説明

クラッチ操作補助装置、それを備えた車両用パワーユニット、および鞍乗型車両

【課題】クラッチレバーの操作力を軽減するクラッチ操作補助装置を内蔵したパワーユニットの小型化を図る。
【解決手段】クラッチ操作補助装置70は、プッシュ軸39と、プッシュ軸39を支持する軸受プレート14cと、軸受プレート14cに回動自在に支持されると共にクラッチワイヤ43に連結され、回動することによってプッシュ軸39をスライドさせる第1回動プレート51とを備えている。第1回動プレート51は、第2回動プレート52にギヤ結合されている。第2回動プレート52には、摩擦クラッチを遮断する方向にアシスト力を付与するスプリングユニット54がピン結合されている。スプリングユニット54は、取付座14dに揺動自在に支持されている。スプリングユニット54は、プッシュ軸39の軸方向から見て、補助スプリング67の伸縮方向S2がプレッシャプレート37の回転中心39aを通らないように設置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦クラッチによるトルクの伝達を遮断するときに、この摩擦クラッチの操作力を軽減するクラッチ操作補助装置およびそれを備えたパワーユニット並びに鞍乗型車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば自動二輪車等におけるパワーユニットとして、エンジンからトランスミッションへのトルクを断続する摩擦クラッチを備えたものが知られている。摩擦クラッチは、クラッチ軸と、クラッチ軸の軸方向(以下、クラッチ軸方向という)に重なり合うフリクションプレートとクラッチプレートとを有している。また、摩擦クラッチは、フリクションプレートとクラッチプレートとを圧着させるプレッシャプレートと、プレッシャプレートを付勢するクラッチスプリングとを備えており、通常は、上記クラッチスプリングによって、トルクの伝達を可能とするクラッチイン状態に保たれる。
【0003】
また、摩擦クラッチは、クラッチレリーズ機構を有している。クラッチレリーズ機構は、クラッチスプリングによるプレッシャプレートの押圧を解除するためのものであり、クラッチワイヤを介してクラッチレバーに接続されている。そのため、運転者がクラッチレバーを握ると、プレッシャプレートがクラッチスプリングの付勢力に抗してスライドし、フリクションプレートからクラッチプレートへのトルクの伝達が遮断される。
【0004】
ところで、高出力・高回転形のエンジンに用いられる摩擦クラッチでは、トルク容量を大きくするために、クラッチスプリングの取り付け荷重を高く設定することが望まれる。しかしながら、クラッチレバーの操作は人の手によって行われるので、クラッチスプリングの取り付け荷重を高めると、クラッチレバーを操作する際の負担が大きくなる。
【0005】
これを改善するため、従来、例えばクラッチワイヤが接続されるクラッチレリーズ機構に、クラッチレバーの操作力を軽減するアシスト機構を付設したクラッチ操作補助装置が知られている(例えば、下記特許文献1および2参照)。
【0006】
特許文献1に開示されたクラッチ操作補助装置は、パワーユニットの外部に配置されたものである。一方、クラッチ操作補助装置をパワーユニットの内部に配置したいというニーズもある。下記特許文献2には、クラッチ操作補助装置をパワーユニットの内部に配置した構成が開示されている。
【0007】
図13に示すように、特許文献2に開示されたクラッチ操作補助装置は、クラッチワイヤ528に接続された回動自在なプッシュレバー525と、クラッチレバーの操作力を軽減する補助ばね529とを備えている。補助ばね529の一端529aはプッシュレバー525に接続され、補助ばね529の他端は、半円弧状に形成された連結部材531に接続されている。プッシュレバー525は、クラッチ軸と同一直線上(図13の紙面表裏方向に延びる直線上)に位置するプッシュスクリュー517に固定されており、このプッシュスクリュー517と一体となって回動する。一方、連結部材531は、ピン530に回動自在に支持されており、ピン530の周りを回動する。
【0008】
クラッチレバーがいわゆる遊びの状態(クラッチレバーを引いても負荷がかからない状態)にあるときには、図13中に実線で示すように、補助ばね529は、プッシュレバー525の回動中心C0とピン530とを結ぶ直線M1上に位置している。言い換えると、補助ばね529の伸縮方向は、プッシュレバー525の回動中心C0を通っている。そのため、補助ばね529の付勢力は、プッシュレバー525を回動させる力としては作用しない。
【0009】
一方、図13中に二点鎖線で示すように、クラッチレバーを引くと、プッシュレバー525は引っ張られ、反時計回り方向に回動する。その結果、補助ばね529の姿勢が変化し、補助ばね529の伸縮方向M2は、プッシュレバー525の回動中心C0からずれる。これにより、補助ばね529の付勢力の一部が、プッシュレバー525を反時計回り方向に回動させる力として作用する。したがって、補助ばね529の付勢力がクラッチレバーを引く際のアシスト力として作用し、クラッチレバーの操作力が軽減される。
【特許文献1】特開平7−132872号公報
【特許文献2】特開昭55−94028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、上記クラッチ操作補助装置では、補助ばね529は、クラッチレバーが遊びの状態にある初期位置から摩擦クラッチを遮断する遮断位置に至る間に、姿勢を変化させる。そして、初期位置では、補助ばね529の伸縮方向M1は、プッシュスクリュー517の軸心(=回動中心C0)を通っていた。そのため、上記クラッチ操作補助装置では、補助ばね529をプッシュスクリュー517の軸心から半径方向に沿って設置しなければならず、補助ばね529の設置スペースを十分に確保することは困難であった。また、補助ばね529の伸縮長さを十分に確保することが難しかった。そのため、上記クラッチ操作補助装置では、補助ばね529の設置スペースを十分に確保するためには、パワーユニットを大型化しなければならなかった。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、クラッチ操作補助装置を内蔵するパワーユニットの小型化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るクラッチ操作補助装置は、プレッシャプレートと前記プレッシャプレートを付勢するクラッチスプリングとを有し、パワーユニットのケーシング内に配置された摩擦クラッチと、前記摩擦クラッチに伝達部材を介して連結され、前記摩擦クラッチによるトルクの伝達を遮断するときに前記クラッチスプリングの付勢力に抗して人為的に操作される操作子と、を備えたクラッチ操作装置に設けられ、前記ケーシングの内部に収容されるクラッチ操作補助装置であって、前記プレッシャプレートを回転自在に支持し、前記プレッシャプレートと共に所定方向にスライドするスライド部材と、前記伝達部材に連結され、前記伝達部材に追従して回動することによって前記スライド部材をスライドさせる第1回動部材と、前記摩擦クラッチを遮断する方向に前記操作子を操作するときに、前記操作子が前記クラッチスプリングの反力を受ける遮断開始位置から前記摩擦クラッチの遮断が完了する遮断位置に達するまでの期間中、伸縮方向を変化させつつ、前記摩擦クラッチを遮断する方向に前記第1回動部材を回動させる付勢力を付与する補助弾性体と、を備え、前記スライド部材のスライド方向から見て、前記補助弾性体の伸縮方向が前記プレッシャプレートの回転中心を通らないものである。
【0013】
上記クラッチ操作補助装置によれば、スライド部材のスライド方向から見て補助弾性体の伸縮方向がプレッシャプレートの回転中心を通らないので、上記スライド方向から見て、補助弾性体をプレッシャプレートの回転中心から半径方向に沿って設置する必要がない。そのため、スライド部材の制約を受けずに補助弾性体を設置することができる。したがって、パワーユニット自体を大型化しなくても、補助弾性体の設置スペースを大きく確保することができる。また、補助弾性体の伸縮のためのスペースを大きく確保することができる。その結果、パワーユニットの小型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、クラッチ操作補助装置を内蔵するパワーユニットの小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0016】
(第1実施形態)
図1に示す自動二輪車1は、フレーム2を備えている。フレーム2は、ステアリングヘッドパイプ3、メインフレーム部材4およびダウンチューブ5を有している。ステアリングヘッドパイプ3は、フロントフォーク6を支持している。フロントフォーク6の上端には、前輪7を操舵する操向ハンドル8が固定されている。操向ハンドル8の左端部には、操作子の一例であるクラッチレバー9が取り付けられている。
【0017】
メインフレーム部材4は、ステアリングヘッドパイプ3から後方に向けて延びており、燃料タンク10およびシート11を支持している。ダウンチューブ5は、メインフレーム部材4の前端から下向きに延びる第1部分5aと、第1部分5aの下端から後方に向けて延びる第2部分5bとを有している。
【0018】
フレーム2には、パワーユニット13が支持されている。パワーユニット13は、クランクケース14およびシリンダ15を有している。後述するように、クランクケース14の内部には、摩擦クラッチ30(図2参照)が収容されている。クラッチレバー9と摩擦クラッチ30とは、クラッチワイヤ43を介して連結されている。これらクラッチレバー9、クラッチワイヤ43、および摩擦クラッチ30は、パワーユニット13内のトルクの伝達を人為的に断続するクラッチ操作装置を構成している。
【0019】
図2に示すように、パワーユニット13の内部にはエンジン20が設けられている。エンジン20は、ピストン16と、クランク軸18と、ピストン16とクランク軸18とを連結するコンロッド17とを備えている。クランクケース14の内部には、クランク軸18と平行に、メイン軸21およびドライブ軸22が配置されている。メイン軸21およびドライブ軸22の周りには複数のギヤ23が設けられ、これらメイン軸21、ドライブ軸22およびギヤ23によってトランスミッション25が形成されている。
【0020】
メイン軸21の左端には、摩擦クラッチ30が設けられている。以下、便宜上、メイン軸21における摩擦クラッチ30が設けられている部分をクラッチ軸31と呼ぶこととする。ただし、本実施形態では、クラッチ軸31はメイン軸21の一部であり、クラッチ軸31とメイン軸21とは一体的に形成されている。
【0021】
図3に示すように、本実施形態の摩擦クラッチ30は、湿式多板式の摩擦クラッチである。ただし、本発明に係る摩擦クラッチは、湿式多板式の摩擦クラッチに限定される訳ではない。摩擦クラッチ30は、クラッチハウジング32とクラッチボス34とを備えている。クラッチハウジング32は、クラッチ軸31に回転自在に支持されている。クラッチボス34は、クラッチ軸31と一体となって回転するようにクラッチ軸31に支持されている。
【0022】
クラッチハウジング32には複数のフリクションプレート33が設けられ、クラッチボス34には複数のクラッチプレート35が設けられている。これらフリクションプレート33およびクラッチプレート35は、クラッチ軸31の軸方向(左右方向)に沿って互い違いに並べられている。
【0023】
図2に示すように、クランク軸18の左端には、ドライブギヤ19が固定されている。クラッチハウジング32には、ドリブンギヤ36が固定されている。ドライブギヤ19とドリブンギヤ36とは噛み合っており、ドリブンギヤ36はドライブギヤ19に従って回転する。そのため、クラッチハウジング32は、クランク軸18に従って回転する。ドライブギヤ19およびドリブンギヤ36は、減速機構を構成している。
【0024】
図3に示すように、クラッチ軸31の左側には、プレッシャプレート37が配置されている。プレッシャプレート37には、ダイアフラムスプリングからなるクラッチスプリング38が取り付けられている。なお、クラッチスプリング38の種類は特に限定されるものではない。プレッシャプレート37は、クラッチ軸31の軸方向にスライド自在であり、クラッチスプリング38によってクラッチボス34側(図3の右側)に常時付勢されている。プレッシャプレート37がクラッチボス34側に移動してフリクションプレート33を押圧すると、フリクションプレート33とクラッチプレート35とが圧着し、摩擦クラッチ30は接続状態(クラッチインの状態)となる。一方、プレッシャプレート37がクラッチボス34から離れると、フリクションプレート33とクラッチプレート35との圧着が解除され、摩擦クラッチ30は遮断状態(クラッチアウトの状態)となる。
【0025】
クランクケース14は、軸受プレート14cを有するケース本体14aと、クラッチカバー14bとを備えている。軸受プレート14cはプレッシャプレート37の外側(左側)に配置されている。クラッチカバー14bは、軸受プレート14cの外側に配置されている。クラッチカバー14bは、軸受プレート14cとともに摩擦クラッチ30を覆っている。また、クラッチカバー14bは、後述のクラッチ操作補助装置70も覆っている。
【0026】
軸受プレート14cには、プッシュ軸39が支持されている。プッシュ軸39は、クラッチ軸31と同一直線上に配置されており、クラッチ軸31よりも外側(左側)に配置されている。プレッシャプレート37は、軸受40を介してプッシュ軸39に回転自在に支持されている。また、プレッシャプレート37は、プッシュ軸39に対して軸方向に移動不能となっており、プッシュ軸39に従って軸方向にスライドする。なお、図3の仮想線39aは、プッシュ軸39の回動中心線である。この仮想線39aは、プレッシャプレート37の回転中心線でもある。
【0027】
プッシュ軸39の左端には、カムプレート41が取り付けられている。なお、本実施形態では、プッシュ軸39とカムプレート41とは別部材であるが、プッシュ軸39とカムプレート41とは一体的に構成されていてもよい。すなわち、プッシュ軸39の一部がカムプレート41を形成していてもよい。本実施形態では、カムプレート41はボス部41aを有しており、プッシュ軸39はボス部41aに嵌め込まれている。カムプレート41の左側とクラッチカバー14bとの間には、圧縮コイルスプリング42が配置されている。カムプレート41は、この圧縮コイルスプリング42によって右方向に常時付勢されている。
【0028】
カムプレート41のボス部41aは、第1回動プレート51の中心孔を貫通している。なお、カムプレート41のボス部41aは、第1回動プレート51に対して軸方向に移動自在になっている。第1回動プレート51は、軸受53を介して軸受プレート14cに回動自在に支持されている。
【0029】
図4(a)に示すように、第1回動プレート51の表面(図3における左側の面)51aには、3つのカム溝61が周状に配設されている。一方、図4(b)に示すように、カムプレート41の裏面(図3における右側の面)41bにも、同様のカム溝62が形成されている。これらカム溝61,62は、断面略V字型の溝である。図3に示すように、第1回動プレート51のカム溝61とカムプレート41のカム溝62との間には、ボール60が配置されている。なお、符号60aはボール60の脱落を防止するプレートである。これらカム溝61,62およびボール60により、いわゆるボールカム式のカム機構が形成されている。すなわち、第1回動プレート51が回動すると、ボール60がカム溝61,62内を移動し、カムプレート41はボール60によって左側に押し出される。その結果、プッシュ軸39とともにプレッシャプレート37が左側にスライドし、摩擦クラッチ30は遮断された状態となる。
【0030】
図5(a)に示すように、クラッチワイヤ43は、金属製のインナーワイヤ43aと、インナーワイヤ43aを覆う合成樹脂製のアウターチューブ43bとを備えている。インナーワイヤ43aは、アウターチューブ43bに摺動可能に挿入されており、アウターチューブ43bの端部から引き出されている。
【0031】
クラッチ操作補助装置70は、前述の第1回動プレート51の他に、第2回動プレート52およびスプリングユニット54を備えている。第1回動プレート51は、例えば板金プレス加工部品で構成されている。図4(a)に示すように、第1回動プレート51は、略円環状の中心部55と、ワイヤ連結部56と、ギヤ部57とを備えている。ワイヤ連結部56とギヤ部57とは、中心部55を挟んで反対側に位置している。
【0032】
中心部55には、プッシュ軸39を挿通させる孔58が形成されている。また、中心部55の孔58の周囲には、前述のカム溝61が配設されている。ワイヤ連結部56には、係合溝59と係合孔63とが形成されている。係合溝59は、クラッチワイヤ43のインナーワイヤ43aが巻き掛けられる部分である。係合溝59は、孔58の中心58cを中心とする円弧を描くように湾曲している。係合溝59は、上方に開いた断面略U字状に形成されている。図5(a)に示すように、係合孔63には、インナーワイヤ43aの先端に固定された円柱状の係合子64が引っ掛けられる。このような構成により、インナーワイヤ43aが引っ張られると、第1回動プレート51はプッシュ軸39を中心として反時計回り方向に回動する。
【0033】
第2回動プレート52は、ピボット軸65を介して軸受プレート14cに支持されており、ピボット軸65周りに回動自在に構成されている。第2回動プレート52には、歯52aが形成されている。第2回動プレート52の歯52aは、第1回動プレート51のギヤ部57の歯57aと噛み合っている。これらの歯52a,57aによって、第1回動プレート51と第2回動プレート52とは、互いにトルクを伝達するように連結されている。したがって、第2回動プレート52は、第1回動プレート51に従って回動する。
【0034】
なお、第1回動プレート51の回動中心(プッシュ軸39の軸心39a)から歯57aまでの距離は、第2回動プレート52の回動中心(ピボット軸65の軸心)から歯52aまでの距離よりも長くなっている。そのため、第1回動プレート51と第2回動プレート52とは、第1回動プレート51の回動角度よりも第2回動プレート52の回動角度の方が大きくなるように連結されている。
【0035】
スプリングユニット54は、スプリングホルダ66と補助スプリング67とを備えている。スプリングホルダ66は、内筒66aと外筒66bとによって構成されている。内筒66aと外筒66bとは、軸方向にスライド可能に嵌合されており、外筒66bが内筒66aに対してスライドすることにより、スプリングホルダ66は伸縮可能となっている。
【0036】
内筒66aは、スプリング受け68と支持端部69とを有している。スプリング受け68は、内筒66aの一端部の外周面からフランジ状に張り出している。支持端部69は、内筒66aの一端に形成され、軸受プレート14cに設けられた取付座14dに回動可能に支持されている。
【0037】
外筒66bは、スプリング受け71と連結端部72とを有している。スプリング受け71は、外筒66bの一端部の外周面からフランジ状に張り出している。連結端部72は、外筒66bの一端に形成され、ピン73を介して第2回動プレート52の一端に回動可能に連結されている。
【0038】
補助スプリング67は、圧縮コイルスプリングである。補助スプリング67は、内筒66aのスプリング受け68と外筒66bのスプリング受け71との間に圧縮状態で介在している。このため、スプリングホルダ66は、常に伸長する方向に付勢されている。また、補助スプリング67は、後述する戻し位置(図5(a)参照)から遮断開始位置(図6(a)参照)を経て遮断位置(図7(a)参照)に至る間、支持端部69を支点として伸縮方向S2を変化させる。しかしながら、いかなる位置においても、プッシュ軸39の軸方向から見て、補助スプリング67の伸縮方向S2とプッシュ軸39の軸心39aとは交わらないようになっている。
【0039】
クランクケース14のケース本体14aには、ワイヤ導入口74が形成されている。クラッチワイヤ43は、このワイヤ導入口74に差し込まれている。そして、クラッチワイヤ43のインナーワイヤ43aは、ワイヤ導入口74を通じてクランクケース14内に引き込まれ、第1回動プレート51のワイヤ連結部56に連結されている。
【0040】
軸受プレート14cには、プッシュ軸39を挿通させる孔の他に、第1の孔47と第2の孔48とが形成されている。第1の孔47と第2の孔48とは、プッシュ軸39の軸心39aを挟んで反対側に位置している。第1の孔47には、第1回動プレート51のワイヤ連結部56の一部が入り込んでいる(図3参照)。第2の孔48には、第2回動プレート52の一部とスプリングユニット54とが入り込んでいる(図3参照)。
【0041】
クラッチレバー9は、摩擦クラッチ30がクラッチインの状態を保つ戻し位置と、摩擦クラッチ30がクラッチオフとなる遮断位置との間で回動可能となっている。さらに、戻し位置から所定の回動範囲(例えば、クラッチレバー9の先端の移動距離が10〜15mmの回動範囲)は、クラッチレバー9を握ってもクラッチオフの状態が保たれるいわゆる遊び領域となっている。この遊びの領域では、クラッチレバー9を操作してもクラッチワイヤ43が僅かに引っ張られるだけであり、クラッチスプリング38の付勢力がクラッチレバー9に伝わることはない。クラッチレバー9の遊びの終端は、遮断開始位置となっている。この遮断開始位置では、クラッチスプリング38の付勢力がクラッチワイヤ43を介してクラッチレバー9に作用する。
【0042】
図5(a)および(b)は、クラッチレバー9が戻し位置にあるときのクラッチ操作補助装置70の状態を示している。クラッチレバー9が戻し位置にあるときには、第2回動プレート52とスプリングユニット54とを連結するピン73は、スプリングホルダ66の支持端部69と第2回動プレート52のピボット軸65とを結ぶ直線S1よりも上側にずれている。
【0043】
運転者がクラッチレバー9を戻し位置から遮断開始位置に操作すると、クラッチワイヤ43を介して第1回動プレート51が引っ張られ、第1回動プレート51は反時計回り方向に回動する。すると、第1回動プレート51と第2回動プレート52とはギヤ結合されているので、第2回動プレート52は時計回り方向に回動する。一方、第2回動プレート52とスプリングユニット54とはピン結合されているので、スプリングユニット54は、支持端部69を支点として反時計回り方向に回動する。
【0044】
クラッチレバー9が遮断開始位置に達すると、図6(a)に示すように、スプリングホルダ66の支持端部69と第2回動プレート52のピボット軸65とを結ぶ直線S1上に、ピン73が位置する。よって、補助スプリング67の付勢力は、第2回動プレート52を回動させる力としては作用せず、ひいては、第1回動プレート51を回動させる力としては作用しない。
【0045】
クラッチレバー9を遮断開始位置から遮断位置に向けて操作すると、第1回動プレート51が反時計回り方向にさらに回動する。すると、図7(b)に示すように、第1回動プレート51のカム溝61とカムプレート41のカム溝62との位置がずれ、ボール60が両カム溝61,62内を移動し、カムプレート41は外側に押し出される。また、図7(a)に示すように、第1回動プレート51の回動により、第2回動プレート52が時計回り方向にさらに回動し、ピン73の位置は上記直線S1よりも下側にずれる。その結果、スプリングホルダ66が補助スプリング67の付勢力を受けて伸長し、補助スプリング67の付勢力が、第2回動プレート52を時計回り方向に回動させる力として作用する。その結果、補助スプリング67の付勢力は、第1回動プレート51を反時計回り方向に回動させるアシスト力として機能する。
【0046】
したがって、クラッチレバー9が遮断開始位置を超えて遮断位置に近づく方向に操作されたときは、第1回動プレート51は、補助スプリング67によって強制的に反時計回り方向に回動される。すなわち、運転者がクラッチレバー9を握る際の操作力に、補助スプリング67の付勢力が付加されることになる。したがって、クラッチレバー9を操作する際の運転者の負担が軽減される。
【0047】
ところで、前述したように、クラッチレバー9が戻し位置にある状態では、図5(a)に示すように、ピン73の位置は直線S1よりも上側にずれている。このため、第1回動プレート51は、補助スプリング67の付勢力によって、時計回り方向すなわち摩擦クラッチ30を遮断する方向と逆の方向に付勢される。
【0048】
この第1回動プレート51を時計回り方向に付勢する力は、クラッチレバー9を戻し位置から遮断開始位置まで回動させる力に対向する逆アシスト力となる。そのため、このままでは、クラッチレバー9を最初に握るときの初期入力荷重が増えてしまう。
【0049】
このことから、本実施形態のクラッチ操作補助装置70には、上記逆アシスト力を相殺するための相殺スプリングユニット80が設けられている。本実施形態では、軸受プレート14cには、相殺スプリングユニット80を収めるハウジング部81が形成されている。
【0050】
図8に示すように、相殺スプリングユニット80は、押圧ピン82と相殺スプリング83とを有している。押圧ピン82の下端にはフランジ状のストッパ84が形成されている。押圧ピン82は、ハウジング部81に下方から挿入されている。
【0051】
軸受プレート14cには、相殺スプリング83の下端を支持するスプリング受け85が設けられている。相殺スプリング83は、圧縮コイルスプリングであり、押圧ピン82の上端内面とスプリング受け85との間に圧縮状態で介在している。相殺スプリング83は、押圧ピン82をハウジング部81の長手方向に沿って斜め上向きに常時付勢している。相殺スプリング83の付勢力は、補助スプリング67による逆アシスト力よりも僅かに小さく設定されている。
【0052】
押圧ピン82は、その上端がハウジング部81から大きく突出する第1の位置(図6(a)および図7(a)参照)と、押圧ピン82の上端がハウジング部81から僅かに突出する第2の位置(図5(a)参照)との間で移動可能となっている。第1の位置では、押圧ピン82のストッパ84がハウジング部81の下端に突き当たり、押圧ピン82の位置が規制される。第2の位置では、押圧ピン82のストッパ84がスプリング受け85に突き当たり、押圧ピン82の位置が規制される。
【0053】
クラッチレバー9が戻し位置から遮断開始位置に達するまでの期間中は、押圧ピン82の上端は第1回動プレート51の当接部76に突き当たっている(図5(a)参照)。そのため、第1回動プレート51は、相殺スプリング83の付勢力を受けることになる。この結果、クラッチレバー9が遊びの領域にあるときには、第1回動プレート51に加わる補助スプリング67および相殺スプリング83の付勢力の合計がほとんど零となり、第1回動プレート51の時計回り方向の回動が制限される。
【0054】
クラッチレバー9が遮断開始位置を通り越して遮断位置に近づくと、第1回動プレート51の当接部76が押圧ピン82の上端から離脱する(図7(a)参照)。この結果、第1回動プレート51に加わる相殺スプリング83の付勢力は零となり、第1回動プレート51は、補助スプリング67の付勢力によって反時計回り方向に強制的に回動される。
【0055】
以上のように、本実施形態に係るクラッチ操作補助装置70は、プッシュ軸39と、第1回動プレート51と、補助スプリング67とを備えている。ここで、プッシュ軸39は、プレッシャプレート37を回転自在に支持し、プレッシャプレート37と共に軸方向にスライドする。第1回動プレート51はクラッチワイヤ43に連結され、クラッチワイヤ43に追従して回動することによって、プッシュ軸39をスライドさせる。補助スプリング67は、摩擦クラッチ30を遮断する方向にクラッチレバー9を操作するときに、クラッチレバー9がクラッチスプリング38の反力を受ける遮断開始位置から摩擦クラッチ30の遮断が完了する遮断位置に達するまでの期間中、伸縮方向S2を変化させつつ、摩擦クラッチ30を遮断する方向に第1回動プレート51を回動させる付勢力を付与する。そして、クラッチ操作補助装置70は、プッシュ軸39の軸方向(=スライド方向)から見て、補助スプリング67の伸縮方向S2がプッシュ軸39の軸心(=プレッシャプレート37の回転中心)39aを通らないように構成されている(図5等参照)。
【0056】
したがって、本実施形態のクラッチ操作補助装置70によれば、補助スプリング67をプッシュ軸39の軸心39aから半径方向に沿って設置する必要がなく、プッシュ軸39の制約を受けずに補助スプリング67を比較的自由に設置することができる。そのため、パワーユニット13のクランクケース14を大きくしなくても、補助スプリング67の設置スペースを大きく確保することができる。したがって、パワーユニット13の小型化を図ることができる。
【0057】
また、補助スプリング67の伸縮スペースを大きく確保することができるので、補助スプリング67の伸縮長さを長くすることができる。そのため、特に高価なスプリングを用いなくても、伸縮長さを長く確保することにより、十分な付勢力を得ることができる。したがって、クラッチ操作補助装置70の低コスト化を図ることができる。
【0058】
また、図5(a)等に示すように、クラッチ操作補助装置70は、軸受プレート14cに支持されたピボット軸65と、ピボット軸65に支持され、回動することによって補助スプリング67の付勢力を第1回動プレート51に伝える第2回動プレート52とを備えている。そして、プッシュ軸39の軸方向から見て、ピボット軸65(なお、ピボット軸65の軸心は第2回動プレート52の回動中心となる)の位置とプッシュ軸39の位置とがずれている。
【0059】
このように、本クラッチ操作補助装置70によれば、スプリングユニット54と第1回動プレート51とを直接連結する代わりに、スプリングユニット54と第1回動プレート51との間に、補助スプリング67の付勢力を第1回動プレート51に付与する第2回動プレート52を介在させている。そのため、補助スプリング67の設置位置の制約がさらに少なくなり、パワーユニット13の小型化を促進することができる。
【0060】
また、クラッチ操作補助装置70では、第1回動プレート51と第2回動プレート52とは、第1回動プレート51の回動角度よりも第2回動プレート52の回動角度の方が大きくなるように連結されている。
【0061】
そのため、第2回動プレート52から第1回動プレート51にトルクが伝達される際に、トルクは増幅される。したがって、補助スプリング67に必要とされる付勢力を小さく抑えることができる。その結果、小容量のスプリングを用いることができ、補助スプリング67の小型化または低コスト化を図ることができる。
【0062】
また、本実施形態では、第1回動プレート51は、クラッチワイヤ43に連結されるワイヤ連結部56と、第2回動プレート52に連結されるギヤ部57とを備え、クラッチ軸31の軸方向から見て、ワイヤ連結部56とギヤ部57とは、プッシュ軸39を挟んで反対側に位置している。
【0063】
したがって、クラッチ操作補助装置70によれば、ワイヤ連結部56およびギヤ部57をコンパクトに配置することができ、パワーユニット13の小型化を促進することができる。
【0064】
また、本実施形態では、軸受プレート14cは、補助スプリング67の一端(具体的には、スプリングホルダ66の支持端部69)を揺動自在に支持する取付座14dを有している。
【0065】
したがって、補助スプリング67の一端を支点として、補助スプリング67を大きく揺動させることができる。そのため、補助スプリング67が比較的小さなスプリングであったとしても、十分な大きさの付勢力を発揮させることができる。なお、支持部材である軸受プレート14cは、補助スプリング67を直接支持してもよく、他の部材を介して間接的に支持してもよい。
【0066】
また、本実施形態に係るクラッチ操作補助装置70は、摩擦クラッチ30と第1回動プレート51との間に位置する軸受プレート14cを備え、この軸受プレート14cには、孔47,48が形成されている。
【0067】
したがって、クラッチ操作補助装置70によれば、軸受プレート14cによって、第1回動プレート51をしっかりと支持することができ、十分な強度を確保することができる。また、孔47,48を通じて摩擦クラッチ30側から第1回動プレート51側に潤滑油を供給することができる。そのため、クラッチ操作補助装置70の摺動部の摩耗を抑制することができる。
【0068】
本実施形態によれば、第1回動プレート51の一部(詳しくは、ワイヤ連結部56の一部)は、軸受プレート14cの孔47に挿入されている。また、補助スプリング67は、軸受プレート14cの孔48に挿入されている。さらに、第2回動プレート52の一部も孔48に挿入されている。
【0069】
これにより、第1回動プレート51と軸受プレート14cとの重なり分だけ、パワーユニット13の幅方向(プッシュ軸39の軸方向であり、本実施形態では左右方向)の小型化を図ることができる。また、補助スプリング67と軸受プレート14cとの重なり分だけ、パワーユニット13の小型化を図ることができる。さらに、第2回動プレート52と軸受プレート14cとの重なり分だけ、パワーユニット13の小型化を図ることができる。また、本実施形態では、パワーユニット13はいわゆる横置きされており、パワーユニット13の幅方向は車幅方向と一致している。そのため、自動二輪車1のスリム化を促進することができる。
【0070】
本実施形態によれば、プッシュ軸39の軸方向から見て、軸受プレート14cの第1の孔47と第2の孔48とは、プッシュ軸39を挟んで反対側に位置している。
【0071】
これにより、両方の孔47,48が片側に集中的に配置される場合と比べて、軸受プレート14cの剛性を高めることができる。
【0072】
また、本実施形態のクラッチ操作補助装置70は、第1回動プレート51の回動に従ってプッシュ軸39をスライドさせるボールカム式のカム機構を備えている。具体的には、クラッチ操作補助装置70は、プッシュ軸39と共に軸方向にスライドするカムプレート41を備え、このカムプレート41には、プッシュ軸39と直交する方向に延びかつカム溝62が形成されたカム面41bが形成されている。一方、第1回動プレート51には、カム溝61が形成されかつカムプレート41のカム面41bに対向するカム面51aが形成されている。そして、クラッチ操作補助装置70は、カムプレート41のカム溝62と第1回動プレート51のカム溝61との間に配置され、第1回動プレート51が回動するとカムプレート41をプッシュ軸39の軸方向にスライドさせるボール60を備えている。
【0073】
したがって、本クラッチ操作補助装置70によれば、クラッチワイヤ43に連結された第1回動プレート51自体がカムプレートとして機能するので、ボールカム式のカム機構を構成する一対のカムプレートを別途設ける必要がない。そのため、この点においても、パワーユニット13の幅方向の小型化を図ることができる。また、車両のスリム化を促進することができる。
【0074】
また、本実施形態では、カムプレート41はプッシュ軸39の外側端に設けられ、第1回動プレート51はカムプレート41よりも内側に配置されている。
【0075】
そのため、本実施形態によれば、第1回動プレート51はボール60よりも内側に配置されている。したがって、第1回動プレート51をより内側に配置することができ、パワーユニット13の小型化を促進することができる。
【0076】
本実施形態によれば、第1回動プレート51には第1ギヤ歯57aが形成され、第2回動プレート52には、プッシュ軸39と直交する面内で第1ギヤ歯57aと噛み合う第2ギヤ歯52aが形成されている。すなわち、第1回動プレート51と第2回動プレート52とは、ギヤ結合されている。
【0077】
これにより、第1回動プレート51と第2回動プレート52とは、同一面内で回動することになる。そのため、第1回動プレート51および第2回動プレート52の全体の軸方向の長さは短くなる。したがって、パワーユニット13の幅方向の小型化を促進することができる。
【0078】
ただし、第1回動プレート51と第2回動プレート52とをカム機構等で連結することも勿論可能である。第1回動プレート51と第2回動プレート52との連結態様は、本実施形態のものに限定される訳ではない。
【0079】
また、本実施形態に係るクラッチ操作補助装置70は、クラッチレバー9が戻し位置にあるときに、第1回動プレート51に加わる補助スプリング67の付勢力を相殺する付勢力を付与する相殺スプリング83を備えている。
【0080】
これにより、クラッチレバー9の初期操作に要する負担を軽減することができ、クラッチレバー9の操作性を向上させることができる。
【0081】
(第2実施形態)
第2実施形態は、第1実施形態において、スプリングユニット54の補助スプリング67を、圧縮コイルスプリングから引っ張りコイルスプリングに変更したものである。
【0082】
図9(a)に示すように、第2実施形態のスプリングユニット54は、引っ張りコイルスプリングからなる補助スプリング67と、揺動アーム91とを備えている。補助スプリング67の一端は、軸受プレート14cに設けられたピン93に引っ掛けられている。補助スプリング67の他端は、揺動アーム91の一端に固定されている。揺動アーム91の他端は、ピン92によって第2回動プレート52に連結されている。揺動アーム91は、第2回動プレート52に対して回動自在になっている。その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0083】
図9(a)に示すように、クラッチレバー9が戻し位置にあるときには、第2回動プレート52とスプリングユニット54とを連結するピン92は、補助スプリング67の一端側のピン93と第2回動プレート52のピボット軸65とを結ぶ直線S1よりも上側にずれている。
【0084】
運転者がクラッチレバー9を戻し位置から遮断開始位置に操作すると、クラッチワイヤ43を介して第1回動プレート51が引っ張られ、第1回動プレート51は反時計回り方向に回動する。その結果、第2回動プレート52は時計回り方向に回動し、スプリングユニット54はピン93を支点として時計回り方向に回動する。
【0085】
図10(a)に示すように、クラッチレバー9が遮断開始位置に達すると、ピン92は、ピン93とピボット軸65とを結ぶ直線S1上に位置する。この状態では、補助スプリング67の付勢力は、第2回動プレート52を回動させる力としては作用しない。したがって、補助スプリング67の付勢力は、第1回動プレート51を回動させる力としては作用しない。なお、第1実施形態と同様に、クラッチレバー9が戻し位置から遮断開始位置に達するまでの間、補助スプリング67による逆アシスト力は、相殺スプリングユニット80によって相殺される。
【0086】
クラッチレバー9を遮断開始位置から遮断位置に向けて操作すると、第1回動プレート51は反時計回り方向にさらに回動する。すると、図11(b)に示すように、カムプレート41はボール60によって外側に押し出される。また、図11(a)に示すように、第1回動プレート51の回動により、第2回動プレート52が時計回り方向にさらに回動し、ピン92の位置は直線S1よりも下側にずれる。その結果、補助スプリング67の付勢力が、第2回動プレート52を時計回り方向に回動させる力として作用する。そして、補助スプリング67の付勢力は、第1回動プレート51を反時計回り方向に回動させるアシスト力として機能する。
【0087】
したがって、クラッチレバー9が遮断開始位置を超えて遮断位置に近づく方向に操作されたときは、第1回動プレート51は、補助スプリング67によって強制的に反時計回り方向に回動される。すなわち、運転者がクラッチレバー9を握る際の操作力に、補助スプリング67の付勢力が付加されることになる。したがって、クラッチレバー9を操作する際の運転者の負担が軽減される。
【0088】
本実施形態においても、補助スプリング67は、戻し位置から遮断開始位置を経て遮断位置に至るまで、伸縮方向を変化させつつ伸縮する。そして、プッシュ軸39の軸方向から見て、補助スプリング67の伸縮方向S2は、プッシュ軸39の軸心39aを通らないようになっている。
【0089】
したがって、本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0090】
(第3実施形態)
第1および第2実施形態では、第1回動プレート51の回動に伴ってプッシュ軸39をスライドさせるカム機構は、ボールカム式のカム機構であった。しかし、第1回動プレート51の回動に伴ってプッシュ軸39をスライドさせるカム機構は、ボールカム式のカム機構に限定される訳ではない。図12に示すように、第3実施形態は、上記カム機構に変更を加えたものである。
【0091】
図12に示すように、本実施形態では、第1回動プレート51には、内側(摩擦クラッチ30側)に延びるボス部51bが設けられている。ボス部51bの外周面には、ねじ溝51cが形成されている。すなわち、ボス部51bの外周面には、螺旋状の溝が形成されている。
【0092】
軸受プレート14cの中心部にはガイド孔95が形成され、このガイド孔95に第1回動プレート51のボス部51bが挿入されている。ガイド孔95の内周面には、ボス部51bのねじ溝51cと係合するねじ溝94が形成されている。ねじ溝94は、第1回動プレート51の回動に伴って当該第1回動プレート51を軸方向(図12の左右方向)に案内するように形成されている。
【0093】
本実施形態では、第1回動プレート51とプッシュ軸39とは固定されており、第1回動プレート51はプッシュ軸39と一体となって軸方向にスライドする。
【0094】
以上のように、本実施形態では、第1回動プレート51の回動に伴ってプッシュ軸39をスライドさせるカム機構は、第1回動プレート51のボス部51bのねじ溝51cと、軸受プレート14cのガイド孔95のねじ溝94とにより構成されている。その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0095】
本実施形態においても、補助スプリング67は、戻し位置から遮断開始位置を経て遮断位置に至るまで、伸縮方向を変化させつつ伸縮する。そして、プッシュ軸39の軸方向から見て、補助スプリング67の伸縮方向は、プッシュ軸39の軸心39aを通らないようになっている。したがって、本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0096】
さらに、本実施形態によれば、第1実施形態と比較して、カムプレート41およびボール60が不要になる。そのため、パワーユニット13における幅方向のより一層の小型化を図ることができる。
【0097】
なお、本実施形態では、第1回動プレート51の回動に伴ってプッシュ軸39をスライドさせるカム機構は、第1回動プレート51のボス部51bのねじ溝51cと、軸受プレート14cのガイド孔95のねじ溝94とによって形成されていた。しかし、ボス部51bとガイド孔95とに形成されるカム機構は、ねじ式のカム機構に限定される訳ではない。例えば、ボス部51bの外周面に、半径方向に突出するピンが設けられ、ガイド孔95の内周面に、上記ピンが挿入された螺旋状の案内溝が形成されていてもよい。このようなピンおよび案内溝によっても、第1回動プレート51の回動に伴ってプッシュ軸39をスライドさせるカム機構を構成することができる。
【0098】
(その他の実施形態)
前記各実施形態は、本発明に係るクラッチ操作補助装置を自動二輪車に適用したものであった。ただし、本発明に係るクラッチ操作補助装置は、自動二輪車以外の鞍乗型車両にも適用可能であり、また、鞍乗型車両以外の車両にも適用可能である。
【0099】
なお、本発明において、プレッシャプレートとは、摩擦クラッチのフリクションプレートとクラッチプレートとを圧着させる部材のことであり、プレート状のものに限定される訳ではない。
【0100】
クラッチスプリングは、ダイアフラムスプリングに限定されず、コイルスプリング等の他の種類のスプリングであってもよい。
【0101】
前記実施形態では、プッシュ軸39が本発明の「スライド部材」に対応していた。しかし、スライド部材はプッシュ軸39に限定される訳ではない。プレッシャプレート37を回転自在に支持し、前記プレッシャプレート37と共に所定方向にスライドする部材であれば良い。また、スライド部材は、単一の部材であってもよく、2以上の部材を組み合わせたものであってもよい。
【0102】
前記実施形態では、スライド部材のスライド方向(=プッシュ軸39の軸方向)から見て、第1回動部材(第1回動プレート51)の回転中心とプレッシャプレート37の回転中心とが同一であったが、それらはずれていても構わない。その場合、例えば、カムプレート41とプッシュ軸39の間に、シーソーのような部材を設ければよい。これにより、第1回動部材を伝達部材に追従して回動させることによって、スライド部材をスライドさせることができる。この他、スライド部材をスライドさせる機構は、第1回動部材を備えていれば、どのような形式でもよい。
【0103】
本発明の「伝達部材」は、ワイヤ状のものに限らず、ロッド状のものであってもよい。
【0104】
本発明の「補助弾性体」は、コイルスプリングに限らず、ガススプリング等の他の弾性体であってもよい。
【0105】
前記実施形態では、第1回動プレート51と第2回動プレート52とは、ギヤ結合されていた。しかし、第1回動プレート51と第2回動プレート52とは、リンク結合等の他の結合態様で連結されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0106】
以上説明したように、本発明は、摩擦クラッチの操作力を軽減するクラッチ操作補助装置、およびそれを備えたパワーユニット並びに鞍乗型車両について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】自動二輪車の一部を表す左側面図である。
【図2】パワーユニットの一部を切り欠いて示す断面図である。
【図3】クラッチ操作補助装置の断面図である。
【図4】(a)は第1回動プレートの正面図、(b)はカムプレートの正面図である。
【図5】クラッチレバーが戻し位置にあるときの第1実施形態のクラッチ操作補助装置を表す図であり、(a)は側面図、(b)は断面図である。
【図6】クラッチレバーが遮断開始位置にあるときの第1実施形態のクラッチ操作補助装置を表す図であり、(a)は側面図、(b)は断面図である。
【図7】クラッチレバーが遮断位置にあるときの第1実施形態のクラッチ操作補助装置を表す図であり、(a)は側面図、(b)は断面図である。
【図8】クラッチレバーが戻し位置にあるときの第1実施形態のクラッチ操作補助装置の側面図である。
【図9】クラッチレバーが戻し位置にあるときの第2実施形態のクラッチ操作補助装置を表す図であり、(a)は側面図、(b)は断面図である。
【図10】クラッチレバーが遮断開始位置にあるときの第2実施形態のクラッチ操作補助装置を表す図であり、(a)は側面図、(b)は断面図である。
【図11】クラッチレバーが遮断位置にあるときの第2実施形態のクラッチ操作補助装置を表す図であり、(a)は側面図、(b)は断面図である。
【図12】第3実施形態に係るクラッチ操作補助装置の断面図である。
【図13】従来のクラッチ操作補助装置の側面図である。
【符号の説明】
【0108】
1 自動二輪車(鞍乗型車両)
9 クラッチレバー(操作子)
13 パワーユニット
14 クランクケース(ケーシング)
14c 軸受プレート(支持部材)
30 摩擦クラッチ
37 プレッシャプレート
38 クラッチスプリング
39 プッシュ軸(スライド部材)
39a プレッシャプレートの回転中心
43 クラッチワイヤ(伝達部材)
51 第1回動プレート(第1回動部材)
52 第2回動プレート(第2回動部材)
54 スプリングユニット
67 補助スプリング(補助弾性体)
70 クラッチ操作補助装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレッシャプレートと前記プレッシャプレートを付勢するクラッチスプリングとを有し、パワーユニットのケーシング内に配置された摩擦クラッチと、
前記摩擦クラッチに伝達部材を介して連結され、前記摩擦クラッチによるトルクの伝達を遮断するときに前記クラッチスプリングの付勢力に抗して人為的に操作される操作子と、
を備えたクラッチ操作装置に設けられ、前記ケーシングの内部に収容されるクラッチ操作補助装置であって、
前記プレッシャプレートを回転自在に支持し、前記プレッシャプレートと共に所定方向にスライドするスライド部材と、
前記伝達部材に連結され、前記伝達部材に追従して回動することによって前記スライド部材をスライドさせる第1回動部材と、
前記摩擦クラッチを遮断する方向に前記操作子を操作するときに、前記操作子が前記クラッチスプリングの反力を受ける遮断開始位置から前記摩擦クラッチの遮断が完了する遮断位置に達するまでの期間中、伸縮方向を変化させつつ、前記摩擦クラッチを遮断する方向に前記第1回動部材を回動させる付勢力を付与する補助弾性体と、を備え、
前記スライド部材のスライド方向から見て、前記補助弾性体の伸縮方向が前記プレッシャプレートの回転中心を通らない、クラッチ操作補助装置。
【請求項2】
回動することによって前記補助弾性体の付勢力を前記第1回動部材に伝える第2回動部材を備え、
前記スライド部材のスライド方向から見て、前記第2回動部材の回動中心の位置と前記プレッシャプレートの回転中心の位置とがずれている、請求項1に記載のクラッチ操作補助装置。
【請求項3】
前記第1回動部材と前記第2回動部材とは、前記第1回動部材の回動角度よりも前記第2回動部材の回動角度の方が大きくなるように連結されている、請求項2に記載のクラッチ操作補助装置。
【請求項4】
前記第1回動部材は、前記伝達部材に連結される第1連結部と、前記第2回動部材に連結される第2連結部とを備え、
前記スライド部材のスライド方向から見て、前記第1連結部と前記第2連結部とは前記スライド部材を挟んで反対側に位置している、請求項2に記載のクラッチ操作補助装置。
【請求項5】
前記スライド部材を支持する支持部材を備え、
前記支持部材は、前記補助弾性体の一端側を揺動自在に支持する支持部を有している、請求項1に記載のクラッチ操作補助装置。
【請求項6】
前記摩擦クラッチと前記第1回動部材との間に配置され、1または2以上の孔が形成され、前記スライド部材を支持する支持プレートを備えている、請求項1に記載のクラッチ操作補助装置。
【請求項7】
前記補助弾性体の少なくとも一部は、前記支持プレートの孔に挿入されている、請求項6に記載のクラッチ操作補助装置。
【請求項8】
前記第1回動部材の少なくとも一部は、前記支持プレートの孔に挿入されている、請求項6に記載のクラッチ操作補助装置。
【請求項9】
前記摩擦クラッチと前記第1回動部材との間に配置され、1または2以上の孔が形成され、前記スライド部材を支持する支持プレートを備え、
前記第2回動部材の少なくとも一部は、前記支持プレートの孔に挿入されている、請求項2に記載のクラッチ操作補助装置。
【請求項10】
前記摩擦クラッチと前記第1回動部材との間に配置され、第1および第2の孔が形成され、前記スライド部材を支持する支持プレートを備え、
前記スライド部材のスライド方向から見て、前記第1の孔と前記第2の孔とは、前記スライド部材を挟んで反対側に位置している、請求項1に記載のクラッチ操作補助装置。
【請求項11】
前記スライド部材のスライド方向と直交する方向に延びかつカム溝が形成されたカム面を有し、前記スライド部材と共にスライドするカムプレートを備え、
前記第1回動部材は、カム溝が形成されかつ前記カムプレートのカム面に対向するカム面を有し、
前記カムプレートのカム溝と前記第1回動部材のカム溝との間に配置され、前記第1回動部材が回動すると前記カムプレートを前記スライド部材のスライド方向にスライドさせるボールを備えた、請求項1に記載のクラッチ操作補助装置。
【請求項12】
前記カムプレートは、前記スライド部材の外側端に設けられ、
前記第1回動部材は、前記カムプレートよりも内側に配置されている、請求項11に記載のクラッチ操作補助装置。
【請求項13】
前記第1回動部材と前記スライド部材とは、前記スライド部材のスライド方向に一体となってスライドするように連結され、
前記第1回動部材は、ボス部を備え、
前記ボス部が挿入されたガイド孔が形成され、前記スライド部材を支持する支持部材を更に備え、
前記ボス部および前記ガイド孔には、前記第1回動部材が回動すると前記第1回動部材を前記スライド部材のスライド方向に案内するカム機構が形成されている、請求項1に記載のクラッチ操作補助装置。
【請求項14】
前記第1回動部材には、第1のギヤ歯が形成され、
前記第2回動部材には、前記スライド部材のスライド方向と直交する面内で前記第1のギヤ歯と噛み合う第2のギヤ歯が形成されている、請求項2に記載のクラッチ操作補助装置。
【請求項15】
前記補助弾性体は、前記操作子が遮断開始位置よりも戻り側の戻し位置にあるときには前記摩擦クラッチを接続する方向に前記第1回動部材を付勢し、前記操作子が戻し位置から遮断開始位置を経て遮断位置に向けて操作されると、前記第1回動部材に作用する付勢力が前記摩擦クラッチを接続する方向から遮断する方向に変化するように構成され、
前記操作子が戻し位置にあるときに、前記第1回動部材に加わる前記補助弾性体の付勢力を相殺する付勢力を付与する相殺弾性体を備えている、請求項1に記載のクラッチ操作補助装置。
【請求項16】
プレッシャプレートと前記プレッシャプレートを付勢するクラッチスプリングとを有し、前記クラッチスプリングの付勢力に抗して人為的に操作される操作子に伝達部材を介して連結される摩擦クラッチと、
前記プレッシャプレートを回転自在に支持し、前記プレッシャプレートと共に所定方向にスライドするスライド部材と、
前記伝達部材に連結され、前記伝達部材に追従して回動することによって前記スライド部材をスライドさせる第1回動部材と、
前記摩擦クラッチを遮断する方向に前記操作子を操作するときに、前記操作子が前記クラッチスプリングの反力を受ける遮断開始位置から前記摩擦クラッチの遮断が完了する遮断位置に達するまでの期間中、伸縮方向を変化させつつ、前記摩擦クラッチを遮断する方向に前記第1回動部材を回動させる付勢力を付与する補助弾性体と、
前記摩擦クラッチ、前記スライド部材、前記第1回動部材、および前記補助弾性体を収容するケーシングと、を備え、
前記スライド部材のスライド方向から見て、前記補助弾性体の伸縮方向が前記プレッシャプレートの回転中心を通らない、車両用パワーユニット。
【請求項17】
請求項16に記載の車両用パワーユニットを備えた鞍乗型車両。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−14385(P2008−14385A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−185281(P2006−185281)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】