説明

クロメート処理皮膜質量測定方法及びクロメート処理皮膜質量測定装置

【課題】 クロメート処理された製品の6価クロム含有クロメート処理皮膜を判別し、皮膜の膜質を把握することを迅速に行えるクロメート処理皮膜質量測定方法を提供する。
【解決手段】 クロメート皮膜を有する製品のクロメート処理皮膜質量測定装置であって、前記製品のクロメート処理皮膜からクロム含有の抽出液を抽出する抽出部100と、前記抽出部100で抽出された抽出液に6価クロムが含有することを同定し、定量分析によって前記クロメート処理皮膜中の6価クロムの絶対質量を求める定量部200と、前記抽出部100で前記クロム含有抽出液が抽出された後の前記製品の前記クロメート処理皮膜の質量を測定する質量測定部300とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロメート処理皮膜質量測定方法及びクロメート処理皮膜質量測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題への関心の高まりから、人体および環境に対して有害な物質の排出が規制されるようになった。この有害物質の1つに6価クロムがある。この6価クロムの排出に関する規制としては、例えば、欧州(EU)のELV(廃自動車指令)は2003年7月から施行されており、6価クロムが製品部品に含有していてはならない。また同様にEUにおいて2006年7月に施行予定の電気電子機器に使用する特定有害物質の制限に関するRoHS指令では6価クロムが使用禁止になる。以上において6価クロムの規制物質の最大許容含有量(闘値)は1000ppmであり、製品部品にはそれ以下である不含有証明が必要となっている。
【0003】
ここで6価クロムは、6価のクロム酸を主成分とする処理液で表面処理するクロメート処理皮膜に含まれている。この処理はボルト、座金、亜鉛めっき鋼板などの金属材料の防錆処理として施される。特に近年は、6価クロムを含有するクロメートの対策として代替の3価クロムを含有するクロメートが使用されるようになってきている。
【0004】
現状の製品部品のクロメート処理材料には6価クロム処理が施された製品と3価クロム処理が施された製品が混在しているのが実態であり、有害物質の6価クロム含有クロメートを判別し、皮膜の膜質を把握することは重要な課題となっている。さらに6価クロムの使用規制値を管理して有効なものにするためには、6価クロムの判別と含有量を測定して使用量を把握することが求められている。
【0005】
このような6価クロムの分析法としては、マイクロ波密閉容器を用いてホットプレート上で、炭酸ナトリウム/水酸化ナトリウム抽出溶液を加えて攪拌した後1時間加熱して6価クロムを抽出する。その抽出液を冷却後に濾過し、pHを調整した後、ジフェニルカルバジドを用いて、UV−VIS比色法によって分析する方法が挙げられる(特許文献1[0088]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002−502033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のように、クロメート処理皮膜の6価クロムの分析においては、選択的に6価クロムと反応する発色試薬のジフェニルカルバジドを用いる方法が良いとされている。しかしながら、上述の特許文献1には、6価クロムの分析方法のみが記載されているに留まっている。
【0008】
現在、製品のクロメート処理材料の有害物質である6価クロム含有クロメート処理皮膜の膜質を把握することと6価クロムの使用規制値を管理して有効なものとするためには、6価クロムの判別と含有量を測定し、使用量を把握することが求められている。そのため、上述の特許文献1の方法ではこの課題を解決できない。
【0009】
クロメート処理皮膜の表面分析法では、層を構成している元素の分析にはオージェ電子分光法や蛍光X線分析法がある。これらの方法は6価クロムとしての同定ができないため、6価クロムの定量分析や皮膜の分析には適用できない。
【0010】
すなわち、従来の技術では、クロメート処理皮膜中の6価クロムの同定と、その定量分析と、クロメート処理皮膜の皮膜の分析とでは、別々に行う必要がある。また、それぞれの分析にあわせて試料調整する必要がある。そのため、迅速な測定は行うことができない。
【0011】
そこで、本発明は、上述の実状に鑑みてなされたものであり、クロメート処理された製品の6価クロム含有クロメート処理皮膜を判別し、皮膜の膜質を把握することを迅速に行えるクロメート処理皮膜質量測定方法及びクロメート処理皮膜質量測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決する為に、第1発明は、クロメート処理皮膜を有する製品のクロメート処理皮膜質量測定方法であって、前記製品のクロメート処理皮膜からクロム含有の抽出液を抽出する抽出工程と、前記抽出工程で抽出された抽出液に6価クロムが含有することを同定し、定量分析によって前記クロメート処理皮膜中の6価クロムの絶対質量を求める定量工程と、前記抽出工程で前記クロム含有抽出液が抽出された後の前記製品のクロメート処理皮膜の質量を測定する質量測定工程とを有する。
【0013】
上記方法において、前記抽出工程は、前記製品を所定の容器に入れ、加熱後、冷却することで前記製品から前記クロムを抽出する。上記方法において、前記加熱は、80℃以上100℃以下の温度で8時間以上行う。上記方法において、前記定量工程は、前記抽出工程で抽出された抽出液に対して吸光光度法で行われる。 上記方法において、前記質量測定工程は、前記抽出工程で前記クロム含有抽出液が抽出された後の前記製品に対して蛍光X線分析法で行われる。
【0014】
また、第2発明は、クロメート皮膜を有する製品のクロメート処理皮膜質量測定装置であって、前記製品のクロメート処理皮膜からクロム含有の抽出液を抽出する抽出部と、前記抽出部で抽出された抽出液に6価クロムが含有することを同定し、定量分析によって前記クロメート処理皮膜中の6価クロムの絶対質量を求める定量部と、前記抽出部で前記クロム含有抽出液が抽出された後の前記製品の前記クロメート処理皮膜の質量を測定する質量測定部とを有する。
【0015】
上記構成において、前記抽出部は、所定の容器に入れられた前記製品を加熱又は冷却するように、前記容器内の温度を制御する温度制御部を有する。上記構成において、前記温度制御部は、前記容器内の温度が80℃以上100℃以下で8時間保たれるように制御する。上記構成において、前記定量部は、吸光度を測定する吸光光度測定部を有し、前記抽出部で抽出された抽出液に対して吸光光度法によって、前記クロメート処理皮膜中の前記6価クロムの絶対質量を求める。
【0016】
上記構成において、前記質量測定部は、蛍光X線スペクトルを測定する蛍光X線測定部を有し、前記抽出部で前記クロム含有抽出液が抽出された後の前記製品に対して蛍光X線分析法によって、前記クロメート処理皮膜の質量を測定する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、クロメート処理された製品の6価クロム含有クロメート処理皮膜を判別し、皮膜の膜質を把握することが連続した一連の測定で行うことができることで、迅速な測定を可能とする方法及び装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のクロメート処理皮膜質量測定方法の抽出工程で使用される密閉容器の一例を示す図である。
【図2】本発明のクロメート処理皮膜質量測装置の概略図である。
【図3】実施例1で使用した開放型抽出容器を示す図である。
【図4】実施例1で行った亜鉛めっき鋼板のクロメート処理試料の純水加熱抽出時間と6価クロムの回収量の関係を示す図である。
【図5】実施例2で本発明の方法を適用した亜鉛めっき鋼板のクロメート処理試料の純水加熱抽出時間と6価クロムの回収量の関係を示す図である。
【図6】実施例3で本発明に係わるエネルギー分散型蛍光X線分析(EDXRF)装置の光学系の略図である。
【図7】実施例3で本発明に係わる亜鉛めっき鋼板(座金)のクロメート処理試料断面略図と蛍光X線分析EDXRFスペクトルである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明は以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0020】
まず、本発明のクロメート処理皮膜質量測定方法について説明する。本発明のクロメート処理皮膜質量測定方法は、サンプリング工程と、抽出工程と、定量工程と、質量測定工程との順で行われる。
【0021】
まず、サンプリング工程について説明する。本発明のサンプリング工程では、オフラインで試料の選定、寸法サイズの決定(サンプリング)、試料量の決定(秤量)が行われる。具体的に試料の選定では、測定対象とする試料を選択することであり、例えば試料としては、クロメート処理されたボルト、座金、亜鉛めっき鋼板などの金属材料などが挙げられる。寸法サイズの決定では、前処理用抽出密閉容器サイズに試料を合わせるために、試料の寸法サイズの決定や切り出しによって、試料サイズが調製される。試料量の決定では、寸法サイズの決定した試料の重量が測定される。そしてこれらの調製が終了した試料は、抽出工程の開始まで、デシケータ中で保存される。
【0022】
抽出工程は、試料のクロメート処理皮膜からクロム含有の抽出液を抽出する工程である。試料は、密閉容器に所定量の純水とともに入れられ、所定の時間、所定の温度で加熱された後、室温までに冷却されることで、試料のクロメート処理皮膜から溶出したクロム含有の抽出液が得られる。抽出工程における加熱は、80℃以上100℃以下の範囲で一定の温度で、所定の時間行われる。例えば、この抽出工程で85℃で8時間加熱することにより、クロメート処理皮膜の厚さが異なる試料であっても皮膜中の6価クロムの全量を抽出することができる。
【0023】
図1は、本発明のクロメート処理皮膜質量測定方法の抽出工程で使用される密閉容器の一例である。この抽出工程に使用される密閉容器30は、耐熱耐圧ガラスで形成された一端に開口を有する円筒状の器31で、例えば容量が100ml程度である。そして、器31の開口には、開口を有する一端側の形状に合わせたキャップ32で開口を覆うことができるようになっている。この器31の開口を有する一端側とキャップ32は図示しないネジ溝及びネジ山が形成されており、キャップ32によって器31の内部を密閉することができるようになっている。この容器内には、抽出工程のために試料34とともに所定量の純水が入れられる。
【0024】
定量工程では、抽出工程で抽出された抽出液中の6価クロムを同定、すなわち6価クロムが含まれているか否かを確認し、定量分析を行う工程である。まず、抽出工程で抽出された抽出液から所定量を取り出し、発色試薬のジフェニルカルバジド溶液を所定量加えて混合する。そして、6価クロムを選択的に発色させて波長540nmの吸光度を測定する。
【0025】
6価ク口ムの同定には、波長540nm付近にピークがみられるか否かで判断できる。また、6価ク口ムの定量分析は、吸光度の強度と、予め測定している標準液の6価クロムの濃度と吸光度から関係式(検量線)を適用して行うことで、抽出液中、すなわち試料のクロメート処理皮膜中の6価クロムの絶対質量が測定できる。抽出液の取り出し、試料液分取混合及び標準液試薬混合に係る試料液、試薬注入並びに標準液注入は定量ポンプを介して行なうことができる。そして、この受器である容器は吸光光度計で吸光度の測定ができるセル容器を使用することができる。
【0026】
質量測定工程は、試料のクロメート処理皮膜の質量を測定する工程である。このクロメート処理皮膜の測定は、6価クロムが含有することを前記定量工程にて同定した後、同一の試料について行われる。この試料は、抽出工程にて抽出液中に6価クロムの全量が溶出しているために、三酸化クロム(CrO)の皮膜となっており、クロメート処理皮膜の単位面積あたりの質量及び膜厚を元素分析計である蛍光X線分析法、例えばエネルギー分散型蛍光X線分析装置によって計測する。したがって、試料を破壊することなくクロメート処理皮膜の単位面積あたりの質量と非破壊で求めることができる。
【0027】
このように、本発明のクロメート処理皮膜質量測定方法では、クロメート処理皮膜を有する製品の6価クロムの同定及び定量分析、並びに、クロメート処理皮膜の質量測定が、抽出から測定まで連続した一連の分析によって行われるとともに、クロメート処理皮膜を有する製品に対して一度の抽出工程によって実行できる。そのため、迅速な分析が可能となる。
【0028】
次に、本発明のクロメート処理皮膜質量測定装置について説明する。本発明のクロメート処理皮膜測定装置は、上述のクロメート処理皮膜質量測定方法の各工程を実行する部材を備えることで実現できる。詳細には、図2にように、抽出工程を行う抽出部100と、定量工程を行う定量部200と、質量測定工程を行う質量測定部300とを有する。
【0029】
抽出部100は、図1のような密閉容器30を備える6価クロム温水抽出部12と、例えば恒温槽といった加熱機能を有する加熱部13と、例えばファンといった冷却機能を有する冷却部14と、定量ポンプ26を介して抽出液を取り出す機能を有する取出部15と、加熱部13と冷却部14とを制御する温度制御部18とを有している。そして、抽出部100内の6価クロム温水抽出部12には、加熱部13での加熱及び冷却部14での冷却が可能なように上述の図1に示したような密閉容器30が器31の開口が開放された状態で備えられるようになっている。この6価クロム温水抽出部12に備えられる密閉容器30は1個でもよいが複数個備えられるようになっていても良い。また、抽出に使用する純水を供給する純水供給部16と、上述のサンプリング工程で調製された試料を投入するサンプル投入口17が備えられている。
【0030】
まず、抽出部100では、密閉容器30がキャップ32のない状態で6価クロム温水抽出部12内に備えられる。そして、サンプリング工程で調製された試料がサンプル投入口17から投入された後、純水供給部16から所定量の純水が注入される。純水注入後、キャップ32が閉められ、温度制御部18によって密閉容器30内の温度が制御される。温度制御部18は、加熱部13を、密閉容器30内の温度が、80℃以上100℃以下の範囲となるように制御し、その温度を所定時間一定に保つ。これによって、試料内のクロムの全量が抽出される。所定時間経過後、温度制御部18は、冷却部14を密閉容器内の温度が室温にまで冷却されるように制御する。密閉容器30内の抽出液は、定量ポンプ26を介して、取出部15によって一定量分取される。
【0031】
定量部200は、取出部15によって一定量分取された抽出液と、吸光度を測定するための試薬とを混合する試料液分取混合部21と、抽出液の吸光度の強度から抽出液中の6価クロムを定量するための標準液と、吸光度を測定するための試薬とを混合する標準液試薬混合部19と、抽出液や標準液に対して吸光度を計測する吸光光度測定部23と、吸光光度計測部23で計測した吸光度の情報を収集し、抽出液中の6価クロムの絶対質量を算出するデータ処理部24とを有している。また、吸光光度測定部23とデータ処理部24は、電子制御部25で制御される。
【0032】
この定量部200は、定量ポンプ26を介して、取出部15によって一定量分取された抽出液が試料液分取混合部21に注入されると、吸光度計測のための試薬であるジフェニルカルバジド溶液が試薬注入部22から定量ポンプ26を介して試料液分取混合部21に所定量注入され、試料液分取混合部21内で抽出液と試薬が混合する。混合された後、電子制御部25の制御を受けて吸光光度測定部23によって、抽出液の波長540nmの吸光度が測定される。測定された抽出液の吸光度は、電子制御部25を介して、データ処理部24に送られる。このとき、波長540nm付近のピークの有無が確認されて抽出液、すなわち試料中の6価クロムが同定される。
【0033】
一方、標準液試薬混合部19では、抽出液の吸光度測定前に、標準液注入部20から定量ポンプ26を介して、標準液が所定量注入され、試薬注入部22から定量ポンプ26を介して、ジフェニルカルバジド溶液が所定量注入され、標準液と試薬が混合し、電子制御部25の制御を受けて吸光光度測定部23によって、この標準液の波長540nmの吸光度が測定されている。このとき、標準液の吸光度は、関係式(検量線)がデータ処理部24で完成できるように、6価クロム濃度の異なる標準液で複数測定される。測定された標準液の吸光度は、電子制御部25を介して、データ処理部24に送られ、このデータ処理部24で検量線が作成される。そして、抽出液の吸光度と検量線に基づいて抽出液、すなわち試料中の6価クロムが定量される。
【0034】
質量測定部300は、抽出部100でクロムが抽出された後の試料に対して蛍光X線分析を行う例えばエネルギー分散型蛍光X線分析装置のような蛍光X線測定部27を有している。この蛍光X線測定部27は、電子制御部25に制御される。
【0035】
吸光光度測定部23で抽出液に6価クロムが含有することが確認された後、その抽出液を抽出した同一の試料が取り出され、質量測定部に投入される。そして、投入された試料は、抽出液中に6価クロムの全量が溶出しているために、三酸化クロム(CrO)の皮膜となっている。そしてその試料は、電子制御部25の制御を受けて蛍光X線測定部27によって、クロメート処理皮膜の単位面積あたりの質量及び膜厚が測定される。これにより、試料を破壊することなくクロメート処理皮膜の単位面積あたりの質量と非破壊で求めることができる。
【0036】
以上のことから、本発明のクロメート処理皮膜測定装置は、抽出液から所定量を取り出し、発色試薬のジフェニルカルバジド溶液の所定量を加えて混合し6価クロムを選択的に発色させて波長が540nmの吸光度を測定して6価クロムを同定する定性分析と吸光度の強度から吸光光度法による6価クロムの定量分析が行なわれ、試料に対して蛍光X線分析法によるクロメート処理皮膜の質量測定を行っている。すなわち、本装置は、抽出から同定、定量分析、及び、質量測定まで流れを明確にしたため、6価クロムを定量分析及びクロメート処理皮膜の質量測定が正確にできるようになる。さらに、一連の連続した分析によって、迅速な分析評価が得られる。
【0037】
実施例1で、従来法でのクロメート処理品からの6価ク口ム抽出の前処理方法の検討内容と定量分析結果について説明する。また、実施例2では、本発明に係わる方法でのクロメート処理品からの6価クロム抽出の前処理方法の検討内容と定量分析結果について説明する。さらに、実施例3では、クロメート皮膜中の6価クロムを三酸化クロム(CrO)として単位面積あたりの質量を蛍光X線分析法によって求める方法について説明する。
【0038】
はじめに、試料液中の6価クロムの定量分析は、ジフェニルカルバジド吸光光度法を適用し、クロメート処理品中6価クロムの全量を回収できる方法の確立するため、試料液を調製する分析の前処理方法を検討した。
【0039】
[実施例1]従来法による6価クロム抽出方法と定量分析結果
従来のクロメート処理品の6価クロムの抽出は、沸騰水中で数分問浸漬して行なわれ、その抽出液について6価クロムの定量分析が行なわれている。従来法での6価ク口ムの抽出条件の検討内容を次に示し、分析結果を表1に示す。
【0040】
(1)試料と6価クロムの抽出条件
・試料;亜鉛めっき付きテストピース、素材SPCC、亜鉛めっき厚さ5〜8μm、テストピース表面積103cm
・抽出条件;
温度:20℃(S49環境庁告示第4号−5:土壌溶出試験条件)、80 ℃、100℃
時間(h):0.4、2、15、25、30、40、45、50
抽出容器:開放型カラス容器(ガラスビーカー)図3参照
【0041】
(2)6価クロムの定量分析結果
6価クロムの測定方法;ジフェニルカルバジド吸光光度法
【0042】
【表1】

【0043】
図3は、実施例1で使用した開放型抽出容器を示す図である。1Lビーカー41にクロメート処理のテストピース44と純水43が入れられ、蓋には時計皿22が用いられる。しかし、1Lビーカー41と時計皿42の間には隙間があり、開放型となっている。この容器が下部より加熱されて抽出条件の100℃では沸騰水状態となり抽出される。図4は、実施例1の結果で加熱温度を変えた時の抽出時間(h)と6価クロムの回収量(μg)の関係を示す図である。
【0044】
以上のことから、開放型でのクロメート処理皮膜(628μg)の抽出は、加熱温度が100℃の時で6価クロムを完全に回収するのに30時間を要する。この試験方法の場合、連続加熱で抽出液量の減量が著しいため、純水の補給が必要となり実用的でない。また同様に開放型での抽出は80℃、0.4時間(10分間)での抽出率が約30%で抽出効率が悪く、その後の抽出時間延長でも回収率の向上は期待できない。さらに、温度20℃、15時間(S49環境庁告示第4号−5:土壌溶出試験条件)では、さらに抽出率が悪くなり、クロメート処理試料の6価クロムの抽出には適さないことが分かる。
【0045】
[実施例2]本発明の方法による6価クロム抽出方法と定量分析結果
ク口メート処理品の6価クロムの抽出は、新たに抽出効率の向上と比較的低い温度の設定と加熱時間の短縮を図るため、密封容器による85℃で加熱実験を行なった。6価クロムの抽出条件の検討内容を次に示し、分析結果を表2に示す。
【0046】
(1)試料と6価クロムの抽出条件
・試料;亜鉛めっき付き鋼材(座金及びナべコネジ)亜鉛めっき厚さ約4μm
・抽出条件;
温度:80〜100℃(密閉型で抽出効率がほとんど同じであったため、85℃を選定)
時間(h):3、6、8、10、12、14、48
抽出容器;密閉型耐熱耐圧カラス容器(ネジ口キャップ 付き)図1参照
【0047】
(2)6価クロムの定量分析結果
6価ク口ムの測定方法:ジフェニルカルバジド吸光光度法
なお、本分析結果を示す表2では、試料の形状が湾曲しているか、または不定形のため試料の面積を正しく計側できなかったため、6価クロムの検出量は絶対量(μg)で示した。
【0048】
【表2】

【0049】
図1のような密閉容器は恒温槽に入れて加熱され抽出条件の85℃で加熱水状態となり抽出される。図5は、実施例2の結果で加熱温度を変えた時の抽出時間(h)と6価クロムの回収量(μg)の関係を示す線図である。
【0050】
以上のことから、密閉型でのクロメート処理皮膜(4.8μg)の抽出は、6価クロムを完全に回収するのに3時間を要し、ク口メート処理皮膜(44.5μg)の抽出は、8時間であることが分かった。この試験方法の場合は、連続加熱で抽出液量の変動がないため、安定して行え、抽出効率が良く、加熱時間が短縮できる。また、加熱試験の安全性が高く実用的であるといえる。なお、加熱温度については80℃以上100℃以下で実験した。試料のクロメート処理品はテストピースや部品などで行なった。6価ク口ム量が1000μg(1mg)のものまで抽出実験して85℃8時間加熱抽出できることを確認している。
【0051】
[実施例3]6価クロム含有クロメート皮膜の蛍光X 線分析結果
クロメート処埋皮膜質量の測定において、材料試料に6価クロムが含有することを前記の定量分析方法で同定した後の同一の試料については、皮膜を三酸化クロム(CrO)とすることができる。そこで単位面積あたりの膜質量を蛍光X線分析法による非破壊分析で行なうことを検討した。
【0052】
試料、方法、装置の条件を次に示し、分析結果を表3に示す。なお試料断面略図と結果の例を図7に付記した。
【0053】
(1)試料
亜鉛めっき鋼板(座金)のクロメート処理品:クロメート皮膜には6価クロムが含有していることを、実施例2で確認済みである。
【0054】
(2)方法と側定条件
1)方法
今回用いた蛍光X線分析装置はエネルギー分散型で、EDXRFと呼ばれる。蛍光X線分析法は、X線管から試料に1次X線が照射されると、試料に含まれている元素に固有な波長(位置ネルギー)を持つ蛍光X線が発生する。この蛍光X線波長の違いから定性分析ができ、その波長のエネルギー強度から定量分析ができる。このエネルギー分離特性を利用する方法が、本装置のエネルギー分散型である。
2)装置および測定条件
測定装置は、日本電子製JSX−3202EV、エレメントアナライザを用いた。側定条件は、管電圧30KV、管電流0.23mA、リアルタイム157.68秒、デッドタイム37%、プリセットライブタイム100秒、エネルギー範囲0−41keV 、PHAモードT2、雰囲気VAC、光学系条件・コリメータ3mmφ、フィルタOpen
(3)6価クロム含有クロメート皮膜の蛍光X 線分析結果
【0055】
【表3】

【0056】
図6は、本発明に係わる蛍光X線分析に用いたエネルギー分散型蛍光X線分析(EDXRF) 装置の光学系の略図である。図6に示すように、試料室上にはサンプルが置かれており、エネルギー分散型蛍光X線分析装置は、半導体検出器、X線管球、CCDカメラを備えている。図7は、亜鉛めっき鋼板(座金)のク口メート処理試料断面略図と蛍光X線分析EDXRFスペクトルの例である。
【0057】
以上のことから、6価クロム含有クロメート皮膜の亜鉛めっき鋼板(座金)は、6価クロムが含有していることを実施例2確認済みであるので、CrOクロメートとして蛍光X線分析による元素分析から求めることができる。膜厚と膜質量の算出には表3に示した密度を用いて計算した。
【0058】
蛍光X線分析法によればクロメートの単位面積当たりの膜質量を非破壊分析で行なうことができるので、本発明の6価クロムの分析と併用することによってクロメート処理皮膜の膜厚と膜質量が迅速に分析できる実用的な方法である。
【0059】
以上のことから、6価のクロム酸を主成分とする処理液で表面処理した金属材料のクロメート処理皮膜を有する製品のクロメート処理皮膜質量測定において、6価ク口ムの抽出工程は、対象材料試料と抽出用純水の各所定量を密閉容器に入れて80℃以上100以下、より詳細には85℃に設定し、8時間行ないクロメート処理皮膜の厚さが異なる皮膜であっても、6価クロムの全量を抽出して回収することがでるような条件を見出した。これにより、連続加熱で抽出液量の変動がなく、安定してクロムを抽出できる。そして、抽出効率が良く、加熱時間が短縮でき、また加熱試験の安全性が高く、実用的であるといえる。さらに抽出容器は、恒温槽の内容スペースに合わせて複数のものを同時に設定ができ、多試料の処理に効果的である。
【符号の説明】
【0060】
12 6価クロム温水抽出部
13 加熱部
14 冷却部
15 取出部
16 純水供給部
17 サンプル投入口
18 温度制御部
19 標準液試薬混合部
20 標準液注入部
21 試料液分取混合部
22 試薬注入部
23 吸光光度測定部
24 データ処理部
25 電子制御部
26 定量ポンプ
27 蛍光X線測定部
30 密閉容器
31 器
32 キャップ
33 純水
34 クロメート処理テストピース
41 ビーカー
42 時計皿
43 純水
44 クロメート処理テストピース
100 抽出部
200 定量部
300 質量測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロメート処理皮膜を有する製品のクロメート処理皮膜質量測定方法であって、
前記製品のクロメート処理皮膜からクロム含有の抽出液を抽出する抽出工程と、
前記抽出工程で抽出された抽出液に6価クロムが含有することを同定し、定量分析によって前記クロメート処理皮膜中の6価クロムの絶対質量を求める定量工程と、
前記抽出工程で前記クロム含有抽出液が抽出された後の前記製品のクロメート処理皮膜の質量を測定する質量測定工程と、
を有することを特徴とするクロメート処理皮膜質量測定方法。
【請求項2】
前記抽出工程は、前記製品を所定の容器に入れ、加熱後、冷却することで前記製品から前記クロムを抽出することを特徴とする請求項1に記載のクロメート処理皮膜質量測定方法。
【請求項3】
前記加熱は、80℃以上100℃以下の温度で8時間以上行うことを特徴とする請求項2に記載のクロメート処理皮膜質量測定方法。
【請求項4】
前記定量工程は、前記抽出工程で抽出された抽出液に対して吸光光度法で行われることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のクロメート処理皮膜質量測定方法。
【請求項5】
前記質量測定工程は、前記抽出工程で前記クロム含有抽出液が抽出された後の前記製品に対して蛍光X線分析法で行われることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のクロメート処理皮膜質量測定方法。
【請求項6】
クロメート皮膜を有する製品のクロメート処理皮膜質量測定装置であって、
前記製品のクロメート処理皮膜からクロム含有の抽出液を抽出する抽出部と、
前記抽出部で抽出された抽出液に6価クロムが含有することを同定し、定量分析によって前記クロメート処理皮膜中の6価クロムの絶対質量を求める定量部と、
前記抽出部で前記クロム含有抽出液が抽出された後の前記製品の前記クロメート処理皮膜の質量を測定する質量測定部と、
を有することを特徴とするクロメート処理皮膜質量測定装置。
【請求項7】
前記抽出部は、所定の容器に入れられた前記製品を加熱又は冷却するように、前記容器内の温度を制御する温度制御部を有することを特徴とする請求項6に記載のクロメート処理皮膜質量測定装置。
【請求項8】
前記温度制御部は、前記容器内の温度が80℃以上100℃以下で8時間保たれるように制御することを特徴とする請求項7に記載のクロメート処理皮膜質量測定装置。
【請求項9】
前記定量部は、吸光度を測定する吸光光度測定部を有し、
前記抽出部で抽出された抽出液に対して吸光光度法によって、前記クロメート処理皮膜中の前記6価クロムの絶対質量を求めることを特徴とする請求項6から請求項8のいずれかに記載のクロメート処理皮膜質量測定装置。
【請求項10】
前記質量測定部は、蛍光X線スペクトルを測定する蛍光X線測定部を有し、
前記抽出部で前記クロム含有抽出液が抽出された後の前記製品に対して蛍光X線分析法によって、前記クロメート処理皮膜の質量を測定することを特徴とする請求項6から請求項9のいずれかに記載のクロメート処理皮膜質量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−163851(P2011−163851A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25277(P2010−25277)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】