説明

クロック発生装置およびクロック発生装置におけるジッタ低減方法

【課題】よりジッタの少ないクロック信号を発生させること。
【解決手段】周期信号を発生するDDS回路と、入力信号と基準信号とを比較して2値化信号を出力するコンパレータと、を有し、前記DDS回路において発生される前記周期信号に対し、前記基準信号との交差点における変化率を増加させる補正を行う変化率補正手段を備えることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロック信号を発生するクロック発生装置およびクロック発生装置におけるジッタ低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、周期信号を発生するDDS(Direct Digital Synthesizer)回路を用いたクロック発生装置が知られている。
DDS回路を用いたクロック発生装置では、DDS回路において、生成周波数の角速度を決める値Δphaseずつ位相を加算するフェーズアキュムレータ(位相加算器)が、順次、Δphaseを累積加算した結果、所望の周期信号の角速度を生成する位相θをデジタル値で順次出力する。
そして、位相θをsin波の振幅に変換するsin波変換部によって、sin波の振幅がデジタル値として取得される。
【0003】
このようにして出力されたsin波の振幅は、D/A(Analog to Digital)変換器によってアナログ信号に変換され、標本化ノイズ、量子化ノイズを除去するためにLPF(Low Pass Filter)を通して、DDS回路の出力信号となる。
すると、DDS回路の出力には単一スペクトルの正弦波信号が得られる。
この正弦波信号をコンパレータに入力し、振幅の基準値(例えば振幅ゼロ等)と比較して2値化した信号を出力する。
これにより、一定周期のクロック信号を得ることができる。
なお、DDS回路を用いたクロック発生装置に関する技術は、例えば特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開平10−41748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された技術を含め、DDS回路を用いた従来のクロック発生装置においては、発生させるクロック信号の周波数を低下させた場合、基準値と交差する付近の入力信号の変化率(単位時間当りの変化量つまり変化速度であり、例えば電圧信号ならdV/dt)が低下し、ジッタが少ないクロック信号を発生させることが困難となる。
これは、コンパレータにおいて基準値と交差する付近の入力信号の変化率が低下すると、実際に交差するタイミングへのノイズの影響が増大するためであると考えられる。
本発明の課題は、よりジッタが少ないクロック信号を発生させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するため、第1の発明に係るクロック発生装置は、
周期信号を発生するDDS回路(例えば、図1におけるDDS回路20)と、入力信号と基準信号とを比較して2値化信号を出力するコンパレータと(例えば、図1のコンパレータ30)と、を有し、前記DDS回路において発生される前記周期信号に対し、前記基準信号との交差点における変化率を増加させる補正を行う変化率補正手段(例えば、図2のリミッタ付き乗算部22)を備えることを特徴としている。
このような構成により、DDS回路において発生される周期信号は、コンパレータにおける基準信号との交差点において、変化率が増加したものとなる。
即ち、本発明によれば、よりジッタが少ないクロック信号を発生させることが可能となる。
【0006】
また、第2の発明に係るクロック発生装置は、
前記DDS回路は、前記周期信号の位相を順次出力するフェーズアキュムレータ部(例えば、図2のフェーズアキュムレータ21)と、前記フェーズアキュムレータ部から出力された位相を基に、該位相に対応する振幅値を示すデジタル信号を出力するsin波変換部(例えば、図2のsin波変換部23)と、前記sin波変換部によって出力されるデジタル信号をアナログ信号に変換するD/A変換器(例えば、図2のD/A変換器24)と、前記アナログ信号からノイズを除去するLPF(例えば、図2のLPF25)と、で構成される従来のDDS回路に対して、前記変化率補正手段は、前記フェーズアキュムレータ部から出力された位相に、設定された乗算値を乗算する乗算器(例えば、図2のリミッタ付き乗算部22)を備えることを特徴としている。
このような構成により、フェーズアキュムレータ部によって順次出力される位相の角速度を上昇させることにより、後段の処理を変更することなく、DDS回路において発生される周期信号の変化率を容易に増加させることができる。
【0007】
第3の発明に係るクロック発生装置は、
前記フェーズアキュムレータ部に順次出力させる位相と、前記変化率補正手段の乗算器に乗算させる乗算値とを対応付けて設定するコントローラ(例えば、図1のコントローラ10)を備えることを特徴としている。
このような構成により、広い周波数範囲に渡ってジッタの少ない、周波数が可変のクロック信号を発生することが可能となる。
【0008】
第4の発明に係るクロック発生装置のジッタ低減方法は、
周期信号を発生するDDS回路と、入力信号と基準信号とを比較して2値化信号を出力するコンパレータと、を有するクロック発生装置におけるジッタ低減方法であって、前記DDS回路において発生される前記周期信号に対し、前記基準信号との交差点における変化率を増加させる補正を行う変化率補正ステップを含むことを特徴としている。
これにより、DDS回路において発生される周期信号は、コンパレータにおける基準信号との交差点において、変化率が増加したものとなる。
即ち、本発明によれば、よりジッタが少ないクロック信号を発生させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明に係るクロック発生装置およびクロック発生装置のジッタ低減方法の実施の形態を説明する。
図1は、本実施形態に係るクロック発生装置1の全体構成を示す図である。
図1において、クロック発生装置1は、コントローラ10と、DDS回路20と、コンパレータ30とを含んでいる。
コントローラ10は、角速度Δphaseと、乗算値GとをDDS回路20に出力する。
DDS回路20は、コントローラ10によって設定される角速度Δphaseに対応する周波数の信号をアナログ信号として出力する。
【0010】
図2は、DDS回路20の内部構成を示す概略図である。
図2において、DDS回路20は、フェーズアキュムレータ21と、sin波変換部23と、D/A変換器24と、LPF25とで構成される従来のDDS回路に加え、リミッタ付き乗算部22を含んでいる。
フェーズアキュムレータ21は、コントローラ10から入力される角速度Δphaseを、フェーズアキュムレータ21の出力値に累積加算し、加算結果の位相θをリミッタ付き乗算部22に出力する。
リミッタ付き乗算部22は、フェーズアキュムレータ21から入力された位相θに対し、位相θ=0度(360度)および180度付近における位相θの角速度を、コントローラ10によって設定される乗算値Gに応じて増加させる乗算を行う。
【0011】
具体的には、リミッタ付き乗算部22は、フェーズアキュムレータ21から入力された位相θが0度から90度の範囲である場合、入力された位相θに、設定された乗算値Gを乗算する演算(θ'=G・θ)を行う。ただし、このとき、乗算値θ'の上限値はθ'=90度とする。
また、リミッタ付き乗算部22は、フェーズアキュムレータ21から入力された位相θが90度から270度の範囲である場合、入力された位相θと位相180度との差分(θ−180度)に、設定された乗算値Gを乗算し、乗算結果を位相180度に加算する演算(θ'=G・(θ−180度)+180度)を行う。ただし、このとき、乗算値θ'の下限値はθ'=90度、上限値はθ'=270度とする。
【0012】
さらに、リミッタ付き乗算部22は、フェーズアキュムレータ21から入力された位相θが270度から360度の範囲である場合、入力された位相θと位相360度との差分(θ−360度)に、設定された乗算値Gを乗算し、乗算結果を位相360度に加算する演算(θ'=G・(θ−360度)+360度)を行う。ただし、このとき、乗算値θ'の下限値はθ'=270度とする。
実際には、リミッタ付き乗算部は、この入力位相値がバイナリ値であるため簡素化が可能で、入力位相θの範囲はバイナリ値の最上位側2bitをデコードすることで判別でき、乗算値Gを2のn乗とすれば乗算はシフタで代替でき、リミッタはシフタでシフトアウトされた上位側bitをシフタ出力データに論理ORする等の手法で実現できる。または、リミッタ付き乗算機能をsin波変換部内に組み込んでも実現できる。
そして、リミッタ付き乗算部22は、乗算結果θ'をsin波変換部23に出力する。
【0013】
図3は、リミッタ付き乗算部22の入力位相θと出力位相θ'との関係を示す図である。
図3においては、乗算値Gが1倍、2倍および4倍の例を示している。
図3に示すように、乗算値Gが2倍および4倍の場合、位相0度(360度)および180度を中心として、出力位相の角速度は、乗算値Gが1倍の場合と比べ、2倍および4倍にそれぞれ増加されている。
図2に戻り、sin波変換部23は、入力データである位相値に対する正弦振幅値を出力し、リミッタ付き乗算部22から位相θ'が入力されると、入力された位相θ'に対応する正弦振幅値y(デジタル値)をD/A変換器24に出力する。
【0014】
ここで、sin波変換部23に入力される位相θ'は、リミッタ付き乗算部22によって位相0度(360度)および180度を中心として、角速度が増加されている。そのため、sin波変換部23から出力される正弦振幅値yは、位相θ'=0度(360度)および180度をそれぞれ中心として、交差点での変化率が増加され、更に、位相θ'=90度および270度の最大振幅で変化率が0になる信号となる。
D/A変換器24は、sin波変換部23から入力されるデジタル値の振幅値yを標本化ノイズ、量子化ノイズを含むアナログの信号Ya'に変換してLPF25に出力する。
LPF25は、D/A変換器24から入力されたアナログの信号Ya'から標本化ノイズ、量子化ノイズを除去したアナログの信号Yaをコンパレータ30に出力する。
【0015】
図4は、LPF25によって出力される信号Yaの波形を示す図である。
図4に示すように、LPF25によって出力される信号Yaは、前段において、リミッタ付き乗算部22により出力位相の角速度を増加する処理が行われているため、乗算値G=1の場合(即ち、リミッタ付き乗算部22を用いない場合)に比べ、位相0度(360度)および180度付近で信号の変化率が増加されていて、しかも、増加された角速度θ'の正弦波帯域までに収まっている。
図1に戻り、コンパレータ30は、DDS回路20から入力された信号Yaを、振幅の基準値(ここではゼロとする)と比較し、比較結果に応じた2値化信号を出力する。
【0016】
即ち、コンパレータ30の出力信号は、ハイレベルまたはローレベルのクロック信号となる。
このとき、コンパレータ30においてDDS回路20から入力された信号Yaの、基準値と交差する付近の入力信号の変化率が、リミッタ付き乗算部22によって増加されている。
なお、上記の構成において、フェーズアキュムレータ21からD/A変換器24までには、不図示の水晶発振器等から原クロック信号が入力されており、フェーズアキュムレータ21からD/A変換器24までは、この原クロック信号に同期して動作する。
【0017】
(動作)
次に、動作を説明する。
クロック発生装置1が動作する場合、コントローラ10によって、角速度Δphaseが設定されている。なお、Δphaseとして、クロック発生装置1において発生させるクロック信号の周波数に応じた値が設定される。
フェーズアキュムレータ21は、初期状態において、位相θの初期値(例えば0度)を出力しており、コントローラ10から角速度Δphaseの値が入力されると、原クロック信号に同期して、出力している位相に対し、Δphaseを加算した位相θを出力する。
即ち、フェーズアキュムレータ21は、位相θの初期値に対し、原クロック信号に同期して、順次、Δphaseの値を加算した位相θの累積値を出力する。
【0018】
リミッタ付き乗算部22は、コントローラ10から乗算値Gの値が入力され、フェーズアキュムレータ21から位相θが入力されると、位相θ=0度(360度)および180度付近における位相θの角速度を乗算値Gに応じて増加させる乗算が行なわれる。
このとき、リミッタ付き乗算部22では、上述の通り、位相θの範囲に応じた乗算処理が行われ、それぞれの範囲においては、乗算結果に上限値および下限値が設けられている。
リミッタ付き乗算部22の乗算結果θ'が出力されると、sin波変換部23は、位相θ'に応じた正弦振幅値yをD/A変換器24に出力する。
【0019】
すると、振幅値yが、D/A変換器24においてアナログ信号Ya‘に変換され、さらに、LPF25において高周波成分が除去され、その処理結果である信号Yaがコンパレータ30に出力される。
すると、コンパレータ30において、信号Yaと振幅の基準値とが比較され、比較結果に応じた2値化信号を出力する。
このとき、コンパレータ30の入力信号Yaの、基準値と交差する付近の変化率が、リミッタ付き乗算部22によって増加されている。
【0020】
この結果、クロック発生装置1によって出力されるクロック信号は、よりジッタが少ない信号となる。
以上のように、本実施形態に係るクロック発生装置1は、フェーズアキュムレータ21の出力である位相θに対し、位相θの範囲に応じて、リミッタ付き乗算部22により乗算値Gが乗算される。
そして、乗算結果θ'を基に、sin波変換部23が振幅値yを出力し、D/A変換器24、LPF25による処理が行われ、その処理結果である信号Yaが振幅の基準値と比較される。
したがって、信号Yaは、変化率が増加された状態で振幅の基準値と比較される。
即ち、クロック発生装置1によれば、よりジッタが少ないクロック信号を発生させることが可能となる。
【0021】
なお、図5は、DDS回路を用いた一般的なクロック発生装置における各部の出力信号を示す模式図である。
図5に示す一般的な構成のクロック発生装置においては、LPF出力が基準値(ゼロ)と交差する交差点付近において、発生させるクロック周波数が低下すると、正弦波の変化率が小さくなり、出力クロック信号のジッタが増加する。
これに対し、本実施形態におけるクロック発生装置1では、LPF出力の交差点付近において、変化率を増加する補正が行われるため、出力クロック信号のジッタが低減されたものとなっている。
【0022】
(応用例)
上記実施形態において、コントローラ10は単に定数値をDDS回路20に出力するだけでも良いが、コントローラ10の出力値を可変にすることで、発生させるクロック周波数を可変とするクロック発生が可能となる。
発生周波数を高くする場合は変化率が元々大きいので変化率を増加させる必要が無い上、発生クロック周期が短いため交差点前後の位相θの標本数が少なく、変化率を増加させると標本数が更に少なくなってジッタがむしろ悪化する。よって、ある程度以上高い周波数範囲においては変化率の補正を行わないよう、乗算値Gは1とする。
発生周波数を低くする場合は、その発生周波数の低さの度合いに応じて乗算値Gを大きくすることで、変化率の低下を防ぐ。これにより、変化率を適度な範囲内に維持できる。
このように、コントローラ10が、発生させるクロック周波数(あるいは、クロック周波数を発生させる角速度Δphase)と、それに見合った乗算値Gとを対応させて出力することで、広い周波数範囲に渡ってジッタの少ない、周波数が可変のクロック信号を発生することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態に係るクロック発生装置1の全体構成を示す図である。
【図2】DDS回路20の内部構成を示す概略図である。
【図3】リミッタ付き乗算部22の入力位相θと出力位相θ'との関係を示す図である。
【図4】LPF25によって出力される信号Yaの波形を示す図である。
【図5】DDS回路を用いた一般的なクロック発生装置における各部の出力信号を示す模式図である。
【符号の説明】
【0024】
1 クロック発生装置、10 コントローラ、20 DDS回路、21 フェーズアキュムレータ、22 リミッタ付き乗算部、23 sin波変換部、24 D/A変換器、25 LPF、30 コンパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期信号を発生するDDS回路と、
入力信号と基準信号とを比較して2値化信号を出力するコンパレータと、
を有し、
前記DDS回路において発生される前記周期信号に対し、前記基準信号との交差点における変化率を増加させる補正を行う変化率補正手段を備えることを特徴とするクロック発生装置。
【請求項2】
前記DDS回路は、
前記周期信号の位相を順次出力するフェーズアキュムレータ部と、
前記フェーズアキュムレータ部から出力された位相を基に、該位相に対応する振幅値を出力するsin波変換部と、
前記sin波変換部によって出力される振幅値をアナログ信号に変換するD/A変換器とLPFと、
を有し、
前記変化率補正手段は、前記フェーズアキュムレータ部から出力された位相値を示すデジタル信号に、設定された乗算値を乗算する乗算器を備えることを特徴とする請求項1記載のクロック発生装置。
【請求項3】
前記フェーズアキュムレータ部に順次出力させる位相と、前記変化率補正手段の乗算器に乗算させる乗算値とを対応付けて設定するコントローラを備えることを特徴とする請求項2記載のクロック発生装置。
【請求項4】
周期信号を発生するDDS回路と、
入力信号と基準信号とを比較して2値化信号を出力するコンパレータと、
を有するクロック発生装置におけるジッタ低減方法であって、
前記DDS回路において発生される前記周期信号に対し、前記基準信号との交差点における変化率を増加させる補正を行う変化率補正ステップを含むことを特徴とするクロック発生装置におけるジッタ低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−130550(P2010−130550A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305249(P2008−305249)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】