説明

キレート導入高分子および高分子組成物ならびに被覆電線およびワイヤーハーネス

【課題】フィラーとともに用いて、機械特性などの材料特性を向上させるキレート導入高分子および高分子組成物を提供すること。
【解決手段】ポリマー主鎖に無水マレイン酸がグラフトされ、このグラフト側鎖にキレート構造を有するキレート導入高分子とする。キレート構造は、キレート配位子に由来してなり、無水マレイン酸とエステル結合などにより形成可能である。ポリマー主鎖は、オレフィン系樹脂やスチレン系熱可塑性エラストマーが好ましい。また、このキレート導入高分子とフィラーとを含有してなる高分子組成物とする。キレート導入高分子の含有率は、0.1〜20重量部の範囲内にあることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キレート導入高分子および高分子組成物ならびに被覆電線およびワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な分野において、樹脂やゴム、エラストマーなどを含有する高分子組成物が用いられている。この高分子組成物には、その用途に応じて、各種機能を付与するなどの目的で、フィラーが添加されることが多い。
【0003】
例えば、自動車などの車両部品や電気・電子機器部品などの配線として用いられる電線の分野では、電線の被覆材などに高分子組成物が用いられている。この場合、被覆材などには、耐摩耗性などの機械特性、柔軟性、加工性、難燃性などの電線に要求される特性に応じて、可塑剤や安定剤、難燃剤などの各種フィラーが添加されることがある。
【0004】
ところで、高分子組成物にフィラーが添加される場合には、フィラーの種類や材質、添加量などによっては、かえって機械特性などの材料特性を損なうことがある。
【0005】
例えば電線の場合、被覆材などには、地球環境への負荷を抑制するなどの観点から、燃焼時に有害なハロゲン系ガスを出さないオレフィン系樹脂などの有機高分子が用いられるようになってきている。
【0006】
この場合、十分な難燃性を確保するため、難燃剤を多量に添加することが有効である。その一方で、難燃剤を多量に添加すると、耐摩耗性などの機械特性が著しく低下することが知られている(特許文献1)。
【0007】
【特許文献1】特許第3280099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、機械特性などの材料特性が低下する原因は、高分子組成物中にフィラーが十分に分散されていないためと推察される。従来知られる高分子組成物においても、このような機械特性などの材料特性の低下を抑えるために、フィラーの分散性を高めるような種々の検討はなされているものの、その機械特性などの材料特性には改良の余地があった。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、フィラーとともに用いて、機械特性などの材料特性を向上させることが可能なキレート導入高分子および高分子組成物を提供することにある。また、他の課題は、これを用いて、耐摩耗性などの機械特性に優れる被覆電線ならびにワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、フィラーとの親和性に優れる構造と、オレフィン系樹脂などの有機高分子との親和性に優れる構造とをあわせ持つ材料を用いれば、フィラーを含有していても、機械特性などの材料特性を向上させることが可能であるとの知見を得た。
【0011】
すなわち、本発明に係るキレート導入高分子は、変性ポリマーの変性部位にキレート構造を有することを要旨とするものである。
【0012】
この場合、前記変性ポリマーは、不飽和カルボン酸またはその誘導体により変性された変性ポリマーであることが望ましい。
【0013】
また、前記変性ポリマーは、無水マレイン酸により変性された変性ポリマーであることが望ましい。このとき、ポリマー主鎖に無水マレイン酸がグラフトされ、このグラフト側鎖にキレート構造を有するものを好適に示すことができる。
【0014】
そして、前記キレート構造は、ポリリン酸塩、アミノカルボン酸、1,3−ジケトン、ヒドロキシカルボン酸、ポリアミン、アミノアルコール、芳香族複素環式塩基、フェノール類、オキシム類、シッフ塩基、テトラピロール類、イオウ化合物、合成大環状化合物、ホスホン酸、および、ヒドロキシエチリデンホスホン酸から選択される1種または2種以上のキレート配位子に由来することが望ましい。
【0015】
このとき、前記キレート構造は、エステル結合、エーテル結合、チオエステル結合、チオエーテル結合、および、アミド結合から選択される1種または2種以上により前記変性部位と結合されていると良い。
【0016】
そして、前記変性ポリマーのポリマー主鎖としては、オレフィン系樹脂および/またはスチレン系熱可塑性エラストマーよりなるものを好適に示すことができる。
【0017】
また、本発明に係るキレート導入高分子は、変性ポリマーとキレート配位子とを接触させて得られうることを要旨とするものである。
【0018】
一方、本発明に係る高分子組成物は、上記キレート導入高分子と、フィラーとを含有してなることを要旨とするものである。
【0019】
この場合、前記キレート導入高分子の含有率は、0.1〜20重量部の範囲内にあることが望ましい。
【0020】
そして、本発明に係る被覆電線は、上記高分子組成物を被覆材に用いたことを要旨とするものである。
【0021】
さらに、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記高分子組成物を用いたことを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るキレート導入高分子は、変性ポリマーの変性部位にキレート構造を有する。そのため、フィラーとともに用いて、材料特性、とりわけ機械特性を向上させることができる。これは、キレート導入高分子中のキレート構造がフィラーとの親和性に優れるので、フィラーと強く結合してフィラー同士が互いに凝集するのを防止し、フィラーが高分子組成物中に高分散されるためであると推測される。
【0023】
また、このキレート導入高分子は、ポリマー部分を有するので、これ自体で高分子組成物を形成することもできるし、他の有機高分子とともに高分子組成物を形成することもできる。後者の場合には、このポリマー部分が他の有機高分子と相溶可能なので、このキレート導入高分子と結合するフィラーが高分子組成物中に高分散可能となる。そのため、機械特性などの材料特性を向上させることができる。
【0024】
この場合、前記変性ポリマーが、不飽和カルボン酸またはその誘導体により変性された変性ポリマーであると、変性ポリマーの変性部位にキレート構造を導入しやすい。
【0025】
同様に、前記変性ポリマーが、無水マレイン酸により変性された変性ポリマーであると、変性ポリマーの変性部位にキレート構造を導入しやすい。
【0026】
このとき、ポリマー主鎖に無水マレイン酸がグラフトされ、このグラフト側鎖にキレート構造を有するものは、機械特性などの材料特性を向上させる効果に優れる。
【0027】
そして、前記キレート構造が、ポリリン酸塩、アミノカルボン酸、1,3−ジケトン、ヒドロキシカルボン酸、ポリアミン、アミノアルコール、芳香族複素環式塩基、フェノール類、オキシム類、シッフ塩基、テトラピロール類、イオウ化合物、合成大環状化合物、ホスホン酸、およびヒドロキシエチリデンホスホン酸から選択される1種または2種以上のキレート配位子に由来するものは、機械特性などの材料特性を向上させる効果に優れる。
【0028】
このとき、前記キレート構造は、エステル結合、エーテル結合、チオエステル結合、チオエーテル結合、および、アミド結合から選択される1種または2種以上により前記変性部位と確実に結合することができる。また、種々のキレート構造を簡便に導入することができる。
【0029】
そして、前記変性ポリマーのポリマー主鎖が、オレフィン系樹脂および/またはスチレン系熱可塑性エラストマーよりなると、ハロゲン元素を含有しないので、燃焼時に有害なハロゲン系ガスが出ることはなく、地球環境にやさしい。
【0030】
また、本発明に係るキレート導入高分子は、変性ポリマーとキレート配位子とを接触させて得られうる。そのため、フィラーとともに用いて、機械特性などの材料特性を向上させることができる。
【0031】
一方、本発明に係る高分子組成物は、上記キレート導入高分子と、フィラーとを含有してなる。そのため、機械特性などの材料特性が向上する。
【0032】
この場合、前記キレート導入高分子の含有率が、0.1〜20重量部の範囲内にあると、上記効果に一層優れる。
【0033】
そして、本発明に係る被覆電線は、上記高分子組成物を被覆材に用いてなる。 また、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記高分子組成物を用いてなる。そのため、耐摩耗性などの機械特性に優れる。これにより、材料の劣化が抑えられ、長期にわたって高い信頼性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0035】
本発明に係るキレート導入高分子は、変性ポリマーの変性部位にキレート構造を有するものからなる。
【0036】
変性ポリマーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、不飽和カルボン酸またはその誘導体により変性された変性ポリマーや、不飽和チオカルボン酸またはその誘導体により変性された変性ポリマー、エポキシ基の導入により変性された変性ポリマーなどを例示することができる。これらのうち、不飽和カルボン酸またはその誘導体により変性された変性ポリマーが特に好ましい。
【0037】
不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、フマル酸、無水フマル酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、フタル酸、無水フタル酸、フタル酸モノエステル、フタル酸ジエステルなどを例示することができる。好ましくは、無水マレイン酸および無水フマル酸である。変性部位の反応活性がより高く、変性部位にキレート構造を導入しやすいからである。また、無水マレイン酸で変性されたものは入手も容易である。
【0038】
変性ポリマーは、例えば、ポリマー主鎖に、上記不飽和カルボン酸などのモノマーをグラフトさせるグラフト法や、エチレン、プロピレンなどのオレフィン、スチレンなどのモノマーと、上記不飽和カルボン酸などのモノマーとを共重合させる共重合法などにより形成することができ、その方法は特に限定されるものではない。
【0039】
例えば、グラフト法により変性ポリマーを得るには、通常、ポリマーと、上記不飽和カルボン酸などのモノマーとをラジカル発生剤の存在下でグラフトさせる方法などが好適に用いられる。
【0040】
グラフト法により変性されるポリマーとしては、例えば、オレフィン系樹脂や、スチレン系熱可塑性エラストマーなどを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
【0041】
オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンや、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテンなどのα−オレフィンの共重合体などを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
【0042】
スチレン系熱可塑性エラストマーにおいて、スチレンと共重合させる成分としては、エチレンやプロピレン、ブタジエン、イソプレンなどを例示することができる。これらは単独で共重合させても良いし、複数組み合わせて共重合させても良い。
【0043】
具体的には、スチレン−ブタジエンブロック共重合体およびその水添または部分水添誘導体であるスチレン−エチレン−スチレン共重合体(SES)やスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレンブロック共重合体およびその水添または部分水添誘導体であるスチレン−エチレン−プロピレン共重合体(SEP)やスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)などを例示することができる。
【0044】
ラジカル発生剤としては、一般的なものを適用することができる。例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ブチルパーアセテート、t−ブチルパーベンゾエートなどの有機過酸化物などを例示することができる。
【0045】
変性ポリマーの変性量は、0.1〜10重量%の範囲内にあることが好ましい。変性量が0.1重量%未満であると、導入されるキレート構造の量が少なくなるので、フィラーとともに用いて、機械特性などの材料特性を向上させる効果が低下しやすいからである。また、変性量が10重量%を越えると、極性基であるキレート構造の量が多くなり過ぎ、フィラーの凝集を引き起こしやすくなるからである。
【0046】
キレート構造は、変性ポリマーの変性部位に形成されており、フィラーと結合しやすいキレート機能を高分子に付与する。キレート構造は、変性前に、グラフトまたは共重合させるモノマーに形成されていても良いし、グラフトまたは共重合により変性ポリマーを形成した後に、変性ポリマーの変性部位に導入されても良い。
【0047】
キレート構造を、グラフトまたは共重合させるモノマーに形成するか、変性ポリマーの変性部位に導入するには、例えば、配位結合可能な非共有電子対を複数有するキレート配位子を用いて、化学結合させる方法などを採用することができる。化学結合としては、エステル結合、エーテル結合、チオエステル結合、チオエーテル結合、アミド結合などを好適に示すことができる。これらは、1種または2種以上有していても良い。
【0048】
キレート配位子を用いて、グラフトまたは共重合させるモノマーにキレート構造が形成された形態としては、例えばこのモノマーが不飽和カルボン酸またはその誘導体であるときには、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸アミドなどを例示することができる。この場合、エステル結合やアミド結合などによりキレート構造を有している。なお、不飽和カルボン酸またはその誘導体がマレイン酸またはその誘導体であるときなどでは、キレート配位子が2つ結合可能となる。
【0049】
一方、変性ポリマーの変性部位にキレート配位子を導入する方法としては、例えば不飽和カルボン酸またはその誘導体により変性された変性ポリマーであるときには、キレート配位子がヒドロキシル基を有していれば、エステル結合により変性ポリマーにキレート配位子を導入することができる。また、キレート配位子がアミノ基を有していれば、アミド結合により変性ポリマーにキレート配位子を導入することができる。なお、不飽和カルボン酸またはその誘導体がマレイン酸またはその誘導体であるときなどでは、キレート配位子を2つ導入することも可能である。
【0050】
キレート配位子としては、例えば、ポリリン酸塩、アミノカルボン酸、1,3−ジケトン、ヒドロキシカルボン酸、ポリアミン、アミノアルコール、芳香族複素環式塩基、フェノール類、オキシム類、シッフ塩基、テトラピロール類、イオウ化合物、合成大環状化合物、ホスホン酸、およびヒドロキシエチリデンホスホン酸などを示すことができる。これらの化合物は、配位結合可能な非共有電子対を複数有している。
【0051】
より具体的には、ポリリン酸塩としては、トリポリリン酸ナトリウムやヘキサメタリン酸などを例示することができる。アミノカルボン酸としては、エチレンジアミン二酢酸、エチレンジアミン二プロピオン酸、エチレンジアミン四酢酸、N−ヒドロキシメチルエチレンジアミン三酢酸、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジアミノシクロヘキシル四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、N,N−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン二酢酸、ヘキサメチレンジアミンN,N,N,N−四酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、イミノ二酢酸、ジアミノプロパン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ポリ(p−ビニルベンジルイミノ二酢酸)などを例示することができる。
【0052】
1,3−ジケトンとしては、アセチルアセトン、トリフルオロアセチルアセトン、テノイルトリフルオロアセトン、アセト酢酸アミノプロピル、アセト酢酸ヒドロキシプロピルなどを例示することができる。ヒドロキシカルボン酸としては、N−ジヒドロキシエチルグリシン、エチレンビス(ヒドロキシフェニルグリシン)、ジアミノプロパノール四酢酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸などを例示することができる。ポリアミンとしては、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、トリアミノトリエチルアミン、ポリエチレンイミンなどを例示することができる。アミノアルコールとしては、トリエタノールアミン、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ポリメタリロイルアセトンなどを例示することができる。
【0053】
芳香族複素環式塩基としては、ジピリジル、o−フェナントロリン、オキシン、8−ヒドロキシキノリンなどを例示することができる。フェノール類としては、5−スルホサリチル酸、サリチルアルデヒド、ジスルホピロカテコール、クロモトロプ酸、オキシンスルホン酸、ジサリチルアルデヒドなどを例示することができる。オキシム類としては、ジメチルグリオキシム、サリチルアドキシムなどを例示することができる。シッフ塩基としては、ジメチルグリオキシム、サリチルアドキシム、ジサリチルアルデヒド、1,2−プロピレンジミンなどを例示することができる。
【0054】
テトラピロール類としては、フタロシアニン、テトラフェニルポルフィリンなどを例示することができる。イオウ化合物としては、トルエンジチオール、ジメルカプトプロパノール、チオグリコール酸、エチルキサントゲン酸カリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジチゾン、ジエチルジチオリン酸などを例示することができる。合成大環状化合物としては、テトラフェニルポルフィリン、クラウンエーテル類などを例示することができる。ホスホン酸としては、エチレンジアミンN,N−ビスメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸、ニトリロトリスメチレンホスホン酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸などを例示することができる。
【0055】
上記キレート配位子には、適宜ヒドロキシル基やアミノ基などを導入することも可能である。ヒドロキシル基やアミノ基などを導入することにより、変性ポリマーの変性部位にキレート構造が導入可能となる場合もある。上記キレート配位子は、塩として存在可能なものもある。この場合、塩の形態で用いても良い。また、上記キレート配位子またはその塩の水和物や溶媒和物を用いても良い。さらに、上記キレート配位子には、光学活性体のものも含まれているが、任意の立体異性体、立体異性体の混合物、ラセミ体などを用いても良い。
【0056】
本発明に係るキレート導入高分子は、特に限定されるものではないが、例えば、上記変性ポリマーと上記キレート配位子とを接触させて得ることができる。このとき、溶媒を用いても良いし、撹拌させても良い。また、反応速度を上げるなどの目的で、加熱しても良いし、触媒を添加しても良い。さらに、副生物を除去するなどして、平衡反応を生成系に偏らせて、高収率で目的物が得られるようにしても良い。
【0057】
上記変性ポリマーと上記キレート配位子とを接触させると、上記変性ポリマーの変性部位と上記キレート配位子の官能基とが反応することにより化学結合が形成される。例えば、無水マレイン酸変性ポリマーと、ヒドロキシル基を含有するキレート配位子とを反応させると、エステル結合が形成されてキレート導入高分子が得られる。また、無水マレイン酸変性ポリマーと、アミノ基を含有するキレート配位子とを反応させると、イミド結合が形成されて、環構造のコハク酸イミド構造を有するキレート導入高分子が得られる。
【0058】
図1に、本発明に係るキレート導入高分子の構造の一例を模式図で示す。キレート導入高分子は、変性ポリマーのポリマー主鎖の複数箇所にグラフト側鎖が形成されており、このグラフト側鎖にキレート構造を有している。例えば、ポリマー主鎖に不飽和カルボン酸などがグラフトされた変性ポリマーの場合、このグラフト側鎖にキレート構造を有する。
【0059】
このポリマー主鎖から枝状に伸びているキレート構造がフィラーと強く結合することにより、フィラー同士が互いに凝集するのを防止し、フィラーの分散性を高めることが可能となる。また、ポリマー主鎖を有するので、これ自体で高分子組成物を形成することもできるし、他の有機高分子とともに高分子組成物を形成することもできる。
【0060】
次に、本発明に係るキレート導入高分子の好ましい例について説明する。以下の式(1)〜式(5)は、ポリマー主鎖に無水マレイン酸がグラフトされ、このグラフト側鎖にキレート構造を有する例を示している。式(1)〜式(5)では、ポリマー主鎖をR1で表し、キレート構造を有するグラフト側鎖を中心に示している。R1は、エチレン、プロピレンまたはSEBSのいずれかを示している。なお、本発明に係るキレート導入高分子は、以下の化合物に限定されるものではない。
【0061】
【化1】

【0062】
式(1)は、グラフト側鎖のカルボキシル末端にエチルイミノ二酢酸基を有するキレート導入高分子であり、エチルイミノ二酢酸基によりキレート配位可能になっている。
【0063】
【化2】

【0064】
式(2)は、グラフト側鎖のカルボキシル末端にN−メチルエチレンジアミン三酢酸基を有するキレート導入高分子であり、N−メチルエチレンジアミン三酢酸基によりキレート配位可能になっている。
【0065】
【化3】

【0066】
式(3)は、グラフト側鎖のカルボキシル末端にジアミノプロパン四酢酸基を有するキレート導入高分子であり、ジアミノプロパン四酢酸基によりキレート配位可能になっている。
【0067】
【化4】

【0068】
式(4)は、グラフト側鎖のカルボキシル末端にエチリデンジホスホン酸基を有するキレート導入高分子であり、ジホスホン酸基によりキレート配位可能になっている。
【0069】
【化5】

【0070】
式(5)は、グラフト側鎖のイミド末端にアセト酢酸プロピル基を有するキレート導入高分子であり、アセト酢酸プロピル基によりキレート配位可能になっている。
【0071】
次に、本発明に係る高分子組成物について説明する。本発明に係る高分子組成物は、上記キレート導入高分子と、フィラーとを含有してなる。上記キレート導入高分子は、ポリマー構造を有するので、これ自体で組成物のポリマー成分を構成しても良いし、他の有機高分子とともにポリマー成分を構成しても良い。他の有機高分子としては、特に限定されるものではないが、樹脂やエラストマー、ゴムを示すことができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
【0072】
本発明に係る高分子組成物において、上記キレート導入高分子の含有率は、0.1〜20重量部の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、0.5〜10重量部の範囲内である。0.1重量部未満では、キレート導入高分子の量が少ないので、機械特性などの材料特性を向上させる効果が低下しやすく、一方、20重量部を超えると、コストが増大するからである。よって、上記範囲内にあれば、機械特性などの材料特性を向上させる効果に一層優れる。
【0073】
他の有機高分子は、樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン−アクリル酸メチル(EMA)、エチレン−アクリル酸エチル(EEA)、エチレン−アクリル酸ブチル(EBA)、エチレン−メタクリル酸メチル(EMMA)、エチレン−酢酸ビニル(EVA)等のオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、熱可塑性ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート(PC)等のエンジニアリングプラスチックなどを例示することができる。
【0074】
エラストマーとしては、オレフィン系エラストマー(TPO)、スチレン系エラストマー(SEBS等)、アミド系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、アイオノマー、フッ素系エラストマー、1,2−ポリブタジエンやトランス−1,4−ポリイソプレン等の熱可塑性エラストマーなどを例示することができる。
【0075】
ゴムとしては、エチレン−プロピレンゴム(EPR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)などを例示することができる。
【0076】
上記樹脂やエラストマー、ゴムには、各種物性を高めるために、その物性を妨げない範囲において、必要に応じて官能基の導入を行なうことができる。導入可能な官能基としては、例えば、カルボン酸基、酸無水基、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルケニル環状イミノエーテル基、シラン基などを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
【0077】
上記フィラーは、材料の要求特性に応じて添加される。その添加量は、フィラーの種類や材料の要求特性などに応じて定められるが、ポリマー成分100重量部に対して30〜250重量部含有していることが好ましい。より好ましくは、50〜200重量部である。30重量部未満では、フィラーとしての添加効果が小さく、一方、250重量部を超えると、ポリマーの特性がフィラーに打ち消されやすくなるためである。
【0078】
フィラーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、金属粉、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化スズ、酸化アンチモン、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラス繊維、チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、木材繊維、フラーレン、カーボンナノチューブ、メラミンシアヌレートなどを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
【0079】
本発明においては、本発明の特性を阻害しない範囲で、有機高分子とフィラー以外に、一般的に高分子組成物に使用される添加剤を配合しても良い。このような添加剤としては、酸化防止剤、金属不活性化剤(銅害防止剤)、紫外線吸収剤、紫外線隠蔽剤、難燃剤、難燃助剤、加工助剤(滑剤、ワックス等)、着色用顔料などを例示することができる。
【0080】
また、本発明に係る高分子組成物は、必要に応じて架橋させても良い。架橋の手段は、過酸化物架橋、シラン架橋、電子線架橋などが挙げられるが、その手段は特に限定されない。
【0081】
上述した本発明に係る高分子組成物の製造方法としては、特に限定されるものではなく、公知の製造方法を用いることができる。例えば、キレート導入高分子と、フィラーと、必要に応じて他の有機高分子と、その他の添加剤などを配合し、これらを通常のタンブラーなどでドライブレンドしたり、あるいは、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの通常の混練機で溶融混練して均一に分散したりすることにより当該組成物を得ることができる。
【0082】
このとき、組成物を構成する成分の添加方法は、特に限定されるものではない。例えば、キレート導入高分子とフィラーとを混練した後、他の有機高分子やその他の添加剤などを添加して混練しても良いし、組成物を構成する成分全部を加えてから混練しても良い。
【0083】
混練時の温度は、フィラーが組成物中に分散されやすくなる程度に、有機高分子の粘度が低下する温度にすると良い。具体的には、100〜300℃の範囲にあることが好ましい。混練時、有機高分子がせん断されることにより発熱が起きる場合には、発熱による温度上昇を考慮して、最適温度になるように温度調整すれば良い。
【0084】
混練した後は、混練機から取り出して当該組成物を得る。その際、ペレタイザーなどで当該組成物をペレット状に成形すると良い。
【0085】
以上により説明した本発明に係る高分子組成物の用途は、特に限定されるものではない。例えば、自動車などの車両部品や電気・電子機器部品などの配線として用いられる被覆電線の被覆材や、電線束を被覆するワイヤーハーネス保護材、コネクタハウジングなどのコネクタ部品、医療器具、人工臓器、高分子塗料、建築材料などのフィラーが添加される材料を例示することができる。
【0086】
次に、本発明に係る被覆電線およびワイヤーハーネスについて説明する。
【0087】
本発明に係る被覆電線は、上述する高分子組成物を被覆材の材料として用いたものである。被覆電線の構成としては、導体の外周に直接この被覆材が被覆されていても良いし、導体とこの被覆材との間に、他の中間部材、例えば、他の絶縁体やシールド導体などが介在されていても良い。被覆材が複数層形成されていても良い。
【0088】
導体は、その導体径や導体の材質など、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜定めることができる。また、被覆材の厚さについても、特に制限はなく、導体径などを考慮して適宜定めることができる。
【0089】
上記被覆電線は、例えば、バンバリミキサー、加圧ニーダー、ロールなどの通常用いられる混練機を用いて混練した本発明に係る高分子組成物を、通常の押出成形機などを用いて導体の外周に押出被覆するなどして製造することができる。また、一軸押出機や二軸押出機などで高分子組成物を混練形成しつつ、導体の外周に押出被覆する方法でも良い。
【0090】
一方、本発明に係るワイヤーハーネスは、上述する高分子組成物を用いたものである。本発明に係るワイヤーハーネスは、上述する高分子組成物を被覆材の材料として用いた本発明に係る被覆電線を含んでなるものであっても良いし、上述する高分子組成物を、複数本の被覆電線よりなる電線束を被覆するワイヤーハーネス保護材の材料として用いたものであっても良い。ワイヤーハーネス保護材の材料として用いるときの電線束には、本発明に係る被覆電線を含んでいても良いし、含んでいなくても良い。電線の本数は、任意に定めることができ、特に限定されるものではない。
【0091】
ワイヤーハーネス保護材は、複数本の被覆電線が束ねられた電線束の外周を覆い、内部の電線束を外部環境などから保護する役割を有するものである。ワイヤーハーネス保護材を構成する基材としては、特に限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系高分子組成物が好ましい。
【0092】
ワイヤーハーネス保護材としては、テープ状に形成された基材の少なくとも一方の面に粘着剤が塗布されたものや、チューブ状、シート状などに形成された基材を有するものなどを、用途に応じて適宜選択して用いることができる。
【実施例】
【0093】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、本実施例では、材料特性の一つとして、被覆電線の耐摩耗性を評価した。
【0094】
(供試材料および製造元など)
本実施例および比較例において使用した供試材料を製造元、商品名などとともに示す。
【0095】
(A)有機高分子
・ポリエチレン(PE)[(株)プライムポリマー製、商品名「ハイゼックス5000S」]
・ポリプロピレン(PP)[(株)プライムポリマー製、商品名「プライムポリプロE−150GK」]
・エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)[三井・デュポンポリケミカル(株)製、商品名「エバフレックスEV360」]
・アイオノマー[三井・デュポンポリケミカル(株)製、商品名「ハイミラン1706」]
・オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)[(株)プライムポリマー製、商品名「T310E」]
・スチレン系熱可塑性変性エラストマー(変性SEBS)[クレイトンポリマージャパン(株)製、商品名「KRATON G FG1901X」]
・ポリアミド(PA6)[デュポン(株)製、商品名「ザイテルFN727」]
・ポリカ−ボネート(PC)[三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名「ユーピロンS−2000」]
・ポリブチレンテレフタレート(PBT)[東レ(株)製、商品名「トレコン1401X06」]
・エチレン−プロピレンゴム(EPR)[JSR(株)製、商品名「EP51」]
・ブタジエンゴム(BR)[JSR(株)製、商品名「BR01」]
・イソプレンゴム(IR)[JSR(株)製、商品名「IR2200」]
【0096】
(B)フィラー
・金属無機水和物(水酸化マグネシウム)[マーチンスベルグ社製、商品名「マグニフィンH10」]
・メラミンシアヌレート[DSMジャパン(株)製、商品名「melapurMC15」]
・クレー[白石カルシウム(株)製、商品名「オプチホワイト」]
・炭酸カルシウム[白石カルシウム(株)製、商品名「白艶華CCR」]
・タルク[日本タルク(株)製、商品名「MS−P」]
・酸化亜鉛[ハクスイテック(株)製、商品名「亜鉛華2種」]
【0097】
(C)その他添加剤
・酸化防止剤[チバスペシャリティ・ケミカルズ(株)製、商品名「イルガノックス1010」]
・金属不活性化剤[チバスペシャリティ・ケミカルズ(株)製、商品名「イルガノックスMD1024」]
【0098】
(D)キレート導入高分子
・下記化合物A〜D
(E)下記化合物A〜Dを形成する原料
・無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MA−g−PP)[(株)三洋化成製、商品名「ユーメックス1010」]
・無水マレイン酸変性SEBS(MA−g−SEBS)[クレイトンポリマージャパン(株)製、商品名「KRATON G FG1901X」]
・無水マレイン酸変性ポリエチレン(MA−g−PE)[(株)三洋化成製、商品名「ユーメックス2000」]
【0099】
(化合物A(式(1)の化合物、R1=ポリプロピレン)の合成)
無水マレイン酸変性ポリプロピレン40gをキシレン400mlに懸濁させる。撹拌しながら120℃まで加温し、無色透明な溶液とする。さらにヒドロキシエチルイミノ二酢酸10.2gを加え、120℃で24時間撹拌する。得られた淡黄色透明液体を激しく撹拌しながら、2Lの冷メタノールに少しずつ加え、再沈殿させる。1時間室温で撹拌を行なった後、沈殿した高分子化合物を吸引ろ過し、真空中で24時間乾燥させて目的物を得た。IR:1715cm−1、1457cm−1、1380cm−1、1307cm−1
【0100】
(化合物B(式(1)の化合物、R1=SEBS)の合成)
無水マレイン酸変性ポリプロピレン40gに変えて、無水マレイン酸変性SEBS55gを用いたこと以外、化合物Aと同様にして合成した。
【0101】
(化合物C(式(1)の化合物、R1=ポリエチレン)の合成)
無水マレイン酸変性ポリプロピレン40gに変えて、無水マレイン酸変性ポリエチレン55gを用いたこと以外、化合物Aと同様にして合成した。
【0102】
(化合物D(式(3)の化合物、R1=ポリプロピレン)の合成)
ヒドロキシエチルイミノ二酢酸10.2gに変えて、ジエチレントリアミン五酢酸16.8gを用いたこと以外、化合物Aと同様にして合成した。IR:1745cm−1、1642cm−1、1457cm−1、1376cm−1、1305cm−1
【0103】
(高分子組成物および被覆電線の作製)
まず、後述の表1または表2に示す各成分を二軸混練機に投入し、有機高分子やキレート導入高分子が流動する好適温度(例えばポリプロピレンなどでは220℃)で約5分混練した後、ペレタイザーにてペレット状に成形して本実施例および比較例に係る高分子組成物をそれぞれ得た。次いで、得られた各組成物を、φ50mm押出機により、軟銅線を7本撚り合わせた軟銅撚線の導体(断面積0.5mm)の外周に0.20mm厚で押出被覆し、本実施例および比較例に係る被覆電線を作製した。
【0104】
以上のように作製した各被覆電線について、耐摩耗性試験を行った。以下に試験方法および評価方法について説明する。また、実施例の結果を表1に、比較例の結果を表2に示す。各比較例の高分子組成物は、同じ番号の各実施例の高分子組成物と比べて、(D)キレート導入高分子を含有していない点で異なっており、(A)有機高分子、(B)フィラー、(C)その他添加剤、の種類および含有量は同じになっている。なお、表1および表2に示される(A)有機高分子、(B)フィラー、(C)その他添加剤、の量は、重量部でそれぞれ表されている。また、(D)キレート導入高分子の量は、高分子組成物全体量に対する重量%で表されている。
【0105】
(耐摩耗性試験)
JASO D611−94に準拠し、ブレード往復法により行った。すなわち、被覆電線を750mmの長さに切り出して試験片とした。次いで、25℃の室温下にて、台上に固定した試験片の被覆材表面を軸方向に10mmの長さにわたってブレードを往復させ、被覆材の摩耗によってブレードが導体に接触するまでの往復回数を測定した。この際、ブレードにかける荷重は7Nとし、ブレードは毎分50回の速度で往復させた。次いで、試験片を100mm移動させて、時計方向に90度回転させ、上記の測定を繰り返した。この測定を同一試験片について合計3回行い、その最低値を評価値とした。摩耗回数が500回以上を合格とした。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
表1および表2によれば、本発明に従うキレート導入高分子を含有していない比較例に係る被覆電線は、耐摩耗性に劣ることが分かる。これに対し、本発明の一実施例に係るキレート導入高分子を含有する実施例に係る被覆電線は、耐摩耗性に優れることを確認した。これは、キレート導入高分子中のキレート構造がフィラーと強く結合してフィラー同士が互いに凝集するのを防止し、フィラーが高分子組成物中に高分散されているためと推測される。
【0109】
したがって、本実施例に示される被覆電線を電線束中に含んだワイヤーハーネスとすれば、電線束中の他の被覆電線などと接触する形態で使用されても、被覆材が著しく摩耗することはなく、長期にわたって高い信頼性が確保される。
【0110】
なお、本実施例では、電線特性のうち、フィラー添加により低下しやすい耐摩耗性について評価しているが、フィラーの分散性に起因して低下する他の電線特性についても向上効果があると考えられる。また、電線だけでなく、他の材料、例えば成形材料全般などまたはこれ以外の材料についても、フィラーの分散性に起因して低下する機械特性などの材料特性の向上効果があると考えられる。
【0111】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明に係るキレート導入高分子の構造の一例を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ポリマーの変性部位にキレート構造を有することを特徴とするキレート導入高分子。
【請求項2】
前記変性ポリマーは、不飽和カルボン酸またはその誘導体により変性された変性ポリマーであることを特徴とする請求項1に記載のキレート導入高分子。
【請求項3】
前記変性ポリマーは、無水マレイン酸により変性された変性ポリマーであることを特徴とする請求項1または2に記載のキレート導入高分子。
【請求項4】
ポリマー主鎖に無水マレイン酸がグラフトされ、このグラフト側鎖にキレート構造を有することを特徴とする請求項3に記載のキレート導入高分子。
【請求項5】
前記キレート構造は、ポリリン酸塩、アミノカルボン酸、1,3−ジケトン、ヒドロキシカルボン酸、ポリアミン、アミノアルコール、芳香族複素環式塩基、フェノール類、オキシム類、シッフ塩基、テトラピロール類、イオウ化合物、合成大環状化合物、ホスホン酸、および、ヒドロキシエチリデンホスホン酸から選択される1種または2種以上のキレート配位子に由来することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のキレート導入高分子。
【請求項6】
前記キレート構造は、エステル結合、エーテル結合、チオエステル結合、チオエーテル結合、および、アミド結合から選択される1種または2種以上により前記変性部位と結合されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のキレート導入高分子。
【請求項7】
前記変性ポリマーのポリマー主鎖は、オレフィン系樹脂および/またはスチレン系熱可塑性エラストマーよりなることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のキレート導入高分子。
【請求項8】
変性ポリマーとキレート配位子とを接触させて得られうることを特徴とするキレート導入高分子。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載のキレート導入高分子と、フィラーとを含有してなることを特徴とする高分子組成物。
【請求項10】
前記キレート導入高分子の含有率は、0.1〜20重量部の範囲内にあることを特徴とする請求項9に記載の高分子組成物。
【請求項11】
請求項9または10に記載の高分子組成物を被覆材に用いた被覆電線。
【請求項12】
請求項9または10に記載の高分子組成物を用いたワイヤーハーネス。

【図1】
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【公開番号】特開2008−163239(P2008−163239A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355793(P2006−355793)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】