説明

キャンバ角調整装置及びそれに用いられる設定方法

【課題】簡単な構造で、バネ下重量を軽減し、乗り心地や運動性能を向上するキャンバ角調整装置及びキャンバ角調整装置の各部材のパラメータを適切に決定する設定方法を提供する。
【解決手段】懸架装置21に対してバネ下に支持されるベース部材2と、バネ上の車体に設置され、駆動力を発生する駆動部材3と、ベース部材2に支持された支持部を中心に揺動し、駆動部材3の発生する駆動力を伝達するケーブル部材4と、バネ下に配置され、ケーブル部材4と連結された揺動レバー5と、バネ下に配置され、揺動レバー5の回転により回転するクランク部材9と、揺動レバー5の回転を増速し、クランク部材9を回転する増速部8と、バネ下に配置され、クランク部材9の回転運動を変換して直進運動する移動部材10と、車輪40を支持し、移動部材10の移動に伴いベース部材2に対してキャンバ軸を中心に回動可能に支持される回動部材12と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪のキャンバ角を簡単な構造で変更できるようにしたキャンバ角調整装置及びそれに用いられる設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体に対する車輪のキャンバ角を変更するキャンバ角調整装置において、簡単な構造で、アクチュエータへの負荷を軽減し、且つ、強度を確保したものがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−132377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載されたような発明では、アクチュエータがバネ下に設置されているので、バネ下重量が増加し、乗り心地や運動性能に影響を及ぼす可能性があった。また、車輪を所定のキャンバ角度へと調整するためには、アクチュエータ回転角度、アーム長さ等の各部材のパラメータをそれぞれ適切に設定する必要があった。
【0005】
本発明は、簡単な構造で、バネ下重量を軽減し、乗り心地や運動性能を向上するキャンバ角調整装置及びキャンバ角調整装置の各部材のパラメータを適切に決定する設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのために本発明は、懸架装置を介して車体に懸架される車輪のキャンバ角を変更するキャンバ角調整装置の設定方法において、懸架装置に対してバネ下に支持されるベース部材と、バネ上の前記車体に設置され、駆動力を発生する駆動部材と、前記ベース部材に支持された支持部を中心に揺動し、前記駆動部材の発生する駆動力を伝達するケーブル部材と、バネ下に配置され、前記ケーブル部材と連結された揺動レバーと、バネ下に配置され、前記揺動レバーの回転により回転するクランク部材と、前記揺動レバーの回転を増速し、前記クランク部材を回転する増速部と、バネ下に配置され、前記クランク部材の回転運動を変換して直進運動する移動部材と、前記車輪を支持し、前記移動部材の移動に伴い前記ベース部材に対してキャンバ軸を中心に回動可能に支持される回動部材と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、前記キャンバ角調整装置に用いられる設定方法であって、前記クランク部材の少なくとも回転角及び軸トルクを設定するステップと、前記ケーブル部材にかかる許容荷重及び前記ケーブル部材の許容揺動角を設定するステップと、前記ケーブル部材、前記揺動レバー、前記クランク部材及び前記増速部の各パラメータ間の関係を設定するステップと、前記ケーブル部材、前記揺動レバー、前記クランク部材及び前記増速部のうち、所定のパラメータを選択し、パラメータ間の関係を演算するステップと、前記所定のパラメータに応じて前記ケーブル部材、前記揺動レバー、前記クランク部材及び前記増速部のパラメータを決定するステップと、を有することを特徴とする。
【0008】
また、前記ケーブル部材、前記揺動レバー、前記クランク部材及び前記増速部の各パラメータ間の関係を設定するステップは、前記増速部のギヤ比と前記揺動レバーの軸トルクの関係を求めるステップと、前記増速部のギヤ比と前記揺動レバーの回転角度の関係を求めるステップと、前記揺動レバーの軸トルクと前記揺動レバーの長さの関係を求めるステップと、前記揺動レバーの回転角度と前記ケーブル部材のストロークの関係を求めるステップと、前記揺動レバーの回転角度と前記ケーブル部材の揺動角の関係を求めるステップと、前記揺動レバーと前記ケーブル部材とのなす角と効率の関係を求めるステップと、からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、懸架装置を介して車体に懸架される車輪のキャンバ角を変更するキャンバ角調整装置の設定方法において、懸架装置に対してバネ下に支持されるベース部材と、バネ上の前記車体に設置され、駆動力を発生する駆動部材と、前記ベース部材に支持された支持部を中心に揺動し、前記駆動部材の発生する駆動力を伝達するケーブル部材と、バネ下に配置され、前記ケーブル部材と連結された揺動レバーと、バネ下に配置され、前記揺動レバーの回転により回転するクランク部材と、前記揺動レバーの回転を増速し、前記クランク部材を回転する増速部と、バネ下に配置され、前記クランク部材の回転運動を変換して直進運動する移動部材と、前記車輪を支持し、前記移動部材の移動に伴い前記ベース部材に対してキャンバ軸を中心に回動可能に支持される回動部材と、を備えるので、バネ下重量を軽減し、乗り心地や運動性能を向上することが可能となる。
【0010】
さらに、前記キャンバ角調整装置に用いられる設定方法であって、前記クランク部材の少なくとも回転角及び軸トルクを設定するステップと、前記ケーブル部材にかかる許容荷重及び前記ケーブル部材の許容揺動角を設定するステップと、前記ケーブル部材、前記揺動レバー、前記クランク部材及び前記増速部の各パラメータ間の関係を設定するステップと、前記ケーブル部材、前記揺動レバー、前記クランク部材及び前記増速部のうち、所定のパラメータを選択し、パラメータ間の関係を演算するステップと、前記所定のパラメータに応じて前記ケーブル部材、前記揺動レバー、前記クランク部材及び前記増速部のパラメータを決定するステップと、を有するので、各部材のパラメータを適切に決定することが可能となる。
【0011】
また、請求項2記載の発明によれば、前記ケーブル部材、前記揺動レバー、前記クランク部材及び前記増速部の各パラメータ間の関係を設定するステップは、前記増速部のギヤ比と前記揺動レバーの軸トルクの関係を求めるステップと、前記増速部のギヤ比と前記揺動レバーの回転角度の関係を求めるステップと、前記揺動レバーの軸トルクと前記揺動レバーの長さの関係を求めるステップと、前記揺動レバーの回転角度と前記ケーブル部材のストロークの関係を求めるステップと、前記揺動レバーの回転角度と前記ケーブル部材の揺動角の関係を求めるステップと、前記揺動レバーと前記ケーブル部材とのなす角と効率の関係を求めるステップと、からなるので、さらに適切に各部材のパラメータを決定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態のキャンバ角調整装置を車両前方から見た図である。
【図2】本実施形態のキャンバ角調整装置を車幅方向の車体側から見た図である。
【図3】本実施形態の駆動部材を示す図である。
【図4】本実施形態の作動前のキャンバ角調整装置の断面図である。
【図5】本実施形態の作動前のキャンバ角調整装置の拡大斜視図である。
【図6】本実施形態の作動中のキャンバ角調整装置の拡大斜視図である。
【図7】本実施形態の作動後のキャンバ角調整装置の拡大斜視図である。
【図8】本実施形態の作動後のキャンバ角調整装置の断面図である。
【図9】キャンバ角調整装置1の動きを示す模式図である。
【図10】キャンバ角調整装置設定方法のフローチャートである。
【図11】クランク部材の仕様設定のサブルーチンである。
【図12】ケーブル部材の仕様設定のサブルーチンである。
【図13】各パラメータ間の関係を演算するサブルーチンである。
【図14】ケーブルの揺動角に対する各パラメータ間の関係を示すグラフである。
【図15】揺動レバーの揺動角に対するケーブルの揺動角及びクランク軸トルクを示すグラフである。
【図16】ギヤ比に対する各パラメータ間の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は実施形態のキャンバ角調整装置1を車両前方から見た図、図2は実施形態のキャンバ角調整装置1を車幅方向の車体側から見た図、図3は本実施形態の駆動部材3を示す図、図4は本実施形態の作動前のキャンバ角調整装置1の断面図、図5は本実施形態の作動前のキャンバ角調整装置1の拡大斜視図を示す。ただし、図1では車輪30を断面で示し、図2では車輪30の前方半分を省略している。
【0015】
なお、本実施形態では右後輪について説明するが、左後輪についても同様の構成である。また、前後方とは、車両の前後方向に対応する。また、車幅方向とは、車両の前後方向及び鉛直方向に直交する方向である(以下同じ。)。
【0016】
図1及び図2において、1はキャンバ角調整装置、2はベース部材、3は駆動部材、4はケーブル、5は揺動レバー、6はケーブル取付部材、7は揺動軸、8は増速部、9はクランク部材、10は移動部材、11は連結部材、12は回動部材としてのキャンバプレート、13は回動部材支持部としてのキャンバプレート支持部、21は懸架装置としてのトーションビーム、31はハブ、40は車輪、41はホイール、42はタイヤである。
【0017】
本実施形態のキャンバ角調整装置1は、図示しない車体に揺動可能に取り付けられたトーションビーム21に支持されたベース部材2と、トーションビーム21等の懸架装置に対してバネ上にあたるフレーム等の車体に配置された駆動部材3と、一端を駆動部材3に連結され駆動力を伝達するケーブル部材4と、バネ下に配置され、ケーブル部材4の他端に連結された揺動レバー5と、バネ下に配置され、ケーブル部材4を揺動レバー5に取り付けるケーブル取付部材6と、バネ下に配置され、揺動レバー5の揺動中心となる揺動軸7と、バネ下に配置され、揺動レバー5の揺動角を増速する増速部8と、バネ下に配置され、増速部8により増速され回動するクランク軸9aを有するクランク部材9と、バネ下に配置され、一方をクランク部材9のクランクピン9bに取り付けられクランク軸9aの回転により直進又は略直進方向に往復移動する移動部材10と、バネ下に配置され、移動部材10の他方に取り付けられた連結部材11と、連結部材11により移動部材10に連結されたキャンバプレート12と、ベース部材2に対してキャンバプレート12を回動可能に支持するキャンバプレート支持部13と、を備える。
【0018】
ベース部材2は、車体と車輪40とを連結するトーションビーム21に設けられ、駆動部材3を除く大部分のキャンバ角調整装置1をバネ下で支持する部材である。また、ベース部材2は、ケーブル部材4を支持するケーブル支持部材2aを有する。ケーブル支持部材2aは、後述するケーブル部材4のチューブ4aを固定し、ケーブル4bはその内部を移動可能に支持する。そのため、ケーブル部材4のケーブル4bはケーブル支持部材2aより揺動レバー5側で伸縮且つ揺動可能であり、チューブ4aはケーブル支持部材2aより揺動レバー5側で揺動可能である。
【0019】
駆動部材3は、図3に示すように、DCモータ等からなるモータ3a、モータの駆動力を減速する減速部3b、及び減速部3bから伝達された回転駆動力を直進運動に変換する送りネジ3c等からなる。減速部3bは、歯数の異なるギヤを組み合わせることで減速する。また、送りネジ3cは、ねじ山が台形からなる台形ネジを使用することで、セルフロックが可能となる。駆動部材3は、トーションビーム21等の懸架装置に対してバネ上にあたるフレーム等の車体に配置される。このように、駆動部材3をバネ上に設置することにより、バネ下の軽量化が実現でき、乗り心地及び車両の運動性能が向上する。
【0020】
ケーブル部材4は、一端を駆動モータ3の送りネジ3cに連結され他端の揺動レバー5に駆動力を伝達するケーブル4bと、ケーブル4bの周囲に被覆されるチューブ4aとを有する。チューブ4aは、ベース部材2のチューブ支持部2aに支持される。動力の伝達にケーブル部材4を用いることにより、バネ上に設置した駆動部材3とバネ下に設置した揺動レバー5とをフレキシブルに連結することができ、サスペンションの特性を損ねることが低減される。また、ケーブル部材4は、プッシュプル機能を有するので、1本でよく、部品点数が少なくなり、低コストを実現することが可能となる。
【0021】
揺動レバー5は、一端側にケーブル取付部材6によりケーブルが取り付けられ、他端側を揺動軸7により支持されている。そのため、揺動レバー5は、ケーブル4bの移動に伴い一端側が押し引きされて揺動軸7を中心に揺動する。
【0022】
揺動軸7は、揺動レバー5の他端側に一体に取り付けられ、揺動レバー5の揺動と共に回転する。揺動軸7の回転は、増速部8に伝達される。
【0023】
増速部8は、図5に示すように、揺動軸7と共に回転するように接続され略扇形に並んだ歯を有する第1ギヤ8aと、第1ギヤ8aの扇形よりも径が小さい円形であり円周に並んだ歯が第1ギヤ8aの歯に噛み合い、第1ギヤ8aの回転によって伝達された駆動力を中心軸に接続されたクランク部材9に回転によって伝達する第2ギヤ8bと、第1ギヤ8a及び第2ギヤ8bを覆うケース8cと、を有する。なお、本実施形態のケース8cは、クランク部材9の第2ギヤ8bと反対側の軸端部を支持する図示しない軸受け等も被覆している。増速部8を設けることにより、ケーブル4bの移動距離が少なくてもクランク部材9の回転角を多くすることができ、駆動力を効率的に伝達することが可能となる。
【0024】
クランク部材9は、クランク軸9aと、クランク軸9aに対して軸と直交する方向のずれた位置に配置されたクランクピン9bとからなる。クランクピン9bは、増速部8の第2ギヤ8bの回転によりクランク軸9aが回転し、クランク軸9aの回転に伴いクランク軸9aを中心に円弧状に回転運動をする。なお、クランク部材9は角度センサ15を有することが好ましい。バネ下のクランク軸9aにキャンバ角を制御するポジションセンサを設置することで、経年劣化等によるケーブル4bの伸縮の影響なしで正確な位置を検出することが可能である。また、図3に示した送りネジ3cはセルフロックが可能となる。
【0025】
移動部材10は、一端をクランクピン9bに対して回動可能に取り付けられ、他端に連結部材11を連結される。移動部材10は、クランクピン9bの回転運動を直進運動に変換し、往復移動する。本実施形態では、ゴムブッシュ等を用いている。
【0026】
連結部材11は、移動部材10とキャンバプレート12を連結する部材である。なお、連結部材11を設けず、移動部材10とキャンバプレート12を直接連結してもよい。
【0027】
キャンバプレート12は、ハブ31のケース31aを支持し、一端側を連結部材11により移動部材10に連結され、他端側をキャンバプレート支持部13によりベース部材2に対して回動可能に支持されている。キャンバプレート12は、移動部材10の移動によりベース部材2に対して回動する。キャンバプレート12が回動することにより、ハブ31が回動し、結果的に、車輪40のキャンバ角を調整することが可能となる。
【0028】
キャンバプレート支持部13は、第1支持部13aと、第1支持部13aよりも後方に配置された第2支持部13bと、を有する。第1支持部13aは、ベース部材2とキャンバプレート12とをキャンバ軸に軸支する軸部材からなる。また、第2支持部13bは、ゴムブッシュ等からなる。なお、第1支持部13aと第2支持部13bとは車両前後方向の一直線上に配置する必要はない。したがって、キャンバ角調整装置1を作動した場合、キャンバ角だけでなく、トウ角も変化するように設定可能である。なお、第2支持部13bは設けなくてもよく、図1、図5〜7では、第2支持部13bは省略している。
【0029】
トーションビーム21は、車体に対して揺動し、振動を吸収するサスペンションである。本実施形態では、ベース部材2がトーションビーム21に設置されている。
【0030】
ハブ31は、キャンバプレート12に支持されるケース31aと、図示しないドライブシャフトに連結されエンジンやモータ等の駆動力により回転する回転部31bを有する。
【0031】
車輪40は、ハブ31の回転部31bにボルト等により締着され、回転部31bと共に回転するホイール41と、ホイール41の外周に組み付けられるタイヤと、を有する。
【0032】
次に、本実施形態のキャンバ角調整装置1の作動について説明する。
【0033】
図6は本実施形態の作動中のキャンバ角調整装置1の拡大斜視図、図7は本実施形態の作動後のキャンバ角調整装置1の拡大斜視図、図8は本実施形態の作動後のキャンバ角調整装置1の断面図、である。
【0034】
図4に示すように、本実施形態では、キャンバ角調整装置1の調整前にアライメント調整をして車輪40にはあらかじめキャンバ角が付与されている。なお、キャンバ角調整装置1の調整前のキャンバ角は0°としてもよい。
【0035】
この時、クランク軸9a、クランクピン9b、及び移動部材10とキャンバプレート12との連結部分である連結部材11を結ぶ線は、一直線となることが望ましい。一直線となることでセルフロックがかかり、外力に対して移動するおそれが低減する。
【0036】
図5に示すように、キャンバ角調整装置1の調整前は、ケーブル4bが引かれておらず、揺動レバー5が揺動軸7よりも上方に配置されている。
【0037】
次に、モータ3aが駆動を開始し、キャンバ角調整装置1が調整中となった場合について説明する。まず、図示しない制御装置等によりキャンバ角を調整するよう指示があると、駆動部材3のモータ3aが駆動する。
【0038】
モータ3aの駆動力は、減速部3bで減速され、送りネジ3cを移動させる。送りネジ3cによりモータ3aの回転運動は、直進運動に変換される。この直進運動により、ケーブル部材4のケーブル4bは引かれる。なお、チューブ4aはベース部材2に取り付けられているので、ケーブル4bはチューブ4aに対して摺動して移動する。
【0039】
ケーブル4bは、ケーブル取付部材6によって揺動レバー5の一端側に取り付けられているので、ケーブル4bが引かれることによって、図6に示すように、揺動レバー5は他端側の揺動軸7を中心に揺動する。
【0040】
揺動軸7は揺動レバー5と一体に回転する。揺動軸7の回転は、一体に回転する増速部8の第1ギヤ8aに伝達される。第1ギヤ8aの回転は、第1ギヤ8aと噛み合う第2ギヤ8bに伝達される。ここで、第1ギヤ8aと第2ギヤ8bの歯数の比により増速される。
【0041】
第2ギヤ8bとクランク部材9のクランク軸9aは、一体に回転するので、第2ギヤ8bの回転により、クランク部材9が回転する。クランク部材9の回転により、一端側をクランクピン9bに取り付けられた移動部材10の他端側は、略直進方向に移動する。移動部材10の移動により、連結部材11も、略直進方向に移動する。そして、一端側を連結部材11に取り付けられたキャンバプレート12は、他端側を支持したキャンバプレート支持部13を中心にベース部材2に対して回動する。
【0042】
その後、さらに、モータ3aは駆動し、ケーブル4bが引かれ、図7に示すように、揺動レバー5は他端側の揺動軸7を中心にさらに揺動する。すると、キャンバプレート12がさらに回動し、キャンバ角がさらに付与される。
【0043】
モータ3aの回転する角度は、減速部3b及び増速部8での増減速を考慮した上でクランク部材9が約180°回転する角度となるようにあらかじめ設定されていることが好ましい。具体的には、図7及び図8に示すように、クランク部材9が約180°回転すると、キャンバ角があらかじめ設定した所定の角度となるように設定されており、この角度にあわせてモータ3aの回転角度が設定されている。
【0044】
この時、キャンバ角調整装置1の調整前と同様に、クランクピン9b、クランク軸9a、及び移動部材10とキャンバプレート12との連結部分である連結部材11を結ぶ線は、一直線となることが望ましい。一直線となることでセルフロックがかかり、外力に対して移動するおそれが低減する。
【0045】
図8に示すように、キャンバ角調整装置1によりキャンバ角を調整前と比較してネガティブに調整された車輪40は、モータ3aを正逆回転可能な構成とし、モータ3aを逆回転することにより、図4に示した調整前のキャンバ角に戻ることが可能である。なお、駆動部材3のモータ3aをさらに回転させて調整前のキャンバ角に戻る構成としてもよい。
【0046】
次に、キャンバ角調整装置1の設定について説明する。
【0047】
図9はキャンバ角調整装置1の動きを示す模式図である。
【0048】
図9に示すように、本実施形態のキャンバ角調整装置1は、ケーブル4bを押し引きすることに対応して、揺動レバー5が揺動し、揺動レバー5が揺動すると、増速部8の第1ギヤ8a、第2ギヤ8b及びクランク部材9が回転する。したがって、ケーブル4bの押し引きの長さ、第1ギヤ8aと第2ギヤ8bのギヤ比a、図9に示したケーブル4bの第1揺動角度θsと第2揺動角度θm、揺動レバー5及び第1ギヤ8aの回転角度αa、並びに第2ギヤ8b及びクランク部材9の回転角度αc等は相互に対応する関係を持っている。
【0049】
図10はキャンバ角調整装置設定方法のフローチャート、図11はクランク部材の仕様設定のサブルーチン、図12はケーブル部材の仕様設定のサブルーチン、図13は各パラメータ間の関係を演算するサブルーチンを示す図である。
【0050】
本実施形態では、まず、ステップ1でクランク部材9の仕様を設定する(ST1)。本実施形態では、クランク部材9の仕様を設定するには、図11に示すようなサブルーチンを実行する。
【0051】
まず、ステップ11で、クランク部材9の軸回転角αcを設定する(ST11)。本実施形態では、クランク部材9の軸回転角αcを180°に設定した。これは、クランク軸9a、クランクピン9b及び連結部材11を結ぶ線が180°となった場合に、車軸方向に加わる外力によってその位置から回転を再度始めるために最大のトルクが必要となるセルフロック機能を生じさせるためである。セルフロック機能により、車輪40からの外乱に対して強固となるように構成することが可能となる。
【0052】
次に、ステップ12で、クランク部材9の軸トルクTcを設定し(ST12)、図10に示したメインルーチンに戻る。本実施形態では、クランク部材9の軸トルクTcを6.3Nmに設定した。
【0053】
次に、図10に示したメインルーチンに戻り、ステップ2で、ケーブル4bの仕様を設定する(ST2)。本実施形態では、ケーブル4bの仕様を設定するには、図12に示すようなサブルーチンを実行する。
【0054】
ケーブル4bは、耐久性等の問題により、まずステップ21で、ケーブル許容荷重Fcamax〔N〕を設定し(ST21)、ステップ22でケーブル許容揺動角θmax〔°〕を設定する(ST22)。本実施形態では、ケーブル許容荷重Fcamax=400N、ケーブル許容揺動角θmax=4°と仮決めする。
【0055】
次に、ステップ23で、図9に示したケーブル取付部材6による揺動レバー5へのケーブル取り付け位置からケーブル支持部材2aによるケーブル4bの揺動中心までの距離Lyを設定し(ST23)、図10に示したメインルーチンに戻る。本実施形態では、Ly=111〔mm〕とする。
【0056】
次に、図10に示したメインルーチンのステップ3で、各パラメータ間の関係を設定する(ST3)。本実施形態では、各パラメータ間の関係を設定するには、図13に示すようなサブルーチンを実行する。
【0057】
まず、ステップ31で、ギヤ比aと揺動レバー5の軸トルクの関係を求める(ST31)。ギヤ比aと揺動レバー5の軸トルクTaの関係は、以下の式(1)の関係である。
Ta=Tc×a=6.3×a (1)
ただし、Taは揺動レバー5の軸トルク〔Nm〕、
Tcはクランク部材9の軸トルク〔Nm〕、
aはギヤ比、
である。
【0058】
次に、ステップ32で、ギヤ比aと揺動レバー5の回転角度の関係を求める(ST32)。ギヤ比aと揺動レバー5の回転角度αaの関係は、以下の式(2)の関係である。
αa=αc/a=180/a (2)
ただし、αaは揺動レバー5の回転角度〔°〕、
αcはクランク部材9の回転角度〔°〕、
aはギヤ比、
である。
【0059】
次に、ステップ33で、揺動レバー5の軸トルクTaと揺動レバーの長さLaの関係を求める(ST33)。揺動レバー5の軸トルクTaと揺動レバーの長さLaの関係は、以下の式(3)の関係である。
La=Ta/Fca (3)
ただし、Laは揺動レバーの長さ〔m〕
Taは揺動レバー5の軸トルク〔Nm〕、
Fcaはケーブル荷重〔N〕、
である。
【0060】
次に、ステップ34で、揺動レバー5の回転角度αaとケーブル部材4bのストロークSの関係を求める(ST34)。
【0061】
最もケーブル4bが伸びた状態をLg、縮んだ状態をLsとすると、ケーブル4bのストロークSは、S=Lg−Lsで表すことができる。また、最もケーブル4bが伸びた状態Lg及び縮んだ状態Lsは、以下の式(4)、(5)で表すことができる。
【数1】


ただし、Lgは最もケーブル4bが伸びた状態〔m〕、
Lsは最もケーブル4bが縮んだ状態〔m〕、
Laは揺動レバーの長さ〔m〕、
Lyはケーブル取付部材6による揺動レバー5へのケーブル取り付け位置からケーブル支持部材2aによるケーブル4bの揺動中心までの距離〔m〕、
αaは揺動レバー5の回転角度〔°〕、
である。
【0062】
次に、ステップ35で、揺動レバー5の回転角度αaとケーブル部材4bの揺動角θの関係を求める(ST35)。
【0063】
中間状態でのケーブル4bの第2揺動角θm及び縮んだ状態でのケーブル4bの第1揺動角θsは、以下の式(6)、(7)で表すことができる。
【数2】


ただし、θmは中間状態でのケーブル4bの第2揺動角〔°〕、
θsは縮んだ状態でのケーブル4bの第1揺動角〔°〕、
Laは揺動レバーの長さ〔m〕、
Lyはケーブル取付部材6による揺動レバー5へのケーブル取り付け位置からケーブル支持部材2aによるケーブル4bの揺動中心までの距離〔m〕、
αaは揺動レバー5の回転角度〔°〕、
である。
【0064】
ここで、分母が小さいほど角度は大きくなるので、ケーブル4bの揺動角θを検討する際には第1揺動角θsを揺動角θとして使用する。
【0065】
次に、ステップ36で、揺動レバー5とケーブル部材4bとのなす角βと効率Eの関係を求める(ST35)。
【0066】
揺動レバー5とケーブル4bとのなす角βは、β=90+αa+θであり、伝わる力Faは、Fa=Fca・sinβなので、ストロークさせる際の力の効率Eは、以下の式(8)で表される。
E=Fa/Fca (8)
ただし、Eはストロークさせる際の力の効率、
Faは伝わる力〔N〕、
Fcaはケーブル荷重〔N〕、
である。
【0067】
このように、各パラメータ間の関係を設定した後、図10に示したメインルーチンへ戻る。
【0068】
次に、図10に示したメインルーチンのステップ4で、所定のパラメータを選択し、各パラメータを演算する(ST4)。
【0069】
図14は、ケーブル4bの揺動角θに対する各パラメータ間の関係を示すグラフである。本実施形態では、例えば、ケーブル4bの揺動角θを選択し、0〜4°の間で変化させ、各式の演算を行うことで、図14に示すようなグラフを作成した。
【0070】
ここで、図14中、実線Aはギヤ比、長破線Bは揺動レバー5の軸トルクTa、二重短破線Cは揺動レバーの回転角度αa、長一点鎖線Dは揺動レバーの長さLa、短破線EはストロークS、点線Fは効率E、短一点鎖線Gはギヤの面積、二点鎖線Hは伝達トルクである。
【0071】
次に、ステップ5で、所定のパラメータに応じて各部材のパラメータを決定する(ST5)。
【0072】
図14に示すように、ケーブル4bの揺動角θが大きくなるほど、効率Eが低下するが、他の条件はよくなることがわかる。したがって、各パラメータでバランスのよい場合のケーブル4bの揺動角θを決定し、それに応じて各パラメータが決定することが好ましい。
【0073】
また、図15は、揺動レバー5の揺動角αaに対するケーブル4bの揺動角θ及びクランク軸トルクTcを示すグラフである。ただし、図15中、破線はケーブル4bの揺動角θ、実線はケーブル揺動角θに10%余裕を持たせた場合、二点鎖線は伝達トルクである。
【0074】
図15に示すように、ケーブル4bの揺動角θが約4°の場合には、揺動レバー5の揺動角αaは約120°であるが、ケーブル4bの揺動角θに10%余裕を持たせた場合、揺動レバー5の揺動角αaは約90°となる。このように、ケーブル4bの揺動角θに多少余裕を持たせて決定してもよい。余裕を持たせることで、ケーブル4bの寿命を長くすることが可能となる。
【0075】
なお、本実施形態では、まず、パラメータとしてケーブル4bの揺動角θを選択したので、ケーブル4bの揺動角θに応じた各パラメータの値を求め、各パラメータのバランスのよい時のケーブル4bの揺動角θを決定したが、これに限らず、他のパラメータを選択し、そのパラメータに基づいて決定してもよい。
【0076】
例えば、図16は、ギヤ比に対する各パラメータ間の関係を示すグラフである。このように、まずギヤ比を選択し、ギヤ比に応じた各パラメータの値を求め、各パラメータのバランスのよい場合のギヤ比を決定し、それに応じて各パラメータを決定すればよい。
【0077】
ここで、図16中、実線Aはケーブル4bの揺動角θ、長破線Bは揺動レバー5の軸トルクTa、二重短破線Cは揺動レバー5の回転角度αa、長一点鎖線Dは揺動レバー5の長さLa、短破線EはストロークS、点線Fは効率E、短一点鎖線Gはギヤの面積、二点鎖線Hは伝達トルクである。
【0078】
このように、本実施形態によれば、トーションビーム21を介して車体に懸架される車輪40のキャンバ角を変更するキャンバ角調整装置1において、懸架装置に対してバネ下に支持されるベース部材2と、バネ上の車体に設置され、駆動力を発生する駆動部材3と、駆動部材3の発生する駆動力を伝達するケーブル部材4と、ケーブル部材4と連結された揺動レバー5と、揺動レバー5の回転により回転するクランク部材9と、揺動レバー5の回転を増速し、クランク部材9を回転する増速部8と、クランク部材9の回転運動を変換して直進運動する移動部材10と、車輪40を支持し、移動部材10の移動に伴いベース部材2に対してキャンバ軸を中心に回動可能に支持されるキャンバプレート12と、を備えるので、バネ下重量を軽減し、乗り心地や運動性能を向上することが可能となる。
【0079】
また、上記キャンバ角調整装置1に用いられる設定方法であって、クランク部材9の少なくとも回転角αc及び軸トルクTcを設定するステップと、ケーブル部材4にかかる許容荷重Fca及びケーブル部材4の許容揺動角αcaを設定するステップと、ケーブル部材4、揺動レバー5、クランク部材9及び増速部8の各パラメータ間の関係を設定するステップと、ケーブル部材4、揺動レバー5、クランク部材9及び増速部8のうち、所定のパラメータを選択し、パラメータ間の関係を演算するステップと、所定のパラメータに応じてケーブル部材4、揺動レバー5、クランク部材9及び増速部8のパラメータを決定するステップと、を有するので、各部材のパラメータを適切に決定することが可能となる。
【0080】
また、ケーブル部材4、揺動レバー5、クランク部材9及び増速部8の各パラメータ間の関係を設定するステップは、増速部8のギヤ比aと揺動レバー5の軸トルクTaの関係を求めるステップと、増速部8のギヤ比aと揺動レバー5の回転角度αaの関係を求めるステップと、揺動レバー5の軸トルクTaと揺動レバー5の長さLaの関係を求めるステップと、揺動レバー5の回転角度αaとケーブル部材4のストロークSの関係を求めるステップと、揺動レバー5の回転角度αaとケーブル部材4の揺動角θの関係を求めるステップと、揺動レバー5とケーブル部材4とのなす角と効率Eの関係を求めるステップと、からなるので、さらに適切に各部材のパラメータを決定することが可能となる。
【符号の説明】
【0081】
1…キャンバ角調整装置、2…ベース部材、3…駆動部材、4…ケーブル部材、5…揺動レバー、6…ケーブル取付部材、7…揺動軸、8…増速部、9…クランク部材、10…移動部材、11…連結部材、12…キャンバプレート(回動部材)、13…キャンバプレート支持部(回動部材支持部)、21…トーションビーム(懸架装置)、31……ハブ、40…車輪、41…ホイール、42…タイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸架装置を介して車体に懸架される車輪のキャンバ角を変更するキャンバ角調整装置において、
懸架装置に対してバネ下に支持されるベース部材と、
バネ上の前記車体に設置され、駆動力を発生する駆動部材と、
前記ベース部材に支持された支持部を中心に揺動し、前記駆動部材の発生する駆動力を伝達するケーブル部材と、
バネ下に配置され、前記ケーブル部材と連結された揺動レバーと、
バネ下に配置され、前記揺動レバーの回転により回転するクランク部材と、
前記揺動レバーの回転を増速し、前記クランク部材を回転する増速部と、
バネ下に配置され、前記クランク部材の回転運動を変換して直進運動する移動部材と、
前記車輪を支持し、前記移動部材の移動に伴い前記ベース部材に対してキャンバ軸を中心に回動可能に支持される回動部材と、
を備えたことを特徴とするキャンバ角調整装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたキャンバ角調整装置に用いられる設定方法であって、
前記クランク部材の少なくとも回転角及び軸トルクを設定するステップと、
前記ケーブル部材にかかる許容荷重及び前記ケーブル部材の許容揺動角を設定するステップと、
前記ケーブル部材、前記揺動レバー、前記クランク部材及び前記増速部の各パラメータ間の関係を設定するステップと、
前記ケーブル部材、前記揺動レバー、前記クランク部材及び前記増速部のうち、所定のパラメータを選択し、パラメータ間の関係を演算するステップと、
前記所定のパラメータに応じて前記ケーブル部材、前記揺動レバー、前記クランク部材及び前記増速部のパラメータを決定するステップと、
を有することを特徴とするキャンバ角調整装置の設定方法。
【請求項3】
前記ケーブル部材、前記揺動レバー、前記クランク部材及び前記増速部の各パラメータ間の関係を設定するステップは、
前記増速部のギヤ比と前記揺動レバーの軸トルクの関係を求めるステップと、
前記増速部のギヤ比と前記揺動レバーの回転角度の関係を求めるステップと、
前記揺動レバーの軸トルクと前記揺動レバーの長さの関係を求めるステップと、
前記揺動レバーの回転角度と前記ケーブル部材のストロークの関係を求めるステップと、
前記揺動レバーの回転角度と前記ケーブル部材の揺動角の関係を求めるステップと、
前記揺動レバーと前記ケーブル部材とのなす角と効率の関係を求めるステップと、
からなることを特徴とする請求項2に記載のキャンバ角調整装置の設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−230620(P2011−230620A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101906(P2010−101906)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】