説明

クレーンの油圧回路

【課題】 上流側及び下流側の油圧モータに対する単独操作及び同時操作において、1速駆動及び2速駆動の全ての操作を行うことができるようにして、クレーンの快適な使用環境及び操作性を作業者に提供すること。
【解決手段】 第1油圧ポンプ10aに接続する圧油供給ライン11aと、第2油圧ポンプ10bに接続する圧油供給ライン11bとを備え、圧油供給ライン11aには、上流側から順に、補巻1速用方向制御弁42a、及び主巻2速用方向制御弁43aが接続し、圧油供給ライン11bには、上流側から順に、補巻2速用方向制御弁42b、及び主巻1速用方向制御弁43bが接続するクレーンの油圧回路において、補巻モータ16の下流の圧力が、主巻モータ15の負荷圧力以上となるようにすることができる圧力調整手段107を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1及び第2油圧ポンプを使用して、上流側及び下流側のそれぞれのウィンチをそれぞれ単独で及び同時に、ウィンチを所望の1速及び2速のいずれの駆動状態でも使用することができるクレーンの油圧回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のクレーンの一例として、図7に示す移動式クレーン101がある(例えば特許文献1参照)。このクレーン101は、左右1対のクローラ2を有する走行体1と、この走行体1の上に旋回可能に搭載された旋回体3と、この旋回体3の上側に設けられた起伏可能なブーム4とを備え、更に、旋回体3上には、巻上ドラム5と起伏ドラム6とが搭載された構成であり、巻上ドラム5の駆動によって巻上ロープ7の巻き取りと繰り出しとを行うことで、吊荷8の昇降を行うことができるようにしてある。そして、起伏ドラム6の駆動によって起伏ロープ9の巻き取りと繰り出しとを行うことで、ブーム4の起伏を行うことができるようにしてある。
【0003】
更に、図示してないが、走行体1の左右のクローラ2は、左右の走行モータの回転によりそれぞれ個別に駆動できるようにしてある。そして、起伏ドラム6は、起伏モータの回転により駆動できるようにしてある。また、巻上ドラム5は、主巻ウインチ用の主巻ドラムと、補巻ウインチ用の補巻ドラムとを有している。そして、主巻ウインチは、主巻モータの回転により、そして、補巻ウインチは、補巻モータの回転により、それぞれ個別に回転駆動できるようにしてある。なお、旋回体3上に、第3モータによって駆動する第3のドラムが搭載される場合もある。
【0004】
この図7に示す移動式クレーンの油圧回路としては、この移動式クレーン101に装備されている複数のモータを、それぞれ個別の油圧ポンプで駆動するようにした1ポンプ1モータ形式の油圧回路がある。しかし、1ポンプ1モータ形式の油圧回路では、ポンプやバルブのサイズが大きくなり、大きなコストアップに繋がるという問題がある。
【0005】
そのために、近年では、図8に示すように、2ポンプ合流回路を備えた形式の移動式クレーンの油圧回路102が開発されてきている。すなわち、この形式の移動式クレーンの油圧回路102は、第1油圧ポンプ10aからの圧油を導く圧油供給ライン11a上における主巻1速用方向制御弁19aの下流側位置に、補巻2速用方向制御弁20aを設けると共に、第2の油圧ポンプ10bからの圧油を導く圧油供給ライン11b上における主巻2速用方向制御弁19bよりも下流側位置に、補巻1速用方向制御弁20bを設けてある。
【0006】
これら補巻1速用、及び補巻2速用の各方向制御弁20b、20aは、それぞれ主巻1速用、及び主巻2速用の方向制御弁19a、19bと同様のセンターバイパス形式の4方向3位置弁である。そして、各方向制御弁20b、20aは、それぞれと対応する圧油供給ライン11b、11a上の所定位置に設けてある。そして、それぞれのPポート及びTポートは、各圧油供給ライン11b、11aの上流側の部分と下流側の部分とにそれぞれ接続してある。
【0007】
また、補巻モータ16には、2本の圧油給排ライン(メイン管路)36、37のそれぞれの一端が接続しており、この2本の圧油給排ライン36、37のそれぞれの他端側を2本ずつの分岐ライン(36a、36b)、(37a、37b)に分岐させてある。この分岐ライン36a、36bは、補巻2速用及び補巻1速用方向制御弁20a、20bのそれぞれのAポートに接続し、分岐ライン37a、37bは、補巻2速用及び補巻1速用方向制御弁20a、20bのそれぞれのBポートに接続してある。
【0008】
また、図8に示す補巻モータ16の駆動回路は、補巻モータ16(補巻ウインチ)の駆動を指令する図示しない補巻ウインチ操作レバーと、この操作レバーの操作量に応じて巻上側と巻下側のパイロット圧(2次圧)を発生するリモコン弁(リモートコントロール弁)とを備えている。
【0009】
そして、リモコン弁によって発生させた巻上側パイロット圧を導くための巻上用パイロットライン38の下流側を2本の分岐パイロットライン38a、38bに分岐させてあり、各分岐パイロットライン38a、38bの先端部を、補巻2速用、及び補巻1速用の各方向制御弁20a、20bにおける一方のパイロットポートX、Xにそれぞれ接続させてある。
【0010】
また、リモコン弁によって発生させた巻下側パイロット圧を導くための巻下用パイロットライン39の下流側を2本の分岐パイロットライン39a、39bに分岐させてあり、各分岐パイロットライン39a、39bの先端部を、補巻2速用、及び補巻1速用の各方向制御弁20aと20bにおける他方のパイロットポートY、Yにそれぞれ接続させてある。
【0011】
更に、補巻1速用方向制御弁20bと補巻2速用方向制御弁20aとは、それぞれのスプールを作動させるために必要とされる最低パイロット圧力が、或る所定圧力値Qよりも低圧側と高圧側で互いに異なるようにしてある。具体的には、例えば、補巻1速用方向制御弁20bは、所定圧力値Qよりも低い圧力領域のパイロット圧が各パイロットポートX、Yに作用すると、当該パイロット圧に応じてスプールの切換作動が行われるようにしてあり、パイロット圧が上記所定圧力値Q以上となると、スプールが当該切換の作動がされたまま保持されるようにしてある。
【0012】
そして、補巻2速用方向制御弁20aは、所定圧力値Q以上の圧力領域のパイロット圧が各パイロットポートX、Yに作用する場合のみに、スプールの切換作動が開始されるようにしてある。
【0013】
これにより、図示しない補巻ウインチ操作レバーの操作量が小さくてリモコン弁によって発生させる巻上側又は巻下側のパイロット圧が上記所定圧力値Qよりも低い間は、補巻1速用方向制御弁20bのスプールのみが、PポートとTポートをバイパスさせた中立状態から、P→A接続状態又はP→B接続状態に切り換えられる。これによって、第2油圧ポンプ10bから圧油供給ライン11bを通して導かれる圧油が、補巻1速用方向制御弁20bを通って分岐ライン36b又は37bへ送られ、そして、圧油給排ライン36又は37を通って補巻モータ16へ供給される。その結果、補巻モータ16が、1台のポンプ分の比較的少ない圧油量で駆動されるようにしてある。
【0014】
その後、補巻ウインチ操作レバーの操作量が大きくなって、リモコン弁によって発生させる巻上側又は巻下側のパイロット圧が上記所定圧力値Q以上となると、補巻1速用方向制御弁20bに加えて補巻2速用方向制御弁20aでもスプールの切換作動が行われるようになる。
【0015】
つまり、今、第2油圧ポンプ10bから吐出される圧油が、圧油供給ライン11bを通して導かれた後、補巻1速用方向制御弁20bを介して分岐ライン36b又は37bへ送られ、そして、圧油給排ライン36又は37を介して補巻モータ16に供給されているが、上記のように操作レバーの操作量が大きくなってパイロット圧が所定圧力値Q以上となると、この圧油に加えて、第1油圧ポンプ10aから吐出される圧油を、圧油供給ライン11aを通して導かれた後、補巻2速用方向制御弁20aを介して分岐ライン36a又は37aへ送られ、そして、圧油給排ライン36又は37を介して補巻モータ16へ供給できるから、補巻モータ16を、2台のポンプ分の圧油を合流させて増加させた圧油量で駆動することができるようにしてある。
【0016】
なお、40は、カウンターバランス弁である。このカウンターバランス弁40は、補巻1速用及び補巻2速用の各方向制御弁20b、20aと、補巻モータ16との間に設けられている。41は、第1及び第2の各油圧ポンプ10a、10bを駆動するためのエンジンを示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2008−213999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかし、図8に示す2ポンプ合流回路を備えた形式の移動式クレーンの油圧回路102では、以下のような問題がある。つまり、図9に示すように、今、上流側に設けられている主巻モータ15用の主巻1速用及び主巻2速用の方向制御弁19a、19bのそれぞれのスプールを、P→A接続状態に切換作動させて、2つの第1及び第2の油圧ポンプ10a、10bのそれぞれから吐出される圧油を各分岐ライン25a、25bと圧油給排ライン25に通して主巻モータ15へ供給して、主巻モータ15をこれら2つの第1及び第2の油圧ポンプ10a、10b分の圧油量で2速駆動させているとする。
【0019】
そしてこの状態で、補巻1速用方向制御弁20bのみを作動させて、補巻モータ16を片方の油圧ポンプ10bからの圧油のみで1速駆動しようとすると、補巻2速用方向制御弁20aではスプールが中立位置に保持されるため、補巻モータ16に対して負荷圧力が生じず、補巻モータ16を駆動ができない状態となる。
【0020】
更に詳しく説明すると、図9に示す主巻モータ15の駆動に使用された後の圧油の戻り側では、矢印fで示すように、圧油が圧油給排ライン26から、分岐ライン26aを通って主巻1速用方向制御弁19aの方へ流れた後、補巻2速用方向制御弁20aを無負荷圧力で通過して、圧油戻しライン33を通って油タンク34へ戻ってしまう。そのために、補巻1速用方向制御弁20bが切換作動されているにもかかわらず、補巻モータ16による補巻ウインチの駆動ができなくなってしまうというのが実状である。
【0021】
なお、図8に示す31は、カウンターバランス弁40と同等のカウンターバランス弁である。26bは、圧油給排ライン26の分岐ラインである。そして、パイロットライン38、39と同様に、パイロットライン30、29を設けてあり、それぞれのラインの下流側を、2本の分岐パイロットライン(30a、30b)、(29a、29b)に分岐させてある。
【0022】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、上流側及び下流側のモータに対する単独操作及び同時操作において、所望の1速駆動及び2速駆動の全ての操作を行うことができるようにして、クレーンの快適な使用環境及び操作性を作業者に提供することができるクレーンの油圧回路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明に係るクレーンの油圧回路は、第1油圧ポンプに接続する第1圧油供給ラインと、第2油圧ポンプに接続する第2圧油供給ラインと、前記第1圧油供給ラインに、上流側から順に、上流第1方向制御弁、及び下流第2方向制御弁が接続される第1シリーズ回路と、前記第2圧油供給ラインに、上流側から順に、上流第2方向制御弁、及び下流第1方向制御弁が接続される第2シリーズ回路と、前記第1シリーズ回路および/または前記第2シリーズ回路から供給される圧油によって駆動される上流側油圧モータと、前記第1シリーズ回路および/または前記第2シリーズ回路から供給される圧油によって駆動される下流側油圧モータと、前記第1シリーズ回路と前記上流側油圧モータとの間に配設される圧油給排ラインと前記第2シリーズ回路と前記上流側油圧モータとの間に配設される圧油給排ラインとが合流する第1合流部および第2合流部と、前記第1シリーズ回路と前記下流側油圧モータとの間に配設される圧油給排ラインと前記第2シリーズ回路と前記下流側油圧モータとの間に配設される圧油給排ラインとが合流する第3合流部および第4合流部と、を備えたクレーンの油圧回路において、前記上流側油圧モータの排出側の圧力が、前記下流側油圧モータの負荷圧力以上となるようにすることができる圧力調整手段を備えることを特徴とするものである。
【0024】
この発明に係るクレーンの油圧回路によると、上流第1方向制御弁を作動させることによって、第1油圧ポンプから吐出される圧油を上流側油圧モータに供給することができ、この第1油圧ポンプの力によって上流側油圧モータ(上流側ウィンチ)を駆動(1速駆動)することができる。そして、この状態で、上流第2方向制御弁を作動させることによって、第2油圧ポンプから吐出される圧油を上流側油圧モータ(上流側ウィンチ)に供給することができ、よって、第1及び第2油圧ポンプの両方の力によって上流側油圧モータ(上流側ウィンチ)を駆動(2速駆動)することができる。
【0025】
同様に、下流第1方向制御弁を作動させることによって、第2油圧ポンプから吐出される圧油を下流側油圧モータに供給することができ、この第2油圧ポンプの力によって下流側油圧モータ(下流側ウィンチ)を駆動(1速駆動)することができる。そして、この状態で、下流第2方向制御弁を作動させることによって、第1油圧ポンプから吐出される圧油を下流側油圧モータ(下流側ウィンチ)に供給することができ、よって、第1及び第2油圧ポンプの両方の力によって下流側油圧モータ(下流側ウィンチ)を駆動(2速駆動)することができる。
【0026】
そして、例えば上流側油圧モータを2速駆動している状態で、下流側油圧モータを1速駆動するときは、上流側油圧モータから排出される圧油は、下流第2方向制御弁を通って油タンクに戻されるが、圧力調整手段によって、上流側油圧モータの排出側の圧力が、下流側油圧モータの負荷圧力以上となるようにすることができるので、この上流側油圧モータから排出される圧油を使用して下流側油圧モータを適切に1速駆動することができる。
【0027】
この発明に係るクレーンの油圧回路において、前記圧力調整手段は、前記第1シリーズ回路と前記上流側油圧モータとの間に配設される圧油給排ライン上であって、前記第1合流部または/および前記第2合流部よりも前記第1シリーズ回路側に設けられた圧力制御弁を有し、前記圧力制御弁は、この圧力制御弁の上流圧力と、前記下流側油圧モータの負荷圧力とを対抗させて、前記圧力制御弁の上流圧力が前記負荷圧力以上となるように作動するものとすることができる。
【0028】
このように、第1シリーズ回路と合流部との間に圧力制御弁を設ければ良いため、設計の自由度が増し、製品製造が容易となる。
【0029】
この発明に係るクレーンの油圧回路において、前記圧力調整手段は、前記上流第1方向制御弁のセンターバイパスの下流側に設けた圧力制御弁(減圧弁)を有し、前記圧力制御弁は、この圧力制御弁の上流圧力と、前記下流側油圧モータの負荷圧力とを対抗させて、前記圧力制御弁の上流圧力が前記負荷圧力以上となるように作動するものとすることができる。
【0030】
このように、圧力制御弁を、上流第1方向制御弁のセンターバイパスの下流側に設けると、上流側油圧モータを正逆いずれの方向に回転させても、圧力制御弁を通る圧油の方向が変わることがないので、この圧力調整手段を簡単な構成とすることができる。
【0031】
この発明に係るクレーンの油圧回路において、前記圧力調整手段は、前記下流第2方向制御弁のセンターバイパスの下流側に設けた圧力制御弁を有し、前記圧力制御弁は、この圧力制御弁の上流圧力と、前記下流側油圧モータの負荷圧力とを対抗させて、前記圧力制御弁の上流圧力が前記負荷圧力以上となるように作動するものとすることができる。
【0032】
このようにすると、下流第2方向制御弁を作動させて、下流側油圧モータを2速駆動するときに、圧力制御弁によって圧力降下される前の高い圧力の圧油を下流第2方向制御弁に通して下流側油圧モータに供給することができる。よって、上流側及び下流側油圧ポンプの出力を下流側油圧モータに対して効率的に利用することができる。
【0033】
この発明に係るクレーンの油圧回路において、前記上流第2方向制御弁のパイロット圧、又は前記下流第1方向制御弁のパイロット圧、若しくは下流側油圧モータの負荷圧力によって、前記圧力調整手段を動作させるものとすることができる。
【0034】
このように、上流第2方向制御弁のパイロット圧によって、圧力調整手段を動作させるようにすると、上流側油圧モータ及び下流側油圧モータの一方又は両方を駆動するときのうち、上流側油圧モータを2速駆動し、かつ、下流側油圧モータを1速駆動又は2速駆動する駆動状態以外の駆動状態において、この圧力調整手段による圧力調整を行なわないようにすることによって、圧力損失が生じないようにすることができる。よって、上流側及び下流側油圧ポンプの出力を効率的に利用することができる。
【0035】
そして、下流第1方向制御弁のパイロット圧、又は下流側油圧モータの負荷圧力によって、圧力調整手段を動作させるようにしても、上流側油圧モータを2速駆動する状態で、下流側油圧モータを1速駆動することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明に係るクレーンの油圧回路によると、上流側油圧モータを1速及び2速駆動をすることができる。そして、下流側油圧モータも1速及び2速駆動をすることができる。また、上流側油圧モータを2速駆動している状態であっても、下流側油圧モータを1速駆動することができる構成である。
【0037】
従って、クレーンを使用する作業内容に応じて、1速駆動及び2速駆動の所望の操作を、上流側及び下流側のそれぞれの油圧モータごとに単独で行うことができるし、両方の油圧モータに対して同時に行うことができる。このように、上流側及び下流側の油圧モータに対する単独操作及び同時操作において、所望の1速駆動及び2速駆動の全ての操作を行うことができる。よって、クレーンの快適な使用環境及び操作性を作業者に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明の第1実施形態に係るクレーンの油圧回路を示す図である。
【図2】図1の油圧回路を使用して補巻モータ及び主巻モータに圧油を供給する状態を示す図である。
【図3】同発明の第2実施形態に係るクレーンの油圧回路を示す図である。
【図4】図3の油圧回路を使用して補巻モータ及び主巻モータに圧油を供給する状態を示す図である。
【図5】同発明の第3実施形態に係るクレーンの油圧回路を示す図である。
【図6】図5の油圧回路を使用して補巻モータ及び主巻モータに圧油を供給する状態を示す図である。
【図7】移動式クレーンの外観を示す側面図である。
【図8】従来の移動式クレーンにおいて、主巻モータ用及び補巻モータ用の2系統の2ポンプ合流回路を備える油圧回路を示す図である。
【図9】図8に示す油圧回路において、主巻モータを2速駆動している状態で、補巻モータを1速駆動するために、補巻1速用方向制御弁を切り換えた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係るクレーンの油圧回路の第1実施形態を、図1及び図2等を参照して説明する。図1に示す第1実施形態に係るクレーンの油圧回路105は、圧油供給ライン11aと、圧油供給ライン11bとを備えている。
【0040】
圧油供給ライン11aには、上流側から順に、補巻1速用方向制御弁(上流第1方向制御弁)42a、及び主巻2速用方向制御弁(下流第2方向制御弁)43aを設けてあり、これが第1シリーズ回路141である。
【0041】
そして、圧油供給ライン11bには、上流側から順に、補巻2速用方向制御弁(上流第2方向制御弁)42b、及び主巻1速用方向制御弁(下流第1方向制御弁)43bを設けてあり、これが第2シリーズ回路142である。
【0042】
これら補巻1速用方向制御弁42a、主巻2速用方向制御弁43a、補巻2速用方向制御弁42b、及び主巻1速用方向制御弁は、センタバイパス形式の4方向3位置弁であり、それぞれのPポート及びTポートは、各圧油供給ライン11a、11bの上流側の部分と下流側の部分とにそれぞれ接続してある。
【0043】
また、クレーンの油圧回路105は、図2に示すように、補巻モータ16用の補巻1速用及び補巻2速用の方向制御弁42a、42bのそれぞれのスプールを切換作動させて、補巻モータ(上流側油圧モータ)16を2つの第1及び第2の油圧ポンプ10a、10b分の圧油量で2速駆動している状態で、主巻1速用方向制御弁43bのみを作動させて、主巻モータ(下流側油圧モータ)15を片方の第2油圧ポンプ10bからの圧油のみで1速駆動しようとすると、補巻モータ16の駆動に使用された後の圧油の戻り側では、矢印gで示すように、油圧が圧油給排ライン37、分岐ライン37a、補巻1速用方向制御弁42a、及び主巻2速用方向制御弁43aを通って、圧力制御弁106(減圧弁)に伝わるようになっている。この圧力制御弁106を備える圧力調整手段107は、補巻モータ16の下流(図1に示す分岐ライン37a又は37b)の圧力が、主巻モータ15の負荷圧力以上となるようにする構成となっている。これによって、主巻1速用方向制御弁43bが切換作動されたときは、主巻モータ15による主巻ウインチの駆動ができるようになっている。
【0044】
この油圧回路105は、図1に示すように、ポンプ10a、10bを備えると共に、第1油圧ポンプ10aから圧油を導く圧油供給ライン11a上には、可変容量形の補巻モータ16への圧油の流れを制御する補巻1速用方向制御弁42aと、可変容量形の主巻モータ15への圧油の流れを制御する主巻2速用方向制御弁43aとを順に直列に設けてある。
【0045】
また、第2油圧ポンプ10bから圧油を導く圧油供給ライン11b上には、補巻モータ16への圧油の流れを制御する補巻2速用方向制御弁42bと、主巻モータ15への圧油の流れを制御する主巻1速用方向制御弁43bとを順に設けてある。なお、23、24は、それぞれ第1及び第2の油圧ポンプ10a、10bの吐出圧を制御するためのリリーフ弁である。
【0046】
そして、補巻1速用及び補巻2速用の各補巻用方向制御弁42a、42bの各A、Aポートには、図8に示したものと同様に、補巻モータ16に接続してある2本の圧油給排ライン36、37のうち、一方の圧油給排ライン36を2本に分岐させた各分岐ライン36a、36bをそれぞれ接続してある。そして、各B、Bポートには、他方の圧油給排ライン37を2本に分岐させた各分岐ライン37a、37bをそれぞれ接続してある。
【0047】
この圧油給排ライン36、及び分岐ライン36a、36bが第1合流回路131を構成し、この3つのライン36、36a、36bは、第1合流部132で合流する。
【0048】
そして、圧油給排ライン37、及び分岐ライン37a、37bが第2合流回路133を構成し、この3つのライン37、37a、37bは、第2合流部134で合流する。
【0049】
また、補巻1速用及び補巻2速用の各補巻用方向制御弁42aと42bの両方のパイロットポートX、Yには、補巻モータ16(補巻ウインチ)の駆動を指令する操作レバー127の操作量に応じて巻上側と巻下側のパイロット圧を発生させるリモコン弁128が接続している。このリモコン弁128には、巻上側のパイロット圧を導くための巻上用パイロットライン38が接続し、この巻上用パイロットライン38の先端側が分岐パイロットライン38a、38bの2本に分岐しており、これら各分岐パイロットライン38a、38bの先端部がそれぞれパイロットポートX、Xに接続している。
【0050】
更に、パイロットポートY、Yには、そのリモコン弁128から巻下側パイロット圧を導くための巻下用パイロットライン39の先端側を2本に分岐させた分岐パイロットライン39a、39bの先端部をそれぞれ接続してある。
【0051】
そして、図1に示すように、主巻1速用及び主巻2速用の各方向制御弁43bと43aの各A、Aポートには、図8に示したものと同様に、主巻モータ15に接続してある2本の圧油給排ライン25、26のうち、一方の圧油給排ライン25を2本に分岐させた各分岐ライン25b、25aをそれぞれ接続してある。そして、各B、Bポートには、他方の圧油給排ライン26を2本に分岐させた各分岐ライン26b、26aをそれぞれ接続してある。
【0052】
この圧油給排ライン25、及び分岐ライン25a、25bが第3合流回路135を構成し、この3つのライン25、25a、25bは、第3合流部136で合流する。
【0053】
そして、圧油給排ライン26、及び分岐ライン26a、26bが第4合流回路137を構成し、この3つのライン26、26a、26bは、第4合流部138で合流する。
【0054】
また、主巻1速用及び主巻2速用の各方向制御弁43bと43aの両方のパイロットポートX、Yには、図示しない主巻ウインチの駆動を指令する操作レバーの操作量に応じて巻上側と巻下側のパイロット圧を発生させるリモコン弁(図示せず)が接続している。このリモコン弁には、巻上側のパイロット圧を導くための巻上用パイロットライン29が接続し、この巻上用パイロットライン29の先端側が分岐パイロットライン29b、29aの2本に分岐しており、これら各ライン29b、29aの先端部がそれぞれパイロットポートX、Xに接続している。
【0055】
更に、パイロットポートY、Yには、上記リモコン弁(図示せず)から巻下側パイロット圧を導くための巻下用パイロットライン30の先端側を2本に分岐させた分岐パイロットライン30b、30aをそれぞれ接続してある。
【0056】
なお、図1に示すように、補巻モータ16(補巻ウインチ)用のリモコン弁128、及び主巻モータ15(主巻ウインチ)用のリモコン弁には、パイロット圧力ライン129を介してパイロットポンプ35の吐出圧が導かれている。
【0057】
そして、これら補巻モータ16の駆動を指令する操作レバー127(又は主巻モータ15の駆動を指令する操作レバー)によると、図8に示す従来の油圧回路102と同様に、補巻モータ16の操作レバー127(又は主巻モータ15の操作レバー)の操作量が小さくてリモコン弁によって発生させる巻上側又は巻下側のパイロット圧が所定圧力値Qよりも低い間は、補巻1速用方向制御弁42a(又は主巻1速用方向制御弁43b)のスプールのみが、PポートとTポートをバイパスさせた中立状態から、P→A接続状態又はP→B接続状態に切り換えられる。これによって、補巻モータ16(又は主巻モータ15)が、1台のポンプ分の比較的少ない圧油量で駆動されるようになっている。
【0058】
その後、補巻モータ16の操作レバー127(又は主巻モータ15の操作レバー)の操作量が大きくなって、リモコン弁によって発生させる巻上側又は巻下側のパイロット圧が上記所定圧力値Q以上となると、補巻1速用方向制御弁42a(又は主巻1速用方向制御弁43b)に加えて補巻2速用方向制御弁42b(又は主巻2速用方向制御弁43a)でもスプールの切換作動が行われるようになる。これによって、補巻モータ16(又は主巻モータ15)を、2台のポンプ分の圧油を合流させて増加させた圧油量で駆動することができるようにしてある。
【0059】
次に、本発明に係る第1実施形態のクレーンの油圧回路105に設けられている圧力調整手段107を、図1及び図2を参照して説明する。この圧力調整手段107は、図2に示すように、補巻モータ16用の補巻1速用及び補巻2速用の方向制御弁42a、42bを切換作動させて、補巻モータ(上流側油圧モータ)16を2つの第1及び第2の油圧ポンプ10a、10b分の圧油量で2速駆動している状態で、主巻1速用方向制御弁43bのみを作動させて、主巻モータ(下流側油圧モータ)15を片方の第2油圧ポンプ10bからの圧油のみで1速駆動するときに、補巻モータ16の下流(圧油給排ライン36又は37)の圧力が、主巻モータ15の負荷圧力以上となるようにして、主巻モータ15による主巻ウインチの1速駆動ができるようにするものである。
【0060】
この圧力調整手段107は、図1に示すように、圧力制御弁106と、圧力調整切換弁109と、シャトル弁110、111とを備えている。
【0061】
圧力制御弁106は、図1に示すように、例えば減圧弁である。この圧力制御弁106は、主巻2速用方向制御弁43aのセンターバイパスの下流側に接続している圧油戻しライン33aに設けられ、この圧力制御弁106の上流圧力が、主巻モータ15の負荷圧力(設定圧力)以上となるようにするものである。そして、この圧力制御弁106の出口から流出する圧油は、油タンク34に戻される。
【0062】
シャトル弁110は、図1に示すように、主巻モータ15の負荷圧力を取り出して、この負荷圧力に相当する圧力を、圧力制御弁106の設定圧力として設定するものである。このシャトル弁は、そのAポート及びBポートは、それぞれ分岐ライン26a、25aと接続し、シャトル弁のPポートは、圧力検出ライン112、及びこの圧力検出ライン112の途中に設けられている圧力調整切換弁109を介して圧力制御弁106のポートXと接続している。
【0063】
このシャトル弁110によると、分岐ライン26a(Aポート)、25a(Bポート)のうち高い方の油圧を、圧力検出ライン112及び圧力調整切換弁109を介して圧力制御弁106のパイロットポートXに導くことができる。
【0064】
つまり、図1に示す圧力制御弁106が備える例えばスプールは、バネ力によって中立位置に保持され、スプールがこの中立位置にある状態では、圧油戻しライン33aの圧油は、無負荷で圧力制御弁106を通過して油タンク34に戻される。
【0065】
ただし、図2に示すように、補巻モータ16用の補巻1速用及び補巻2速用の方向制御弁42a、42bを切換作動させて、補巻モータ16を2つの第1及び第2の油圧ポンプ10a、10b分の圧油量で2速駆動している状態で、主巻1速用方向制御弁43bのみを作動させて、主巻モータ15を片方の第2油圧ポンプ10bからの圧油のみで1速駆動する状態となると、分岐ライン26aの油圧が圧力検出ライン112及び圧力調整切換弁109を介して圧力制御弁106のパイロットポートXに導かれ、中立位置にあるスプールが、圧力制御弁106の油路を閉じる方向に移動する。
【0066】
その結果、圧油戻しライン33aの油圧が上昇する。そして、圧油戻しライン33aの油圧が主巻モータ15の負荷圧力(設定圧力)以上となると、この圧油戻しライン33aの油圧は、圧力制御弁106のスプールを中立位置に向かう方向(圧力制御弁106の油路を開ける方向)側に移動させるようになっている。このようにして、圧油戻しライン33aの油圧が、主巻モータ15の負荷圧力以上となるように、圧力制御弁106が設定されている。
【0067】
このように、圧油戻しライン33aの油圧が、主巻モータ15の負荷圧力以上となると、この圧油戻しライン33aと接続する図2に示す分岐ライン37a、37bの油圧も主巻モータ15の負荷圧力以上となり、これによって、この分岐ライン37bと接続する分岐ライン26bの油圧が主巻モータ15の負荷圧力以上となる。従って、主巻モータ15を駆動させて主巻ウインチを作動させることができる。
【0068】
なお、図2では、主巻1速用方向制御弁43bを切換えて、そのBポートから圧油を主巻モータ15に供給して主巻ウインチを巻下げ方向に作動させたが、これに代えて、主巻1速用方向制御弁43bを切換えて、そのAポートから圧油を主巻モータ15に供給して主巻ウインチを巻上げ方向に作動させても、上記と同様に、補巻モータ16を2速駆動している状態で、主巻モータ15を1速駆動することができる。
【0069】
また、圧力制御弁106は、例えばスプールを備えるものとしたが、これに代えて、ポペット又はボールを備えるものとすることができる。
【0070】
次に、図1に示すシャトル弁111を説明する。このシャトル弁111は、補巻ウィンチ操作レバー127の操作量に応じた圧力の油圧をパイロットポンプ35から取り出して、この取り出した油圧を圧力調整切換弁109のパイロットポートXに導くことができるものである。
【0071】
このシャトル弁111は、そのAポート及びBポートがそれぞれ巻上用及び巻下用パイロットライン38、39と接続し、シャトル弁のPポートは、圧力調整パイロットライン113を介して圧力調整切換弁109のパイロットポートXと接続している。
【0072】
このシャトル弁によると、巻上用及び巻下用パイロットライン38(Aポート)、39(Bポート)のうち高い方の油圧を、圧力調整パイロットライン113を介して圧力調整切換弁109のパイロットポートXに導くことができる。
【0073】
次に、図1に示す圧力調整切換弁109を説明する。この圧力調整切換弁109は、補巻ウィンチ操作レバー127の操作によって発生するパイロットライン38又は39のパイロット圧力が、補巻2速用方向制御弁42bを切換作動させることができる大きさQ以上になったときに(補巻ウィンチを2速駆動する状態となったときに)切り換わるように設定されている。そして、圧力調整切換弁109のパイロット圧力がQ以上になったときに、シャトル弁110から導かれる分岐ライン26a(Aポート)、25a(Bポート)のうち高い方の油圧を、圧力検出ライン112及び圧力調整切換弁109を介して圧力制御弁106のパイロットポートXに導くことができるものである。
【0074】
この圧力調整切換弁109は、そのPポートは、シャトル弁のPポートと接続し、そのAポートは、圧力制御弁106のパイロットポートXと接続している。そして、圧力調整切換弁109のTポートは、油タンク34と接続している。
【0075】
この圧力調整切換弁109によると、図2に示すように、補巻ウィンチ操作レバー127を操作して、補巻1速用及び補巻2速用方向制御弁42a、42bを切換作動させて、補巻ウィンチを2速駆動させたときにのみ、この圧力調整切換弁109が切り換わり、分岐ライン26a、25aのうち高い方の油圧を、圧力検出ライン112及び圧力調整切換弁109を介して圧力制御弁106のパイロットポートXに導くことができる。
【0076】
従って、上記のように構成された圧力調整手段107を備えるクレーンの油圧回路105によると、図2に示すように、補巻モータ16用の補巻1速用及び補巻2速用の方向制御弁42a、42bを切換作動させて、補巻モータ(上流側油圧モータ)16を2つの第1及び第2の油圧ポンプ10a、10b分の圧油量で2速駆動している状態で、主巻1速用方向制御弁43bのみを作動させて、主巻モータ(下流側油圧モータ)15を片方の第2油圧ポンプ10bからの圧油のみで1速駆動するときに、補巻モータ16の下流(第1又は第2合流部132又は134よりも下流の分岐イライン36a、37a、並びに圧油戻しライン33a)の油圧が、主巻モータ15の負荷圧力以上となるようにすることができるので、補巻モータ16を2速駆動している状態で、主巻モータ15による主巻ウインチの1速駆動をすることができる。
【0077】
しかも、上記のように構成された圧力調整手段107によると、補巻モータ16及び主巻モータ15の一方又は両方を駆動するときのうち、補巻モータ16を2速駆動し、かつ、主巻モータ15を1速駆動又は2速駆動する駆動状態以外の駆動状態において、圧力制御弁106が作動しないので、この圧力制御弁106による圧力損失が生じないようにすることができる。よって、第1及び第2油圧ポンプ10a、10bの出力を効率的に利用することができる。
【0078】
そして、図1及び図2に示すように、圧力制御弁106を、補巻1速用方向制御弁42aのセンターバイパスの下流側に設けると、補巻モータ16を正逆いずれの方向に回転させても、圧力制御弁106を通る圧油の方向が変わることがないので、この圧力調整手段107を簡単な構成とすることができる。
【0079】
また、図1及び図2に示すように、圧力制御弁106を、主巻2速用方向制御弁43aのセンターバイパスの下流側(圧油戻しライン33a)に設けると、圧力制御弁106によって圧力降下される前の高い圧力の圧油を主巻2速用方向制御弁43aに通して主巻モータ15に供給することができる。よって、第1及び第2油圧ポンプ10a、10bの出力を主巻モータ15に対して効率的に利用することができる。
【0080】
更に、このクレーンの油圧回路105によると、補巻モータ16を1速及び2速駆動をすることができるし、主巻モータ15も1速及び2速駆動をすることができる。また、補巻モータ16を2速駆動している状態であっても、主巻モータ15を1速駆動することができる構成である。
【0081】
従って、クレーンを使用する作業内容に応じて、1速駆動及び2速駆動の所望の操作を、補巻モータ16及び主巻モータ15ごとに単独で行うことができるし、両方のモータに対して同時に行うことができる。このように、補巻モータ16及び主巻モータ15に対する単独操作及び同時操作において、1速駆動及び2速駆動の全ての操作を行うことができる。よって、クレーンの快適な使用環境及び操作性を作業者に提供することができる。
【0082】
次に、本発明に係るクレーンの油圧回路の第2実施形態を、図3及び図4を参照して説明する。この図3に示す第2実施形態に係るクレーンの油圧回路116と、図1に示す第1実施形態に係るクレーンの油圧回路105とが相違するところは、圧力調整手段107と圧力調整手段117とが相違するところである。
【0083】
図3に示す第2実施形態の圧力調整手段117は、図4に示すように、圧力制御弁106(減圧弁)を分岐ライン36a、37aの途中にそれぞれ設けてあり、シャトル弁のそれぞれのA、Bポートが、分岐ライン26a、25aに接続している。そして、シャトル弁のPポートは、圧力検出ライン112を介して2つの圧力制御弁106、106の各パイロットポートXと接続している。
【0084】
なお、各分岐ライン36a、37aには、圧力制御弁106と並列に逆止弁118を設けてある。この逆止弁118は、圧力制御弁106に対する逆方向の圧油の流れを許容するためのものである。
【0085】
この図3に示す圧力調整手段117によると、図4に示すように、補巻モータ16用の補巻1速用及び補巻2速用の方向制御弁42a、42bを切換作動させて、補巻モータ16を2速駆動している状態で、主巻1速用方向制御弁43bを1速駆動する状態となると、分岐ライン26aの油圧が圧力検出ライン112を介して2つの各圧力制御弁106のパイロットポートXに導かれ、中立位置にあるスプールが、各圧力制御弁106の油路を閉じる方向に移動する。
【0086】
その結果、分岐ライン36a又は37aの油圧が上昇する。そして、分岐ライン36a又は37aの油圧が主巻モータ15の負荷圧力(設定圧力)以上となると、この分岐ライン36a又は37aの油圧は、圧力制御弁106のスプールを中立位置に向かう方向(圧力制御弁106の油路を開ける方向)に移動させることができる。このようにして、分岐ライン36a又は37aの油圧が、主巻モータ15の負荷圧力以上となるように、圧力制御弁106が設定されている。
【0087】
つまり、例えば主巻1速用方向制御弁43bを切換えて、そのBポートから圧油が主巻モータ15に供給されるようにすると、分岐ライン37aの油圧が、主巻モータ15の負荷圧力以上となり、これに伴ってこの分岐ライン37aと接続する図4に示す分岐ライン37b、26a、圧油給排ライン26の油圧も主巻モータ15の負荷圧力以上となり、これによって、主巻モータ15を1速駆動させて主巻ウインチを作動させることができる。
【0088】
なお、図4では、主巻1速用方向制御弁43bを切換えて、そのBポートから圧油を主巻モータ15に供給して主巻ウインチを巻上げ方向に作動させたが、これに代えて、主巻1速用方向制御弁43bを切換えて、そのAポートから圧油を主巻モータ15に供給して主巻ウインチを巻下げ方向に作動させても、上記と同様に、補巻モータ16を2速駆動している状態で、主巻モータ15を1速駆動することができる。
【0089】
この図3及び図4に示す圧力調整手段117によると、図1及び図2に示す第1実施形態の圧力調整手段107と比較して、シャトル弁111及び圧力調整切換弁109を省略できるので、構造が簡単でコストを低くすることができる。
【0090】
これ以外は、第1実施形態と同の構成及び作用を奏するので、同等部分を同一の図面符号で示しそれらの説明を省略する。
【0091】
次に、本発明に係るクレーンの油圧回路の第3実施形態を、図5及び図6を参照して説明する。この図5に示す第3実施形態に係るクレーンの油圧回路120は、図1に示す第1実施形態に係るクレーンの油圧回路105において、シャトル弁111及び圧力調整切換弁109を省略して、シャトル弁110のPポートと、圧力制御弁106のXポートとを圧力検出ライン112で互いに接続したものである。
【0092】
これ以外は、第1実施形態と同の構成及び作用を奏するので、同等部分を同一の図面符号で示しそれらの説明を省略する。
【0093】
ただし、上記各実施形態では、例えば図1に示す補巻モータ16と主巻モータ15を互いに入れ換えた構成とすることができる。
【0094】
そして、図3に示す第2実施形態において、第1実施形態のように、シャトル弁111のAポート及びBポートを、それぞれ巻上用及び巻下用パイロットライン38、39に接続し、シャトル弁111のPポートを、圧力調整パイロットライン113を介して圧力調整切換弁109のパイロットポートXに接続する。そして、この圧力調整切換弁109のPポートを、シャトル弁110のPポートに接続し、そのAポートを、2つの圧力制御弁106の各パイロットポートXに接続する。更に、圧力調整切換弁109のTポートを、油タンク34に接続してもよい。
【0095】
このように構成した圧力調整手段によると、第1実施形態と同様に、補巻モータ16を2速駆動している状態で、主巻1モータ15を1速駆動又は2速駆動する状態となるとなったときにのみ、分岐ライン37a又は36aの油圧が上昇して主巻モータ15を駆動することができる。従って、これ以外の駆動状態でこの2つの圧力制御弁106による圧力損失が生じないようにすることができ、第1及び第2油圧ポンプ10a、10bの出力を効率的に利用することができる。
【0096】
また、図1に示す第1実施形態において、圧力制御弁106を圧油戻しライン33aに設けたが、これに代えて、圧力制御弁106を補巻1速用方向制御弁42aのセンターバイパスと、主巻2速用方向制御弁43aのセンターバイパスとの間に位置している圧力供給ライン11aの部分に設けてもよい。
【0097】
同様に、図5に示す第3実施形態において、圧力制御弁106を圧油戻しライン33aに設けたが、これに代えて、圧力制御弁106を補巻1速用方向制御弁42aのセンターバイパスと、主巻2速用方向制御弁43aのセンターバイパスとの間に位置している圧力供給ライン11aの部分に設けてもよい。
【0098】
更に、図1に示す第1実施形態では、補巻2速用方向制御弁を作動させるパイロット圧を使用して、圧力調整切換弁109を作動させ、これによって圧力制御弁106を作動させるようにしたが、これに代えて、主巻1速用方向制御弁を作動させるパイロット圧を使用して、圧力調整切換弁109を作動させ、これによって、圧力制御弁106を作動させるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上のように、本発明に係るクレーンの油圧回路は、上流側及び下流側の油圧モータに対する単独操作及び同時操作において、1速駆動及び2速駆動の全ての操作を行うことができるようにして、クレーンの快適な使用環境及び操作性を作業者に提供することができる優れた効果を有し、このようなクレーンの油圧回路に適用するのに適している。
【符号の説明】
【0100】
10a 第1油圧ポンプ
10b 第2油圧ポンプ
11a、11b 圧油供給ライン
15 主巻モータ
16 補巻モータ
19a 主巻1速用方向制御弁
19b 主巻2速用方向制御弁
20a 補巻2速用方向制御弁
20b 補巻1速用方向制御弁
23、24 リリーフ弁
25、26 圧油給排ライン
25a、25b、26a、26b 分岐ライン
29 巻上用パイロットライン
29a、29b 分岐パイロットライン
30 巻下用パイロットライン
30a、30b 分岐パイロットライン
31 カウンタバランス弁
33、33a、33b 圧油戻しライン
34 油タンク
35 パイロットポンプ
36、37 圧油給排ライン
36a、36b、37a、37b 分岐ライン
38 巻上用パイロットライン
38a、38b 分岐パイロットライン
39 巻下用パイロットライン
39a、39b 分岐パイロットライン
40 カウンタバランス弁
41 エンジン
42a 補巻1速用方向制御弁
42b 補巻2速用方向制御弁
43a 主巻2速用方向制御弁
43b 主巻1速用方向制御弁
105、116、120 クレーンの油圧回路
106、117 圧力制御弁
107 圧力調整手段
109 圧力調整切換弁
110、111 シャトル弁
112 圧力検出ライン
113 圧力調整パイロットライン
127 補巻ウィンチ操作レバー
128 リモコン弁
129 パイロット圧力ライン
131 第1合流回路
132 第1合流部
133 第2合流回路
134 第2合流部
135 第3合流回路
136 第3合流部
137 第4合流回路
138 第4合流部
141 第1シリーズ回路
142 第2シリーズ回路
X、Y パイロットポート
P 所定圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1油圧ポンプに接続する第1圧油供給ラインと、
第2油圧ポンプに接続する第2圧油供給ラインと、
前記第1圧油供給ラインに、上流側から順に、上流第1方向制御弁、及び下流第2方向制御弁が接続される第1シリーズ回路と、
前記第2圧油供給ラインに、上流側から順に、上流第2方向制御弁、及び下流第1方向制御弁が接続される第2シリーズ回路と、
前記第1シリーズ回路および/または前記第2シリーズ回路から供給される圧油によって駆動される上流側油圧モータと、
前記第1シリーズ回路および/または前記第2シリーズ回路から供給される圧油によって駆動される下流側油圧モータと、
前記第1シリーズ回路と前記上流側油圧モータとの間に配設される圧油給排ラインと前記第2シリーズ回路と前記上流側油圧モータとの間に配設される圧油給排ラインとが合流する第1合流部および第2合流部と、
前記第1シリーズ回路と前記下流側油圧モータとの間に配設される圧油給排ラインと前記第2シリーズ回路と前記下流側油圧モータとの間に配設される圧油給排ラインとが合流する第3合流部および第4合流部と、を備えたクレーンの油圧回路において、
前記上流側油圧モータの排出側の圧力が、前記下流側油圧モータの負荷圧力以上となるようにすることができる圧力調整手段を備えることを特徴とするクレーンの油圧回路。
【請求項2】
前記圧力調整手段は、前記第1シリーズ回路と前記上流側油圧モータとの間に配設される圧油給排ライン上であって、前記第1合流部または/および前記第2合流部よりも前記第1シリーズ回路側に設けられた圧力制御弁を有し、
前記圧力制御弁は、この圧力制御弁の上流圧力と、前記下流側油圧モータの負荷圧力とを対抗させて、前記圧力制御弁の上流圧力が前記負荷圧力以上となるように作動することを特徴とする請求項1記載のクレーンの油圧回路。
【請求項3】
前記圧力調整手段は、前記上流第1方向制御弁のセンターバイパスの下流側に設けた圧力制御弁を有し、
前記圧力制御弁は、この圧力制御弁の上流圧力と、前記下流側油圧モータの負荷圧力とを対抗させて、前記圧力制御弁の上流圧力が前記負荷圧力以上となるように作動することを特徴とする請求項1記載のクレーンの油圧回路。
【請求項4】
前記圧力調整手段は、前記下流第2方向制御弁のセンターバイパスの下流側に設けた圧力制御弁を有し、
前記圧力制御弁は、この圧力制御弁の上流圧力と、前記下流側油圧モータの負荷圧力とを対抗させて、前記圧力制御弁の上流圧力が前記負荷圧力以上となるように作動することを特徴とする請求項1記載のクレーンの油圧回路。
【請求項5】
前記上流第2方向制御弁のパイロット圧、又は前記下流第1方向制御弁のパイロット圧、若しくは下流側油圧モータの負荷圧力によって、前記圧力調整手段を動作させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のクレーンの油圧回路。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−86919(P2012−86919A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233286(P2010−233286)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】