を、更に加えて行ってもよい。
【0024】
この開繊処理工程では、ガラス繊維織物原反3に対し緯糸方向にも張力をかけることで、緯糸のうねりが低減された状態で開繊処理が行われる。従って、緯糸のうねりが経糸を拘束する力が低減され、その結果、経糸を十分に開繊させることができる。その一方、この開繊処理工程では、緯糸方向の張力に起因して、緯糸の開繊状態は良好でない傾向にある。そこで、本実施形態の製造方法では、開繊処理工程の後、以下に説明する押圧処理工程を行う。
【0025】
(押圧処理工程)
図1に示すように、上述の開繊処理装置11の下流側には、押圧処理工程を行う押圧ロール21が設けられている。押圧ロール21は、ガラス繊維織物原反3を上下に挟み込み、緯糸方向に延在する回転軸を中心に回転する。ガラス繊維織物原反3が押圧ロール21によって厚み方向に押圧されることで、緯糸が開繊する。押圧ロール21による押圧力は、0.1〜5MPaとすることが好ましく、その中でも0.5〜2MPaとすると更に好ましい。押圧ロール21におけるプレスロール及びバックアップロールの材質は、金属、硬質ゴム、FRP樹脂など任意であるが、一方の材質が金属の場合には他方の材質は硬質ゴム又はFRP樹脂とすることが好ましい。なお、押圧処理工程では、経糸の開繊も更に良好になる。
【0026】
更に、上記の押圧ロール21は駆動ロールとすることが好ましく、また、押圧ロール21の周速を、ガラス繊維織物原反3の走行速度(搬送速度)と異なるように設定することが特に好ましい。この設定によれば、押圧ロール21の外周面がガラス繊維織物原反3の表面を押さえ付けながら摺動することになり、押圧ロール21がガラス繊維織物原反3を摺り潰すような動きが発生する。しかも、押圧ロール21の摺動方向は、緯糸におけるガラス単繊維の配列方向(経糸方向)であるので、押圧ロール21の摺動は、図2に示すように緯糸32におけるガラス単繊維32a同士の厚み方向の重なりを扁平に均すように作用する。図2では、押圧ロール21の周速をガラス繊維織物原反3の走行速度よりもわずかに速くした例を示している。この場合、緯糸32のガラス単繊維32aは、押圧ロール21の外周面によって下方に押さえられながら走行方向前方に引きずられるので、ガラス単繊維32aが前後方向(走行方向)に整列し易くなり、その結果、緯糸32が扁平化される。
【0027】
このように、ガラス繊維織物原反3を単に押圧するだけでなく、ガラス繊維織物原反3を押圧ロール21で摺り潰すような動きを加えることによって、緯糸を扁平化し緯糸の開繊状態を良好にすることができる。その結果、ガラス繊維織物原反3の厚みが減少し、薄化されたガラス繊維織物1が得られる。
【0028】
具体的には、押圧ロール21の周速方向をガラス繊維織物原反3の走行速度と同方向として、押圧ロール21の周速を、ガラス繊維織物原反3の搬送速度の0.95倍以上1.06倍未満の範囲とすることが好ましい。押圧ロール21の周速を、上記の範囲外とすれば、ガラス単繊維が傷つき毛羽が生じやすいという問題がある。また、ガラス繊維織物原反3上で押圧ロール21を往復移動させることも考えられるが、この場合もガラス単繊維が傷つき毛羽が生じやすいという問題がある。
【0029】
次に、上述のガラス繊維織物1の製造方法の作用効果について説明する。
【0030】
上述の製造方法の開繊処理工程では、ガラス繊維織物原反3に対し緯糸方向にも張力をかけることで、緯糸のうねりが低減された状態で開繊処理が行われる。従って、緯糸のうねりが経糸を拘束する力が低減され、その結果、経糸を十分に開繊させることができる。また、経糸方向の張力も、ガラス繊維織物1の開繊状態を確認しながら、緯糸方向張力付与手段による張力とのバランスも考慮しながら、適宜決定されるので、経糸のうねりが緯糸を拘束する力が低減され、緯糸も開繊させることができる。また、前述のように、開繊処理中に、ガラス繊維織物原反3にかける経糸方向の張力をゼロとすることができる。従って、経糸の張力による経糸の集束が抑制され、経糸を十分に開繊させることができる。また、水系液13中に浸漬された状態でガラス繊維織物原反3の開繊処理を行っているので、ガラス単繊維に付着している表面処理剤・バインダの拘束力が弛み、経糸及び緯糸の開繊を更に良好にすることができる。
【0031】
また、開繊処理工程後には押圧処理工程を更に行い、ガラス繊維織物原反を厚み方向に押圧するので、特に緯糸を開繊させることができる。更に、押圧処理工程における押圧ロール21の周速をガラス繊維織物原反3の走行速度と異なるように設定することで、ガラス繊維織物原反3を押圧ロール21で摺り潰すような動きが発生し、緯糸の開繊状態を良好にすることができる。特に、径が3.0〜4.7μmといった細いガラス単繊維を用いる場合、ガラス繊維織物原反3を単に押圧するだけでは、厚さ10μm以下のガラス繊維織物1は得られないと考えられる。
【0032】
以上のように、経糸と緯糸との開繊状態を良好にすることで、経糸及び緯糸が扁平化されてガラス繊維織物原反3の厚みが減少し、その結果、薄化されたガラス繊維織物1が得られる。また、薄化されたガラス繊維織物1を、プリプレグの材料として用いれば、薄化されたプリプレグを得ることができる。
【0033】
続いて、本発明に係るガラス繊維織物及びプリプレグの好適な実施形態について説明する。本実施形態のガラス繊維織物1は、特に上述の製造方法によって好適に製造されるものである。また、本実施形態のプリプレグは、ガラス繊維織物1を材料として製造されるものである。
【0034】
ガラス繊維織物1の薄化のため、経糸及び緯糸を構成するガラス単繊維の径は細い方が好ましい。具体的には、ガラス単繊維の径は3.0〜4.7μmとすることが好ましく、3.5〜4.5μmとすることが更に好ましく、3.3〜4.3μmとすることが更に好ましく、その中でも4μm以下の範囲が更に好ましい。ガラス単繊維の径が3.0μm未満であれば、ガラス単繊維及びガラス繊維織物1の取り扱いが困難になる。また、ガラス単繊維の径が4.7μmより大きいと、ガラス繊維織物1の薄化を十分に図ることが困難になる。
【0035】
また、経糸・緯糸の1本を構成するガラス単繊維の本数は、100本以下とすることが好ましく、80本以下とすることがより好ましく、その中でも50本以下とすることが更に好ましい。また、経糸・緯糸におけるガラス単繊維束の撚り数は少ない方が好ましい。具体的には、経糸、緯糸ともに、0.3T/m以下であることが好ましく、0.1T/m以下とすることがより好ましく、その中でも0T/m(無撚り)とすることが更に好ましい。
【0036】
また、薄化のためガラス繊維織物1の単重は低いことが好ましい。具体的には、単量を25g/m以下とすることが好ましく、15g/m以下とすることがより好ましい。また、ガラス繊維織物1の織り方(ガラス繊維織物原反3の織り方)は、平織りでも綾織でもよいが、平織りの方が好ましい。
【0037】
ガラス繊維織物1の薄化のためには、経糸及び緯糸が扁平であるほど好ましい。ここで、経糸及び緯糸の扁平度合いの指標として「構成単繊維段数」なる量を定義し導入する。具体的には、図3(a)に示すように、ガラス繊維織物1の厚み方向に測った経糸31の厚みt1を、当該経糸31を構成するガラス単繊維31aの径d1で除した値を、経糸31の「構成単繊維段数」と定義する。同様に、図3(b)に示すように、ガラス繊維織物1の厚み方向に測った緯糸32の厚みt2を、当該緯糸32を構成するガラス単繊維32aの径d2で除した値を、緯糸32の「構成単繊維段数」と定義する。構成単繊維段数は、ガラス単繊維が厚み方向に何段重なって糸を構成しているかを意味し、1以上の数値を示す。構成単繊維段数の値が小さいほど糸が扁平であることを意味し、究極的には、経糸及び緯糸において構成単繊維段数=1であることが望まれる。
【0038】
ガラス繊維織物1においては、経糸の構成単繊維段数と、緯糸の構成単繊維段数と、が何れも2.0以下であり、かつ、経糸の構成単繊維段数と緯糸の構成単繊維段数との合計が3.5以下である。経糸の構成単繊維段数と緯糸の構成単繊維段数とを上記のようにすることで、経糸・緯糸が十分に開繊し薄化されたガラス繊維織物を得ることができる。このような構成単繊維段数の値は、前述のガラス繊維織物1の製造方法により達成されるものである。例えば、ガラス単繊維の径が3.0μmで、経糸の構成単繊維段数と緯糸の構成単繊維段数との合計が3.5以下であれば、厚さ10.5μm(=3.0μm×3.5)以下のガラス繊維織物1が達成される。
【0039】
また、ガラス単繊維の径をA(mm)とし、糸の1本当たりに含まれるガラス単繊維の本数をB(本)とし、糸の配置密度をC(本/25mm)とする。ガラス繊維織物1においては、経糸におけるA×B×Cの値及び緯糸におけるA×B×Cの値が、ともに8〜50(mm/25mm)であることが好ましい。また、経糸におけるA×B×Cの値及び緯糸におけるA×B×Cの値が、ともに10〜35(mm/25mm)であることが更に好ましい。また、経糸におけるA×B×Cの値及び緯糸におけるA×B×Cの値が、ともに12〜20(mm/25mm)であることが更に好ましい。
【0040】
経糸のA×B×Cの値及び緯糸のA×B×Cの値を上記のようにすることで、薄化されたガラス繊維織物1を得ることができる。なお、A=0.003mm、B=50本、C=50本/25mmとした場合が、A×B×C≒8に対応する。A×B×Cの値が8よりも小さいと、取り扱いが困難になる。A×B×Cの値が50よりも大きいと、経糸(又は緯糸)の構成単繊維段数が2.0を超え、ガラス繊維織物の十分な薄化を図ることが困難になる。
【0041】
図4に示す本実施形態のプリプレグ41は、以上のようなガラス繊維織物1を材料として公知の方法により製造することができる。具体的には、例えば、ガラス繊維織物1を型に嵌め、当該型にエポキシ系樹脂43を流し込んで成形・硬化させることで、プリプレグ41が完成する。薄化されたガラス繊維織物1を用いることにより、プリプレグ41の薄化を図ることができる。
【0042】
続いて、前述のガラス繊維織物1の製造方法の作用効果を確認すべく本発明者らが行った試験について説明する。
【0043】
試験では、数種類のガラス繊維織物原反を用い条件を変えながらガラス繊維織物を作製し、表1に示す通り、実施例1〜4及び比較例1〜2のガラス繊維織物のサンプルを得た。
【0044】
実施例1は、IPC1037のガラス繊維織物原反に対して開繊処理工程と押圧処理工程とを行ったものである。開繊処理時における経糸方向の張力をoffとし、緯糸方向の張力はonとして7〜12kgfの範囲で適宜調整した。ガラス繊維織物原反の走行速度は20m/minとした。開繊処理は、バイブロウオッシャー方式で行った。押圧ロール21による押圧力は1MPa(10.2kg/cm)とした。他の条件は、表1に示すとおりである。得られたガラス繊維織物は極薄ゆえに取り扱いが難しいため、樹脂で固めてプリプレグとした。作製したプリプレグを電子顕微鏡(SEM(日立S−2380N))で観察・計測し、プリプレグの厚さ、構成単繊維段数(経糸、緯糸)、A×B×Cの値、糸幅の各値を表1に示した。
【0045】
実施例2は、IPC1017のガラス繊維織物原反を用いたこと以外は実施例1と同じ条件とした。実施例3は、押圧ロール21を駆動ロールとし、周速21m/min(原反の走行速度の1.05倍)で駆動した以外は実施例2と同じ条件とした。実施例4は、ガラス単繊維の径が3.5μmであるガラス繊維織物原反3を用いたこと以外は実施例2と同じ条件とした。
【0046】
比較例1は、IPC1037のガラス繊維織物原反を用い開繊処理工程を行った。経糸方向の張力をonとし、緯糸方向の張力をoffとした。ガラス繊維織物原反3の走行速度は20m/minとした。開繊処理は、バイブロウオッシャー方式で行った。押圧処理工程は行っていない。比較例2は、IPC1017のガラス繊維織物原反を用いたこと以外は比較例1と同じ条件とした。その他、開繊処理工程と押圧処理工程とを行う前の未処理原反(IPC1017)についても、同様の計測を行い表1に示した。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例2の糸幅と比較例2の糸幅とを比較する。糸幅の大小は、糸の扁平化の程度を意味し、糸幅が大きくなるほど糸が扁平化され織物の薄化に貢献する。未処理原反の緯糸の糸幅が113μmであるところ、比較例2は未処理原反を開繊処理することにより、緯糸の糸幅が157μmに拡大した。しかしながら比較例2では、未処理原反の経糸の糸幅が97μmであるところ、経糸の糸幅が81μmに縮小してしまった。その一方、開繊処理工程で緯糸方向の張力をonとし、更に押圧処理工程も行った実施例2では、緯糸の糸幅は113μmと未処理原反からほとんど変化がないが、経糸の糸幅は97μmから135μmと拡大した。
【0049】
ここで、経糸の糸幅+緯糸の糸幅といった指標で比較すれば、実施例2が248μmであり、比較例2が238μmであるので、実施例2の方が比較例2よりも薄化の点で優れていることが判る。また、プリプレグの厚さや構成単繊維段数を比較しても、実施例2の方が比較例2よりも薄化の点で優れていることが判る。従って、原反に緯糸方向の張力をかけながら開繊処理を行い、その後押圧処理工程を行う製造方法によれば、ガラス繊維織物の薄化が可能であることが判った。
【0050】
次に、実施例2と実施例3との緯糸の糸幅を比較すると、実施例2の113μmに対し、実施例3では136μmとより優れている。また、プリプレグの厚さは、実施例2の13μmに対し実施例3では11μmとより優れている。従って、押圧処理工程において押圧ロール21を駆動ロールとし、原反の走行速度とは異なる周速で駆動する製造方法によれば、ガラス繊維織物の更なる薄化が可能であることが判った。
【0051】
また、実施例2〜4によれば、経糸の構成単繊維段数と、緯糸の構成単繊維段数と、が何れも2.0以下であり、経糸の構成単繊維段数と緯糸の構成単繊維段数との合計が3.5以下であるガラス繊維織物の製造が可能であることが示された。特に、実施例3では、プリプレグの厚さが11μmであるので、実施例3で製造されたガラス繊維織物自体の厚さは約10μm程度の極薄であると考えられる。
【符号の説明】
【0052】
1…ガラス繊維織物、3…ガラス繊維織物原反、11…開繊処理装置、13…水系液、21…押圧ロール、31…経糸、32…緯糸、31a,32a…ガラス単繊維、41…プリプレグ、X…緯糸方向、Y…経糸方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス単繊維を複数本束ねて糸とし、該糸を経糸及び緯糸として製織してなるガラス繊維織物原反を、水系液中で前記緯糸方向に張力をかけながら開繊処理する開繊処理工程を備えたことを特徴とするガラス繊維織物の製造方法。
【請求項2】
前記開繊処理後の前記ガラス繊維織物原反を厚み方向に押圧する押圧処理工程を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載のガラス繊維織物の製造方法。
【請求項3】
前記開繊処理工程では、
スプレー方式、バイブロウオッシャー方式、又は超音波方式のいずれかの方式で前記ガラス繊維織物原反の開繊処理を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス繊維織物の製造方法。
【請求項4】
ガラス単繊維を複数本束ねて糸とし、該糸を経糸及び緯糸として製織してなるガラス繊維織物であって、
前記経糸の厚みを前記ガラス単繊維の径で除した値として定義される経糸の構成単繊維段数と、前記緯糸の厚みを前記ガラス単繊維の径で除した値として定義される緯糸の構成単繊維段数と、が何れも2.0以下であり、
前記経糸の構成単繊維段数と前記緯糸の構成単繊維段数との合計が3.5以下であることを特徴とするガラス繊維織物。
【請求項5】
前記ガラス単繊維の径が3.0〜4.7μmであることを特徴とする請求項4に記載のガラス繊維織物。
【請求項6】
前記ガラス単繊維の径をA(mm)とし、前記糸の1本当たりに含まれる前記ガラス単繊維の本数をB(本)とし、前記糸の配置密度をC(本/25mm)としたとき、
前記経糸におけるA×B×Cの値及び前記緯糸におけるA×B×Cの値が、ともに8〜50(mm/25mm)であることを特徴とする請求項4又は5に記載のガラス繊維織物。
【請求項7】
請求項4〜6の何れか1項に記載のガラス繊維織物を用いたことを特徴とするプリプレグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−1855(P2012−1855A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139458(P2010−139458)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】