説明

クランク軸端のシール構造

【課題】クランク軸端をコンパクトで製造が容易な非接触構造で確実に封止する。
【解決手段】クランク軸の端部の外周を覆う油切カバー25に、付着した潤滑油を潤滑油サンプタンクに戻すための油切段部32a,32b,32c,32dを、クランク軸の上側および側方を略U字状に囲んで4段設ける。こうして、油切段部を1段のみ設ける場合に比して油切カバー25の潤滑油をクランク軸に伝えることなく潤滑油サンプタンクに回収して、潤滑油の外部への漏れ出しを確実に防止する。したがって、油切カバー25に付着する潤滑油の量を少なくするための仕切板や、クランク軸の遠心力を大きくするための拡径部を設ける必要が無く、製造が容易なシール構造を提供できる。さらに、同じ量の潤滑油を1段の油切段部で回収する場合に比して各油切段部32a,32b,32c,32dのサイズを小さくして、油切カバー25における軸方向の幅を小さくできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関、特にディーゼル機関におけるクランク軸端のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、大型のディーゼル機関におけるクランク軸端のシール構造では、フレームから突出しているクランク軸の端部の外周を、フレーム端面に取り付けた油切カバーで覆ってシールするようにしている。このようなクランク軸端のシール構造として、特開2003‐336544号公報(特許文献1)に開示されたものがある。
【0003】
上記クランク軸端のシール構造においては、図3に示すように、フレーム1から突出するクランク軸2の端部の外周を、フレーム1の後端面1aに取り付けた油切カバー3で覆ってシールする。その際に、クランク軸2における大径部4の外周に隙間をあけて嵌合する中心穴5aを有する仕切板5をフレーム1に取り付ける。また、大径部4の第1径方向段部6に軸方向に隙間をあけて対向する径方向対向面を有する油切フランジ7を油切カバー3に設ける。
【0004】
さらに、上記油切フランジ7におけるクランク軸2側の面と、クランク軸2における大径部4に連なる中径部8の外周との間に、環状室9を形成する。そして、環状室9の下部に連通する開口10aを一端に有する一方、開口10aよりも径方向外側においてフレーム1内に連通する開口10bを他端に有してU字管をなす連通油路10を、油切カバー3内に径方向に設けている。
【0005】
尚、上記油切カバー3は、クランク軸2の上側では上室12を介してフレーム1と対向しており、クランク軸2の下側ではフレーム1下に設けられたクランク室13を臨んでいる。
【0006】
上記クランク軸端のシール構造によれば、上記クランク軸2の表面を軸端方向に伝わって漏れ出そうとする潤滑油は仕切板5で堰き止められて、一部のみが中心穴5aを通過する。この中心穴5aを通過した潤滑油は、油切フランジ7によって通過が阻止される。そして、中心穴5aを通過した潤滑油の大部分は、上室12を経て、あるいは油切フランジ7の環状溝7aを伝って、クランク室13に戻される。
【0007】
さらに、上記油切フランジ7の径方向対向面とこれに対向する大径部4の第1径方向段部6との隙間を通過して環状室9内に侵入したごく一部の潤滑油は、連通油路10の他端の開口10bからフレーム1内に戻される。こうして、潤滑油の外部への漏れ出しが、非接触の封止構造で防止される。
【0008】
しかしながら、上記クランク軸端のシール構造には、以下のような問題がある。
【0009】
すなわち、上記上室12内において油切カバー3に付着した潤滑油をクランク室13に戻すために、環状溝7aを有する油切フランジ7を、クランク軸2を円状に取り巻くように油切カバー3に設けている。ところが、油切フランジ7は1段のみが円状に設けられているため、環状溝7aの下側に伝わってきた潤滑油の一部がクランク軸に伝わる恐れがある。
【0010】
そのため、上記油切カバー3に付着する潤滑油の量を少なくするために、クランク軸2の表面を軸端方向に伝わって来る潤滑油を堰き止める仕切板5をフレーム1に取り付けている。さらに、後方に向かうほど径方向外側への加速力(遠心力)が大きくなるようにクランク軸2の大径部4に円錐面を有する拡径部4aを設けて、仕切板5の中心穴5aを通過した潤滑油を遠心力で飛ばして上室12を経てクランク室13に戻すようにしている。
【0011】
このように、上記クランク軸端のシール構造においては、上記仕切板5をフレーム1に取り付けたり、クランク軸2の大径部4に拡径部4aを設けたりする必要がある。したがって、その分だけシール構造が複雑になり、特にクランク軸2の製造が困難になるという問題がある。さらに、油切カバー3を含むシール構造の軸方向のサイズが大きくなるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003‐336544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、この発明の課題は、クランク軸端を非接触で封止して潤滑油の外部への漏れ出しを確実に防止できるコンパクトで製造が容易なクランク軸端のシール構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、この発明のクランク軸端のシール構造は、
フレームから突出するクランク軸と、
上記クランク軸の端部の外周を覆ってシールする油切カバーと
を備え、
上記油切カバーは、
クランク室に対向する対向面に設けられると共に、上記クランク軸の上側および側方を略U字状に囲む複数の油切段部と、
上記各油切段部に設けられると共に、上方からの油を側方および下方に導く案内溝と
を備えた
ことを特徴としている。
【0015】
上記構成によれば、クランク軸の端部の外周を覆ってシールする油切カバーに、この油切カバーに付着した油を潤滑油サンプタンク等に戻すための油切段部を、上記クランク軸の上側および側方を略U字状に囲んで複数設けている。したがって、油切段部を円状に1つのみ設ける場合に比して、油切カバーの潤滑油をクランク軸に伝えることなく上記潤滑油サンプタンク等に回収して、油の外部への漏れ出しを確実に防止することができる。
【0016】
すなわち、この発明によれば、上記特許文献1に開示されたクランク軸端のシール構造のごとく、上記油切カバーに付着する油の量を少なくするために、クランク軸の表面を軸端方向に伝わって来る油を堰き止める仕切板や、上記クランク軸の遠心力を大きくするための拡径部を設ける必要が無く、製造が容易なシール構造を提供できる。
【0017】
さらに、1つの円状の油切段部で捕集して回収する場合に比して、クランク軸の間近での油の伝わりを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明のクランク軸端のシール構造を採用したディーゼル機関における油切カバーの縦断面図である。
【図2】図1における油切カバーの正面図である。
【図3】従来のクランク軸端のシール構造を採用したディーゼル機関の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0020】
本実施の形態のクランク軸端のシール構造の基本構成は、図3に示す従来のクランク軸端のシール構造と同様に、フレームから突出するクランク軸の端部の外周を、上記フレームの後端面に取り付けた油切カバーで覆ってシールするものである。
【0021】
図1は、本実施の形態のクランク軸端のシール構造を採用したディーゼル機関における油切カバーの縦断面図である。
【0022】
このディーゼル機関におけるフレーム21の後端面21aからは、先端にフライホイール連結用のフランジ23を有するクランク軸22の端部が突出しており、図3の場合と同様に、フレーム21の後端面21aおよび潤滑油サンプタンク24の上部に固定された油切カバー25によって、クランク軸22の表面を軸端方向に伝わって漏れ出そうとする潤滑油をシールしている。
【0023】
上記油切カバー25は、クランク軸22が挿通される挿通穴の中心を通る垂直面で2分割されている。そして、2分割された部分油切カバーの夫々における2分割面25aから上記挿通穴の中心を通る垂直面の方向に延在するフランジ26同士を、フランジ26に設けられた複数の結合孔27に挿通されたボルト(図示せず)等によって締結することによって、油切カバー25が形成される。
【0024】
クランク軸22の一端にはフライホイール連結用のフランジ23が設けられており、クランク軸22において、フランジ23から向ってフレーム21の内側には、油切用の鍔28が設けられている。そして、鍔28におけるフランジ23側の側面29は、クランク軸22の軸心に直交する環状面となっている。また、油切カバー25は、フレーム21の内側に設けられたクランク室31を臨んで配置されている。そして、油切カバー25におけるクランク室31と対向する面には、クランク軸22を取り巻くように4段の油切段部32a,32b,32c,32dが設けられており、各油切段部32a,32b,32c,32dには潤滑油を下方に導く溝33a,33b,33c,33dが形成されている。
【0025】
図2は、上記油切カバー25におけるクランク室31と対向する面側から見た正面図である。油切カバー25は、上述したように、クランク軸22が挿通される挿通穴42の中心を通る垂直面で2分割される。そして、2分割されてなる2つの部分油切カバー25A,25Bの夫々における2分割面25aからクランク軸22の挿通穴42の中心を通る垂直面の方向に延在するフランジ26(図1参照)同士を、上記ボルト等によって締結することによって、油切カバー25が形成されている。
【0026】
そして、上記油切カバー25におけるクランク室31と対向する面には、少なくともクランク軸22の上側および側方を略U字状に囲む4段の油切段部32a,32b,32c,32dが設けられており、各油切段部32a,32b,32c,32dには潤滑油を下方に導く溝33a,33b,33c,33dが形成されている。そのうち、最外に位置する4段目の油切段部32aのみがクランク軸22を完全に取り囲んでおり、他の3段の油切段部32b,32c,32dは、クランク軸22の上側を半円(180°)よりも小さい範囲で同心円状に取り囲んでいる。そして、クランク軸22の取り囲みの範囲の両端から下側には、上記同心円の接線方向に下向きに延びて、4段目の油切段部32aに合流している。
【0027】
その場合、上記各油切段部32a,32b,32c,32dの断面は図1に示すようになっており、油切段部32b,32c,32dは、油切段部32aよりもクランク室31側に突出して形成されている。また、溝33b,33c,33dは、溝33aよりもクランク室31側に突出して形成されている。この場合、4段目の溝33aは他の3段の溝33b,32c,32dから潤滑油を集める役目をになう。但し、4段目の溝33aも他の3段の溝33b,32c,32dと同様に下向きの直線の溝であってもよい。
【0028】
上記構成を有するディーゼル機関におけるクランク軸端のシール構造は、以下のように作用する。
【0029】
すなわち、ディーゼル機関が運転されると、潤滑油サンプタンク24から給油系(図示せず)を経てピストンやクランクピンに供給された潤滑油の一部が、回転するクランク軸22の表面を軸端方向に伝わって、クランク室31からフレーム21外に漏れ出ようとする。その場合、漏れ出ようとする潤滑油の大部分はクランク軸22および鍔28の回転に伴う遠心力によって飛ばされる。この油や、エンジン上部から滴下したりクランク室31内を散乱する油等が、油切カバー25に付着する。そして、油切カバー25におけるクランク室31と対向する面の上側に付着した潤滑油等は、この面に設けられた4段の油切段部32a,32b,32c,32dで受けられ、溝33a,33b,33c,33dによってクランク軸22の周囲を回って下方に導かれる。
【0030】
その際に、最も外側に位置する上記4段目の油切段部32aは、クランク軸22を完全に取り囲んでいるため、環状の溝33aの下側半分は下側を向いている。そのため、溝33aによって導かれた潤滑油は下側を向く溝33aから放出され、油切カバー25の面45を伝って潤滑油サンプタンク24に回収される。
【0031】
これに対して、上記油切段部32b,32c,32dおよび上記溝33b,33c,33dは、油切カバー25の2分割面25aを中心として略上半分の範囲でクランク軸22を同心円状に取り囲んでおり、その取り囲み部分の両端から外側に上記同心円の接線方向に直線状に延在して、油切段部32aおよび溝33aに合流している。したがって、直線状の溝33b,33c,33dに導かれた潤滑油は、溝33aとの合流箇所で下側を向いている溝33a内に移行し、油切カバー25の面45を伝って潤滑油サンプタンク24に回収される。
【0032】
このように、上記油切カバー25に付着した潤滑油を受けて潤滑油サンプタンク24に回収するために、クランク軸22を取り囲んで4段の油切段部32a,32b,32c,32dを設けている。したがって、図3に示す従来のクランク軸端のシール構造のごとく油切フランジ7を1段のみ設ける場合に比して、油切カバー25の潤滑油をクランク軸22に伝えることなく潤滑油サンプタンク24に回収することができる。さらに、油切段部を複数段(本実施の形態では4段)設けることによって、1段の油切段部で捕集されるクランク軸22の間近での油の伝わりを防ぐことができる。
【0033】
以上のごとく、本実施の形態においては、上記油切カバー25に、上記油切カバー25に付着した潤滑油を潤滑油サンプタンク24に戻すための油切段部32a,32b,32c,32dを、少なくともクランク軸22の上側および側方を略U字状に囲んで4段に設けている。したがって、油切段部を円状に1段のみ設ける場合に比して、油切カバー25の潤滑油をクランク軸22に伝えることなく潤滑油サンプタンク24に回収して、潤滑油の外部への漏れ出しを確実に防止することができる。さらに、同じ量の潤滑油を1段の油切段部で捕集して回収する場合に比して、個々の油切段部32a,32b,32c,32dのサイズを小さくすることができ、油切カバー25における軸方向の幅を小さくすることができる。
【0034】
尚、上記実施の形態においては、油切段部を、油切段部32a,32b,32c,32dの4段に設けている。しかしながら、上記内側の油切段部の段数は少なくとも2段以上であればよく、4段に限定されるものではない。
【0035】
また、上記実施の形態においては、最外に位置する上記環状の油切段部32aおよび内側の油切段部32b,32c,32dの取り囲み部分を、円および円弧状に形成している。しかしながら、この発明は円および円弧状に限定されるものではなく、「楕円およびその一部」や「多角形およびその一部」に形成しても構わない。
【符号の説明】
【0036】
21…フレーム、
22…クランク軸、
24…潤滑油サンプタンク、
25…油切カバー、
25A,25B…部分油切カバー、
28…鍔、
29…鍔の側面、
31…クランク室、
32a,32b,32c,32d…油切段部、
33a,33b,33c,33d…溝、
42…クランク軸の挿通穴。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームから突出するクランク軸と、
上記クランク軸の端部の外周を覆ってシールする油切カバーと
を備え、
上記油切カバーは、
クランク室に対向する対向面に設けられると共に、上記クランク軸の上側および側方を略U字状に囲む複数の油切段部と、
上記各油切段部に設けられると共に、上方からの油を側方および下方に導く案内溝と
を備えた
ことを特徴とするクランク軸端のシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−79631(P2013−79631A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221021(P2011−221021)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(390033042)ダイハツディーゼル株式会社 (43)
【Fターム(参考)】