説明

クロマトグラフ分離における濃縮技術

【課題】微量レベル分析においても、良好な検出限界および感度で成分の分離および/または検出を可能にする溶出液の画分を濃縮する方法を提供する。
【解決手段】目的成分を含む画分が含まれている流体流出物を、中空エレメントを備えている濃縮デバイスに通過させる。この中空エレメントは、中空繊維または中空繊維の束であって、少なくとも一部分が孔質である壁を有しており、孔のない中空ライナーの内部に配置されている。逆浸透を利用して、流体流出物分子を、中空エレメントの壁を介して透過させると、中空エレメント内に残された流出物中に成分分子が濃縮される。その流出物は、濃縮デバイスを出て、検出が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的成分の分離または検出に関し、いくつかの態様では、目的成分の分離および検出に関する。また、本発明は、いくつかの態様では、目的成分を分析するクロマトグラフィーおよび分光法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査の分野は、容易にかつ正確に測定可能な目的材料の多様性ならびに測定方法の両方に関して、ここ数年で大きな広がりを見せている。ここでは、液体中に低濃度で存在する材料を検出する、簡単で信頼性が高くかつ無害な手段が望まれている。臨床化学においては、これらの材料は、10−12モル濃度未満の濃度で体液中に存在することもある。こうした低濃度で存在する材料を検出する難しさ、ならびにそれらの検出における信頼度は、利用可能な試料サイズを相対的に小さくすることにより向上する。
【0003】
近年、極めて少量、すなわち非常に低濃度で存在する有機化合物を分析または測定する技術が開発されている。例えば、液体クロマトグラフィー等のクロマトグラフ技術を質量分析等の各種検出手段と組み合わせることにより、分析物の検出感度が高くなる。
【0004】
液体クロマトグラフィーは、複雑に成分が混合された試料に対して強力なクロマトグラフ分離を提供するが、さらなる手段が常に必要とされている。分離された成分は、液体クロマトグラフィーからの溶出液の各画分で濃縮される。試料サイズが小さい、例えばマイクログラムレベルという代表的な液体クロマトグラフィーでは、移動相の流れは1分あたり約1ミリリットル、ピーク幅は約0.2分、得られる分離成分の溶出液画分中の濃度は百万分率(ppm)で約10である。微量レベル分析については、溶出液中の成分の濃度レベルは、十億分率(ppb)または一兆分率(ppt)のオーダーにある。このように溶出液中の成分が低濃度のレベルであることによって、検出技術に課題がもたらされる。例えば、液体クロマトグラフィー−質量分析検出技術において、溶出液中の成分の濃度が低レベルであることは、電子スプレー効率および最低検出レベルに悪影響を及ぼす。
【0005】
検出下限または計測感度を改善するために多くの技術が開発されてきた。こうした技術には、ナノ流量LCカラム、試料の前濃縮、クロマトグラフ分離の最終段階中の後濃縮、蒸発光散乱検出器(ELSD)等がある。
【0006】
良好な検出限界および感度で、目的成分の分離および/または検出を行う必要性が依然としてある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
低濃度の分析物に対しても良好な検出限界および感度で成分の分離および/または検出を実施することのできる、溶出液の画分を濃縮する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの実施の形態は、分離された目的成分を含む画分を含む流体流出物中の1種または複数の目的成分を濃縮する方法に関する。流体流出物は、少なくとも一部分が孔質である壁を備える中空エレメントを備えている濃縮デバイスを通過する。この中空エレメントは中空ライナーの内部に配置されている。流体流出物分子は、中空エレメントの壁を介して透過することができ、この場合、残った流出物中に成分分子が濃縮されて、濃縮デバイスを出ていく。その後、1つ以上の成分を検出することができる。
【0009】
本発明の別の実施の形態は、流体流出物中の1種または複数の成分を分析する方法である。1種または複数の分離された成分をそれぞれ含む複数の画分を含む流体流出物を、中空エレメントの内側領域へ通過させる。中空エレメントは、外側表面と内側領域を画定する内側表面とを有する壁を備える。壁の少なくとも一部分は孔質である。中空エレメントは、中空ライナーの内部に配置されてギャップ領域を形成する。液体流出物分子は、中空エレメントの壁を介して透過することができ、目的成分の分子は残った流出物中に濃縮されて、これが内側領域中を通って出て行く。次いで、各成分が検出される。いくつかの実施の形態では、内側領域の少なくとも一部分は、粒子状のクロマトグラフ媒体を含む。いくつかの実施の形態では、液体流出物分子は、中空エレメントの内側表面を通過してギャップ領域に入る。いくつかの実施の形態では、中空エレメントは中空繊維である。いくつかの実施の形態では、本発明の方法は、中空エレメントの内側領域に残った液体流出物に内部標準物質を添加することも含む。いくつかの実施の形態では、1種または複数の成分の混合物を含む媒体をクロマトグラフ分離にかけることによって、分離された成分を含む流出物の画分が得られ、この流出物の画分は、上述のように中空エレメントに入る。
【0010】
本発明の別の実施の形態は、試料中の成分を分析する方法である。試料を含む媒体は、液体クロマトグラフ分離にかけられて、分離された成分が得られる。分離された各成分は、液体流出物中に存在し、この流出物は中空繊維の内側領域へと入る。中空繊維は、中空ライナーの内部に軸平行に配置されてギャップ領域を形成する。液体流出物分子は、内側領域からギャップ領域へ中空繊維の壁を介して透過することができ、その場合、成分は残った流出物中で濃縮されて、内側領域中を通って出て行く。各成分は、例えば質量分析により検出される。いくつかの実施の形態では、本発明の方法は、中空繊維の内側領域に残った液体流出物に内部標準物質を添加することをさらに含む。いくつかの実施の形態では、内側領域の少なくとも一部分は、粒子状のクロマトグラフ媒体を含む。
【0011】
本発明の別の実施の形態は、目的の(対象とする)生体分子を含有する試料を分析する装置である。装置は、(a)生体分子を分離する分離デバイスと、(b)分離デバイスと流体連通し、中空エレメントを備えている濃縮デバイスであって、中空エレメントが、無孔中空ライナーに配置されていて、間にギャップ領域を提供し、かつ外側表面と内側領域を画定する内側表面とを有する壁を備えていて、壁の少なくとも一部分は孔質である、濃縮デバイスと、(c)濃縮デバイスの内側領域と流体連通する検出デバイスとを備える。いくつかの実施の形態では、中空エレメントは中空繊維である。いくつかの実施の形態では、中空エレメントは、軸平行に中空ライナーに配置される。いくつかの実施の形態では、中空エレメントの内側領域の少なくとも一部分は、粒子状のクロマトグラフ媒体を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態を説明する。図面は、本発明の装置および技術の実施の形態をよりよく説明するために添付している。図面は一定の縮尺ではなく、本発明の特定の態様または実施の形態を説明する目的で誇張された部分もある。
【0013】
本発明の態様は、分離された目的成分を濃縮する装置および方法に関する。本発明の他の態様は、目的成分を互いに分離または検出(ここで「または」は、「および」と「または」の両方を含む)すること、分離された各目的成分を含む画分中の、分離された目的成分を濃縮すること、および分離された目的成分を検出することに関する。本発明の実施形態のいくつかは、成分を含む流体流出物中の1種または複数の目的成分を分析する方法および装置に関する。
【0014】
濃縮される成分
目的成分として、合成化学に関連する成分、生物工学的な生成物の診断および精製に関連する成分等が挙げられる。成分は、本明細書中、以下に記載されるように、巨大分子であっても小分子であってもよい。
【0015】
たいてい、巨大分子としては、例えばタンパク質等のポリ(アミノ酸)、巨大ペプチド、多糖類、ホルモン、核酸、可溶性ポリマー等が挙げられる。巨大分子の分子量は、一般に、少なくとも約5,000、より一般的には少なくとも約10,000である。ポリ(アミノ酸)、多糖または核酸の類では、分子の分子量は、一般に、約5,000〜5,000,000、より一般的には約20,000〜1,000,000である。ホルモンの類では、分子量は、通常、約5,000〜60,000の範囲である。
【0016】
小分子の分子量は、一般に、約5,000未満の、より一般的には約2,000未満であり、小分子として、それ自身は免疫原性ではないが巨大分子に結合することによって免疫原性になり得る分子であるハプテンが挙げられる。通常、より低い分子量、すなわち小分子の分子量(MW)は、一般に約100〜2,000、より一般的には125〜1,000である。小分子として、依存性薬物および治療薬をはじめとする薬物、栄養材料、代謝産物、環境汚染物質(例えば農薬、除草剤、殺虫剤等)、他の汚染物質、染料、低分子量ペプチド、オリゴヌクレオチド、修飾ヌクレオチド、修飾オリゴヌクレオチド等が挙げられる。
【0017】
いくつかの実施形態では、目的成分の分子量は、約50〜約10,000、約75〜約5,000、約100〜約1,000等である。
【0018】
疾患の状態に関する代謝産物は、スペルミン、ガラクトース、フェニルピルビン酸およびI型ポルフィリン(porphyrin Type 1)が挙げられる。農薬の中には、ポリハロゲン化ビフェニル、リン酸エステル、チオホスフェート、カルバメート、ポリハロゲン化スルフェンアミド、それらの代謝産物および誘導体がある。
【0019】
目的成分の詳細な例としては、オリゴヌクレオチドおよび修飾オリゴヌクレオチド、修飾ポリヌクレオチドをはじめとするポリヌクレオチド、タンパク質、例えば、免疫グロブリン(抗体)、サイトカイン、酵素、ホルモン、抗原、例えば、癌抗原、組織特異的抗原等、栄養マーカー等、依存性薬物、治療薬、ペプチド、汚染物質、農薬、他の対象とするハプテン等が挙げられる。
【0020】
目的成分は、例えば、宿主からの体液をはじめとする生体組織、廃出物等の試料から直接見つかる生体分子であってもよいし、生体ポリマー等の巨大分子のフラグメントであってもよい。目的成分は、生体分子であっても生物学で目的とする分子でもよく、例えば、生体ポリマーまたはそのフラグメントであってもよい。
【0021】
「生体ポリマー」という用語は、1種類または複数種の繰り返し単位を持つポリマーを示す。生体ポリマーは、代表的には、生体系で見られるもので、特に多糖類(炭水化物等)、ポリペプチド(この用語は多糖に結合しているいないに関わらずタンパク質を含むよう用いられる)およびポリヌクレオチド、ならびにそれらの類似体、例えばアミノ酸類似体もしくは非アミノ酸基、またはヌクレオチド類似体もしくは非ヌクレオチド基からなる、あるいはそれらを含む化合物等が挙げられる。生体ポリマーとして、例えば、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、多糖類等、上記で記載されるもの、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0022】
目的成分は、試料中で見い出すことができ、試料は体液であっても非体液であってもよい。必要な場合、試料を試薬で前処理して、試料を液体化して、核酸等の目的成分を結合物質から放出させてもよい。また、試料を、巨大分子をより小さい目的成分にフラグメント化するために処理することもできる。そのような前処理法およびフラグメント化法は、当技術分野で公知である。
【0023】
「体液」という用語は、特定の標的タンパク質または検出されるべきタンパク質を含むと考えられる、ほ乳類(例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ブタ等)の身体から得られる任意の生体液を示す。体液として、例えば、全血、血漿、血清、間質液、汗、唾液、尿、精液、水疱液、炎症性浸出液、便、痰、脳髄液、涙、粘膜、リンパ液、膣粘膜等、生体組織等のタンパク質含有材料からタンパク質を収集するのに用いられる収集液等が挙げられる。生体組織として、例えば、組織バイオプシー、髪および皮膚等、宿主の臓器または他の身体部分から切除した組織が挙げられる。
【0024】
「非体液」という用語は、特定の標的タンパク質または検出されるべきタンパク質を含むと考えられる、ほ乳類の身体から得られない任意の流体を示す。非体液の例として、透析液、ほ乳類および非ほ乳類細胞、微生物、ウイルス、酵母菌、真菌等、植物、昆虫、水生生物の培養液、食物、紙、布、および剥離物等の法医学的試料、水、下水、医薬品等が挙げられる。
【0025】
本明細書中で使用される場合、「ポリヌクレオチド」は、約100より多い連続ヌクレオチドまたは修飾ヌクレオチドを含む生体ポリマーを示す。ポリヌクレオチドとして、DNA、RNA、m−RNA、r−RNA、t−RNA、cDNA、DNA−RNA二重鎖等が挙げられる。
【0026】
本明細書中で使用される場合、「オリゴヌクレオチド」は、約100より少ないヌクレオチドまたは修飾ヌクレオチドを含む生体分子を示す。
【0027】
本明細書中使用される場合、「ポリペプチド」は、20より多い連続アミノ酸を含む生体ポリマーを示す。「ポリペプチド」という用語は、タンパク質、タンパク質のフラグメント、タンパク質の開裂型、部分消化されたタンパク質で、約20より多い連続アミノ酸であるもの等を包含する。
【0028】
本明細書中で使用される場合、「ペプチド」は、約20より少ない連続アミノ酸を含む生体分子を示す。
【0029】
本発明の方法のいくつかの実施形態は、タンパク質フラグメントの分析に関する。タンパク質は、無傷の細胞、無傷のウイルス、ウイルス感染細胞、溶解液、プラスミド、ミトコンドリアまたは他の細胞小器官、画分化された試料、または他のタンパク質集合体、分離されたタンパク質、および処理されたタンパク質から、それら単独でまたは他の化合物と組み合わせて得ることができる。複数のタンパク質を同定することが必要である場合には、タンパク質混合物の任意の源を用いることができる。タンパク質分析物は、沈殿、抽出およびクロマトグラフィーを用いて単離することができる。タンパク質は、個別のタンパク質として、または細胞小器官、細胞、ウイルス等の様々な集合体に組み込まれて存在してもよい。タンパク質分析物は、例えば、細胞を溶解することにより、細胞から放出される。タンパク質を、例えばプロテアーゼ等の酵素を用いる酵素消化により消化して、より小さなフラグメントにすることもできる。
【0030】
本発明の実施形態が適用される1つの分野は、プロテオミクスである。プロテオームは、正確に定義された境界条件下での1つの細胞型に含まれる全てのタンパク質の全体を指すものとして定義される。高等生命体は数百種類の細胞を含んでいるため、プロテオームも数百存在する。特定の細胞型の全てに共通するタンパク質があり、また、1つの型の細胞に特異的なタンパク質がある。そのうえ、プロテオームは、不変ではなく、年齢または医薬投与から生じる細胞群にかかるストレス等の境界条件とともに、定性的かつ定量的にも変化する。
【0031】
特に重要であるのは、もちろん、薬学的標的タンパク質としておよび予想される独立活性物質としての用途が未知であるプロテオームのタンパク質、すなわち、薬学的使用に適したタンパク質である。同じく細胞群の機能を理解するために非常に重要なのは、細胞群に加齢、医薬投与または疾患等のストレスがかかった場合に量が変化するタンパク質である。
【0032】
哺乳類は100,000種をはるかに上回るタンパク質を有し、それらの構造によれば、その遺伝子数は30,000〜40,000程度になるだろうと見積もられている。たった1つの遺伝子から、「スプライシング」プロセスによって、統計的平均として約3.5種類の異なる型のタンパク質が生じることを示す見積もりがある。さらに、より多くのタンパク質が翻訳後修飾によって生成される。プロテオームは数千から数万までのタンパク質を含む。現在もなお、ヒトタンパク質のまだ半分も分かっていない。
【0033】
タンパク質の分野における本発明の実施形態の他の応用として、例えば、タンパク質配列決定、翻訳後修飾の分析、治療用タンパク質および他のタンパク質調製物の品質管理、精製を含む抗体の調製等が挙げられる。
【0034】
本発明の実施形態が適用される他の分野として、ゲノミクスが挙げられるが、ゲノミクスとは、DNA構造および機能の総合的分析と説明できる。全ゲノムレベルでの生物学的多様性を理解することによって、個体の体質および疾患感受性の起源について洞察ができるようになる。ヒトのような生物は、遺伝子レベルで非常に似通っているものの、1,000ヌクレオチド塩基ごとに約1つの頻度で違いが出てくる。これが翻訳されると個体間でおよそ300万塩基の違いとなる。そのような変化は、単一ヌクレオチド多型(SNP)と呼ばれ、ヒトおよび他の生物の個々のSNPをマッピングするために、研究団体で多大な努力が現在行われている。SNPは、遺伝子翻訳領域内で、または非翻訳領域で見い出すことができる。その影響は、わずかでタンパク質機能の微妙な変化をもたらすにすぎないかもしれないし、または大きくて疾患の発症をもたらすかもしれない。多型は変異とははっきりと異なる。変異は稀で、種の1パーセント未満しか影響を受けていないと認められるが、多型は、比較的よく見られ、その保有率は正常と見なされるものと違わない。
【0035】
本発明の方法が適用される別の分野は、生体プロセスに関連する多糖類または炭水化物の研究および分析である。炭水化物は生体生物で見い出される有機化合物の最も豊富な類である。炭水化物は、光合成、すなわち光エネルギーとクロロフィル色素を必要とする二酸化炭素の吸熱還元的縮合の生成物としてもたらされる。本明細書中に記載する通り、多くの炭水化物の式は炭素の水化物(もしくは水酸化物)C(HO)として書くことができるので、その名前を有している。炭水化物は、植物、および食料として植物に依存している動物の両方にとって、主要な代謝エネルギー源である。この生命に必要な栄養学的役割を果たす糖類およびデンプンの他に、炭水化物は構造材料(セルロース)、エネルギー輸送化合物ATPの成分、細胞表面の認識部位、ならびにDNAおよびRNAの3つの基本成分の1つとしても機能する。
【0036】
濃縮前の成分分離
本発明の実施形態は、既に互いに分離されてそれぞれの流体画分中に存在する目的成分に適用される。流体画分は、それぞれ異なる、分離された目的成分を含む。通常、流体画分は、分離された成分を含む液体媒体である。例えば、流体画分は、1種または複数の成分の混合物を含む媒体をクロマトグラフ分離にかけて得られる溶出液または流出物であってもよい。クロマトグラフ分離で生じた材料は、分離された成分を含み、分離された各成分は、流体流出物または液体流出物中に存在する。
【0037】
目的成分を含有する液体媒体は、水性であっても非水性であってもそれらの混合物であってもよい。水性媒体は、単なる水であってもよいし、0.01〜80体積パーセントまたはそれより多い、例えば、アルコール、エーテル、アミド等の有機溶媒(実施形態によっては1〜15個の炭素原子または2〜10個の炭素原子を含む)等の共溶媒、およびそれらの混合物を含む。非水性媒体としては、例えば、炭化水素、ハロゲン化炭化水素等(実施形態によっては1〜15個の炭素原子または2〜10個の炭素原子を含む)、およびそれらの混合物が挙げられる。液体流出物は、通常、液体媒体、および利用する分離技術で移動相として用いられる任意の他の流体を含む。例えば、一般的なLCクロマトグラフィーについて、順相液体流出物がヘキサン:塩化メチレン:メタノール:N、N−ジイソプロピルエチルアミン(80:19:0.2:0.7:0.1vol/vol)を含むか、または逆相液体流出物が、水(vol/vol):アセトニトリル:メタノール(70:25:5vol/vol)中等に0.1%ギ酸を含む。液体流出物または移動相の極性により、順相(主に有機性)または逆相(主に水性)としての分離が決定される。
【0038】
クロマトグラフィーは、化合物の混合物をその成分に分離する方法である。これにより、微量の不純物または主な画分を互いに分離することが可能になる。これらの分離された成分は、次いで、分光学的方法をはじめとする様々な方法により分析され得る。
【0039】
クロマトグラフィーは、異なる種類の成分を、通常、カラム等の筐体に密閉されたクロマトグラフ材料に沿って通過させることで、それらが分離されることに基づく。筐体は表面積の大きな材料で充填されてもよいし(例えば、充填カラム)、またはその材料が、筐体の内側壁にコーティングされたフィルムとして存在してもよい(例えば、開管カラム)。不活性材料の充填材または壁コーティングフィルムは、固定相として作用する。クロマトグラフ材料は、特定の化合物に対する引力に基づく選択性を示す材料である。クロマトグラフ材料は、分析される化合物と物理的に相互作用してもよい。分析されるべき複数成分混合物の試料がクロマトグラフ材料に沿って通過することで、試料は、そのさまざまな成分に分離され、特性決定および同定され得る。また、この手法を、各成分が混合物中にどのくらい存在するかを測定するのにも用いることができる。
【0040】
分離された目的成分をそれぞれ含有する流体画分を1つまたは複数得るために、多数のクロマトグラフ技術を用いることができる。後続の検出が分離された成分間での違いを識別し得る、もしくは分離された成分の混合物の検出で十分な分析を行えるならば、場合によっては、流体画分は分離された目的成分を複数含有していてもよい。クロマトグラフ技術は、当技術分野で公知である。
【0041】
上述のように、液体クロマトグラフィー(LC)は、所定の試料中の構成元素または目的成分を分離するための公知の技術である。液体クロマトグラフィーは、分離の原理によって、逆相および順相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等に分類される。また、操作法によって、下降流法、上昇流法、高速液体クロマトグラフィー等にも分類される。
【0042】
従来のLC系において、液体溶媒(「移動相」と示される場合もある)はリザーバから導入されてLC系を通って送出される。移動相は圧力を受けてポンプを出て行く。次いで、移動相は、管を介して、試料注入弁へと送られる。名前が示すとおり、試料注入弁により、操作者が試料をLC系に注入することができ、LC系内で試料は移動相とともに運ばれる。
【0043】
LC系の別の重要な部材はカラムである。代表的なカラムは、通常、例えばステンレス鋼管、ガラス内張りステンレス鋼管、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)ポリマー製の押出中空ロッドまたは管、アルミニウムカバーで包まれたPEEK中空ロッド等の管部品からなる。
【0044】
カラムは「充填」材料で充填される。充填材は、カラム内部に充填される粒子状のクロマトグラフ材料を含む。充填材は、シリカ系粒子またはポリマー系粒子を含んでいるまたはそれらからなっていてもよく、化学官能基と化学的に結合していることが多い。LCおよびHPLC用の従来のカラム充填材としては、シリカゲルの他に、例えば炭素数約4〜約30のアルキル基(例えば、オクタデシル基)またはアミノ基等の有機基で修飾されている修飾シリカゲル、ポリスチレンおよびポリビニル等の合成ポリマーを含むイオン交換樹脂、天然ポリマー等を含む炭素充填材およびカラム充填材等が用いられてきた。シリカゲルは、多数の孔の内部表面に存在するシラノール基の優れた吸着性能を利用する吸着クロマトグラフィー用のカラム充填材として、脂質関連材料の分離に用いられてきた。しかし、シリカゲルは容易に水に溶解する可能性があり、かつ高pH溶出液に対する耐性は非常に低い。したがって、そのような溶出液を用いて試料を分離するのには別の充填材料が用いられる。孔質充填材料もまた公知であり、孔質シリカ、化学修飾された孔質シリカ、孔質ポリマー等から製造される。
【0045】
試料が移動相とともにカラムを通じて運ばれるとき、試料中の種々の目的成分はカラム内の充填材を通じて異なる速度で移動し(すなわち、成分の差動移動成分により差のある移動が存在する)、これは、成分分子と充填材料の表面との相互作用によるものである。そのような相互作用としては、例えば、拡散、分散、イオン性、二極性等がある。言い換えると、試料中の種々の成分は、異なる速度でカラムを通って進む。移動の速度が異なることによって、成分はカラムを通って進むにつれて徐々に分離していく。差動移動は、移動相の組成、固定相の組成(すなわち、カラムを充填する材料)、および分離が行われる温度等の要因によって影響を受ける。したがって、このような要因は、試料の種々の成分の分離に影響を及す。分離プロセスのより詳細な説明は、中でも、R. P. W. Scottによる「液体クロマトグラフィー理論(Liquid Chromatography Theory)」John Wiley & Sons, 1992に記載されている。
【0046】
上記の部材に加えて、LC系は、試料の汚染またはLC系への損傷を防ぐために、フィルター、チェック弁等を備えていることが多い。多くの様々な型のLC系およびLC系用構成部材が、多数の供給元から市販されている。例えば、マサチューセッツ州ミルフォードのMillipore Corporation、カリフォルニア州フラートンのBeckman Instruments、およびカリフォルニア州パロアルトのAgilent Technologies, Inc.等は全て、特にポンプ、試料注入弁、カラムおよび検出器が含むLC系を販売している。また、様々なカラムが様々な充填材とともに、様々な供給元から市販されており、供給元としては、特に、カリフォルニア州パロアルトのAgilent Technologies, Inc.、イリノイ州ディアフィールドのBaxter Healthcare Corporation、ペンシルバニア州ベラフォンテ(Bellafonte)のSupelco、および同じくイリノイ州ディアフィールドのAlltech Associates, Inc.が挙げられる。
【0047】
たいていのLC系はポンプを含み、ポンプは上限6,000psi(41,370kPa)程度の比較的高圧を作り出すことができる。多くの場合、操作者はたった数psiぐらいから上限1,000psi(6,895kPa)ぐらいまでのどの「低」圧においてでもLC系を操作することにより良好な結果を得ることができる。しかしながら、操作者は、1,000psiを超える比較的「高」圧でLC系を操作するのが望ましいことを見いだすだろう。
【0048】
濃縮デバイスの実施形態
本発明の実施形態によれば、分離された目的成分を含む画分を含む、分離カラムを出た流出物は、本発明の実施形態による中空ライナー内に配置された中空エレメントを備える濃縮デバイスに入る。
【0049】
中空エレメントの実施形態
中空エレメントは、外側表面と内側領域を画定する内側表面とを有する壁を備えている。いくつかの実施形態では、中空エレメントは、無孔中空ライナー中、軸平行に配置されており、中空エレメントの外側または外部表面と中空ライナーの内側表面との間にギャップ領域を提供する。中空エレメントの壁の少なくとも一部分は孔質である。「少なくとも一部分」という用語は、壁の表面全体が孔質である必要はないが、流出物の画分中の所望の目的成分の濃縮を達成するのに充分な広さの壁表面が孔質でなければならないということを意味する。多くの実施形態では、流出物は中空エレメントの内側領域に入る。「無孔」という用語は、中空ライナーの内側の流体が中空ライナーの壁をほとんど通過し得ないことを意味する。
【0050】
上述のように、中空エレメントは、内側表面および外側表面を備えており、少なくとも孔質である部分を備えていなければならない。重要なのは、特定の分析において、目的成分の検出の、感度、分離能等が改善されるように、流出物の画分中の目的成分の十分な濃縮を提供する孔質領域を有することである。通常、中空エレメントの少なくとも約10%、少なくとも約30%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約90%、少なくとも約99%、もしくは全体が孔質である。「少なくとも約」という用語は、壁の孔質領域が指定された割合と等しいかまたはそれより多いこと、および指定された割合が±1%変動し得ることを意味している。孔の大きさは、液体媒体の分子を、濃縮デバイスの内側表面から外側表面へ通過させ、かつ目的成分が孔を通過するのを防ぐのに十分でなければならない。中空エレメントの孔の大きさは、約10マイクロメートルで約1,000分子量(MW)の分子をカットオフ(透過させない)、約5マイクロメートルで約1,000MWをカットオフ、約4マイクロメートルで約1,000MWをカットオフ、または約3マイクロメートルで約1,000MWをカットオフするものである。中空エレメントの内径は、約5〜約2,000マイクロメートル、約10〜約1,000マイクロメートル、約10〜約700マイクロメートル、または約20〜約500マイクロメートルである。
【0051】
中空エレメントを、多数の材料から製造することもできる。中空エレメントは、本発明による方法の実施形態の分離条件を満たすような十分な完全性を有していなければならない。中空エレメントを構成する材料は、ほとんどの分析物と適合性がなければならない。特に対象となるのは、ポリペプチド、ポリペプチドフラグメント、消化剤を含む消化媒体、および任意の他の補助材料、例えば、消化緩衝液、還元剤等である。材料は合成であっても、天然であっても、それらの組合わせであってもよい。材料としては、ポリマー、例えばポリエステル、ポリアミド等をはじめとするプラスチック、樹脂、例えばセルロース、セルロースエステル(ニトロセルロース等)等の多糖類、シリカまたはシリカ系材料、セラミックス、粘土/土、炭素、合金をはじめとする金属、金属酸化物、無機ガラス等が挙げられる。使用される具体的なプラスチックとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、高密度ポリプロピレン等のポリプロピレン(PP)、例えばTEFLON(登録商標)等のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルスルホン、PVDF、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレンまたはスチレン共重合体、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレア、ポリアミド、ポリエチレンアミン、ポリアリーレンスルフィド、ポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリイミド、ポリアセテート、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等が挙げられる。金属としては、例えば、ステンレス鋼、ハステロイ(hastalloy)、白金、金、銀、チタン等が挙げられる。
【0052】
中空エレメントの形状は、断面で見た場合に、例えば、円形、正方形、長方形、楕円形、三角形、五角形、六角形等であってよい。実施形態のいくつかでは、中空エレメントは管状である。実施形態のいくつかでは、中空エレメントは円筒デバイスである。中空エレメントは、直線状であっても湾曲していてもよいが、通常は直線状である。湾曲したエレメントについては、その曲率角度は、エレメントの一端において面から投射した軸から約1〜約90度である。エレメントの形状は、通常、設計的および機械的に考慮される事項である。
【0053】
中空エレメントの寸法は、各場所でそれぞれエレメントの断面とともに変化し得る。例えば、中空エレメントの一端に近い断面の寸法は、そのエレメントのもう一端に近いものより小さくてもよい。この構成により先細りの中空エレメントとなる。一方で、例えば、エレメントの両端での断面の寸法は、エレメントの中央での断面の寸法よりも、大きいまたは小さくてもよい。一般に、中空エレメントの内側断面寸法は、エレメントの長さ方向に沿った任意の一点と他の点とでは、約80%以下、約50%以下、約30%以下、約20%以下、約10%以下、約5%以下で変化している。多くの実施形態では、中空エレメントの内側断面寸法は、大きくは変化しない、すなわち約1%以下である。
【0054】
中空エレメントの長さは、多数の要因に依存する。中空エレメントの長さは、通常、以下に説明する装置の他の構成要素(コンポーネント)とオンラインになっている(流体連通している)消化デバイスの一部として中空エレメントを提供するのに便利であるように決定される。長さはまた、以下に記載の適切な消化領域を提供することに関連して決定される。実施形態のいくつかでは、中空エレメントの長さは、約0.1mm〜約10,000mm、約0.5mm〜約1,000mmまたは約1〜約500mmである。便宜上、中空エレメントの長さは、市販されている製品に基づいて選択することができる。
【0055】
中空エレメントの壁の厚みは、多数の要因に依存する。考慮すべき事項の1つは、ペプチドフラグメントとそれより大きな分子との適切な分離を達成することである。別の考慮すべき事項は、中空エレメントの構造的または機械的な完全性または安定性である。中空エレメントの壁の厚みは、約1〜約10,000マイクロメートル、約5〜約5,000マイクロメートル、約5〜約1,000マイクロメートル、約10〜約1,000マイクロメートル、約30〜約600マイクロメートル等である。
【0056】
具体的な実施形態では、中空エレメントは、中空繊維膜である。「中空繊維膜」という用語は、約5〜約2,000マイクロメートル、約10〜約1,000マイクロメートル、約10〜約700マイクロメートル、または約20〜約500マイクロメートルの間の内径を有する、極小の管または繊維を意味する。中空繊維膜の外径は、膜の内径に依存し、一般に約3,000マイクロメートル未満、約2,000マイクロメートル未満、または約1,000マイクロメートル未満である。中空繊維膜は、例えばポリエチレン、ポリエーテルスルホン、PVDF等の中空繊維膜に適した任意の材料で構築される。選択される具体的な材料は、移動相、分離された流出物、および機械強度対pH等の性質に依存する。中空繊維膜は、上記の分離を実現するのに充分な孔の大きさを有するように選択されなければならない。中空繊維膜の孔の大きさは、約10マイクロメートルで約1,000MWのカットオフ、約5マイクロメートルで約1,000MWのカットオフ、約4マイクロメートルで約1,000MWのカットオフ、または約3マイクロメートルで約1,000MWのカットオフである。中空繊維膜の壁の厚みは、約1〜約1,000マイクロメートル、約5〜約1,000マイクロメートル、約10〜約1,000マイクロメートルである。適切な中空繊維膜として、例示的にPES、PVDF、PP、PE等が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0057】
中空ライナーの実施形態
上述のように、濃縮デバイスは、無孔中空ライナー中に配置されてギャップ領域を提供する中空エレメントを備えている。多くの実施形態では、中空ライナーは、2つの末端を有する。2つの末端のそれぞれは、少なくとも2つの独立した流体連通口を有する。各末端の流体連通口の1つは、中空エレメントの内側の開口部と連結している。流体連通口の少なくとも1つは、好ましくは中空ライナーの対応する末端に接近した位置でギャップ領域と連結している。いくつかの実施形態では、中空エレメントは、中空ライナー中に軸平行に配置される。「軸平行に」という言葉は、中空エレメントの円筒軸が中空ライナーの円筒軸の輪郭に沿って配置されていることを意味する。いくつかの実施形態では、中空エレメントの円筒軸は、中空ライナーの円筒軸に平行である。軸平行の具体的な実施形態は、同軸であり、ここで円筒軸は中空エレメントおよび中空ライナーについて同一である。いくつかの実施形態では、軸の配列は、約50%以下、約40%以下、約30%以下、約20%以下、約15%以下、約10%以下、約5%以下または約1%以下で同軸から逸脱していてもよい。
【0058】
中空エレメントは、中空ライナー内に配置されている。中空エレメントおよび中空ライナーの形状は、通常同じであるが、必ずしもそうである必要はない。しかし、それぞれの形状および軸配列により、中空ライナーの内側壁と中空エレメントの外側壁との間にギャップ領域が形成していなければならない。いくつかの実施形態では、ギャップ領域の寸法は、中空エレメントの孔から出てくる液体流出物の分子の有効な除去を提供するのに十分でなければならない。1つまたは複数の中空エレメントが、中空ライナー内に配置されていてもよい。例えば、中空繊維束が中空エレメントとして用いられてもよい。中空エレメントは、中空エレメントの各内側領域が、各目的成分を含む液体流出物の濃縮画分を受容する1つの導管と流体連通しており、後述の分析装置の要素へ流出物を送る手段を提供するように配置されている。あるいは、中空エレメントの各内側領域が個別にそのような要素と連通している。これらの実施形態では、中空エレメントの外側表面と中空ライナーの内側壁がギャップ領域を形成する。
【0059】
中空ライナーの壁の厚みは、多数の要因に依存する。考慮すべき事項の1つは、中空ライナーの構造的または機械的な完全性(整合性)または安定性であり、中空ライナーは、ギャップ領域の完全性を維持するのに充分に厚くなければならない。構造的な完全性は、中空ライナーを製造するのに用いた材料の性質にも関連している。中空ライナーの壁の厚みは、約10〜約5,000マイクロメートル、約10〜約2,000マイクロメートル、約10〜約1,000マイクロメートル、約10〜約500マイクロメートル等である。
【0060】
中空ライナーは、多数の材料から製造することができる。上述の、中空エレメント用構築材料に当てはまる考慮すべき事項の多くは、中空ライナーにも同じく当てはまる。
【0061】
中空ライナーの内部寸法は、中空エレメントをその中に配置させかつ所望のギャップ領域を形成させるのに十分なものである。したがって、中空ライナーは中空エレメントを収容できる内部断面寸法を有する。中空エレメントの外部壁と中空ライナーエレメントの内部壁との間の距離が、ギャップ領域を画定する。一般に、この距離は、流出物分子の除去を適切に行うために必要なギャップ領域の体積に関連する。多くの場合、上記壁間の距離は、約1〜約2,500マイクロメートル、約5〜約1,000マイクロメートルまたは約10〜約500マイクロメートルである。いくつかの実施形態では、中空ライナーの長さは、中空エレメントを入れるのに十分である。通常、中空ライナーの長さは、中空エレメントと末端を同じくしている。いくつかの実施形態では、中空エレメントの長さは中空ライナーより長く、そのため中空エレメントは中空ライナーの外部まで延びる。中空エレメントは、流出物のあらゆる汚染を回避するような様式で、中空ライナー内に配置される。
【0062】
いくつかの実施形態では、中空エレメントの両末端部分は、中空ライナー内で、例えば、接着剤により、ポット封止(pot-sealed)されているので、消化領域および中空エレメントの内部を形成し、中空エレメントの孔(内腔)を通じる以外は、この二者間で流体連通は起こり得ない。中空エレメントおよび中空ライナーは、セラミックス、ガラス、ポリイミド、Teflon(登録商標)、ゴム、接着剤製等の間隔棒、小片、柱等の適したスペーサ、Oリング等によって、相対的に位置付けることができる。
【0063】
成分濃縮の促進
流出物の液体分子が中空エレメントの孔を通過する速度は、真空、パージガス流、補助液流等を用いることにより促進させることができる。中空ライナーの適切な注入口および/または排出口をこの目的に用いることができる。真空を利用する場合、それは、透過速度および透過した液体流出物の除去を促進するのに十分なものである。いくつかの実施形態では、透過速度および除去の促進率は、最初の流出物流の体積に対する最終流出物流の体積として測定すると、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%またはそれより多くなければならない。いくつかの実施形態では、真空の度合いは、約13.3322Pa(0.1torr)〜約95991.84Pa(720torr)、約133.322Pa(1torr)〜約95991.84Pa(720torr)、約1333.22Pa(10torr)〜約95991.84Pa(720torr)、約6666.1Pa(50torr)〜約95991.84Pa(720torr)、約13332.2Pa(100torr)〜約95991.84Pa(720torr)等である。当技術分野で公知であるまたは開発することができる任意の適切な真空源を、本発明のこの態様に用いることができる。
【0064】
パージガス流もまた、濃縮の促進のための用いることができる。パージガス流は、中空ライナーの一端で1つのポートから、ギャップ領域、すなわち、中空エレメントと中空ライナーの内側と間に導入される。パージガス流の方向は、移動相流と同じである必要はない。パージガス含有液体分子蒸気は、もう一端で対応するポートから出て行くことができる。ガス流速は、約0.1〜1,000ml/分、約0.1〜500ml/分、約0.1〜100ml/分、約0.1〜50ml/分であってよい。適切なガスとして、窒素、ヘリウム、アルゴン、または他の希ガス等の不活性ガス等が挙げられる。
【0065】
補助液流を用いて、中空エレメントの壁にかかる浸透圧流によって、液体流出物分子の透過速度と除去を促進することができる。補助流体は、流出物の流体と異なっていてもよいし、同じであってもよい。透過および流体除去を促進する目的が実現される限り、任意の適切な流体を用いることができる。補助流体は、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール(C1〜C10)、アセトニトリル、例えばヘキサン等の炭化水素(C1〜C10)、例えば塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素(C1〜C5)、例えば、トルエン等の芳香族溶媒、もしくはそれらの混合物、またはそれらの1種または複数を含む水溶液等であってもよい。補助流体の流れ方向は透過する流体の流れの方向と同じであっても異なっていてもよい。通常、流体の種類および流れの方向は、流体流出物の透過速度および除去速度を最大にするように選択される。いくつかの実施形態では、補助液は、例えば、約0.1〜約30psi(約0.6895〜約206.85kPa)、約0.1〜約15psi(約0.6895〜約103.425kPa)、約0.1〜約10psi(約0.6895〜約68.95kPa)、約0.1〜約5psi(約0.6895〜約34.475kPa)、約0.1〜約1psi(約0.6895〜約6.895kPa)等のわずかな圧力にあってもよい。補助液体流の圧力は、長さ方向にわたって、同じ場所では、中空繊維の内側の移動相圧よりも低くなっていてよい。圧力差は、逆浸透効果を促進するための浸透圧に依存する。いくつかの実施形態では、透過速度および除去の促進率は、中空エレメント内側の移動相の流出/流入比として測定して、少なくとも約95%、少なくとも約75%、少なくとも約50%、少なくとも約30%、少なくとも約20%、少なくとも約10%、少なくとも約5%またはそれより小さくなければならない。
【0066】
逆浸透効果を促進するための、補助液および中空エレメントの壁にかかるその圧力差の操作は、公知の浸透圧現象、すなわち、水(または極性溶媒)が半透膜(本明細書中では中空エレメント壁)の片側から反対側へ通過することに基づく。浸透の場合、純粋な水分子は、高濃度領域(すなわち、移動相が主に水性の場合、中空エレメント内側)から、中空エレメントと中空ライナーとの間のギャップ領域へ膜を通じて流れ、この場合、例えばアルコール、アセトニトリル等のより水性でない溶媒、または水混和性溶媒の補助流が用いられる。逆浸透の場合、膜にかかる圧力差は浸透圧よりも高く、水およびイオン強度の強くない流出物が膜を透過する。しかし、逆浸透の場合、分離された成分を含む移動相流をギャップ領域に導入する(外から中への配置)ことができ、これにより、塩を含まない流出物が中空エレメントの内側領域へ流入し、脱塩が達成される。中空エレメント内側の液体は、脱塩および脱塩された溶液を検出器に送るために、純水または主に水性であり得る。圧力差を浸透圧より高く維持する技術は、ギャップ領域を通る流れ出口で流れの制限を行うことにより、または他の公知の技術により達成される。
【0067】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、逆浸透効果は、電力(電圧/電流)を用いることにより、または補助液およびその圧力を操作することにより促進することができる。逆浸透効果によって、液体流出物等の移動相の脱塩が可能となる。流出物の脱塩は、例えば、質量分析の電子スプレーの効率、紫外−可視(UV−Vis)領域の検出のベースライン信号レベル等、検出器の検出性能の改善に寄与し得る。電気力は、目的成分の性質、流体流出物の性質等に依存する。いくつかの実施形態では、電気力は、中空エレメントにかかる電位差である。
【0068】
表面修飾を用いる実施形態
上述のように、いくつかの実施形態では、中空エレメントの内側表面は、様々な分子量を持つ目的成分に本実施形態を適用することを助けるために、修飾されていてもよい。表面は、修飾材料を中空エレメントの内側表面に共有結合または非共有結合させることにより修飾されてもよい。修飾材料の性質は、目的成分の性質、および特に成分の分子量に関連する。修飾材料は、任意の数の公知の表面修飾材料から選択することができる。表面修飾材料の例としては、例示的には、イオン交換樹脂、C8またはC18カップリング、ポリエチレングリコール、フッ素、ポリグリコールアミン、ポリビニルアルコール、シリカゲル等が挙げられるが、これらに限定されることはない。表面修飾材料の量は、例えば、目的成分の性質およびその分子量、表面相互作用、電気浸透イオン強度等の多数の要因に依存する。表面修飾材料の量は、表面積の約5〜約90%、表面積の約10〜約70%、表面積の約15〜約50%等である。
【0069】
濃縮デバイスの実施形態における流体連通
いくつかの実施形態では、中空ライナーに配置された中空エレメントにより形成される濃縮デバイスは、中空エレメントの内部の流出物(1種または複数の分離された成分を含む画分を含む)が内部を出て分析装置の別の要素へ送られてもよいように、設定または適合されている。液体流出物分子は、中空エレメントの孔質壁の孔を通過してギャップ領域へと入る。したがって、中空エレメントは、中空エレメントの内部とそのような要素との間に流体連通を提供する、少なくとも1つのポートを有する。さらに、中空ライナーは、真空、加圧ガス、補助液等を導入するためのポートを1つまたは複数有する。「少なくとも1つのポート」または「1つまたは複数のポート」という用語は、ポートの数が、1つ、2つ、3つ、4つ等であってもよいことを意味する。
【0070】
要素の動作の代替実施形態
上記の記載は、主に、中空ライナーに配置された中空エレメントで形成された濃縮デバイスを、中空エレメントの内部の流出物(1種または複数の分離された成分を含む画分を含む)が内部を出て分析装置の別の要素へ送られてもよいように、設定したまたは適合させた実施形態に関する。液体流出物分子は、中空エレメントの孔を通過してギャップ領域に行く(中から外へ)。しかし、いくつかの実施形態では、濃縮デバイスを、流出物がギャップ領域に入り、それからギャップ領域を通過して分析装置の別の要素へ送られるように設定または適合することができる。この場合、液体流出物分子は、中空エレメントの孔を通過してギャップ領域から中空エレメントの内部へ入る(外から中へ)。この後者の実施形態では、ギャップ領域は、中空エレメントの内部について上述したように、充填材料で充填されていてもよい。さらに、濃縮デバイスをこの後者の実施形態に適合させるために、コネクター、ポート等が設定される。
【0071】
充填材料を含む濃縮デバイスの実施形態
本発明のいくつかの実施形態によれば、中空エレメントは中空エレメントの内側に充填材料を含む。他の実施形態ではは、ギャップ領域が充填材料を含む。充填材料が中空エレメントの内部に配置され、その場合、いくつかの実施形態では、中空エレメントの孔に充填材料を配置することも含む。体積対体積で、中空エレメントの内部の少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%または約100%が充填材料で充填される。充填材料は、移動相流の透過速度の釣り合いをとること、および分離された目的成分が存在する流体媒体中の目的成分の濃度を最大にすること、という目的を達成する任意のクロマトグラフ媒体であってよい。いくつかの実施形態では、充填材料は、上述の粒子状のクロマトグラフ媒体のいずれかであってもよい。いくつかの実施形態では、例示的には、充填材料は、例えばC18、C8、もしくはC4ポリマー等のシリカ系粒子もしくはポリマー系粒子、シリカ粒子、デンドリマー、例えばポリスチレン等のジビニルベンゼン系ポリマーもしくはそのコポリマー、金属の金属酸化物(例えば、ジルコニア、チタニア、アルミナ等)、架橋デキストリン、ゲル、セラミックス等、またはその2種またはそれより多くの組合せであるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、充填材料は、中空エレメントの内側領域または孔質壁のいずれかに充填するのに適した粒子の大きさを有する。いくつかの実施形態では、中空エレメントの内部の充填材料は、例えばHPLCカラム等の分離カラムから流出物をさらに分離するのに、もしくは例えば内部圧を増加させて中空エレメントの壁にかかる圧力差を変化させるために、もしくは充填媒体の表面の性質および透過領域を変化させて中空エレメントの壁を横切る液体の透過を変化させるために、またはこれらの2つ以上を組み合せた目的のために用いられる。
【0072】
これらの実施形態における充填材料はクロマトグラフ分離に用いられるのではないため、中空エレメントの内部の充填材料の密度は、クロマトグラフカラムに用いられるものより小さい。典型的には、充填材料の充填密度は(もしくはこれらの実施形態で用いられる充填材料の量)は、浸透圧より高い中空エレメントの壁にかかる圧力差を達成するのに、所望の透過をもたらすように、表面電荷もしくは表面疎水性を選択的に操作して、分離カラムからの流出物中の目的の分子が中空エレメントの壁を越えて望ましくない透過を遮断するのに、中空エレメントの内側壁表面の内側の表面での接線速度を変化させて透過流束を制御するのに、またはこれらを組み合せた目的のために十分なものである。
【0073】
透過速度は、それが分子の性質であること、また壁の孔質性ならびに中空エレメント壁両側の分子および液体に依存することによって、変更することはできないが、透過流束は、表面積、速度、表面の性質(電荷、疎水性)等から操作され得る。いくつかの実施形態では、目的の分子に関する透過流束の変化の割合は、充填媒体を含まない中空エレメントに対する、中空エレメントの内側領域内に充填媒体を含む場合の透過流束の割合として測定した場合、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約30%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約90%、少なくとも約95%またはそれより大きいことが望ましい。
【0074】
充填材料の密度は、充填材料および中空エレメントの性質(例えば、孔の大きさ、孔の体積、機械強度、内部寸法等)に依存する。いくつかの実施形態では、中空エレメント中の充填材料の密度は、充填の最大理論密度の約1%〜約95%、約5〜約90%、約10〜約75%、約15〜約50%である。充填の最大理論密度は、質量密度ではなく空間占有率で定義される。
【0075】
充填材料の大きさは、充填材料の性質、流体媒体の性質、目的成分の性質、透過速度等に依存する。断面寸法での充填材料の大きさは、約0.01〜約500マイクロメートル、約0.01〜約300マイクロメートル、約0.01〜約100マイクロメートル、約0.01〜約50マイクロメートル、約0.01〜約25マイクロメートル等である。
【0076】
成分の濃縮後分析
いくつかの実施形態では、分離されて流出物の様々な画分に濃縮された目的成分を含む流出物は、カラムを出ると検出器へ流入する。検出器は、目的成分である特定の分子または化合物の存在を検出する。
【0077】
検出器の実施形態
分離されたフラグメントを検出して、それらの同定を行うのに、当技術分野で公知であるかまたは利用可能である任意の適切な検出器を用いることができる。検出器の例として、例えば、質量分析器、紫外可視分光光度計、免疫利用センサ、水素炎イオン化検出器、電子捕獲検出器、パルス変調シングルフィラメント熱伝導度検出器等、およびこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されることはない。本発明の装置は、検出器への接続またはインターフェースを通じての検出器への接続に適しており、ここでインターフェースは、例えば、チップLCカラム、マルチポートバルブ等をはじめとする弁、スイッチ弁等である。接続は、当技術分野で公知であるコネクタを用いることで実現することができる。
【0078】
質量分析は、材料および材料混合物の定量的化学分析に用いられる分析手法である。質量分析において、分析物と呼ばれる、分析されるべき材料の試料、通常は有機または無機または生体分子試料は消化されて、イオン源中、その構成部分の帯電粒子となる。粒子は、典型的には、大きさのある分子である。分析物粒子が生成すると、それらの相対質量対電荷比に基づいて分光計により分離される。次いで、分離された粒子が検出されて、材料の質量スペクトルが作成される。質量スペクトルは、分析される試料材料の指紋のようなものである。質量スペクトルにより、試料を形成する様々な分析物のイオンの質量、場合によっては量についての情報が得られる。詳細には、質量分析は、分析物内の成分および分子フラグメントの分子量を決定するのに用いられ得る。さらに、ある程度までは、質量分析は、材料がフラグメントに消化されるときのフラグメント化パターンに基づいた、分子構造および副構造ならびに分析物内の構造を形成する成分を同定し得る。質量分析は、多数の他の関連分野と合わせて、材料科学、化学および生物学において非常に強力な分析ツールであることが証明されている。
【0079】
大気圧化学イオン化(APCI)チャンバ等のイオン化チャンバを用いる質量分析器は、液体試料または気体試料から質量スペクトルを得るのに特に有用であることが実証されてきており、広い応用範囲を有する。質量分析(MS)は、ガスクロマトグラフィー(GC)または液体クロマトグラフィー(LC)と共に用いられることが多く、GC/MSおよびLC/MS複合系は、幅広い極性および分子量を有する分析物の分析によく用いられる。LC/MS複合系は、これまで、環境モニタリング、薬学分析、工業プロセスおよび品質管理等の応用に特に有用であった。
【0080】
分離された成分の検出に用いることができる、質量分析を利用した検出器の例としては、電子スプレーイオン化質量分析器(ESIMS)、大気圧化学イオン化質量分析器(APCIMS)、誘導結合プラズマ質量分析器(ICPMS)およびグロー放電質量分析器(GDMS)が挙げられる。いくつかの実施形態では、マトリクス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI)が挙げられる。その他の検出器は、イオン化タンデム質量分析(ESIMS/MS)(例えば、Kargerら、1993、Anal Chem. 65: 900-906を参照)、イオンサイクロトロン共鳴(「ICR」)、フーリエ変換型のものおよび遅延イオン引出し(delayed ion extraction)である。他の適切な質量分析器としては、シングル四重極扇形磁場/磁界偏向機器、三連(「MS/MS」)四重極、フーリエ変換機器および飛行時間型(「TOF」)機器等が挙げられる。例えば、MALDIとMS/MSを組み合わせたハイブリッド機器等、それらの組合せも用いることができる。他の技術として、イオントラップと組み合わせたMALDI(マトリクス支援レーザー脱離イオン化)またはESI(電子スプレーイオン化)、三連四重極またはQTOF質量分析が挙げられる。あるいは、高消化能フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(ETICR)MSを用いることもできる。
【0081】
内部標準物質を用いる実施形態
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、中空エレメントの内側領域に残った液体流出物に内部標準物質を加えることも含む。内部標準物質は、濃縮法のプロセス中の任意の時点で加えられ得る。内部標準は、本発明の方法のいくつかの実施形態では、より信頼性が高くて正確な定量的結果を得ることを助成する。内部標準物質を所望の時点で導入するために、適切な弁およびタイマーが用いられる。内部標準物質は、中空エレメントと中空ライナーとの間のギャップ領域に導入されて、中空エレメントの内部へ進入し、移動相により検出器領域に運ばれる。通常、内部標準物質は、流出物の画分および内部標準物質がほぼ同時に検出器に検出されるような様式および時点で導入される。いくつかの実施形態では、検出器は、目的成分の検出の約1〜約300秒、約1〜約100秒、約1〜約30秒等の内に、内部標準物質を検出しなければならない。内部標準物質の導入に適した弁、ならびに内部標準物質の導入を制御するのに適したタイマーは、当技術分野で公知である。このようなタイマーおよび弁は、これらの機能を制御するソフトウェアを備えているコンピュータと通信する。このようにして、タイマーおよび弁は所望の機能を実行するように適合されている。典型的な内部標準の例として、ペプチド、ベンドロフルメチアジド(BMFT)、質量較正剤(mass calibrants)等が挙げられる。
【0082】
分析装置の実施形態
本発明のいくつかの実施形態は、例えば生体ポリマーフラグメント等の目的成分を含有する試料を分析する装置に関する。いくつかの実施形態では、装置は、(a)例えば生体ポリマーまたはそのフラグメント等の目的成分を分離する分離デバイスと、(b)この分離デバイスと流体連通する濃縮デバイスであって、無孔中空ライナーに配置されかつそれとの間にギャップ領域を形成する中空エレメントを備えており、中空エレメントが外側表面と内側領域を画定する内側表面とを有する壁を備えかつその壁の少なくとも一部分が孔質になっている、濃縮デバイスと、(c)この濃縮デバイスと流体連通する検出デバイスとを備える。いくつかの実施形態では、検出デバイスは濃縮デバイスの内部と流体連通するが、他の実施形態ではは、検出デバイスは濃縮デバイスのギャップ領域と流体連通する。いくつかの実施形態では、内側領域の少なくとも一部分は、粒子状クロマトグラフ媒体を含む。いくつかの実施形態では、ギャップ領域の少なくとも一部分が、粒子状クロマトグラフ媒体を含む。いくつかの実施形態では、中空エレメントは、中空繊維または中空繊維の束である。
【0083】
また、装置は、系の接続部を含んでいてもよく、これは、1つ以上の、流体導入および除去用ポート、真空ポンプおよび液体ポンプ等をはじめとするポンプ、ガスライン、弁、材料を通る望ましくない流れ用排出ライン、検出器入口および出口、HPLCカラム、他のカラム、分取コレクタ等を含んでいてもよい。本発明の装置は、直接またはチップLCカラム等のインターフェースを介して検出器と接続していてもよく、これについては全て上記した通りである。検出器との接続は、当技術分野で公知であるコネクタを用いて実現することができる。
【0084】
本装置の要素は、通常はハードウェアとソフトウェアの組合せにより、指定された機能を実行するように適合されている。これには、特定の要素の構造が含まれており、またマイクロプロセッサ、組込リアルタイムソフトウェア、および操作順序を制御するI/Oインターフェース電子機器等が含まれる。
【0085】
装置の1つの実施形態を、例示のために、図1および図2A〜図2Bに示すが、これらの図に限定されることはない。装置10は、矢印14でデバイス12に導入された試料中の目的成分を分離する分離デバイス12を備えている。図示の実施形態では、デバイス12は液体クロマトグラフィー(LC)カラムである。流出物16はデバイス12を通り濃縮デバイス18の内部に入るが、実施形態に示す濃縮デバイス18は、中空ライナー22内に軸平行に配置されてギャップ領域24を形成する中空繊維20(図2A)または中空繊維20の束(図2B)を備えている。中空繊維20は、ギャップ領域24と中空繊維20の内側領域26との間で生じる流体(ガス、蒸気または液体)連通のみが中空繊維20の孔を通じて起こるような封止された形式で、中空ライナー22内に配置される。中空繊維20の内側領域26は、粒子状クロマトグラフ媒体27を含む。ギャップ領域24は、ライン30およびライン32を通じて、低圧小規模サンプリング循環系28と流体連通し、ライン30およびライン32はそれぞれ中空ライナー22からギャップ領域24へ補助液を導入および除去する注入口および排出口として機能する。系24は、この実施形態では、約500マイクロリットルの体積を有する。内側領域26は、ライン34を通じて検出器36と流体連通する。装置は、モジュール38も含み、これは、ギャップ領域24に内部標準物質を導入するための適切な弁およびタイマーを備えている。
【0086】
操作では、例えば公知の技術により既にフラグメント混合物に消化されているタンパク質試料等の試料が、デバイス12に導入され、ここでフラグメントはクロマトグラフ技術により分離される。デバイス12を出てくる流出物16は、それぞれが消化されたタンパク質の1種または複数の、通常は1種のフラグメントを含有する画分を含む。流出物16は中空繊維20の内側領域26に導入される。流出物が内側領域26を流れることで、液体流出物の分子は中空繊維20の孔を通過してギャップ領域24に入る。補助液は系28からギャップ領域26に導入されて、液体流出物の分子の透過および除去を助ける。このようにして、タンパク質フラグメントは残った流出物中に濃縮され、これがライン34を通過して検出器36に入り、ここで分離されたフラグメントが検出続いて同定される。
【0087】
分析結果
本発明の実施形態の1つの態様は、上記方法で得られるもの、つまり分析の結果であり、これは検査を行う場所で評価されてもよいし、所望であれば、評価および遠隔地のそれに関心をもつ団体への伝達のために、別の場所に送られてもよい。「遠隔地」という言葉は、結果が得られる場所と物理的に違う場所を意味する。したがって、結果は、違う部屋、違う建物、市の違う地区、違う市等に送られてもよい。通常、遠隔地は、結果が得られる場所から少なくとも約1.609km(約1マイル)、普通は少なくとも約16.09km(10マイル)、より普通には約160.9km(約100マイル)またはそれ以上の距離にある。データは、例えば、ファクシミリ、手紙、翌日配達、電子メール、ボイスメール等の標準的な手段により送信することができる。
【0088】
情報を「伝達する(通信する)」とは、適切な伝達チャネル(例えば、私設または公共通信網)でその情報を電気信号として表すデータを送信することを示す。ある品物を「転送する」とは、その品物を物理的に輸送するか、(可能な場合には)その他の手段により、その品物をある場所から次の場所へ移す任意の手段を示し、少なくともデータの場合には、データの入った媒体またはデータを伝達する媒体を物理的に輸送することを含む。
【0089】
上記で使用されるように、「少なくとも」という言葉は、示される項目が表示される値と等しいかまたはそれより大きいことを意味し、「約」という用語は、表示される値が±1%変動し得ることを意味する。
【0090】
本明細書中に記載した全ての公報および特許出願は、個々の公報または特許出願が参照により組み込まれることを具体的および個別に示しているかのように、本明細書中において参照により組み込まれている。
【0091】
上述の発明の実施形態は、例示のためにかつ明確な理解を得るための例として、ある程度詳細に記載されてきたが、添付の請求項の精神または範囲から逸脱することがなければ変更および変形が可能であることが、本発明の教示より当業者に容易に理解されるだろう。さらに、上記の記載は、説明の目的のため、本発明の完全な理解を提供するため具体的な専門用語を用いた。しかし、それについて、本発明を実行するために具体的な説明が必要とされないことが当業者に理解されるだろう。したがって、本発明の具体的な実施形態の上記の記載は、例示と説明の目的で提示されている。それらは包括的であることも、あるいは本発明を開示されるそのままの形態に限定することも意図しない。上記の教示を鑑みて、多くの変更および改変が可能である。実施形態は、本発明の原則およびその実用化を説明する目的で選択かつ記載され、それにより、当業者は本発明を利用することが可能になる。
【0092】
以下に特に好ましい実施態様を示す。
1.流体流出物中の1種以上の目的成分を濃縮する方法であって、
(a)分離された目的成分を含む画分を含む流体流出物を、少なくとも一部分が孔質である壁を備えている中空エレメントを具備する濃縮デバイス内に通過させ、前記中空エレメントが中空ライナーの内部に配置されており、
(b)流体流出物分子を、前記中空エレメントの前記壁を通して透過させ、残った流出物中に成分分子が濃縮され、該残った流出物が前記濃縮デバイスを出て行く、方法。
2.前記中空エレメントが中空繊維または中空繊維の束である、上項1に記載の方法。
3.前記中空エレメントが前記中空ライナーの内部に軸平行に配置されている、上項1に記載の方法。
4.前記濃縮デバイスの少なくとも一部分が、粒子状クロマトグラフ媒体を含む、上項1に記載の方法。
5.流体流出物中の1種以上の成分を分析する方法であって、
(a)分離された目的成分を含む画分を含む流体流出物を、外側表面と内側領域を画定する内側表面とを有する壁を備えている中空エレメントの該内側領域に通過させ、前記壁の少なくとも一部分が孔質であり、前記中空エレメントが中空ライナーの内部に配置されてギャップ領域を形成しており、
(b)流体流出物を、前記内側表面から前記ギャップ領域へ前記中空エレメントの前記壁を介して透過させ、成分分子が残った流出物中に濃縮され、該残った流出物が前記内側領域を通って出て行き、
(c)各成分を検出する、方法。
6.前記内側領域の少なくとも一部分が、粒子状クロマトグラフ媒体を含む、上項5に記載の方法。
7.前記粒子状クロマトグラフ媒体が、シリカ系粒子、ポリマー系粒子または金属酸化物粒子である、上項6に記載の方法。
8.前記中空エレメントの前記内側領域の前記残った液体流出物に内部標準物質を加えることをさらに含む、上項5に記載の方法。
9.前記成分が生体ポリマーまたはそのフラグメントである、上項5に記載の方法。
10.前記ステップ(a)の前に、1種以上の成分の混合物を含む媒体を、クロマグラフ分離にかけ、それにより、分離された成分を得て、その場合、該分離された各成分が液体流出物中に存在し、該クロマトグラフ分離が液体クロマトグラフィーを含む、上項5に記載の方法。
11.前記検出することが、質量分析、紫外−可視分光光度法、免疫利用センサー技術、またはそれらの組合せを含む、上項5に記載の方法。
12.試料中の成分を分析する方法であって、
(a)前記試料を含む媒体を液体クロマトグラフ分離にかけ、それにより、分離された成分を得て、その場合、該分離された各成分が液体流出物中に存在し、
(b)前記液体流出物を中空繊維の内側領域内に通過させ、該中空繊維が中空ライナーの内部に軸平行に配置されてギャップ領域を形成し、
(c)液体流出物分子を、前記内側領域から前記ギャップ領域へ前記中空繊維の壁を通して透過させ、成分分子が残った流出物中で濃縮され、該残った流出物が前記内側領域を通って出て行き、
(d)質量分析により各成分を検出する、方法。
13.前記内側領域の少なくとも一部分が、粒子状クロマトグラフ媒体を含む、上項12に記載の方法。
14.前記粒子状クロマトグラフ媒体が、シリカ系粒子、ポリマー系粒子または金属酸化物粒子である、上項13に記載の方法。
15.前記中空エレメントの前記内側領域の前記残った液体流出物に内部標準物質を加えることをさらに含む、上項12に記載の方法。
16.前記成分が生体ポリマーまたはそのフラグメントである、上項12に記載の方法。
17.生体分子を含有する試料を分析する装置であって、
(a)該生体分子を分離する分離デバイスと、
(b)該分離デバイスと流体連通する濃縮デバイスであって、無孔中空ライナー内に配置されていてかつ該中空ライナーとの間にギャップ領域を提供する中空エレメントを備えており、該中空エレメントが、外側表面と内側領域を画定する内側表面とを有する壁を備えており、該壁の少なくとも一部分が孔質である、濃縮デバイスと、
(c)前記濃縮デバイスの前記内側領域と流体連通する検出デバイスとを備えている、装置。
18.前記中空エレメントが、中空繊維または中空繊維の束である、上項17に記載の装置。
19.前記内側領域の少なくとも一部分が粒子状クロマトグラフ媒体を含む、上項17に記載の装置。
20.前記中空エレメントの前記内側領域に内部標準物質を加える機構をさらに含む、上項17に記載の装置。
21.前記分離デバイスがクロマトグラフである、上項17に記載の装置。
22.前記検出デバイスが、質量分析計、紫外−可視分光光度法、免疫利用センサー技術、またはそれらの組合せである、上項17に記載の装置。
23.前記中空エレメントが前記中空ライナー内に軸平行に配置されている、上項17に記載の装置。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の特定の実施形態による装置の一実施形態の模式図である。
【図2A】中空ライナー内側の中空繊維の断面図である。
【図2B】中空ライナー内側の中空繊維の束の断面図である。
【符号の説明】
【0094】
10 分析装置
12 分離デバイス
16 濃縮デバイス
20 中空エレメント
22 中空ライナー
24 ギャップ領域
26 内側領域
36 検出デバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体流出物中の1種以上の目的成分を濃縮する方法であって、
(a)分離された目的成分を含む画分を含む流体流出物を、少なくとも一部分が孔質である壁を備えている中空エレメントを具備する濃縮デバイス内に通過させ、前記中空エレメントが中空ライナーの内部に配置されており、
(b)流体流出物分子を、前記中空エレメントの前記壁を通して透過させ、残った流出物中に成分分子が濃縮され、該残った流出物が前記濃縮デバイスを出て行く、方法。
【請求項2】
流体流出物中の1種以上の成分を分析する方法であって、
(a)分離された目的成分を含む画分を含む流体流出物を、外側表面と内側領域を画定する内側表面とを有する壁を備えている中空エレメントの該内側領域に通過させ、前記壁の少なくとも一部分が孔質であり、前記中空エレメントが中空ライナーの内部に配置されてギャップ領域を形成しており、
(b)流体流出物を、前記内側表面から前記ギャップ領域へ前記中空エレメントの前記壁を介して透過させ、成分分子が残った流出物中に濃縮され、該残った流出物が前記内側領域を通って出て行き、
(c)各成分を検出する、方法。
【請求項3】
試料中の成分を分析する方法であって、
(a)前記試料を含む媒体を液体クロマトグラフ分離にかけ、それにより、分離された成分を得て、該分離された各成分が液体流出物中に存在し、
(b)前記液体流出物を中空繊維の内側領域内に通過させ、該中空繊維が中空ライナーの内部に軸平行に配置されてギャップ領域を形成し、
(c)液体流出物分子を、前記内側領域から前記ギャップ領域へ前記中空繊維の壁を通して透過させ、成分分子が残った流出物中で濃縮され、該残った流出物が前記内側領域を通って出て行き、
(d)質量分析により各成分を検出する、方法。
【請求項4】
前記中空エレメントが中空繊維または中空繊維の束である、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記中空エレメントが前記中空ライナーの内部に軸平行に配置されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記濃縮デバイスの少なくとも一部分が、粒子状クロマトグラフ媒体を含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項7】
前記粒子状クロマトグラフ媒体が、シリカ系粒子、ポリマー系粒子または金属酸化物粒子である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記中空エレメントの前記内側領域の前記残った液体流出物に内部標準物質を加えることをさらに含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項9】
前記成分が生体ポリマーまたはそのフラグメントである、請求項2または3に記載の方法。
【請求項10】
前記検出することが、質量分析、紫外−可視分光光度法、免疫利用センサー技術、またはそれらの組合せの利用を含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項11】
生体分子を含有する試料を分析する装置(10)であって、
(a)該生体分子を分離する分離デバイス(12)と、
(b)該分離デバイスと流体連通する濃縮デバイス(16)であって、無孔中空ライナー(22)内に配置されていてかつ該中空ライナーとの間にギャップ領域(24)を提供する中空エレメント(20)を備えており、該中空エレメントが、外側表面と内側領域(26)を画定する内側表面とを有する壁を備えており、該壁の少なくとも一部分が孔質である、濃縮デバイス(16)と、
(c)前記濃縮デバイスの前記内側領域と流体連通する検出デバイス(36)とを備えている、装置。
【請求項12】
前記中空エレメントが、中空繊維または中空繊維の束である、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記内側領域の少なくとも一部分が粒子状クロマトグラフ媒体を含む、請求項11に記載の装置。
【請求項14】
前記中空エレメントの前記内側領域に内部標準物質を加える機構をさらに含む、請求項11に記載の装置。
【請求項15】
前記分離デバイスがクロマトグラフである、請求項11に記載の装置。
【請求項16】
前記検出デバイスが、質量分析計、紫外−可視分光光度法、免疫利用センサー技術、またはそれらの組合せである、請求項11に記載の装置。
【請求項17】
前記中空エレメントが前記中空ライナー内に軸平行に配置されている、請求項11に記載の装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【公開番号】特開2007−47176(P2007−47176A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217850(P2006−217850)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】395 Page Mill Road Palo Alto,California U.S.A.
【Fターム(参考)】