説明

キャリア治具及びその製造方法

【課題】 例え高硬度でなくとも十分な粘着性を得ることができ、導電フィラーの脱離や充填量の増加を招くことがなく、しかも、例え高温に晒されても導電性が低下することのないキャリア治具及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 剛性のキャリア板20と、キャリア板20に積層接着され、フレキシブルプリント配線板10を着脱自在に粘着保持する粘着層30とを備え、キャリア板20と粘着層30に導電性をそれぞれ付与し、粘着層30からフレキシブルプリント配線板10が剥離される際にフレキシブルプリント配線板10に実装された電子部品が静電気により損傷するのを抑制するキャリア治具であって、粘着層30を、接着成分を有する粘着剤にカーボンナノチューブとカーボンマイクロコイルの少なくともいずれか一方を添加した材料により形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント配線板に代表される薄型基板を着脱自在に粘着保持するキャリア治具及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクスの分野においては、複雑な形状や狭い箇所等に対する実装を可能にするため、可撓性を有するポリイミドフィルムに回路用の導体を積層した屈曲可能なフレキシブルプリント配線板が多用されている。このフレキシブルプリント配線板には、LSI、インダクタ、コンデンサ、抵抗、フィルター等からなる電子部品が実装されるが、この実装はクリームハンダ印刷工程、電子部品マウント工程、リフローハンダ工程、カッティング工程を通じて行われる。
【0003】
ところで、フレキシブルプリント配線板は、反りやすく撓みやすいという特徴を有するので、電子部品の実装、各工程内や複数の工程間の搬送を容易にする観点から、耐熱性を有するキャリア板の表面にシリコーンゴム製の粘着層を介し着脱自在に粘着保持され、平坦に固定される。
【0004】
係るキャリア板に固定されたフレキシブルプリント配線板は、電子部品の実装作業が終了すると、キャリア板の粘着層から剥離されるが、この剥離の際、電子部品が静電気により損傷することがある。電子部品は、一般的に100V程度の耐電圧が確保されているが、例えばLED等の場合には50V程度の耐電圧しか確保されていないので、静電破壊という問題が生じる。
【0005】
このような問題を解消するため、従来においては、キャリア板に導電性を付与するとともに、シリコーンゴム製の粘着層にカーボン、グラファイト、あるいは金属粉末からなる導電フィラーを多量に添加して導電化を図るようにしている(特許文献1、2、3参照)。
【特許文献1】特開2002‐185124号公報
【特許文献2】特開2006‐049549号公報
【特許文献3】特開2001‐172582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来におけるキャリア治具は、以上のように静電破壊防止の観点からシリコーンゴムにカーボン、グラファイト、あるいは金属粉末からなる導電フィラーを多量に添加して導電化を図るようにしているが、粘着層にカーボンを20〜50wt%多量に添加する場合には、シリコーンゴムの硬度が高くなり、粘着力が低下するという問題がある。また、未硬化のシリコーンゴムは、カーボンの吸油特性により、高粘度、高可塑度を示すため、加工性が悪化するという問題もある。
【0007】
また、粘着層にグラファイトを多量に添加する場合には、グラファイトの脱離のおそれがある。さらに、粘着層に多量の金属粉末を添加する場合には、充填量の増加や粘着層の粘着低下を招き、しかも、高温に晒された際に導電性が低下するという問題がある。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたもので、例え粘着層が高硬度でなくとも十分な粘着性を得ることができ、導電フィラーの脱離や充填量の増加を招くことがなく、しかも、例え高温に晒されても粘着層の導電性が低下することのないキャリア治具及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては上記課題を解決するため、キャリア板と、このキャリア板に重ね設けられ、薄型基板を着脱自在に粘着保持する粘着層とを備え、これらキャリア板と粘着層とに導電性をそれぞれ付与し、粘着層から薄型基板が剥離される際に薄型基板に実装された電子部品が静電気により損傷するのを抑制するものであって、
粘着層を、接着成分を有する粘着剤にカーボンナノチューブとカーボンマイクロコイルの少なくともいずれか一方を添加した材料により形成するようにしたことを特徴としている。
【0010】
なお、キャリア板を着脱自在に搭載する位置決め板と、この位置決め板に設けられ、キャリア板を貫通して薄型基板を位置決めする複数の位置決めピンとを含むことができる。
また、位置決め板の少なくとも一部の位置決めピンを、位置決め板に設けられ、キャリア板の貫通孔に嵌め入れられて潜在する拡幅部と、この拡幅部から伸びて貫通孔から突出し、薄型基板に干渉する縮幅部とから形成することもできる。
【0011】
また、キャリア板に形成されて粘着層と接着し、キャリア板の表面と薄型基板の表面とを略揃える凹み領域と、この凹み領域と粘着層の少なくともいずれか一方の近傍に設けられ、薄型基板の肉厚部に対向してその厚さを吸収する厚さ吸収口とを含むこともできる。
また、位置決め板の隅部に、キャリア板の隅部に接触して位置決めする位置決め片を取り付けても良い。
【0012】
また、粘着層を、第一のシリコーンゴム層と、この第一のシリコーンゴム層上に未硬化で積層した後に硬化する第二のシリコーンゴム層とから形成し、これら第一、第二のシリコーンゴム層の硬度を異ならせ、キャリア板に低硬度の第一又は第二のシリコーンゴム層を接着するともに、高硬度の第一又は第二のシリコーンゴム層に薄型基板を着脱自在に粘着保持させることもできる。
【0013】
また、本発明においては上記課題を解決するため、請求項1、2、又は3記載のキャリア治具の製造方法であって、
接着成分を有する粘着剤にカーボンナノチューブとカーボンマイクロコイルの少なくともいずれか一方を添加して液状の成形材料を調製し、キャリア板上に型枠をセットしてその内部に成形材料を充填し、この成形材料を用いてプレス成形することにより粘着層を形成することを特徴としている。
【0014】
ここで、特許請求の範囲におけるキャリア板は、アルマイト処理等の絶縁性の表面処理の施されていないアルミニウム、アルミニウム合金、あるいは導電性を有する耐熱性ガラスエポキシ材を使用して形成することができる。薄型基板には、高密度フレキシブルプリント基板やフレキシブルプリント配線板等、各種の配線板が含まれる。また、粘着層は、キャリア板の片面に必要数重ね設けても良いし、両面に必要数重ね設けても良い。カーボンナノチューブには、単層のシングルウォールナノチューブ、二層のダブルウォールナノチューブ、複層のマルチウォールナノチューブ等の種類があるが、いずれの種類でも良い 。
【0015】
本発明によれば、キャリア板の粘着層に、中実の導電フィラーを添加するのではなく、中空定形のカーボンナノチューブ、及び又はカーボンマイクロコイルを添加して導電性を付与するので、粘着層の物性を大きく損なうことなく、導電フィラーの配合量を削減することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、粘着層の硬度を上げることなく導電化を図ることができるので、十分な粘着性を得ることができ、導電フィラーの脱離や充填量の増加を招くのを抑制することができるという効果がある。また、例え高温に晒されても、粘着層の導電性低下を防ぐことができる。また、成形材料の粘着剤に接着成分が含有されるので、キャリア板に粘着層をプライマー等を介することなく直接接着することができ、これにより通電に支障を来たすのを防ぐことができる。
【0017】
また、キャリア板を着脱自在に搭載する位置決め板と、この位置決め板に設けられ、キャリア板を貫通して薄型基板を位置決めする複数の位置決めピンとを含めば、薄型基板を適切に位置決めすることができる。
【0018】
また、キャリア板に形成されて粘着層と接着し、キャリア板の表面と薄型基板の表面とを略揃える凹み領域と、この凹み領域と粘着層の少なくともいずれか一方の近傍に設けられ、薄型基板の肉厚部に対向してその厚さを吸収する厚さ吸収口とを含めば、キャリア板と薄型基板との間の凸凹が抑制され、薄型基板に対するハンダの塗布を円滑にすることができる。
【0019】
さらに、粘着剤にカーボンナノチューブとカーボンマイクロコイルの少なくともいずれか一方が添加された成形材料を使用して粘着層をプレス成形し、凝集性を高めるようにすれば、カーボンナノチューブ及び又はカーボンマイクロコイルの添加量を低減して良好な導電性を得ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態におけるキャリア治具は、図1ないし図6に示すように、剛性を有する位置決め板1と、この位置決め板1の表面に着脱自在に搭載されてフレキシブルプリント配線板10を搬送するキャリア板20と、このキャリア板20の表面に並べて積層され、フレキシブルプリント配線板10を着脱自在に粘着保持する複数の粘着層30とを備え、各粘着層30に、導電フィラーとして所定量のカーボンナノチューブを添加分散させるようにしている。
【0021】
位置決め板1とキャリア板20とは、位置決め板1よりもキャリア板20が僅かに小さいか、あるいは同じ大きさに形成される。位置決め板1は、図1ないし図3に示すように、例えば加工性に優れる軽量のアルミニウム等の材料を使用して平面矩形の平板に形成され、四隅部のうち一隅部2が斜めに切り欠かれており、この斜めに切り欠かれた一隅部2がキャリア板20の位置合わせ用の目印として機能する。
【0022】
位置決め板1の表面には、図2、図3に示すように、複数の位置決めピン3と位置合わせピン4とが所定のパターンでそれぞれ立設される。複数の位置決めピン3は、例えばSUS等の材料を使用してキャリア板20の厚さ以上の長さを有する円柱形に形成され、フレキシブルプリント配線板10の位置決め孔に挿入されたり、フレキシブルプリント配線板10の周囲に干渉して位置決めするよう機能する。また、複数の位置合わせピン4は、例えばSUS等の材料を使用してキャリア板20の厚さ以上の長さを有する円柱形に形成され、位置決め板1の表面四隅部のうち三隅部に垂直に圧入して植設される。
【0023】
フレキシブルプリント配線板10は、図1に示すように、例えばポリイミドやポリエステル等の絶縁性フィルム上に所定の導電パターンがプリントされ、その端部に肉厚のコネクタ部11や肉厚の補強板12が形成されており、キャリア板20に粘着層30を介し粘着保持された状態でクリームハンダが塗布され、その後、図示しない各種の電子部品が必要数実装される。このフレキシブルプリント配線板10の周縁部分の一部には、位置決め板1の位置決めピン3に挿通される位置決め孔が所定の間隔をおいて複数穿孔される。
【0024】
キャリア板20は、図2、図4に示すように、例えばアルマイト処理等の絶縁性の表面処理の施されていないアルミニウム、アルミニウム合金、あるいは導電性を有する耐熱性ガラスエポキシ材を使用して耐熱性と導電性を有する平面矩形の薄板に形成され、全体として10E6〜10E9の範囲の抵抗値を有する。このキャリア板20は、その四隅部のうち一隅部21が斜めに切り欠かれ、この斜めに切り欠かれた一隅部21が位置決め板1の一隅部2に揃えられて位置合わせ用の目印として機能する。
【0025】
キャリア板20の大部分には、複数の座ぐり領域23、貫通孔24、及び厚さ吸収穴25が配設され、キャリア板20の四隅部のうち三隅部には、位置決め板1の位置合わせピン4に貫通される位置合わせ孔22がそれぞれ穿孔される。複数の座ぐり領域23は、例えばキャリア板20の表面の大部分に2×2のパターンに形成され、各座ぐり領域23がフレキシブルプリント配線板10の大きさ以上の大きさに形成されるとともに、フレキシブルプリント配線板10の肉厚以上の深さで凹み形成されており、各座ぐり領域23に粘着層30が直接接着されてフレキシブルプリント配線板10を着脱自在に粘着保持する。
【0026】
複数の貫通孔24は、φ1.7mm程度の大きさで各座ぐり領域23の内外に丸く穿孔され、位置決め板1の位置決めピン3に貫通される。また、各厚さ吸収穴25は、座ぐり領域23や粘着層30の近傍に穿孔され、フレキシブルプリント配線板10の肉厚のコネクタ部11や補強板12に対向してその厚さを吸収し、フレキシブルプリント配線板10に対するクリームハンダの塗布作業を円滑化する。
【0027】
複数の粘着層30は、図1、図2、図4に示すように、接着成分を有する粘着剤に炭素からなるカーボンナノチューブが添加された成形材料31や型枠41を使用してプレス成形等されることにより、弱粘着性を有する平面多角形の薄板に成形され、各座ぐり領域23に直接接着されてキャリア板20の表面高さとフレキシブルプリント配線板10の表面高さとを略揃え、フレキシブルプリント配線板10に対するクリームハンダの塗布作業を円滑化する。粘着剤としては、耐熱性、粘着性、再剥離性等に優れるシリコーンゴムやフッ素ゴム等があげられる。
【0028】
カーボンナノチューブは、例えばGraphite Fibrils Grade BN〔ハイペリオン・カタリシス・インターナショナル社製:商品名〕等が使用され、粘着剤の固形分100wt%に対して0.5〜10wt%、好ましくは1〜3wt%、より好ましくは1.5wt程度配合されており、粘着層30の表面抵抗値を10E5〜10E9の範囲とする。
【0029】
カーボンナノチューブは、炭素含有ガスの気相分解反応や炭素棒、炭素繊維等を使用したアーク放電法等により、基本的には2〜70nmの外径を有する中空繊維状の円筒形に形成され、長さが直径の2〜10倍以上とされる。このカーボンナノチューブの末端部は、開閉の有無を特に問うものではなく、又円筒形でも良いし、変形した円錐形等でも良い。
【0030】
上記において、キャリア治具のキャリア板20を製造する場合には、先ず、ある程度加工した導電性のキャリア板20を用意するとともに、未硬化で液状の成形材料31を調製する。キャリア板20には、少なくとも複数の座ぐり領域23を凹み形成する。また、成形材料31は、液状の粘着剤にカーボンナノチューブを添加してペーストを調製し、このペーストを所定の濃度に希釈して簡便な三本ロール混練機40で均一に混合分散させることにより調製する(図5参照)。
【0031】
キャリア板20を用意するとともに、未硬化の成形材料31を調製したら、キャリア板20の座ぐり領域23に型枠41をセット(図6参照)してその内部に液状の成形材料31を充填し、この成形材料31をプレス板によりプレスして加熱(例えば、120℃程度)し、冷却硬化させて耐熱性、導電性の粘着層30を必要数形成する。この際、プレス板のプレス面には、成形に支障を来たさないようポリプロピレン等からなる離型フィルムが貼着されたり、積層される。
【0032】
次いで、キャリア板20の大部分に、複数の貫通孔24と厚さ吸収穴25とをそれぞれ穿孔し、キャリア板20の四隅部のうち三隅部に、位置合わせ孔22をドリルでそれぞれ穿孔すれば、電子部品の静電破壊を防止できるキャリア板20を完成させることができる。
【0033】
次に、キャリア治具のキャリア板20にフレキシブルプリント配線板10を固定する場合には、位置決め板1の表面にキャリア板20を位置合わせピン4を介し積層してキャリア板20の表面から複数の位置決めピン3を露出させ、キャリア板20の粘着層30上にフレキシブルプリント配線板10を位置決めピン3を介し位置決め固定するとともに、厚さ吸収穴25にフレキシブルプリント配線板10のコネクタ部11や補強板12を配置してその厚さを吸収させれば、キャリア板20にフレキシブルプリント配線板10を粘着層30を介し適切に固定することができる。
【0034】
上記によれば、粘着層30に中実のカーボン、グラファイト、あるいは金属粉末からなる導電フィラーを添加するのではなく、かさ比重に優れる中空定形のカーボンナノチューブを添加して導電化するので、粘着層30を形成するゴムの物性を損なうことなく導電フィラーの配合量を大幅に削減することができる。したがって、粘着層30が低硬度でも優れた粘着性を得ることができるので、高硬度のゴムでしか粘着性が発現しなくなるという問題を有効に解消することができ、しかも、導電フィラー脱離のおそれもない。
【0035】
また、充填量の増加防止の他、粘着層30の粘着低下をも防止することができるし、高温に晒された際に粘着層30の導電性が低下することもない。また、成形材料31の粘着剤に接着成分が含有されるので、キャリア板20の座ぐり領域23に粘着層30を絶縁性の厚いプライマー層を介することなく直接接着することができ、これによりプライマー層の介在に伴う絶縁を抑制防止することができる。
【0036】
さらに、粘着層30をコーティング法やスクリーン印刷法により形成するのではなく、粘着剤にカーボンナノチューブが添加された成形材料31を使用してプレス成形し、カーボンナノチューブの凝集性を高めて密に集合させれば、高価なカーボンナノチューブの添加量を低減して優れた導電性を得ることができる。
【0037】
次に、図7は本発明の第2の実施形態を示すもので、この場合には、位置決め板1の隅部に、キャリア板20の隅部に当接して位置決めする平面略L字形の位置決め片50を起立状態に装着するようにしている。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0038】
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、位置決め片50にキャリア板20の隅部を当接させてがたつきを防ぐことができるので、高精度の位置決めが期待できるのは明らかである。
【0039】
次に、図8は本発明の第3の実施形態を示すもので、この場合には、位置決め板1の少なくとも一部の位置決めピン3を、位置決め板1の表面に植設され、キャリア板20の貫通孔24内に嵌合して潜在する拡径部5と、この拡径部5から垂直上方に伸びて貫通孔24から突出し、フレキシブルプリント配線板10の位置決め孔に挿入される円柱形の縮径部6とから形成するようにしている。
【0040】
縮径部6は、拡幅部である拡径部5やキャリア板20の貫通孔24よりも細く小さく形成され、先端部が半球形とされる。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0041】
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、位置決め板1にキャリア板20を積層する際、位置決めピン3の細い縮幅部である縮径部6とキャリア板20の太い貫通孔24とが相互に干渉し合うことがないので、位置決めピン3の先端部が折れ曲がり、フレキシブルプリント配線板10の固定作業や実装作業に支障を来たすことがないのは明らかである。
【0042】
次に、図9は本発明の第4の実施形態を示すもので、この場合には、粘着層30を、カーボンナノチューブとカーボンマイクロコイルの少なくともいずれか一方の添加された粘着性のシリコーンゴムのシートとし、この別体のシートをキャリア板20に接着するようにしている。
【0043】
この場合の粘着層30は、剥離可能な離型フィルム32と、この離型フィルム32上に積層されて硬化する第一のシリコーンゴム層33と、この硬化した第一のシリコーンゴム層33上に未硬化で積層した後に硬化する第二のシリコーンゴム層34と、この第二のシリコーンゴム層34に積層される剥離可能な離型フィルム32Aとを備え、これら第一、第二のシリコーンゴム層33・34の硬度を相違させるようにしている。
【0044】
このような粘着層30は、離型フィルム32・32Aが適宜剥離された後、キャリア板20の座ぐり領域23に低硬度で強粘着の第一又は第二のシリコーンゴム層33・34が直接接着され、高硬度で弱粘着の第一又は第二のシリコーンゴム層33・34にフレキシブルプリント配線板10が着脱自在に粘着保持される。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0045】
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、キャリア板20の座ぐり領域23に型枠41をセットする煩雑な作業等を省くことができ、さらには粘着層30の製法の多様化が大いに期待できるのは明白である。
【0046】
なお、上記実施形態では位置決め板1とキャリア板20とを矩形に形成したが、何らこれに限定されるものではなく、例えば多角形、円形、楕円形等に形成することもできる。また、上記実施形態ではキャリア板20の表面に複数の座ぐり領域23を2×2のパターンに形成したが、何らこれに限定されるものではなく、1×2のパターンや3×3のパターン等に形成しても良い。また、厚さ吸収穴25は、貫通口でも良いし、そうでなくても良い。
【0047】
また、上記実施形態では各粘着層30にカーボンナノチューブを添加して分散させたが、各粘着層30に所定量のカーボンナノチューブとかさ比重に優れる中空定形で繊維状のカーボンマイクロコイルとを混合して添加分散させても良いし、各粘着層30に所定量のカーボンマイクロコイルを添加して分散させても良い。カーボンマイクロコイルは、炭素含有ガスの気相分解反応により略コイル形に形成され、繊維の直径が0.05〜5μm、コイルの外径が繊維の直径の2〜10倍、巻き数が10μm当たり5/コイル外径(μm)〜50/コイル外径(μm)とされる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明に係るキャリア治具及びその製造方法の実施例を説明する。
先ず、1.5mmの厚さを有するアルミニウム合金製〔商品名:A5052P〕のキャリア板を用意するとともに、未硬化で液状の成形材料を調製した。
成形材料は、粘着剤であるシリコーンゴム〔信越化学工業株式会社製 商品名:KE−1800TA/TB〕のTB剤100wt%にカーボンナノチューブ2wt%を添加して三本ロール混練機により常温で混合し、さらにシリコーンゴムのTA剤100wt%を加えて三本ロール混練機により常温で混合して調製した。
【0049】
次いで、キャリア板に厚さ0.1mmの型枠をセットしてその内部に液状の成形材料を充填し、この成形材料を剥離用のOPPフィルムを介しプレス成形し、冷却硬化させて厚さ0.1mmの粘着層を形成し、その後、二次加硫処理を施してキャリア治具のキャリア板を製造した。
成形材料は、型枠の内容積に対して1.2倍の容量を測り取ることとした。プレス成形は、120℃、10分の条件で実施した。また、二次加硫処理は、200℃、30分の条件で実施した。
【0050】
キャリア治具のキャリア板を製造したら、粘着層の粘着力、抵抗値を測定するとともに、耐熱性を確認した。
粘着力の測定は、JIS Z 0237粘着テープ・粘着シート試験方法10.5 90°引き剥がし粘着力の測定(フィルム基材は、25μmの厚さを有するポリイミドフィルムを使用)に準拠した。粘着層の粘着力を測定したところ、測定値は0.02/25mmであった。
【0051】
粘着層の抵抗値は、高抵抗率計〔三菱化学株式会社製 商品名:MCP−HT450〕により測定した。測定の結果、表面抵抗値で1.5×10E7の導電性が得られているのを確認した。
【0052】
粘着層の耐熱性は、250℃、10時間の放置試験により確認した。粘着層は、粘着力の値が0.018N/25mm、導電性の値が9×10E6であり、キャリア治具のキャリア板として使用できること、並びに静電気破壊対策が十分に可能であることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係るキャリア治具の実施形態を模式的に示す全体斜視説明図である。
【図2】本発明に係るキャリア治具の実施形態における位置決め板にキャリア板を積層する状態を模式的に示す斜視説明図である。
【図3】本発明に係るキャリア治具の実施形態における位置決め板を模式的に示す斜視説明図である。
【図4】本発明に係るキャリア治具の実施形態におけるキャリア板を模式的に示す斜視説明図である。
【図5】本発明に係るキャリア治具及びその製造方法の実施形態における三本ロール混練機を模式的に示す斜視説明図である。
【図6】本発明に係るキャリア治具及びその製造方法の実施形態におけるキャリア板の座ぐり領域に型枠をセットしてその内部に成形材料を充填する状態を模式的に示す斜視説明図である。
【図7】本発明に係るキャリア治具の第2の実施形態を模式的に示す斜視説明図である。
【図8】本発明に係るキャリア治具の第3の実施形態を模式的に示す部分断面説明図である。
【図9】本発明に係るキャリア治具の第4の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【符号の説明】
【0054】
1 位置決め板
3 位置決めピン
5 拡径部
6 縮径部
10 フレキシブルプリント配線板(薄型基板)
11 コネクタ部(肉厚部)
12 補強板(肉厚部)
20 キャリア板
23 座ぐり領域(凹み領域)
24 貫通孔
25 厚さ吸収穴(厚さ吸収口)
30 粘着層
31 成形材料
32 離型フィルム
32A 離型フィルム
33 第一のシリコーンゴム層
34 第二のシリコーンゴム層
40 三本ロール混練機
41 型枠
50 位置決め片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア板と、このキャリア板に重ね設けられ、薄型基板を着脱自在に粘着保持する粘着層とを備え、これらキャリア板と粘着層とに導電性をそれぞれ付与し、粘着層から薄型基板が剥離される際に薄型基板に実装された電子部品が静電気により損傷するのを抑制するキャリア治具であって、
粘着層を、接着成分を有する粘着剤にカーボンナノチューブとカーボンマイクロコイルの少なくともいずれか一方を添加した材料により形成するようにしたことを特徴とするキャリア治具。
【請求項2】
キャリア板を着脱自在に搭載する位置決め板と、この位置決め板に設けられ、キャリア板を貫通して薄型基板を位置決めする複数の位置決めピンとを含んでなる請求項1記載のキャリア治具。
【請求項3】
キャリア板に形成されて粘着層と接着し、キャリア板の表面と薄型基板の表面とを略揃える凹み領域と、この凹み領域と粘着層の少なくともいずれか一方の近傍に設けられ、薄型基板の肉厚部に対向してその厚さを吸収する厚さ吸収口とを含んでなる請求項1又は2記載のキャリア治具。
【請求項4】
粘着層を、第一のシリコーンゴム層と、この第一のシリコーンゴム層上に未硬化で積層した後に硬化する第二のシリコーンゴム層とから形成し、これら第一、第二のシリコーンゴム層の硬度を異ならせ、キャリア板に低硬度の第一又は第二のシリコーンゴム層を接着するともに、高硬度の第一又は第二のシリコーンゴム層に薄型基板を着脱自在に粘着保持させるようにした請求項1、2、又は3記載のキャリア治具。
【請求項5】
請求項1、2、又は3記載のキャリア治具の製造方法であって、接着成分を有する粘着剤にカーボンナノチューブとカーボンマイクロコイルの少なくともいずれか一方を添加して液状の成形材料を調製し、キャリア板上に型枠をセットしてその内部に成形材料を充填し、この成形材料を用いてプレス成形することにより粘着層を形成することを特徴とするキャリア治具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−329182(P2007−329182A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157433(P2006−157433)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】